説明

アルコール類の製造方法およびそのアルコール類の製造方法を用いた水素または合成ガスの製造方法、アルコール類

【課題】アルコール類の製造過程にて副生する不純物が濃縮されて含まれ、目的とする製品としての品質を満たさないアルコール類から、硫黄化合物を選択的に除去し、触媒反応を含むケミカルプロセスの原料または燃料として利用可能なアルコール類を得るアルコール類の製造方法およびそのアルコール類の製造方法を用いた水素または合成ガスの製造方法、並びに、そのアルコール類の製造方法によって得られたアルコール類を提供する。
【解決手段】本発明のアルコール類の製造方法は、総硫黄含有量が30重量ppm以上、かつ、プロパノール類の含有量が200重量ppm以上であるアルコール類に対して、反応処理による脱硫処理、物理吸着剤による脱硫処理、あるいは、化学吸着剤による脱硫処理のうちから選択される1つまたは2つ以上の方法による脱硫処理を施すことにより、総硫黄含有量が10重量ppm以下のアルコール類を生成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄化合物を含むアルコール類から、硫黄化合物を除去してアルコール類を得るアルコール類の製造方法およびそのアルコール類の製造方法を用いた水素または合成ガスの製造方法、並びに、そのアルコール類の製造方法によって得られたアルコール類に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、アルコール類の製造過程にて副生する不純物が濃縮されて含まれ、目的とする製品としての品質を満たさないアルコール類から、硫黄化合物を選択的に除去することより、触媒反応を含むケミカルプロセスの原料または燃料として利用可能なアルコール類を得るアルコール類の製造方法およびそのアルコール類の製造方法を用いた水素または合成ガスの製造方法、並びに、そのアルコール類の製造方法によって得られたアルコール類に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルコール類は、化学工業における重要な基礎原料の1つであり、種々の反応を経て有用な化学品に変換される。
アルコール類が硫黄化合物を含んでいる場合、通常、蒸留によりアルコール類から硫黄化合物を分離し、アルコール類を原料とする反応に支障のないレベルまで精製した後、利用されている。このようにアルコール類を精製する理由は、硫黄化合物が触媒毒になり易い化合物だからである。
【0003】
また、アルコール類は、自動車などで使用される内燃機関の燃料やその他燃料としても利用される。そこで、アルコール類が硫黄化合物を含んでいると、それを燃焼させた場合、亜硫酸ガスが発生する。そのため、アルコール類の燃焼装置に、硫黄化合物の除去手段、あるいは、亜硫酸ガスの除去手段を設けない限り、酸性雨の原因となるなど環境へ悪影響を及ぼす亜硫酸ガスを大気中に放出することになり問題である。さらに、自動車などで使用される燃料の場合には、触媒の硫黄被毒の原因となり問題である。
【0004】
アルコール類の中でも、エタノールは、発酵法において最も効率的に生成される発酵生成物の1つであり、環境問題が注目される中、カーボンニュートラルな燃料あるいは化学原料として注目されている。
また、アルコール類は、おおよそ、石油系原料から化学反応を経るか、あるいは、バイオマス系原料から発酵を経て製造される。
このような化学反応あるいは発酵による生成物は、粗アルコールであり、目的とするアルコール以外に不純物が含まれているため、通常、蒸留法により精製される。
【0005】
蒸留工程による精製、すなわち、工業的レベルにて使用可能な品質(以下、「目的の品質」と言う。)のアルコール類を生成する過程では、目的の品質のアルコール類留分よりも低沸点の留分および高沸点の留分を分離し、目的の品質のアルコール類を得ている。このような分離するという工程からも明らかなように、製造工程にて得られたアルコール類の全てが目的の品質のエタノールとして回収されるわけではなく目的の品質に到達していない低純度のアルコール類が副生する。
【0006】
このような目的の品質に達していないアルコール類には、硫黄化合物が含まれていることがある。このようなアルコール類を、触媒反応の原料として利用した場合、硫黄分が触媒毒となることがあり、自動車用燃料として使用する場合には、触媒の硫黄被毒になることがある。また、燃料として使用した場合、亜硫酸ガスなどの有害ガスの発生源となることがある。このような目的の品質に達していないアルコール類には、その製造工程で生成した硫黄化合物が濃縮して含まれているため、硫黄化合物に起因する悪影響の度合いも大きく、結果として、使用範囲が限定されている。
【0007】
また、より高い収率で目的の品質のアルコール類を得るためには、(1)低沸点の留分および高沸点の留分の含有量を減らす、(2)より段数の高い蒸留塔を使用する、(3)蒸留塔における環流量を増やす、などの対策が必要である。
しかしながら、(1)の場合、目的の品質のアルコール類にも僅かながらも問題となる硫黄化合物が混入するという問題がある。(2)、(3)の場合、蒸留塔の建設費が高くなり、蒸留に要するエネルギー量が増加するという問題がある。
【0008】
ところで、脱硫とは、対象となる物質に含まれている硫黄化合物を、何らかの方法で除去することを言う。脱硫法の中でも、特に、ナフサ、ガソリン、灯油、軽油などの石油留分を脱硫する水添脱硫法が一般的な方法である。
この水添脱硫法とは、対象物質に含まれている硫黄化合物を、水素添加反応により硫化水素を中心とする化合物に変換し、その化合物を吸着剤に吸着させて除去する方法である。
【0009】
しかしながら、同様の方法をアルコール類に適用した場合、過剰に存在するアルコール分子中の酸素官能基が、水添脱硫触媒上あるいは吸着剤上の活性点に優先的に作用するため、これらの触媒や吸着剤の性能が十分に発揮されない。また、使用する触媒や吸着剤によっては、アルコール類そのものが反応してしまうこともあることから、石油留分の脱硫法を、アルコール類の脱硫に適用することは困難である。これは、石油留分と異なり、アルコール類が酸素官能基を含むということに起因する課題である。
【0010】
ここで、石油系原料を対象とする水添脱硫法を行う場合に使用される触媒の担体や吸着剤の成型剤としては、比表面積を大きくできること、安定性が高いなどの性質からγ−アルミナが広く用いられている。しかしながら、このγ−アルミナは、アルコール類との反応性が高く、分解、脱水、脱水素、重合などの反応が進行し、メタン、エタン、エチレン、プロパンなどの軽質炭化水素や軽質含酸素炭化水素に転化し、目的生成物の低硫黄アルコール収率が低減するため、水添脱硫法には適用することが難しいという問題があった。
【0011】
また、アルコール類から吸着法によって硫黄化合物を除去する方法も開示されているが(例えば、特許文献1参照)、この方法は銀イオンなどの高価な物質を利用するため、工業的に実施するには実用上、満足されるものではない。
