説明

アルキル化芳香族化合物の製造方法およびフェノールの製造方法

【課題】本発明は、芳香族化合物と、ケトンと、水素とを直接反応させ、効率良くアルキル化芳香族化合物を製造する際に、クラッキング生成物の副生を抑制するアルキル化芳香族化合物の製造方法およびフェノールの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】触媒の存在下で、芳香族化合物とケトンと水素とを含む原料を反応させてアルキル化芳香族化合物を製造する方法であって、前記触媒が、固体酸成分と、銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分とから形成され、前記原料中に水が含まれることを特徴とするアルキル化芳香族化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキル化芳香族化合物の製造方法およびフェノールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゼンとプロピレンとを反応させてクメンを製造する方法、クメンを酸化してクメンヒドロペルオキシドを製造する方法、クメンヒドロペルオキシドを酸分解させてフェノールとアセトンを製造する方法は、既にそれぞれ公知であり、これらの反応を組み合わせた方法は一般にクメン法と呼ばれるフェノール製造方法であり、現在フェノール製造法の主流である。
【0003】
このクメン法はアセトンが併産されるという特徴があり、アセトンを同時にほしい場合は長所となるが、アセトンが余剰の場合には原料であるプロピレンとの価格差が不利な方向へ働き、結果致命的な欠点になる。
【0004】
そこで、原料とするオレフィンと併産するケトンの価格差を有利な方向へ導く為、例えばn−ブテンとベンゼンとから得られるセカンダリーブチルベンゼンを酸化、酸分解して、フェノールと同時にメチルエチルケトンを得る方法が提案されている。(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。この方法ではセカンダリーブチルベンゼンの酸化で目的とするセカンダリーブチルベンゼンヒドロペルオキシドの選択率が80%程度しかなく、その他に15%以上のアセトフェノンが副生するため、フェノール製造法としての収率はクメン法には及ばない。
【0005】
また、シクロヘキセンとベンゼンから得られるシクロヘキシルベンゼンを酸化、酸分解し、フェノールとシクロヘキサノンを得る方法も提案されている。この方法では得られるシクロヘキサノンを脱水素することによりフェノールが得られるので、形式的にはケトンの副生は回避できている。この方法ではシクロヘキシルベンゼンの酸化反応で目的とするシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドの収率がさらに低く、工業的な価値は低い。(例えば、特許文献3参照)
【0006】
そこで、酸化および酸分解の収率が最も高いクメン法について、その優位性を保ったまま原料であるプロピレンと併産するアセトンの問題を回避する為、併産するアセトンを様々な方法を用いてクメン法の原料として再使用する方法が提案されている。
【0007】
アセトンは、水添することにより容易にイソプロパノールへ変換でき、さらに脱水反応によりプロピレンとした後にベンゼンと反応させクメンとし、クメン法の原料として再使用するプロセスが提案されている(例えば、特許文献4参照)。しかしながらこの方法では水添工程と脱水工程という2つの工程が増えるという問題点がある。
【0008】
そこでアセトンの水添で得られたイソプロパノールを直接ベンゼンと反応させてクメンを得る方法が提案されている(例えば、特許文献5および特許文献6参照)。
アセトンをイソプロパノールとしベンゼンと反応させて得られるクメンを用いてフェノールを製造するというプロセス的な方法が提案されている(例えば、特許文献7参照)。しかしながらこの方法においても、元のクメン法よりも水添工程が増えている。
【0009】
これに対して、従来のクメン法の工程を増やすことなく併産するアセトンを再使用する方法、すなわちアセトンとベンゼンを直接反応させる方法として、酸触媒とCu化合物からなる触媒系を用い水素共存下に反応させる方法が提案されている(例えば、特許文献8参照)。
【特許文献1】特開昭57−91972号公報
【特許文献2】米国特許出願公開2004/0162448号明細書
【特許文献3】フランス特許第1030020号明細書
【特許文献4】特開平2−174737号公報
【特許文献5】特開平2−231442号公報
【特許文献6】特開平11−35497号公報
【特許文献7】特表2003−523985号公報
【特許文献8】特表2005−513116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者等の知見によれば、従来の方法によって、芳香族化合物とケトンと水素とを含む原料を反応させてアルキル化芳香族化合物を製造すると、アルキル化の反応と共に炭素−炭素結合が解裂、転移したクラッキング生成物が副生し、原単位の低下と分離精製工程の効率を低下させるなど問題がある。
