説明

アルコール化合物の製造方法

【課題】水素化ホウ素化合物を用いることなく、カルボン酸エステル化合物をアルコール化合物に還元する新規な製造方法を提供する。
【解決手段】イミダゾリウム塩(A)、ルテニウム化合物(B)及び塩基(C)を反応させてルテニウム錯体を得る第1工程、及び
第1工程で得られたルテニウム錯体の存在下、カルボン酸エステル化合物を水素で還元する第2工程を含むことを特徴とするアルコール化合物の製造方法。
好ましいイミダゾリウム塩(A)は、分子内にアミノ基とイミダゾール環とを有し、該アミノ基と該イミダゾール基とが連結基を介して結合している部分構造を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール化合物の製造方法および該製造方法に有用なルテニウム錯体等に関する。
【背景技術】
【0002】
2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルエステルなどのカルボン酸エステル化合物を還元して2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールなどのアルコール化合物を製造する方法としては、例えば、水素化ホウ素化合物による還元が特許文献1に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−023006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、水素化ホウ素化合物を用いることなく、カルボン酸エステル化合物をアルコール化合物に還元する新規な製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討したところ、以下の本発明に至った。
すなわち、本発明は、
<1> イミダゾリウム塩(A)、ルテニウム化合物(B)及び塩基(C)を反応させてルテニウム錯体を得る第1工程、及び
第1工程で得られたルテニウム錯体の存在下、カルボン酸エステル化合物を水素で還元する第2工程を含むことを特徴とするアルコール化合物の製造方法;
【0006】
<2> イミダゾリウム塩(A)が、分子内にアミノ基とイミダゾール環とを有し、該アミノ基と該イミダゾール基とが連結基を介して結合している部分構造を含むことを特徴とする<1>記載の製造方法;
<3> 連結基が、置換基を有していてもよいアルキレン基であることを特徴とする<2>記載の製造方法;
<4> 該イミダゾール環が、式(1)

(式中、Rは置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を表す。RおよびRは、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を表すか、またはRとRとが結合して、RとRとがそれぞれ結合する炭素原子と一緒になって環を表す。波線は結合手を表す。)
で示されるイミダゾール環であることを特徴とする<2>又は<3>記載の製造方法;
<5> 該アミノ基が式(2)

(式中、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表すか、RとRとが結合して一緒になって炭素数2〜8のアルキレン基を表す。波線は結合手を表す。)
で示されるアミノ基であることを特徴とする<2>〜<4>のいずれか記載の製造方法;
<6> イミダゾリウム塩(A)が、式(3)

(式中、Rは置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を表す。RおよびRは、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を表すか、またはRとRとが結合して、RとRとがそれぞれ結合する炭素原子と一緒になって環を表す。RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表すか、RとRとが結合して一緒になって炭素数2〜8のアルキレン基を表す。Qは置換基を有していてもよいアルキレン基を表し、Xは1価のアニオンを表す。)
で示される含アミンイミダゾリウム塩であることを特徴とする<1>〜<5>のいずれか記載の製造方法;
【0007】
<7> ルテニウム化合物(B)が、ルテニウム原子及びハロゲン原子を含むことを特徴とする<1>〜<6>のいずれか記載の製造方法;
<8> ルテニウム化合物(B)が、ハロゲン化ルテニウム、芳香族化合物が配位したルテニウム ジハライド ダイマー、ジエンが配位したルテニウム ジハライド ポリマーおよびトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする<1>〜<6>のいずれか記載の製造方法;
<9> 塩基(C)が、アルカリ金属アルコキシド、アルカリ金属水素化物およびアルカリ金属ビス(トリアルキルシリル)アミドからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする<1>〜<8>のいずれか記載の製造方法;
【0008】
<10> カルボン酸エステル化合物が、式(4)

(式中、RおよびRはそれぞれ互いに独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基または置換基を有していてもよいアリール基を表す。)
で示されるカルボン酸エステル化合物であり、得られるアルコール化合物が、式(5)

(式中、Rは上記と同一の意味を表す。)
で示されるアルコール化合物であることを特徴とする<1>〜<9>のいずれか記載の製造方法;
<11> カルボン酸エステル化合物が、式(9)

(式中、Rは、置換基を有していてもよいアルキレン基を表す。)
で示されるラクトンであり、得られるアルコール化合物が式(10)

(式中、Rは上記と同一の意味を表す。)
で示されるアルコール化合物であることを特徴とする<1>〜<9>のいずれか記載の製造方法;
<12> カルボン酸エステル化合物が、式(6)

(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは互いに独立に、水素原子またはハロゲン原子を表す。ただし、Xの少なくとも一つはハロゲン原子である。)
で示されるハロゲン置換テレフタル酸ジエステルであり、得られるアルコール化合物が、式(7)

(式中、RおよびXはそれぞれ上記と同一の意味を表す。)
で示されるハロゲン置換(4−ヒドロキシメチル)安息香酸エステルおよび/または式(8)

(式中、Xはそれぞれ上記と同一の意味を表す。)
で示されるハロゲン置換ベンゼンジメタノールであることを特徴とする<1>〜<9>のいずれか記載の製造方法;
【0009】
<13> 第2工程におけるルテニウム錯体の使用量が、ルテニウム原子に換算した量として、カルボン酸エステル化合物におけるカルボニルオキシ基(−C(=O)−O−)1モルに対して0.001〜0.2モルの範囲であることを特徴とする<1>〜<12>のいずれか記載の製造方法;
<14> 第2工程が、ルテニウム錯体及び塩基の存在下、カルボン酸エステル化合物を水素で還元する工程であることを特徴とする<1>〜<13>のいずれか記載の製造方法;
<15> イミダゾリウム塩(A)、ルテニウム化合物(B)及び塩基(C)を反応させて得られるルテニウム錯体;
<16> イミダゾリウム塩(A)、ルテニウム化合物(B)及び塩基(C)を反応させて得られたルテニウム錯体の存在下、カルボン酸エステル化合物を水素で還元することを特徴とするアルコール化合物の製造方法;
等である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、カルボン酸エステル化合物をアルコール化合物に還元することのできる新規な製造方法及び該製造方法に好適な触媒が提供可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の製造方法は、イミダゾリウム塩(A)、ルテニウム化合物(B)及び塩基(C)を反応させてルテニウム錯体を得る第1工程、及び
第1工程で得られたルテニウム錯体の存在下、カルボン酸エステル化合物を水素で還元する第2工程を含む。
【0012】
上記イミダゾリウム塩(A)は、例えば、分子内にアミノ基とイミダゾール環とを有し、該アミノ基と該イミダゾール基とが連結基を介して結合している部分構造を含む塩を挙げることができる。
該連結基は、該イミダゾール環に含まれる窒素原子または炭素原子(好ましくは窒素原子)と、該アミノ基の窒素原子とを連結しているものが好ましい。
イミダゾリウム塩(A)は、該塩に含まれるイミダゾール環の一方の窒素原子に、該アミノ基、該連結基、これらと異なる置換基等と結合して4級アンモニウムカチオンとなっており、さらに、ハロゲンイオン、水酸化イオンなどのアニオンを有することによって塩となっている。
【0013】
イミダゾール環には置換基が結合していてもよい。置換基としては、例えば、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基等が挙げられる。
上記イミダゾール環に結合してもよい置換基のうち、上記置換基を有していてもよいアルキル基は、直鎖状、分枝鎖状および環状の何れであってもよく、炭素数1〜20のアルキル基が好ましい。
上記置換基を有していてもよいアルキル基のうち、無置換のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、デシル基等の直鎖状または分枝鎖状の炭素数1〜20のアルキル基;シクロプロピル基、2,2−ジメチルシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メンチル基等の炭素数3〜10のシクロアルキル基等が挙げられる。
【0014】
上記置換基を有していてもよいアルキル基における置換基としては、例えば、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、ハロゲン原子等を挙げることができる。
上記置換基を有していてもよいアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などの炭素数6〜10のアリール基;2−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基等の炭素数1〜4のアルキル置換アリール基;4−クロロフェニル基等のハロゲン置換アリール基;4−メトキシフェニル基等の炭素数1〜4のアルコキシ置換アリール基等が挙げられる。
上記置換基を有していてもよいアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;フルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基等の炭素数1〜6のハロアルコキシ基;ベンジルオキシ基;4−メチルベンジルオキシ基等の(C1〜C4アルキル)置換ベンジルオキシ基;4−メトキシベンジルオキシ基等の(C1〜C4アルコキシ)置換ベンジルオキシ基;3−フェノキシベンジルオキシ基等のフェノキシ置換ベンジルオキシ基;メトキシメトキシ基、エトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基等の(C1〜C4アルコシキ)置換C1〜C4アルコキシ基等が挙げられる。
上記置換基を有していてもよいアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基;2−メチルフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基などの[(C1〜C4アルキル)置換アリール]オキシ基;4−メトキシフェノキシ基などの[(C1〜C4アルコシキ)置換アリール]オキシ基;3−フェノキシフェノキシ基などの(フェノキシ置換アリール)オキシ基等が挙げられる。
上記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子等が挙げられる。
【0015】
上記置換基を有していてもよいアルキル基のうち、置換基を有するアルキル基としては、例えば、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;メトキシメチル基、エトキシメチル基、メトキシエチル基等の(C1〜C4アルコキシ)置換C1〜C4アルキル基;ベンジル基等のアリール置換アルキル基;4−フルオロベンジル基、4−メチルベンジル基等の(ハロゲン置換アリール)C1〜C4アルキル基;フェノキシメチル基等の(フェノキシ置換)C1〜C4アルキル基;などが挙げられる。
尚、本明細書中、各置換基の例示において、C1〜C4、C3〜C10は、それぞれ炭素数1〜4、炭素数3〜10を表す。
【0016】
上記イミダゾール環に結合してもよい置換基のうち、置換基を有していてもよいアリール基としては、例えば、置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基が好ましい。上記置換基を有していてもよいアリール基のうち、無置換のアリール基としては、炭素数6〜10のアリール基、具体的にはフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
上記置換基を有するアリール基の置換基としては、例えば、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
上記置換基を有するアリール基としては、例えば、2−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基等の(C1〜C4アルキル)置換アリール基;4−クロロフェニル基等のハロゲン置換アリール基;4−メトキシフェニル基等の(C1〜C4アルコキシ)置換アリール基;などが挙げられる。
【0017】
上記イミダゾール環に結合し得る置換基としては、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、ベンジル基、(C1〜C4アルキル)置換ベンジル基が好ましい。
【0018】
上記イミダゾリウム塩(A)において、連結基は、置換基を有していてもよいアルキレン基であることが好ましい。
上記連結基におけるアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、ペンチレン基、イソペンチレン基、ヘキシレン基等の炭素数1〜6のアルキレン基が挙げられる。
上記アルキレン基が有しうる置換基としては、例えば、置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基;置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルコキシ基;置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリールオキシ基;ハロゲン原子等が挙げられる。
上記アルキレン基が有しうる置換基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、4−メチルフェニル基、4−メトキシフェニル基等の置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、トリフルオロメトキシ基、ベンジルオキシ基、4−メチルベンジルオキシ基、4−メトキシベンジルオキシ基、3−フェノキシベンジルオキシ基等の置換基を有していてもよい炭素数2〜11のアルコキシ基;フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、4−メトキシフェノキシ基、3−フェノキシフェノキシ基等の置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリールオキシ基;フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;等が挙げられる。
置換基を有するアルキレン基としては、例えば、フルオロメチレン基、メトキシメチレン基、フェニルメチレン基、フルオロエチレン基、メトキシエチレン基、2−メトキシプロピレン基等が挙げられる。
【0019】
上記イミダゾリウム塩(A)は、置換基を有していてもよいアミノ基が連結基を介してイミダゾール環の一方の窒素原子と結合していることが好ましく、該アミノ基が連結基を介してイミダゾール環の一方の窒素原子と結合し該イミダゾール環の他方の窒素原子上に置換基を有することがより好ましい。
【0020】
上記イミダゾリウム塩(A)は、例えば、式(1)