【特許文献1】国際公開第2005/063354号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、アルコール類の製造過程にて副生する不純物が濃縮されて含まれ、目的とする製品としての品質を満たさないアルコール類から、硫黄化合物を選択的に除去することより、触媒反応を含むケミカルプロセスの原料または燃料として利用可能なアルコール類を得るアルコール類の製造方法およびそのアルコール類の製造方法を用いた水素または合成ガスの製造方法、並びに、そのアルコール類の製造方法によって得られたアルコール類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、総硫黄含有量が30重量ppm以上、かつ、プロパノール類の含有量が200重量ppm以上であるアルコール類(以下、単に「アルコール類」と言うこともある。エタノールの場合、同様に「エタノール類」と言うこともある。)に対して、反応処理による脱硫処理、物理吸着剤による脱硫処理、あるいは、化学吸着剤による脱硫処理のうちから選択される1つまたは2つ以上の方法による脱硫処理を施すことにより、総硫黄含有量が10重量ppm以下のアルコール類を生成するアルコール類の製造方法を提供する。
【0014】
前記反応処理による脱硫処理が、水素の存在下、前記アルコール類を触媒と接触させた後、吸着剤により処理することが好ましい。
【0015】
前記触媒が担体に担持されていることが好ましい。
【0016】
前記担体または前記吸着剤は、370℃、常圧下にて純エタノールと接触させて転化反応させた場合の前記純エタノールの回収率が60%以上であることが好ましい。
【0017】
前記担体および前記吸着剤は、370℃、常圧下にて純エタノールと接触させて転化反応させた場合の前記純エタノールの回収率が60%以上であることが好ましい。
【0018】
前記担体または前記吸着剤のγ−アルミナの含有量が3重量%未満であることが好ましい。
【0019】
前記担体および前記吸着剤のγ−アルミナの含有量が3重量%未満であることが好ましい。
ここで、γ−アルミナとは一般に石油などの炭化水素の水素化、脱硫、脱金属、異性化、脱水素、脱水などの反応に用いられる触媒もしくは活性金属担体として用いられるものであって、等軸晶系の結晶形態を有し、単位質量当りの表面積が100〜400m2/gと大きいものをいう。
【0020】
前記担体が、シリカ、チタニア、活性炭、マグネシア、アルミナの群から選択される1種または2種以上を含むことが好ましい。
【0021】
前記触媒が、ニッケル、モリブデン、コバルト、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウムの群から選択される1種または2種以上を含むことが好ましい。
【0022】
前記吸着剤が、亜鉛化合物、鉄化合物の群から選択される1種または2種以上を含み、これらの化合物の総含有量が30重量%以上であることが好ましい。
【0023】
前記吸着剤が、シリカ、チタニア、マグネシア、アルミナの群から選択される1種または2種以上を含むことが好ましい。
【0024】
前記反応処理による脱硫処理において、反応温度を400℃以下、圧力を5MPaG以下とすることが好ましい。
【0025】
前記化学吸着剤による脱硫処理が、前記アルコール類をイオン交換樹脂または固体触媒と接触させる処理であることが好ましい。
【0026】
前記アルコール類と水との混合溶液をイオン交換樹脂または固体触媒と接触させることが好ましい。
【0027】
前記物理吸着剤による脱硫処理が、活性炭、活性白土、珪藻土、シリカ、アルミナ、ゼオライトのうちから選択される1種または2種以上と接触させる処理であることが好ましい。
【0028】
本発明は、本発明のアルコール類の製造方法によって得られたアルコール類に接触改質反応を起こさせて、水素または合成ガスを製造する水素または合成ガスの製造方法を提供する。
【0029】
本発明は、総硫黄含有量が30重量ppm以上、かつ、プロパノール類の含有量が200重量ppm以上であるアルコール類に対して、反応処理による脱硫処理、物理吸着剤による脱硫処理、あるいは、化学吸着剤による脱硫処理のうちから選択される1つまたは2つ以上の方法による脱硫処理を施して得られ、総硫黄含有量が10重量ppm以下であるアルコール類を提供する。
【0030】
前記反応処理による脱硫処理が、水素の存在下、前記アルコール類を触媒と接触させた後、吸着剤により処理することが好ましい。
【0031】
前記反応処理による脱硫処理が、前記アルコール類をイオン交換樹脂または固体触媒と接触させる処理であることが好ましい。
【0032】
前記アルコール類と水の混合溶液をイオン交換樹脂または固体触媒と接触させることが好ましい。
【0033】
前記物理吸着剤による脱硫処理が、前記アルコール類を活性炭、活性白土、珪藻土、シリカ、アルミナ、ゼオライトのうちから選択される1種または2種以上と接触させる処理であることが好ましい。
【発明の効果】
【0034】
本発明のアルコール類の製造方法によれば、総硫黄含有量が30重量ppm以上、かつ、プロパノール類の含有量が200重量ppm以上であるアルコール類に対して、反応処理による脱硫処理、物理吸着剤による脱硫処理、あるいは、化学吸着剤による脱硫処理のうちから選択される1つまたは2つ以上の方法による脱硫処理を施すことにより、総硫黄含有量が10重量ppm以下であり、触媒反応を含むケミカルプロセスの原料または自動車用燃料、その他燃料として利用可能なアルコール類を生成することができる。
【0035】
本発明のアルコール類によれば、総硫黄含有量が30重量ppm以上、かつ、プロパノール類の含有量が200重量ppm以上であるアルコール類に対して、反応処理による脱硫処理、物理吸着剤による脱硫処理、あるいは、化学吸着剤による脱硫処理のうちから選択される1つまたは2つ以上の方法による脱硫処理を施して得られ、総硫黄含有量が10重量ppm以下であるので、触媒反応を含むケミカルプロセスの原料または自動車用燃料、その他燃料として利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明のアルコール類の製造方法およびそのアルコール類の製造方法を用いた水素または合成ガスの製造方法、並びに、そのアルコール類の製造方法によって得られたアルコール類の最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0037】
「アルコール類の製造方法」
本発明のアルコール類の製造方法は、総硫黄含有量が30重量ppm以上、かつ、プロパノール類の含有量が200重量ppm以上であるアルコール類に対して、反応処理による脱硫処理、物理吸着剤による脱硫処理、あるいは、化学吸着剤による脱硫処理のうちから選択される1つまたは2つ以上の方法による脱硫処理を施すことにより、総硫黄含有量が10重量ppm以下のアルコール類を生成する方法である。
【0038】
