説明

アルコールの製造方法

【課題】 本発明の課題は、触媒の存在下、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させて一段階の反応工程でアルコールを製造する方法において、従来よりも高い直鎖選択性を有するアルコールを製造する方法を提供することにある。
【解決手段】 周期表の第8〜10族遷移金属化合物、単座の有機ホスフィン化合物、及び二座の有機リン系化合物の混合物の存在下、プロトン性溶媒中、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させてアルコールを製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールの製造方法に関し、より詳細には触媒の存在下、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させて一段階の反応工程で高い直鎖選択性を有するアルコールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周期表の第8〜10族遷移金属と有機リン配位子からなる触媒の存在下に、オレフィン性化合物を水素および一酸化炭素と反応させてアルデヒド類を製造する方法は、ヒドロホルミル化反応として広く知られている。一般的に、得られるアルデヒド類の内、より直鎖性の高いアルデヒドが有用であり、その直鎖選択性を高めるために様々な有機リン配位子が開発されている。そのようにして得られた直鎖性の高いアルデヒドは、通常、水素化反応させてアルコールにするか、縮合反応によって分子量の大きなアルデヒドに変換した後に水素化反応させて、より分子量の大きなアルコールに変換することで、可塑剤の原料、接着剤や塗料の原料などに用いられている。
【0003】
縮合工程の必要のないアルコールの製造に注目するならば、オレフィン性化合物から一段階の反応工程で直接アルコールが得ることができれば、別途、水素化反応工程や水素化反応用の触媒を持つ必要がなくなり、経済的に有利なプロセスとなりうる。
そのようなオレフィン性化合物から一段階の反応工程でアルコールを得る触媒系としては、古くはトリアルキルホスフィンを配位子として持つコバルト系の触媒が知られているが、コバルト系の触媒では、通常、反応温度として160〜200℃、反応圧力として5〜10MPaといった厳しい反応条件が必要であるため、近年においては、より穏和な条件で反応が進行するロジウム触媒系に注目が集まっている。ロジウム−有機リン系化合物からなる触媒系による一段階反応でのアルコール類の製造に関する例としては、非特許文献1、非特許文献2および特許文献1のように、アルコール溶媒中で、ロジウムとトリアルキルホスフィンからなる触媒の存在下、オレフィン性化合物を水素と一酸化炭素と反応させる方法が知られている。しかしながら、目的とする直鎖型のアルコールの選択性は低く、副生成物である分岐型アルコールに対する直鎖型アルコールの生成比は、反応を押切った状態で2.5程度(直鎖選択性=71%程度)と低い値である。
【特許文献1】欧州特許0420510号公報
【非特許文献1】J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1990, P165
【非特許文献2】J. Chem. Soc., Dalton Trans., 1996, p1161
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した通り、ロジウム−トリアルキルホスフィン触媒を用いれば、一段階の反応工程で原料のオレフィン性化合物からアルコールを製造することは可能であるが、目的とする直鎖型のアルコールの選択性が低いことが大きな問題として残っている。そのため、反応工程は同じく一段階であり、より直鎖選択性が高いアルコールを直接製造する新たな方法が提示されれば、経済的に有利な有効な手法の一つとなり、非常に重要性が高いと言える。
【0005】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、触媒の存在下、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させて一段階の反応工程でアルコールを製造する方法において、従来よりも高い直鎖選択性を有するアルコールを製造する方法を提供することに存する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、オレフィン性化合物から高い直鎖選択性を有するアルコールを一段階の反応工程で得る方法を鋭意検討していく中で、従来から知られている周期表の第8〜10族遷移金属と単座の有機ホスフィン化合物からなる触媒系に、オレフィン性化合物のヒドロホルミル化反応において高い直鎖選択性を示す二座の有機リン系化合物を加えることで、アルコールの直鎖選択性が大きく改善できることを見出し、本発明に到達した。
即ち本発明の要旨は、下記(1)〜(5)に存する。
【0007】
(1) 周期表の第8〜10族遷移金属化合物、単座の有機ホスフィン化合物、及び二座の有機リン系化合物の混合物の存在下、プロトン性溶媒中、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させてアルコールを製造する方法。
(2) アルコールの直鎖選択性が80%以上である上記(1)に記載の方法。
(3) 二座の有機リン系化合物が、下記条件においてアルデヒドの直鎖選択性が80%以上となる能力を有する二座の有機リン系化合物であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の方法。
<条件>
(i)周期表の第8〜10族遷移金属化合物及び二座の有機リン系化合物の混合物の存在下であり、かつ単座の有機ホスフィン化合物の非存在下、プロトン性溶媒中、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させてアルデヒドを製造する。
