説明

アルキルジチオカルバミン酸亜鉛化合物、鉱物油用酸化防止剤及び鉱物油組成物

【課題】鉱物油の酸化防止剤として有用でかつ安全性の高いアルキルジチオカルバミン酸亜鉛塩化合物及び当該化合物を含有する鉱物油組成物を提供する。
【解決手段】下記式で表わされる化合物からなる鉱物油用酸化防止剤。


また、鉱物油100重量%に対し、上記式の化合物を0.01〜10.0重量%含有する鉱物油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱物油の酸化防止剤であるアルキルジチオカルバミン酸金属塩化合物及び当該物質を含有する鉱物油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
鉱物油とは石油精製により得られる重質分であり、パラフィン構造もしくはナフテン構造からなる油であり、潤滑油の基油、希釈剤、溶剤、ゴム用軟化剤等として用いられるが、熱酸化安定性を付与するために酸化防止剤が添加される。
【0003】
鉱物油に用いられる酸化防止剤としては、4,4−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)等のフェノール類やフェニル−α−ナフチルアミン等のジフェニルアミン類等のラジカル受容体やアルキルジチオリン酸亜鉛塩(ZnDTP)等の過酸化物分解剤が用いられる。
【0004】
また、アルキルジチオリン酸亜鉛塩と同様な過酸化物分解作用を有する化合物として、アルキルジチオカルバミン酸金属塩が挙げられ、例えばジメチルジチオカルバミン酸亜鉛塩、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛塩、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛塩等が市販されている。
【0005】
これら従来のアルキルジチオカルバミン酸亜鉛塩は、鉱物油の酸化防止剤として有用であるものの、鉱物油に対する溶解性に乏しく過剰に添加すると析出沈殿する問題があり、鉱物油に対して溶解性の高いアルキルジチオカルバミン酸亜鉛塩が求められている。
【0006】
更にジメチルジチオカルバミン酸亜鉛塩、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛塩、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛塩は、使用中にジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミンといった原料由来の2級アミンへ分解するが、それらは大気中の窒素酸化物等と反応しN−ニトロソジメチルアミン、N−ニトロソジエチルアミン、N−ニトロソジブチルアミンとそれぞれニトロソアミン化合物を生成する原因となる。
【0007】
それらニトロソアミン化合物は、ドイツ法のTRGS552(非特許文献1)によると、発がん性のあるニトロソアミン化合物に該当し、規制対象物質となっている。
【0008】
一方で、アルキル基が嵩高いジベンジルアミン由来のニトロソアミンについては、TRGS552において発がん性が認められないとされ、またジ(2−エチルヘキシル)アミン由来のニトロソアミンについては不揮発性であることから規制対象外とされている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−256603号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】TRGS552(N−Nitrosoamine)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
鉱物油の酸化防止剤として有用でかつ安全性の高いアルキルジチオカルバミン酸亜鉛塩化合物及び当該化合物を含有する鉱物油組成物を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。即ち、化1で表わされるジ−2−エチルヘキシルジチオカルバミン酸亜鉛塩化合物は、鉱物油に容易に溶解し、鉱物油100重量%に対して0.01〜10重量%添加することで鉱物油の酸化を安全に、かつ効果的に防止することができるのを確認することにより、上記課題を解決し、本発明を完成するに至ったものである。
【0013】
【化1】

