説明

アルキルモノエーテルアルキルモノエステル化合物、潤滑油基油、潤滑油、グリース基油、グリース、およびアルキルモノエーテルアルキルモノエステル化合物の製造中間体

【課題】同程度の動粘度を持った化合物と比較して、粘度指数が高く、低温流動性にも優れる化合物、この化合物を配合してなる潤滑油基油、グリース基油、およびこれらを用いた潤滑油、グリースを提供する。
【解決手段】2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールのアルキルモノエーテルアルキルモノエステル化合物であって、下記一般式(1)で表されることを特徴とするアルキルモノエーテルアルキルモノエステル化合物。


(前記式において、アルキル基R、R’の炭素数は独立に5から18までであり、前記式の化合物における総炭素数は24から40までである。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキルモノエーテルアルキルモノエステル化合物、これを配合してなる潤滑油基油、潤滑油、グリース基油、グリース、およびアルキルモノエーテルアルキルモノエステル化合物の製造中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油は、低温から高温に至るまで幅広い温度環境下で使用される。それ故、例えばハードディスクドライブなどのモーターに用いられる流体軸受や含浸軸受には、高粘度指数で低温流動性の良好な潤滑油が求められる。また、低温から高温に至る幅広い温度範囲で使用されるグリースにも高粘度指数で低温流動性の良好なグリース基油が求められる。
このようなニーズに答えるべく、種々の基油が提案されている。例えば、高粘度指数と低温流動性を兼ね備えた所定のジエステル系基油が潤滑油用あるいはグリース用として提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−321691号公報
【特許文献2】特開2010−275471号公報
【特許文献3】特開2007−039496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1〜3に記載された基油を用いても、実際の機器で使用される種々の動粘度において高粘度指数と低温流動性の双方を十分に満たす潤滑油やグリースを提供することは困難である。
【0005】
本発明は、同程度の動粘度を持った化合物と比較して、粘度指数が高く、低温流動性にも優れる化合物、この化合物を配合してなる潤滑油基油、グリース基油、およびこれらを用いた潤滑油、グリース、さらには前記化合物の製造中間体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決すべく、本発明は、以下に示すアルキルモノエーテルアルキルモノエステル化合物、潤滑油基油、潤滑油、グリース基油、グリース、およびアルキルモノエーテルアルキルモノエステル化合物の製造中間体を提供するものである。
【0007】
〔1〕2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールのアルキルモノエーテルアルキルモノエステル化合物であって、下記一般式(1)で表されることを特徴とするアルキルモノエーテルアルキルモノエステル化合物。
【0008】
【化1】

(前記式において、アルキル基R、R’の炭素数は独立に5から18までであり、前記式の化合物における総炭素数は24から40までである。)
【0009】
〔2〕上述の〔1〕に記載のアルキルモノエーテルアルキルモノエステル化合物を配合してなることを特徴とする潤滑油基油。
〔3〕上述の〔2〕に記載の潤滑油基油を用いることを特徴とする潤滑油。
〔4〕上述の〔3〕に記載の潤滑油が、含油軸受用および流体軸受用のいずれかであることを特徴とする潤滑油。
〔5〕上述の〔1〕に記載のアルキルモノエーテルアルキルモノエステル化合物を配合してなることを特徴とするグリース基油。
〔6〕上述の〔5〕に記載のグリース基油を用いることを特徴とするグリース。
〔7〕上述の〔1〕に記載のアルキルモノエーテルアルキルモノエステル化合物の製造中間体であって、下記一般式(2)で表されることを特徴とするアルキルモノエーテルアルキルモノエステル化合物の製造中間体。
【0010】
【化2】

