説明

アルキルアリールカルバメートの製造方法およびイソシアネートの製造方法

【課題】工業的に、作業性および生産性よく、アルキルアリールカルバメートを得ることができるアルキルアリールカルバメートの製造方法、および、そのアルキルアリールカルバメートを用いて得られるイソシアネートを提供すること。
【解決手段】芳香族アミンとアルキルアリールカーボネートとをカルボン酸の存在下で反応させてアルキルアリールカルバメートを製造し、得られたアルキルアリールカルバメートを熱分解してイソシアネートを製造する。この方法によりアルキルアリールカルバメートを製造すれば、毒性の強い金属化合物を配合することなく、工業的に、さらには、煩雑な後処理工程も必要としないので、作業性および生産性よく、アルキルアリールカルバメートを製造することができる。また、この方法によりイソシアネートを製造すれば、ポリウレタンの原料として工業的に用いられるポリイソシアネートを、簡易かつ効率的に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキルアリールカルバメートの製造方法、および、そのアルキルアリールカルバメートの製造方法によって得られるアルキルアリールカルバメートが用いられるイソシアネートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アルキルカルバメートは、医薬、農薬などの原料として、また、各種ファインケミカルズの原料として、さらには、アルコール類の分析試剤などとして、広範な用途を有する工業原料として、有用な有機化合物である。
【0003】
このようなアルキルカルバメートを製造する方法としては、例えば、アミンとカーボネートとを反応させる方法(カーボネート法)が知られており、より具体的には、脂肪族アミン、脂環族アミンおよび芳香脂肪族アミンからなる群より選ばれる非芳香族アミンと、アルキルアリールカーボネートとを、無触媒下(触媒の不存在下)で反応させる方法が、知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
一方、カーボネート法において、アミンとカーボネートとを、触媒の存在下で反応させる方法も知られており、より具体的には、メチルフェニルカーボネートなどの有機カーボネートと、第1級または第2級アミンとを、ルイス酸触媒の存在下で反応させる方法(例えば、特許文献2参照。)や、アルキルアリールカーボネートと第1級または第2級アリールアミンとを、含窒素複素環式化合物の存在下で反応させる方法(例えば、特許文献3参照。)などが、知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−252846号公報
【特許文献2】特公昭51−33095号公報
【特許文献3】特開平6−128215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかるに、特許文献1に記載の方法では、非芳香族アミンからアルキルカルバメートを製造することができる一方、アミンとして、非芳香族アミンに代えて芳香族アミンを用いると、無触媒下では、芳香族アミンとアルキルアリールカーボネートとは反応せず、アルキルカルバメートを製造することができないという不具合がある。
【0007】
一方、特許文献2および特許文献3に記載の方法によれば、アミンとして芳香族アミンを用いる場合にも、アルキルカルバメート(アルキルアリールカルバメート)を製造することができる。
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載の方法によりアルキルカルバメートを製造する場合には、ルイス酸触媒(金属化合物)が配合されるため、得られるアルキルカルバメートからそのルイス酸触媒(金属化合物)を除去するときに、例えば、晶析、濾過、吸着など、煩雑な後処理工程を必要とし、作業性および生産性に劣るという不具合がある。
【0009】
さらには、特許文献2に記載の方法は、実施例にも記載されるように、ルイス酸触媒として、三塩化アンチモン、塩化ウラニルなどの毒性の強い金属化合物が配合されるため、工業的なアルキルカルバメートの製造方法としては不向きである。
【0010】
また、特許文献3に記載の方法では、触媒として含窒素複素環式化合物が用いられるため、特許文献2の金属化合物よりも低毒性であり、また、作業性よくアルキルカルバメートを製造できる。しかし、実施例に記載されるように、アミンとして工業的に用いられるジアミン(例えば、2,6−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノジフェニルメタンなど)を用いて、ジカルバメートを製造する場合には、ジカルバメートの収率が十分ではなく(具体的には、7.8%、21.5%)、やはり、工業的なアルキルカルバメートの製造方法としては不向きである。
