説明

アルキルエーテルのカルボニル化のための方法

低級脂肪族カルボン酸の低級アルキルエステルを含む生成物が、実質的に無水の条件下、ガリウム、ホウ素、および/または鉄などの更なる骨格金属を任意で含む、モルデナイトおよび/またはフェリエライトを含む触媒の存在下で、一酸化炭素と低級アルキルエーテルを反応させる工程を含む方法によって生成される。具体的には、実質的に無水の条件下、モルデナイトまたはフェリエライトを含む触媒の存在下における、一酸化炭素とのジメチルエーテルの反応により、酢酸メチルが選択的に生成される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジメチルエーテルから酢酸メチルを生成するための改良された方法に関し、より一般的にはアルキルエーテルのカルボニル化により脂肪族カルボン酸のアルキルエステルの生成に関する。別の局面において、本発明は、まず低級アルキルエーテルからアルキルエステルを生成させ、続いてエステルの酸への加水分解による、低級脂肪族カルボン酸の生成に関する。この一つの例は、ジメチルエーテルをカルボニル化して酢酸メチルを生成し、続いてエステルを加水分解して酢酸を生成することによる、酢酸の生成である。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
酢酸の生成のための最も広く用いられている工業プロセスは、メタノールのカルボニル化であり、例えば英国特許第1,185,453号(特許文献1)および第1,277,242号(特許文献2)、ならびに米国特許第3,689,533号(特許文献3)に概して記載されている。その種のプロセスにおいて、ロジウムまたはイリジウム含有触媒の存在下、さらにハロゲン(通常はヨウ素)含有プロモーターの存在下で、メタノールを一酸化炭素または一酸化炭素含有ガスと反応させる。広く用いられているが、それでもなお、これらのプロセスはヨウ化物の存在によって高価な耐食合金の使用が必要であり、その結果、従来の蒸留による酢酸からの除去が困難である低レベルのヨウ素含有副産物が生成される。非ハロゲン化物をベースとする一部の触媒システムがこの反応について研究されていたが、主として触媒の寿命および選択性に関する問題により、いずれも商業化されていない。
【0003】
酢酸メチルは、特に無水酢酸および/または酢酸の生成のためのフィード(feed)として、石油化学プロセスにおいて工業的に使用される重要な化合物である。メチル酢酸はまた、酢酸ビニルおよびポリ酢酸ビニルの前駆体であるエチリデンジアセテートの生成にも使用できる。ジメチルエーテルは、合成ガスから容易に生成することができ、その生成コストはメタノールの場合より低くすることができる。
【0004】
数多くの特許が、メタノールまたはメタノールとジメチルエーテルとの混合物が触媒の存在下でカルボニル化されるプロセスについて記載している。典型的には、その生成物は酢酸およびメチル酢酸の混合物であり、時には無水酢酸も含まれる。それらの特許において、生じうる反応の一つとしてジメチルエーテルをカルボニル化して酢酸メチルを形成することが開示されている。しかし、典型的にはジメチルエーテルは単体で用いられるのではなく、またはフィードの主成分でさえなく、メタノール流の微量成分である。
【0005】
例えば、BASF AGのドイツOLS第3,606,169号(特許文献4)は、コバルト含有ゼオライト触媒の存在下で、メタノール、酢酸メチル、および/またはジメチルエーテルの混合物をカルボニル化して酢酸、酢酸メチル、および/またはジメチルエーテルを含有する産物を生成することについて開示している。好ましいゼオライトは、8員環ゼオライトAと12員環ゼオライトXおよびYとの中間の孔径を有する10員環ペンタシル(pentasil)型のゼオライトである。
【0006】
Jonesらの米国特許第6,130,355号(特許文献5)は、少なくとも一つのグループVIII貴金属で構成される触媒、共触媒としてハロゲン化化合物、および触媒安定剤としてヨウ化物塩を用いて、メタノールおよび/またはジメチルエーテルをカルボニル化して酢酸を生成するプロセスを開示している。ジメチルエーテルがメタノールとの混合物としてフィード中に存在しうる、酢酸および/または酢酸メチルの生成のためのプロセスを開示している他の特許には、すべてZoellerらの米国特許第6,353,132号(特許文献6)および第6,355,837号(特許文献7)ならびに米国特許公開出願第2003/0054951号(特許文献8)が含まれる。米国特許第5,189,203号(特許文献9)、第5,286,900号(特許文献10)(両方共にHansenら)、および第5,728,871号(特許文献11)(Joensenら)は、合成ガスをまず用いてメタノールを生成し、続いてジメチルエーテルと混合し、その混合物をカルボニル化して主生成物として酢酸を生成するプロセスを開示している。
