説明

アルツハイマー病のためのバイオマーカーであるサポシンD及びFAM3C

本発明は、患者におけるアルツハイマー病の状態の定性化に有用である、タンパク質系バイオマーカー及びバイオマーカーの組み合わせを提供する。特に、本発明のバイオマーカーは、被験体の試料をアルツハイマー病又は非アルツハイマー病として分類するのに有用である。これらのバイオマーカーは、SELDI質量分析によって検出することができる。一実施形態において、このバイオマーカーは、サポシンD(I)、サポシンD(II)、サポシンD(III)及びFAM3C(I)から選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2005年4月19日に出願された米国仮出願第60/673,277号(この全体が、参考として本明細書に援用される)の出願日の利益を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は一般的に臨床診断に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
アルツハイマー病(AD)は、一度死滅すると置換することのできない脳細胞の死をもたらす進行性の神経変性障害である。神経病理学は、アミロイドプラーク、神経原線維変化、シナプス喪失及び選択的な神経細胞の死の存在によって特徴付けられる。プラークは細胞外アミロイドβペプチド(Aβ)の異常なレベルによりもたらされるのに対し、もつれは、細胞内の過リン酸化τタンパク質の存在に関連する。症状は、最初に記憶力の低下を伴って表れた後、認知機能及び正常行動の衰えが表れる。年齢が唯一の最も顕著な危険因子であり、65才から5年毎に発生率が倍加する。有病数の研究によると、2000年のAD患者数は米国だけでも4,500万人に上るとされ、その数は高齢者の急速な増加により今後50年の間にほぼ3倍にまで増えると予想されている。先進国における痴呆患者数の増加に伴い、社会や医療体制には大きな負担が課せられるであろう。
【0004】
ADの病因論の解明に著しい進歩が見られるにもかかわらず、完全な疾患修飾効果を示す薬剤は存在しない。疾患の進行を遅らせる将来の薬剤を開発する多大な努力が行われているものの、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤に代表される現在の治療は、主に症状を軽減することに限られている(非特許文献1)。早期の治療には早期の診断が必要不可欠であり、神経変性を遅らせることを目的とする薬剤が臨床効果を示すことになれば、早期の診断がさらに大きな意味の持つことになるであろう。
【0005】
ADの臨床診断のための最新の判定基準は、他の痴呆の除外に大きく依存しており、この判定基準には、可能な場合、神経心理学試験及び神経画像化が含まれる(非特許文献2)。臨床的基準を使用して80〜90%というかなり高い精度が報告されているが(非特許文献3)、これらの研究は、主に疾患の後期段階にある患者を診断する専門研究センターで実施されたものである。これに対し、日常的な臨床診療における診断の正確性は、特に疾患の軽度症状又は前駆症状の段階において、これよりもかなり低いと思われる。現在のところ、この疾患を明確に診断するには、脳組織病理検査を行うしかなく、臨床的に実現可能な方法ではない。
【0006】
しかし、幾つかのバイオマーカーの候補が、脳脊髄液(CSF)中で発見されている。Aβ1−42及びτ等がその例であるが、これらはそれぞれ、アミロイドプラーク及び神経原線維変化の主要成分である。これらの試験は既に実用化されており、ヨーロッパの一部では研究及び診断の目的で日常的に使用されている。しかし、これらのバイオマーカーの診断的性能は、特に他の痴呆に対する特異性の点で最適であるとは言えない(非特許文献4)。その他、血清やCSF中でも多くのマーカーが提案されており、アミロイド前駆体タンパク質、アポE、イソプロスタン(脂質酸化のマーカー)及びホモシステインがこれらに含まれる。これらを診断マーカーとして使用できるかどうかについては、現在検証中である(非特許文献5)。
【非特許文献1】Davis RE,ら、Arzneimittelforschung(1995)45:425−431
【非特許文献2】McKhann G.ら、Neurology(1984)34:939−944
【非特許文献3】Kosunen O,ら、Acta Neuropathol(1996)91:185−193
【非特許文献4】Blennow KおよびHampel H,Lancet Neurol.(2003)2:605−613
【非特許文献5】Frand RA,ら、Neurobiol of Aging(2003)24:521−536
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、初期段階でADを検出し、疾患の進行を監視し、AD、正常、非AD痴呆、及びその他の神経障害を区別することができる、簡単な生化学試験が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
本発明は、アルツハイマー病の診断に有用な、新規のバイオマーカー及びバイオマーカーの組み合わせ、並びにアルツハイマー病の診断にバイオマーカーを使用する方法及びキットを提供することによって、これらの要求を満たす。
【0009】
特に、一実施形態において、本発明は、被験体におけるアルツハイマー病の状態を定性化する方法であって、被験体由来の生体試料中の少なくとも1つのバイオマーカーを測定し(少なくとも1つのバイオマーカーは、サポシンD(I)、サポシンD(II)、サポシンD(III)及びFAM3C(I)から選択される);(b)測定結果をアルツハイマー病の状態と関連付けることからなる、方法を提供する。関連する実施形態において、この方法は、サポニンD(I)及びβ−2−ミクログロブリンを測定し、測定結果をアルツハイマー病の状態と関連付けることからなる。更に別の実施形態において、この方法は、サポシンD(I)及びFAM3C(I)を測定し、測定結果をアルツハイマー病の状態と関連付けることからなる。尚別の実施形態において、この方法は、サポシンD(I)、FAM3C(I)、及びβ−2−ミクログロブリンを測定し、測定結果をアルツハイマー病の状態と関連付けることからなる。更に別の実施形態において、アルツハイマー病の状態を定性化する方法は、サポシンD(I)、β−2−ミクログロブリン、FAM3C(I)及び7B2を測定し、測定結果をアルツハイマー病の状態と関連付けることからなる。別の関連する実施形態において、少なくとも1つの測定されたバイオマーカーは、タンパク質の修飾形態、例えば、短縮又はグリコシル化形態等の、転写後の修飾形態である。一実施形態において、少なくとも1つのバイオマーカーはサポシンDである。別の実施形態において、サポシンDは免疫学的検定によって測定される。
【0010】
本発明は、アルツハイマー病の状態を定性化するのに有用なバイオマーカーを測定する幾つかの異なる方法を提供する。例えば、本発明の一実施形態において、少なくとも1つのバイオマーカーは、SELDIプローブの吸収表面上でバイオマーカーを捕捉し、レーザー脱離イオン化質量分析によって捕捉されたバイオマーカーを検出することによって測定される。一実施形態において、吸着剤は疎水性吸着剤を含む。別の実施形態において、吸着剤は生体特異的吸着剤を含む。尚別の実施形態において、吸着剤はカチオン交換吸着剤を含む。
【0011】
本発明の幾つかの実施形態において、本発明のバイオマーカーは、質量分析又は免疫学的検定によって測定される場合がある。一実施形態において、本発明は、バイオマーカーのN末端に特異的な抗体を含む免疫学的検定を提供する。例えば、FAM3C(I)又は7B2等のタンパク質のN末端は、特異的に検出される場合がある。バイオマーカーである、完全長の断片化されていないタンパク質は又、免疫学的検定によって検出される場合がある。一実施形態において、本発明は、サポシンD(I)に特異的な抗体を使用する免疫学的検定を提供する。関連する実施形態において、抗体は、グリコシル化サポシンD(I)等のバイオマーカーのグリコシル化形態を認識する。
【0012】
別の実施形態において、この方法は更に、(c)被験体に状態を報告する、及び/又は(c)状態を有形の媒体に記録することからなる。
【0013】