【0011】
そこで、本発明の目的は、工業的に、作業性および生産性よく、アルキルアリールカルバメートを得ることができるアルキルアリールカルバメートの製造方法、および、そのアルキルアリールカルバメートを用いて得られるイソシアネートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明のアルキルアリールカルバメートの製造方法は、芳香族アミンと、下記一般式(1)で示されるアルキルアリールカーボネートとを、カルボン酸の存在下で反応させることを特徴としている。
【0013】
OCOOR (1)
(式中、R1はアルキル基を、R2は置換基を有していてもよいアリール基を示す。)
また、本発明のアルキルアリールカルバメートの製造方法では、カルボン酸が、芳香族カルボン酸であることが好適である。
【0014】
また、本発明のアルキルアリールカルバメートの製造方法では、芳香族アミンが、4,4’−ジフェニルメタンジアミン、2,4’−ジフェニルメタンジアミン、2,2’−ジフェニルメタンジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好適である。
【0015】
また、本発明のアルキルアリールカルバメートの製造方法では、アルキルアリールカーボネートが、メチルフェニルカーボネートであることが好適である。
【0016】
また、本発明のアルキルアリールカルバメートの製造方法では、アルキルアリールカーボネートとして、アルキルアリールカーボネートを40質量%以上含む粗原料が用いられることが好適である。
【0017】
また、本発明のイソシアネートの製造方法は、上記のアルキルアリールカルバメートの製造方法によって、アルキルアリールカルバメートを製造する工程と、得られたアルキルアリールカルバメートを熱分解してイソシアネートを製造する工程とを備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明のアルキルアリールカルバメートの製造方法によれば、毒性の強い金属化合物を配合することなく、工業的に、アルキルアリールカルバメートを製造することができる。
【0019】
また、本発明のアルキルアリールカルバメートの製造方法によれば、煩雑な後処理工程も必要としないので、作業性および生産性よく、アルキルアリールカルバメートを製造することができる。
【0020】
そして、本発明のイソシアネートの製造方法によれば、ポリウレタンの原料として工業的に用いられるポリイソシアネートを、簡易かつ効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
まず、本発明のアルキルアリールカルバメート(カルバミン酸アルキルアリールエステル)の製造方法について詳述する。本発明のアルキルアリールカルバメートの製造方法は、芳香族アミンと、下記一般式(1)で示されるアルキルアリールカーボネートとを、カルボン酸の存在下で、反応させる。
【0022】
OCOOR (1)
(式中、R1はアルキル基を、R2は置換基を有していてもよいアリール基を示す。)
本発明で用いられる芳香族アミンは、芳香環に直接結合した1級または2級のアミノ基を1つ以上有するアミノ基含有有機化合物である。
【0023】
芳香族アミンとして、より具体的には、例えば、アニリン、o−トルイジン(2−メチルアニリン)、m−トルイジン(3−メチルアニリン)、p−トルイジン(4−メチルアニリン)、2,3−キシリジン(2,3−ジメチルアニリン)、2,4−キシリジン(2,4−ジメチルアニリン)、2,5−キシリジン(2,5−ジメチルアニリン)、2,6−キシリジン(2,6−ジメチルアニリン)、3,4−キシリジン(3,4−ジメチルアニリン)、3,5−キシリジン(3,5−ジメチルアニリン)、1−ナフチルアミン、2−ナフチルアミンなどの芳香族1級モノアミン、例えば、2,4−トリレンジアミン(2,4−ジアミノトルエン、2,4−TDA)、2,6−トリレンジアミン(2,6−ジアミノトルエン、2,6−TDA)、4,4’−ジフェニルメタンジアミン(4,4’−メチレンジアニリン、4,4’−MDA)、2,4’−ジフェニルメタンジアミン(2,4’−メチレンジアニリン、2,4’−MDA)、2,2’−ジフェニルメタンジアミン(2,2’−メチレンジアニリン、2,2’