説明

アルキルエーテルの製造方法

【課題】 本発明の課題は、副生物を含まないアルキルエーテルの製造方法を提供することである。
【解決手段】 アルコール(A1)の水酸基を、アルカリ金属アルコラート(B1)またはアルカリ土類金属アルコラート(B2)の存在下、ジアルキルカーボネート(C)を用いてアルキル化反応させることを特徴とするアルキルエーテルの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキルエーテルの製造方法に関し、詳しくは、ハロゲン化合物等の副生物を含まないアルキルエーテルの製造方法、および該製造方法で得られたアルキルエーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、アルキルエーテルの製造方法としては、苛性ソーダなどの強塩基触媒の存在下、アルコールにアルキルハロゲン化物を反応させる方法が知られている(例えば、特許文献1)。
しかし、アルキルハロゲン化物は毒性が高いために取扱いが困難であり、また、多量に副生する塩化ナトリウムなどの塩の分離、廃棄、廃水処理などの余分な後処理工程や設備が必要なため、コストがかかるという問題を有する。
【0003】
また、ジアルキル硫酸を用い、アルコールをアルキルエーテル化させる方法が提案されている(例えば、特許文献2)。
しかし、この方法では硫酸が生成するため、人体に有害で腐食性のガスの発生等の問題を有する。
【特許文献1】特開平6−100487号公報
【特許文献2】特開平5−112485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、危険性や毒性が高いアルキルハライドやジアルキル硫酸を原料として使用せずに済み、塩化ナトリウムなどの無駄でコストアップにつながる副生成物の発生が無くかつ、反応率が高いアルキルエーテルの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は鋭意研究した結果、本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明は、アルコール(A1)の水酸基を、アルカリ金属アルコラート(B1)またはアルカリ土類金属アルコラート(B2)の存在下、ジアルキルカーボネート(C)を用いてアルキル化反応させることを特徴とするアルキルエーテルの製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、毒性が高いアルキルハライドやジアルキル硫酸を原料として使用せずに済む。また、高い反応率で、高純度のアルキルエーテルを得ることができる。さらに、アルキルハライドや水酸化ナトリウムを使用するプロセスと違い、不要でかつ後処理の必要な塩化ナトリウムなどの副生塩の発生もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のアルキルエーテルの製造方法は、アルコール(A1)の水酸基を、アルカリ金属アルコラート(B1)またはアルカリ土類金属アルコラート(B2)の存在下、ジアルキルカーボネート(C)を用いてアルキル化反応させることを特徴とする。
【0008】
本発明の製造方法において使用できるアルコール(A1)としては、アルコール性水酸基を有するものであれば特に限定されるものではないが、1〜8価のアルコール;このアルコールの炭素数2〜4アルキレンオキサイド(以下、AOと略記する)[例えばエチレンオキシド(以下EOと略記する)、プロピレンオキシド(以下POと略記する)ブチレンオキシド(以下BOと略記する)]付加物、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0009】
上記の1価アルコールには、C1〜12の脂肪族アルコール(A11)、C3〜12の脂環式アルコール(A12)、C6〜12の芳香環含有アルコール(A13)、これらのアルコールのAO付加物(A14)、およびこれらの混合物が含まれる。

【0010】
C1〜12の脂肪族アルコール(A11)としてはメタノール、エタノール、n−およびi−プロパノールおよびn−、i−、sec−およびt−ブタノール等が挙げられ、該アルコールのAO付加物としてはエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルおよびジエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0011】
C3〜12の脂環式アルコール(A12)としては、シクロヘキサノールおよび2−メチルシクロヘキサノール等が挙げられ、該アルコールのAO付加物としては、エチレングリコールシクロヘキシルエーテル、ジエチレングリコールシクロヘキシルエーテルおよびプロピレングリコールシクロヘキシルエーテル等が挙げられる。
【0012】
C6〜12の芳香環含有アルコール(A13)としては、ベンジルアルコール等が挙げられ、該アルコールのAO付加物としては、ベンジルアルコールのAO1〜5モル付加物等が挙げられる。該アルコールには、フェノール化合物[C6〜20、例えばフェノール、o−、m−およびp−クレゾール]のAO付加物、例えばエチレングリコールモノフェニルエーテルおよびジエチレングリコールモノフェニルエーテルが挙げられる。
【0013】
前記(A11)〜(A13)のアルコールのアルキレンオキシド付加物(A14)としては、これらのアルコールのEO付加物、PO付加物、EOとPOのランダム付加物、EOとPOのブロック付加物が挙げられる。
これらの(A11)〜(A14)のうち、好ましいのは(A11)および(A14)である。
【0014】
また、2〜8価アルコールとしては、エチレングリコール,プロピレングリコール,1,3−ブチレングリコール,1,4−ブタンジオール,1、6−ヘキサンジオール,3−メチルペンタンジオール,ジエチレングリコール,ネオペンチルグリコール,1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン,1,4−ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼン,2,2−ビス(4,4’−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンなどの2価アルコール;グリセリン,トリメチロールプロパンなどの3価アルコール;ペンタエリスリト―ル,ジグリセリン,α−メチルグルコシド,ソルビト―ル,キシリット,マンニット,ジペンタエリスリト−ル,グルコ−ス,フルクト−ス,ショ糖などの4〜8価のアルコ―ル;およびこれらの2〜8価アルコールのAO付加物などが挙げられる。これらのうち、好ましいのはエチレングリコールおよびグリセリンである。
【0015】
本発明の製造方法において使用できるアルコール(A1)として、これらのうち好ましいのは、1価アルコール、および1価アルコールのAO付加物である。
さらに好ましいのは、(A11)および(A14)であり、より好ましいのはメタノール、エタノール、n−ブタノール、ベンジルアルコールである。
【0016】
本発明の製造方法において使用できるセルロース(A2)としては、綿リンター、木材パルプもしくは溶解パルプなどから得られる植物系セルロース、アセトバクター属などに属する微生物の産出するバクテリアセルロース、再生セルロース、微結晶セルロースおよび天然多糖類などが挙げられる。これらののうち、好ましいのは粉末状である。
【0017】
セルロース(A2)のアルキル化反応においては、セルロースの溶解剤を使用できる。
溶解剤としては、セルロースをアルキル化反応時の温度で溶解するものであれば特に限定されないが、具体的には、ヒドラジン、N−メチルモルホリン−N−オキシド、イオン液体、ジメチルスルホキシドまたはジメチルホルムアミドを含む多成分系溶解剤などが上げられる。これらののうち、好ましいのはイオン液体である。
【0018】
本発明の製造方法でアルキル化剤として用いられるジアルキルカーボネート(C)は、下記一般式(1)で表される化合物である。
【0019】
【化1】