(ii)上記(i)以外の諸条件は、周期表の第8〜10族遷移金属化合物、単座の有機ホスフィン化合物、及び二座の有機リン系化合物の混合物の存在下、プロトン性溶媒中、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させてアルコールを製造する場合の条件と同一。
(4) 周期表の第8〜10族遷移金属化合物がロジウムである上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5) アルコールの収率が60%以上である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、触媒の存在下、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させて一段階の反応工程でアルコールを製造する方法において、従来よりも高い直鎖選択性を有するアルコールを製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明につき詳細に説明する。
本発明のアルコールの製造方法は、周期表の第8〜10族遷移金属化合物、単座の有機ホスフィン化合物、及び二座の有機リン系化合物の混合物の存在下、プロトン性溶媒中、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させてアルコールを製造することを特徴とする。
【0010】
本発明において、「周期表の第8〜10族遷移金属化合物、単座の有機ホスフィン化合物、及び二座の有機リン系化合物の混合物」が本発明で使用される触媒である。
初めに、本発明の製造方法で使用される触媒について説明する。遷移金属化合物としては、周期表の第8〜10族(IUPAC無機化学命名法改訂版(1998)による)に属する遷移金属からなる群より選ばれる、一以上の遷移金属を含む化合物が使用される。具体的には、鉄化合物、ルテニウム化合物、オスミウム化合物、コバルト化合物、ロジウム化合物、イリジウム化合物、ニッケル化合物、パラジウム化合物及び白金化合物等が挙げられるが、中でもルテニウム化合物、ロジウム化合物、イリジウム化合物、ニッケル化合物、パラジウム化合物及び白金化合物が好ましく、特にロジウム化合物が好ましい。これらの化合物の種類は任意であるが、具体例としては、上記遷移金属の酢酸塩、アセチルセトネイト化合物、ハライド、硫酸塩、硝酸塩、有機塩、無機塩、アルケン配位化合物、アミン配位化合物、ピリジン配位化合物、一酸化炭素配位化合物、ホスフィン配位化合物、ホスファイト配位化合物等が挙げられる。
【0011】
遷移金属化合物の具体例を列記すると、鉄化合物としては、Fe(OAc)2、Fe(acac)3、FeCl2、Fe(NO33等が挙げられる。ルテニウム化合物としては、RuCl3、Ru(OAc)3、Ru(acac)3、RuCl2(PPh33等が挙げられる。オスミウム化合物としては、OsCl3、Os(OAc)3等が挙げられる。コバルト化合物としては、Co(OAc)2、Co(acac)2、CoBr2、Co(NO32等が挙げられる。ロジウム化合物としては、RhCl3、RhI3、Rh(NO33、Rh(OAc)3、RhCl(CO)(PPh32、RhH(CO)(PPh33、RhCl(PPh33、Rh(acac)3、Rh(acac)(CO)2、Rh(acac)(cod)、[Rh(OAc)22、[Rh(OAc)22、[Rh(OAc)(cod)]2、[RhCl(CO)]2、[RhCl(cod)]2、Rh4(CO)12等が挙げられる。イリジウム化合物としては、IrCl3、Ir(OAc)3、[IrCl(cod)]2が挙げられる。ニッケル化合物としては、NiCl2、NiBr2、Ni(NO32、NiSO4、Ni(cod)2、NiCl2(PPh33等が挙げられる。パラジウム化合物としては、PdCl2、PdCl2(cod)、PdCl2(PPh32、Pd(PPh34、Pd2(dba)3、K2PdCl4、PdCl2(CH3CN)2、Pd(NO32、Pd(OAc)2、PdSO4、Pd(acac)2等が挙げられる。白金化合物としては、Pt(acac)2、PtCl2(cod)、PtCl2(CH3CN)2、PtCl2(PhCN)2、Pt(PPh34、K2PtCl4、Na2PtCl6、H2PtCl6が挙げられる。なお、以上の例示において、codは1,5−シクロオクタジエンを、dbaはジベンジリデンアセトンを、acacはアセチルアセトネイトを、Acはアセチル基を、Ph基はフェニル基をそれぞれ表す。
【0012】
遷移金属化合物の種類は特に制限されず、活性な金属錯体種であれば、単量体、二量体、及び/又は多量体の何れであっても構わない。
遷移金属化合物の使用量については特に制限はないが、触媒活性と経済性の観点から、通常、反応媒体中の遷移金属化合物濃度として、通常0.1ppm以上、好ましくは1ppm以上、より好ましくは10ppm以上であり、通常10000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下である。
【0013】
続いて、本発明に用いられる単座の有機ホスフィン化合物について述べる。本発明に用いることのできる単座の有機ホスフィン化合物は、一般式で表すと、
【0014】
【化1】

【0015】
(上記式中、R1、R2、R3は、それぞれ独立に、置換基を有していても良い炭素数1〜30のアルキル基、アリール基を表す。置換基としては、反応系に悪影響を及ぼす虞のないものであれば特に制限されないが、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ホルミル基、鎖状又は環状の、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールアルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルアリーロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミノ基、アミド基、アシル基、又はアシロキシ基の中から選ばれるものである。)と表される。特に、当該有機ホスフィン化合物は、触媒活性を十分に発揮させるためにも、反応条件下で溶解しているものが好ましく、その分子量は、通常1500以下、好ましくは1000以下、より好ましくは800以下である。