(式中、Rは置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を表す。RおよびRは、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を表すか、またはRとRとが結合して、RとRとがそれぞれ結合する炭素原子と一緒になって環を表す。波線は結合手を表す。)
で示されるイミダゾール環を有することが好ましい。
式(1)において、置換基としては、それぞれ上述のイミダゾール環に結合し得る置換基として例示した基を挙げることができる。
【0021】
およびRと炭素原子とが一緒になって表される基としては、例えば、シクロペンテン基、シクロヘキセン基、ベンゾイレン基、ナフトイレン基等が挙げられる。
とRとが結合して、RとRとがそれぞれ結合する炭素原子と一緒になって環を含むイミダゾール基の具体例としては、式(1)の結合手(波線)がない、式(9)

(式中は、Rは水素原子を表し、RとRとが結合して、RとRとがそれぞれ結合する炭素原子と一緒になって環を表す。)
で示されるイミダゾールとして例示すると、シクロペンテノイミダゾール、シクロヘキセノイミダゾール、ベンズイミダゾール、ナフトイミダゾール等が挙げられる。
【0022】
本発明における上記アミノ基とは、アミノ基(−NH)の水素原子が置換基で置換されていてもよい基である。該アミノ基は、2つの水素原子が置換されている場合、環状アミノ基であってもよい。
上記アミノ基が有しうる置換基としては、例えば、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基が挙げられる。かかるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。
【0023】
上記アミノ基としては、例えば、式(2)

(式中、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表すか、RとRとが結合して一緒になって炭素数2〜8のアルキレン基を表す。波線は結合手を表す。)
で示されるアミノ基(以下、アミノ基(2)と記すことがある。)が挙げられる。
上記式(2)において、炭素数1〜4のアルキル基としては、上記例示した基が挙げられる。
【0024】
上記式(2)は、RとRとが結合して一緒になって炭素数2〜8のアルキレン基を表す場合、環状アミノ基を表す。該環状アミノ基としては、例えば、1−アジリジニル基、1−アゼチジニル基、1−ピロリジニル基、ピペリジノ基等が挙げられる。
上記イミダゾリウム塩(A)の例として、イミダゾール環が炭素数1〜4のアルキル基を一方の窒素原子上に有し、アミノアルキル基をもう一方の窒素原子上に有するイミダゾリウム塩;イミダゾール環が(C1〜C4アルキル置換)アリール基を一方の窒素原子上に有し、アミノアルキル基をもう一方の窒素原子上に有するイミダゾリウム塩;イミダゾール環がベンジル基を一方の窒素原子上に有し、アミノアルキル基をもう一方の窒素原子上に有するイミダゾリウム塩;イミダゾール環が炭素数1〜4のアルキル基を一方の窒素原子上に有し、(C1〜C4アルキルアミノ)アルキル基をもう一方の窒素原子上に有するイミダゾリウム塩;イミダゾール環が(C1〜C4アルキル置換)アリール基を一方の窒素原子上に有し、(C1〜C4アルキルアミノ)アルキル基をもう一方の窒素原子上に有するイミダゾリウム塩;イミダゾール環がベンジル基を一方の窒素原子上に有し、(C1〜C4アルキルアミノ)アルキル基をもう一方の窒素原子上に有するイミダゾリウム塩等が挙げられる。
【0025】
上記イミダゾリウム塩(A)の具体例として、例えば、1−メチル−3−ブチル−4−(1−アミノメチル)イミダゾリウム塩、1−メチル−3−ブチル−5−(2−アミノエチル)イミダゾリウム塩、1,3−ジメチル−4−(3−アミノプロピル)イミダゾリウム塩、1−ベンジル−5−(3−アミノプロピル)イミダゾリウム塩、5−アミノ−1,3−ジメチル−1H−ベンズイミダゾリウム塩等が挙げられる。
【0026】
上記イミダゾリウム塩(A)として、式(3)