好ましい実施形態において、本発明は、脳脊髄液(CSF)を含む体液中に存在するバイオマーカーを検出する方法を提供する。
【0014】
関連する実施形態において、アルツハイマー病の状態とバイオマーカーの発現の関連付けは、ソフトウェア分類アルゴリズムによって実施される。
【0015】
更に別の実施形態において、アルツハイマー病の状態は、アルツハイマー病の状態及び非痴呆から選択される。本発明は更に、この状態に基づき被験体の処置を管理する方法も提供する。例えば、測定結果がアルツハイマー病と関連する場合、被験体の処置の管理は、被験体にサポシンD遺伝子発現阻害剤を投与することからなる。更に別の実施形態において、本発明の診断方法は更に、被験体の管理の後に少なくとも1つのバイオマーカーを測定し、測定結果を疾患の進行と関連付けることからもなる。
【0016】
関連する実施形態において、本発明は、アルツハイマー病の経過を判定する方法であって:第一に、被験体由来の生体試料中の少なくとも1つのバイオマーカーを測定する(少なくとも1つのバイオマーカーは、サポシンD(I)、サポシンD(II)、サポシンD(III)、及びFAM3C(I)からなる群より選択される)手順;第二に、被験体由来の生体試料中の1つ以上のバイオマーカーを測定する手順;及び第一の測定結果と第二の測定結果を比較して、アルツハイマー病の経過を判定する手順からなる、方法を提供する。関連する実施形態において、この方法は、第一及び第二の時点で少なくともサポシンD(I)及びβ−2−ミクログロブリンを測定し、第一及び第二の測定結果を比較することからなる。別の実施形態において、この方法は、第一及び第二の時点で7B2及び/又はFAM3C(I)の何れか又は両方を測定し、第一及び第二の測定結果を比較することからなる。尚別の実施形態において、この方法における第二の測定は、被験体の管理後に行われる。
【0017】
別の実施形態において、本発明は、被験体由来の試料中の少なくとも1つのバイオマーカーを測定することからなり、少なくとも1つのバイオマーカーが、サポシンD(I)、サポシンD(II)、サポシンD(III)及びFAM3C(I)からなる群より選択される方法を提供する。関連する実施形態において、この方法は、少なくともサポシンD(I)及びβ−2−ミクログロブリンを測定することからなる。尚別の実施形態において、この方法は更に、7B2及び/又はFAM3C(I)の何れか又は両方を測定することからなる。
【0018】
一実施形態において、本発明は更に、サポシンD(I)、サポシンD(II)、サポシンD(III)及びFAM3C(I)からなる群より選択される、精製された生体分子を提供する。別の実施形態において、本発明は、サポシンD(I)、サポシンD(II)、サポシンD(III)、及びFAM3C(I)からなる群より選択されるバイオマーカーと結合する生体特異的捕捉試薬を含む組成物を提供する。関連する実施形態において、捕捉試薬と結合するバイオマーカーは、サポシンD(I)及びβ−2−ミクログロブリンからなる群より選択される。尚別の実施形態において、捕捉試薬と結合するバイオマーカーは、7B2及びFAM3C(I)からなる群より選択される。
【0019】
更に別の実施形態において、本発明は、固相支持体、及びそれに結合する少なくとも1つの捕捉試薬(捕捉試薬は、サポシンD(I)、サポシンD(II)、サポシンD(III)、及びFAM3C(I)からなる第一群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーを結合する)を含む製造品を含むキットを提供する。これらのキットは又、選択されたバイオマーカーを測定し、測定結果をアルツハイマー病の状態と関連付けるために固相支持体を使用するための説明書も含む。一実施形態において、このキットは更に、各バイオマーカー、即ちサポシンDNA(I)及びβ−2−ミクログロブリンを測定するために固相支持体を使用するための説明書も含む。関連する実施形態において、このキットは更に、7B2及び/又はFAM3C(I)の何れか又は両方を測定するために固相支持体を使用するための説明書も含む。更に別の実施形態において、捕捉試薬を含む固相支持体は、SELDIプローブである。尚別の実施形態において、捕捉試薬は疎水性吸着剤を含む。更に別の実施形態において、このキットは、サポシンD(I)、サポシンD(II)、サポシンD(III)、及びFAM3C(I)からなる群より選択される、少なくとも1つのバイオマーカーを含有する容器を含む。別の関連する実施形態において、このキットの捕捉剤は、金属親和性クロマトグラフィー吸着剤又はカチオン交換クロマトグラフィー吸着剤を含む。
【0020】
更に別の実施形態において、本発明は、固相支持体、及びそれに結合する少なくとも1つの捕捉試薬(1つ以上の捕捉試薬は、サポシンD(I)、サポシンD(II)、サポシンD(III)、及びFAM3C(I)からなる群より選択される、少なくとも1つのバイオマーカーを結合する)を含む製造品を含むキットを提供し、このキットは更に、少なくとも1つのバイオマーカーを含有する容器を含む。関連する実施形態において、このキットの容器は、サポシンD(I)及びβ−2−ミクログロブリンバイオマーカーの両方を含む。更に別の実施形態において、結合した捕捉試薬の少なくとも1つを含む固相支持体は、SELDIプローブである。関連する実施形態において、結合した捕捉試薬の少なくとも1つは、疎水性吸着剤を含む。
【0021】
更に別の実施形態において、本発明は、試料中の少なくとも1つのバイオマーカー(サポシンD(I)、サポシンD(II)、サポシンD(III)、及びFAM3C(I)からなる群より選択される)の測定結果を含む、試料に帰するデータにアクセスするコードを含むソフトウェア製品を提供し、このソフトウェア製品は更に、試料のアルツハイマー病の状態を測定を関数として分類する、分類アルゴリズムを実行するコードを含む。関連する実施形態において、分類アルゴリズムは、試料のアルツハイマー病の状態を、サポシンD(I)、β−2−ミクログロブリン、7B2及びFAM3C(I)からなる群より選択されるバイオマーカーを関数として分類する。更に別の実施形態において、分類アルゴリズムは、試料のアルツハイマー病の状態を、サポシンD(I)及びβ−2−ミクログロブリンの測定を関数として分類する。更に別の実施形態において、分類アルゴリズムは更に、試料のアルツハイマー病の状態を、各バイオマーカー7B2及びFAM3C(I)の測定結果を関数として分類する。
【0022】
本発明は更に、サポシンD(I)、サポシンD(II)、サポシン(III)、及びFAMC3C(I)からなる群より選択されるバイオマーカーを、質量分析法又は免疫学的検定により検出する手順からなる方法を提供する。
【0023】
更に別の実施形態において、本発明は、患者由来の試料中のバイオマーカーの関連付けにより判定されるアルツハイマー病の状態に関する診断結果を被験体に伝達する手順からなる方法であって、前記バイオマーカーが、サポシンD(I)、サポシンD(II)、サポシンD(III)、及びFAM3C(I)からなる群より選択される、方法を提供する。関連する実施形態において、この診断は、コンピュータにより作成される媒体を介して被験体に伝達される。
【0024】
更に別の実施形態において、本発明は、サポシンD(I)、サポシンD(II)、サポシンD(III)、及びFAM3C(I)からなる群より選択されるバイオマーカーと相互作用する化合物を同定する方法であって、前記バイオマーカーを試験化合物と接触させ、試験化合物が前記バイオマーカーと相互作用するかどうかを判定することからなる、方法を提供する。
【0025】
別の実施形態において、本発明は、細胞中のバイオマーカーの濃度を調節する方法であって、前記バイオマーカーが、サポシンD(I)、サポシンD(II)、サポシンD(III)、及びFAM3C(I)からなる群より選択され、且つ前記細胞をアンチセンス又は干渉RNA分子(前記アンチセンス又は干渉RNA分子は、細胞における前記バイオマーカーの発現を阻害する)と接触させる手順からなる、方法を提供する。
【0026】