−MDA)、4,4’−ジフェニルエーテルジアミン、2−ニトロジフェニル−4,4’−ジアミン、2,2’−ジフェニルプロパン−4,4’−ジアミン、3,3’−ジメチルジフェニルメタン−4,4’−ジアミン、4,4’−ジフェニルプロパンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、ナフチレン−1,4−ジアミン(1,4−ナフタレンジアミン)、ナフチレン−1,5−ジアミン(1,5−ナフタレンジアミン)、3,3’−ジメトキシジフェニル−4,4’−ジアミンなどの芳香族1級ジアミン、例えば、ポリメチレンポリフェニルポリアミン(クルードMDA、ポリメリックMDA)などの芳香族1級ポリアミンなどが挙げられる。
【0024】
これら芳香族アミンは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0025】
芳香族アミンとして、好ましくは、芳香族1級ジアミンが挙げられる。
【0026】
また、これら芳香族アミンのなかでは、工業的に用いられるポリ(ジ)イソシアネートの前駆体となる芳香族アミンが好ましく、そのような芳香族アミンとして、例えば、2,4−トリレンジアミン、2,6−トリレンジアミン、4,4’−ジフェニルメタンジアミン、2,4’−ジフェニルメタンジアミン、2,2’−ジフェニルメタンジアミン、ナフチレン−1,5−ジアミン、ポリメチレンポリフェニルポリアミンなどが挙げられ、とりわけ好ましくは、4,4’−ジフェニルメタンジアミン、2,4’−ジフェニルメタンジアミン、2,2’−ジフェニルメタンジアミンが挙げられる。
【0027】
本発明で用いられるアルキルアリールカーボネートは、下記一般式(1)で示される。
【0028】
OCOOR (1)
(式中、R1はアルキル基を、R2は置換基を有していてもよいアリール基を示す。)
上記式(1)中、R1で示されるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、iso−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、イソオクチル、2−エチルヘキシルなどの炭素数1〜8の直鎖状または分岐状の脂肪族飽和炭化水素基、例えば、シクロヘキシル、シクロドデシルなどの炭素数5〜10の脂環族飽和炭化水素基などが挙げられる。
【0029】
上記式(1)中、R2で示される置換基を有していてもよいアリール基としては、例えば、フェニル、トリル、キシリル、ビフェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリルなどの炭素数6〜18のアリール基が挙げられる。また、その置換基としては、例えば、ヒドロキシル基、ハロゲン原子(例えば、塩素、フッ素、臭素およびヨウ素など)、シアノ基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシなどの炭素数1〜4のアルコキシ基など)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基など)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、ブチルチオなどの炭素数1〜4のアルキルチオ基など)およびアリールチオ基(例えば、フェニルチオ基など)などが挙げられる。これらの置換基は、同一または相異なって1〜5個、好ましくは、1〜3個置換していてもよい。
【0030】
このようなアルキルアリールカーボネートとして、より具体的には、例えば、メチルフェニルカーボネート、エチルフェニルカーボネートなどが挙げられ、好ましくは、メチルフェニルカーボネートが挙げられる。
【0031】
なお、上記したアルキルアリールカーボネートは、種々の公知の方法によって容易に製造することができる。すなわち、例えば、特許第1519075号公報に記載されているジアルキルカーボネートとフェノールまたはその誘導体とからエステル交換反応によって製造する方法や、例えば、J.Org.Chem.57,3237(1992)に記載されているクロロ炭酸アリールとアルキルアルコールとから製造する方法などが用いられる。
【0032】
そして、本発明においては、精製されたアルキルアリールカーボネートを用いなくても、例えば、上記したような製造方法によって得られる反応液をそのまま、または、再結晶や精留などの高度な精製をせずアルキルアリールカーボネートを含んだ粗原料を、本発明のアルキルアリールカルバメートの製造方法のアルキルアリールカーボネートとして用いることができる。