(式中、R、R、R、RおよびRは、それぞれ上記と同じ意味である。Qは、置換基を有していてもよいアルキレン基を表し、Xは1価のアニオンを表す。)
で示される塩(以下、この化合物をイミダゾリウム塩(3)と記すことがある。)も挙げられる。
式(3)におけるアルキレン基としては、上述の連結基として例示したアルキレン基が挙げられる。
としては、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオン;メタンスルホナート等のアルカンスルホナートイオン;トリフルオロメタンスルホナート等のフッ素原子を有するアルカンスルホナートイオン;アセテートイオン;トリフルオロアセテートイオン、トリクロロアセテートイオン等のハロゲン原子を有するアセテートイオン;硝酸イオン;過塩素酸イオン;テトラフルオロボレート、テトラクロロボレート等のテトラハロボレートイオン;ヘキサフルオロホスファート等のヘキサハロホスファートイオン;ヘキサフルオロアンチモナート、ヘキサクロロアンチモナート等のヘキサハロアンチモナートイオン;ペンタフルオロスタンナート、ペンタクロロスタンナート等のペンタハロスタンナートイオン;テトラフェニルボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート等の置換基を有していてもよいテトラアリールボレートイオン;等が挙げられる。これらの中でも、ハロゲン化物イオンが好ましい。
上記イミダゾリウム塩(3)は、Rが炭素数1〜4のアルキル基、ベンジル基、アリール基、炭素数1〜4のアルキル基を置換基として有するベンジル基であり、Rが水素原子であり、Rが水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、RおよびRが水素原子またはメチル基であることが好ましい。
【0027】
上記イミダゾリウム塩(3)としては、例えば、1−メチル−3−(1−アミノメチル)イミダゾリウムブロマイド、1−エチル−3−(1−アミノメチル)イミダゾリウムブロマイド、1−ブチル−3−(1−アミノメチル)イミダゾリウムブロマイド、1−ベンジル−3−(1−アミノメチル)イミダゾリウムブロマイド、1−[(2,4,6−トリメチルフェニル)メチル]−3−(1−アミノメチル)イミダゾリウムブロマイド、1−メチル−3−(2−アミノエチル)イミダゾリウムブロマイド、1−ブチル−3−(2−アミノエチル)イミダゾリウムブロマイド、1−フェニル−3−(2−アミノエチル)イミダゾリウムブロマイド、1−ベンジル−3−(2−アミノエチル)イミダゾリウムブロマイド、1−[(2,4,6−トリメチルフェニル)メチル]−3−(2−アミノエチル)イミダゾリウムブロマイド、1−メチル−3−(3−アミノプロピル)イミダゾリウムブロマイド、1−エチル−3−(3−アミノプロピル)イミダゾリウムブロマイド、1−ベンジル−3−(3−アミノプロピル)イミダゾリウムブロマイド、1−[(2,4,6−トリメチルフェニル)メチル]−3−(3−アミノプロピル)イミダゾリウムブロマイド、1−メチル−3−(4−アミノブチル)イミダゾリウムブロマイド、1−エチル−3−(4−アミノブチル)イミダゾリウムブロマイド、1−ブチル−3−(4−アミノブチル)イミダゾリウムブロマイド、1−ベンジル−3−(4−アミノブチル)イミダゾリウムブロマイド、1−[(2,4,6−トリメチルフェニル)メチル]−3−(4−アミノブチル)イミダゾリウムブロマイド、3−[(3−ジメチルアミノ)プロピル]−1−メチル−1H−イミダゾリウムブロマイド、3−[(3−ジメチルアミノ)プロピル]−1−ブチル−1H−イミダゾリウムブロマイド、3−[(3−ジメチルアミノ)プロピル]−1−ベンジル−1H−イミダゾリウムブロマイド、3−[(3−ジエチルアミノ)プロピル]−1−ベンジル−1H−イミダゾリウムブロマイド、3−[(3−メチルアミノ)プロピル]−1−ベンジル−1H−イミダゾリウムブロマイド、3−[(3−ジブチルアミノ)プロピル]−1−ベンジル−1H−イミダゾリウムブロマイド、3−[(3−ジメチルアミノ)−2−メチルプロピル]−1−ベンジル−1H−イミダゾリウムブロマイド、3−[(4−ジメチルアミノ)ブチル]−1−メチル−1H−イミダゾリウムブロマイド、3−[(4−メチルアミノ)ブチル]−1−ブチル−1H−イミダゾリウムブロマイド、3−[(4−ジメチルアミノ)ブチル]−1−ベンジル−1H−イミダゾリウムブロマイド、3−[(2−ジメチルアミノ)エチル]−1−メチル−1H−イミダゾリウムブロマイド、3−[(2−ジメチルアミノ)エチル]−1−ブチル−1H−イミダゾリウムブロマイド、3−[(2−ジメチルアミノ)エチル]−1−ベンジル−1H−イミダゾリウムブロマイド、および上記各化合物における「ブロマイド」がそれぞれ「クロライド」、「ヨーダイド」、「メタンスルホナート」、「トリフルオロメタンスルホナート」、「ニトラート」、「ペルクロラート」、「テトラフルオロボレート」、「テトラクロロボレート」、「ヘキサフルオロホスファート」、「ヘキサフルオロアンチモナート」、「ヘキサクロロアンチモナート」、「ペンタフルオロスタンナート」、「ペンタクロロスタンナート」、「テトラフェニルボレート」、「テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート」、「テトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート」に置き換わった化合物が挙げられる。イミダゾリウム塩(3)は、置換基を有していてもよいアミノ基部分がカチオンであってよい。該カチオンは、塩化水素、臭化水素等のハロゲン化水素や硫酸、リン酸等の鉱酸を対イオンとすることができる。
【0028】
上記イミダゾリウム塩(A)は、例えば、アミノ基とイミダゾール環とを持つ化合物をアルキル化する方法等の定法により調製することができるし、脱離基と結合したアルキレン基を置換基として有するイミダゾリウム塩において脱離基をアミノ基に置換することにより調製することができる。
【0029】
上記アミノ基とイミダゾール基とを持つ化合物としては、ヒスタミン、α−メチルヒスタミン、ホモヒスタミンなどが挙げられる。上記脱離基としては、塩素、臭素などのハロゲン原子、メタンスルホニルオキシ基、エタンスルホニルオキシ基などのアルキルスルホニルオキシ基等が挙げられる。上記脱離基からアミノ基への置換は公知の方法で行うことができる。
【0030】
上記イミダゾリウム塩(A)の調製例として、イミダゾリウム塩(3)の調製を説明する。上記イミダゾリウム塩(3)の製造法としては、例えば、式(10)

(式中、R、R及びQは前記と同じ意味を表す。)
で示される化合物をベンズアルデヒド等と反応させて、該イミダゾール化合物の−NHをシッフ塩基に変換し、得られた塩基化合物を式(11)

(式中、Rは前記と同じ意味を表す。Zは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表す。)
で示される化合物と反応させてイミダゾリウム塩を得て、次いでイミダゾリウム塩中のシッフ塩基をアミノ基に変換してイミダゾリウム塩(3)を得る方法等が挙げられる(例えば、Polyhedron,23,2821(2004)参照。)。
【0031】
かかる方法により、RとRがともに水素原子であり、XがZであるイミダゾリウム塩(3)を得ることができる。上記方法により得られるイミダゾリウム塩(3)は、−NHの水素原子を常法によりアルキル基に置換したり、1価のアニオンを常法により交換することにより、構造が異なるイミダゾリウム塩(3)を製造することもできる。
【0032】
イミダゾリウム塩(3)の異なる調製法として、例えば、式(9)

(式中、R、R及びRは前記と同じ意味を表す。)
で示される化合物と式(12)

(式中、R、R及びQは前記と同じ意味を表し、Yは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表す。)
で示される化合物との反応(例えば、Organometallics,27,224(2008)参照。)等を挙げることができる。
【0033】
上記式(9)〜(12)でそれぞれ示される化合物は、市販品であってもよいし、任意の公知の方法により合成したものであってもよい。上記(9)や(10)で示される化合物の製法は、米国特許第4619941号明細書等に記載されている。
【0034】
次に、上記イミダゾリウム塩(A)とルテニウム化合物(B)とを塩基(C)の存在下で反応させることにより得られるルテニウム錯体(以下、ルテニウム錯体と記すことがある。)および該ルテニウム錯体を含有する組成物について説明する。
上記ルテニウム錯体は、後述のカルボン酸エステル化合物を還元する触媒として好適に用いることができる。上記ルテニウム錯体は、上記イミダゾリウム塩(A)、ルテニウム化合物(B)及び塩基(C)から得られるので、安価に製造することができる。
ルテニウム化合物(B)は、ルテニウム原子及びハロゲン原子を含むことが好ましい。
【0035】
ルテニウム原子及びハロゲン原子を含むルテニウム化合物としては、例えば、塩化ルテニウム(III)、臭化ルテニウム(III)等のハロゲンとルテニウムとからなる化合物;(p−シメン)ルテニウム ジクロライド ダイマー、(ベンゼン)ルテニウム ジクロライド ダイマー、(メシチレン)ルテニウム ジクロライド ダイマー、(ヘキサメチルベンゼン)ルテニウム ジクロライド ダイマー、(p−シメン)ルテニウム ジブロマイド ダイマー等の芳香族化合物が配位したルテニウム ジハライド ダイマー;ルテニウム 1,5−シクロオクタジエン ジクロライド ポリマー、ルテニウム ジノルボルナジエン ジクロライド ポリマー等のジエンが配位したルテニウム ジハライド ポリマー;トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムジクロライド、トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムジブロマイド、トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムハイドロクロライド等のトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムハライド;等が挙げられる。これらルテニウム化合物は水和物であってもよい。
上記ルテニウム化合物(B)としては、芳香族化合物が配位したルテニウム ジハライド ダイマー、ハロゲンとルテニウムとからなる化合物およびトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムハライドがより好ましい。
上記ルテニウム化合物(B)は単独で用いてもよいし、2種以上用いてもよい。ルテニウム化合物(B)は、市販品であってもよいし、公知の方法により合成したものであってもよい。
ルテニウム化合物(B)は、ルテニウム化合物(B)におけるルテニウム原子の量が、イミダゾリウム塩(A)1モルに対して、一般に0.3〜2モル、好ましくは0.3〜1モル、さらに好ましくは0.4〜0.6モルの範囲となる量で使用される。
ルテニウム化合物(B)におけるルテニウム原子の量は、ICP発光分析による元素分析等の公知の手段により求められる。
【0036】
塩基(C)は、例えば、イミダゾリウム塩(A)がイミダゾリウム塩(3)である場合、イミダゾール環の2位の炭素原子に結合した水素原子を引き抜いてカルベンを発生させ得る化合物であることが好ましい。かかる塩基(C)は、例えば式(1)で示される基を有する化合物と接触させた場合、イミダゾール環の2位の水素原子を引き抜いて、式(1’)

