説明

アルケノンの簡略化した製法

ハロゲンアルケノンエーテルはビニルエーテルへのカルボン酸ハロゲン化物の付加およびハロゲン化水素の脱離により製造することができる。本発明の改善は塩基の不存在においておよび/またはアルケノンのための安定剤の存在において実施したことにある。高い収率で生成物は生じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハロゲン化アルケノンエーテルの簡略化した製法に関する。
【0002】
ハロゲン化アルケノンエーテル、例えば4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オン、は化学合成における構成成分である(例えば、EP−0744400参照)。酸クロリドとビニルエーテルとを塩基の存在下に相互に反応させて、これを製造することができ(前記ヨーロッパ特許公開公報を参照);その際塩基を溶剤として過剰量で使用することもできる。塩基の不存在下にホスゲンとビニルエーテルとの反応は重合に導くことは、例えばN.D.FieldおよびD.H.Lorenzにより、High Polymer,1970,p394から公知である。本発明の課題はアルケノンの簡略化した製法を提供することである。この課題は、本発明の方法により解決する。
【0003】
アルケノンの本発明による製法はビニルエーテルとカルボン酸ハロゲン化物、有利にカルボン酸クロリドとを酸捕獲剤の不存在下に相互におよび/またはアルケノンのための安定剤の存在下に反応させることを意図している。概念“酸捕獲剤”とは、特に塩基、特に窒素塩基、例えばピリジンまたは第二および第三アミン並びにオニウム塩であり、これは公開されていない国際特許出願、特許出願番号PCT/EP03/00913中に記載されており、この際この記載に関しては詳細な説明の必要はない。
【0004】
カルボン酸基にハロゲン−、特にフッ素−および/または塩素置換基を有するアルケノンの製法が有利である。特に式(I)
−C(O)−C(H)=C(H)−OR (I)
[式中、RはC〜C−アルキル基または少なくとも1個のハロゲン原子で置換されているC〜C−アルキル基を表すか、またはRがCFC(O)CHを表し、かつRがアリール、置換されているアリール、C〜C−アルキル基または少なくとも1個のハロゲン原子で置換されているC〜C−アルキル基を表す]のアルケノンを、式(II)
−C(O)X (II)
[式中、XはF、Cl、Brを表し、かつRは前記の意味を表す]の酸ハロゲン化物と式(III)
CH=C(H)−OR (III)
[式中、Rは前記の意味を表す]のビニルエーテルとを酸捕獲剤の不存在で、かつ/またはアルケノンのための安定剤の存在で、相互に反応させることにより製造するのが有利である。
【0005】
は有利にメチル、エチル、n−プロピルまたはイソプロピルまたは少なくともフッ素原子1個で置換されたメチル、エチル、n−プロピルまたはイソプロピルを表す。特にRが少なくともフッ素原子1個で置換されたメチルまたはエチルを表すのが有利である。殊に有利には、RはCF、CFH、CFCl、C、CまたはCFC(O)CHである。
【0006】
はアリール、例えばフェニルまたはC〜C−アルキル基および/またはハロゲン原子で置換されたフェニル基を表すことができる。Rが線状または分枝のC〜C−アルキルであるのが有利である。Rがメチル、エチル、n−プロピルまたはイソプロピルであるのが特に有利である。
【0007】
酸ハロゲン化物としては、酸クロリドが有利である。有利な実施形に関して本発明を更に詳細に説明する。
【0008】
酸クロリドとビニルエーテルとのモル比が、0.8:1〜1:0.8、特に0.8:1〜1:1であるのが有利である。
【0009】
本発明方法は有利に2工程で実施する。第1の工程においては、酸ハロゲン化物をビニルエーテルに付加する。この反応は発熱反応であってよく、こうして反応混合物を場合により冷却しなければならないか、または反応を非常にゆっくりと実施する。低沸点の酸ハロゲン化物を使用する限りにおいては、酸ハロゲン化物が凝縮し、反応混合物中への返流を可能にする冷却装置を使用することが有利である。この工程は、有利に−15℃〜+50℃で、有利に−15℃〜+30℃で実施する。第2の工程はハロゲン化水素の脱離を包含する。この工程は、脱離に必要な温度で実施するのが有利であり、ハロゲン化水素の脱離を観察することにより容易に認識することができる。トリフルオロアセチルクロリドのエチルビニルエーテルへの反応においては、温度は150℃までの範囲、有利に30℃〜90℃である。
