説明

アルキルシリケート縮合体の製造方法

【課題】本発明は、高分子量で、且つ分子量が比較的揃った、且つ安定性に優れたアルキルシリケート縮合体を安定に製造する方法を提供する。
【解決手段】低級アルキルシリケートの高分子量縮合体を製造するに際し、先ず、溶媒と酸触媒の存在下にアルキルシリケート部分縮合体を製造し、次いでこの反応液から副生アルコール及び溶媒を除去した後、脱酸工程を経て、又は経ずにこれに亜硝酸塩を加えて100℃以上に加熱し、この時に生じた低級アルキルシリケート単量体を留去してメチルシリケートの場合1400以上、エチルシリケートの場合2000以上の重量平均分子量を有するアルキルシリケート縮合体とする。この製法でMw/Mn比がメチルシリケートの場合は1.4以上、エチルシリケートの場合は2.0以上の高分子量で、且つ分子量が比較的揃った、且つ安定性に優れたアルキルシリケート縮合体を得ることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料の添加剤、精密鋳造の際のバインダーなどに用いられるアルキルシリケート縮合体の製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メチルシリケート、エチルシリケートなどの低級アルキルシリケートの部分縮合体は単量体に所定量の水を加え、酸性触媒の存在下に加水分解と縮合反応を進行させてメチルシリケート51またはエチルシリケート48などと呼ばれる部分縮合体を製造している。これらの縮合体は通常単量体から10量体程度の多量体の混合物で、重量平均分子量はメチルシリケートの場合は700以下、エチルシリケートの場合で2000以下である。これら部分縮合体は反応性が高く、バインダーとしての性能などに優れているが、特定の用途分野ではより高分子量のもの、より分子量の揃っているもの、などが望まれている。
【0003】
しかし、より高分子量のものを得ようとして縮重合の際に添加する水の量を単純に多くすると反応液は不安定となり、わずかに過剰な水の添加や経時変化によりゲル化が生じ、そして一旦ゲル化するとその後処理が容易ではなく、更に生成物の利用の道は殆どない。一方、酸触媒によって部分縮合体を生じさせてから一旦溶媒等を除去した後、反応液をアルカリ性に移行して高分子量のシリケート縮合体を得る試みも為されている(特許文献1参照)。この方法で従来のものより大幅に高分子量のものを得ることが出来るが、反応液をアルカリ性に移行する時の管理が大変難しく、反応毎に異なった平均分子量の製品が得られたり、不安定であるという欠点を有している。
【0004】
【特許文献1】特開平10−147750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高分子量で、且つ分子量の比較的に揃った、且つ安定性に優れたアルキルシリケート縮合体を安定に製造する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、低級アルキルシリケートの縮合体を製造するに際し、先ず溶媒と酸触媒の存在下にアルキルシリケート単量体1モルに対し0.7〜1.5モルの水を加えて加水分解及び縮合反応による部分縮合体を生じさせ、次いで反応液から副生アルコール及び溶媒を除去する際の前または後に、必要に応じて脱酸を行い、溶媒等を除去した反応液に亜硝酸塩を加えて100℃以上に加熱し、加熱時に生じた低級アルキルシリケート単量体及び生成アルコールなどを留去して、重量平均分子量がメチルシリケートの場合は1400以上、炭素数が2以上のアルキル基を有するシリケートの場合は2000以上のアルキルシリケート縮合体とする製造方法である。
【0007】
本発明で用いられる低級アルキルシリケートは、メチル、エチル、プロピル、ブチルなど低級アルキル基のシリケートでこれらは混合して用いても良い。酸触媒としては硫酸、塩酸、硝酸、燐酸などが使用でき、場合によって有機酸を用いても良い。使用量は原料のシリケートに対し、0.001〜0.1重量%が適当である。添加する水の量は前記の通りで、生成した部分縮合体が溶剤なしでゲル化せずに液状を保つ範囲とすることが好ましい。この水は一括添加でも良いし、時間を掛けて滴下添加しても良い。
【0008】
低級アルキルシリケートを酸触媒存在下で加水分解及び縮合反応させる時の温度は室温から使用溶媒の沸点迄が用いられる。反応時間は60分〜24時間が適当である。ここで得られる反応液は副生したアルコールを含む透明なシリケート部分縮合体液で、単量体から10量体位までを含む混合体の溶液である。これからアルコール、溶媒を除去して得られる部分縮合体の重量平均分子量は、例えばメチルシリケートの場合は500〜700、エチルシリケートの場合は700〜2000程度であり、数平均分子量との比、Mw/Mnの値はメチルシリケートの場合で1.4以下、エチルシリケートの場合で2.0以下のものが得られる。この部分縮合体中に含まれる酸触媒は必要に応じて脱酸処理を行う。脱酸は部分縮合体を含む反応液からアルコール、溶媒の除去の前に行っても良いし、除去後に行っても良い。これは中和またはイオン交換樹脂層を通過させて酸除去することで行うことが出来る。なお、ここで示す重量平均分子量はGPC分析装置を用いてポリスチレン換算により測定したものである。
【0009】
この様に脱酸した、または脱酸してない部分縮合体に加えられる亜硝酸塩としてはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が用いられるが、特に亜硝酸ナトリウム又は亜硝酸カリウムが好ましく、その添加量は、前段工程である副生アルコール及び溶媒の除去後に脱酸操作をするか、否かで異なってくるが、亜硝酸ナトリウムを例にとると通常2〜200ppmの範囲内で、亜硝酸塩を添加した後の反応液中の酸分が反応液20ml当たり0.5ml以下となる様な添加量とすることが好ましい。この時の反応液中の酸分とは測定のために採取した反応液20mlに対して、指示薬としてBPB溶液を用いて、黄色から青色に変色または転換させるのに必要な0.1規定水酸化ナトリウム溶液の量を示すものである。