本発明におけるアルコール類のアルコールとしては、メタノール、エタノール、ブタノールなどの、プロパノール類を除く炭素数1〜4の低級アルコールなどが挙げられる。
【0039】
これらのアルコール類は、通常、蒸留工程を経て精製されるが、この際、問題となるのは、目的のアルコール類と沸点の近い化合物である。アルコール類の中でも、特に、エタノールやブタノールなどの低級アルコールは、水と共沸が生じることがあるため、水との共沸点が問題となることがある。発酵法によってアルコール類を製造する場合、発酵生成物は、通常、アルコール類の水溶液であるから、蒸留工程にて水が共存する限り、水との共沸点を考慮しなければならない。
【0040】
本発明における総硫黄含量とは、アルコール類に含まれる硫黄を含む化合物の総量のことであり、硫黄を含む化合物の総量を硫黄基準の重量分率で示したものである。
【0041】
プロパノール類は、エタノールやブタノールなどの低級アルコールと同族の化合物であり、製造段階において目的のアルコール類とともに副生することが多い。また、プロパノール類は、単独での沸点や、水との共沸点が上記の低級アルコールに近く、分離が容易ではない。プロパノール類は、上述のように、目的の品質のアルコール類よりも低沸点の留分あるいは高沸点の留分として分離されるが、分離が容易でないため、結果として、これらの留分はプロパノール類を多く含むとともに、相当量の目的のアルコール類も含むことになる。
ここで、プロパノール類とは、1−プロパノールおよび2−プロパノールのことである。
【0042】
硫黄化合物の中には、石油系の原料に由来するものや、発酵過程で生成するものがあるが、これらの中でも目的の品質のアルコール類を得るために課題となるのは、エタノールやブタノールなどの低級アルコールと沸点あるいは水との共沸点が近いものである。これらの硫黄化合物は、上述したプロパノール類の場合と同様に、目的の品質のアルコール類よりも低沸点の留分あるいは高沸点の留分として分離されるが、結果として、相当量のアルコール類とプロパノール類を含む留分が、目的の品質のアルコール類から分離され、その分離された留分に、相当量の硫黄化合物が含まれる。
【0043】
このように、低沸点の留分あるいは高沸点の留分として目的の品質のアルコール類から分離された、低純度のアルコール留分が、本発明における「総硫黄含有量が30重量ppm以上、かつ、プロパノール類の含有量が200重量ppm以上であるアルコール類」の代表例である。
【0044】
この本発明の製造方法の原料となるアルコール類は、製造段階で副生するプロパノール類や硫黄分の大部分が濃縮されたものであり、触媒毒や亜硫酸ガスの発生源になる硫黄分が多量に含まれているため、この硫黄分を除去しない限り工業的応用が困難である。
特に、発酵の際にプロパノール類や種々の硫黄化合物が生成するため、上記のアルコール類は発酵を経て目的のアルコール類を製造するプラントから得られる場合が多い。
【0045】
発酵法とは、サトウキビ、トウモロコシ、タピオカ、キャッサバ、米、小麦などの植物原料、廃木材、古紙などを原料とし、これらの原料の発酵プロセスを経て、原料となるアルコール類を生成する方法のことである。
【0046】
アルコール類に含まれる硫黄化合物としては、ジメチルスルフィド、ジエチルスルフィド、エチルメチルスルフィド、ジブチルスルフィドなどのスルフィド類;ジメチルジスルフィド、ジエチルジスルフィド、エチルメテルジスルフィド、ジブチルジスルフィドなどのジスルフィド類;テオ酢酸メチル、S−メチルチオ酢酸などのチオカルボン酸類;チオフェン、メチルチオフェン、ベンズチオフェンなどの芳香族イオウ化合物;亜硫酸ジメチル、亜硫酸ジエチル、亜硫酸ジブチルなどの亜硫酸エステル類;硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、硫酸ジブチルなどの硫酸エステル類などがあげられる。
【0047】
反応処理による脱硫処理とは、一定の化学反応を施して、硫黄化合物を元の化合物とは性質の異なる化合物に変換し、その化合物を何らかの方法により除去する方法のことである。このような反応処理による脱硫処理の中でも最も一般的な方法が水添脱硫であり、この水添脱硫は、水添反応(水素添加反応)によって硫黄化合物を、硫化水素に変換し、これらの化合物を吸着剤に吸着させて除去する方法である。
【0048】
水添反応(水素添加反応)とは、水素の存在下、硫黄化合物を含むアルコール類を触媒と接触させる反応のことである。この水添反応により、硫黄化合物が硫化水素に変換されるので、これらの化合物を吸着剤に吸着させて除去することができる。
【0049】
本発明のアルコール類の製造方法では、水添反応(水素添加反応)に用いられる触媒が担体に担持されていることが好ましい。
水添反応に用いられる触媒の担体としては、370℃、常圧下にて純エタノールと接触させて転化反応させた場合の純エタノールの収率が60%以上であるものが好ましい。
また、このような担体のγ−アルミナの含有量が3重量%未満であることが好ましい。
【0050】
このような担体としては、シリカ(SiO)、チタニア(TiO)、活性炭(ACTIVATED CARBON、AC)、マグネシア(MgO)、α−アルミナ(α−Al)の群から選択される1種または2種以上を含むものが挙げられる。
【0051】
水添反応に用いられる触媒としては、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)の群から選択される1種または2種以上を含むものが挙げられる。具体的には、Co−Mo系担持酸化物触媒、Ni−Mo系担持酸化触媒、Pd担持活性炭触媒、Pt担持活性炭触媒などが挙げられる。
【0052】
水添反応の反応温度は、0℃以上、400℃以下であることが好ましく、より好ましくは100℃以上、300℃以下である。
水添反応の反応温度が、0℃以上、400℃以下であることが好ましい理由は、反応温度が400℃を超えると、分解反応が過度に進行してメタン、エタンなどの軽質炭化水素ガスの生成量が増大し、目的生成物である低硫黄含有アルコールの収率の低下を招くばかりか、触媒上に炭素質が析出し触媒活性の低下を招くからである。
また、水添反応の反応圧力は、常圧以上、5MPaG以下であることが好ましく、より好ましくは常圧以上、3MPaG以下である。
水添反応の反応圧力が、常圧以上、5MPaG以下であることが好ましい理由は、反応圧力が5MPaGを超えると、分解反応が過度に進行してメタン、エタンなどの軽質炭化水素ガスの生成量が増大し、目的生成物である低硫黄含有アルコールの収率の低下を招くばかりか、反応装置の設計圧力が増すことにより機器のコストが増大するため経済性が低下するからである。
【0053】
水添反応に用いられる吸着剤としては、370℃、常圧下にて純エタノールと接触させて転化反応させた場合の純エタノールの回収率が60%以上であるものが好ましい。
また、このような吸着剤のγ−アルミナの含有量が3重量%未満であることが好ましい。