【発明の効果】
【0014】
本発明に従えば、化1で表わされるジ−2−エチルヘキシルジチオカルバミン酸亜鉛塩化合物は、鉱物油に容易に溶解し、鉱物油100重量%に対して0.01〜10重量%添加することで鉱物油の酸化を安全に、かつ効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1および比較例1〜5におけるオリジナルに対する酸化劣化後の色差測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施例を挙げて更に具体的に説明するが、本発明が実施例によって何ら限定されないことは勿論である。
最初に、化1で表わされる化合物の合成例を示す。
【0017】
ジ(2−エチルヘキシル)アミン(100.25g,415.2mmol)と29.7wt%NaOH(56.54g,419.8mmol,1.01e.q.)と水171.81gを仕込んだ。二硫化炭素(33.19g,435.9mmol,1.05e.q.)を内温25−28℃,110minかけて滴下した。滴下・反応するにつれてゼリー状に固化するため、滴下終了後THFを160g添加し溶解した。後攪拌を行いジチオカルバミン酸Na水/THF溶液(20.11%,520.0g)を得た。次に硫酸亜鉛7水和物(51.46g,179.0mmol)と水450.2gを仕込み、先のジチオカルバミン酸Na水/THF溶液(453.2g,361.8mmol,2.02e.q.)を内温28−32℃で5時間かけて滴下し、2時間の後攪拌の後、1時間静置し、分液操作により水層を分離し有機層を戻した。更に水600gを有機層に添加し,65℃に昇温し1時間攪拌し有機層を水洗し、1時間静置した後再び分液操作により有機層を取り出した。最後にトルエン400gを添加し油状の反応物を溶解し、グラスフィルターで濾過を行った。トルエン溶液を外温65℃で濃縮し、化1で表わされるジ−2−エチルヘキシルジチオカルバミン酸亜鉛塩(124.1g,収率99.3%)を淡黄色油状物質として得た。
【0018】
次に評価試験油の調製について示す。
【0019】
実施例1の試験油は、パラフィン系鉱物油(日本サン石油製、サンセン415)100gを50℃に加温し、化1で示されるジ−2−エチルヘキシルジチオカルバミン酸亜鉛[ZnEhDC]1.0gを加え30分撹拌した後、室温まで冷却したものを試験油とした。
【0020】
比較例1の試験油は、化1で示されるジ−2−エチルヘキシルジチオカルバミン酸亜鉛1.0gの代わりにジブチルジチオカルバミン酸亜鉛[ZnBDC]を加えた他は実施例1と同様である。
【0021】
比較例2の試験油は化1で示されるジ−2−エチルヘキシルジチオカルバミン酸亜鉛1.0gの代わりにジ−2−エチルヘキシルジチオリン酸亜鉛[ZnDTP]を加えた他は実施例1と同様である。
【0022】
比較例3の試験油は化1で示されるジ−2−エチルヘキシルジチオカルバミン酸亜鉛1.0gの代わりに2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール[DTMBP]を加えた他は実施例1と同様である。
【0023】
比較例4の試験油は化1で示されるジ−2−エチルヘキシルジチオカルバミン酸亜鉛1.0gの代わりにジフェニルアミン誘導体[DPA](川口化学工業株式会社製、アンテージOD)を加えた他は実施例1と同様である。
【0024】
比較例5はパラフィン系鉱物油[BLANK](日本サン石油製、サンセン415)のみである。
【0025】
酸化劣化促進試験は、実施例および比較例1〜5の試験油を115℃に加温し、エアーバブリング(60l/分)を168時間および332時間行った後にサンプリングしたものをJIS K2501−1992に準じ、電位差自動滴定装置にて全酸価を測定した。
また、332時間加温およびエアバブリングを行った各試験油を16時間静置し、目視により沈殿物の確認を行った。
試験結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
試験の結果、実施例1は、比較例3〜4よりも全酸価が低く、実施例1に含まれるジ−2−エチルヘキシルジチオカルバミン酸亜鉛塩が鉱物油に対し、酸化防止剤として効果的であることが確認できる。
【0028】
一方、実施例1は、比較例1〜2と全酸価を比較すると同等かそれ以下であり、かつ沈殿物が生じないこともわかる。
【0029】
更に各試験油の劣化後の変色を確認する為、オリジナルに対する酸化劣化後の色差測定を行なった結果を図1に示す。
【0030】
その結果、実施例1の色差は比較例中最も色差の小さい比較例2と同等であり、実施例1に含まれるジ−2−エチルヘキシルジチオカルバミン酸亜鉛塩が鉱物油に対して耐変色効果も有することがわかる。
【0031】
以上、化1で表わされるジ−2−エチルヘキシルジチオカルバミン酸亜鉛塩は、鉱物油に対して酸化防止効果があり、かつ沈殿物を生成せず、耐変色効果を有することが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化1で表わされる鉱物油用酸化防止剤。
【化1】

【請求項2】
鉱物油100重量%に対し、化1で表わされる化合物を0.01〜10.0重量%含有する鉱物油組成物。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−108046(P2013−108046A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−267326(P2011−267326)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000199681)川口化学工業株式会社 (23)
【Fターム(参考)】