(式中、R、RおよびRはそれぞれ上記と同一の意味を表し、:は当該炭素原子がカルベンであることを表す。)
で示される基を発生させることができる。
【0037】
上記塩基(C)としては、例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムtert−ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド;水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム等のアルカリ金属水素化物;ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド、カリウムビス(トリメチルシリル)アミド等のアルカリ金属ビス(トリアルキルシリル)アミド等のアルカリ金属含有化合物が挙げられる。好ましくは、アルカリ金属含有化合物であり、より好ましくはアルカリ金属水素化物である。
塩基(C)は単独で用いてもよいし、2種以上用いてもよい。塩基(C)は、市販品であってもよいし、公知の方法により合成したものであってもよい。
塩基(C)の使用量は、イミダゾリウム塩(A)1モルに対して、例えば、0.8〜3モルの範囲等を挙げることができ、好ましくは1〜2モルの範囲等が挙げられる。
【0038】
イミダゾリウム塩(A)におけるアミノ基が、ハロゲン化水素や鉱酸等と塩を形成している場合、塩基(C)の使用量は、塩の中和を考慮して適宜決めればよい。例えば、該アミノ基が1塩酸塩である場合、塩基(C)の使用量は、上記の範囲より1モル多く用いればよい。すなわち、この場合における塩基(C)の使用量は、イミダゾリウム塩(A)1モルに対して、一般に1.8〜4モル、好ましくは2〜3モルの範囲である。
【0039】
第1工程は、有機溶媒の存在下で行うことが好ましい。
かかる有機溶媒としては、例えば、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジグライム等のエーテル溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド溶媒;等が挙げられ、エーテル溶媒、アミド溶媒が好ましい。
有機溶媒の使用量として、例えば、イミダゾリウム塩(A)1重量部に対して、1重量部以上、100重量部以下の範囲等を挙げることができる。
【0040】
第1工程において、その手順は限定されず、例えば、イミダゾリウム塩(A)と塩基(C)とを混合し、そこにルテニウム化合物(B)を加える工程等を挙げることができる。
第1工程の反応温度としては、例えば、−20〜100℃の範囲等を挙げることができ、好ましくは0〜60℃の範囲等が挙げられる。第1工程の進行は、例えば高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、NMR、IR等の通常の分析手段により確認することができる。
【0041】
第1工程により得られた反応混合物中にはルテニウム錯体が含まれている。該反応混合物は、そのまま、または該反応混合物からルテニウム錯体を単離したり、さらに、ルテニウム錯体を精製した後、後述の第2工程に供してもよい。
単離する際の具体的な処理方法としては、例えば、洗浄、分液、濾過、晶析、濃縮等が挙げられる。精製する際の具体的な処理方法としては、再結晶、カラムクロマトグラフィ等が挙げられる。
本発明において、ルテニウム錯体は、反応混合物から単離されたものが好ましい。例えば、反応混合物中にアルカリ金属ハロゲン化物等の不溶物が析出している場合は、濾過等により該反応混合物から該不溶物を除去することが好ましい。
【0042】
上記ルテニウム錯体は、上記イミダゾリウム塩(A)、ルテニウム化合物(B)及び塩基(C)から得られるので、一般に、イミダゾリウム塩(A)に由来するイミダゾール環及びアミノ基とルテニウム化合物(B)に由来する基とがルテニウム金属に配位した構造を有する。ルテニウム化合物(B)がハロゲン原子を有する場合、ハロゲン原子を有するルテニウム錯体が得ることができる。なお、ルテニウム化合物(B)としてトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムハライドのようなリン配位子を持つルテニウム化合物を用いた場合でも、リン配位子を晶析操作などにより除くことによりトリフェニルホスフィンを有していないルテニウム錯体を得ることができる。
上記ルテニウム錯体を含有する組成物としては、イミダゾリウム塩(A)とルテニウム化合物(B)との反応により得られた反応混合物や、該反応混合物から単離されたルテニウム錯体を含む粉末または溶液が挙げられる。該組成物は、ルテニウム錯体を含有するので、後述の第2工程に好適に用いることができる。
【0043】
次に、第2工程について説明する。
第2工程に用いられるカルボン酸エステル化合物は、カルボニルオキシ基(−C(=O)−O−)を1つ以上有する有機化合物である。上記カルボン酸エステル化合物は、モノエステルであってもよいし、ジエステル等の複数のカルボニルオキシ基を有する化合物であってもよい。上記複数のカルボニルオキシ基を有する化合物として、シュウ酸ジエステル、マロン酸ジエステル、フタル酸ジエステル、マレイン酸ジエステル、グルタル酸ジエステル、アジピン酸ジエステルが挙げられる。
【0044】
上記カルボン酸エステル化合物としては、カルボニルオキシ基のカルボニルに脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基が結合したカルボン酸エステル化合物(以下、この化合物を「脂肪族炭化水素含有カルボン酸エステル」と称する。)、カルボニルオキシ基のカルボニルに芳香族炭化水素基が結合したカルボン酸エステル化合物(以下、この化合物を「芳香族炭化水素含有カルボン酸エステル」と称する。)、環状カルボン酸エステル化合物等が挙げられる。
【0045】
脂肪族炭化水素含有カルボン酸エステルとしては、例えば、式(4)

(式中、RおよびRはそれぞれ互いに独立して、例えば、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基または置換基を有していてもよいアリール基等を表す。)
で示されるカルボン酸エステル化合物等を挙げることができる。
かかるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、デシル基、シクロプロピル基、2,2−ジメチルシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メンチル基等の直鎖状、分枝鎖状または環状の炭素数1〜20のアルキル基等が挙げられる。該アルキル基における置換基としては、例えば、フッ素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜4のアルコキシ基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;フェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基等のアリールオキシ基;アミノ基;水酸基;炭素数2〜5のカルボニルオキシアルキル基;が挙げられる。置換基を有するアルキル基の具体例としては、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、メトキシエチル基、ヒドロキシメチル基、アミノメチル基、ベンジル基等の炭素数1〜20の置換アルキル基が挙げられる。
かかるアルケニル基としては、例えば、エテニル基、1−プロペニル基、1−メチルエテニル基、1−メチル−2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1−メチル−1−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、1−デセニル基、1−シクロペンテニル基、1−シクロヘキセニル基等の直鎖状、分枝鎖状または環状の炭素数2〜12のアルケニル基が挙げられる。アルケニル基における置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等のアリール基;フェノキシ基等のアリールオキシ基;アミノ基;水酸基;等が挙げられる。置換基を有するアルケニル基の具体例としては、3−フルオロ−1−プロペニル基、3−メトキシ−1−プロペニル基、3−フェノキシ−1−ブテニル基等が挙げられる。
【0046】
上記脂肪族炭化水素含有カルボン酸エステルの具体例としては、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、ブタン酸イソプロピル、ペンタン酸オクチル、ヘキサン酸ベンジル、ヘプタン酸ペンチル、オクタン酸メチル、シクロヘキサンカルボン酸ベンジル、ピバル酸ベンジル、tert−ブチル酢酸ブチル、アクリル酸エチル、3,3−ジメチル−2−(2−メチル−1−プロペニル)シクロプロパンカルボン酸エチル、3,3−ジメチル−2−(2−メチル−1−プロペニル)シクロプロパンカルボン酸ベンジル、3,3−ジメチル−2−(1−プロペニル)シクロプロパンカルボン酸メチル、ピルビン酸ヘプチル、シュウ酸ジメチル、マロン酸ジエチル、グルタル酸ジプロピル、アジピン酸ジブチルが挙げられる。
上記脂肪族炭化水素含有カルボン酸エステルは、市販品であってもよいし、公知の方法により製造したものであってもよい。
【0047】
上記カルボン酸エステル化合物において、上記芳香族炭化水素基としては、置換基を有していてもよいアリール基が挙げられる。
かかるアリール基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等の炭素数6〜10のアリール基が挙げられる。該アリール基における置換基としては、例えば、前記置換されていてもよいアルキル基;前記置換されていてもよいアルケニル基;フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等のアリール基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;アミノ基;水酸基;カルボニルオキシアルキル基;等が挙げられる。置換基を有するアリール基の具体例としては、2−メチルフェニル基、4−クロロフェニル基、4−メチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−アミノフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、3−フェノキシ−1−ブテニル基、スチリル基等が挙げられる。
【0048】
上記芳香族炭化水素含有カルボン酸エステルとして、例えば、式(6)