【0007】
いくつかの他の参考文献は、様々な触媒を用いた、フィードの主成分または単一成分としてのジメチルエーテルのカルボニル化を調査した。例えばJonesら(米国特許第5,763,654号(特許文献12))は、ハロゲン化物含有共触媒およびプロモーターとしてのヨウ化メチルと共に触媒がグループVIII貴金属触媒であるそのようなプロセスを開示している。この特許の開示によれば先行技術の典型的な濃度よりも低い濃度で使用されるが、水がリアクタに存在していた。主生成物は酢酸であった。
【0008】
Vegman(米国特許第5,218,140号(特許文献13))は、最初に、ヘテロポリ酸触媒を用いてメタノールをカルボニル化して酢酸を生成することを試みた。この特許には、フィードがジメチルエーテルである実験群(実施例28〜33)が含まれる;しかしそれらの実験では酢酸メチルへの転換が比較的低かった。
【0009】
Sardesaiら(Energy Sources 2002, 24:301(非特許文献1))もまた、数多くのヘテロポリ酸触媒を用いたジメチルエーテルのカルボニル化を行い、酢酸メチルへの転換および選択性の点でばらつきの大きい結果となった。Bagnoら(J. Org. Chem. 1990, 55:4284(非特許文献2))はBF3およびトリフル酸を含むいわゆる「超酸」触媒を用いたそのような反応を行ったが、やはり酢酸メチルへの選択性に関してばらつきのある結果となった。
【0010】
【特許文献1】英国特許第1,185,453号明細書
【特許文献2】英国特許第1,277,242号明細書
【特許文献3】米国特許第3,689,533号明細書
【特許文献4】ドイツOLS第3,606,169号明細書
【特許文献5】米国特許第6,130,355号明細書
【特許文献6】米国特許第6,353,132号明細書
【特許文献7】米国特許第6,355,837号明細書
【特許文献8】米国特許公開出願第2003/0054951号明細書
【特許文献9】米国特許第5,189,203号明細書
【特許文献10】米国特許第5,286,900号明細書
【特許文献11】米国特許第5,728,871号明細書
【特許文献12】米国特許第5,763,654号明細書
【特許文献13】米国特許第5,218,140号明細書
【非特許文献1】Sardesaiら、Energy Sources 2002, 24:301
【非特許文献2】Bagnoら、J. Org. Chem. 1990, 55:4284
【発明の開示】
【0011】
発明の簡単な概要
簡潔に言うと、本発明は、実質的に無水の条件下、モルデナイトおよび/またはフェリエライトを含む触媒の存在下で低級アルキルエーテルを一酸化炭素と反応させる工程を含む、低級脂肪族カルボン酸の低級アルキルエステルを含む生成物を生成する方法を含む。
【0012】
具体的には、本明細書において本発明は、実質的に無水の条件下、モルデナイトおよび/またはフェリエライトを含む触媒の存在下におけるジメチルエーテルの一酸化炭素との反応により酢酸メチルを生成する方法を含む。
【0013】
発明の詳細な説明
簡潔に言うと、本発明は、実質的に無水の条件下、モルデナイトまたはフェリエライトを含む触媒の存在下で低級アルキルエーテルを一酸化炭素と反応させる工程を含む、低級脂肪族カルボン酸の低級アルキルエステルを含む生成物を生成する方法を含む。
【0014】
具体的には、本明細書において本発明は、実質的に無水の条件下、モルデナイトまたはフェリエライトを含む触媒の存在下におけるジメチルエーテルの一酸化炭素との反応により酢酸メチルを生成する方法を含む。
【0015】
本方法へのフィードの一つの成分は、(主として)低級アルキルエーテル、すなわち下記の式を有する化合物を含む:
R1-O-R2
式中、R1およびR2は、独立してC1〜C6アルキル基であるか、または一緒になってC2〜C6アルキレン基を形成するR1+R2である。R1およびR2がアルキル基である場合、R1基およびR2基の炭素原子の総数は、2〜12であり、好ましくは2〜8であり、最も好ましくは2〜6である。好ましくは、R1およびR2は、直鎖アルキル基であり、最も好ましくはそれぞれ1〜3個の炭素原子を有する直鎖アルキル基である。R1+R2がアルキレン基を形成する(すなわち、エーテルが環状エーテルである)場合、炭素原子の総数は好ましくは2〜4である。