【0020】
[式中、R1とR2は、それぞれ独立に炭素数1〜6の1価の直鎖または分岐の脂肪族炭化水素基を表す。]
【0021】
脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基が挙げられる。
【0022】
炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル等の直鎖または分岐の脂肪族炭化水素基が挙げられる。
【0023】
炭素数1〜6のアルケニル基としては、例えば、エテニル、1−プロペニル、アリル、1−ブテニル、2−ブテニル等の直鎖または分岐の脂肪族炭化水素基が挙げられる。
これらのうち、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジアリルカーボネートおよびアリルメチルカーボネートが好ましい。
【0024】
ジアルキルカーボネート(C)とアルコール(A)の水酸基のモル比は、好ましくは、0.5:1〜10:1であり、より好ましくは、1:1〜6:1である。
【0025】
本発明の製造方法において使用するアルカリ金属アルコラート(B1)またはアルカリ土類金属アルコラート(B2)は、メタノール、エタノール、プロパノール、およびブタノールからなる群から選ばれる1種以上の炭素数1〜4の1価の直鎖または分岐の脂肪族アルコール由来のアルカリ金属アルコラートまたはアルカリ土類金属アルコラートであり、好ましくは、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、カリウムエチラートである。
【0026】
本発明における(B1)または(B2)の使用量は、アルコール(A1)とセルロース(A2)の合計量に対して通常0.001〜20重量%、好ましくは0.1〜10重量%である。
【0027】
アルキル化反応の反応温度、および反応時間は特に限定はないが、好ましい反応温度は70〜300℃、より好ましくは80〜230℃である。また、好ましい反応時間は1時間〜40時間、より好ましくは2時間〜10時間である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例および比較例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下、特に記載のないかぎり、「部」は「重量部」、%は重量%を意味する。
【0029】
アルコール(A1)の反応率の定義と測定・計算方法は以下の通りである。
<アルコール(A1)の反応率>
アルコール(A1)反応率とは、原料のアルコール(A1)が反応によりエーテルに転化した反応率を表し、以下の計算式(1)により求めた。
アルコール(A1)反応率(%)=(1−A/B)×100 (1)
但し、A:反応後のアルコール(A1)のモル濃度
B:反応前のアルコール(A1)のモル濃度
なお、反応前後のアルコール(A1)のモル濃度算出に際しては、ガスクロマトグラフを用い、内部標準法により以下の条件で測定した。
ガスクロマトグラフ装置: 島津製作所製 GC17−A
使用カラム: DB WAX 0.25mm×30m
【0030】
セルロース(A2)のアルキル基置換度は、以下のZeisel法[D.G.Anderson, Anal. Chem., 43, 894(1971)参照]で求めたアルコキシ基含量から算出した。
【0031】
<メトキシ基含量およびアルキル置換度の定量方法>
(1)試料15mgとヨウ化水素酸6mLを分解フラスコに入れた後、窒素を通じて、150℃で1時間加熱する。生成するヨウ化メチルを気相に追い出し,この後1重量%の赤リン懸濁液で洗浄し、吸収管に送る。吸収管には、酢酸カリウム15gを酢酸/無水酢酸混液(9/1)150mLに溶解し、その溶液145mLを量り、臭素5mLを加えておく。
(2)酢酸ナトリウム三水和物溶液が入った共栓三角フラスコに、吸収管の内容物を加える。吸着管の内壁に付着した内容物は、水を加えることで流し出す。次に、振り混ぜながら臭素の赤色が消えるまで、ギ酸を加える。
(3)共栓三角フラスコにヨウ化カリウム3gと希硫酸15mLを加え、栓をして軽く振り混ぜ、5分間放置する。遊離したヨウ素を0.1 mol/Lチオ硫酸ナトリウム液で滴定する。
(4)下記式からまずメトキシル基含量(C)を算出し、これを用いて本発明のアルキル置換度を算出する。
メトキシ基含量(%)(C)=滴定量(mL)×51.72/試料量(mg)
アルキル置換度=(C×162)/(3100−C×14)
【0032】
<実施例1>