(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは互いに独立に、水素原子またはハロゲン原子を表す。ただし、Xの少なくとも一つはハロゲン原子である。)
で示される化合物が挙げられる。
で示される炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0049】
芳香族炭化水素含有カルボン酸エステルの他の例示として、桂皮酸エチル、桂皮酸(1−オクチル)、フェニル酢酸ベンジル、安息香酸メチル、安息香酸イソプロピル、2−フルオロ安息香酸メチル、2−フルオロ安息香酸ベンジル、2−クロロ安息香酸メチル、2−ブロモ安息香酸エチル、3−フルオロ安息香酸プロピル、3−クロロ安息香酸ブチル、3−ブロモ安息香酸ペンチル、4−フルオロ安息香酸メチル、4−アミノ安息香酸メチル、4−ブロモ安息香酸メチル、2,4−ジフルオロ安息香酸ベンジル、2,4−ジクロロ安息香酸エチル、3,5−ジフルオロ安息香酸メチル、2,3,5,6−テトラフルオロ安息香酸メチル、4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロ安息香酸メチル、3−フェノキシ安息香酸メチル、4−メチル安息香酸メチル、3−トリフルオロメチル安息香酸メチル、2−メトキシ安息香酸メチル、4−フェニルブタン酸メチル、3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン酸メチル、1−メトキシカルボニルナフタレン、フタル酸ジメチル、イソフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジメチル、3,4,5,6−テトラフルオロフタル酸ジメチル、2,4,5,6−テトラフルオロイソフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジメチル、2−フルオロテレフタル酸ジメチル、2−クロロテレフタル酸ジメチル、2,5−ジフルオロテレフタル酸ジメチル、2,6−ジフルオロテレフタル酸ジメチル、2,3−ジフルオロテレフタル酸ジメチル、2,5−ジクロロテレフタル酸ジメチル、2,6−ジクロロテレフタル酸ジメチル、2,3−ジクロロテレフタル酸ジメチル、2,3,5−トリフルオロテレフタル酸ジメチル、2,3,5−トリクロロテレフタル酸ジメチル、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチル、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジエチル、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジプロピル、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジイソプロピル、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジブチル、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジtert−ブチル、2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジメチル、2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジエチル、2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジプロピル、2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジイソプロピル、2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジブチル、2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジtert−ブチル、2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジペンチル、2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジヘキシル、2,3,5−トリフルオロ−6−クロロテレフタル酸ジメチル等が挙げられる。
上記例示された芳香族炭化水素含有カルボン酸エステルは、例えば、対応する酸ハライドとアルコールとを反応させる方法(例えば、特公平4−66220号公報参照。)等に準じて製造することができる。
【0050】
環状カルボン酸エステル化合物とは、例えば、式(9)

(式中、Rは、置換基を有していてもよいアルキレン基を表す。)
で示されるラクトン等を挙げることができる。
かかるラクトンは、4〜22員環であることが好ましい。上記ラクトンは、置換されてもよい炭素数2〜20のアルキレン基を有する環構造であることが好ましい。かかるアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプタレン基、オクタレン基、デシレン基が挙げられる。該アルキレン基における置換基としては、例えば、フッ素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;フェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基等のアリールオキシ基;エテニル基、1−プロペニル基、1−メチルエテニル基、1−ブテニル基、1−メチル−1−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、1−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、1−デセニル基等のアルケニル基;アミノ基;水酸基;等が挙げられる。置換基を有するアルキレン基の具体例としては、フルオロエチレン基、メトキシメチレン基、2−ヒドロキシプロピレン基、2−アミノブチレン基、2−フェニルメチルブチレン基等が挙げられる。
上記環状カルボン酸エステル化合物としては、β―プロピオラクトン、γ―ブチロラクトン、δ―バレロラクトン、ε―カプロラクトン、β−メチル−ε―カプロラクトン、γ−メチル−ε―カプロラクトン、ヘプタノラクトン、オクタノラクトン、ノナノラクトン、デカノラクトン等が挙げられる。環状カルボン酸エステル化合物は、市販品であってもよいし、公知の方法により製造したものであってもよい。
【0051】
第2工程は、例えば、水素ガスを用いる還元等を挙げることができる。該水素ガスとして、市販のものを用いることができる。第2工程において、水素は第2工程が行われる反応装置に、例えば、0.1〜5MPaの範囲の圧力で供給される。
第2工程において、水素は、カルボン酸エステル化合物1モルに対し、例えば、1〜100モルの範囲で使用される。
【0052】
第2工程における上記ルテニウム錯体の使用量としては、ルテニウム原子に換算した量がカルボン酸エステル化合物におけるエステル構造1モルに対して、例えば、0.001〜0.2モルの範囲等を挙げることができ、好ましくは0.01〜0.2モルの範囲等が挙げられる。
上記ルテニウム錯体において、ルテニウム原子の量は、ICP発光分析を用いた元素分析等、公知の方法により測定することができる。
【0053】
第2工程において、ルテニウム錯体がハロゲン化物イオンを有する場合、ルテニウム錯体及び塩基の存在下でカルボン酸エステル化合物を還元することが好ましい。この場合、ルテニウム錯体は、ハロゲン化物イオンが除去されるので、触媒活性を向上することができる。
上記還元における塩基としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムtert−ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド;水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム等のアルカリ金属水素化物;が挙げられる。該塩基は、第1工程で用いられる塩基(C)と同種類であってもよいし異なる種類であってもよい。好ましくは、アルカリ金属水酸化物およびアルカリ土類金属水酸化物等を挙げることができ、より好ましくは、アルカリ金属水酸化物等が挙げられる。
第2工程における塩基の使用量は、ルテニウム錯体が有するハロゲン化物イオン1モルに対して、例えば、1〜100モルの範囲等を挙げることができ、好ましくは1〜10モルの範囲等、より好ましくは1〜5モルの範囲等が挙げられる。
【0054】
第2工程は、有機溶媒の存在下で行うことが好ましい。かかる有機溶媒としては、例えば、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジグライム等のエーテル溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒;が挙げられ、エーテル溶媒、芳香族炭化水素溶媒が好ましい。
有機溶媒の使用量は、カルボン酸エステル化合物1重量部に対して、例えば、1重量部以上、100重量部以下の範囲等を挙げることができる。
【0055】
第2工程としては、例えば、第1工程で得られたルテニウム錯体、カルボン酸エステル化合物、ならびに、必要により有機溶媒および/または塩基を反応装置内で混合し、次いで、該装置内を水素で置換して水素圧と反応温度を調整する工程等を挙げることができる。
第2工程における反応温度は、例えば、0〜200℃、好ましくは50〜180℃の範囲等が挙げられる。
第2工程における反応圧力は、例えば、0.1〜5MPaの範囲、好ましくは0.5〜5MPaの範囲等が挙げられる。
第2工程における反応の進行は、例えば、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、NMR、IR等の通常の分析手段により確認することができる。
【0056】
第2工程において還元反応終了後、得られる反応混合物中には生成物であるアルコール化合物が含まれている。該反応混合物に、例えば、洗浄、分液、晶析、濃縮等の単離処理を施すことにより目的のアルコール化合物を単離することができる。
反応混合物中にルテニウム錯体等の不溶物が析出している場合は、必要に応じて、ろ過等により該不溶物を除去した後で上記の単離処理を施せばよい。
上記の分液処理には、必要に応じて、水と混和しない有機溶媒を用いてもよい。また、単離されたアルコール化合物を、例えば、蒸留、カラムクロマトグラフィ等の精製手段により精製してもよい。
ここで、水と混和しない有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル等のエーテル溶媒;酢酸エチル等のエステル溶媒;等が挙げられる。
【0057】
第2工程により得られるアルコール化合物は、−CHOHを有する化合物である。該−CHOHは、カルボン酸エステル化合物におけるカルボニルオキシ基(−C(=O)−O−)が水素により還元されることにより形成された基である。
カルボン酸エステル化合物として前記式(4)で示される脂肪族炭化水素含有カルボン酸エステルを用いた場合、例えば、式(5)

(式中、Rは上記と同一の意味を表す。)
で示されるアルコール化合物等を得ることができる。
【0058】
式(5)で示されるアルコール化合物としては、例えば、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、シクロペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール、アリルアルコール、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3,3−ジメチル−2−(2−メチル−1−プロペニル)シクロプロパンメタノール、3,3−ジメチル−2−(1−プロペニル)シクロプロパンメタノール等が挙げられる。
【0059】
カルボン酸エステル化合物として芳香族炭化水素含有カルボン酸エステルを用いた場合、例えば、以下のアルコール化合物が得られる。
ベンジルアルコール、2−フルオロベンジルアルコール、3−フルオロベンジルアルコール、4−フルオロベンジルアルコール、2−クロロベンジルアルコール、4−クロロベンジルアルコール、4−アミノベンジルアルコール、4−メトキシベンジルアルコール、4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジルアルコール、2,3,5,6−テトラフルオロベンジルアルコール、2−フェニル−1−エタノール、4−フェニル−1−ブタノール、3−(4−ヒドロキシフェニル)−1−プロパノール、
1−ナフチルメタノール、1,2−ベンゼンジメタノール、1,3−ベンゼンジメタノール、1,4−ベンゼンジメタノール、3,4,5,6−テトラフルオロ−1,2−ベンゼンジメタノール、2,4,5,6−テトラフルオロ−1,3−ベンゼンジメタノール。
【0060】
例えば、カルボン酸エステル化合物としてハロゲン置換テレフタル酸ジエステルを用いた場合、得られるアルコール化合物は、式(7)