【0016】
本発明は全般的には下記の式で示すことができる:
R1-O-R2 + CO → R1COOR2
【0017】
本明細書で用いられる用語「アルキル」とは、炭素原子の数が指定されている(すなわちC3が3つの炭素原子を意味する)直鎖もしくは分枝鎖、または環状の、飽和脂肪族基、またはそれらの組合わせを意味する。非環状アルキル基の例には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、ならびに様々なペンチルおよびヘキシルアイソマーなどの基が含まれる。環状アルキル基の例には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、およびシクロヘキシルが含まれる。環状および非環状アルキル基の組合わせには例えば、シクロプロピルメチル、シクロブチルメチル、シクロプロピルエチルなどが含まれる。
【0018】
本明細書で用いられる用語「アルキレン」とは、他の部分と2つの単結合を形成しうる飽和脂肪族部分を意味する。この基には例えば、メチレン(-CH2-)、エチレン(-CH2CH2-)、およびヘキシレン[(-CH2-)6]が含まれる。アルキレン基は直鎖もしくは分枝鎖の基でありうるが、本発明の方法における使用のためには直鎖アルキレン基が好ましい。
【0019】
エーテルが対称エーテル、例えばジメチルエーテルである場合、主生成物は脂肪酸の対応するアルキルエステル(この場合は酢酸メチル)である。エーテルが非対称である場合、2つのC-O結合が反応中に開裂することによって、生成物は2つの可能なカルボン酸エステルの一方または両方を含みうる。例えば、フィードがメチルエチルエーテル(R1=メチル; R2=エチル)である場合、生成物は酢酸エチルおよび/またはプロピオン酸メチルを含みうる。
【0020】
本方法の第二の成分は、一酸化炭素を含むフィードである。フィードは、実質的に純粋な一酸化炭素(CO)、例えば工業ガスの供給者から典型的に提供される一酸化炭素を含んでいてもよく、またはフィードはアルキルエーテルの所望のエステルへの変換を干渉しない、水素、窒素、ヘリウム、アルゴン、メタン、および/もしくは二酸化炭素などの不純物を含んでいてもよい。例えば、フィードは、深冷分離および/または膜の使用を経て合成ガスから水素を除去することにより典型的には商業的に作成されるCOを含んでいてもよい。
【0021】
一酸化炭素フィードは、相当量の水素を含みうる。例えば、フィードは合成ガスとして一般的に知られているもの、すなわち多様な有機または無機の化合物を合成するのに用いられる、特にアンモニアの合成に用いられる多数のガス混合物のいずれかでありうる。合成ガスは典型的には、蒸気(水蒸気改質反応として知られるプロセスにおける)と、または蒸気および酸素(部分酸化プロセス)と、炭素に富む物質を反応させることにより結果として生じる。これらのガスには主として、一酸化炭素および水素が含まれ、少量の二酸化炭素および窒素が含まれていてもよい。合成ガスを使用できることにより、メタノールから酢酸を生成する過程において別の利点、すなわち比較的安価な一酸化炭素フィードを用いるという選択肢が提供される。メタノールから酢酸へのプロセスにおいて、フィードに水素が含まれることにより、望ましくない水素化副産物が生成される;したがってフィードは高純度の一酸化炭素であるべきである。
【0022】
触媒は、モルデナイトもしくはフェリエライト、またはその2つの混合物もしくは組み合わせ、いずれかのそれ自体(すなわち、一般的にはH-モルデナイトおよびH-フェリエライトと称される酸性型として)、または任意でイオン交換されたもしくは銅、ニッケル、イリジウム、ロジウム、白金、パラジウム、またはコバルトなどの一つもしくは複数の金属を負荷されたもので構成される。モルデナイト触媒は、シリコンおよびアルミニウム原子に加えて、ゼオライト骨格中にさらなる元素、特にガリウムおよび/または鉄を含んでいてもよい。フェリエライト触媒は、シリコンおよびアルミニウム原子に加えて、ゼオライト骨格中にさらなる元素、特にホウ素、ガリウム、および/または鉄を含んでいてもよい。触媒の両タイプの骨格修飾元素(framework modifier element)は、何らかの定常的な手段で骨格に組み込まれうる。