【0033】
すなわち、例えば、アルキルアリールカーボネートを、ジアルキルカーボネートとフェノールまたはその誘導体とから製造する場合には、ジアルキルカーボネートとフェノールまたはその誘導体とのエステル交換反応によって得られるアルキルアリールカーボネートを1質量%以上、好ましくは、40質量%以上含む粗原料を、本発明のアルキルアリールカルバメートの製造方法のアルキルアリールカーボネートとして用いることができる。
【0034】
なお、上記のごとく、ジアルキルカーボネートとフェノールとの反応により、アルキルフェニルカーボネートが生成することから、例えば、ジアルキルカーボネートとフェノールとの共存下にアミンを加えるか、または、ジアルキルカーボネート、フェノール、アミンを混合することにより、後述する方法により、アルキルアリールカルバメートを製造することもできる。
【0035】
本発明において、カルボン酸は、上記した芳香族アミンと上記したアルキルアリールカーボネートとの反応触媒であって、例えば、脂肪族カルボン酸、脂環族カルボン酸、芳香族カルボン酸、複素環カルボン酸、ヒドロキシ基含有カルボン酸、ハロゲン含有カルボン酸、アルコキシ基含有カルボン酸などが挙げられる。
【0036】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸(ピバリン酸)、トリエチル酢酸、2,2−ジメチルブタン酸などの脂肪族モノカルボン酸、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0037】
脂環族カルボン酸としては、例えば、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、1−メチルシクロヘキサンカルボン酸、デカリンカルボン酸、アダマンタンカルボン酸などの脂環族モノカルボン酸、例えば、シクロペンタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0038】
芳香族カルボン酸としては、例えば、安息香酸、メチル安息香酸(トルイル酸)、ナフタレンカルボン酸、アントラセンカルボン酸などの芳香族モノカルボン酸、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0039】
複素環カルボン酸としては、例えば、フランカルボン酸、チオフェンカルボン酸、ピリジンカルボン酸、ピロールカルボン酸などが挙げられる。
【0040】
ヒドロキシ基含有カルボン酸としては、例えば、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、イソクエン酸などの脂肪族ヒドロキシ酸(ヒドロキシ基含有脂肪族カルボン酸)、例えば、サリチル酸などの芳香族ヒドロキシ酸(ヒドロキシ基含有芳香族カルボン酸)などが挙げられる。
【0041】
ハロゲン含有カルボン酸としては、例えば、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、α−クロロ酪酸、β−クロロ酪酸、γ−クロロ酪酸、モノフルオロ酢酸、ジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸などのハロゲン含有脂肪族カルボン酸、例えば、フルオロ安息香酸、クロロ安息香酸、ジクロロ安息香酸などのハロゲン含有芳香族カルボン酸などが挙げられる。
【0042】
アルコキシ基含有カルボン酸としては、例えば、メトキシ安息香酸(アニス酸)などのアルコキシ基含有芳香族カルボン酸などが挙げられる。
【0043】
これらカルボン酸は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0044】
カルボン酸として、好ましくは、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸、ヒドロキシ基含有カルボン酸、より好ましくは、芳香族カルボン酸、さらに好ましくは、芳香族モノカルボン酸が挙げられる。
【0045】
そして、本発明のアルキルアリールカルバメートの製造方法では、上記した芳香族アミンと、上記したアルキルアリールカーボネートとを、上記したカルボン酸の存在下において、反応させる。
【0046】
具体的には、芳香族アミンとアルキルアリールカーボネートとを、例えば、反応容器内に、次に述べる仕込み量で仕込み、必要により反応溶媒を加えて、次に述べる反応条件で反応させる。
【0047】