【0016】
具体例としては、トリフェニルホスフィン、トリ−o−トリルホスフィン、1−ナフチルジフェニルホスフィン、4−メトキシフェニルジフェニルホスフィン、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスフィン、トリス(3,5−ジフェニルフェニル)ホスフィン、4−ジメチルアミノフェニルジ−2−ナフチルホスフィン等のトリアリール型の単座ホスフィン、ジフェニル−n−プロピルホスフィン、n−オクタデシルジフェニルホスフィン、ジ(3−t−ブチル−2−ナフチル)メチルホスフィン、イソプロピル−2−ナフチル−p−トリルホスフィン、2−エチルヘキシルジ(4−フルオロフェニル)ホスフィン等のジアリールモノアルキル型の単座ホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、ジエチル−4−メトキシフェニルホスフィン、ジ−n−オクチルフェニルホスフィン、t−ブチル−n−オクチル−3,5−ジメチルフェニルホスフィン、ジイソプロピル−2−ナフチルホスフィン、イソブチル−n−ペンチル−4−アセチルフェニルホスフィン等のモノアリールジアルキル型の単座ホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリ−n−オクチルホスフィン、トリ−n−オクタデシルホスフィン、n−オクタデシルジメチルホスフィン、ジエチル−n−オクチルホスフィン、エチルメチル−n−プロピルホスフィン、トリ−2−エトキシエチルホスフィン、イソブチルネオペンチル−n−ヘキシルホスフィン、トリ−2−エチルヘキシルホスフィン、トリベンジルホスフィン、トリネオペンチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−t−ブチルホスフィン、トリ−2−ブチルホスフィン、ジ−n−ヘキシル−1,1−ジメチルプロピルホスフィン、3−フェニルプロピルジ−t−ブチルホスフィン、2−ブチル−n−プロピル−3,3−ジメトキシプロピルホスフィン等のトリアルキル型の単座ホスフィンが挙げられる。これらの中でもR1、R2、R3の置換基の内、少なくとも一つの置換基がアルキル基であるようなジアリールモノアルキル型の単座ホスフィン、モノアリールジアルキル型の単座ホスフィン、若しくはトリアルキル型の単座ホスフィンが好ましく、R1、R2、R3のすべての置換基がアルキル基であるようなトリアルキル型の単座ホスフィンがより好ましい。トリアルキル型の単座ホスフィンの中でも、R1、R2、R3のすべての置換基が第一級アルキル基、すなわち、P原子に結合する炭素原子がCH2基であるアルキル基、であるようなトリ(第一級アルキル)型の単座ホスフィンが一層好ましい。特にR1、R2、R3のすべての置換基が無置換の直鎖型のアルキル基であるものがもっとも好ましい。上記の具体例の内、最も好ましい単座ホスフィンとしては、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリ−n−オクチルホスフィン、トリ−n−オクタデシルホスフィン、n−オクタデシルジメチルホスフィン、ジエチル−n−オクチルホスフィン、エチルメチル−n−プロピルホスフィンを挙げることができる。
【0017】
次に、本発明に用いられる二座の有機リン系化合物について述べる。本発明に用いることのできる二座の有機リン系化合物は、下記の(i)〜(ii)の条件においてアルデヒドの直鎖選択性が80%以上となる能力を有する二座の有機リン系化合物であれば特にその構造に制限はない。
【0018】
<条件>
(i)周期表の第8〜10族遷移金属化合物及び二座の有機リン系化合物の混合物の存在下であり、かつ単座の有機ホスフィン化合物の非存在下、プロトン性溶媒中、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させてアルデヒドを製造する。
(ii)上記(i)以外の諸条件は、周期表の第8〜10族遷移金属化合物、単座の有機ホスフィン化合物、及び二座の有機リン系化合物の混合物の存在下、プロトン性溶媒中、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させてアルコールを製造する場合の条件と同一。
【0019】
本発明においては、上記条件下で高い直鎖選択性を示すアルデヒドを生成する配位子であるほど、得られるアルコールの直鎖選択性が高まる傾向があるため、より直鎖選択性の高い二座の有機リン系化合物を用いることが好ましい。上記の好ましい二座の有機リン系化合物の選別基準として、実際にアルコールを製造しようとする条件において、単座の有機ホスフィン化合物の非存在下で反応を行い、得られるアルデヒドの直鎖選択性が80%以上を示すものを挙げているが、より好ましくは85%以上の直鎖選択性を示すものである。
【0020】
なお、上記(ii)の「上記(i)以外の諸条件は、周期表の第8〜10族遷移金属化合物、単座の有機ホスフィン化合物、及び二座の有機リン系化合物の混合物の存在下、プロトン性溶媒中、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させてアルコールを製造する場合の条件と同一」とは、本発明を実施する条件(周期表の第8〜10族遷移金属化合物、単座の有機ホスフィン化合物、及び二座の有機リン系化合物の混合物の存在下、プロトン性溶媒中、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させてアルコールを製造する実際の条件)と、単座の有機ホスフィン化合物を含有しない以外は同一の条件をいう。本発明に用いることのできる二座の有機リン系化合物の選択を上記の方法で評価する際には、単座の有機ホスフィン化合物を含有しないことによる触媒活性の向上がしばしば見られるため、除熱をしっかり取るなど、反応系の温度制御に注意を払う必要がある。