骨格修飾元素がモルデナイトまたはフェリエライト触媒のいずれかとして用いられる場合、触媒は骨格修飾元素のシリカ対酸化物の比率を適切に有し、それらは約10:1〜約100:1である。フェリエライト構造のゼオライトへの、TがB、Ga、またはFeであるT-原子の組み込みは、Melian-Cabrera et al., Catalysis Today 110 (2005) 255-263; Shawki et al., EP(出願)第234,766号 (1987), Sulikowski et al., J. Chem. Soc., Chem. Comm., 1289 (1989); Borade et al., J. Chem. Soc., Chem. Comm., 2267 (1996); Jacob et al., Zeolites 430 (1993) Vol. 13に開示されている。T-原子がGaまたはFeであるモルデナイト構造のゼオライトへのT-原子の組み込みはSmith, WO 05/085162に開示されている。
【0023】
モルデナイト(Na-モルデナイト、NH4-モルデナイトまたはH-モルデナイトとして市販されている)は、アルミノケイ酸塩ゼオライトクラスの鉱物のメンバーである。そのNa-型のモルデナイトの化学式は通常、Na(AlSi5O12)・3H2Oまたは(Na2,Ca,K2)Al2Si10O24・7H20として表される。そのような物質は多数の商業的供給源から入手できる。フェリエライトは、Na-型、NH4-型、およびH-型としても利用可能である、アルミノケイ酸塩ゼオライトクラスの鉱物のもう一つのメンバーである。Na-型においてその化学式は一般的に、Na0.8K0.2MgSi15Al3O36・9H2Oまたは(Mg,Na2,K2,Ca)3-5Mg[Al5-7Si27.5-31O72]・18H2Oとして表される。これもまた、様々な商業的供給源から入手できる。これらの物質に関する付加的情報はインターナショナル・ゼオライト・アソシエーション(International Zeolite Association)、www.iza-online.org.のウェブサイトで見られる。
【0024】
反応は、実質的に水の非存在下で行われるべきであるため、操作を開始する前に、例えば400〜500℃に予熱することにより、触媒を乾燥させるべきである。
【0025】
一般的に、本方法は約250℃かそれ未満の温度、すなわち、約100℃〜約250℃、好ましくは約150℃〜約180℃の温度で行われる。本方法の一つの特徴は、驚くべき事に、触媒をベースとしたモルデナイトゼオライトを用いた、水の実質的非存在下におけるジメチルエーテル(DME)の酢酸メチルへのカルボニル化が、メタノールカルボニル化に関する先行技術において記載されている温度より有意に低い温度で極めて高い選択性で行うことができることである。さらに、これらの条件下でモルデナイトは、メタノールのカルボニル化に本質的に不活性である。水の存在により、ジメチルエーテルの酢酸メチルへのカルボニル化が強く阻害されるため、反応温度は、上記の範囲内に保たれ、存在すると炭化水素および水を形成しうるいかなるメタノールの脱水をも最小限に抑えられる。
【0026】
典型的な操作圧は、約1バール〜約100バールであり、好ましくは10バールより高い一酸化炭素圧および5バール未満のジメチルエーテル圧である。
【0027】
本方法は実質的に無水の条件下、すなわち実質的に水の非存在下で行われる。水は、ジメチルエーテルの酢酸メチルへのカルボニル化を阻害することが知られている。このことは、ジメチルエーテルが共フィード(co-feed)であり、水も反応に供給される先行技術のプロセスと比較される。したがって、所望の反応が最善の状態で進行可能となるよう、水は実現可能な限り低く保たれる。これを達成するために、エーテルおよび一酸化炭素反応物ならびに触媒は、本方法へ導入する前に、好ましくは乾燥させる。
【0028】
本方法は連続方法またはバッチ方法のいずれかとして行うことができるが、連続方法が典型的には好ましい。本質的には、本方法は、反応物が液相または気相のいずれかとして導入され生成物が気体として回収される気相操作である。必要に応じて、反応生成物はその後冷却および濃縮されてもよい。触媒は、固定床または流動床のいずれかとして便宜的に使用してもよい。本方法の操作において、未反応染色物質を回収しリアクタへリサイクルしてもよい。酢酸メチル生成物を回収してそれ自体を売ってもよく、または必要に応じて他の化学的プロセス装置へ転送してもよい。望ましい場合には、酢酸メチルの変換および任意で他の成分の他の有用な生成物への変換のために、全反応生成物を化学的プロセス装置へ送ってもよい。