別の実施形態において、本発明は、細胞におけるバイオマーカーの過剰発現に関連する患者の病態を処置する方法であって、前記バイオマーカーが、サポシンD(I)、サポシンD(II)、サポシンD(III)、及びFAM3C(I)からなる群より選択され、且つ治療上有効量のアンチセンス又は干渉RNA分子(前記アンチセンス又は干渉RNA分子は、細胞における前記バイオマーカーの発現を阻害する)を被験体に投与することからなる、方法を提供する。関連する実施形態において、処置する病態はアルツハイマー病である。
【0027】
更に別の実施形態において、本発明は、被験体におけるアルツハイマー病の状態を定性化する方法であって、患者由来の生体試料中の少なくとも1つのバイオマーカーを測定し(少なくとも1つのバイオマーカーは、サポシンDバイオマーカークラスタータンパク質又はFAM3Cバイオマーカークラスタータンパク質を含む)、測定結果をアルツハイマー病の状態と関連付ける手順からなる、方法を提供する。関連する実施形態において、サポシンDバイオマーカークラスタータンパク質又は前記FAM3Cバイオマーカークラスタータンパク質は、免疫学的検定により測定される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
(発明の詳細な説明)
1.序論
バイオマーカーは、1つの表現型状態(例えば、疾患を有する)から得られる試料中に、他の表現型状態(例えば、疾患を有しない)よりも特異的に存在する有機生体分子である。バイオマーカーは、種々のグループにおけるバイオマーカーの平均又は中間発現レベルが統計的に有意であると計算される場合に、種々の表現型状態の間で特異的に存在する。統計的有意性の通常の試験には、主にt(試験)、ANOVA、クラスカル−ワリス、ウィルコクスン、マンホイットニー及びオッズ比が含まれる。バイオマーカーの単独又は組み合わせは、対象が1つ又は別の表現型状態に属する相対的な危険性の基準を提供する。従って、これらは、疾患(診断)、薬剤(療法)の治療的有効性、及び薬物毒性のためのマーカーとして有用である。
【0029】
2.アルツハイマー病のバイオマーカー
本発明は、アルツハイマー病を患う被験体、特にアルツハイマー病被験体と正常(非アルツハイマー病)被験体に特異的に存在する、ポリペプチド系バイオマーカーを提供する。バイオマーカーは、質量分析によって測定される質量対電荷比、飛行時間形質量分析におけるスペクトルのピークの形状、及び吸着剤表面の結合特性によって特徴付けられる。これらの特性は、特定の検出された生体分子が本発明のバイオマーカーであるかどうかを判定する1つの方法を提供する。これらの特性は、生体分子の固有の特性を示し、生体分子の識別に使用されるプロセルを制限するものではない。一態様において、本発明は、単離された形態におけるこれらのバイオマーカーを提供する。
【0030】
バイオマーカーは、Ciphergen Biosystems,Inc(米国カリフォルニア州フリーモント)(“Ciphergen”)由来のProteinChipアレイを使用して、SELDI技術を使用して発見された。即ち、アルツハイマー病と診断された被験体、及び正常と診断された被験体からCSF試料を収集した。試料をSELDIバイオチップに適用し、Ciphergen PBSII質量分析計による飛行時間形質量分析によって、試料中のポリペプチドのスペクトルを生成した。このようにして得られたスペクトルを、Ciphergen Biosystems,Inc.製のBiomaker Wizard及びBiomarker Pattern Softwareが付属するCiphergen ExpressTM Data Managerソフトウェアにより解析した。各グループの質量スペクトルを散布図解析に付した。そして、マンホイットニー試験解析を使用して、散布図における各タンパク質クラスターのアルツハイマー病群及びコントロール群を比較し、2つの群間で有意に異なる(p<0.0001)タンパク質を選択した。この方法を実施例の項で詳細に説明する。
【0031】
このようにして発見されたバイオマーカーを表1に示す。
【0032】
【表1】

本発明のバイオマーカーは、質量分析によって測定される質量対電荷比によって特徴付けられる。各バイオマーカーの質量対電荷比は、表1において「M」の後に記載する。従って、例えば、バイオマーカーM10,380は、10,380の質量対電荷比が測定されている。質量対電荷比は、Ciphergen Biosystems,Inc. PBS II質量分析計により生成される質量スペクトルから測定した。この装置の質量精度は、約+/−0.15%である。アミノ酸配列を使用した計算に基づくサポシンD(I)の理論的質量は、10,373.71Daであり、測定された質量は、理論的質量の誤差限界内に十分に含まれる。更に、この装置の質量分解能は、約400〜1000m/dm(m:質量、dm:高さ0.5ピークにおける質量スペクトルピーク)である。バイオマーカーの質量対電荷比は、Biomaker WizardTMソフトウェア(Ciphergen Biosystems,Inc.)を使用して測定した。Biomarker Wizardは、PBSIIによって測定されるような、解析した全てのスペクトルから同じピークの質量対電荷比のクラスターを形成し、クラスター中の最大及び最小の質量対電荷比を取得して、2つに分割することによって、質量対電荷比をバイオマーカーに割り当てる。従って、示した質量はこの仕様を反映する。
【0033】
本発明のバイオマーカーは更に、飛行時間形質量分析におけるスペクトルピークの形状によって特徴付けられる。サポシンD及びFAM3Cバイオマーカーを表わすピークを示す質量分析を図1に示す。
【0034】
本発明のバイオマーカーは更に、クロマトグラフィー表面に対する結合特性によって特徴付けられる。実施例の通り、「ProteinChip試験」のカラムは、バイオマーカーが結合するバイオチップの種類及び洗浄条件に関連する。例えば、Ciphergen Inc.のH50 ProteinChip(登録商標)は、逆相吸着剤を使用する。Ciphergen Inc.のIMAC−30Cu ProteinChip(登録商標)は、銅金属イオン結合吸着剤を使用する。「SPA」及び「EAM」は、シナピン酸及び4−ヒドロキシ−α−シアノ桂皮酸、即ち、表1に示し、実施例で詳述するような、ProteinChipsと組み合わせてエネルギー吸収マトリクスとして使用される薬剤が使用される。
【0035】
アルツハイマー病患者のCSFでレベルが増加する本発明の特定のバイオマーカーの同一性を表1に示す。この測定を行った方法については、実施例の項に記載されている。同一性が測定されたバイオマーカーの場合、バイオマーカーのレベルは、当業者に既知のその他の方法、例えば、バイオマーカーの固有の特性(酵素活性等)に関する免疫学的検定又は試験によって測定することができる。バイオマーカーをコードするRNA分子のレベルも、バイオマーカーの発現の程度を測定するために、(例えばアンチセンス技術を使用して)測定される場合がある。
【0036】
本発明のバイオマーカーは、質量対電荷比、結合特性及びスペクトルの形態によって特徴付けられるため、それらは特定の同一性を知らなくても質量分析によって検出することができる。しかし、所望の場合、同一性が決定されていないバイオマーカーは、例えば、ポリペプチドのアミノ酸配列を決定することによって同定することができる。例えば、バイオマーカーは、トリプシン又はV8プロテアーゼ等の幾つかの酵素を使用してペプチドマッピングすることができ、消化断片の分子量は、種々の酵素によって生成される消化断片の分子量に適合する配列のデータベースを検索するために使用することができる。或いは、タンパク質バイオマーカーは、タンデムMS技術を使用して配列決定することができる。この方法で、タンパク質は、例えばゲル電気泳動によって単離される。バイオマーカーを含むバンドを切り出し、タンパク質をプロテアーゼ消化に付す。個々のタンパク質断片を第一の質量分析計によって分離する。次に、この断片を衝突誘発冷却に付し、これによってペプチドを断片化し、ポリペプチドのラダーを生成する。次いで、ポリペプチドのラダーをタンデムMSの第二の質量分析計によって解析する。ポリペプチドラダーのメンバーの質量における差によって、配列中のアミノ酸が同定される。この方法で完全なタンパク質を配列決定してもよければ、同一性候補を見つけるデータベースマイニングに配列断片を付してもよい。
【0037】
表1のバイオマーカーの検出に好ましい生物学的起源はCSFである。しかし、バイオマーカーは、その他の体液、例えば、血清、血液又は尿中にも存在する場合がある。