(前記式において、アルキル基R’の炭素数は5から18までである。)
【発明の効果】
【0011】
一般式(1)で表される本発明の新規なアルキルモノエーテルアルキルモノエステル化合物によれば、高粘度指数で低温流動性に優れる。それ故、潤滑油の基油として有用であり、含油軸受用あるいは流体軸受用の潤滑油として好適に使用できる。また、グリース用基油およびそれを配合してなるグリースとしても有用である。さらに、この新規なアルキルモノエーテルアルキルモノエステル化合物を製造する上で、一般式(2)で表される新規な化合物は中間体として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例における5−ノニルオキシ−2,4−ジエチル−1−ペンタノール(中間体)のHNMRチャート。
【図2】実施例における5−ノニルオキシ−2,4−ジエチル−1−ペンタノール(中間体)のIRチャート。
【図3】実施例におけるドデカン酸5−ノニルオキシ−2,4− ジエチル−1−ペンチルエステルのH NMRチャート。
【図4】実施例におけるドデカン酸5−ノニルオキシ−2,4− ジエチル−1−ペンチルエステルのIRチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、以下の一般式(1)で表される2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールのアルキルモノエーテルアルキルモノエステル化合物を提供するものである。
【0014】
【化3】

ここで、式(1)において、アルキル基R、R’の炭素数は独立に5から18までである。アルキル基Rの炭素数が4以下であると粘度指数が低くなるおそれがあり、万一加水分解を起こしたとき、低級脂肪酸を生成して腐食の原因となるおそれもある。
一方、アルキル基Rの炭素数が19以上であると動粘度が上昇し、低温度領域での流動性が悪くなり、場合によっては固化してしまうおそれがある。それ故、アルキル基Rの特に好ましい炭素数は6から16までである。
また、アルキル基R’の炭素数が4以下であると粘度指数が低くなるおそれがある。一方、アルキル基R’の炭素数が19以上であると粘度指数の低下と高温度領域での蒸発性が高くなるおそれがある。それ故、アルキル基R’の特に好ましい炭素数は6から16までである。
【0015】
さらに、式(1)の化合物における総炭素数は24から40までである。この総炭素数が23以下であると粘度指数の低下が起こり、高温度領域での蒸発性が高くなるおそれがある。一方、総炭素数が41以上であると動粘度が上昇し、低温度領域での流動性が悪くなり、場合によっては固化してしまうおそれがある。それ故、総炭素数は26から36までであることが特に好ましい。
【0016】
上述した式(1)の化合物は、例えば以下の一般式(2)で表される中間体を経由することで容易に製造することができる。
【0017】
【化4】