アルキルアリールカーボネートの仕込み量は、芳香族アミンのアミノ基に対して等モル以上あればよく、そのため、アルキルアリールカーボネートそのものを、この反応における反応溶媒として用いることもできる。より具体的には、アルキルアリールカーボネートの仕込み量は、芳香族アミンのアミノ基に対して、通常、1〜50倍モル、好ましくは、1.01〜30倍モル、さらに好ましくは、1.02〜15倍モルである。アルキルアリールカーボネートの仕込み量がこれより多いと、反応後における分離工程あるいは精製工程に多大なエネルギーを消費するので、工業的な生産に不向きとなる。また、アルキルアリールカーボネートの仕込み量がこれより少ないと、反応が進むに従って反応速度が低くなる。
【0048】
また、カルボン酸の仕込み量は、芳香族アミンのアミノ基に対して、通常、0.001〜5倍モル、好ましくは、0.001〜2倍モル、より好ましくは、0.02〜2倍モル、さらに好ましくは、0.02〜1.5倍モルである。カルボン酸の仕込み量がこれより多いと、カルボン酸の分離に多大なエネルギーおよびコストが必要となるという不具合がある。また、カルボン酸の仕込み量がこれより少ないと、反応の進行が遅くなり、十分な収率を得られないという不具合がある。
【0049】
また、この反応において、反応溶媒は必ずしも必要ではないが、反応溶媒を配合することにより操作性を向上させることができる。このような反応溶媒は、芳香族アミンおよびアルキルアリールカーボネートに対して不活性であるか反応性に乏しいものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、脂肪族アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、iso−ブタノールなど)、脂肪族炭化水素類(例えば、ヘキサン、ペンタン、石油エーテル、リグロイン、シクロドデカン、デカリン類など)、芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ブチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、メチルナフタレン、クロロナフタレン、ジベンジルトルエン、トリフェニルメタン、フェニルナフタレン、ビフェニル、ジエチルビフェニル、トリエチルビフェニルなど)、エーテル類(例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなど)、エステル類(例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、フタル酸ジドデシルなど)、ニトリル類(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、アジポニトリル、ベンゾニトリルなど)、脂肪族ハロゲン化炭化水素類(例えば、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジクロロプロパン、1,4−ジクロロブタンなど)、アミド類(例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなど)、ニトロ化合物類(例えば、ニトロメタン、ニトロベンゼンなど)、フェノールまたはその誘導体(例えば、フェノール、クレゾールなど)、炭酸エステル類(例えば、炭酸ジメチル,炭酸ジエチル、炭酸ジプロピル、炭酸ジブチルなど)、熱媒オイル(例えば、綜研化学社製NeoSK−OIL1300、1400、170、240、330、KSK−OIL260、280など)や、N−メチルピロリジノン、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、水などが挙げられる。
【0050】
これら反応溶媒は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0051】
これら反応溶媒のなかでは、経済性、操作性などを考慮すると、好ましくは、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、フェノール類、炭酸エステル類が挙げられる。
【0052】
また、反応溶媒の仕込み量は、反応生成物のアルキルアリールカルバメートが溶解する程度の量であれば特に制限されるものではないが、工業的には、反応液から反応溶媒を回収する必要があるため、その回収に消費されるエネルギーをできる限り低減し、かつ、仕込み量が多いと、反応基質濃度が低下して反応速度が遅くなるため、できるだけ少ない方が好ましく、具体的には、芳香族アミン1質量部に対して、例えば、0.01〜50質量部、好ましくは、0.1〜10質量部で用いられる。