【0038】
本発明のバイオマーカーは生体分子である。従って、本発明はこれらの生体分子を単離された形態で提供する。バイオマーカーは、CSF等の体液から単離してもよい。又、それらの質量及び結合特性に基づいて、当業者に既知の何れかの方法によって単離してもよい。例えば、生体分子を含む試料は、本明細書に記載の通りクロマトグラフ分別に付して、更に、例えばアクリルアミドゲル泳動による分離に付してもよい。バイオマーカーの同定に関する知識を活用することで、免疫親和性クロマトグラフィーによる分離も行うことができる。
【0039】
3.バイオマーカー及びタンパク質の種々の形態
タンパク質は、しばしば複数の異なる形態で試料中に存在する。これらの形態は、転写前及び転写後の何れか又は両方の修飾によりもたらされる。転写後の修飾形態には、対立遺伝子変異、スプライシング変異、及びRNAの編集形態が含まれる。転写後の修飾形態には、タンパク質開裂(例えば、親タンパク質の断片)、グリコシル化、リン酸化、脂質化、酸化、メチル化、システイン化、スルホン化、及びアセチル化が含まれる。試料中のタンパク質を検出又は測定する場合、タンパク質の種々の形態を識別する能力は、差の性質、及び検出又は測定に使用する方法により異なる。例えば、エピトープに対するモノクローナル抗体を使用した免疫学的検定は、エピトープを含むタンパク質の全ての形態を検出するが、それらの形態を識別しない。しかし、タンパク質の異なるエピトープに対する2種の抗体を使用するサンドイッチ免疫学的検定は、両方のエピトープを含むタンパク質の全ての形態を検出するが、エピトープの1つのみを含む形態を検出しない。診断試験においては、使用する特定の方法によって検出される形態が、何れかの特定の形態と等しく良好なバイオマーカーである場合、タンパク質の種々の形態を識別できないことよる影響は殆どない。しかし、タンパク質の特定の形態(又は特定の形態のサブセット)が、特定の方法によって一緒に検出される種々の形態を収集するよりも良好なバイオマーカーである場合、試験の能力に影響が及ぶ場合がある。この場合、タンパク質の形態を識別し、タンパク質の所望の形態を特異的に検出及び測定する試験方法を使用することが有用である。検体の種々の形態を識別する、又は検体の特定の形態を特異的に検出することは、検体を「区別する」と呼ばれる。
【0040】
通常、形態が異なれば質量も異なり、これは質量分析により区別できることから、質量分析は、タンパク質の種々の形態を区別するとりわけ強力な方法である。従って、タンパク質の1つの形態が、別の形態のバイオマーカーよりも疾患の優れたバイオマーカーである場合、質量分析は、従来の免疫学的検定では形態を識別できず、有用なバイオマーカーを特異的に検出できない、有用な形態を特異的に検出し、測定することが可能となる場合がある。
【0041】
一つの有用な方法では、質量分析を免疫学的検定と組み合わせる。第一に、生体特異的捕捉試薬(例えば、バイオマーカー及びその他の形態を認識する抗体、アプタマー又はAffibody)が、対象となるバイオマーカーの捕捉に使用される。好ましくは、生体特異的捕捉試薬は、ビーズ、プレート、膜又はチップ等の固相に結合する。結合していない物質を洗浄して取り除いた後、捕捉された検体を質量分析によって検出及び/又は測定する(この方法も又、タンパク質と結合するか、又はその他の方法で抗体により認識され、それ自体がバイオマーカーであってもよい、タンパク質相互作用子の捕獲によりもたらされる)。従来のMALDI又はSELDI及びエレクトロスプレーイオン化等のレーザー脱離法を含めた、種々の形態の質量分析が、タンパク質の形態の検出に有用である。
【0042】
従って、本明細書において、特定のタンパク質を検出するか、又は特定のタンパク質の量を測定することに言及する場合は、タンパク質の種々の形態を区別するかにかかわらずタンパク質を検出及び測定することを意味する。例えば、サポシンDの測定手順には、タンパク質の種々の形態を識別しない方法(例えば、特定の免疫学的検定)によるサポシンDの測定、並びに種々の形態を識別するか、又はタンパク質の特定の形態(例えば、サポシンD I、サポシンD II、サポシンD IIIのそれぞれ又は組み合わせの何れか及び/又は全て)を測定する方法によるサポシンDの測定が含まれる。コントロール的に、タンパク質の特定の形態、例えば、サポシンDの特定の形態を測定するのが好ましい場合は、特定の形態が指定される。例えば、「サポシンD Iを測定する」とは、その形態をサポシンDの他の形態(例えば、サポシンD II及びサポシンD III)から識別する方法でサポシンD Iを測定することを意味する。
【0043】
4. アルツハイマー病のバイオマーカーの検出
本発明のバイオマーカーは、任意の適切な方法によって検出することができる。検出法には、光学的方法、電機化学的方法(電気分析法及び電流測定技術)、原子間顕微鏡、ラジオ周波数法、例えば、多極共鳴分光法が含まれる。共焦点及び非共焦点の両方の顕微鏡に加え、具体的な光学的方法は、蛍光、発光、化学発光、吸光度、反射率、透過率、複屈折又は屈折率(例えば、表面プラズモン共鳴、偏光解析法、共振ミラー法、格子結合導波法又は干渉分光法)である。
【0044】
一実施形態において、試料をバイオチップにより解析する。バイオチップは一般的に、捕捉試薬(吸着剤又は親和性試薬とも呼ぶ)が結合する、実質的に平面な表面を有する固相支持体を含む。しばしば、バイオチップの表面は、多数のアドレス可能位置を含み、それぞれはそこに結合する捕捉試薬を有する。
【0045】
タンパク質バイオチップは、ポリペプチドの捕捉のために適応するバイオチップである。多くのタンパク質バイオチップは当業界で開示されている。これらには、例えば、Ciphergen Biosystems,Inc.(米国カリフォルニア州フリーモント)、Zyomyx(米国カリフォルニア州ヘイワード)、Invitrogen(米国カリフォルニア州カールズバッド)、Biacore(スウェーデン ウプサラ)及びProcognia(英国バークシャー)によって製造されるタンパク質バイオチップが含まれる。このようなタンパク質バイオチップの具体例は、以下の特許又は公開特許出願、即ち、米国特許第6,225,047号(Hutchens and Yip);米国特許第6,537,749号(Kuimelis and Wagner);米国特許第6,329,209号(Wagner, et al.);PCT国際出願公開第WO00/56934号(Englert, et al.);PCT国際出願公開第WO03/048768号(Boutell, et al.)及び米国特許第5,242,828号(Bergstrom, et al.)に開示されている。
【0046】
質量分析による検出
好ましい実施形態において、本発明のバイオマーカーは、質量分析、気相イオンを検出するために質量分析を使用する方法によって検出される。質量分析の具体例は、飛行時間形質量分析、磁場型、四重極フィルター、イオントラップ、イオンサイクロトロン共鳴、静電セクターアナライザー及びそれらのハイブリッドである。
【0047】
更に好ましい実施形態において、質量分析はレーザー蒸着/イオン化質量分析である。レーザー蒸着/イオン化質量分析においては、検体は、質量分析プローブの表面に配置され、イオン化のためのイオン化エネルギーを検体に与え、質量分析計に導入するために、質量分析計のプローブインターフェースを関与させる。レーザー脱離質量分析は、表面から検体を脱着し、それらそ揮発及びイオン化し、質量分析計のイオン光学に利用できるようにするために、通常は紫外線レーザーのみでなく赤外線レーザー由来のレーザーエネルギーを使用する。LDIによるタンパク質の解析は、MALDI又はSELDIから取得することができる。
【0048】
単一のTOF機器におけるレーザー脱離/イオン化は、通常、線状抽出(linear extraction)モードで実施される。タンデム質量分析は、直交抽出モードを使用することができる。
【0049】
SELDI
本発明において使用される、好ましい質量分析技術は、例えば、何れも、Hutchens及びYipに対する、米国特許第5,719,060号及び米国特許第6,225,047号に開示されているような、「表面エンハンス型レーザー脱離及びイオン化」又は「SELDI」である。これは、検体(ここでは、1つ以上のバイオマーカー)がSELDI質量分析プローブの表面に捕捉される、脱離/イオン化気相イオンスペクトロメトリー(例えば、質量分析)の方法を意味する。