【0011】
本発明は、アセトン等のケトンと水素とベンゼン等の芳香族化合物とを直接反応させ、クメン等のアルキル化芳香族化合物を製造する方法であって、従来の方法と比べてクラッキング生成物の副生を抑制しつつ、効率良く、クメン等のアルキル化芳香族化合物を製造するための方法を提供することを目的とする。また、該方法によってクメンを得る工程を有するフェノールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、固体酸成分と、銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分とから形成される触媒の存在下で、芳香族化合物とケトンと水素とを含む原料を反応させてアルキル化芳香族化合物を製造するに際し、原料中に水を添加することにより、クラッキング生成物の副生が抑制され、高収率でアルキル化芳香族化合物(芳香族化合物がベンゼンであり、ケトンがアセトンである場合にはクメン)が得られることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明に係るアルキル化芳香族化合物の製造方法およびフェノールの製造方法は以下の(1)〜(10)に関する。
(1) 触媒の存在下で、芳香族化合物とケトンと水素とを含む原料を反応させてアルキル化芳香族化合物を製造する方法であって、
前記触媒が、固体酸成分と、銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分とから形成され、
前記原料中に、水素を除く原料100重量%あたり、0.05〜5.0重量%の範囲の水が含まれることを特徴とするアルキル化芳香族化合物の製造方法。
(2) 前記金属成分が第IIB族元素、IIIA族元素、VIB族元素およびVIII族元素(但し、ニッケルとコバルトとを除く)からなる群から選択される少なくとも一種の元素をさらに含む(1)に記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
(3) 固体酸成分がゼオライトである(1)または(2)に記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
(4) ゼオライトが10〜12員環構造を有するゼオライトである(3)に記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
【0014】
(5) ゼオライトが、MCM−22である(3)に記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
(6) 芳香族化合物がベンゼンである(1)〜(5)のいずれかに記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
(7) ケトンがアセトンである(1)〜(5)のいずれかに記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
(8) 芳香族化合物が、ベンゼンであり、ケトンがアセトンである(1)〜(5)のいずれかにに記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
(9) 下記工程(a)〜工程(d)を含むフェノールの製造方法において、工程(c)を(8)に記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法に従って実施することを特徴とするフェノールの製造方法。
【0015】
工程(a):クメンを酸化してクメンヒドロペルオキシドへ変換する工程
工程(b):クメンヒドロペルオキシドを酸分解させてフェノールとアセトンとを得る工程
工程(c):上記工程(b)において得られるアセトンを用いて、ベンゼンとアセトンと水素とを反応させてクメンを合成する工程
工程(d):上記工程(c)で得られるクメンを工程(a)へ循環する工程
【発明の効果】
【0016】
本発明のアルキル化芳香族化合物の製造方法によれば、単一反応工程で、アセトン等のケトンと、ベンゼン等の芳香族化合物と、水素とを含む出発物質(原料)から、クラッキング生成物の副生を抑制しつつ、工業上、実用的な方法でクメン等のアルキル化芳香族化合物が得ることができる。しかも得られるクメンは、プロピレンまたはイソプロパノールとベンゼンから得られるクメンと比べ何ら品質的に問題が無い。
【0017】
本発明のフェノールの製造方法においては、上記アルキル化芳香族化合物の製造方法を適用することにより、従来のクメン法の工程数を増やすことなく、フェノールの製造の際に併産するアセトンを再使用することが可能となる。よって本発明のフェノールの製造方法はプロセス上および経済上著しく優位にフェノールを生産することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のアルキル化芳香族化合物の製造方法は、触媒の存在下で、芳香族化合物とケトンと水素とを含む原料を反応させてアルキル化芳香族化合物を製造する方法であって、前記触媒が、固体酸成分と、銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分とから形成され、前記原料中に水が含まれることを特徴とする。