【0053】
また、この反応において、反応温度および反応時間は、原料、すなわち、芳香族アミンおよびアルキルアリールカーボネートや、カルボン酸、反応溶媒の種類などによって異なるが、反応温度が、例えば、0〜200℃、好ましくは、20〜180℃、さらに好ましくは、40〜150℃であり、反応時間が、例えば、1〜50時間、好ましくは、3〜36時間、さらに好ましくは、5〜24時間である。また、反応圧力は、常圧、加圧あるいは減圧のいずれの雰囲気下でもよく、特に制限されない。
【0054】
そして、この反応は、例えば、反応容器内に、アルキルアリールカーボネート、芳香族アミンおよびカルボン酸(および、必要により反応溶媒)を一括で仕込み、上記した反応条件において、撹拌および混合する。
【0055】
そうすると、高選択的かつ高収率でアルキルアリールカルバメートが生成する。
【0056】
その結果、この反応では、反応終了後の反応液には、過剰(未反応)のアルキルアリールカーボネート、カルボン酸、反応溶媒、反応生成物である下記一般式(2)で示されるアルキルアリールカルバメート、および
(ROCONH)nR (2)
(式中、R1は、上記式(1)のR1と同意義を、R3は、芳香族アミン残基を、nは、芳香族アミンのアミノ基の数を示す。)
副生物である下記一般式(3)で示されるアリールアルコールが含まれる。
【0057】
−OH (3)
(式中、R2は、上記式(1)のR2と同意義を示す。)
そして、必要により、アルカリで洗浄し、さらに、これら過剰(未反応)のアルキルアリールカーボネート、カルボン酸、反応溶媒、アリールアルコールを、蒸留分離するなどして回収することによって、生成したアルキルアリールカルバメートを容易に分離することができる。また、この反応では、得られたアルキルアリールカルバメートは、必要により、洗浄、中和、再結晶、蒸留、昇華またはカラムクロマトグラフィーなどによってさらに精製することができる。
【0058】
そのため、このような製造方法によると、毒性の強い金属化合物を配合することなく、工業的にアルキルアリールカルバメートを製造することができ、さらには、煩雑な後処理工程も必要としないので、作業性および生産性よく、アルキルアリールカルバメートを製造することができる。
【0059】
そして、本発明は、上記したアルキルアリールカルバメートの製造方法によって得られたアルキルアリールカルバメートを熱分解して、イソシアネートを製造するイソシアネートの製造方法を含んでいる。
【0060】
すなわち、このようなイソシアネートの製造方法では、上記したアルキルアリールカルバメートの製造方法によって得られたアルキルアリールカルバメートを熱分解し、上記した芳香族アミンに対応する下記一般式(4)で示されるイソシアネート、および
−(NCO)n (4)
(式中、R3は、上記式(2)のR3と同意義を、nは、上記式(2)のnと同意義を示す。)
副生物である下記一般式(5)で示されるアルキルアルコールを生成させる。
【0061】
−OH (5)
(式中、R1は、上記式(1)のR1と同意義を示す。)
この熱分解は、特に限定されず、例えば、液相法、気相法などの公知の分解法を用いることができる。好ましくは、液相法、より好ましくは、この熱分解において副生するアルキルアルコールを系外に分離させる反応蒸留方式により実施する。
【0062】
熱分解温度は、通常、350℃以下であり、好ましくは、80〜350℃、より好ましくは、100〜300℃である。80℃よりも低いと、実用的な反応速度が得られない場合があり、また、350℃を超えると、イソシアネートの重合など、好ましくない副反応を生じる場合がある。また、熱分解反応時の圧力は、好ましくは、上記の熱分解反応温度に対して、生成するアルキルアルコールが気化し得る圧力であり、設備面および用役面から実用的には、0.133〜90kPaである。
【0063】
また、この熱分解に用いられるアルキルアリールカルバメートは、精製したものでもよいが、反応終了後にアリールアルコールを回収して分離されたアルキルアリールカルバメートの粗原料を用いて、引き続き熱分解することもできる。
【0064】
さらに、この熱分解では、必要により、触媒および不活性溶媒を添加することもできる。これら触媒および不活性溶媒は、それらの種類により異なるが、上記したアルキルアリールカルバメート化反応時、反応後の蒸留分離の前後、アルキルアリールカルバメートの分離の前後の、いずれのタイミングにおいても添加することができる。
【0065】