【0029】
本発明の一つの好ましい態様において、酢酸メチルを反応生成物から回収し、水と接触させて、加水分解反応により酢酸を形成させる。または、全生成物を加水分解工程に通し、その後酢酸を分離してもよい。加水分解工程は、酸触媒の存在下で行うことができ、当技術分野で周知のように、反応蒸留という形を取ってもよい。
【0030】
分離後、加水分解リアクタ中に生成されたアルコールを脱水リアクタへ送ってエーテルを生成することができ、それらは水から分離でき、カルボニル化リアクタへの新鮮なフィードとしてカルボニル化装置へとリサイクルできる。
【0031】
別の態様において、有意な量のエステルがカルボニル化によって生成されたら、エステル生成物のアルコールおよびカルボン酸への加水分解が、触媒床における一つまたは複数の点で水を注入することによって行われる。このような水の注入は本質的に、ジメチルエーテルの酢酸メチルへの変換を阻止し、別個の加水分解リアクタの要件を排除する。したがってモルデナイトまたはフェリエライト触媒はまた、エステル生成物を加水分解しカルボン酸を生じさせるための酸触媒としても機能する。リアクタがバックミキシングを伴う流動床リアクタである場合、再度主要プロセスに用いる前にリアクタおよび触媒を完全に乾燥させなければならない。一方、リアクタが、主要な反応域の下流における水の段階的な導入を伴う管型リアクタである場合、そのような乾燥は必要ではない。
【0032】
モルデナイト触媒を用いると、使用する空間速度および反応物圧力に応じて、変換は最大で100%、好ましくは約10%〜約100%となりうる。酢酸メチルに対する選択性は10時間超にわたり165℃にて99%を上回る値で、一定であることが示されている。190℃での酢酸メチルに対する選択性は、当初96%であるが、稼働中の時間と共に減少する。先行技術により、モルデナイトが典型的には250℃より実質的に高い温度でメタノールの酢酸への変換に用いられなければならないことが示されている通り、そのような結果はモルデナイトの使用および実質的に無水の環境の維持では予期されていない。そのような温度はまた、触媒細孔および/または活性部位をブロックしうる炭化水素の形成によってメタノールカルボニル化の不活性化へと至る場合がある。さらに、実施例でわかるように、同様の条件下における他のゼオライトを用いた実験では、モルデナイトおよびフェリエライトのように望ましい変換および/または選択性が示されない。
【0033】
さらに、先行技術のプロセスと比較して、ガソリンおよび/または他の高級炭化水素を比較的わずかにしか生成しない。メタノールがフィードとして用いられる場合しばしば、望ましくない高濃度のそうした炭化水素を生じるいわゆる「MTG」(メタノール・トゥー・ガソリン(methanol-to-gasoline))反応がある。メタノールの形成は反応の初期段階に生じうる;しかしこれは、典型的な反応温度にて触媒床をジメチルエーテルで前処理することにより最小限に抑えらることができる。
【0034】
以下の実施例は本発明の例示として提示される。しかし、それらは本発明の範囲を制限することを意味してはいない。
【0035】
一般的手順
1)触媒調製
触媒はアンモニウムまたは酸性型として商業的に入手し、773 Kにて3時間、乾燥気流中で前処理した。

【0036】
2)ジメチルエーテルカルボニル化反応
ジメチルエーテルカルボニル化反応は、0.15〜0.5 gの触媒を用いて固定床ステンレススチールマイクロリアクタにて行った。触媒は乾燥気流中773Kで2時間活性化させ、反応温度(150〜240℃)まで冷まし、乾燥ヘリウム流を勢いよく流し、反応物を導入する前に10バールに加圧した。反応混合物は、20 kPaジメチルエーテル、930 kPa一酸化炭素、および50 kPaアルゴンから成り、後者は内部標準とした(1バール=101 kPa)。全ての前処理流および反応物流は、リアクタの直前に配置されたカルシウムハイブリッド床(0.5 g, Aldrich)を通過させることにより乾燥させた。ヒートトレース配管(200〜250℃)を用いて反応物および生成物をそれぞれメチルシロキサンおよびPorapak(登録商標)Qカラムを含む炎イオン化検出器および熱伝導度検出器を備えたオンラインガスクロマトグラフ(Agilent 6890)に移した。
【0037】
3)合成ガスを用いたジメチルエーテルカルボニル化反応