【0019】
本発明のアルキル化芳香族化合物の製造方法は、芳香族化合物としてはベンゼンが好適であり、ケトンとしてはアセトンが好適である。
すなわち、本発明のアルキル化芳香族化合物の製造方法は、芳香族化合物としてはベンゼンであり、ケトンとしてはアセトンであることが好ましく、この場合に得られるアルキル化芳香族化合物は、クメンである。
【0020】
本発明のアルキル化芳香族化合物の製造方法は、触媒層に供給する原料中に水が含まれることを特徴とする。原料中に含まれる水としては、水を添加してもよく、また含水率の高いアセトン等のケトンを用いても良い。水はアルキル化反応においては酸点に吸着し酸触媒活性を低下させるため当業者の間では可能な限り低減しようとするのが一般的である。本発明では原料に含まれる水の量を水素を除く原料を100重量%とした場合に0.05〜5.0重量%の範囲で触媒層に供給することが必要であり、0.04〜4.0重量%の範囲がさらに好ましい。あまりにも水の濃度が高すぎると活性低下の影響が大きく、大量の触媒が必要となり現実的ではない。またあまりにも水の濃度が低いと反応成績の向上効果は期待できない。
【0021】
なお、アルキル化芳香族化合物の製造は、生成物であるアルキル化芳香族化合物の一部を循環させながら、行う場合があるが、この場合には、循環し、触媒層に供給されるアルキル化芳香族化合物は、原料とする。すなわち、このような場合には、前記水素を除く原料は、芳香族化合物、ケトン、アルキル化芳香族化合物および水を含む。
【0022】
上記範囲内で原料中に水を添加することにより、充分にクラッキング生成物の副生を抑制することができる。
なお、従来のベンゼンと、アセトンと、水素とを原料とし、クメンを製造する反応では、原料中に水を添加することは無く、原料中に含まれる水としては、アセトン等の原料に含まれている水に由来するものであった。水は酸触媒の酸強度を弱め、触媒活性を低下させるため酸触媒反応では好ましくない物質である一方、非水系の酸強度の強い酸点では通常では起こらないような炭素−炭素結合の解裂、転移反応が起こる。従来のクメンを製造する反応では原料中の水は、水素を除く原料を100重量%とすると、0.01重量%程度であった。従来のクメンを製造する反応で原料中に含まれる水の量では、炭素−炭素結合の解裂、転移反応によるクラッキング生成物(ジメチルブチルベンゼン、イソプロピル−t−ブチルベンゼン等)の副生を充分に抑制することはできず、上記本発明の範囲で原料中に水を含むことによって、クラッキング生成物の副生を充分に抑制することができる。
【0023】
ベンゼンと、アセトンと、水素とを原料とし、クメンを製造する反応では、化学量論量の水が生成するために反応原料中に水が含まれる必要は無いように考えられるが、含まれる水の効果は反応初期や、ピストンフロー型の反応器では特に反応器入り口(触媒層入り口)付近において顕著に現れる。即ち、原料中に水が含まれない場合には、反応初期や、触媒層入り口ではアセトンが還元されたイソプロピルアルコールの濃度が高く、反応により生成する水の量が少ないために反応初期または触媒層入り口でクラッキング生成物が生成する。本発明において、原料に含まれる水は反応初期または触媒層入り口でクラッキング生成物の生成を抑制しているものと推定される。
【0024】
本発明に用いる、触媒は、固体酸成分と、銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分とから形成され、他の成分を含んでいてもよい。触媒を形成する方法(調製方法)については特に制限はないが、固体酸成分と、銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分とをセンチメートルサイズの触媒粒子レベルで物理混合して触媒としても良く、固体酸成分と、銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分とをそれぞれ微細化し混合した後改めてセンチメートルサイズの触媒粒子へ成型して触媒としても良い。また、固体酸成分を担体として、その上に銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分を担侍しても良く、銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分を担体とし、固体酸成分を担侍しても良い。
【0025】
本発明に用いる固体酸成分は、酸としての機能を持つ触媒であり、一般的に固体酸と呼ばれるものであれば良く、ゼオライト、シリカアルミナ、アルミナ、硫酸イオン担持ジルコニア、WO3担持ジルコニアなどを用いることができる。
【0026】
特に、ケイ素とアルミニウムから構成される無機の結晶性多孔質化合物であるゼオライトは耐熱性や目的とするアルキル化芳香族化合物(クメン)の選択率の面から本発明に好適な固体酸成分である。