【0021】
一般的に、高い直鎖選択性を示すアルデヒドを生成させる二座の有機リン系化合物であるためには、遷移金属に2つのリンで挟むようにキレート配位する構造であることが好ましい。また、金属に配位可能なリン原子は三価のリン原子である必要があるが、三価のリン原子には3つの共有結合部位があり、それぞれが炭素原子、酸素原子、窒素原子等、様々な原子と共有結合する可能性が考えられるため、多種多様な二座の有機リン系化合物の可能性が考えられる。しかしながら、合成の容易さ、配位子としての性能、安定性等を考慮すると、二座の有機リン系化合物の各リンユニットは、リンに3つの炭素原子が結合したホスフィンタイプ、リンに2つの炭素原子と1つの酸素原子が結合したようなホスフィナイトタイプ、リンに1つの炭素原子と2つの酸素原子が結合したようなホスホナイトタイプ、リンに3つの酸素原子が結合したようなホスファイトタイプのいずれかであることが好ましい。その場合、二座の有機リン系化合物の2つのリンユニットは、ホスフィン−ホスフィン化合物(二座ホスフィン化合物)のように同じタイプのものであっても、ホスフィン−ホスファイト化合物のように異なるタイプの化合物であっても構わない。しかしながら、それらの中では、二座ホスフィン化合物、及び二座ホスファイト化合物が好ましく、特に、二座ホスフィン化合物が好ましい。
【0022】
従来の技術において、高い直鎖選択性を示すアルデヒドを生成する二座ホスフィン化合物、及び二座ホスファイト化合物としては、下の図のような基本骨格を有するものが知られており、本発明においてもそのような二座の有機リン系化合物を用いることが好ましい。
【0023】
【化2】

【0024】
(式中、R11〜R18は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、並びに、鎖状又は環状の、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アミノ基、アシル基、アシロキシ基、カルボキシ基、エステル基を表わす。これらの基は、更に置換基を有していても良く、任意の2つの置換基が結合を形成して環状構造を形成しても良い。また、R21〜R24は、それぞれ独立に、鎖状又は環状の、アルキル基、アリール基を表わす。これらの基は、更に置換基を有していても良く、R21とR22、及びR23とR24においては、独立に、互いに結合を形成して環状構造を形成しても良い。)
【0025】
【化3】

【0026】
(式中、R31〜R36は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、並びに、鎖状又は環状の、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アミノ基、アシル基、アシロキシ基、カルボキシ基、エステル基を表わす。これらの基は、更に置換基を有していても良く、任意の2つの置換基が結合を形成して環状構造を形成しても良い。また、R41〜R44は、それぞれ独立に、鎖状又は環状の、アルキル基、アリール基を表わす。これらの基は、更に置換基を有していても良く、R41とR42、及びR43とR44においては、独立に、互いに結合を形成して環状構造を形成しても良い。また、A1及びA2は、それぞれ独立に、O、S、SiR、NR、CRであり、ここで、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、鎖状又は環状の、アルキル基、アリール基である。)
【0027】
【化4】

【0028】
(式中、R51〜R58は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、並びに、鎖状又は環状の、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アミノ基、アシル基、アシロキシ基、カルボキシ基、エステル基を表わす。これらの基は、更に置換基を有していても良く、任意の2つの置換基が結合を形成して環状構造を形成しても良い。また、R61〜R64は、それぞれ独立に、鎖状又は環状の、アルキル基、アリール基を表わす。これらの基は、更に置換基を有していても良く、R61とR62、及びR63とR64においては、独立に、互いに結合を形成して環状構造を形成しても良い。)
【0029】
上記の3つのタイプの二座の有機リン系化合物の内、高い直鎖選択性を示すアルデヒドを生成させるという観点で、より好ましいものは、R21〜R24、R41〜R44、及びR61〜R64で表される二座の有機リン系化合物の末端置換基が、置換基を有していても良いアリール基であるものである。そのような好ましい構造の二座の有機リン系化合物の具体例を以下に示すが、L−1〜L−20までが好ましい二座ホスフィン化合物であり、L−21〜L−30までが好ましい二座ホスファイト化合物である。
【0030】
【化5】

【0031】
【化6】

【0032】
【化7】

【0033】
以上説明した第8〜10族遷移金属化合物、単座の有機ホスフィン化合物、及び二座の有機リン系化合物を用いることによって本発明の反応を実施する触媒系が形成される。用いる単座の有機ホスフィン化合物、及び二座の有機リン系化合物の量は特に制限されるものではないが、反応成績、触媒活性、及び触媒安定性等に対して望ましい結果が得られるように任意に設定される。単座の有機ホスフィン化合物は、遷移金属化合物1モル当たり通常0.1モル以上、好ましくは1モル以上、より好ましくは2モル以上であり、通常1000モル以下、好ましくは500モル以下、より好ましくは100モル以下である。一方、二座の有機リン系化合物の量については、遷移金属化合物1モル当たり通常0.1モル以上、好ましくは0.5モル以上、より好ましくは1モル以上であり、通常500モル以下、好ましくは100モル以下、より好ましくは50モル以下である。