熱分解に用いられる触媒としては、イソシアネートと水酸基とのウレタン化反応に用いられる、Sn、Sb、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cr、Ti、Pb、Mo、Mnなどから選ばれる1種以上の金属単体またはその酸化物、ハロゲン化物、カルボン酸塩、リン酸塩、有機金属化合物などの金属化合物が用いられる。これらのうち、この熱分解においては、Fe、Sn、Co、Sb、Mnが副生成物を生じにくくする効果を発現するため、好ましく用いられる。
【0066】
Snの金属触媒としては、例えば、酸化スズ、塩化スズ、臭化スズ、ヨウ化スズ、ギ酸スズ、酢酸スズ、シュウ酸スズ、オクチル酸スズ、ステアリン酸スズ、オレイン酸スズ、リン酸スズ、二塩化ジブチルスズ、ジラウリン酸ジブチルスズ、1,1,3,3−テトラブチル−1,3−ジラウリルオキシジスタノキサンなどが挙げられる。
【0067】
Fe、Co、Sb、Mnの金属触媒としては、例えば、それらの酢酸塩、安息香酸塩、ナフテン酸塩、アセチルアセトナート塩などが挙げられる。
【0068】
なお、触媒の仕込み量は、金属単体またはその化合物として、反応液に対して0.0001〜5質量%、好ましくは、0.001〜1質量%である。
【0069】
また、不活性溶媒は、少なくとも、アルキルアリールカルバメートおよびイソシアネートに対して不活性であり、熱分解反応の効率を向上させるべく、好ましくは、生成するイソシアネートよりも高沸点の不活性溶媒が用いられる。このような不活性溶媒としては、例えば、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、フタル酸ジドデシルなどのエステル類、例えば、ジベンジルトルエン、トリフェニルメタン、フェニルナフタレン、ビフェニル、ジエチルビフェニル、トリエチルビフェニルなどの熱媒体として常用される芳香族系炭化水素類や脂肪族系炭化水素類などが挙げられる。不活性溶媒の仕込み量は、アルキルアリールカルバメート1質量部に対して、例えば、0.001〜100質量部、好ましくは、0.01〜80質量部、より好ましくは、0.1〜50質量部である。
【0070】
また、この熱分解反応は、アルキルアリールカルバメート、触媒および不活性溶媒を一括で仕込む回分反応、また、触媒を含む不活性溶媒中に、減圧下でアルキルアリールカルバメートを連続的に仕込む連続反応のいずれでも実施することができる。
【0071】
そして、この熱分解反応では、上記で得られたアルキルアリールカルバメートが熱分解されることによって、上記したように、芳香族アミンに対応するイソシアネートを得ることができるので、例えば、ポリウレタンの原料として工業的に用いられるポリイソシアネートを、簡易かつ効率的に製造することができる。
【0072】
なお、以上、アルキルアリールカルバメートの製造方法およびイソシアネートの製造方法について説明したが、本発明の製造方法においては、脱水工程などの前処理工程、中間工程、または、精製工程および回収工程などの後処理工程など、公知の工程を含んでいてもよい。
【実施例】
【0073】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は何ら実施例に限定されるものではない。
【0074】
実施例1
ガラス製反応容器内において、メチルフェニルカーボネート45.6g(0.30mol)、2,4−トリレンジアミン(2,4−TDA)12.2g(0.10mol)、ピバル酸2.04g(0.02mol)およびトルエン58.3gを配合し、常圧下において、90℃で8時間反応させた。
【0075】
その後、得られた反応液をガスクロマトグラフで定量分析した結果、2,4−ビス(メチルオキシカルボニルアミノ)トルエン(以下、ジカルバメートと略する(以下同様)。)が、2,4−トリレンジアミン(2,4−TDA)に対して14.2mol%の収率で生成していることが確認された。また、モノ(メチルオキシカルボニルアミノ)アミノトルエン(以下、モノカルバメートと略する(以下同様)。)が、74.9mol%の収率で生成していることも確認された。
【0076】
実施例2〜7および比較例1
表1に示す各成分条件および反応条件において、実施例1と同様の操作により、ジカルバメートおよびモノカルバメートを得た。なお、比較例1においては、カルボン酸を配合しなかった。
【0077】
各実施例および比較例におけるモノカルバメートおよびジカルバメートの収率を、表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
実施例8