【0050】
SELDIは又、「親和性捕捉質量分析」又は「表面エンハンス型親和性ー捕捉」(「SEAC」)とも呼ばれている。このバージョンは、物質と検体との間の非共有結合親和性相互作用(吸着)を通じて検体を捕捉する、プローブ表面上に物質を有するプローブの使用を必要とする。この物質は、様々に、即ち「吸着剤」、「捕捉試薬」、「親和性試薬」、又は「結合部分」と呼ばれる。このようなプローブは、「親和性捕捉プローブ」、「吸着表面」を有するとして言及され得る。捕捉試薬は、検体を結合することができる任意の材料であってもよい。捕捉試薬は、物理吸着又は化学吸着によってプローブ表面に接着する。特定の実施形態において、プローブは、既に表面に結合した捕捉試薬を有する。別の実施形態において、プローブは予め活性化され、例えば、共有結合又は配位共有結合によって、捕捉試薬と結合することができる反応性部分を含む。エポキシド及びアクリル−イミダゾールは、抗体又は細胞受容体等のポリペプチド捕捉試薬と共有的に結合する有用な反応性部分である。ニトリロ酸酢酸及びイミノ二酢酸は、ヒスチジン含有ペプチドと非共有的に相互作用する金属イオンと結合するキレート剤として機能する、有用な反応性部分である。吸着剤は、一般的にクロマトグラフ吸着剤と生体特異的吸着剤とに分類される。
【0051】
「クロマトグラフ吸着剤」は、クロマトグラフィーにおいて通常に使用される吸着剤物質を意味する。クロマトグラフ吸着剤には、例えば、イオン交換物質、金属キレート剤(例えば、ニトリロ酸酢酸又はイミノ二酢酸)、固定化金属キレート、疎水性相互作用吸着剤、親水性相互作用吸着剤、色素、単純な生体分子(例えば、ヌクレオチド、アミノ酸、単純な糖及び脂肪酸)、及び混合モード吸着剤(例えば、疎水性引力/静電斥力吸着剤)が含まれる。
【0052】
「生体特異的吸着剤」は、生体分子、例えば、核酸分子(例えば、アプタマー)、ポリペプチド、多糖類、脂質、ステロイド又はこれらの複合体(糖タンパク質、リポタンパク質、糖脂質、核酸(例えばDNA)のタンパク質複合体を含む吸着剤を意味する。特定の具体例においては、生体特異的吸着剤は、多タンパク質複合体、生体膜又はウイルス糖の高分子構造であってもよい。生体特異的吸着剤の具体例は、抗体、受容体タンパク質及び核酸である。生体特異的吸着剤は、通常、標的検体に対して、クロマトグラフ吸着剤よりも高い特異性を有する。SELDIにおいて使用される吸着剤の更なる具体例は、米国特許第6,225,047号に記載されている。「生体選択的吸着剤」は、少なくとも10−8Mの親和性で検体と結合する吸着剤を意味する。
【0053】
Ciphergen Biosystems,Inc.によって製造されたタンパク質バイオチップは、クロマトグラフ又は生体特異的吸着剤がアドレス可能な位置で接着した表面を含む。Ciphergen ProteinChip(登録商標)アレイは、NP20(親水性);H4及びH50(疎水性);SAX−2、Q−10(アニオン交換);WCX−2及びCM−10(カチオン交換I);IMAC−3、IMAC−30及びIMAC−50(金属キレート);及びPS−10、PS−20(アクリル−イミダゾール、エポキシドを有する反応性表面)及びPG−20(アクリル−イミダゾールを通じて結合したプロテインG)を含む。疎水性のProteinChipアレイは、イソプロピル又はノニルフェノキシ−ポリ(エチレングリコール)メタクリレート官能性を有する、アニオン交換ProteinChipアレイは、四級アンモニウム感応性を有する。カチオン交換ProteinChipアレイは、カルボン酸塩官能性を有する。固定化金属キレートProteinChipアレイは、キレート化によって銅、ニッケル、亜鉛及びガリウムとの遷移金属イオンを吸着する、ニトリロ酸酢酸官能性(IMAC3及びIMAC30)又はO−メタクリロイル−N,N−ビス−カルボキシメチルチロシン感応性(IMAC50)を有する。予め活性化されたProteinChipアレイは、共有結合についてタンパク質上の基と反応することができる、アクリル−イミダゾール又はエポキシド官能性基を有する。
【0054】
このようなバイオチップは更に、米国特許第6,579,719号(Hutchens and Yip “Retentate Chromatography,” 2003年6月17日);米国特許第6,897,072号(Rich,ら、“Probes for a Gas Phase Ion Spectrometer,”2005年5月24日);米国特許第6,555,813号(Beecher,ら、“Sample Holder with Hydrophobic Coating for Gas Phase Mass Spectrometer,”2003年4月29日);米国特許出願公開第2003−0032043A1号(Pohl and Papanu, “Latex Based Adsorbent Chip,”2002年7月16日);及びPCT国際出願公開第WO03/040700号(Um,ら、“Hydrophobic Surface Chip,”2003年5月15日);米国特許出願公開第2003−0218130A1号(Boschetti,ら、“Biochips With Surfaces Coated With Polysaccharide−Based Hydrogels,”2003年4月14日)及び米国特許出願公開第2005−059085A1号(Huang,ら、“Photocrosslinked Hydrogel Blend Surface Coatings,”2005年3月17日)に開示されている。
【0055】
一般的に、吸着剤表面を有するプローブは、試料中に存在するバイオマーカーが吸着剤に結合するのに十分な時間、試料と接触させる。インキュベーション期間の後、基質を洗浄し、結合していない物質を除去する。任意の適切な洗浄溶液を使用することができ、好ましくは水性溶液が使用される。結合したままである分子の程度は、洗浄の厳密性を調整することによって操作することができる。洗浄溶液の溶出特性は、例えば、pH、イオン強度、疎水性、カオトロピックの度合い、界面活性剤強度及び温度に依存し得る。プローブが、(本明細書に記載したように)SEAC及びSEND特性の両方を有さなければ、エネルギー吸収分子が結合バイオマーカーとともに基質に適用される。
【0056】
更に別の方法においては、バイオマーカーと結合する抗体を有する固相に結合した免疫吸着剤と共に、バイオマーカーを捕捉することができる。吸着剤を洗浄して未結合の物質を除去した後、バイオマーカーを固相から溶出し、バイオマーカーを結合するSELDIチップに適合することによって検出し、SELDIによって解析する。
【0057】
基質に結合したバイオマーカーは、飛行時間形質量分析等の気相イオン分光計中で検出される。バイオマーカーは、レーザー等のイオン化源によってイオン化し、生成したイオンは、イオン光学アセンブリによって収集し、次いで、質量分析器が散乱し、通過したイオンを解析する。次いで、検出器は検出したイオンの情報を質量対電荷比に移動する。バイオマーカーの検出は、通常、シグナル強度の検出を必要とする。従って、バイオマーカーの含量及び質量を測定することができる。
【0058】
SEND
レーザー脱離質量分析の他の方法は、表面エンハンス型ニート脱離(SEND)と呼ばれる。SENTは、プローブ表面に化学的に結合しているエネルギー吸収分子を含むプローブ(「SENDプローブ」)の使用を必要とする。「エネルギー吸収分子」(EAM))なる熟語は、レーザー脱離/イオン化源からのエネルギーを吸収することのでき、その後、それらと接触して検体の分子の脱離及びイオン化に寄与する分子を意味する。EAMのカテゴリーには、MALDIで使用される分子が含まれ、しばしばマトリックスと呼ばれ、ケイ皮酸誘導体、シナピン酸(SPA)、シアノ−ヒドロキシケイ皮酸(CHCA)及びジヒドロキシ安息香酸、フェルラ酸、及びヒドロキシアセトフェノン誘導体によって例示される。特定の実施形態において、エネルギー吸収分子は、直鎖又は架橋結合ポリマー、例えばポリメタクリレートに導入される。例えば、組成物は、α−シアノ−4−メタクリロイルオキシケイ皮酸及びアクリレートのコポリマーであってもよい。別の実施形態において、組成物は、α−シアノ−4−メタクリロイルオキシケイ皮酸、アクリレート、及び3−(トリエトキシ)シリルプロピルメタクリレートのコポリマーである。別の実施形態において、組成物は、α−シアノ−4−メタクリロイルオキシケイ皮酸、及びオクタデシルメタクリレートのコポリマー(C18SEND)である。SENDは更に、米国特許第6,124,137号及びPCT国際出願公開第WO03/64594号(Kitagawa, “Monomers And Polymers Having Energy Absorbing Moieties Of Use In Desorption/Ionization Of Analytes,” 2003年8月7日)に開示されている。
