説明

アルコール飲料の品質評価方法

【課題】アルコール飲料のアルコール濃度および品質に関する定量的データを一挙に測定する品質評価方法を提供する。
【解決手段】アルコール飲料を対象として、電気定数である複素比誘電率を広帯域で測定し,そのCole-Coleプロットからアルコール濃度測定と品質の定量評価を行う。
【効果】ワイン等のアルコール飲料のアルコール濃度の測定、及びアルコール飲料の品質の定量測定を同時に行え、測定時間を短縮できる。また、アルコール濃度の測定については、測定者の熟練度合いによる測定結果の誤差が少なくなる。今までソムリエ等の官能検査により評価していた品質については、定量的な品質評価方法を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール飲料の品質評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ワイン等のアルコール飲料のアルコール濃度測定に関しては,そのアルコール飲料をまず蒸留することでエタノール以外の混合物を分離し,その後に比重計を用いてアルコール濃度が測定される。この場合,測定に時間がかかるうえ,測定者の熟達の度合いにより測定結果の誤差が大きくなるという欠点がある。
【0003】
一方,アルコール飲料の品質の定量化に関しては,例えばワインの場合,これの電気伝導度が無機塩の成分量(味の厚みに並行するとされる)を反映するとされ,近年,ワイン鑑評審査に試験的に採用され始めたが,現状では他のアルコール飲料も含めて,成分分析や官能検査(人の味覚いわゆるソムリエ等の主観評価)などを含む多くの項目の点数化で総合的に評価されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の技術では、アルコール飲料そのものの測定からエタノール濃度を測定できないこと,およびエタノールアルコール濃度とアルコール飲料の品質に関する定量測定を同時には行えないという問題点を有していた。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、アルコール飲料そのものからアルコール濃度および品質に関する定量的データを一挙に測定可能なアルコール飲料の品質評価方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のアルコール飲料の品質評価方法は、アルコール飲料を対象として、電気定数である複素比誘電率を広帯域で測定し,そのCole-Coleプロットからアルコール濃度測定と品質の定量評価を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
従来,アルコール飲料のエタノール分(いわゆるアルコール濃度)と品質に関しては同一測定項目で評価できなかった。本発明を用いれば,アルコール飲料そのものに対する複素比誘電率のCole-Coleプロットから,これらを一挙に測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下,本発明を具体化した実施例について図面を参照しつつ説明する。
【実施例】
【0009】
本実施例では、ワインを対象として、複素比誘電率を広帯域で測定し,そのCole-Coleプロットからアルコール濃度測定と品質の定量評価を行った。ワインの電気定数測定には、ネットワークアナライザと付属の開放終端同軸プローブ(誘電体プローブ)を用いた。図1は測定配置図と誘電体プローブを示す。ガラス容器に測定試料として21℃の赤ワインを入れ,誘電体プローブの端面を液体試料に浸すことで入射正弦波に対する反射波から次式(数1)で示す複素比誘電率の周波数特性を10 MHz乃至6GHzに亘って測定した。
【0010】
【数1】


【0011】
ここで左辺(数2で示す)は、複素比誘電率である。
【0012】
【数2】

【0013】
右辺については、次式の数3が、複素比誘電率の実部を示し、数4が、複素比誘電率の虚部を示す。
【0014】
【数3】

【0015】
【数4】


【0016】
測定結果はCole-Coleプロット (複素比誘電率の実部をx軸,虚部をy軸としてプロット)として表示し,試料の特性比較を行った。なお,参考データとしてエタノールと蒸留水のCole-Cole プロットも測定した。
【0017】
図2はCole-Cole プロットを示す。この図から,エタノールと蒸留水は半円型のデバイ分散特性を示しているのに対して,ワインは半円の一部から直線的に急上昇していることがわかる。これは,ワインが直流の導電性をもつことによる。なお,ワインの半円は種類によらずほとんど同じであったが,極小点と直線部分はワインによって異なっていることが確認できた。図から,エタノールと蒸留水に対する半円の中心と半径はエタノール濃度に比例して減少していることが推定され,これによりワインの半円部分はエタノール濃度,極小点と上昇直線部分はワインの含有成分に依存するものと仮定できる。いま、複素比誘電率を次式(1)のデバイ分散特性を有するものとして,各パラメータデバイ分散特性を有するものとして,各パラメータを測定値から求めたCole-Coleプロットの計算結果を図2の点線で示す。
【0018】
【数5】

【0019】
この図から,エタノールと蒸留水に対するCole-Cole プロットの計算値は測定値をほぼ表していること,ワインに対するそれも概ね表していること,などから式(1)は妥当であることがわかる。このようにして求めた各種の赤ワインに対する式(1)の諸元を表1に纏めて示す。
【0020】
【表1】

【0021】
ここで,fmはCole-Coleプロットの極小となる周波数,wmは角周波数である。eroとer∞とからエタノール濃度,wmtoとwmtとからワインの品質評価の可能性が示唆される。なお,赤ワインの飲み頃は12乃至20℃とされているので,ワインを約14℃に統一して同じ測定を行ったところ,ほとんどの試料において図2のCole-Coleプロット全体が左に平行移動しただけであった。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、アルコール飲料品質評価の分野に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】測定配置図と誘電体プローブを示した図である。
【図2】Cole-Cole プロットを示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール飲料を対象として、電気定数である複素比誘電率を広帯域で測定し,そのCole-Coleプロットからアルコール濃度測定と品質の定量評価を行うことを特徴とするアルコール飲料の品質評価方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−224387(P2008−224387A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−62276(P2007−62276)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】