ガラス製反応容器内において、メチルフェニルカーボネート13.7g(0.09mol)、4,4’−ジフェニルメタンジアミン(4,4’−MDA)5.95g(0.03mol)、ピバル酸0.61g(0.006mol)およびトルエン39.4gを配合し、常圧下において、90℃で8時間反応させた。
【0080】
その後、得られた反応液を高速液体クロマトグラフで定量分析した結果、4,4’−ビス(メチルオキシカルボニルアミノ)ジフェニルメタン(ジカルバメート)が、4,4’−ジフェニルメタンジアミン(4,4’−MDA)に対して72.6mol%の収率で生成していることが確認された。また、4−(メチルオキシカルボニルアミノ)−4’−アミノジフェニルメタン(モノカルバメート)が、18.8mol%の収率で生成していることも確認された。
【0081】
実施例9〜12および比較例2
表2に示す各成分条件および反応条件において、実施例8と同様の操作により、ジカルバメートおよびモノカルバメートを得た。なお、比較例2においては、カルボン酸を配合しなかった。
【0082】
各実施例および比較例におけるモノカルバメートおよびジカルバメートの収率を、表2に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
実施例13
冷却管を備えた精留塔、キャピラリーおよび温度計を付けた500mLフラスコを反応器として用いた。冷却器には60℃の温水を流し、受器は冷エタノールで冷却したコールドトラップを通して真空ラインに連結した。フラスコに、実施例9で得られた4,4’−ビス(メチルオキシカルボニルアミノ)ジフェニルメタン(ジカルバメート)の反応液を移し、オイルバス内に設置した。フラスコ内を常圧〜0.67kPaに徐々に減圧し、オイルバスを150℃まで昇温させ、未反応のメチルフェニルカーボネート、副生物であるフェノール、触媒である安息香酸などの蒸発分を留去した。
【0085】
次いで、反応系内を常圧に戻し、フラスコにNeoSK−OIL1400(総研化学社製)100g、ジラウリン酸ジブチルスズ0.1gを仕込み、反応系内を窒素置換した後、2kPaに減圧し、オイルバスを250℃まで昇温させ1時間反応(分解)させた。反応終了後、受器に集められた反応液(蒸留分)をガスクロマトグラフで定量分析した結果、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート5.55g(ジカルバメートを基準として、74mol%)の生成を確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族アミンと、下記一般式(1)で示されるアルキルアリールカーボネートとを、カルボン酸の存在下で反応させることを特徴とする、アルキルアリールカルバメートの製造方法。
OCOOR (1)
(式中、R1はアルキル基を、R2は置換基を有していてもよいアリール基を示す。)
【請求項2】
カルボン酸が、芳香族カルボン酸であることを特徴とする、請求項1に記載のアルキルアリールカルバメートの製造方法。
【請求項3】
芳香族アミンが、4,4’−ジフェニルメタンジアミン、2,4’−ジフェニルメタンジアミン、2,2’−ジフェニルメタンジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1または2に記載のアルキルアリールカルバメートの製造方法。
【請求項4】
アルキルアリールカーボネートが、メチルフェニルカーボネートであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のアルキルアリールカルバメートの製造方法。
【請求項5】
アルキルアリールカーボネートとして、アルキルアリールカーボネートを40質量%以上含む粗原料が用いられることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のアルキルアリールカルバメートの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のアルキルアリールカルバメートの製造方法によって、アルキルアリールカルバメートを製造する工程と、
得られたアルキルアリールカルバメートを熱分解してイソシアネートを製造する工程と
を備えていることを特徴とする、イソシアネートの製造方法。

【公開番号】特開2011−201795(P2011−201795A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69239(P2010−69239)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】