説明

アルキル置換ベンゼンジオールの製造方法

【課題】 アルキルフェノール含む溶液と過酸化水素を含む溶液とを混合し、酸化反応させてアルキルベンゼンジオールを製造する方法において、か発熱の制御が容易であり、必要に応じてケトンを用いた場合、中間体として反応液中に生成するケトンパーオキサイドを安全に取り扱いすることができ、目的物とするアルキルベンゼンジオールの選択率の低下がない連続的生産方法を提供すること
【解決手段】 内部に微小管状流路が形成されたマイクロミキサーと内部に微小管状流路が形成された反応容器を用い、アルキルフェノールを含む溶液と過酸化水素を含む溶液とを混合し、酸化反応させることを特徴とするアルキルベンゼンジオールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキル置換ベンゼンジオールの製造方法に関するものである。さらに詳しくは、本発明はマイクロリアクターを用いたアルキル置換ベンゼンジオール、特にアルキルカテコールに好適な製造方法であり、安全に効率よく円滑に製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルキルフェノールを触媒、ケトン系有機溶媒等の存在下、過酸化水素により酸化反応させてアルキル置換ベンゼンジオール、例えば、アルキルカテコールを製造する方法が知られている。(例えば特許文献1及び2参照。)しかしながら、アルキルフェノールの酸化反応では、アルキル基を有していないフェノールの酸化反応に比べ、生成する目的物のアルキル置換ベンゼンジオールの高次酸化が進行して副生成物を生じ易く選択率が決して十分とは言えず、さらにアルキルフェノールの酸化反応により生じる急激な発熱の制御や中間体として反応液中に生成するケトンパーオキサイドの安全な取り扱いに問題があった。
これらの問題点に対応するため管型反応器を用いて、酸化剤(過酸化水素)を分割添加し、逐次的に酸化反応を進行させる連続反応方法が模索された(例えば特許文献3参照)。しかしながら、前記の技術は、フェノール(例えば、アルキル基を有していないフェノール)の酸化反応では、一定の効果が認められるものの、条件によって、例えば、油溶性のアルキルフェノールと水溶性の過酸化水素のスタティックミキサーを用いた混合が充分進まないため、過酸化水素の転化率が低下し目的物の選択率が低下するといった問題があった。
近年、石油エネルギーの高騰から化学製品の製造方法の抜本的な見直しが迫られてきている。その中で、マイクロリアクターに対する関心が高まってきている。マイクロリアクターは狭い空間で反応を行う装置であり大掛かりな装置の導入も不必要で、投資コスト、製造コストの削減も期待される。また、マイクロリアクターは狭い空間で反応を行うため単位体積あたりの比表面積が大きく、このため反応温度の制御が容易であるという特長を有することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−310543
【特許文献2】特開平10−236997
【特許文献3】特開平11−343257
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、アルキルフェノール含む溶液と過酸化水素を含む溶液とを混合し、酸化反応させてアルキル置換ベンゼンジオールを製造する方法において、発熱の制御が容易であり、必要に応じてケトンを用いた場合、中間体として反応液中に生成するケトンパーオキサイドを安全に取り扱いすることができ、目的物とするアルキル置換ベンゼンジオールの選択率の低下がない連続的生産方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、内部に微小管状流路が形成されたマイクロミキサーと内部に微小管状流路が形成された反応容器を用いると、油溶性のアルキルフェノールと水溶性の過酸化水素とが円滑に混合され、かつ発熱の制御が容易であり、必要に応じてケトンを用いた場合、中間体として反応液中に生成するケトンパーオキサイドを安全に取り扱いすることができ、結果として選択率を低下させることなくアルキルカテコールを連続的に効率よく製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、内部に微小管状流路が形成されたマイクロミキサーと内部に微小管状流路が形成された反応容器を用い、アルキルフェノールを含む溶液と過酸化水素を含む溶液とを混合し、酸化反応させることを特徴とするアルキル置換ベンゼンジオールの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来、反応時に、混合が困難であった油溶性のアルキルフェノールと過酸化水素の水溶液を相分離することなしに混合し、均一に溶解することができ、その結果副反応が低減され、目的物であるアルキル置換ベンゼンジオールの製造が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の製造方法に用いる化学反応デバイス1の3種類のプレート構造を示す分解斜視図である。
【図2】図1における化学反応デバイス1のプレート構造を示す斜視図である。
【図3】本発明の製造方法に用いる化学反応デバイス1の継手部を含めた概略図全体構成を示す水平断面図である。
【図4】本発明の製造方法に用いる化学反応デバイス2の2種類のプレート構造を示す分解斜視図である。
【図5】図4における化学反応デバイス2のプレート構造を示す斜視図である。
【図6】本発明の製造方法に用いる化学反応デバイス2の継手部を含めた概略図全体構成を示す水平断面図である。
【図7】本発明の製造方法に用いる化学反応デバイス3のプレート構造を示す斜視図である。
【図8】本発明の製造方法に用いる化学反応デバイス3の継手部を含めた概略図全体構成を示す水平断面図である。
【図9】図7における化学反応デバイス1の2種類のプレート構造を示す分解斜視図である。
【図10】実施例で用いた製造装置を模式的に示す概略構成図である。
【図11】比較例で用いた製造装置を模式的に示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次いで、本発明を実施するにあたり、必要な事項を具体的に述べる。