【0054】
このような吸着剤としては、酸化亜鉛などの亜鉛化合物、酸化鉄などの鉄化合物の群から選択される1種または2種以上を含み、これらの化合物の総含有量が30重量%以上であるものが用いられる。
さらに、この吸着剤は、シリカ、チタニア、マグネシア、アルミナの群から選択される1種または2種以上を含み、かつ、γ−アルミナの含有量が3重量%未満であるものが挙げられる。
【0055】
硫黄化合物を含むアルコール類をイオン交換樹脂または固体触媒と接触させる方法としては、(1)イオン交換樹脂または固体触媒を充填した塔内に、硫黄化合物を含むアルコール類を連続的に流通させる方法、(2)回分式反応器に、イオン交換樹脂または固体触媒と、硫黄化合物を含むアルコール類とを仕込み、攪拌下、両者を接触させる方法が用いられる。
【0056】
イオン交換樹脂としては、陽イオン交換樹脂または陰イオン交換樹脂のいずれか一方、あるいは、陽イオン交換樹脂および陰イオン交換樹脂の両方が用いられる。
固体触媒としては、活性白土、ヘテロポリ酸、シリカ、アルミナ、ゼオライトなどが用いられる。
【0057】
上記の(1)、(2)の方法において、硫黄化合物を含むアルコール類をイオン交換樹脂または固体触媒と接触させる際の温度(以下、この温度を「接触温度」と言うこともある。)は、0℃以上、200℃以下であることが好ましく、より好ましくは室温(25℃)以上、100℃以下である。
接触温度が、0℃以上、200℃以下であることが好ましい理由は、接触温度が、この温度範囲内であれば、イオン交換樹脂や固体触媒の触媒作用によるアルコール類の脱水反応や縮合反応が起こりにくいからである。
【0058】
なお、接触温度によっては、上記の(1)、(2)の方法による脱硫処理を、加圧下で行うこともある。
また、複数のイオン交換樹脂や固体触媒を同時に用いることもできる。
【0059】
イオン交換樹脂触媒または固体触媒と接触させる脱硫処理においては、通常、アルコールに含まれる硫黄化合物がイオン交換樹脂または固体触媒に化学的に吸着されてアルコールから分離され、脱硫される。
ところが、イオン交換樹脂および固体触媒には硫黄化合物をアルコール類と性質の異なる化合物に変換する性質もあり、硫黄化合物が化学吸着剤によって分離されることに加えて、化合物によっては、上述の変換反応を受けた硫黄化合物がアルコールから分離されることで脱硫されることもありうる。
また、イオン交換樹脂や固体触媒が硫黄化合物を物理的に吸着することもあり、化合物によっては、物理吸着剤によって脱硫されることもありうる。
すなわち、イオン交換樹脂またな固体触媒と接触させる脱硫処理は、イオン交換樹脂や固体触媒と硫黄化合物を含むアルコール類とを接触させることが重要なのであって、必ずしも化学吸着剤による脱硫に限定されるものではなく、反応処理による脱硫や物理吸着剤による脱硫が含まれる場合もある。
【0060】
上述の処理によってアルコール類と性質の異なる化合物に変換された硫黄化合物は、通常、蒸留、吸着などの方法により分離される。
また、変換された硫黄化合物の沸点が十分に低い場合、この硫黄化合物を、イオン交換樹脂や固体触媒に接触させる段階にて、ガスとして系外に除去できる。例えば、硫黄化合物が亜硫酸エステルの場合、亜硫酸エステルは、上記の(1)、(2)の方法による脱硫処理により亜硫酸ガスに変換されるが、亜硫酸ガスは沸点が十分に低いため、イオン交換樹脂や固体触媒に接触させている段階にて、気相部に分離される。なお、亜硫酸ガスが大気中に放出されないように、その気相部の除外処理は必要である。
【0061】
また、イオン交換樹脂または固体触媒と接触させることによる脱硫処理においては、あらかじめ硫黄化合物を含むアルコール類と水を混合した混合溶液を脱硫処理することが好ましい。このような硫黄化合物を含むアルコール類と水の混合溶液を用いることにより、一部の硫黄化合物と水とが反応し、反応処理による脱硫を受けやすい化合物やアルコール類から、分離されやすい化合物に変換されると推定される。
【0062】
物理吸着剤による脱硫処理とは、適当な吸着剤に硫黄化合物を物理的に吸着させることによって、硫黄化合物を除去する方法のことである。吸着剤としては、活性炭、活性白土、珪藻土、シリカ、アルミナ、ゼオライトなどが用いられる。
【0063】
化学吸着剤による脱硫処理とは、適当な吸着剤に硫黄化合物を化学的に吸着させることによって、硫黄化合物を除去する方法のことである。吸着剤としては、イオン交換樹脂、銅などを主成分とするものなどが用いられる。
【0064】
これらの物理吸着剤による脱硫処理および化学吸着剤による脱硫処理では、上記の吸着剤を充填した塔内に、硫黄化合物を含むアルコール類を連続的に流通させる方法などが用いられる。
この方法において、硫黄化合物を含むアルコール類を吸着剤と接触させる際の温度は、0℃以上、200℃以下であることが好ましく、より好ましくは室温(25℃)以上、100℃以下である。
硫黄化合物を含むアルコール類を吸着剤と接触させる際の温度が、0℃以上、200℃以下であることが好ましい理由は、この温度範囲であれば、吸着剤に吸着された硫黄化合物の脱着反応が起こりにくく、吸着効果が向上するからである。
【0065】
なお、物理吸着剤による脱硫処理および化学吸着剤による脱硫処理では、吸着剤に一定量の硫黄化合物が吸着されると、吸着剤はその吸着機能を果たさなくなる。その場合、吸着剤を再生するか、あるいは、新しい吸着剤と交換する。
【0066】
本発明のアルコール類の製造方法によれば、総硫黄含有量が30重量ppm以上、かつ、プロパノール類の含有量が200重量ppm以上であるアルコール類に対して、反応処理による脱硫処理、物理吸着剤による脱硫処理、あるいは、化学吸着剤による脱硫処理のうちから選択される1つまたは2つ以上の方法による脱硫処理を施すので、総硫黄含有量が10重量ppm以下であり、触媒反応を含むケミカルプロセスの原料または自動車用燃料、その他燃料として利用可能なアルコール類を製造することができる。
【0067】
「水素または合成ガスの製造方法」
本発明の水素または合成ガスの製造方法は、本発明のアルコール類の製造方法によって得られたアルコール類に接触改質反応を起こさせて、水素または合成ガスを製造する方法である。
【0068】
接触改質反応は、水素または合成ガスを生成する方法の中でも石油系の原料に対して多くの実績があり、一般的に、低温水蒸気改質反応(プレリフォーミング)と高温水蒸気改質反応から構成されている。
ここで、高温水蒸気改質とは、炭化水素と水蒸気を混合し、通常800℃以上の高温において反応、改質させることにより合成ガスを得る改質である。
また、低温水蒸気改質とは多種の炭化水素種を含む場合に、高温での改質反応での負荷を低減するため、前段で炭化水素と水蒸気を混合し、250℃から550℃において炭化水素種からメタンなどの成分を得る改質である。
接触改質反応の一段目の低温水蒸気改質反応により、エタノールはメタン、二酸化炭素、水素、一酸化炭素を主成分とする水素または合成ガスに変換される。得られた水素または合成ガスは、石油代替燃料として使用可能である。