攪拌機、温度計を備えたオートクレーブに、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(A1−1)137部、ジメチルカーボネート154部、およびナトリウムメチラート5部を仕込み、反応前の(A1−1)のモル濃度を測定後、100℃で8時間反応させることで、メチルエーテル化反応を行った。反応後、25℃まで冷却し、反応液を取出して(A1−1)の反応後のモル濃度を測定した結果、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(A1−1)の反応率は98%であった。
【0033】
<実施例2>
攪拌機、温度計を備えたオートクレーブに、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド150部およびパルプ(日本製紙ケミカル(株)製、重合度=約1,200)12部を加え、90℃で1時間攪拌することで溶解させた。ジメチルカーボネート180部およびナトリウムメチラート7部を加え、180℃で10時間反応させることで、メチルエーテル化反応を行った。
この反応溶液を85〜90℃の熱水1,000gに投入し、目的物質である本発明のメチルセルロースを析出させた。
遠心分離機で18,000Gで30分間脱水・分離し、得られた固形物にさらに水を200g加えて30分間攪拌して水洗したのち、上記と同様の条件で遠心分離機で脱水した。水洗−脱水の操作をさらに3回繰り返し、70℃で24時間減圧乾燥して、上記の 分析を行い、置換度2.9のメチルセルロース 11部を得た。
【0034】
<比較例1>
ジエチレングリコールモノメチルエーテル(A1−1)144部、およびメチルクロライド60部を仕込み、反応前の(A1−1)のモル濃度を測定後、オートクレーブ内液温を70℃とし、粉末水酸化カリウム79部を2時間かけて加えた後、4時間攪拌した。反応後、25℃まで冷却し、イオン交換水220部を加えて20分間攪拌後、4時間静置して分液した。分液した油層部分を取出して(A1−1)の反応後のモル濃度を測定し、上記の評価を行った結果、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(A1−1)反応率は98%であった。
分液した水層部分からは、70部の塩化ナトリウムが回収された。
【0035】
<比較例2>
オートクレーブ反応容器にパルプ10部、48%水酸化ナトリウム水溶液30部を投じ、60℃で30分攪拌した後、アルキルエーテル化剤としてのエチルクロライド106部を110℃で徐々に4時間かけて加え、さらに20時間反応させエチルエーテル化を終了した。その後、実施例2と全く同様にして精製し、アルキル基置換度2.2のエチルセルロース9部を得た。
【0036】
以上の結果から明らかな通り、本願発明の製造方法は、従来の方法では多量に必要な水酸化ナトリウムが不要であるため、アルカリ金属の中和塩の発生が無くかつ、原料であるアルコールの反応率が高い。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の製造方法により製造されるアルキルエーテルは、電子材料の洗浄剤、塗料の溶剤の用途に幅広く用いることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール(A1)の水酸基を、アルカリ金属アルコラート(B1)またはアルカリ土類金属アルコラート(B2)の存在下、ジアルキルカーボネート(C)を用いてアルキル化反応させることを特徴とするアルキルエーテルの製造方法。
【請求項2】
セルロース(A2)の水酸基を、アルカリ金属アルコラートまたはアルカリ土類金属アルコラートの存在下、ジアルキルカーボネート(C)を用いてアルキル化反応させることを特徴とするアルキルエーテルの製造方法。
【請求項3】
該ジアルキルカーボネート(C)が、下記一般式(1)で表されるジアルキルカーボネートである請求項1または2記載のアルキルエーテルの製造方法。
【化1】

[式中、R1とR2は、それぞれ独立に炭素数1〜6の1価の直鎖または分岐の脂肪族炭化水素基を表す。]
【請求項4】
アルカリ金属アルコラート(B1)またはアルカリ土類金属アルコラート(B2)が、メタノール、エタノール、プロパノール、およびブタノールからなる群から選ばれる1種以上の炭素数1〜4の1価の直鎖または分岐の脂肪族アルコール由来である請求項1〜3いずれか記載のアルキルエーテルの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の製造方法で得られ、アルキルエーテル化率が70%以上であることを特徴とするアルキルエーテル組成物。

【公開番号】特開2009−227638(P2009−227638A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78307(P2008−78307)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】