本発明で用いるアルキルフェノール類は、特に制限はなく、種々のアルキルフェノール類を用いることができる。また、少なくとも一つのオルソ位に置換基を持ない第1〜3級のアルキル基を有するものであれば、アルキルカテコール類を製造することが可能である。また、アルキル基としては、炭素原子数1〜12のものが好ましい。具体的には、クレゾール、キシレノール、ブチルフェノール類、オクチルフェノール類、ノニルフェノール類及びドデシルフェノール類等が挙げられる。そのなかでもブチルフェノール類及びオクチルフェノール類が好ましい。また、特にp−tert−ブチルフェノール、p−sec−ブチルフェノール及びp−tert−オクチルフェノール等のパラ位がアルキル基で置換されている化合物を用いた場合、アルキルカテーコールを選択的に合成することが可能である。
【0010】
使用するアルキルフェノールの導入量は、過酸化水素に対するモル比〔(アルキルフェノール)/(H)〕が3〜30となる範囲が好ましい。
【0011】
本発明で使用できる過酸化水素は、水溶液又は有機溶液のいずれのでも良いが、入手容易で、かつ、安定で安全性に優れる点から、水溶液として用いるのが好ましい。また、その濃度は、20〜70重量%であることが過酸化水素の反応性に優れる点、或いは、アルキルフェノールのヒドロキシル化の選択性に優れる点が好ましい。
【0012】
また、アルキルフェノール類と過酸化水素とを酸化反応させる際、ケトン系有機溶媒、触媒を使用しても良く、さらに必要に応じ金属補足剤としてリン原子含有酸素酸及びそれらの金属塩を使用しても良い。ここで使用する触媒、リン原子含有酸素酸及びそれらの金属塩の量は、特に制限されないが、過酸化水素のモル数に対する、触媒、リン原子含有酸素酸及びそれらの金属塩の合計モル数の比で、0.01〜5モル%となる範囲の量が好ましい。即ち、0.01モル%以上では、反応速度が飛躍的に向上する他、仕込み過酸化水素が実際に反応に使用された割合が著しく向上する。10モル%以下においては、タール成分の生成を抑制でき目的物の選択率を向上させることができる。
本発明で用いられる触媒は、特に制限はないが、酸類及びこれらの塩が好ましい。酸類としては、硫酸、過塩素酸、p−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の強酸が好ましい。酸類の塩としては、硫酸ナトリウム、硫酸リチウム、硫酸カリウム、硫酸ルビジウム、硫酸セシウム、硫酸ベリリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム、硫酸バリウム、過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸ルビジウム、過塩素酸セシウム、過塩素酸ベリリウム、過塩素酸マグネシウム、過塩素酸カルシウム、過塩素酸ストロンチウム、過塩素酸バリウム、p−ヒドロキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、p−ヒドロキシベンゼンスルホン酸カリウム、p−ヒドロキシベンゼンスルホン酸リチウム、p−トルエンスルホン酸ナトリウム、p−トルエンスルホン酸カリウム、p−トルエンスルホン酸リチウム、メタンスルホン酸ナトリウム、メタンスルホン酸カリウム、メタンスルホン酸リチウム、トリフルオロ酢酸ナトリウム、トリフルオロ酢酸カリウム、トリフルオロ酢酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸ベリリウム、トリフルオロメタンスルホン酸マグネシウム、トリフルオロメタンスルホン酸カルシウム、トリフルオロメタンスルホン酸ストロンチウム及びトリフルオロメタンスルホン酸バリウム等の塩が挙げられる。そのなかでも、硫酸、過塩素酸、トリフルオロメタンスルホン酸、過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸マグネシウム及び過塩素酸カルシウムが好ましい。なお、これらの触媒は複数を混合して用いてもよい。
【0013】
次に、リン原子含有酸素酸としては、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸類及びホスホン酸類が挙げられるが、入手が容易で、触媒活性に優れる点からオルトリン酸、メタリン酸及びピロリン酸が好ましい。
【0014】
リン原子含有酸素酸の塩としては、リン原子含有酸素酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩、ベリリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩及びバリウム塩等が挙げられるが、そのなかでも、オルトリン酸ナトリウム、オルトリン酸カリウム、オルトリン酸マグネシウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、メタリン酸マグネシウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸マグネシウム等が好ましい。なお、これらの金属塩は複数を混合して用いることもできる。
【0015】
本発明で、必要に応じて使用するケトン系有機溶媒は、特に制限はないが、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン及びベンゾフェノン等が挙げられる。そのなかでも、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセトフェノン及びベンゾフェノンが目的物の選択率が著しく優れる点から好ましい。
【0016】
ケトン系有機溶媒を使用する場合、その量は特に制限はないが、過酸化水素1モルに対して0.05〜5モルとなる範囲が好ましい。即ち、0.05モル以上において反応速度が大きくなって反応時間を短縮できる他、過酸化水素の転化率より高めとなり、一方、5モル以下においては、目的物の選択率が高めとなる他、回収して再利用可能なケトンの回収率が高めとなり好ましい。
【0017】
また、本発明の製造方法は、必要に応じて前記以外の溶媒の存在下にて行うこともできる。使用できる溶媒としては、当該反応系に対して不活性なものであればよく、具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、tert−ブタノール等のアルコール類、n−ペンタン、シクロヘキサン等の飽和脂肪属炭化水素類、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ジクロロエタン、テトラクロロエタン等のハロゲン化水素などが挙げられる。