【0010】
酸ハロゲン化物とビニルエーテルとの、本発明による反応においては、溶剤を使用しないのが有利である。溶剤を分離除去する必要がないということ(回収のための費用がかからず、僅かなエネルギー需要)が利点である。
【0011】
式(I)のアルケノンの本発明による製法は、高めた圧力で実施することができる。生じるハロゲン化水素を反応混合物からより良好に除去することができるので、周囲圧または僅かな真空下(0.5バールまで下げる)が有利である。バッチ式でまたは部分連続的に実施することができる。生じたハロゲン化水素を反応の際にまたは反応の後に、例えば加熱または真空下にまたは両方の処置で反応混合物から除去することができる。
【0012】
本発明による方法は、3つの変法を包含する:酸捕獲剤(この概念にはオニウム塩も包含される)の不存在における反応、所望の生成物(アルケノン)のための安定剤の存在における反応、および両方の特徴での反応、すなわち酸捕獲剤の不存在でかつ安定剤の存在での反応。安定剤としては、例えば複数のアルキル基で置換されたフェノール、例えばt−ブチル基2個および炭素原子1〜3個を有するアルキル基1個により置換されたフェノール、特に2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールが好適である。
【0013】
製造すべきアルケノンのための安定剤の存在での反応の実施を、通常の酸捕獲剤、例えばアミン、オニウム塩または相応する溶剤、例えばニトリル、スルホキシドまたはラクタムの存在下にも実施することができる。この変法は、公知法を改善するが、塩の形成、もしくは溶剤を分離除去しなければならないという欠点を有する。
【0014】
その他の2つの変法、すなわち酸捕獲剤の不存在での反応、もしくは酸捕獲剤の不存在および製造すべきアルケノンのための安定剤の存在での反応は、酸捕獲剤を分離除去する必要がないので、公知技術水準の方法に比べて非常に有利である。この2つの変法はより有利であり、これを更に詳細に説明する。
【0015】
有利な変法の1つにおいては、一般に、出発化合物の変換は、アルケノンのために酸捕獲剤の不存在で計画される。概念“酸捕獲剤”はすでに前に定義されている。
【0016】
2つの有利な変法の他方においては、出発化合物を酸捕獲剤の不存在で、しかしながら製造すべきアルケノンのための安定剤の存在で反応するように計画される。安定剤としては、例えば前記の、複数のC〜C−アルキル基で置換されているフェノール、例えばt−ブチル基2個および炭素原子1〜3個を有するアルキル基1個により置換されたフェノール、特に2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールを挙げることができる。
【0017】
それぞれ酸捕獲剤の不存在を特徴として有する、2つの最後に挙げた変法は、すでに記載したように有利である。
【0018】
反応混合物の後処理は、通常の方法で行われる。例えば、式(I)の所望のアルケノンを混合物から蒸留により取り出すことができる。
【0019】
本発明による方法の利点は、酸捕獲剤の不存在において後処理が簡単になったことである。アルケノンのための安定剤の、すでに反応混合物中での存在は収率を高めることに役立つ。反応混合物中のアルケノンのための安定剤の同時の存在において、酸捕獲剤の不存在は、収率にとって非常に有利でありうる。
【0020】
次に実施例につき、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに制限されることはない。
【0021】
実施例
実施例1:
エチルビニルエーテルとトリフルオロアセチルクロリドとを、酸捕獲剤の不存在下に、かつ製造すべきアルケノンのための安定剤の存在下に反応させて4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オン(“ETFBO”)を製造する。
【0022】
配合物:
2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(“BHT”) 0.25g(1.13ミリモル)、
エチルビニルエーテル(“EVE”) 12.9g(99%、0.18モル)、
トリフルオロアセチルクロリド(“TFAC”) 21.0g(0.16モル)。