【0059】
SEAC/SENDは、捕捉試薬及びエネルギー吸収分子の両方が表面に存在する試料に結合する、レーザー質量分析のバージョンである。従って、SEAC/SENDプローブは、外部のマトリックスを利用することなく、親和性捕捉及びイオン化/脱離を通じて検体の捕捉を可能にする。C18 SENDバイオチップは、細気宇試薬として機能するC18部分、及びエネルギー吸収部分として機能するCHCA部分を含む、SEAC/SENDのバージョンである。
【0060】
SEPAR
LDIの他のバージョンは、Surface−Enhanced Photolabile Attachment and Release(SEPAR)と呼ばれる。SEPARは、表面に結合し、検体と共有結合することのでき、次いで、光、例えばレーザー光に露出した後に、部分中で感光性結合の破壊によって検体を遊離する部分を有するプローブの使用を必要とする(米国特許第5,719,060号を参照)。SEPAR及びSELDIの他の形態は、本発明に従い、バイオマーカー又はバイオマーカープロフィールの検出に容易に適用される。
【0061】
MALDI
MALDIは、タンパク質及び核酸等の生体分子を解析するために使用されるレーザー脱離/イオン化の従来の方法である。MALDIの一方法においては、試料をマトリックスと混合し、MALDIチップに直接蒸着させる。しかし、血清又は尿等の生物学的試料の複雑さは、試料の事前の分画なしでは、この方法を決して最適でないものにする。従って、特定の実施形態において、バイオマーカーを、好ましくは最初に生体特異的な(例えば、抗体)又は樹脂等の固相支持体(例えば、細長いカラム中)と結合したクロマトグラフ材料を使用して捕捉する。本発明のバイオマーカーと結合する特定の親和性物質は前述した。親和性物質による精製後、バイオマーカーを溶出し、次いで、MALDIにより検出する。
【0062】
質量分析におけるイオン化のその他の形態
他の方法においては、バイオマーカーは、LC−MS又はLC−LC−MSによって検出される。これは、液体クロマトグラフィーによる1又は2回に通過、それに続く質量分析、通常はエレクトロスプレーイオン化によって試料中のタンパク質の解析を行うことからなる。
【0063】
データ解析
飛行時間形質量分析による検体の解析は、飛行時間形スペクトルを生成する。最終的に解析された飛行時間形スペクトルは、通常は、試料に対するイオン化エネルギーの単一パルス由来のシグナルを表さず、どちらかというと、多くのパルス由来のシグナルを表す。これはノイズを減少し、ダイナミック・レンジを増加する。次いで、この飛行時間形データをデータ処理にかける。Ciphergen’s ProteinChip(登録商標)においては、データ処理は、通常、質量スペクトルを生成するためのTOF−to−M/Z変換、機器の補正を除去するためのベースラインの差し引き、及び高周波ノイズを減少するための高周波ノイズフィルターを含む。
【0064】
バイオマーカーの脱離及び検出によって生成されたデータは、プログラム可能なデジタルコンピュータを使用して解析することができる。検出されたバイオマーカーの数、及び任意にシグナル強度及び各検出されたバイオマーカーの測定した分子量を示すために、コンピュータプログラムはデータを解析する。データ解析は、バイオマーカーのシグナル強度を検出し、予め決められた統計的分布から逸脱するデータを除去する手順からなる。例えば、観察されたピークは、幾つかの基準と比較して各ピークの高さを計算することによって、規格化することができる。
【0065】
コンピュータは、得られたデータを、表示のために種々の形式に変換することができる。標準的なスペクトルを表示することができるが、1つの有用な形式においては、ピーク高及び質量情報のみがスペクトル図から維持され、よりきれいな画像が得られ、殆ど同じ分子量を有するバイオマーカーがより容易に見られることを可能にする。他の有用な形式においては、複数のスペクトルが比較され、試料間の上方又は下方調節されたバイオマーカーを都合よく強調する。これらの形式の何れかを使用し、特定のバイオマーカーが試料中に存在するかどうかを容易に判定することができる。
【0066】
解析は一般的に、検体由来のシグナルを表すスペクトル中のピークの特定を必要とする。ピークの選択は視覚的に実施することができるが、ソフトウェアを利用でき、ピークの検出を自動化することができるCiphaergen‘s ProteinChip(登録商標)ソフトウェアパッケージの一部として利用可能である。一般的に、このソフトウェアは、選択された閾値を超えるS/N比を有し、ピークシグナルの重心においてピークの質量を標識する信号を特定することによって機能する。1つの有用な用途においては、多くのスペクトルは、質量スペクトルの幾つかの選択された割合中に存在する同一のピークを特定することにより比較される。このソフトウェアの1つのバージョンは、定義された大規模な範囲内の種々のスペクトルに表れる全てのピークを発生させ、固まり(M/Z)をほぼ大規模(M/Z)クラスターの中点にある全てのピークに割り当てる。
【0067】
データを解析するために使用するソフトウェアは、シグナル中でシグナルがピークを表すかどうかを判定するためのシグナルの解析のためのアルゴリズムに適用されるコードを含むことができる。ソフトウェアは、試験の下で特定の臨床パラメータの状態を示すバイオマーカーピーク又はバイオマーカーピークの組み合わせが存在するかどうかを判定するために、系統又はANN解析の分類に対する観察されるバイオマーカーのピークに関するデータにかけることができる。試料の質量スペクトル解析から直接、又は間接的に、種々のパラメータを得るために、データの解析は鍵である。これらのパラメータには、1つ以上のピークの存在又は非存在、ピーク、又はピークのグループの形態、1つ以上のピークの高さ、1つ以上のピークの高さの対数、及びピーク高さデータの算術的な取り扱いが含まれるが、これらに限定されない。
【0068】
アルツハイマー病のバイオマーカーのSELDI検出
表1のバイオマーカーの検出のためのプロトコルは、以下の通りである。CSFのきれいな試料を使用するか、SELDI解析の前に、まず、試料を予め分別する。利用できる場合、予め分別する好ましい方法は、試料を、Q HyperD(BioSepra,SA)等のアニオン交換クロマトグラフ材料と接触させる。次いで、pH9、pH7、pH5及びpH4の緩衝液を使用した段階的なpH溶出に、結合物質をさらす。バイオマーカーを含む、種々の画分を収集する。
【0069】
次いで、表1に示すように、試験するための試料を、H50 ProteinChipアレイ(Ciphergen Biosystems,Inc.)又はIMAC30−Cu ProteinChipアレイ(Ciphergen Biosystems,Inc.)を含む親和性捕捉プローブと接触させる。バイオマーカーを保持するが、未結合の分子を洗い流す緩衝液を使用してプローブを洗浄する。レーザー脱離/イオン化質量分析によりバイオマーカーを検出する。
【0070】
又、バイオマーカーを認識する抗体が利用可能であれば、それらを、予め活性化したPS10又はPS20 ProteinChipアレイ(Ciphergen Biosystems,Inc.)等のプローブ表面に結合させる。これらの応対はプローブ表面で、試料由来のバイオマーカーを捕捉することができる。次いで、例えば、レーザー脱離イオン化質量分析により、バイオマーカーを検出することができる。
【0071】
免疫学的検定による検出