【0018】
本発明においてアルキル置換ベンゼンジオールは内部に微小管状流路が形成されたマイクロミキサーと内部に微小管状流路が形成された反応容器を用い製造することができる。
マイクロミキサーを用いることにより、流体同士の混合は小さなセグメント同士の混合になるため接触面積が大きくなることから、小さなエネルギーであっても混合が促進され比較的低流量においても油溶性のアルキルフェノールと水溶性の過酸化水素の混合を促進することが可能になる。
【0019】
内部に微小管状流路が形成されたマイクロミキサーとしては市販されているマイクロミキサーを用いることが可能であり、例えばインターディジタルチャンネル構造体を備えるマイクロリアクター、インスティチュート・フュール・マイクロテクニック・マインツ(IMM)社製シングルミキサーおよびキャタピラーミキサー;ミクログラス社製ミクログラスリアクター;CPCシステムス社製サイトス;山武社製YM−1、YM−2型ミキサー;島津GLC社製ミキシングティーおよびティー(T字コネクタ);マイクロ化学技研社製IMTチップリアクター;東レエンジニアリング開発品マイクロ・ハイ・ミキサー等が挙げられ、いずれも本発明で使用することができる。
さらに、好ましい形態のマイクロミキサーシステムとして、前記アルキルフェノール類と過酸化水素とをそれぞれ別々の流路に流通させ、前記両方の流路の出口で混合するものであるマイクロミキサーを用いて混合した後、さらに、流れ方向で流路断面積が縮小された流路に供給しながら流通させることで混合を促進するものであるマイクロミキサーが好ましい。流路をさらに縮流することによる乱流効果により混合をさらに促進することができる。
【0020】
前記両方の流路の出口で混合するものであるマイクロミキサーを用いて混合した後、流れ方向で流路断面積が縮小された流路に供給しながら流通させることにより混合を促進するものであるマイクロミキサーを用いることで、前記アルキルフェノール類と過酸化水素の混合を促進することが可能になる。
【0021】
上記前記両方の流路の出口で混合するものであるマイクロミキサーを用いて混合した後、流れ方向で流路断面積が縮小された流路に供給しながら流通させることで混合を促進するものであるマイクロミキサー微小管状流路は、少なくとも2つの部材を組み合わせて、部材間に形成された空間を流路とするものであるであっても、またそれ以外にも単なる管やパイプ形状のものを流路として用いても構わない。
【0022】
本発明で用いる流路の出口に設けられた合流部で混合するものであるマイクロミキサーとして好ましい形態としては例えば化学反応用デバイス1が例示される。また、流れ方向で流路断面積が縮小された流路により混合を促進するものであるマイクロミキサーとしては化学反応用デバイス2が例示される。
【0023】
以下、本発明で用いる好ましい形態の流路が設けられてなる化学反応用デバイス1、および、化学反応用デバイス2について具体的に説明する。図1は、アルキルフェノールを含む流体が通る微小管状流路を配置したプレートと、過酸化水素を含む流体が通る微小管状流路を配置したプレート、および、熱交換が行われる流体を流す流路を設置したプレートが積層してなる反応装置の概略構成例である。図2は、図1のデバイスにて合一した混合液を流す微小管状流路を配置したプレートと熱交換が行われる流体を流す流路を設置したプレートが積層してなる化学反応用デバイス1の概略構成例である。
【0024】
前記化学反応用デバイス1は、例えば前記図1において同一の長方形板状からなる第1プレート(前記図1中の5)と第2プレート(前記図1中の8)とが複数交互に積層されて構成されている。さらに必要に応じ第3プレート(前記図1中の3)が図2に示すように積層されて構成されている。各1枚の第1プレートにはアルキルフェノールを含む流体が通る流路が設けられている。また第2プレートには過酸化水素を含む流体が通る流路(以下、反応流路という)が設けられている(以下、反応流路が設けられたプレートをプロセスプレートという)。また、第3プレートには温調流体用の流路(以下、温調流路という)が設けられている(以下、温調流路が設けられたプレートを温調プレートという)。
そして、図3に示すようにそれらの供給口および排出口が、化学反応用デバイス1の端面15b、15c、側面15d、15eの各領域に分散して配置され、それら領域に、アルキルフェノールを含む流体(図2においてδがアルキルフェノール含む流体の液流れを示す)、過酸化水素(図2においてεが過酸化水素を含む流体の液流れを示す)、温調流体(図2においてγが温調流体の流れを示す)を流すためのコネクタ30とジョイント部31とからなる継手部32がそれぞれ連結されている。また、前記出口混合は化学反応デバイス1の端面15cとコネクタ30によって形成される空間33にてアルキルフェノールを含む流体と過酸化水素を含む流体が合流することより達成される。
【0025】
これらの継手部を介して、アルキルフェノール含む流体、過酸化水素を含む流体が端面15bから供給されて、端面15cに排出され、温調流体が側面15dから供給されて側面15eに排出されるようになっている。
化学反応用デバイス1の平面視形状は図示のような長方形とは限定されず、正方形状、または端面15b、15c間よりも側面15d、15e間が長い長方形状としてもよいが、以下では簡単のために図示形状に即して、端面15bから端面15cに向かう方向を、化学反応用デバイス1のプロセスプレートと温調プレートの長手方向と称し、側面15dから側面15eに向かう方向を化学反応用デバイス1のプロセスプレートと温調プレートの短手方向と称することにする。
【0026】
前記化学反応用デバイス2は、例えば前記図4において同一の長方形板状からなる第4プレート(前記図4中の14)、必要に応じ温調プレート(前記図4中の3)が図5に示すように積層されて構成されている。各1枚の第4プレートには化学反応用デバイス1にて混合された流体が通る流路が設けられている。
そして、図6に示すようにそれらの供給口および排出口が、化学反応用デバイス2の端面16b、16c、側面16d、16eの各領域に分散して配置され、それら領域に、アルキルフェノール含む流体と過酸化水素を含む流体(図5においてαが液流体を示す)、温調流体(図5においてγが温調流体を示す)、さらに必要に応じて有機溶剤を流すためのコネクタ30とジョイント部31とからなる継手部32がそれぞれ連結されている。