(式中、RおよびXはそれぞれ上記と同一の意味を表す。)
で示される化合物(以下、化合物(7)と記すことがある。)および/または式(8)

(式中、Xはそれぞれ上記と同一の意味を表す。)
で示される化合物(以下、化合物(8)と記すことがある。)を得ることができる。
【0061】
化合物(7)としては、例えば2−フルオロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸メチル、2−クロロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸エチル、2,5−ジフルオロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸メチル、2,6−ジフルオロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸プロピル、2,3−ジフルオロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸メチル、2,5−ジクロロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸メチル、2,6−ジクロロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸メチル、2,3−ジクロロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸メチル、2,3,5−トリフルオロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸メチル、2,3,5−トリクロロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸メチル、2,3,5,6−テトラフルオロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸メチル、2,3,5,6−テトラフルオロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸エチル、2,3,5,6−テトラフルオロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸プロピル、2,3,5,6−テトラフルオロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸ブチル、2,3,5,6−テトラクロロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸メチル、2,3,5−トリフルオロ−6−クロロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸メチルが挙げられる。
化合物(8)としては、例えば、2−フルオロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2−クロロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2,5−ジフルオロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2,6−ジフルオロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2,3−ジフルオロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2,5−ジクロロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2,6−ジクロロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2,3−ジクロロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2,3,5−トリフルオロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2,3,5−トリクロロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノール、2,3,5,6−テトラクロロベンゼンジメタノール、2,3,5−トリフルオロ−6−クロロベンゼンジメタノールが挙げられる。
【0062】
カルボン酸エステル化合物として、式(9)で示される環状カルボン酸エステルを用いた場合、例えば、(10)