【0034】
本発明の反応においては、主に、遷移金属−二座の有機リン系化合物活性種による高直鎖選択的なアルデヒド生成反応(その後、当該アルデヒドは反応系中で遷移金属−単座の有機ホスフィン活性種によって水素化されて高直鎖選択的なアルコールに変換)と、遷移金属−単座の有機ホスフィン活性種による低直鎖選択的なアルコール生成反応が同時に競争的に起こっていると考えられる。つまり、遷移金属−二座の有機リン系化合物活性種は得られるアルコールの直鎖選択性の向上に寄与し、遷移金属−単座の有機ホスフィン活性種は得られるアルコールの収率向上に寄与している。そのため、用いる単座の有機ホスフィン化合物と二座の有機リン系化合物の量関係を調整することで、反応成績を任意に調整することが可能となる。例えば、単座の有機ホスフィン化合物を比較的少なく用いた場合には、アルコール化生成速度は若干低下するが、アルコールの直鎖選択性は高まる傾向を示す。逆に単座の有機ホスフィン化合物を比較的多く用いた場合には、アルコール化生成速度は良好となるが、アルコールの直鎖選択性は若干低くなる傾向を示す。また、アルコールの直鎖選択性について更に言及すると、原料のオレフィン性化合物の転化率が低い段階やアルコールの収率の低い段階でアルコールの直鎖選択性を分析すると、見かけ上、アルコールの直鎖選択性が高まることが観測される。これは、競争的に生成するアルデヒドの内、直鎖型の方が分岐型よりも速い速度で遷移金属−単座の有機ホスフィン活性種によって水素化反応を受け、直鎖型のアルコールが優先的に生成するためである。よって、得られるアルコールの直鎖選択性の程度を議論する際には、アルコール収率が高い状態(例えば、アルコール収率が70%以上)でアルコールの直鎖選択性を評価すべきある。
【0035】
本発明においては、アルコールの収率が60%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上である。アルコールの収率を60%以上にするためには、基本的に反応を十分に押し切る条件を採用すれば達成される。例えば、触媒濃度を高めることや反応ゾーンにおける滞留時間を長く取る等の手法が挙げられる。その他、比較的高い反応温度(120〜150℃程度)や比較的高い反応圧力(4〜8MPa程度)の採用や、単座の有機ホスフィン化合物の存在量を増やすといったアルコール生成に適した反応条件を採用すればアルコールの収率を高めることができる。ただし、単座の有機ホスフィン化合物の存在量を増やした場合、前述したようにアルコールの直鎖選択性が低下する傾向が見られるため、必要以上に加えすぎないように注意する必要がある。
【0036】
また、本発明においては、アルコールの直鎖選択性が80%以上であることが好ましい。本発明における「アルコールの直鎖選択性とは、原料となるオレフィン性化合物から本発明の手法によって得られるあらゆるタイプのアルコールのモル数をyとし、その中で−CH−CH−OH構造を有するアルコールのモル数をxとした場合に、x/y×100の計算式によって表される数値である。本発明において、アルコールの直鎖選択性を80%以上にするためには、上記の二座の有機リン系化合物として、より高い直鎖選択性を有するアルデヒドを生成するものを選択すること、および系中に存在させる単座の有機ホスフィン化合物の量を必要以上に多く用いないことが重要な点となる。
【0037】
続いて、触媒の調製に関して述べる。触媒の調製は、別途設けた触媒調製ゾーンで予め調製してから当該触媒を反応ゾーンに加えても良いし、それぞれを個別に反応ゾーンに添加して反応ゾーン内で触媒調製を行っても良い。もしくは、反応後、生成物系と触媒系とを分離し、その触媒を再び反応ゾーンにリサイクルして用いても良い。この場合、触媒の劣化や消失の度合いに応じて、適宜遷移金属化合物、単座の三価のリン化合物、及び二座の有機リン系化合物のいずれか、またはすべてを追加して補うことが望ましい。
【0038】
その際、触媒の接触順番については特に制限されないが、遷移金属化合物、単座の有機ホスフィン化合物、及び二座の有機リン系化合物の内、いずれか2つを先に混合して触媒前駆成分を調製し、後に残りの1成分を加えて触媒成分を調製しても良いし、3つを同時に混合して触媒成分を調製しても良い。肝心なことは、反応ゾーンにおいて遷移金属化合物、単座の有機ホスフィン化合物、及び二座の有機リン系化合物の3種が所定の量で共存することである。
【0039】
具体的な触媒の調製方法においては、遷移金属化合物、単座の有機ホスフィン化合物、及び二座の有機リン系化合物のそれぞれをそのまま混合して触媒調製を行っても良いし、予めそれぞれを有機溶媒等で溶解させたものを混合しても良いし、それぞれの成分および有機溶媒等を任意の順番で混合し溶解させて触媒調製を行っても良い。これらの方法において、反応ゾーンで速やかに触媒反応を開始させるようにするためにも、触媒は溶解した状態で反応ゾーンに導かれることが好ましい。また、場合によっては、触媒を調製して反応ゾーンに導入する前に、加熱処理や触媒活性種への変換に必要なガス処理、例えば水素や一酸化炭素等のガスとの加圧接触を予め行ってから触媒を反応ゾーンに導入しても良い。
【0040】
本発明に適用可能なオレフィン性化合物について述べる。本発明のアルコール製造方法に適用されるオレフィン性化合物としては、炭素数3以上の化合物であって分子内にオレフィン性二重結合を少なくとも1つ有する化合物であれば特にその構造に制限されるものではなく、飽和炭化水素基のみによって置換されたオレフィン性化合物、不飽和炭化水素基を含む炭化水素基によって置換されたオレフィン性化合物、または、ヘテロ原子を含む官能基により置換されたオレフィン性化合物等、いずれのオレフィン性化合物にも適用できる。
【0041】