【0018】
この式(2)で表される中間体(5―アルコキシ−2,4−ジエチル−1−ペンタノール)は、例えば、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールとアルキルブロミドとを相関移動触媒の存在下、濃アルカリ溶液中で加熱攪拌することによって製造することができる。好ましい反応条件や同定法は以下の通りである。
温度:40〜95℃(より好ましくは60〜80℃)
時間:1〜24時間(8時間程度が好ましい)
触媒:相関移動触媒(テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトライソプロピルアンモニウムブロマイド等)
溶媒:48質量%以上濃度の水酸化ナトリウム水溶液
(反応中に固体の水酸化ナトリウムを追加補充してもよい。)
同定:反応の推移は、ガスクロマトグラフィで確認することができる。
(質量分析、NMR分析、IR分析などにより詳細な構造を同定できる。)
【0019】
そして、上述の製造法により得られたモノエーテル、ジエーテルの混合物からモノエーテル(中間体)を蒸留分離して式(1)の化合物の製造に使用する。
具体的には、5―アルコキシ−2,4−ジエチル−1−ペンタノールと、アルキルカルボン酸とを酸触媒の存在下、加熱攪拌してエステル化反応を行わせ、生成する水分を除去すればよい。
また当該エーテルアルコールと、アルキルカルボン酸クロリドとを塩基の存在下室温で反応させても収率よく式(1)の化合物を得ることができる。
いずれの反応においても、得られた化合物は不純物を含むが、蒸留精製することにより潤滑油基油あるいはグリース基油として好ましく使用できる。
【0020】
以下に、エステル化反応の好ましい例を2つ挙げる。
(アルコール(式(2))とアルキルカルボン酸との反応)
温度 :100〜190℃(好ましくは120〜180℃)
時間 :1〜24時間(8時間程度がより好ましい)
触媒 :硫酸、チタン酸テトラブチル、チタン酸テトライソプロピル、チタン酸テトラエチル
溶媒 :トルエン、キシレン、トリメチルベンゼンなど
反応器:ディーンシュタルク装置を使用して脱水
同定 :反応の推移はガスクロマトグラフィで確認することができる。
(質量分析、NMR分析、IR分析などにより同定できる。
【0021】
(アルコール(式(2))とアルキルカルボン酸クロリドとの反応)
温度 :10〜60℃(より好ましくは20〜40℃)
時間 :1〜24時間(4時間程度がより好ましい)
塩基 :N,N−ジメチルアニリン、トリエチルアミンなど
溶媒 :テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル、ジメチルエーテルなど
同定 :反応の推移はガスクロマトグラフィで確認することができる。
(質量分析、NMR分析、IR分析などにより同定できる。)
【0022】
上述した式(1)の化合物は、高粘度指数で低温流動性に優れる。それ故、潤滑油の基油として有用であり、含油軸受用あるいは流体軸受用の潤滑油として好適に使用できる。また、グリース用基油およびそれを配合してなるグリースとしても有用である。
また、本発明の化合物を潤滑油あるいはグリースの基油として使用する場合、必要に応じて、潤滑油用あるいはグリース用の添加剤を配合することができる。例えば、酸化防止剤、防錆剤、固体潤滑剤、充填剤、油性剤、金属不活性化剤、耐水剤、極圧剤、耐摩耗剤、粘度指数向上剤、着色剤、および粘度調節剤等が挙げられる。
極圧剤としては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛,ジアルキルジチオリン酸モリブデン,無灰系ジチオカーバメートや亜鉛ジチオカーバメート、モリブデンジチオカーバメートなどのチオカルバミン酸類、硫黄化合物(硫化油脂、硫化オレフィン、ポリサルファイド、硫化鉱油、チオリン酸類、チオテルペン類、ジアルキルチオジピロピオネート類等)、リン酸エステル、亜リン酸エステル(トリクレジルホスフェート、トリフェニルフォスファイト等)などが挙げられる。油性剤としては、アルコール類、カルボン酸類、グリセライド類、エステル類などが挙げられる。これらの配合量としては、0.1質量%以上、5質量%以下程度(潤滑油あるいはグリース全量基準)が好ましい。
【0023】
酸化防止剤としては、例えばアルキル化ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)等のフェノール系酸化防止剤、硫黄系・ZnDTPなどの過酸化物分解剤等が挙げられ、これらは、通常0.05質量%以上10質量%以下の割合で使用される。
防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、ステアリン酸亜鉛、コハク酸エステル、コハク酸誘導体、チアジアゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾール誘導体、亜硝酸ナトリウム、石油スルホネート、ソルビタンモノオレエート、脂肪酸石けん、およびアミン化合物等が挙げられる。
固体潤滑剤としては、ポリイミド、PTFE、黒鉛、金属酸化物、窒化硼素、メラミンシアヌレート(MCA)、および二硫化モリブデン等が挙げられる。
また、粘度調節剤としてDIOA(ジイソオクチルアジペート)、DIDA(ジイソデシルアジペート)などの潤滑油基油を1質量%以上30質量%以下程度混合して使用してもよい。
【実施例】
【0024】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの記載内容に何ら制限されるものではない。
表1に、上述の実施形態に記載した方法で得られた式(2)の製造中間体の具体例と物性を示す。
【0025】
【表1】