【0010】
亜硝酸塩の添加は、粉末を秤量して加えても良いが、メタノールなどのアルコールに溶解した溶液として添加することが好ましい。亜硝酸塩を添加した部分縮合体を100℃以上、好ましくは140℃以上に加熱すると、不均化反応が生じ、シリケート単量体が生成する。この反応は亜硝酸塩の添加後、温度の上昇中にも速やかに進行し、例えば設定温度160℃に到達した時、既に殆どの不均化反応が完了している場合が多いが、更に生成物の安定化と生成したシリケート単量体の完全除去の為に数十分〜24時間の熟成加熱を施すことが好ましい。
【0011】
この様にして得られたアルキルシリケート縮合体は重量平均分子量がメチルシリケートの場合1400〜10000程度で数平均分子量との比、Mw/Mnが1.4以上、エチルシリケートなど炭素数2以上のアルキルのシリケートの場合は2000〜20000程度でMw/Mnが2.0以上の高分子量シリケートを得ることが出来る。特にエチルシリケートの場合、Mw/Mnが2.2以上のものが容易に得られ、高い方ではこの比が10を超える縮合体も得られる。得られた縮合体は極めて安定で、常温以下に保管すれば1年以上径時変化なく、粘度変化も殆ど生じないで安定している。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高分子量のシリケート縮合体を容易に、且つ安定した製品として得ることが出来、塗料への添加剤として、またはシリケート皮膜形成材として、或いは接着剤の添加剤として有効に用いることが出来る。
【実施例1】
【0013】
メチルシリケート(テトラメチルオルソシリケート)100部に溶媒としてメタノール12部及び0.01%の硫酸触媒を加え、イオン交換水8.9部(メチルシリケート1モル当たり0.75モル)を3時間掛けて滴下添加し、更に1時間攪拌した。反応液から副生したメタノール及び添加メタノールを溜去し、次いでイオン交換樹脂層を通して脱酸した。ここで得られた部分縮合体の重量平均分子量は560で、数平均分子量は390、Mw/Mn=1.4であった。この縮合体に亜硝酸ナトリウムを90ppm加え、添加したときの温度25℃から140℃に徐々に昇温した。この段階でメチルシリケートが生成するのでこれを溜去しつつ、この温度で更に2時間熟成加熱した。得られた縮合体中の酸分を明細書中に定義した方法で測定すると0.20mlであった。また重量平均分子量は1470で、数平均分子量は1030であり、Mw/Mnは1.4であった。
【実施例2】
【0014】
エチルシリケート(テトラエチルオルソシリケート)100部に溶媒としてエタノール10.9部及び0.01%の硫酸触媒を加え、イオン交換水6.7部(エチルシリケート1モル当たり0.78モル)を3.5時間掛けて滴下添加し、更に30分攪拌した。反応液から副生したエタノール及び添加エタノールを溜去し、次いでイオン交換樹脂層を通して脱酸した。ここで得られた部分縮合体の重量平均分子量は1980で、数平均分子量は1080、Mw/Mn=1.8であった。この縮合体に亜硝酸ナトリウムを90ppm加え、添加したときの温度25℃から160℃に徐々に昇温した。この段階でエチルシリケートが生成するのでこれを溜去しつつ、この温度で更に2時間熟成加熱した。得られた縮合体中の酸分を明細書中に定義した方法で測定すると0.20mlであった。また重量平均分子量は5800で、数平均分子量は1900であり、Mw/Mnは3.0であった。
【産業上の利用可能性】
【0015】
この発明で得られる高分子量のシリケート縮合体は塗料への添加剤、基材材料へのシリケート皮膜形成用、或いは接着剤の添加剤として利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低級アルキルシリケートの縮合体を製造するに際し、先ず、溶媒と酸触媒の存在下にアルキルシリケート単量体1モルに対し0.7〜1.5モルの水を加えて加水分解及び縮合反応による部分縮合体を生じさせ、この反応液から副生アルコール及び溶媒を除去し、これに亜硝酸塩を加えて100℃以上に加熱し、この時に生じた低級アルキルシリケートを留去して重量平均分子量がメチルシリケートの場合1400以上、炭素数2以上のアルキル基を持つシリケートの場合は2000以上のアルキルシリケート縮合体とする製造方法。
【請求項2】
重量平均分子量/数平均分子量比(Mw/Mn)がメチルシリケートの場合は1.4以上、炭素数2以上のアルキル基を持つシリケートの場合は2.0以上である事を特徴とする請求項1のアルキルシリケート縮合体の製造方法
【請求項3】
亜硝酸塩として亜硝酸ナトリウム又は亜硝酸カリウムを用い、これを添加後の反応液中の酸分が、0.1規定水酸化ナトリウム溶液で測定した時に、反応液20ml当たり0.5ml以下となる様に添加することからなる請求項1または2の製造方法。
【請求項4】
アルキルシリケート縮合体が炭素数1〜4のアルキル基の一種以上を有するものである請求項1,2または3の製造方法。

【公開番号】特開2007−31464(P2007−31464A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−212220(P2005−212220)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(591054303)コルコート株式会社 (27)
【Fターム(参考)】