(式中、Rは上記と同一の意味を表す。)
で示されるアルコール化合物が得られる。
式(10)で示されるアルコール化合物としては、例えば、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,6−ヘキサンジオール、4−メチル−1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール等が挙げられる。
【0063】
カルボン酸エステル化合物として複数のカルボニルオキシ基を有するカルボン酸エステル化合物を用いて第2工程を行った場合、1つ以上のカルボニルオキシ基が水素により還元されたアルコール化合物が得られる。
本発明の製造方法によれば、医農薬原体、電子材料等の各種化学製品およびそれらの合成中間体等として有用なアルコール化合物を提供することができる。
【0064】
本発明のルテニウム錯体は、リン配位子を含有してもよいが、リン配位子を有さないルテニウム錯体であってもカルボン酸エステル化合物をアルコール化合物に還元することができる。ルテニウム錯体にリン配位子を含有しない場合には、リン含有廃棄物を低減することができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
融点は、メトラー社製 全自動融点測定装置 METTLER FP62にて測定した。
NMRはブルッカー社製 FT−NMR装置 DPX300にて測定した。
ガスクロマトグラフィーは、島津社製 GC−17Aにて測定した。
【0066】
イミダゾリウム塩(A)の製造例1
ディーンスターク還流冷却管を備えた100mLフラスコに、3−(1H−イミダゾ−1−リル)−1−プロパンアミン25g、ベンズアルデヒド21.2g、p−トルエンスルホン酸100mgおよびトルエン30gを仕込み、得られた混合物を加熱し、還流させながら、共沸脱水反応を4時間行った。得られた反応混合物を室温(約25℃)まで冷却し、5重量%炭酸カリウム水溶液20gで洗浄し、次いで水20gで洗浄した後、濃縮することにより、淡黄色オイルとして、N−ベンジリデン−3−(1H−イミダゾ−1−リル)−1−プロパンアミン42gを得た。
【0067】
イミダゾリウム塩(A)の製造例2
還流冷却管を備えた100mLフラスコに、参考例1で得たN−ベンジリデン−3−(1H−イミダゾ−1−リル)−1−プロパンアミン5.7g、1,3,5−トリメチル−2−(クロロメチル)ベンゼン5gおよびトルエン20gを仕込み、得られた混合物を100℃で5時間攪拌した。得られた反応混合物を室温まで冷却し、得られた1−[(2,4,6−トリメチルフェニル)メチル]−3−(3−アミノプロピル)イミダゾリウムクロライドを含む油状物をデカンテーションにより回収した。更に、該油状物にトルエン20gを追加、混合し、得られた混合物から油状物を回収する操作を3回繰り返した。
前記操作で得られた油状物9.7g、トルエン20g、水20gおよび35%塩酸3.3gをフラスコに仕込み、得られた混合物を80℃で1時間攪拌した。得られた反応混合物を室温まで冷却し、分液処理によりトルエン層を分離した。得られた水層を、トルエン10gで2回洗浄した後で濃縮することにより、白色結晶として、1−[(2,4,6−トリメチルフェニル)メチル]−3−(3−アミノプロピル)イミダゾリウムクロライド塩酸塩8.8gを得た。
前記白色結晶8.8gとメタノール20gを100mlフラスコに仕込み、そこに水酸化ナトリウム1.07gを加え、得られた混合物を室温で1時間攪拌した。得られた混合物にアセトニトリル10gを加えたところ、塩が析出した。得られた混合物をろ過して塩を除去し、得られたろ液を濃縮することにより、淡黄色油状物として、1−[(2,4,6−トリメチルフェニル)メチル]−3−(3−アミノプロピル)イミダゾリウムクロライド7.8gを得た。
【0068】
1−[(2,4,6−トリメチルフェニル)メチル]−3−(3−アミノプロピル)イミダゾリウムクロライド(淡黄色油状物)
H−NMR(δppm、DMSO−d、TMS基準):1.90(m,2H)、2.23(s,3H)、2.25(s,6H)、2.52(m、2H)、4.29(m,2H)、5.48(s、2H)、6.99(s、2H)、7.63(s、1H)、7.94(s,1H)、9.23(s,1H)
【0069】
イミダゾリウム塩(A)の製造例3
還流冷却管を備えた100mLフラスコに、参考例1で得たN−ベンジリデン−3−(1H−イミダゾ−1−リル)−1−プロパンアミン12.6g、ベンジルブロマイド12gおよびトルエン50gを仕込み、得られた混合物を100℃で5時間攪拌した。得られた反応混合物を、室温まで冷却し、得られた1−ベンジル−3−(3−アミノプロピル)イミダゾリウムブロマイドを含む油状物をデカンテーションにより回収した。更に、該油状物にトルエン20gを追加、混合し、得られた混合物から油状物を回収する操作を3回繰り返した。
前記操作で得た油状物22.7g、トルエン50g、水50gおよび35%塩酸7.5gを仕込み、得られた混合物を80℃で1時間攪拌した。得られた反応混合物を室温まで冷却し、分液処理によりトルエン層を分離した。得られた水層を、トルエン10gで2回洗浄した後で濃縮することにより、白色結晶として、1−ベンジル−3−(3−アミノプロピル)イミダゾリウムブロマイド塩酸塩19.9gを得た。
前記で得た白色結晶19.4gとメタノール50gを100mlフラスコに仕込み、そこに水酸化ナトリウム2.33gを加え、得られた混合物を室温で1時間攪拌した。得られた混合物にアセトニトリル30gを加えたところ、塩が析出した。得られた混合物をろ過して塩を除去し、得られたろ液を濃縮することにより、淡黄色油状物として、1−ベンジル−3−(3−アミノプロピル)イミダゾリウムブロマイド17.3gを得た。
【0070】
1−ベンジル−3−(3−アミノプロピル)イミダゾリウムブロマイド(淡黄色油状物)
H−NMR(δppm、DMSO−d、TMS基準):1.86(m,2H)、2.48(m,2H)、4.29(s,3H)、2.25(s,6H)、3.56(m,2H)、4.29(m,2H)、5.50(s、2H)、7.2−7.5(m、5H)、7.89(m、2H)、9.54(s,1H)
【0071】
イミダゾリウム塩(A)の製造例4
還流冷却管を備えた100mLフラスコに、1−メチルイミダゾール5g、3−ジメチルアミノ−1−クロロプロパン塩酸塩9.6gおよびアセトニトリル50gを仕込み、得られた混合物を80℃で16時間攪拌した。得られた反応混合物を室温まで冷却した後、ろ過することにより結晶を取り出し、該結晶を乾燥させることにより、3−[(3−ジメチルアミノ)プロピル]−1−メチル−1H−イミダゾリウムクロライド塩酸塩6.5gを得た。
【0072】
実施例1
還流冷却管を備えた50mLフラスコに、参考例2で得た1−[(2,4,6−トリメチルフェニル)メチル]−3−(3−アミノプロピル)イミダゾリウムクロライド300mgとテトラヒドロフラン10gを仕込み、フラスコ内を窒素で置換した。そこに、水素化ナトリウム−ミネラルオイルディスパージョン(60%含量)45mgを加え、これを25℃で30分攪拌した。そこに、(p−シメン) ルテニウム クロライド ダイマー150mgを加え、得られた混合物を40℃で8時間攪拌した後、得られた反応混合物を室温まで冷却した。該反応混合物をろ過して塩を除去し、得られたろ液を濃縮することにより、ルテニウム錯体を含む黒緑色粉末290mgを得た。この粉末の融点は245〜250℃(分解)であった。
【0073】
実施例2
ガラス製内筒管を備えた100mLオートクレーブに、実施例1で得た黒緑色粉末50mg、水酸化カリウム20mg、安息香酸メチル200mgおよびテトラヒドロフラン10gを仕込んだ。オートクレーブ内を窒素で置換した後に水素で置換し、水素圧1.0MPaまで加圧した後、100℃まで昇温したところ、内圧は1.3MPaとなった。オートクレーブの内容物を100℃で16時間攪拌したところ、内圧は1.2MPaとなった。オートクレーブの内容物を室温(約25℃)まで冷却し、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、ベンジルアルコールの収率は10%であった。また、安息香酸メチルが85%回収された。
【0074】
実施例3
還流冷却管を備えた50mLフラスコに、参考例4で合成した3−[(3−ジメチルアミノ)プロピル]−1−メチル−1H−イミダゾリウムクロライド塩酸塩240mgとテトラヒドロフラン10gを仕込み、フラスコ内を窒素で置換した。そこに、水素化ナトリウム−ミネラルオイルディスパージョン(60%含量)80mgを加え、これを25℃で30分攪拌した。そこに、トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムジクロライド470mgを加え、得られた混合物を40℃で8時間攪拌した後、得られた反応混合物を室温(25℃)まで冷却した。該反応混合物をろ過して塩を除去し、得られたろ液を濃縮することにより、ルテニウム錯体を含む黒緑色粉末590mgを得た。この粉末の融点は220〜225℃(分解)であった。
【0075】
実施例4
ガラス製内筒管を備えた100mLオートクレーブに、実施例3で得た黒緑色粉末50mg、水酸化カリウム10mg、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチル200mgおよびトルエン10gを仕込んだ。オートクレーブ内を窒素で置換した後に水素で置換し、水素圧1.0MPaまで加圧した後、170℃まで昇温したところ、内圧は1.6MPaとなった。オートクレーブの内容物を170℃で4時間攪拌したところ、内圧は1.5MPaとなった。オートクレーブの内容物を室温まで冷却し、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールの収率は5%であり、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−ヒドロキシメチル安息香酸メチルの収率は42%であった。また、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルが22%回収された。
【0076】
実施例5
還流冷却管を備えた50mLフラスコに、参考例4で合成した3−[(3−ジメチルアミノ)プロピル]−1−メチル−1H−イミダゾリウムクロライド塩酸塩720mgとテトラヒドロフラン20gを仕込み、フラスコ内を窒素で置換した。そこに、水素化ナトリウム−ミネラルオイルディスパージョン(60%含量)250mgを加え、これを25℃で30分攪拌した。そこに、トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムジクロライド1410mgを加え、得られた混合物を40℃で2時間攪拌した後、得られた反応混合物をろ過して塩を除去し、0℃まで冷却し、0℃で10時間静置した。冷却後、析出した結晶をろ過し、更に乾燥することにより、ルテニウム錯体を含む黒緑色粉末590mgを得た。
ルテニウム錯体(含む黒緑色粉末)
H−NMR(δppm、DMSO−d、TMS基準):2.35(m,2H)、2.55(S,6H)、3.1−3.5(m,4H)、3.65(s,3H)、7.70(s,1H)、7.80(s、2H)(トリフェニルフォスフィンに同定されるピーク(6.95付近)は見られなかった。)
【0077】
実施例6
ガラス製内筒管を備えた100mLオートクレーブに、実施例5で得た黒緑色粉末40mg、水素化ナトリウム10mg、γ−ブチロラクトン200mgおよびテトラヒドロフラン4gを仕込んだ。オートクレーブ内を窒素で置換した後に水素で置換し、水素圧1.0MPaまで加圧した後、120℃まで昇温したところ、内圧は1.4MPaとなった。オートクレーブの内容物を120℃で6時間攪拌したところ、内圧は1.2MPaとなった。オートクレーブの内容物を約25℃まで冷却し、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、1,4−ブタンジオールの収率は14%であった。また、γ−ブチロラクトンが85%回収された。
【0078】
実施例7
還流冷却管を備えた50mLフラスコに、参考例2で得た1−[(2,4,6−トリメチルフェニル)メチル]−3−(3−アミノプロピル)イミダゾリウムクロライド510mgとジメチルアセトアミド10gを仕込み、そこに、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)ルテニウム243mgを加え、フラスコ内を窒素で置換した。そこに、水素化ナトリウム−ミネラルオイルディスパージョン(60%含量)70mgを加え、25℃で1時間攪拌した。得られた混合物をろ過して塩を除去し、得られたろ液を濃縮し、更に乾燥することにより、ルテニウム錯体を含む黒緑色結晶510mgを得た。
【0079】
実施例8
ガラス製内筒管を備えた100mLオートクレーブに、実施例7で得た黒緑色結晶50mg、水素化ナトリウム5mg、γ−ブチロラクトン200mgおよびテトラヒドロフラン4gを仕込んだ。オートクレーブ内を窒素で置換した後に水素で置換し、水素圧1.0MPaまで加圧した後、120℃まで昇温したところ、内圧は1.4MPaとなった。オートクレーブの内容物を120℃で6時間攪拌したところ、内圧は1.3MPaとなった。オートクレーブの内容物を室温まで冷却し、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、1,4−ブタンジオールの収率は15%であった。また、γ−ブチロラクトンが84%回収された。
【0080】
実施例9
ガラス製内筒管を備えた100mLオートクレーブに、実施例7で得た黒緑色結晶50mg、水素化ナトリウム5mg、3−フェニルプロピオン酸メチル200mgおよびトルエン4gを仕込んだ。オートクレーブ内を窒素で置換した後に水素で置換し、水素圧1.0MPaまで加圧した後、120℃まで昇温したところ、内圧は1.2MPaとなった。オートクレーブの内容物を120℃で6時間攪拌したところ、内圧は1.16MPaとなった。オートクレーブの内容物を室温まで冷却し、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、3−フェニルプロパノールの収率は5%であった。また、3−フェニルプロピオン酸メチルが90%回収された。
【0081】
実施例10
還流冷却管を備えた50mLフラスコに、参考例2で得た1−[(2,4,6−トリメチルフェニル)メチル]−3−(3−アミノプロピル)イミダゾリウムクロライド260mgとジメチルアセトアミド10gを仕込み、そこに、塩化ルテニウム(RuCl3)92mgを加え、フラスコ内を窒素で置換した。そこに、水素化ナトリウム−ミネラルオイルディスパージョン(60%含量)40mgを加え、25℃で1時間攪拌した。得られた混合物をろ過して塩を除去し、得られたろ液を、窒素置換したトルエン100gに滴下すると黒緑色結晶が析出した。結晶をろ過し、更に乾燥することで、ルテニウム錯体を含む黒緑色粉末220mgを得た。
ルテニウム錯体(黒緑色粉末)
H−NMR(δppm、DMSO−d、TMS基準):1.95(m,2H)、2.30(s,3H)、2.59(s、6H)、4.1−4.5(m,2H)、5.45(s,2H)、6.85(bs、2H)、7.1−7.3(m,2H)、7.65(m、2H)
【0082】
実施例11
ガラス製内筒管を備えた100mLオートクレーブに、実施例10で得た黒緑色粉末11mg、水素化ナトリウム5mg、γ−ブチロラクトン200mgおよびテトラヒドロフラン4gを仕込んだ。オートクレーブ内を窒素で置換した後に水素で置換し、水素圧1.0MPaまで加圧した後、120℃まで昇温したところ、内圧は1.4MPaとなった。オートクレーブの内容物を120℃で6時間攪拌したところ、内圧は1.3MPaとなった。オートクレーブの内容物を室温まで冷却し、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、1,4−ブタンジオールの収率は14%であった。また、γ−ブチロラクトンが85%回収された。
【0083】
実施例12
還流冷却管を備えた50mLフラスコに、参考例3で得た1−ベンジル−3−(3−アミノプロピル)イミダゾリウムブロマイド390mgとジメチルアセトアミド10gを仕込み、そこに、塩化ルテニウム(RuCl3)138mgを加え、フラスコ内を窒素で置換した。そこに、水素化ナトリウム−ミネラルオイルディスパージョン(60%含量)60mgを加え、25℃で2時間攪拌した。得られた混合物をろ過して塩を除去し、得られたろ液を、窒素置換したトルエン100gに滴下すると黒緑色結晶が析出した。結晶をろ過し、更に乾燥することで、ルテニウム錯体を含む黒緑色粉末390mgを得た。
H−NMR(δppm、DMSO−d、TMS基準):1.93(m,2H)、2.48(s,3H)、4.30(m、2H)、5.50(m,2H)、7.1−7.5(m,5H)、7.99(m、2H)
【0084】
実施例13
ガラス製内筒管を備えた100mLオートクレーブに、実施例12で得た黒緑色粉末20mg、水素化ナトリウム−ミネラルオイルディスパージョン(60%含量)5mg、γ−ブチロラクトン200mgおよびテトラヒドロフラン4gを仕込んだ。オートクレーブ内を窒素で置換した後に水素で置換し、水素圧1.0MPaまで加圧した後、120℃まで昇温したところ、内圧は1.4MPaとなった。オートクレーブの内容物を120℃で6時間攪拌したところ、内圧は1.3MPaとなった。オートクレーブの内容物を室温まで冷却し、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、1,4−ブタンジオールの収率は22%であった。また、γ−ブチロラクトンが77%回収された。
【0085】
(参考例1)
実施例4において、実施例3で得た黒緑色粉末50mgに替えてトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムジクロライド50mgを用いる以外は、実施例2と同様に行った。オートクレーブの内容物をガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールの生成も、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−ヒドロキシメチル安息香酸メチルの生成も、認められず、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルエステルが90%回収された。
【0086】
(参考例2)
ガラス製内筒管を備えた100mLオートクレーブに、ビス{2−[ビス(1,1−ジメチルエチル)ホスフィノ−κP]エタンアミン−κN}ジクロロルテニウム(アルドリッチ社から入手)20mg、水酸化カリウム20mg、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチル400mgおよびトルエン20gを仕込んだ。オートクレーブ内を窒素で置換した後に水素で置換し、水素圧1.0MPaまで加圧した後、170℃まで昇温したところ、内圧は1.6MPaとなった。オートクレーブの内容物を170℃で4時間攪拌したところ、内圧は1.5MPaとなった。オートクレーブの内容物を室温まで冷却し、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールの収率は8%であり、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−ヒドロキシメチル安息香酸メチルの収率は51%であった。また、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルが22%回収された。
【0087】
(参考例3)
ガラス製内筒管を備えた100mLオートクレーブに、(p−シメン) ルテニウム クロライド ダイマー20mg、ナトリウムメトキシド10mg、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチル200mgおよびテトラヒドロフラン10gを仕込んだ。オートクレーブ内を窒素で置換した後に水素で置換し、水素圧1.0MPaまで加圧した後、170℃まで昇温したところ、内圧は1.6MPaとなった。オートクレーブの内容物を170℃で4時間攪拌したところ、内圧は1.6MPaとなった。オートクレーブの内容物を室温まで冷却し、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールの生成も、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−ヒドロキシメチル安息香酸メチルの生成も認められず、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルが主に回収された。他に、2,3,5−トリフルオロテレフタル酸ジメチルや2,3,5,6−テトラフルオロ安息香酸メチル等の副生が認められた。
【0088】
(参考例4)
ガラス製内筒管を備えた100mLオートクレーブに、5%パラジウム/炭素100mg、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチル200mgおよびテトラヒドロフラン10gを仕込んだ。オートクレーブ内を窒素で置換した後に水素で置換し、水素圧1.0MPaまで加圧した後、170℃まで昇温したところ、内圧は1.6MPaとなった。オートクレーブの内容物を170℃で4時間攪拌したところ、内圧は1.6MPaとなった。オートクレーブの内容物を室温まで冷却し、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールの生成も、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−ヒドロキシメチル安息香酸メチルの生成も認められず、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルが主に回収された。他に2,3,5−トリフルオロテレフタル酸ジメチルや2,3,5,6−テトラフルオロ安息香酸メチル等の副生が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば、カルボン酸エステル化合物をアルコール化合物に還元することのできる新規な製造方法及び該製造方法に好適な触媒が提供可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イミダゾリウム塩(A)、ルテニウム化合物(B)及び塩基(C)を反応させてルテニウム錯体を得る第1工程、及び
第1工程で得られたルテニウム錯体の存在下、カルボン酸エステル化合物を水素で還元する第2工程を含むことを特徴とするアルコール化合物の製造方法。
【請求項2】
イミダゾリウム塩(A)が、分子内にアミノ基とイミダゾール環とを有し、該アミノ基と該イミダゾール基とが連結基を介して結合している部分構造を含むことを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
連結基が、置換基を有していてもよいアルキレン基であることを特徴とする請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
該イミダゾール環が、式(1)