【0027】
アルキル化芳香族化合物として、クメンを製造する際には、ゼオライトとしては、クメンの分子径と同程度の細孔を有する、10〜12員環構造を有するゼオライトが好ましく、特にMCM−22が好ましい。
【0028】
12員環構造を有するゼオライトの例としては、Y型、USY型、モルデナイト型、脱アルミニウムモルデナイト型、β型、MCM−22型、MCM−56型などが挙げられ、とくにMCM−22型、MCM−56型が好適な構造である。これらゼオライトのケイ素とアルミニウムの組成比は2/1〜200/1の範囲にあれば良く、特に活性と熱安定性の面から5/1〜100/1のものが好ましい。さらにゼオライト骨格に含まれるアルミニウム原子を、Ga、Ti、Fe、Mn、Bなどのアルミウム以外の金属で置換した、いわゆる同型置換したゼオライトを用いることも出来る。
【0029】
固体酸成分の形状は特に制限は無く、球状・円柱状・押し出し状・破砕状いずれでもよく、またその粒子の大きさも、例えば0.01mm〜100mmの範囲のものを用いることができ、反応器の大きさに応じ選定すればよい。
【0030】
本発明において、銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分とは、該金属元素の単体そのものでもよく、ReO2、Re27、NiO、CuOなどの金属酸化物や、ReCl3、NiCl2、CuCl2などの金属塩化物や、Ni−Cu、Ni−Cu−Crなどのクラスター金属であってもよい。
【0031】
銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分としてはカルボニル官能基をアルコールへ水添できる能力を有するものであれば良く特に制限はなく、いわゆる水添触媒として市販されているものがそのまま使用可能であり、種々の担体に担持したもの等が市場で入手でき、これらを用いてもよい。例えば、5%Reカーボン触媒、5%Reアルミナ触媒、シリカアルミナ担持ニッケル触媒、及び列記した種類の担持量を、1%や0.5%へ変えたもの等が挙げられる。担体としては、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、チタニア、マグネシア、シリカマグネシア、ジルコニア、カーボンのうちの少なくとも1つを選択することが好ましい。
【0032】
銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分の形状は特に制限は無く、球状・円柱状・押し出し状・破砕状いずれでもよく、またその粒子の大きさも、0.01mm〜100mmの範囲のもので反応器の大きさに応じ選定すればよい。
【0033】
また銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分には、第IIB族元素、IIIA族元素、VIB族元素およびVIII族元素(但し、ニッケルとコバルトとを除く)からなる群から選択される少なくとも一種の元素をさらに含んでいてもよい。
【0034】
なお、上記元素としては具体的にはZn、Cd、Hg、B、Al、Ga、In、Tl、Cr、Mo、W、Fe、Ru、Os、Rh、Ir、Pd、Ptが挙げられる。
中でも、金属成分として、銅に加えて、Znや、Alを含有すると、触媒寿命の延長効果の点で好適である。
【0035】
また本発明に用いる触媒は、PbSO4、FeCl2やSnCl2などの金属塩、KやNaなどのアルカリ金属やアルカリ金属塩、BaSO4などを添加すると活性や選択性が向上する場合が有り、必要に応じて添加されていてもよい。
【0036】
本発明に用いる触媒は、銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分を、固体酸成分を担体として用い担持することも可能ある。具体的には上記金属元素の硝酸塩水溶液へ、固体酸成分を含浸し、含浸後に焼成する方法や、これら有機溶媒に可溶にするため配位子とよばれる有機分子を結合させた上記金属元素の錯体として、有機溶媒中に該錯体を溶解させ、該有機溶媒中へ固体酸成分を含浸し、焼成する方法や、さらに錯体のうちあるものは真空下で気化するため蒸着などの方法で固体酸成分へ担持することも可能である。また、固体酸成分を対応する金属塩から得る際に、水添触媒となる金属塩を共存させて、固体酸成分の合成と金属の担持とを同時に行う共沈法を採用することもできる。
【0037】
本発明のアルキル化芳香族化合物の製造方法は水素共存下に行うことを特徴とする。水素は、原理的には、アセトン等のケトンと等モル以上あればよく、分離回収の点からは、好適な範囲は、アセトン等のケトンに対して、1〜10倍モル、好ましくは、1〜5倍モルである。アセトン等のケトンの転化率を100%以下に抑えたい場合は、用いる水素の量を1倍モルから低減させることで対応できる、また本発明の反応において供給する水素はアセトン等のケトンの持つ酸素原子と反応して水となり、クメン等のアルキル化芳香族化合物のとともに反応器出口から出るため、アセトン等のケトンの当量以上の水素は好ましからざる副反応が進行しない限り、本質的には消費されないことになる。