本発明の別の実施形態において、本発明のバイオマーカーは、質量分析以外の方法、又はバイオマーカーの質量測定に依存する方法以外の方法によって測定される。質量に依存しないこのような1つの実施形態において、本発明のバイオマーカーは、免疫学的検定によって測定される。免疫学的検定には、バイオマーカーを捕捉するために、抗体等の生体特異的捕捉試薬が必要となる。抗体は、例えば、バイオマーカーを使用して動物を免疫化する等の、当業界で周知の方法によって生成されてもよい。バイオマーカーは、それらの結合特性に基づき試料から単離してもよい。或いは、ポリペプチドバイオマーカーのアミノ酸配列が既知である場合には、ポリペプチドを合成及び使用して、当業界で周知の方法により抗体を生成してもよい。
【0072】
本発明は、例えば、ELISA又は蛍光免疫学的検定を含めたサンドイッチ免疫学的検定、並びにその他の酵素免疫学的検定をはじめとする免疫学的検定を意図する。比濁法は、抗体が溶液である液相中で実施される試験である。抗原と抗体の結合は、測定する吸光度の変化をもたらす。SELDI免疫学的検定においては、バイオマーカーの生体特異的捕捉試薬が、予め活性化されたProteinChipアレイ等のMSプローブの表面に結合する。その後、このバイオマーカーが、この試薬を介してバイオチップ上で特異的に捕捉され、捕捉されたバイオマーカーが質量分析によって検出される。
【0073】
5.患者のアルツハイマー病の状態の判定
単一のマーカー
本発明のバイオマーカーは、被験体におけるアルツハイマー病の状態を評価する(例えば、アルツハイマー病を診断する)診断試験において使用してもよい。「アルツハイマー病の状態」という語句には、非疾患を含めた、疾患の識別できる任意の徴候が含まれる。例えば、疾患の状態には、疾患の有無(例えば、アルツハイマー病及び非アルツハイマー病)、疾患発現の危険性、疾患の段階、疾患の進行(例えば、一定期間における疾患の進行又は疾患の寛解)、及び疾患の処置に対する効果又は応答が含まれる、これらに限定されない。この状態に基づき、更なる診断試験又は治療手技若しくは計画を含めた、更なる手技が示される場合がある。
【0074】
状態を正確に予想するための診断試験の能力は、通常、試験の感度、試験の特異性、又は受信者動作特性(ROC)曲線下の面積として測定される。感度は、陽性であると試験によって予測される真陽性の割合であるが、特異性は、陰性であると試験によって予測される真陰性の割合である。ROC曲線は、1−特異性を関数として、試験の感度を提供する。ROC曲線下の面積が大きくなるほど、試験の予測値が強力となる。試験の有用性の他の有用な測定は、陽性的中率及び陰性的中率である。陽性的中率は、陽性として試験された、現実の陽性の割合である。陰性的中率は、陰性として試験された、現実の陰性の割合である。
【0075】
本発明のバイオマーカーは、異なるアルツハイマー病の状態において、少なくともp≦10−3、p≦10−4、p≦10−5の統計的相違を示す。これらのバイオマーカーを、単独で又は組み合わせて使用する診断試験は、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、及び約100%の感度及び特異性を示す。
【0076】
表1に記載された各バイオマーカーはアルツハイマー病に特異的に存在し、従って、アルツハイマー病の状態の判定における補助において個々に有用である。該方法は、第一に、本明細書に記載された方法、例えば、SELDIバイオチップによる捕捉、それに続く質量分析による検出を使用して被験体試料中の選択されたバイオマーカーを測定し、第二に、測定結果をアルツハイマー病態態陽性をアルツハイマー病態態陰性から区別する診断量又はカットオフと比較する。診断量は、前述のバイオマーカーの測定値を表わし、これは、被験体が、特定のアルツハイマー病の状態を有するとして分類される。例えば、バイオマーカーが、アルツハイマー病の間に正常と比較して上方調節される場合、診断のカットオフより上の測定量は、アルツハイマー病の診断をもたらす。表1の全てのバイオマーカーは上方調節される。或いは、バイオマーカーが、アルツハイマー病の間に下方調節される場合、診断のカットオフよりしたの測定量はアルツハイマー病の診断をもたらす。当業界でよく理解されているように、試験において使用される特定の診断カットオフを調整することにより、診断医の好みに依存する診断試験の感度又は特異性を増加することができる。特定の診断カットオフは、例えば、本明細書で実施されたように、種々のアルツハイマー病の状態を有する被験体由来の、統計的に有意な試料の数におけるバイオマーカーの量を測定し、診断医の所望のレベルの特異性及び感度に適するカットオフを設定することにより、測定してもよい。
【0077】
マーカーの組み合わせ
個々のバイオマーカーは有用な診断バイオマーカーであるが、バイオマーカーの組み合わせが、単独のバイオマーカーのみよりも、特定の状態の優れた予測値をもたらし得ることが見出された。特に、試料中の複数のバイオマーカーの検出は、試験の感度及び/又は特異性を向上することができる。少なくとも2種のバイオマーカーの組み合わせは、しばしば、「バイオマーカープロフィール」又は「バイオマーカーフィンガープリント」と呼ばれる。
【0078】
以下の実施例に記載されたプロトコルを、146個のCSF試料から由来する質量スペクトルを生成するために使用した(表4を参照)。ピーク質量及び高さは、発見されたデータセットに要約される。このデータセットは、全試料セットの2/3を含み、試料スペクトルの残りの1/3を使用して試験した、無作為に選択された試料スペクトルのモデルセット上の部分最小二乗法(PLS)を使用してモデルアルゴリズムを構築するために使用された。変数は、一変量マーカーとしてのそれらの強度、及びPLS法の間に計算された「変数重要性」パラメータによって格付けされた。AD及びコントロールの両方の間で重要と思われるマーカーのみ進展させた。最終的なモデルは、各試料が、モデルを構築するのに使用された絶対的な変数(ADについて1、コントロールについて0)に基づいて、どのグループに属するかを予測する。
【0079】
4種のバイオマーカー、即ち、表1由来のサポシンD(I)(10.3kDa)及びFAM3C(I)バイオマーカー、及び7B2及びβ−2−ミクログロブリンを使用した、具体的な多変数散布図を図2に示す。従って、表1のバイオマーカーは、相互に組み合わせて、及び表2に示すような、多のバイオマーカーと組み合わせて使用した場合に、アルツハイマー病の強力な分類個として認識される。特に、更に表3のバイオマーカーと一緒に使用した場合、これらのマーカーは、少なくとも85%の感度及び特異性で、非アルツハイマー病からアルツハイマー病を識別することができる。表2は、特定のアルゴリズムの感度及び特異性とともに、PLS法により生成された特定の決定木において使用されるマーカーの組み合わせを示す。
【0080】
【表2】

表3は、最も新しい解析を要約し、実施例に開示される27種のバイオマーカー(表1の4種のバイオマーカー、及びβ−2−ミクログロブリン及び7B2フラグメントバイオマーカーを含む)を示す。表3に示したバイオマーカーの質量対電荷比は、表1のバイオマーカーの質量と僅かに異なっていること示される。この相違の幾つかは、質量を丸めることによる。他の明らかな相違は、前述した最小/最大法よりもクラスターにおけるピークの平均に基づく質量対電荷比を割り当てるアルゴリズムによる。表3におけるバイオマーカーの幾つかの特定は、参考文献として本明細書に組み入れられる、2004年11月6日に出願された、米国特許出願公開第10/982,545号に開示されている。
【0081】
【表3】

アルツハイマー病の状態
アルツハイマー病の状態の判定は、通常、個体を、診断試験の結果に基づいて、複数のグループ(状態)の1つに分類することからなる。本明細書に開示する診断試験は、多くの異なる状態の間を分類するために使用することができる。
【0082】
疾患の存在
一実施形態において、本発明は、被験体におけるアルツハイマー病の有無(状態:アルツハイマー病及び非アルツハイマー病)を判定する方法を提供する。アルツハイマー病の存在又は非存在は、関連するバイオマーカーを測定し、次いで、それらを分類アルゴリズムにかけるか、それらを、特定の危険レベルに関連するバイオマーカーの基準量及び/又はパターンと比較するかの何れかによって判定される。
【0083】
疾患の発現の危険性の判定