このことより、低温水蒸気改質反応が問題なく行われれば、後段の高温水蒸気改質反応は容易に進行させることができる。
【0069】
「アルコール類」
本発明のアルコール類は、総硫黄含有量が30重量ppm以上、かつ、プロパノール類の含有量が200重量ppm以上であるアルコール類に対して、反応処理による脱硫処理、物理吸着剤による脱硫処理、あるいは、化学吸着剤による脱硫処理のうちから選択される1つまたは2つ以上の方法による脱硫処理を施して得られ、総硫黄含有量が10重量ppm以下のアルコール類である。すなわち、本発明のアルコール類は、上述の本発明のアルコール類の製造方法によって得られたものである。
【0070】
したがって、本発明のアルコール類は、触媒反応を含むケミカルプロセスの原料または自動車用燃料、その他燃料として利用可能なアルコール類である。
【実施例】
【0071】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0072】
「参考例1」
表1に、硫黄化合物およびプロパノール類を含むアルコール類の組成を例示する。いずれも蒸留精製工程において低沸点の留分として分離された留分である。
【0073】
【表1】

【0074】
また、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノールの濃度測定条件を以下に示す。
検出器としては、FID(水素炎イオン化検出器)を用いた。
キャリアーガスとしては、窒素ガスを用いた。
【0075】
また、ガスクロマトグラフィーにより、アルコール類の総硫黄含有量の測定を行った。総硫黄含有量の測定を以下に示す。測定結果を、硫黄としての重量ppmで示した。
ガスクロマトグラフィーとしては、GC−14B(島津製作所社製)を用いた。
検出器としては、FPD(炎光光度検出器、Sフィルター、島津製作所社製)を用いた。
分析カラムとしては、β,β−ODPN 25% Uniport HP 60/80 Glass φ3mm×5m(GLサイエンス社製)を用いた。
試料の導入温度を95℃、カラム温度を90℃、検出温度を95℃とした。
キャリアーガスとしては、ヘリウムガスを用いた。
【0076】
「参考例2」
エタノールの水蒸気改質反応における硫黄化合物の影響を例示する。
温度330℃に保たれた砂流動槽内に設置した改質触媒(商品名:N−185、日揮化学社製)を充填した反応器を用いて、反応器圧力1.5MPaGにておいて、水/エタノール比=2.0mol/molの条件にて、低温水蒸気改質反応を行った。
図1は、硫黄化合物をほとんど含まないエタノールを用いた場合の反応器内温度分布の経時変化を示すグラフである。
図2は、表1に示した試料E−1を用いた場合の反応器内温度分布の経時変化を示すグラフである。
この低温水蒸気改質反応では、反応の進行に伴って発生する熱によって触媒の温度が上昇するが、図1に示すように、エタノールが硫黄化合物を含まない場合、反応器内の触媒層の長さ方向において、発熱する場所がほとんど変化しない。一方、図2に示すように、エタノールが硫黄化合物を含む場合、反応器内の触媒層の長さ方向において、発熱する場所が下流側に移動する。
これは、硫黄化合物が触媒を被毒していることに起因しており、これは、図3に示すように、この低温水蒸気改質反応試験後の触媒層について、その長さ方向における硫黄および炭素の付着量分布を測定した結果からも確認することができる。したがって、硫黄化合物が供給された場合、触媒層の上流側から次第に硫黄化合物が吸着することによって低温水蒸気改質反応が行われなくなり、エタノールの熱分解などに起因する煤の生成が確認された。これらのことから、低温水蒸気改質反応によりエタノール類を石油系の原料と同様に取り扱うためには、硫黄化合物を除去する必要があることが示唆された。
【0077】
[脱硫反応試験]
以下の脱硫反応試験では、エタノールとして、表1に示した試料E−1を用いた。
また、以下の脱硫反応試験では、温度350℃に保たれた砂流動槽内に設置した脱硫触媒と吸着剤を連結させた反応器を用い、反応器内の圧力を2.0MPaGとし、水素の存在下、水素/エタノール比=0.3mol/molの条件にて、脱硫反応を行った。
CoO−MoO担持脱硫触媒、NiO−MoO担持脱硫触媒を用いた場合、これらの触媒の前処理をとして、硫化水素による硫化処理を行った。
ZnO吸着剤は、試薬(商品名:酸化亜鉛 KC1級、ZnO純度:99重量%以上、アルミナ:0.0%、片山化学工業社製)を圧縮成型し、1.7mmから2.8mmの粒径にそろえることにより調製した。これを「吸着剤A」とする。これ以外に、純度およびアルミナ含有量の異なるZnO(ZnO純度:89.0重量%、アルミナ:4.0重量%)を1.7mmから2.8mmの粒径にそろえ、使用した。これを「吸着剤B」とする。
また、鉄吸着剤として、Fe(Fe純度:36.0重量%、アルミナ:1.0重量%)を1.7mmから2.8mmの粒径にそろえ用いた。これを「「吸着剤C」とする。
【0078】
「比較例1」
脱硫触媒として、CoO−MoO/γ−Al(「触媒A」とする。商品名:CDS−LX1、触媒化成工業社製)、および、吸着剤としてZnO(「吸着剤B」)を用いて、未脱硫のエタノールの脱硫反応を行った。
試料E−1のエタノールの総硫黄含有量が55重量ppmであるのに対して、本比較例における脱硫処理後のエタノールの総硫黄含有量は51.4重量ppmであり、脱硫反応は僅かにしか進行しなかった。
【0079】
「比較例2」
比較例1のように脱硫反応が進行しないのは、触媒に含まれるγ−Alに起因する酸点により脱硫反応が抑制されることによるものと推察し、酸性質を殆ど有さないSiOを担体とする脱硫触媒であるCoO−MoO/SiO(「触媒B」とする。)、および、吸着剤として、ZnO(吸着剤B)を用いて、未脱硫のエタノールの脱硫反応を行った。
試料E−1のエタノールの総硫黄含有量が55重量ppmであるのに対して、本比較例における脱硫処理後のエタノールの総硫黄含有量は48.7重量ppmであり、脱硫反応は僅かにしか進行しなかった。
【0080】
「比較例3」
表1に示した試料E−1を用いて、石油系原料の水添脱硫において使用されているγ−アルミナを含む担体に、活性金属としてコバルトおよびモリブデンを担持させた脱硫触媒(「触媒A」とする。)を用い、温度350℃、反応圧力2.0MPaGとし、水素の存在下、水素/エタノール比=0.2mol/molの条件にて反応を行い、さらに、ZnO系の吸着触媒(「吸着剤A」とする。)を用いた水添脱硫処理を行った。
試料E−1のエタノールの総硫黄含有量が55重量ppmであるのに対して、本比較例における脱硫処理後のエタノールの総硫黄含有量は50重量ppmであった。これは、γ−アルミナはアルコールに脱水反応を生じさせる能力があり、アルコールの脱水反応により生成するエチレンに水添脱硫反応により生成する硫化水素が反応して、エタンチオールあるいはジエチルスルフィドを生成する副反応が進行するため、アルコール中の硫黄を、硫化水素として吸着除去することができないからである。