【0027】
これらの継手部を介して、アルキルフェノール含む流体と過酸化水素を含む流体を含む流体が端面16bから供給されて、端面16cに排出され、温調流体が側面16eから供給されて側面16dに排出されるようになっている。
化学反応用デバイス2の平面視形状は図示のような長方形とは限定されず、正方形状、または端面16b、16c間よりも側面16d、16e間が長い長方形状としてもよいが、以下では簡単のために図示形状に即して、端面16bから端面16cに向かう方向を、化学反応用デバイス2のプロセスプレートと温調プレートの長手方向と称し、側面16dから側面16eに向かう方向を化学反応用デバイス2のプロセスプレートと温調プレートの短手方向と称することにする。
【0028】
温調プレートは、図1に示すように、一方の面3aに断面凹溝形状の温調流路6が所定の間隔だけ離れて設けられている。温調流路6の断面積は、反応流路に対して熱を伝えることができれば特に限定されるものではないが概ね1×10−2〜2.5×102(mm)の範囲である。更に好ましくは0.32〜4.0(mm)である。温調流路6の本数は、熱交換効率を考慮して適宜の本数を採用することができ、特に限定されるものではないが、プレート当たり、例えば1〜1000本、好ましくは10〜100本である。
【0029】
温調流路6は、図1及び図4に示す様に、温調プレートの長手方向に沿って複数本配列された主流路6aと、主流路6aの上流側及び下流側端部でそれぞれ流路20と略直交に配置されて各主流路6aに連通する供給側流路6bおよび排出側流路6cとを備えていてもよい。図1及び図4では供給側流路6bと排出側流路6cは2回直角に屈曲して温調プレートの側面3d、3eからそれぞれ外部に開口している。温調流路6の各流路の本数は、温調流路6の主流路6a部分のみが複数本配列され、供給側流路6bおよび排出側流路6cはそれぞれ1本で構成されている。
【0030】
本発明で用いる内部に微小管状流路が形成されたマイクロミキサーは、原料として用いるアルキルフェノールを加温する目的や、アルキルフェノールを含む流体と過酸化水素を含む流体の混合を促進する目的で、温調流路により温度を80〜150℃でコントロールされることが好ましく、90〜140℃でコントロールされるのがさらに好ましく、90〜130℃でコントロールされるのが最も好ましい。150℃以上にコントロールされた場合には過酸化水素、もしくは中間体として生成するケトンパーオキサイドが安定に存在せず、アルキルフェノールとの反応に供される前に分解する可能性があり、また副生成物を増加し目的物選択率の低下を招く可能性がある。80〜150℃でコントロールされることによりアルキルフェノールと過酸化水素の反応を効率よく行うことが可能になる。
【0031】
内部に微小管状流路が形成されたマイクロミキサーで混合されたアルキルフェノール含む流体と過酸化水素を含む流体を含む流体は内部に微小管状流路が形成された反応容器において反応される。
ここで、内部に微小管流路が形成された反応容器は伝熱性反応容器であることが好ましい。流路比表面積がバッチ反応釜よりも大きいため伝導伝熱速度が速くアルキルフェノールの酸化反応により生じる発熱の制御や中間体として反応液中に生成するケトンパーオキサイドを安全に取り扱うことが可能になる。
【0032】
さらに、本発明においてアルキルカテコールは前記アルキルフェノールと過酸化水素とを含有する流体の反応容器内でのレイノルズ数を10〜300で連続的にコントロールすることにより、前記アルキルフェノールと過酸化水素とを含有する反応流体の混合性が乱流効果によりさらに高められることにより、さらに効率良く製造することができる。
ここで、該流体の流路内の移動をレイノルズ数10より大きい値でコントロールすることによりアルキルフェノールと過酸化水素とを含有する反応流体の混合性が著しく低下せず、その結果、短時間に反応が起こらずに生産効率が悪くなるといった不具合が防止でき、滞留時間が長くならないで反応が終了することから好ましい。また、レイノルズ数300以上にコントロールすることは装置上困難である。
【0033】
尚、本発明でいうレイノルズ数とは下記の式(1)に従って計算されるものである。
【0034】
レイノルズ数=(D×u×ρ)/μ・・・式(1)
ここで、D(流路の内径)(m)、u(平均流速)(m/s)、ρ(流体密度)(kg/m3)、μ(流体粘度)(Pa・s)である。
【0035】
本発明の製造方法における流体温度は特に制限されるものではないが、80〜160℃であることが過酸化水素の転化率、及び、目的物であるアルキル置換ベンゼンジオールの選択率に優れる点から好ましく、90〜150℃であることがさらに好ましい。
本発明の製造方法で用いる反応容器としては熱交換機能を有し、且つ、微小管状流路内を液密状に流通する流体断面積が0.1〜4.0mmとなる空隙サイズを有する微小管状流路を有するものが好ましく、その他の要件については特に制限はない。このような反応容器としては、例えば、化学反応用デバイスとして用いられる部材中に前記流路(以下、単に「微小流路」ということがある)が設けられた反応容器等が挙げられる。
以下、本発明で用いる内部に微小管状流路が形成された反応容器について、具体的に説明する。図7は、混合液を流す微小管状流路を配設したプレートと、混合液との間で熱交換が行われる流体を流す流路を配設したプレートが交互に積層してなる反応容器で、微小管状流路内を液密状に流通する流体断面積が0.1〜4.0mmとなる空隙サイズを有する微小管状流路を有する反応容器(化学反応用デバイス3)の概略構成例である。
【0036】
前記化学反応用デバイス3は、例えば前記図7において同一の長方形板状からなる第1プレート(プロセスプレート)(前記図7中の2)と第2プレート(温調プレート)(前記図7中の3)とが複数交互に積層されて構成されている。各1枚の第1プレートには反応流路が設けられている。また第2プレートには温調流路が設けられている。
【0037】
図8に示すようにそれらの供給口および排出口が、化学反応用デバイス3の端面1b、1c、側面1d、1eの各領域に分散して配置され、それら領域に、アルキルフェノール、過酸化水素を含む流体と、温調流体を流すためのコネクタ30とジョイント部31とからなる継手部32がそれぞれ連結されている。