【0026】
以下に、一例として中間体3の具体的製造法を記載する。
(5−ノニルオキシ−2,4−ジエチル−1−ペンタノールの製造)
攪拌機、温度計、冷却管、ガス導入管を備えた2Lの反応器に窒素気流下、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール320g(2モル)およびn−ノニルブロマイド311g(1.5モル)、テトラブチルアンモニウムブロミド12gを仕込み、52質量/体積%水酸化ナトリウム水溶液532gを加えて、70〜80℃で6時間加熱、攪拌した。反応終了後、一昼夜、放冷静置して白色結晶を析出させ、液層をデカンテーションで分液ロートに移した。白色結晶をヘキサン20mLで洗浄し、そのへキサン洗浄液を液層に加えた。
下層のアルカリ層を分離除去し、有機層を飽和食塩水500mL、希硫酸水溶液100mLで洗浄し、蒸留水で中性になるまで水洗した後、得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。
この有機層をシリカゲル50gのカラム層を通した後、減圧蒸留にて分留した成分の質量分析、NMR分析、IR分析を行い、目的物である5−ノニルオキシ−2,4−ジエチル−1−ペンタノールであることを確認した(質量分析結果 m/z=286)。得られた量は、284gであった(収率66%)。蒸留残渣は、1、5−ジノニルオキシ−2,4−ジエチル−1−ペンタンが主成分であった。
この化合物のH NMRチャートを図1に、IRチャートを図2に示す。
【0027】
表2に、上述の実施形態に記載した方法で得られた式(1)のモノエステル化合物および比較用のジエステル化合物について物性を示す。
【0028】
【表2】

【0029】
以下に、一例として化合物4の具体的製造法を記載する。
(ドデカン酸5−ノニルオキシ−2,4− ジエチル−1−ペンチルエステルの製造)
攪拌機、温度計、冷却管、ガス導入管付滴下ロートを備えた1Lの三口フラスコに、5−ノニルオキシ−2,4−ジエチル−1−ペンタノール260g(0.91モル)、N,N−ジメチルアニリン112g(0.92モル)、テトラヒドロフラン150mLを仕込み、窒素気流下、室温で塩化ドデシル197g(0.9モル)を滴下し、攪拌した。滴下後45℃に加熱し、4時間攪拌した。反応後、少量の蒸留水を加えて、生成した白色固形物を溶解させ、分液ロートに移して、水層を分離後、有機層にテトラヒドロフラン150mLを加えて飽和食塩水300mL、希硫酸20mLでそれぞれ洗浄し、蒸留水で中性になるまで水洗した。得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。エバポレーターで溶媒を除去した後、減圧蒸留にて分留した成分の質量分析、NMR分析、IR分析を行い、目的物のモノエステル化合物であることを確認した(質量分析結果 m/z=468)。得られた量は185g(収率 43%)であった。
この化合物のH NMRチャートを図3に、IRチャートを図4に示す。
【0030】
表2より、本発明の化合物(モノエステル)と比較化合物(ジエステル)とを比較した場合、同程度の動粘度の場合、本発明の化合物のほうが高粘度指数であり、低温流動性にも優れることが分かる。それ故、本発明の化合物は、潤滑油やグリースの基油として有用であることも理解できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールのアルキルモノエーテルアルキルモノエステル化合物であって、
下記一般式(1)で表される
ことを特徴とするアルキルモノエーテルアルキルモノエステル化合物。
【化1】

(前記式において、アルキル基R、R’の炭素数は独立に5から18までであり、前記式の化合物における総炭素数は24から40までである。)
【請求項2】
請求項1に記載のアルキルモノエーテルアルキルモノエステル化合物を配合してなる
ことを特徴とする潤滑油基油。
【請求項3】
請求項2に記載の潤滑油基油を用いる
ことを特徴とする潤滑油。
【請求項4】
請求項3に記載の潤滑油が、含油軸受用および流体軸受用のいずれかである
ことを特徴とする潤滑油。
【請求項5】
請求項1に記載のアルキルモノエーテルアルキルモノエステル化合物を配合してなる
ことを特徴とするグリース基油。
【請求項6】
請求項5に記載のグリース基油を用いる
ことを特徴とするグリース。
【請求項7】
請求項1に記載のアルキルモノエーテルアルキルモノエステル化合物の製造中間体であって、下記一般式(2)で表される
ことを特徴とするアルキルモノエーテルアルキルモノエステル化合物の製造中間体。
【化2】

(前記式において、アルキル基R’の炭素数は5から18までである。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−207005(P2012−207005A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75879(P2011−75879)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】