【0081】
「実施例1」
そこで、比較例1、2のように脱硫反応が進行しないのは、触媒に含まれるγ−Alに起因する酸性質、および、吸着剤に含まれるγ−Alに起因する酸性質により脱硫反応が抑制されることによるものと推察し、酸性質を殆ど有さないSiOを担体とする脱硫触媒であるCoO−MoO/SiO(触媒B)、および、γ−Alを含まないZnO吸着剤(「吸着剤A」とする。)を用いて、未脱硫のエタノールの脱硫反応を行った。
試料E−1のエタノールの総硫黄含有量が55重量ppmであるのに対して、本実施例における脱硫処理後のエタノールの総硫黄含有量は1.5重量ppmであり、脱硫反応の著しい進行が見られた。
【0082】
比較例1〜3および実施例1の結果より、γ−Alを含有する触媒では、アルコールの脱硫反応を進行させるのが困難であることが示唆された。
なお、比較例1〜3および実施例1の結果、並びに、後述する実施例2〜6の結果を、表2に示す。
【0083】
「実施例2」
TiOを担体とする脱硫触媒であるCoO−MoO/TiO(「触媒C」とする。)、および、γ−Alを含まないZnO吸着剤(吸着剤A)を用いて、未脱硫のエタノールの脱硫反応を行った。
本実施例における脱硫処理後のエタノールの総硫黄含有量は3.8重量ppmであった。
【0084】
「実施例3」
活性炭(AC)を担体とする脱硫触媒であるCoO−MoO/AC(「触媒D」とする。)、および、γ−Alを含まないZnO吸着剤(吸着剤A)を用いて、未脱硫のエタノールの脱硫反応を行った。
本実施例における脱硫処理後のエタノールの総硫黄含有量は1.4重量ppmであった。
【0085】
「実施例4」
MgOを担体とする脱硫触媒であるCoO−MoO/MgO(「触媒E」とする。)、および、γ−Alを含まないZnO吸着剤(吸着剤A)を用いて、未脱硫のエタノールの脱硫反応を行った。
本実施例における脱硫処理後のエタノールの総硫黄含有量は4.7重量ppmであった。
【0086】
「実施例5」
α−Alを担体とする脱硫触媒であるCoO−MoO/α−Al(「触媒F」とする。)、および、γ−Alを含まないZnO吸着剤(吸着剤A)を用いて、未脱硫のエタノールの脱硫反応を行った。
本実施例における脱硫処理後のエタノールの総硫黄含有量は4.5重量ppmであった。
【0087】
実施例1〜5では、試料E−1のエタノールの総硫黄含有量が55重量ppmであるのに対して、脱硫処理後のエタノールの総硫黄含有量は5重量ppm以下となり、脱硫反応の著しい進行が見られた。これらの中でも、活性炭を担体として用いた触媒であるCoO−MoO/AC(触媒D)、および、γ−Alを含まないZnO吸着剤(吸着剤A)の組合せは、高い脱硫性能を示した。
【0088】
「実施例6」
SiOを担体とし、触媒活性金属をNiO−MoOとした脱硫触媒であるNiO−MoO/SiO(「触媒G」とする。)、および、γ−Alを含まないZnO吸着剤(吸着剤A)を用いて、未脱硫のエタノールの脱硫反応を行った。
試料E−1のエタノールの総硫黄含有量が55重量ppmであるのに対して、本実施例における脱硫処理後のエタノールの総硫黄含有量は1.7重量ppmであり、脱硫反応の著しい進行が見られ、触媒活性金属をCoO−MoOからNiO−MoOに置き換えても、脱硫性能が低下しないことが分かった。
【0089】
【表2】

【0090】
「実施例7」
α−Alを担体とし、触媒活性金属をPdとした脱硫触媒であるPd/α−Al(「触媒H」とする。)、および、γ−Alを含まないZnO吸着剤(吸着剤A)を用いて、未脱硫のエタノールの脱硫反応を行った。
本実施例における脱硫処理後のエタノールの総硫黄含有量は3.2重量ppmであった。
なお、実施例7の結果、および、後述する実施例8〜14の結果を、表3に示す。
【0091】
「実施例8」
SiOを担体とし、触媒活性金属をPdとした脱硫触媒であるPd/SiO(「触媒I」とする。)、および、γ−Alを含まないZnO吸着剤(吸着剤A)を用いて、未脱硫のエタノールの脱硫反応を行った。
本実施例における脱硫処理後のエタノールの総硫黄含有量は0.9重量ppmであった。
【0092】
「実施例9」
活性炭(AC)を担体とし、触媒活性金属をPdとした脱硫触媒であるPd/AC(「触媒J」とする。)、および、γ−Alを含まないZnO吸着剤(吸着剤A)を用いて、未脱硫のエタノールの脱硫反応を行った。
本実施例における脱硫処理後のエタノールの総硫黄含有量は0.7重量ppmであった。
【0093】
「実施例10」
MgOを担体とし、触媒活性金属をPdとした脱硫触媒であるPd/MgO(「触媒K」とする。)、および、γ−Alを含まないZnO吸着剤(吸着剤A)を用いて、未脱硫のエタノールの脱硫反応を行った。
本実施例における脱硫処理後のエタノールの総硫黄含有量は2.1重量ppmであった。
【0094】
「実施例11」
TiOを担体とし、触媒活性金属をPdとした脱硫触媒であるPd/TiO(「触媒L」とする。)、および、γ−Alを含まないZnO吸着剤(吸着剤A)を用いて、未脱硫のエタノールの脱硫反応を行った。
本実施例における脱硫処理後のエタノールの総硫黄含有量は2.2重量ppmであった。
【0095】
実施例7〜11では、試料E−1のエタノールの総硫黄含有量が55重量ppmであるのに対して、脱硫処理後のエタノールの総硫黄含有量は3.5重量ppm以下となり、脱硫反応の著しい進行が見られた。これらの中でも、SiOを担体として用いた触媒であるPd/SiO(触媒K)、および、γ−Alを含まないZnO吸着剤(吸着剤A)の組合せ、並びに、活性炭を担体として用いた触媒であるPd/AC(触媒J)、および、γ−Alを含まないZnO吸着剤(吸着剤A)の組合せは、高い脱硫性能を示し、水蒸気改質反応に適応できる範囲であった。
【0096】
「実施例12」
α−Alを担体とし、触媒活性金属をPtとした脱硫触媒であるPt/α−Al(「触媒M」とする。)、および、γ−Alを含まないZnO吸着剤(吸着剤A)を用いて、未脱硫のエタノールの脱硫反応を行った。
本実施例における脱硫処理後のエタノールの総硫黄含有量は2.8重量ppmであった。
実施例12の結果を、表3に示す。
【0097】
「実施例13」
α−Alを担体とし、触媒活性金属をRuとした脱硫触媒であるRu/α−Al(「触媒N」とする。)、および、γ−Alを含まないZnO吸着剤(吸着剤A)を用いて、未脱硫のエタノールの脱硫反応を行った。
本実施例における脱硫処理後のエタノールの総硫黄含有量は3.5重量ppmであった。
実施例13の結果を、表3に示す。
【0098】
「実施例14」
α−Alを担体とし、触媒活性金属をRhとした脱硫触媒であるRh/α−Al(「触媒O」とする。)、および、γ−Alを含まないZnO吸着剤(吸着剤A)を用いて、未脱硫のエタノールの脱硫反応を行った。
本実施例における脱硫処理後のエタノールの総硫黄含有量は2.2重量ppmであった。