【0038】
これらの継手部を介して、アルキルフェノール、過酸化水素を含む流体が端面1bから供給されて、端面1cに排出され、温調流体が側面1eから供給されて側面1dに排出されるようになっている。
【0039】
化学反応用デバイス3の平面視形状は図示のような長方形とは限定されず、正方形状、または端面1b、1c間よりも側面1d、1e間が長い長方形状としてもよいが、以下では簡単のために図示形状に即して、端面1bから端面1cに向かう方向を、化学反応用デバイス1のプロセスプレートと温調プレートの長手方向と称し、側面1dから側面1eに向かう方向を化学反応用デバイス3のプロセスプレートと温調プレートの短手方向と称することにする。
【0040】
プロセスプレートは、図9に示すように、一方の面2aに断面凹溝形状の流路4をプロセスプレートの長手方向に貫通して延し、短手方向に所定間隔p0で複数本配列したものである。流路4の長さをLとする。断面形状は、幅w0、深さd0とする。
【0041】
流路4の断面形状は、アルキルフェノール、過酸化水素を含む流体の種類、流量や流路長さLに応じて適宜設定することができるが、断面内の温度分布の均一性を確保するために、幅w0、深さd0は、それぞれ0.1〜500〔mm〕、0.1〜5〔mm〕の範囲に設定している。なお、幅、深さの記載は図面を参照した場合であって、この値は熱伝面に対して広い値となる様に適宜解釈しうる。特に限定されるものではないが、プレート当たり、例えば1〜1000本、好ましくは10〜100本である。
【0042】
前記、アルキルフェノール、過酸化水素を含む流体は各流路4内に流され、図7ないし図9に矢印で示すように、一方の端面2b側から供給されて他方の端面2c側へ排出される。
各複数のプロセスプレート、温調プレートは、プロセスプレート、温調プレートを同一方向に交互に重ねて積層され、互いに固着、積層されている。
【0043】
そのため、化学反応用デバイス3の形態において、各流路4、温調流路6は、凹溝の開口面が上に積層されるプレートの下面により覆われ、両端が開口する長方形断面のトンネル形状とされる。
【0044】
このような各プロセスプレート、温調プレートは、適宜の金属材料を用いることができるが、例えばステンレス鋼板にエッチング加工を施すことにより流路4、温調流路6などを形成し、流路面を電解研磨仕上げするなどして製作することができる。
【0045】
前記本発明の製造方法で用いる流路が設けられてなる化学反応用デバイスを有する装置としては、例えば、図10に記載のある製造装置を例示できる。
【0046】
図10において、アルキルフェノールを含む流体(61)を入れるタンク62(第1のタンク)の流出口とプランジャーポンプ65の流入口とが、アルキルフェノールを含む流体が通る配管を介して接続されており、また、過酸化水素を含む流体を入れるタンク64(第1のタンク)の流出口とプランジャーポンプ66の流入口とが、過酸化水素を含む流体(63)が通る配管を介して接続されている。プランジャーポンプ65の流出口及びプランジャーポンプ66の流出口からは、それぞれプランジャーポンプ65またはプランジャーポンプ66を通してアルキルフェノールを含む流体又は過酸化水素を含む流体が通る配管が伸びており、これらの配管は図1、および図2、3に記載の化学デバイス1として例示される流路の出口に設けられた合流部で混合するものであるマイクロミキサー67の流入口に接続されている。
【0047】
このマイクロミキサー67でアルキルフェノールを含む流体(61)と過酸化水素を含む流体(63)とが混合され、さらに図4、および図5、6に記載の化学デバイス2として例示される流れ方向で流路断面積が縮小された流路により混合を促進するものであるマイクロミキサー73に導かれアルキルフェノールと過酸化水素とが混合された流体となる。この流体はマイクロミキサー73の流出口に接続された配管を通して、図7、および図8、9に記載の化学デバイス3として例示される反応容器40の流入口1bへと移動する。反応容器40には温調装置68が接続されている。前記反応容器40中の微小流路を移動していくことによりアルキルフェノールと過酸化水素が反応しアルキルカテコールが製造され、反応容器40中の微小流路を移動し反応容器40の流出口1cと到達する。その後、流出口に接続された配管を通して冷却用熱交換器70の流入口へと移動する。
図10の製造装置の反応容器40において、図7、および図8、9に記載の化学デバイス3を反応容器の一部として流路を介しいくつか接続することにより滞留時間を制御することができる。また、反応容器40と冷却用熱交換器70の間に反応容器の一部として流路を接続することにより滞留時間を制御することができる。流路は単なる管やパイプ形状のものでも構わない。流路は油浴等に浸漬させたり、リボンヒーターを巻きつけたりすることにより温度を制御させることができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に述べる。例中、%、重量は特に断りがない限り重量基準である。
【0049】
<本実施例で使用したマイクロミキサー>
本実施例では流路の出口に設けられた合流部で混合するものであるマイクロミキサーとして図1に示す構造のプロセスプレート5、8をマイクロミキサーとして用いた。また、流れ方向で流路断面積が縮小された流路により混合を促進するものであるマイクロミキサーとしては図4に示す構造のプロセスプレート14をマイクロミキサーとして用いた。マイクロミキサーの構造としては、プレート8の上にプレート5を積層したマイクロミキサー積層体の上下に温調プレート3を積層した化学反応用デバイスと、プレート14の上下に温調プレート3を積層した化学反応用デバイスとを直列につないだ構造を用いた。具体的には、アルキルフェノールの有機溶剤溶液をプレート5の流路20に過酸化水素と触媒の混合液をプレート8の流路21に導入しそれぞれの流体をプレート出口で合一させた。その後、更に、プレート14の流路22を通過させることで分子末端にアルキルフェノールの有機溶剤溶液と過酸化水素と触媒の混合液とをさらに混合させた。プロセスプレート5,8,14、温調プレート3の材質はSUS304であり、板厚はプレート5、14が0.4mm、プレート8が1mmである。反応流路21の断面寸法は幅1.0mm×深さ0.5mm、温調流路6の断面寸法は幅1.2mm×深さ0.5mm、反応流路20の断面寸法は幅6mm×深さ0.2mm、反応流路22の断面寸法は幅広部で幅4mm×深さ0.2mm、縮流部で幅0.2mm×深さ0.2mmである。