具体的な例を挙げると、飽和炭化水素基のみにより置換されたオレフィン性化合物としては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、1−ドコセン等の直鎖状末端オレフィン性炭化水素、イソブテン、2−メチル−1−ブテン等の分岐状末端オレフィン性炭化水素、シス及びトランス−2−ブテン、シス及びトランス−2−ヘキセン、シス及びトランス−3−ヘキセン、シス及びトランス−2−オクテン、シス及びトランス−3−オクテン、シス及びトランス−4−オクテン等の直鎖状内部オレフィン性炭化水素、ブテン類の二量化により得られるオクテン、プロピレンや1−ブテンやイソブテン等の低級オレフィンの二量体〜四量体のようなオレフィンオリゴマー異性体混合物等の末端オレフィン性炭化水素〜内部オレフィン性炭化水素混合物等が挙げられる。不飽和炭化水素基を含む炭化水素基により置換されたオレフィン性化合物の例としては、スチレン、α−メチルスチレン、アリルベンゼンのような芳香族基を有するオレフィン性化合物、1,3−ブタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンのようなジエン化合物等が挙げられる。その他、ヘテロ原子を含む官能基により置換されたオレフィン性化合物の例としては、ビニルエチルエーテル、アリル−n−プロピルエーテル、1−メトキシ−2,7−オクタジエン等のオレフィン性二重結合を有するエーテル類、アリルアルコール、1−ヘキセン−4−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール、3−ヒドロキシ−1,7−オクタジエン、1−ヒドロキシ−2,7−オクタジエン等のオレフィン性二重結合を有するアルコール類、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、1−アセトキシ−2,7−オクタジエン、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン等のオレフィン性二重結合を有するエステル類のほか、7−オクテン−1−アール、アクリロニトリル等が挙げられる。
【0042】
本発明の製造方法を実施するに当たっては、反応はプロトン性溶媒中で実施する。プロトン性溶媒とは、解離して容易にプロトン(H+)を放出することが可能な溶媒である。具体的な例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブチルアルコール、n−ペンタノール、ネオペンチルアルコール、n−ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、n−オクタノール、n−ノナノール、n−デカノール等のアルコール類、フェノール、2−メチルフェノール、3−メチルフェノール、4−メチルフェノール、4−t−ブチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、4−フルオロフェノール、4−トリフルオロメチルフェノール、2−ニトロフェノール等のフェノール類、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、シクロヘキサンカルボン酸等のカルボン酸類、ホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、プロピオンアミド等のように窒素原子状に少なくとも一つの水素原子を有するアミド類、メチルチオール、エチルチオール、n−プロピルチオール、イソプロピルチオール等のチオール類、ベンゼンチオール、p−トルエンチオール等のチオフェノール類、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、ニトロエタン、マロノニトリル等のように活性メチレン基を有する化合物のほか、水を挙げることができる。これらの中で特にアルコール類が好ましいプロトン性溶媒である。精製工程の負荷低減という観点からすると、製品として製造するアルコールをプロトン性溶媒として用いるのが好ましい。
【0043】
用いるプロトン性溶媒の量は、反応媒体の総重量に対して通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上であり、通常95重量%以下であり、好ましくは90重量%以下である。溶媒は、単一の化合物で形成されていても複数の化合物の混合物で形成されていても良いが、溶媒の全重量において、少なくとも1重量%以上、好ましくは5重量%以上、更に好ましくは10重量%以上のプロトン性溶媒を含有していることが必要である。溶媒がプロトン性溶媒以外の成分を含有している場合、用いることのできるその他の溶媒については、触媒及び原料化合物とを溶解するものであって、触媒活性に悪影響を及ぼさないものであれば、任意の溶媒を使用可能であり、その種類には特に限定はない。例えば、ジグライム、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、ジアリルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル類、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のように窒素原子上に水素原子を持たないアミド類、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−t−ブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン、ジ−n−オクチルフタレイト、ジ−2−エチルヘキシルフタレイト、ジ−2−エチルヘキシルテレフタレイト等のエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレン、ドデシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類等が挙げられる。その他、原料のオレフィン性化合物の過剰量をその他の溶媒として使用することも可能であり、また、本発明の反応系中で生成するアルデヒド類やアルコール類に基づいた縮合二量体や縮合三量体、アセタール化生成物等の高沸点化合物を使用することも可能である。本発明においては、特に、原料のオレフィン性化合物から生成されるアルコールを、そのままプロトン性溶媒として用いると、経済的に有利なプロセスとなり得る。具体的には、原料オレフィン性化合物としてプロピレンを用いた場合には、プロトン性溶媒としてn−ブタノールやイソブタノールを用いることが好ましい。