水素添加実験を上記のようにフローリアクタ内で行った。反応物の混合物は10 kPAジメチルエーテル、465 kPA一酸化炭素、25 kPaアルゴン、および500 kPaヘリウムまたは水素から成っていた。非反応希釈物であるヘリウムは、触媒システムが定常状態に達した後、水素で置き換えた。
【0038】
実験は、上記のジメチルエーテルのカルボニル化の手順を用いて、7つの触媒にわたり148〜335℃の温度範囲内で行ったが、大抵の実験は150〜240℃および9.3バールの一酸化炭素で行った。触媒にはモルデナイト(H-MOR; Si/Al=10およびSi/Al=45)、ゼオライトMFI(H-ZSM5; Si/Al=12)、Yフォージャサイト(H-Y; Si/Al=3)、フェリエライト(H-FER; Si/Al=34)、および非晶質シリカアルミナ(Si/Al=6)が含まれていた。実験条件は、全圧10バール、総流量=100cm3(STP)/分、2% DME/5% Ar/93% COフィード(周囲温度にて0.5 g CaH2プレリアクタ乾燥床を通過させた)で144〜335℃の間で段階的に温度を上昇させながら行った。
【0039】
これらの実験は、モルデナイトおよびフェリエライトがジメチルエーテルのカルボニル化のための他のゼオライト候補よりはるかに優れていることを実証している。酢酸メチルの生成率を図1に示す。反応条件下で、H-MORについての約165℃における率(Alで正規化した)はH-ZSM5についての率よりほぼ50倍高く、H-Yについてのよりも150倍超高かった。150〜190℃の温度において、3つのゼオライトのいずれも不活性化は観察されなかった。比較的高い温度(≧488K)にて、明らかに、大きな非反応性残留物の有意な形成の結果として、酢酸メチルの率が稼働中の時間と共に低下した。これにより、十分に大規模(extensive)であれば、再度比較的低温(165〜185℃)で試験した際に触媒がその初期のカルボニル化率に戻るのを防ぐことができる。
【0040】
≧488Kの温度におけるH-Yに関して、リアクタ流出物には、ガスクロマトグラフにおける酢酸メチルおよびメタノールといくつか重複しているものを含む広範囲の炭化水素が含まれていた。したがって、これらの温度におけるH-Yに関する報告された酢酸メチルおよびメタノール生成率は、真の生成率よりいくらか大きくなりうる。
【0041】
図2および3はH-MORに関する酢酸およびメタノールの生成率を示す。酢酸は、H-MORにて≧490Kの温度で酢酸メチルの加水分解またはメタノールのカルボニル化により形成される。しかし、メタノールは、MTG(メタン・トゥー・ガソリン)反応の副産物として形成されうる水の非存在下ではジメチルエーテルから形成できない。最初のメタノール生成率は、残余の水または500℃での触媒の前処理(乾燥)後ゼオライト中に残っているヒドロキシル基から形成される水のいずれかの反応を反映する。したがって、検出可能な定常状態のメタノール率が463Kより上で観察される場合、たとえガスクロマトグラフィーにより流出液中に検出されなくても、炭化水素が恐らく形成されている。H-MORにおける炭化水素の生成率(酢酸メチル、酢酸、またはメタノール以外の生成物に変換されるジメチルエーテルとして計算される)を図4に示す。酢酸は他のゼオライトでは観察されなかった。生成物選択性を図5に示す。
【0042】
低アルミニウム含量H-MOR(Si/Al=45)および非晶質シリカアルミナ(Si/Al=6)も広範囲の温度(160〜335℃)にわたって試験した。
【0043】
低アルミニウム含量H-MORにおけるカルボニル化率(Alあたり)は高アルミニウム含量H-MOR(Si/Al=10)で報告されている率より一桁小さかった。比較的高い炭化水素生成率を示すため、この物質についての低いカルボニル化活性(Alあたり)は全く予想外である。メタノール(およびDME)から炭化水素への反応は化学量論的な量の水を形成する;本発明者らの研究からカルボニル化活性のため無水条件が必要であることが示されている。乾燥環境は炭化水素を形成する誘発反応の存在下では不可能である。
【0044】
非晶質シリカアルミナ(表面積=440m2/g)も比較のため試験した。259℃においてわずかなカルボニル化活性を示し始めた。この物質におけるのカルボニル化率は、この温度におけるH-MOR(Si/Al=10)の率より3〜4桁低い。
【0045】
上記試験の概要を表1として下記に示す。
(表1)定常状態の生成物生成率およびアセチレン炭素選択性
【0046】