【0038】
反応へ水素ガスを添加する場合には、通常連続的に供給するが、この方法に特に限定されるものではなく、反応開始時に水素ガスを添加した後反応中供給を停止し、ある一定時間後に再度供給する間欠的な供給でもよいし、液相反応の場合溶媒に水素ガスを溶解させて供給してもかまわない。また、リサイクルプロセスでは軽沸留分とともに塔頂から回収される水素ガスを供給しても良い。添加する水素の圧力は、反応器の圧力と同等であることが一般的であるが、水素の供給方法に応じ適宜変更させればよい。
【0039】
本反応を固定床で行う場合、その条件としては特に制限はなく、従来公知の通常の反応条件がそのまま採用できる。また種々の改良方法も周知でありそれを利用することもできる。例えば、アセトンとベンゼンとの混合物を水素ガスと接触させる際には、気液向流、気液併流どちらでも良く、また液、ガスの方向として、液下降−ガス上昇、液上昇−ガス下降、液ガス上昇、液ガス下降のいずれでも良い。
【0040】
反応温度についても本発明では特に限定されることはないが、好ましくは50〜300℃、更に好ましくは60〜200℃の範囲である。通常好ましい実施圧力範囲は、0.1〜100気圧であり、更に好ましくは0.5〜500気圧である。また本発明を実施するに際し、使用する触媒量は特に限定されないが、例えば、反応を固定床流通装置を用いて行う場合、原料の時間あたりの供給量(重量)を触媒の重量で割った値、即ちWHSVで示すと、0.1〜200/hの範囲であることが望ましく、より好ましくは0.2〜100/hの範囲が好適である。
【0041】
本発明を実施するにあたり、反応系内に触媒および反応試剤に対して不活性な溶媒もしくは気体を添加して、希釈した状態で行うことも可能である。
本発明を実施するに際して、その方法はバッチ式、セミバッチ式、または連続流通式のいずれの方法においても実施することが可能である。液相、気相、気−液混合相の、いずれの形態においても実施することが可能である。触媒の充填方式としては、固定床、流動床、懸濁床、棚段固定床等種々の方式が採用され、いずれの方式で実施しても差し支えない。
【0042】
ある経過時間において触媒活性が低下する場合に、公知の方法で再生を行い触媒の活性を回復することができる。
クメン等のアルキル化芳香族化合物の生産量を維持するために、反応器を2つまたは3つ並列に並べ、一つの反応器が再生している間に、残った1つまたは2つの反応器でメタセシス反応を実施するメリーゴーランド方式をとっても構わない。さらに反応器が3つある場合、他の反応器2つを直列につなぎ、生産量の変動を少なくする方法をとっても良い。また流動床流通反応方式や移動床反応方式で実施する場合には、反応器から連続的または断続的に、一部またはすべての触媒を抜き出し、相当する分を補充することにより一定の活性を維持することが可能である。
【0043】
本発明のフェノールの製造方法は、下記工程(a)〜工程(d)を含み、工程(c)を上記アルキル化芳香族化合物の製造方法(ただし、芳香族化合物がベンゼンであり、ケトンがアセトンである)に従って実施することを特徴とする。
【0044】
工程(a):クメンを酸化してクメンヒドロペルオキシドへ変換する工程
工程(b):クメンヒドロペルオキシドを酸分解させてフェノールとアセトンとを得る工程
工程(c):上記工程(b)において得られるアセトンを用いて、ベンゼンとアセトンと水素とを反応させてクメンを合成する工程
工程(d):上記工程(c)で得られるクメンを工程(a)へ循環する工程
本発明のフェノールの製造方法は、工程(b)において、フェノールの生成と同時に副生するアセトンを、工程(c)で用いて、クメンを得ることが可能である。
【0045】
本発明のフェノールノ製造方法は、工程(a)および(b)においてクメンからフェノールを生成し、副生するアセトンを用いて工程(c)においてクメンを生成し、工程(d)において、工程(c)で得られたクメンを工程(a)に用いるため、理論上はアセトンは反応系外から導入する必要がなく、コストの面でも優れている。なお実際のプラントにおいては、アセトンを100%回収することは困難であり、少なくとも減少した分のアセトンは新たに反応系に導入される。
【0046】
また本発明のフェノールの製造方法においては、種々の改良法を提供しても問題ない。
【実施例】
【0047】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0048】
[実施例1]
高圧用フィードポンプ、高圧用水素マスフロー、高圧用窒素マスフロー、電気炉、触媒充填部分を有する反応器、背圧弁を設置した固定床反応装置を用い、ダウンフローによる加圧液相流通反応を行った。
【0049】
内径1cmのSUS316製反応器に、反応器の出口側からまず、銅−亜鉛触媒(SudChemie社製、製品名ShiftMax210、元素質量%Cu 32〜35%、Zn 35〜40%、Al 6〜7%、ZnのCuに対する原子比1.0〜1.2)粉末(250〜500μへ分級したもの)を上流側の触媒層として0.4g充填した。石英ウールを詰めた後、MCM−22(0.02Na2O:Al23:34SiO2)(VERIFIED SYNTHESES OF ZEOLITIC MATERIALS Second Revised Edition 2001、P225に従って調製した触媒を20MPaで圧縮成型後、250〜500μへ分級したもの)1.0gを下流側の触媒層として充填した。