【0023】
実施法:
BHTとEVEとを相互に混合した。氷浴中でドライアイス還流冷却下にTFACを供給し、その際反応混合物の温度を26℃未満に保持した。引き続き、反応混合物を80℃で熱分解した。熱分解の後、反応混合物はなお28.5gであった。次いで9ミリバールにおいて蒸留した。
【0024】
収量:
24.1g=理論値の83.0%。
【0025】
BHT0.25g、EVE13.8gおよびTFAC19.7gで繰り返すと、理論値の87.6%の収率が達せられた。
【0026】
例2:
安定剤なしでの、ETFBOの製造
配合物:
EVE 13.0g(99%、0.19モル)、
TFAC 19.1g(0.14モル)。
【0027】
EVEを予め装入し、ドライアイス冷却下に、室温で、TFACを供給した。引き続き、80℃で熱分解した。熱分解した混合物を7ミリバールで蒸留した。
【0028】
収率:
22.8g=理論値の90.4%。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルエーテルへのカルボン酸ハロゲン化物の付加および引き続くハロゲン化水素脱離を包含するアルケノンの製法において、この反応を、生じたハロゲン化水素のための酸捕獲剤の不存在下に、かつ/または生じたアルケノンのための安定剤の存在下に、実施することを特徴とする、アルケノンの製法。
【請求項2】
式(I)
−C(O)−C(H)=C(H)−OR (I)
[式中、RはC〜C−アルキル基または少なくとも1個のハロゲン原子で置換されているC〜C−アルキル基を表すか、またはRがCFC(O)CHを表し、かつRがアリール、置換されているアリール、C〜C−アルキル基または少なくとも1個のハロゲン原子で置換されているC〜C−アルキル基を表す]のアルケノンを、式(II)
−C(O)X (II)
[式中、XはF、Cl、Brを表し、かつRは前記の意味を表す]の酸ハロゲン化物と式(III)
CH=C(H)−OR (III)
[式中、Rは前記の意味を表す]のビニルエーテルとを相互に反応させることにより製造する、請求項1記載の製法。
【請求項3】
がメチル、エチルまたはプロピル、または少なくとも1個のフッ素原子で置換されているメチル、エチルまたはプロピルである、請求項1記載の製法。
【請求項4】
がCF、CFH、CFCl、C、CまたはCFC(O)CHである、請求項1記載の製法。
【請求項5】
がメチル、エチル、n−プロピルまたはイソプロピルである、請求項1記載の製法。
【請求項6】
反応を2工程で実施し、その際第1の工程はビニルエーテルへの酸ハロゲン化物の付加であり、第2工程はハロゲン化水素の脱離である、請求項1記載の製法。
【請求項7】
第1工程を−15℃〜+50℃、有利に−15℃〜+30℃の範囲の温度で実施し、かつ第2工程を150℃まで、有利に30〜90℃の温度で実施する、請求項6記載の製法。
【請求項8】
カルボン酸クロリドを、化学量論量を下回る量で使用する、請求項1記載の製法。
【請求項9】
ビニルエーテルとカルボン酸クロリドとのモル比が0.8:1〜1:0.8の範囲である、請求項8記載の製法。
【請求項10】
安定剤として、1つ以上のC〜C−アルキル基により置換されているフェノール、有利に2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールを使用する、請求項1記載の製法。

【公表番号】特表2006−527170(P2006−527170A)
【公表日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−508186(P2006−508186)
【出願日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【国際出願番号】PCT/EP2004/005466
【国際公開番号】WO2004/108647
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(592165314)ゾルファイ フルーオル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (55)
【氏名又は名称原語表記】Solvay Fluor GmbH
【住所又は居所原語表記】Hans−Boeckler−Allee 20,D−30173 Hannover,Germany
【Fターム(参考)】