合成ガスを用いた研究
H-モルデナイトを水素の存在下、ジメチルエーテルのカルボニル化について評価した。カルボニル化率は、全反応物原料の半分である水素の存在に本質的に影響を受けない(図6)。様々な水素:一酸化炭素比の合成ガスを、ジメチルエーテルカルボニル化率に影響を及ぼすことなく用いることができる。
【0047】
骨格金属の取り込み
(GaAl/Si)NH4-モルデナイト(SiO2/Ga2O3 約39.2およびSiO2/Al2O3 約19.4)がアンモニウム型から変換され、以下の条件下でDMEカルボニル化について試験した。試料は773K(0.0167K s-1)において乾燥気流(3.33 cm3s-1)中で3時間処理し、NH4+型からH+型へと変換した。DMEカルボニル化率は、3ゾーン抵抗加熱炉内に保持された充填床ステンレススチールリアクタ(8.1mm ID、9.5mm OD)において測定した。触媒試料(0.5g、185〜250mm粒径)は、He流(約3.33 cm3s-1g-1、UHP Praxair)中で反応温度まで冷却する前に、773K(0.0167K s-1)にて3時間、乾燥気流(約1.67cm3s-1g-1、ゼログレード、Praxair)中で処理し、続いて2% DME/5% Ar/93% CO(99.5% DME、Praxair; UHP Ar/CO、Praxair)を供給した。
【0048】
触媒の結果を、同一条件下で試験したH-モルデナイト(H-MOR)(供給元-Zeolyst)と比較した(表1)。
【0049】
(表1)(GaAl/Si)H-モルデナイトおよび(Al/Si)H-モルデナイト試料の比較 a

a 930kPa CO、20kPa DME、50kPa Ar、438K
【0050】
Al-Si比
一連の操作を様々なAl:Si比を有する触媒を用いて実施した。表2はH-MOR試料、ならびに対応する率[モル/g-Al原子/h]および空時収率[g MeOAc/kg ゼオライト/h]のリストを含む。典型的には0.5gの試料を、全圧10 Atm(20kPa DME、50kPa Ar、930kPa CO)および流出量1.67 cm3/sで438Kにて用いた。これらはモルkg-1h-1の点から見るとかなり良い率を示した。結果は、触媒の質量(および推定上の容積)あたりの生産性がSi:Al比を変えることにより増加しうることを示している。
【0051】
(表2)H-MOR中のAl含量の関数としてのDMEカルボニル化率および空時収率

条件: 930kPa CO、20kPa DME、50kPa Ar; 438K; 3.33cm3g-1s-1
【0052】
本明細書に記載の全ての刊行物および特許出願は、個々の刊行物または特許出願が具体的かつ個別に参照として組み込まれるよう示されているように、参照として本明細書に組み込まれる。
【0053】
前述の発明は、理解を明確にする目的で説明および例によって幾分詳細に記載したが、本発明の開示を鑑みて、添付の特許請求の範囲の精神または範囲を逸脱することなくある種の変更および修飾が本発明に成されうることが当業者には容易に明らかであると思われる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の方法について触媒候補として様々なゼオライトを用いた酢酸メチルの生成率を示す。
【図2】本発明の方法についてH-モルデナイトゼオライト触媒を用いた酢酸の生成率を示す。
【図3】本発明の方法についてH-モルデナイトゼオライト触媒を用いたメタノールの生成率を示す。
【図4】本発明の方法についてH-モルデナイトゼオライト触媒を用いた炭化水素の生成率を示す。
【図5】計算された生成物選択性を示す。
【図6】反応物混合物中の水素の存在(および非存在)下でH-モルデナイトゼオライト触媒を用いた酢酸メチルの生成率を示す。
【図1a】

【図1b】

【図1c】

【図1d】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式:
R1-COO-R2
を有する低級脂肪族カルボン酸の低級アルキルエステルを含む生成物を生成する方法であって、下記の式を有する低級アルキルエーテルと反応させる工程を含む方法:
R1-O-R2
式中、R1およびR2は、R1基およびR2基の炭素原子の総数が2〜12であるか、またはR1およびR2が実質的に無水の条件下、モルデナイトおよび/またはフェリエライトを含む触媒の存在下で、一酸化炭素含有フィード(feed)と共にC2〜C6アルキレン基を形成することを条件として、独立してC1〜C6アルキル基である。