【0044】
本発明のアルコール製造反応を行うための反応条件について説明する。水素分圧、一酸化炭素分圧、原料、生成物、溶媒等の蒸気圧の総和で形成される反応圧力は、通常0.01MPa以上、好ましくは0.1MPa以上、より好ましくは0.5MPa以上であり、通常30MPa以下、好ましくは20MPa以下、より好ましくは10MPa以下である。反応圧力が低すぎると遷移金属化合物が失活してメタル化してしまう懸念がある他、触媒活性自体十分に発現せず、アルコール収率が低下することが予想される。また、逆に高すぎると得られるアルコールの直鎖選択性が低下する傾向が見られるため好ましくない。また、特に、水素分圧は好ましくは0.005MPa以上、より好ましくは0.01MPa以上であり、好ましくは20MPa以下、より好ましくは10MPa以下である。水素分圧が低すぎると反応活性の低下が懸念され、高すぎると原料オレフィン性化合物の水素化反応の進行の伴う浪費が予想される。一酸化炭素分圧は好ましくは0.005MPa以上、より好ましくは0.01MPa以上であり、好ましくは15MPa以下、より好ましくは8MPa以下である。一酸化炭素分圧が低すぎると反応活性の低下、特に遷移金属化合物のメタル化が懸念され、高すぎると得られるアルコールの直鎖選択性の低下が予想される。水素と一酸化炭素のモル比は、1:10〜10:1であり、より好ましくは1:2〜8:1であり、更に好ましくは1:1〜5:1である。また、反応温度は、通常25℃以上、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上であり、通常300℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下である。反応温度が低すぎると反応活性自体が十分に得られないことが予想され、高すぎると得られるアルコールの直鎖選択性の低下や配位子の熱分解による消失などが予想される。
【0045】
本発明の反応方式としては、撹拌型反応槽、又は気泡塔型反応槽中で、連続式、半連続式、又はバッチ式操作のいずれでも容易に実施し得る。未反応原料オレフィン性化合物や生成物類と触媒との分離は、通常、単蒸留、減圧蒸留、薄膜蒸留、水蒸気蒸留等の蒸留操作のほか、気液分離、蒸発(エバポレーション)、ガスストリッピング、ガス吸収及び抽出等の公知の方法で行うことができる。蒸留条件は特に制限されるものではなく、生成物の揮発性、熱安定性、及び触媒成分の揮発性、熱安定性等を考慮して望ましい結果が得られるように任意に設定されるが、通常、50〜300℃の温度、760〜0.01mmHgの圧力条件の範囲から選ばれる。分離操作において、未反応の原料やアルコール前駆体のアルデヒド類が得られた場合には、反応工程にリサイクルし、再利用することがより経済的で望ましい。また、蒸留を行うに当たって、溶媒の使用は必須ではないが、必要ならば生成物類や触媒成分に不活性な溶媒を存在させることができる。分離した触媒を含む残液からは、公知の方法により第8〜10族遷移金属を回収することができるし、あるいは残液の全量若しくは一部を反応工程にリサイクルし、触媒を再利用することもできる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1
触媒調製用のガラス容器に、窒素雰囲気下でRh(acac)(CO)2(11.2mg、0.0434mmol)、二座ホスフィン(上記L−1)(119.5mg、0.217mmol、Rhの5等量)、およびトリ−n−オクチルホスフィン(66.2mg、0.179mmol、Rhの4等量)を仕込み、エタノール(11.4ml)とガスクロマトグラフィー分析用の内部標準であるn−ヘプタン(0.8ml)加えて溶解させ、当該溶液を別途用意した内容量50mlのステンレス鋼オートクレーブに窒素雰囲気下で仕込んだ。更にプロピレン(1.15g、27.33mmol)を圧入した後、オートクレーブを密閉した。当該オートクレーブを120℃まで昇温した後、水素および一酸化炭素の混合ガス(混合比:水素/一酸化炭素=1/1)を系内圧力が2.5MPaになるように圧入して反応を開始した。なお、混合ガスはオートクレーブ内に取り付けられたフィード管を通して、反応液中にバブリングさせながら導入し、反応液の撹拌はオートクレーブ内に磁性撹拌子を予め入れておき、磁性撹拌機を用いて撹拌した。また、混合ガスは、反応器内でガスが消費され内圧が低下した場合には、蓄圧器から二次圧力調整器を通して自動供給されるようにし、絶えず系内圧力が2.5MPaに保てるようにした。反応は、蓄圧器の内圧をモニタリングし、ガス消費に伴う蓄圧器の圧力低下がほぼ停止するまで継続した。
【0047】
反応終了後、オートクレーブを室温まで冷却し、反応液を取り出してガスクロマトグラフィーで分析し、生成物濃度を測定した。その結果、n−ブタノール収率は67.4%、i−ブタノール収率は8.8%(アルコール収率=76.2%)、n−ブチルアルデヒド収率は13.6%、i−ブチルアルデヒド収率は9.5%であった。すなわち、得られたアルコールの内、分岐型アルコール(i−ブタノール)に対する直鎖型アルコール(n−ブタノール)の生成比は、7.7(直鎖選択性=88.5%)であった。
【0048】
参考例1(実施例1のデータ)