実施例14の結果を、表3に示す。
【0099】
試料E−1のエタノールの総硫黄含有量が55重量ppmであるのに対して、実施例12〜14における脱硫処理後のエタノールの総硫黄含有量は3.5重量ppm以下であり、脱硫反応の著しい進行が見られ、触媒活性金属としてPt、Ru、Rhなどの貴金属を用いても、脱硫性能が低下しないことが分かった。
【0100】
【表3】

【0101】
「実施例15」
SiOを担体とする脱硫触媒であるCoO−MoO/SiO(触媒B)、および、僅かにγ−Alを含むFe吸着剤(「吸着剤C」とする。)を用いて、未脱硫のエタノールの脱硫反応を行った。
本実施例における脱硫処理後のエタノールの総硫黄含有量は1.4重量ppmであった。
実施例15の結果を、表4に示す。
【0102】
「実施例16」
α−Alを担体とし、触媒活性金属をPdとした脱硫触媒であるPd/α−Al(触媒H)、および、僅かにγ−Alを含むFe吸着剤(吸着剤C)を用いて、未脱硫のエタノールの脱硫反応を行った。
本実施例における脱硫処理後のエタノールの総硫黄含有量は2.9重量ppmであった。
実施例16の結果を、表4に示す。
【0103】
試料E−1のエタノールの総硫黄含有量が55重量ppmであるのに対して、実施例15、16における脱硫処理後のエタノールの総硫黄含有量は3.5重量ppm以下であり、脱硫反応の著しい進行が見られ、僅かにγ−Alを含むFe吸着剤(吸着剤C)を用いても、γ−Alを含まないZnO吸着剤(吸着剤A)を用いた場合と同様に、高い脱硫性能が得られることが分かった。
【0104】
【表4】

【0105】
[純エタノールの転化反応試験]
以下の純エタノールの転化反応試験では、原料エタノールとして、和光純薬工業製の試薬エタノール(純度:99.5%)を用いた、温度370℃に保たれた電気炉に設置した反応器に触媒担体あるいは吸着剤を所定量充填し、反応器内の圧力を常圧(0MPaG)とし、原料エタノールをLHSVが2h-1になるように流通させてエタノール転化反応試験を行った。
【0106】
「比較例4」
ZnO吸着剤(吸着剤B)を用いた場合、エタノールの回収率は35.9%であった。γ―アルミナを用いた場合、エタノール回収率は4.9%であった。
「比較例5」
γ―アルミナを含む触媒担体あるいは吸着剤はアルコールと接触することで、分解、脱水、脱水素、重合などの反応が進行し、メタン、エタン、エチレン、プロパンなどの軽質炭化水素や軽質含酸素炭化水素に転化し、エタノール回収率が低下することが確認された。
比較例4、比較例5の結果を表5に示した。
【0107】
「実施例17」
SiOを用いた場合、エタノールの回収率は99.9%であった。
「実施例18」
α―アルミナを用いた場合、エタノールの回収率は99.7%であった。
「実施例19」
活性炭を用いた場合、エタノールの回収率は97.8%であった。
「実施例20」
MgOを用いた場合、エタノールの回収率は96.6%であった。
「実施例21」
TiOを用いた場合、エタノールの回収率は62.9%であった。
「実施例22」
ZnO吸着剤(吸着剤A)を用いた場合、エタノールの回収率は65.7%であった。
上記の結果から、エタノール回収率が60%以上の触媒担体あるいは吸着剤をエタノールの脱硫反応の触媒担体あるいは吸着剤として用いた場合、実施例1〜実施例6、実施例7〜実施例14で示されるように生成物の液収率が高く、生成物の総硫黄含有量が10ppm以下となり、アルコール類を脱硫する際の触媒担体もしくは吸着剤として適していることが確認された。
実施例17〜実施例22の結果を表5に示した。
【0108】
「実施例23」
ガラスカラムに粒状カーボン(商品名:ダイヤホープ、三菱化学カルボン社製)30mLを充填し、このカラムの上部から、表1に示した試料E−2を、30mL/時間の速度にて連続的に流通させ、カラムの下部から処理液を連続的に得た。
カラムに60mLのエタノールを流通させた後、カラムの下部から得られた処理液、および、カラムに120mLのエタノールを流通させた後、カラムの下部から得られた処理液を、参考例1と同様の測定方法によりエタノール中の総硫黄含有量を測定した。その結果、60mL流通後の総硫黄含有量は6ppm(脱硫率82%)、120mL流通後の総硫黄含有量は9ppm(脱硫率73%)であった。
【0109】
「実施例24」
ガラスカラムに陽イオン樹脂(商品名:マラソンC、ダウケミカル日本社製)30mLを充填し、このカラムの上部から、表1に示した試料E−1を、室温下、30mL/時間の速度にて連続的に流通させ、カラムの下部から処理液を連続的に得た。
カラムに3Lのエタノールを流通させた後、カラムの下部から得られた処理液、カラムに9Lのエタノールを流通させた後、カラムの下部から得られた処理液、および、カラムに18Lのエタノールを流通させた後、カラムの下部から得られた処理液を、参考例1と同様の測定方法によりエタノール中の総硫黄含有量を測定した。
脱硫処理前のエタノール中の総硫黄含有量、3L流通後の処理液中の総硫黄含有量、9L流通後の処理液中の総硫黄含有量、および、18L流通後の処理液中の総硫黄含有量を、表6に示す。
【0110】
「実施例25」
表1に示した試料E−1と純水をモル比が1:2となるように混合した混合溶液を用いた以外は実施例18と同様にして、脱硫処理前のエタノール中の総硫黄含有量、3L流通後の処理液中の総硫黄含有量、9L流通後の処理液中の総硫黄含有量、および、18L流通後の処理液中の総硫黄含有量を測定した。結果を、表5に示す。
表6の結果から、エタノールと純水を混合した時点で、総硫黄含有量は24重量ppmまで低下していたが、イオン交換樹脂による脱硫処理を行うことにより、さらに総硫黄含有量は低減し、目的のレベルまで脱硫したエタノールを得ることができた。
【0111】
「実施例26」
表1に示した試料E−3と純水をモル比が1:2となるように混合した混合溶液を用いた以外は実施例18と同様にして、脱硫処理前のエタノール中の総硫黄含有量、3L流通後の処理液中の総硫黄含有量、9L流通後の処理液中の総硫黄含有量、および、18L流通後の処理液中の総硫黄含有量を測定した。結果を、表6に示す。
表6の結果から、エタノールと純水を混合した時点で、総硫黄含有量は24重量ppmまで低下していたが、イオン交換樹脂による脱硫処理を行うことにより、さらに総硫黄含有量は低減し、目的のレベルまで脱硫したエタノールを得ることができた。
【0112】
【表5】

【0113】
【表6】

【0114】
「実施例27」
実施例19で得られた脱硫処理液(エタノール)を用いて、温度270℃に保たれた砂流動槽内に設置した改質触媒を充填した反応器を用い、反応器内の圧力を1.5MPaGとし、水素の存在下、水素/エタノール比=2.0mol/molの条件にて、低温水蒸気改質反応を行った。
図4に、反応器内温度分布の経時変化を示す。図2に示すグラフト比較すると、触媒層の温度分布の変化が緩やかであり、図1に示すグラフと同等であることから、改質触媒を被毒させることなく、アルコールの低温水蒸気改質反応を進行させることが可能であることが確認された。