【0050】
水素で3MPaまで加圧した後、反応器入口側より10ml/分の水素気流下、200℃で3時間還元処理を行った。水素フィード量を20ml/分に上げ、175℃へ降温し、ここに反応器入口側よりベンゼン/アセトン/クメン(6.7/1/6.1モル)に水を500ppmとなるように加えた混合液を6.0g/hの割合で流通させた。
【0051】
反応結果はアセトン転化率が97.0重量%であり、生成物の選択率はフィードアセトン基準で、有価物であるクメン類99.5重量%(クメン39.6重量%、ジイソプロピルベンゼン58.6重量%、トリイソプロピルベンゼン1.3重量%)、酸触媒反応による複数の転移反応により生成したと思われる不要な副生物(ジメチルブチルベンゼン、イソプロピル−t−ブチルベンゼン、トリ−n−プロピルベンゼン、ジイソプロピルビフェニル)0.5重量%であった。下記比較例と比べると、水の添加により副生物の生成量が抑制されることがわかった。
【0052】
[比較例1]
原料にベンゼン/アセトン/クメン(6.7/1/6.1モル)を用い、水を添加しない以外は実施例1と同様に反応行った。
反応結果はアセトン転化率が97.0重量%であり、生成物の選択率はフィードアセトン基準で、有価物であるクメン類99.0重量%(クメン41.5重量%、ジイソプロピルベンゼン56.2重量%、トリイソプロピルベンゼン1.3重量%)、酸触媒反応による複数の転移反応により生成したと思われる不要な副生物(ジメチルブチルベンゼン、イソプロピル−t−ブチルベンゼン、トリ−n−プロピルベンゼン、ジイソプロピルビフェニル)1.0重量%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の存在下で、芳香族化合物とケトンと水素とを含む原料を反応させてアルキル化芳香族化合物を製造する方法であって、
前記触媒が、固体酸成分と、銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分とから形成され、
前記原料中に、水素を除く原料100重量%あたり、0.05〜5.0重量%の範囲の水が含まれることを特徴とするアルキル化芳香族化合物の製造方法。
【請求項2】
前記金属成分が第IIB族元素、IIIA族元素、VIB族元素およびVIII族元素(但し、ニッケルとコバルトとを除く)からなる群から選択される少なくとも一種の元素をさらに含む請求項1に記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
【請求項3】
固体酸成分がゼオライトである請求項1または2に記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
【請求項4】
ゼオライトが10〜12員環構造を有するゼオライトである請求項3に記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
【請求項5】
ゼオライトが、MCM−22である請求項3に記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
【請求項6】
芳香族化合物がベンゼンである請求項1〜5のいずれかに記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
【請求項7】
ケトンがアセトンである請求項1〜5のいずれかに記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
【請求項8】
芳香族化合物が、ベンゼンであり、ケトンがアセトンである請求項1〜5のいずれかにに記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
【請求項9】
下記工程(a)〜工程(d)を含むフェノールの製造方法において、工程(c)を請求項8に記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法に従って実施することを特徴とするフェノールの製造方法。
工程(a):クメンを酸化してクメンヒドロペルオキシドへ変換する工程
工程(b):クメンヒドロペルオキシドを酸分解させてフェノールとアセトンとを得る工程
工程(c):上記工程(b)において得られるアセトンを用いて、ベンゼンとアセトンと水素とを反応させてクメンを合成する工程
工程(d):上記工程(c)で得られるクメンを工程(a)へ循環する工程

【公開番号】特開2008−285477(P2008−285477A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103543(P2008−103543)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】