【0050】
<本実施例で使用した反応容器用デバイス>
本実施例では図7に示す構造の反応容器用デバイスを用いた。構造としては、プロセスプレート2と温調プレート3とを交互に積層した構造である。プロセスプレートには流路4が形成されており、また、温調プレートには温調流路6が形成されている。
反応容器用デバイスはドライエッチング加工により反応流路4が5本形成されたプロセスプレート2枚と同じくエッチング加工により温調流路6が5本形成された温調プレート3枚が交互に積層されている。プロセスプレート2と温調プレート3の材質はSUS304であり、板厚は1mmである。反応流路4と温調流路6の断面寸法はともに幅1.2mm×深さ0.5mmである。
【0051】
<本比較例で使用した反応装置>
図11に記載された製造装置を用い調製を行った。図11においてスタティックミキサー及び反応器の大きさは、スタティックミキサーが4.0mm×36mm、第1反応塔が16.1mm×1008mm、第2反応塔が21.4mm×1224mm、第3反応塔が27.2mm×720mm、および第4反応塔が41.7mm×780mmであった。
【0052】
<過酸化水素転化率>
反応後系内に残存する過酸化水素のモル数をメトラー・トレド株式会社製滴定装置(METTLER DL25 Titrator)を用い、酸化還元滴定で分析し、式(2)に従って過酸化水素転化率を求めた。
過酸化水素転化率=〔(供給した過酸化水素のモル数−反応後系内に残存する過酸化水素のモル数)/供給した過酸化水素のモル数〕×100(モル%)・・・・式(2)
【0053】
<アルキル置換ベンゼンジオール選択率(対過酸化水素)>
生成したアルキル置換ベンゼンジオールを株式会社島津製作所製ガスクロマトグラフ(Shimazu GC−14A)により定量分析し、式(3)に従ってアルキル置換ベンゼンジオール選択率(対過酸化水素)を計算した。

アルキル置換ベンゼンジオール選択率(対過酸化水素)=〔(生成したアルキル置換ベンゼンジオールのモル数)/(供給した過酸化水素のモル数)〕×100(モル%)
・・・・(3)
【0054】
<アルキル置換ベンゼンジオール選択率(対転化アルキルフェノール)>
生成したアルキル置換ベンゼンジオール及び他の副生物をガスクロトグラフィー及び東ソー株式会社製ゲルパーミエーションクロマトグラフ(HLC−8220GPC)により定量分析し、式(4)に従ってアルキル置換ベンゼンジオール選択率(対転化アルキルフェノール)を計算した。
【0055】
アルキル置換ベンゼンジオール選択率(対転化アルキルフェノール)=〔(生成したアルキル置換ベンゼンジオールのモル数)/(転化したアルキルフェノールのモル数)〕×100(モル%)
・・・・(4)
【0056】
下記実施例1〜3では、過酸化水素転化率を95%以上−過酸化水素を使い切る条件でアルキル置換ベンゼンジオールの製造を行なった。
【0057】
実施例1
図10に示す製造装置において、マイクロミキサー、化学反応デバイスを10個、内径2.17mm、長さ30mのチューブを直列に繋いだ装置を用いてパラ−t−ブチルフェノール(PTBP)と60%過酸化水素との反応を行った。プランジャーポンプ65及び66を用いて、第一のタンク62中にPTBPとMIBKとをモル比10/1で仕込み、温度を110℃で溶解させた。第二のタンク63中に60%過酸化水素、過塩素酸、ピロリン酸をモル比1/0.0045/0.0023の比率で仕込んだ。プランジャーポンプ65及び66の回転数を設定し、全体の流量が50g/分、PTBPと過酸化水素の供給比率がモル比10/1となるように流した。マイクロミキサー、反応容器用デバイス、内径2.17mm、長さ30mのチューブ、冷却用熱交換器、背圧弁へと連続的に流し、吐出された反応混合物を受け容器にて受け取ることにより、t−ブチルカテコールの製造を行った。なお、マイクロミキサー内では、温調装置にて、120℃の温調流体(オイル)を温調プレートの温調流路に連続して流し、(PTBP及びMIBK)と(60%過酸化水素、過塩素酸およびピロリン酸)の混合を行い、反応容器デバイスでは、温調装置にて、120℃の温調流体を温調プレートの温調流路に連続して流し、内径2.17mm、長さ30mのチューブではチューブ全体を120℃に加温したオイルバスに浸漬し、それぞれの加温を行った。冷却用熱交換器69では温調装置70にて、120℃の温調流体を連続して流した。排圧弁71にて管内圧を2MPaにて行った。反応混合液の密度を1000kg/m、粘度1mPa・sとして反応容器内のレイノルズ数は100、滞留時間は2.6分であった。
得られた反応液の分析を行ったところ、過酸化水素転化率が98.0%、TBC選択率(対過酸化水素)が65.6%、TBC選択率(対転化PTBP)が81.7%であった。比較的高い選択率でTBCを得ることができた。
【0058】
実施例2
図10に示す製造装置において、マイクロミキサー、化学反応デバイスを10個、内径2.17mm、長さ30mのチューブを直列に繋いだ装置を用いて実施例1と同様の操作により全体の流量70g/分、それぞれの原料が所定のモル比になるように流した。マイクロミキサー、反応容器デバイス、内径2.17mm、長さ30mのチューブ、冷却用熱交換器、背圧弁へと連続的に流し、吐出された反応混合物を受け容器にて受け取ることにより、t−ブチルカテコールの製造を行った。反応混合液の密度を1000kg/m、粘度1mPa・sとして反応容器内のレイノルズ数は140、滞留時間は1.8分であった。
【0059】
得られた反応液の分析を行ったところ、過酸化水素転化率が98.4%、TBC選択率(対過酸化水素)が68.5%、TBC選択率(対転化PTBP)が81.7%であった。比較的高い選択率でTBCを得ることができた。
【0060】
実施例3
図10に示す製造装置において、マイクロミキサー、化学反応デバイスを10個、内径2.17mm、長さ30mのチューブを直列に繋いだ装置を用いて実施例1と同様の操作により全体の流量30g/分、それぞれの原料が所定のモル比になるように流した。マイクロミキサー、反応容器デバイス、内径2.17mm、長さ30mのチューブ、冷却用熱交換器、背圧弁へと連続的に流し、吐出された反応混合物を受け容器にて受け取ることにより、t−ブチルカテコールの製造を行った。反応混合液の密度を1000kg/m3、粘度1mPa・sとして反応容器内のレイノルズ数は60、滞留時間は4.3分であった。