【0115】
「実施例28」
実施例8で得られた脱硫処理液(エタノール)を用いて、実施例22と同様な反応条件にて、低温水蒸気改質反応を行った。反応器内温度分布の経時変化は図2に示すグラフと比較すると、触媒層の温度分布の変化が緩やかであり、図1に示すグラフと同等であることから、改質触媒を被毒させることなく、アルコールの低温水蒸気改質反応を進行させることが可能であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】硫黄化合物をほとんど含まないエタノールを用いた場合の反応器内温度分布の経時変化を示すグラフである。
【図2】表1に示した試料E−1を用いた場合の反応器内温度分布の経時変化を示すグラフである。
【図3】低温水蒸気改質反応試験後の触媒層について、その長さ方向における硫黄および炭素の付着量分布を示すグラフである。
【図4】脱硫処理後のエタノールを用いた場合の反応器内温度分布の経時変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
総硫黄含有量が30重量ppm以上、かつ、プロパノール類の含有量が200重量ppm以上であるアルコール類に対して、反応処理による脱硫処理、物理吸着剤による脱硫処理、あるいは、化学吸着剤による脱硫処理のうちから選択される1つまたは2つ以上の方法による脱硫処理を施すことにより、総硫黄含有量が10重量ppm以下のアルコール類を生成することを特徴とするアルコール類の製造方法。
【請求項2】
前記反応処理による脱硫処理が、水素の存在下、前記アルコール類を触媒と接触させた後、吸着剤により処理することを特徴とする請求項1に記載のアルコール類の製造方法。
【請求項3】
前記触媒が担体に担持されていることを特徴とする請求項2記載のアルコール類の製造方法。
【請求項4】
前記担体または前記吸着剤が、370℃、常圧下にて純エタノールと接触させて転化反応させた場合の前記純エタノールの回収率が60%以上であることを特徴とする請求項2または3に記載のアルコール類の製造方法。
【請求項5】
前記担体および前記吸着剤が、370℃、常圧下にて純エタノールと接触させて転化反応させた場合の前記純エタノールの回収率が60%以上であることを特徴とする請求項3に記載のアルコール類の製造方法。
【請求項6】
前記担体または前記吸着剤のγ−アルミナの含有量が3重量%未満であることを特徴とする請求項2または3に記載のアルコール類の製造方法。
【請求項7】
前記担体および前記吸着剤のγ−アルミナの含有量が3重量%未満であることを特徴とする請求項3に記載のアルコール類の製造方法。
【請求項8】
前記担体が、シリカ、チタニア、活性炭、マグネシア、アルミナの群から選択される1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項3ないし7のいずれか1項に記載のアルコール類の製造方法。
【請求項9】
前記触媒が、ニッケル、モリブデン、コバルト、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウムの群から選択される1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項2ないし8のいずれか1項に記載のアルコール類の製造方法。
【請求項10】
前記吸着剤が、亜鉛化合物、鉄化合物の群から選択される1種または2種以上を含み、これらの化合物の総含有量が30重量%以上であることを特徴とする請求項2ないし9のいずれか1項に記載のアルコール類の製造方法。
【請求項11】
前記吸着剤が、シリカ、チタニア、マグネシア、アルミナの群から選択される1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項2ないし10のいずれか1項に記載のアルコール類の製造方法。
【請求項12】
前記反応処理による脱硫処理において、反応温度を400℃以下、圧力を5MPaG以下とすることを特徴とする請求項2ないし11のいずれか1項に記載のアルコール類の製造方法。
【請求項13】
前記化学吸着剤による脱硫処理が、前記アルコール類をイオン交換樹脂または固体触媒と接触させる処理であることを特徴とする請求項1に記載のアルコール類の製造方法。
【請求項14】
前記アルコール類と水との混合溶液をイオン交換樹脂または固体触媒と接触させることを特徴とする請求項13に記載のアルコール類の製造方法。
【請求項15】
前記物理吸着剤による脱硫処理が、活性炭、活性白土、珪藻土、シリカ、アルミナ、ゼオライトのうちから選択される1種または2種以上と接触させる処理であることを特徴とする請求項1に記載のアルコール類の製造方法。
【請求項16】
請求項1に記載のアルコール類の製造方法によって得られたアルコール類に接触改質反応を起こさせて、水素または合成ガスを製造することを特徴とする水素または合成ガスの製造方法。
【請求項17】
総硫黄含有量が30重量ppm以上、かつ、プロパノール類の含有量が200重量ppm以上であるアルコール類に対して、反応処理による脱硫処理、物理吸着剤による脱硫処理、あるいは、化学吸着剤による脱硫処理のうちから選択される1つまたは2つ以上の方法による脱硫処理を施して得られ、総硫黄含有量が10重量ppm以下であることを特徴とするアルコール類。
【請求項18】
前記反応処理による脱硫処理が、水素の存在下、前記アルコール類を触媒と接触させた後、吸着剤により処理することを特徴とする請求項17に記載のアルコール類。
【請求項19】
前記反応処理による脱硫処理が、前記アルコール類をイオン交換樹脂または固体触媒と接触させる処理であることを特徴とする請求項17に記載のアルコール類。
【請求項20】
前記アルコール類と水の混合溶液をイオン交換樹脂または固体触媒と接触させることを特徴とする請求項19に記載のアルコール類。
【請求項21】
前記物理吸着剤による脱硫処理が、前記アルコール類を活性炭、活性白土、珪藻土、シリカ、アルミナ、ゼオライトのうちから選択される1種または2種以上と接触させる処理であることを特徴とする請求項17に記載のアルコール類。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−143853(P2009−143853A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−323321(P2007−323321)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000004411)日揮株式会社 (94)
【出願人】(308032666)協和発酵バイオ株式会社 (41)
【出願人】(000162607)協和発酵ケミカル株式会社 (60)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
【Fターム(参考)】