(式中、Rは置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を表す。RおよびRは、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を表すか、またはRとRとが結合して、RとRとがそれぞれ結合する炭素原子と一緒になって環を表す。波線は結合手を表す。)
で示されるイミダゾール環であることを特徴とする請求項2又は3記載の製造方法。
【請求項5】
該アミノ基が式(2)

(式中、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表すか、RとRとが結合して一緒になって炭素数2〜8のアルキレン基を表す。波線は結合手を表す。)
で示されるアミノ基であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか記載の製造方法。
【請求項6】
イミダゾリウム塩(A)が、式(3)

(式中、Rは置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を表す。RおよびRは、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を表すか、またはRとRとが結合して、RとRとがそれぞれ結合する炭素原子と一緒になって環を表す。RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表すか、RとRとが結合して一緒になって炭素数2〜8のアルキレン基を表す。Qは置換基を有していてもよいアルキレン基を表し、Xは1価のアニオンを表す。)
で示される含アミンイミダゾリウム塩であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の製造方法。
【請求項7】
ルテニウム化合物(B)が、ルテニウム原子及びハロゲン原子を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の製造方法。
【請求項8】
ルテニウム化合物(B)が、ハロゲン化ルテニウム、芳香族化合物が配位したルテニウム ジハライド ダイマー、ジエンが配位したルテニウム ジハライド ポリマーおよびトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の製造方法。
【請求項9】
塩基(C)が、アルカリ金属アルコキシド、アルカリ金属水素化物およびアルカリ金属ビス(トリアルキルシリル)アミドからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか記載の製造方法。
【請求項10】
カルボン酸エステル化合物が、式(4)

(式中、RおよびRはそれぞれ互いに独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基または置換基を有していてもよいアリール基を表す。)
で示されるカルボン酸エステル化合物であり、得られるアルコール化合物が、式(5)

(式中、Rは上記と同一の意味を表す。)
で示されるアルコール化合物であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載の製造方法。
【請求項11】
カルボン酸エステル化合物が、式(9)

(式中、Rは、置換基を有していてもよいアルキレン基を表す。)
で示されるラクトンであり、得られるアルコール化合物が式(10)

(式中、Rは上記と同一の意味を表す。)
で示されるアルコール化合物であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載の製造方法。
【請求項12】
カルボン酸エステル化合物が、式(6)

(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは互いに独立に、水素原子またはハロゲン原子を表す。ただし、Xの少なくとも一つはハロゲン原子である。)
で示されるハロゲン置換テレフタル酸ジエステルであり、得られるアルコール化合物が、式(7)

(式中、RおよびXはそれぞれ上記と同一の意味を表す。)
で示されるハロゲン置換(4−ヒドロキシメチル)安息香酸エステルおよび/または式(8)

(式中、Xはそれぞれ上記と同一の意味を表す。)
で示されるハロゲン置換ベンゼンジメタノールであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載の製造方法。
【請求項13】
第2工程におけるルテニウム錯体の使用量が、ルテニウム原子に換算した量として、カルボン酸エステル化合物におけるカルボニルオキシ基(−C(=O)−O−)1モルに対して0.001〜0.2モルの範囲であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか記載の製造方法。
【請求項14】
第2工程が、ルテニウム錯体及び塩基の存在下、カルボン酸エステル化合物を水素で還元する工程であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか記載の製造方法。
【請求項15】
イミダゾリウム塩(A)、ルテニウム化合物(B)及び塩基(C)を反応させて得られるルテニウム錯体。
【請求項16】
イミダゾリウム塩(A)、ルテニウム化合物(B)及び塩基(C)を反応させて得られたルテニウム錯体の存在下、カルボン酸エステル化合物を水素で還元することを特徴とするアルコール化合物の製造方法。

【公開番号】特開2010−254683(P2010−254683A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81661(P2010−81661)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】