【請求項2】
エステルが酢酸メチルであり、エーテルがジメチルエーテルである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
触媒がH-モルデナイトである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
温度が約100℃〜約250℃である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
温度が約150℃〜約180℃である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
触媒が触媒の固定床を含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
触媒が触媒の流動床を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
請求項1記載の連続方法。
【請求項9】
請求項1記載のバッチ方法。
【請求項10】
一酸化炭素含有フィードが水素を更に含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
一酸化炭素含有フィードが合成ガスを含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
エステルを加水分解して対応するカルボン酸を生成する工程を更に含む、請求項1記載の方法。
【請求項13】
酢酸メチルを加水分解して酢酸を生成する工程を更に含む、請求項2記載の方法。
【請求項14】
加水分解がエステル生成反応とは別のリアクタで行われる、請求項12または13記載の方法。
【請求項15】
加水分解がエステル生成反応と同じリアクタで行われる、請求項12または13記載の方法。
【請求項16】
R1およびR2がC1〜C6アルキル基である、請求項1記載の方法。
【請求項17】
R1およびR2が直鎖C1〜C6アルキル基である、請求項1記載の方法。
【請求項18】
R1およびR2が各々1〜3個の炭素を有する直鎖アルキル基である、請求項1記載の方法。
【請求項19】
アルキル基が全部で2〜8個の炭素原子を含む、請求項16記載の方法。
【請求項20】
アルキル基が直鎖アルキル基である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
アルキル基が全部で2〜6個の炭素原子を含む、請求項16記載の方法。
【請求項22】
R1およびR2が一緒になってC2〜C6アルキレン基を形成する、請求項1記載の方法。
【請求項23】
R1およびR2が一緒になって直鎖C2〜C6アルキレン基を形成する、請求項1記載の方法。
【請求項24】
R1およびR2が一緒になってC2〜C4アルキレン基を形成する、請求項1記載の方法。
【請求項25】
触媒が一つまたは複数の更なる骨格金属を含む、請求項1記載の方法。
【請求項26】
骨格金属がガリウム、ホウ素、および鉄から選択される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
骨格金属がガリウムである、請求項25記載の方法。
【請求項28】
触媒がモルデナイトを含み、骨格金属がガリウムおよび/またはホウ素から選択される、請求項25記載の方法。
【請求項29】
触媒がフェリエライトを含み、骨格金属がガリウム、ホウ素、および/または鉄から選択される、請求項25記載の方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−540444(P2008−540444A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−510219(P2008−510219)
【出願日】平成18年5月3日(2006.5.3)
【国際出願番号】PCT/US2006/017219
【国際公開番号】WO2006/121778
【国際公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(507363163)ザ・レジェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・カリフォルニア (1)
【出願人】(507363141)ビーピー ケミカルズ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】