得られた反応液の分析を行ったところ、過酸化水素転化率が99.2%、TBC選択率(対過酸化水素)が64.4%、TBC選択率(対転化PTBP)が79.1%であった。比較的高い選択率でTBCを得ることができた。
【0061】
下記実施例4、5では、過酸化水素転化率を80%以下−反応終了後アルキル置換ベンゼンジオールと過酸化水素が共存する反応系でアルキル置換ベンゼンジオールの製造を行なった。
【0062】
実施例4
図10に示す製造装置において、マイクロミキサー、化学反応デバイスを10個、内径2.17mm、長さ30mのチューブを直列に繋いだ装置を用いてパラ−t−ブチルフェノール(PTBP)と60%過酸化水素との反応を行った。プランジャーポンプ65及び66を用いて、第一のタンク62中にPTBPとMIBKとをモル比10/1で仕込み、温度を110℃で溶解させた。第二のタンク63中に60%過酸化水素、過塩素酸ナトリウム、ピロリン酸をモル比1/0.0030/0.0027の比率で仕込んだ。プランジャーポンプ65及び66の回転数を設定し、全体の流量が15g/分、PTBPと過酸化水素の供給比率がモル比10/1となるように流した。マイクロミキサー、反応容器用デバイス、内径2.17mm、長さ30mのチューブ、冷却用熱交換器、背圧弁へと連続的に流し、吐出された反応混合物を受け容器にて受け取ることにより、t−ブチルカテコールの製造を行った。なお、マイクロミキサー内では、温調装置にて、120℃の温調流体(オイル)を温調プレートの温調流路に連続して流し、(PTBP及びMIBK)と(60%過酸化水素、過塩素酸およびピロリン酸)の混合を行い、反応容器デバイスでは、温調装置にて、120℃の温調流体を温調プレートの温調流路に連続して流し、内径2.17mm、長さ30mのチューブではチューブ全体を120℃に加温したオイルバスに浸漬し、それぞれの加温を行った。冷却用熱交換器69では温調装置70にて、120℃の温調流体を連続して流した。排圧弁71にて管内圧を2MPaにて行った。反応混合液の密度を1000kg/m、粘度1mPa・sとして反応容器内のレイノルズ数は30、滞留時間は8.6分であった。
得られた反応液の分析を行ったところ、過酸化水素転化率が64.7%、TBC選択率(対過酸化水素)が43.6%、TBC選択率(対転化PTBP)が70.0%であった。比較的高い選択率でTBCを得ることができた。
【0063】
実施例5
図10に示す製造装置において、マイクロミキサー、化学反応デバイスを10個、内径2.17mm、長さ30mのチューブを直列に繋いだ装置を用いて実施例4と同様の操作により全体の流量50g/分、それぞれの原料が所定のモル比になるように流した。マイクロミキサー、反応容器デバイス、内径2.17mm、長さ30mのチューブ、冷却用熱交換器、背圧弁へと連続的に流し、吐出された反応混合物を受け容器にて受け取ることにより、t−ブチルカテコールの製造を行った。なお、マイクロミキサー内では、温調装置にて、120℃の温調流体(オイル)を温調プレートの温調流路に連続して流し、(PTBP+MIBK)と(60%過酸化水素+過塩素酸ナトリウム+ピロリン酸)の混合を行い、反応容器デバイスでは、温調装置にて、120℃の温調流体を温調プレートの温調流路に連続して流し、内径2.17mm、長さ30mのチューブではチューブ全体を150℃に加温したオイルバスに浸漬し、それぞれの加温を行った。反応混合液の密度を1000kg/m、粘度1mPa・sとして反応容器内のレイノルズ数は100、滞留時間は2.6分であった。
得られたt−ブチルカテコールの収率の測定を行ったところ、過酸化水素転化率が72.9%、TBC選択率(対過酸化水素)が40.7%、TBC選択率(対転化PTBP)が82.3%であった。比較的高い選択率でTBCを得ることができた。
【0064】
比較例1
図11に示す製造装置において、プレミキサー(内径17.3mm×長さ150mm、スタティックミキサー84)、および、内径21.7mm×長さ1008mm、内径27.2mm×長さ1224mm、42.7mm×720mm、48.6mm×780mmの4本のスタティックミキサーが順に直列に連結された管型反応器装置(85、86,87,88)を用いて、パラ−t−ブチルフェノール(PTBP)と60%過酸化水素との反応を行った。
第一のタンク80中にPTBPとMIBKとをモル比20/1で仕込み、温度PTBPの融点以上に暖めることによりPTBPを溶解させた。
第二のタンク81中に60%過酸化水素、過塩素酸、ピロリン酸をモル比1/0.0020/0.0020の比率で仕込んだ。プランジャーポンプ80及び81の回転数を設定し、全体の流量が15g/分、PTBPと過酸化水素の供給比率がモル比10/1となるようにプレミキサー84に導き、次いで4本の管型反応器装置(85、86、87、88)に流通させた。
前記4本の管型反応器装置では、温調装置にて、それぞれ102℃、125℃、125℃、125℃になるように温調流体を温調流路に連続して流し、それぞれの加温を行い、製品受容器に導いた。
得られたt−ブチルカテコールの収率の測定を行ったところ、過酸化水素転化率が95%、TBC選択率(対過酸化水素)が50.5%、TBC選択率(対転化PTBP)が63.3%であった。
【0065】
比較例2
図11に示す製造装置において、プレミキサー、および4本の管型反応器装置を用いて比較例1と同様の操作により全体の流量が167g/分、滞留時間10分になるように、それぞれの原料が所定のモル比になるように流した。
得られたt−ブチルカテコールの収率の測定を行ったところ、過酸化水素転化率が91.3%、TBC選択率(対過酸化水素)が46.1%、TBC選択率(対転化PTBP)が70.0%であった。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
実施例1〜3と比較例1、2を比較すると、微小管状流路が形成されたマイクロミキサーと内部に微小管状流路が形成された反応容器(マイクロリアクター)を用いる本発明の製造方法では、マイクロリアクターを用いない系に比べて、対転化PTPB選択率が向上している。
【0069】