実施例1において、単座の有機ホスフィン化合物であるトリ−n−オクチルホスフィンを加えなかったこと以外は同様にして反応を実施し分析を行った。その結果、n−ブタノール収率は1.7%、i−ブタノール収率は0.06%、n−ブチルアルデヒド収率は91.2%、i−ブチルアルデヒド収率は4.7%(アルデヒド収率=95.9%)であった。すなわち、得られたアルデヒドの内、分岐型アルデヒドに対する直鎖型アルデヒドの生成比は、19.4(直鎖選択性=95.1%)であり、実施例1で用いた二座ホスフィン(L−1)は、本発明に好ましく用いることのできる二座の有機リン系化合物であることが分かる。
【0049】
実施例2
実施例1において、二座ホスフィン(L−1)の代わりに二座ホスフィン(上記L−11)を用い、その添加量を100.5mg(0.174mmol、Rhの4等量)とした以外は同様にして反応を実施し分析を行った。その結果、n−ブタノール収率は75.4%、i−ブタノール収率は11.0%(アルコール収率=86.4%)、n−ブチルアルデヒド収率は5.8%、i−ブチルアルデヒド収率は6.6%であった。すなわち、得られたアルコールの内、分岐型アルコールに対する直鎖型アルコールの生成比は、6.9(直鎖選択性=87.3)であった。
【0050】
参考例2(実施例2のデータ)
実施例2において、単座の有機ホスフィン化合物であるトリ−n−オクチルホスフィンを加えなかったこと以外は同様にして反応を実施し分析を行った。その結果、n−ブタノール収率は1.2%、i−ブタノール収率は0.2%、n−ブチルアルデヒド収率は84.1%、i−ブチルアルデヒド収率は11.6%(アルデヒド収率=95.7%)であった。すなわち、得られたアルデヒドの内、分岐型アルデヒドに対する直鎖型アルデヒドの生成比は、7.3(直鎖選択性=88.0%)であり、実施例2で用いた二座ホスフィン(L−11)は、本発明に好ましく用いることのできる二座の有機リン系化合物であることが分かる。
【0051】
比較例1
実施例1において、二座ホスフィン(L−1)を加えなかったこと以外は同様にして反応を実施し分析を行った。その結果、n−ブタノール収率は64.0%、i−ブタノール収率は27.8%(アルコール収率=91.8%)、n−ブチルアルデヒド収率は0.6%、i−ブチルアルデヒド収率は4.8%であった。すなわち、得られたアルコールの内、分岐型アルコールに対する直鎖型アルコールの生成比は、2.3(直鎖選択性=69.7%)であり、本発明の方法で得られるアルコールの直鎖選択性の向上効果が分かる。
【0052】
比較例2
実施例1において、二座ホスフィン(L−1)の代わりに下記二座ホスフィン(L−31)を用い、その添加量を73.9mg(0.173mmol、Rhの4等量)とした以外は同様にして反応を実施し分析を行った。その結果、n−ブタノール収率は54.8%、i−ブタノール収率は15.2%(アルコール収率=70.0%)、n−ブチルアルデヒド収率は11.3%、i−ブチルアルデヒド収率は16.2%であった。すなわち、得られたアルコールの内、分岐型アルコールに対する直鎖型アルコールの生成比は、3.6(直鎖選択性=78.3)であった。
【0053】
【化8】

【0054】
参考例3(比較例2用)
比較例2において、単座の有機ホスフィン化合物であるトリ−n−オクチルホスフィンを加えなかったこと以外は同様にして反応を実施し分析を行った。その結果、n−ブタノール収率は2.0%、i−ブタノール収率は0.5%、n−ブチルアルデヒド収率は66.0%、i−ブチルアルデヒド収率は27.7%(アルデヒド収率=93.7%)であった。すなわち、得られたアルデヒドの内、分岐型アルデヒドに対する直鎖型アルデヒドの生成比は、2.4(直鎖選択性=70.6%)であり、比較例2で用いた二座ホスフィン(L−31)は、本発明には好ましく用いることのできない二座の有機リン系化合物であることが分かる。更に、その場合には、比較例2のように、得られるアルコールの直鎖選択性も低い値となる。
以下に、上記の結果を表にまとめて記す。
【0055】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期表の第8〜10族遷移金属化合物、単座の有機ホスフィン化合物、及び二座の有機リン系化合物の混合物の存在下、プロトン性溶媒中、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させてアルコールを製造する方法。
【請求項2】
アルコールの直鎖選択性が80%以上である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
二座の有機リン系化合物が、下記条件においてアルデヒドの直鎖選択性が80%以上となる能力を有する二座の有機リン系化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
<条件>
(i)周期表の第8〜10族遷移金属化合物及び二座の有機リン系化合物の混合物の存在下であり、かつ単座の有機ホスフィン化合物の非存在下、プロトン性溶媒中、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させてアルデヒドを製造する。
(ii)上記(i)以外の諸条件は、周期表の第8〜10族遷移金属化合物、単座の有機ホスフィン化合物、及び二座の有機リン系化合物の混合物の存在下、プロトン性溶媒中、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させてアルコールを製造する場合の条件と同一。
【請求項4】
周期表の第8〜10族遷移金属化合物がロジウムである請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
アルコールの収率が60%以上である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2006−312612(P2006−312612A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−136474(P2005−136474)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】