また、実施例4、5と比較例1、2を比較すると、マイクロリアクターを用いると、過酸化水素を反応終了迄に使い切って、副反応の発生を防がなくても、マイクロリアクターを用いない系と同等の対転化PTPB選択率で反応が進行する。
【符号の説明】
【0070】
δ・・・・・アルキルフェノールを含有する流体
ε・・・・・過酸化水素を含有する流体
γ・・・・・温調流体
5・・・・・・第1プレート(プロセスプレート)
5a・・・・・第1プレートの面
5b・・・・・第1プレートの端面
5c・・・・・第1プレートの端面
5d・・・・・第1プレートの側面
5e・・・・・第1プレートの側面
3・・・・・・第3プレート(温調プレート)
3a・・・・・第3プレートの面
3b・・・・・第3プレートの端面
3c・・・・・第3プレートの端面
3d・・・・・第3プレートの側面
3e・・・・・第3プレートの側面
6・・・・・・断面凹溝形状の温調流路
6a・・・・・断面凹溝形状の主流路
6b・・・・・断面凹溝形状の供給側流路
6c・・・・・断面凹溝形状の排出側流路
8・・・・・・第2プレート(プロセスプレート)
8a・・・・・第2プレートの面
8b・・・・・第2プレートの端面
8c・・・・・第2プレートの端面
8d・・・・・第2プレートの側面
8e・・・・・第2プレートの側面
14・・・・・第4プレート(プロセスプレート)
14a・・・・第4プレートの面
14b・・・・第4プレートの端面
14c・・・・第4プレートの端面
14d・・・・第4プレートの側面
14e・・・・第4プレートの側面
15・・・・・化学反応用デバイス1
15b・・・・化学反応用デバイス1の端面
15c・・・・化学反応用デバイス1の端面
15d・・・・化学反応用デバイス1の側面
15e・・・・化学反応用デバイス1の側面
16・・・・・化学反応用デバイス2
16b・・・・化学反応用デバイス2の端面
16c・・・・化学反応用デバイス2の端面
16d・・・・化学反応用デバイス2の側面
16e・・・・化学反応用デバイス2の側面
1・・・・・化学反応用デバイス3
1b・・・・化学反応用デバイス3の端面
1c・・・・化学反応用デバイス3の端面
1d・・・・化学反応用デバイス3の側面
1e・・・・化学反応用デバイス3の側面
2・・・・・第1プレート(プロセスプレート)
2a・・・・第1プレートの面
2b・・・・第1プレートの端面
2c・・・・第1プレートの端面
2d・・・・第1プレートの側面
2e・・・・第1プレートの側面
3・・・・・第2プレート(温調プレート)
3a・・・・第2プレートの面
3b・・・・第2プレートの端面
3c・・・・第2プレートの端面
3d・・・・第2プレートの側面
3e・・・・第2プレートの側面
4・・・・・断面凹溝形状の流路
p0・・・・所定間隔
w0・・・・・幅
d0・・・・・深さ
L・・・・・・流路長さ
30・・・・・コネクタ
31・・・・・ジョイント部
32・・・・・継手部
40・・・・・反応容器(化学反応デバイス3)
61・・・・・化合物(A)(アルキルフェノールを含む流体)
62・・・・・第1のタンク
63・・・・・化合物(B)(過酸化水素を含む流体)
64・・・・・第2のタンク
65・・・・・プランジャーポンプ
66・・・・・プランジャーポンプ
67・・・・・マイクロミキサー
68・・・・・温調装置
69・・・・・冷却用熱交換器
70・・・・・温調装置
71・・・・・排圧弁
72・・・・・受け容器
73・・・・・マイクロミキサー
79・・・・・実施例で用いた樹脂の製造装置を模式的に示す概略構成図
80・・・・・比較例で用いた樹脂の製造装置を模式的に示す概略構成図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に微小管状流路が形成されたマイクロミキサーと内部に微小管状流路が形成された反応容器を用い、アルキルフェノールを含む溶液と過酸化水素を含む溶液とを混合し、酸化反応させることを特徴とするアルキル置換ベンゼンジオールの製造方法。
【請求項2】
内部に微小管状流路が形成されたマイクロミキサーが、2液が混合可能な構造と流れ方向で流路径が縮小された構造とを有することを特徴とする請求項1記載のアルキル置換ベンゼンジオールの製造方法。
【請求項3】
内部に微小管状流路が形成されたマイクロミキサーにおいて、アルキル置換フェノールを含む溶液と過酸化水素を含む溶液とを温度80℃〜150℃の範囲で混合させることを特徴とする請求項1または2記載のアルキル置換ベンゼンジオールの製造方法。
【請求項4】
内部に微小管流路が形成された反応容器が内部に微小管流路が形成された伝熱性反応容器である請求項1記載のアルキル置換ベンゼンジオールの製造方法。
【請求項5】
反応容器内の微小管流路での流体のレイノルズ数を10〜300に連続的にコントロールする請求項1〜4の何れか1項記載のアルキル置換ベンゼンジオールの製造方法。
【請求項6】
内部に微小管流路が形成された反応容器においてアルキルフェノールを含む溶液と過酸化水素を含む溶液とを温度80℃〜160℃の範囲で酸化反応させることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項記載のアルキル置換ベンゼンジオールの製造方法。
【請求項7】
前記アルキルフェノールを含む溶液がケトンを含有する溶液である請求項1記載のアルキル置換ベンゼンジオールの製造方法。
【請求項8】
前記ケトンが、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン及びベンゾフェノンからなる群からなる1種以上の化合物である請求項7記載ののアルキル置換ベンゼンジオールの製造方法。
【請求項9】
ケトンの配合の割合が、過酸化水素とケトンのモル比〔(過酸化水素)/(ケトン)〕が0.05〜5である請求項7記載ののアルキル置換ベンゼンジオールの製造方法。
【請求項10】
アルキル置換フェノールが、4−アルキルフェノールである請求項1〜9の何れか1つに記載のアルキル置換ベンゼンジオールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−178678(P2011−178678A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42061(P2010−42061)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】