一実施形態において、本発明は、被験体におけるアルツハイマー病の発現の危険性を判定する方法を提供する。バイオマーカーの量又はパターンは、種々の危険状態、例えば、高、中又は低に特徴的である。疾患の発現の危険性は、関連するバイオマーカーを測定し、次いで、それらを分類アルゴリズムにかけるか、それらを、特定の危険レベルに関連するバイオマーカーの基準量及び/又はパターンと比較するかの何れかによって判定される。
【0084】
疾患の段階の判定
一実施形態において、本発明は、被験体における疾患の段階を判定する方法を提供する。疾患の各段階は、特徴的なバイオマーカー量、又はバイオマーカー(パターン)のセットの相対量を有する。疾患の段階は、関連するバイオマーカーを測定し、次いで、それらを分類アルゴリズムにかけるか、それらを、特定の段階に関連するバイオマーカーの基準量及び/又はパターンと比較するかの何れかによって判定される。例えば、初期段階のアルツハイマー病及び非アルツハイマー病、又は、初期、中期及び後期段階のアルツハイマー病を分類することができる。
【0085】
疾患の経過(進行/退行)の判定
一実施形態において、本発明は、被験体における疾患の経過を判定する方法を提供する。疾患の経過は、疾患の進行(悪化)及び疾患の退行(改善)を含む、長期にわたる疾患の状態の変化を意味する。時間が経てば、バイオマーカーの量又は相対量(例えば、パターン)は変化する。例えば、サポシンD及びFam3Cは、両方とも疾患により増加する。従って、疾患にかかるか又は疾患にかかっていないことに関して増加又は減少する、マーカーの傾向は、疾患の経過を示す。従って、この方法は、少なくとも2種の異なる時点、例えば、第一の時間及び第二の時間における、患者における1つ以上のバイオマーカーの測定、及びもしあれば、量の変化の比較を必要とする。疾患の経過は、これらの比較に基づいて判定される。
【0086】
状態の報告
本発明の更なる実施態様は、試験結果又は診断結果又はその両方を、例えば、技術者、医師又は患者に伝達することに関する。特定の実施形態において、試験結果又は診断結果又はその両方を、例えば医師及びその患者等の、対象となる関係者に伝達するためにコンピュータが使用される。幾つかの実施形態において、結果又は診断結果が伝達される国又は管轄と異なる国又は管轄で、試験が実施されるか、試験結果が解析されるであろう。
【0087】
本発明の好ましい実施形態において、表1の何れかのバイオマーカーの試験対象における存在又は非存在に基づく診断結果は、診断結果が得られた後、可能な限り早く被検者に伝達される。診断結果は、被験体を処置する医師によって被験体に伝達される。或いは、診断結果は、電子メールによって被験体に送付されてもよく、電話によって被験体に伝達されてもよい。コンピュータは、診断結果を電子メール又は電話によって伝達するために使用される。特定の実施形態において、診断試験の結果を含むメッセージが生成され、電気通信における熟練者によく知られているコンピュータハードウェア又はソフトウェアの組み合わせを使用して、被験体に自動的に配送される。健康管理に向けられる伝達システムの一具体例は、米国特許第6,283,761号に開示されている。しかし、本発明は、この特定の伝達システムを利用する方法に限定されない。本発明の方法の特定の実施形態において、試料の試験、疾患の診断、及び試験結果又は診断結果の伝達を含む、全て又は幾つかの方法の手順は、様々な(例えば、外国)管轄内で実施される。
【0088】
被験体の管理
アルツハイマー病の状態を定性化する方法の特定の実施形態において、これらの方法は更に、この状態に基づき被験体の処置を管理することからなる。このような管理には、アルツハイマー病の状態の判定に続く医師又は臨床医の行為が含まれる。例えば、医師がアルツハイマー病と診断した場合、化学療法剤の処方又は投与等の特定の処置療法が行われる。或いは、アルツハイマー病又は非アルツハイマー病の診断に続いて、患者が患う可能性がある特定の疾患を判定するための更なる試験が行われる可能性がある。又、診断試験でアルツハイマー病の状態に関する不確かな結果が出た場合には、更なる試験が必要となる場合がある。
【0089】
6.画像化へのバイオマーカーの使用
陽電子放出型断層撮影法(PET)又は単一光子放出型コンピュータ断層撮影(SPECT)等の非観血式医用画像法は、癌、冠状動脈疾患及び脳疾患の検出に特に有用である。PET及びSPECT画像は、器官及び組織の化学的機能を示すのに対して、X線、CT及びMRI等のその他の画像法は構造を示す。PET及びSPECT画像化の使用は、アルツハイマー病等の脳疾患の発現の定性化及び監視に益々有用となってきている。場合によっては、PET又はSPECT画像化を使用することによって、症状の発生よりも数年早く、アルツハイマー病を検出することができる。例えば、Vassaux and Groot−wassink, “In Vivo Noninvasive Imaging for Gene Therapy,” J. Biomedicine and Biotechnology, 2:92−101 (2003)を参照されたい。
【0090】
ヒトの脳におけるアミロイド沈着のin vivo画像化のために好適な化合物の開発のために、種々の戦略が使用されている。A−β及びペプチド断片に対するモノクローナル抗体は、ADを患う患者において試験した場合に、脳による取り込みに限界を有する。アミロイドの画像化のための低分子法は、例えば以下に記載の通り、これまでに最も大きな成功を収めている:Nordberg A, Lancet Neurol., 3(9):519−27 (2004);Kung MP,ら、Brain Res., 1025(1−2):98−105 (2004);Herholz K,ら、Mol Imaging Biol., 6(4):239−69 (2004):Neuropsychol Rev., Zakzanis KK,ら、13(1):1−18(2003);Herholz K, Ann Nucl Med., 17(2):79−89(2003)。
【0091】
本明細書に開示されるペプチドバイオマーカー、又はその断片は、PET及びSPECT画像化用途との関連で使用してもよい。PET又はSPECT用途に適切なトレーサー残基を使用した修飾の後、アミロイドプラークタンパク質と相互作用するペプチドバイオマーカーを、アルツハイマー病患者におけるアミロイドプラークの沈着を画像化するために使用してもよい。
【0092】
アンチセンス技術は、本明細書で特定するバイオマーカーと転写が関連する転写物の発現を検出するために使用される場合がある。例えば、111In等の適切な放射性核種で標識され、生体膜バリアにわたる輸送を可能にする脳の薬物標的系とコンジュゲートする、アンチセンスペプチド核酸(PNA)を使用することにより、脳癌における内因性遺伝子発現の画像化が可能となることが証明されている。Suzuki,ら、Journal of Nuclear Medicine, 10:1766−1775(2004)を参照されたい。Suzuki等は、血液脳関門においてトランスフェリンレセプターをターゲティングし、血液脳関門にわたるPNAの移動を促進するモノクローナル抗体を含む送達系を使用している。この技法又はその変形は、表1又は3に示す上方調節された遺伝子等、アルツハイマー病と関連する上方調節された遺伝子をターゲティングするために使用される場合がある。
【0093】
7.医薬品の治療効果の判定
別の実施形態において、本発明は、医薬品の治療効果を判定する方法を提供する。これらの方法は、薬物の臨床試験、及び薬物による患者の進行の監視を実施するのに有用である。治療又は臨床試験は、特定のレジュメによって薬物を投与することからなる。該投薬計画は、単回投与、又は長期にわたる薬物の複数投与を含む。医師又は臨床研究者は、投与の経過を通じて、患者又は被験体における薬物の効果を監視する。薬物が、条件による薬理学的効果を有する場合、本発明のバイオマーカーの量又は相対量(例えばパターン又はプロフィール)は、非疾患プロフィールに関して変化する。例えば、表1のバイオマーカーは疾患により増加する。従って、処置の過程で被験体におけるこれらのバイオマーカーの量の経過を追随してもよい。従って、この方法は、薬物治療を受けた被験体における1つ以上のバイオマーカーを測定し、バイオマーカーの量を、被験体の疾患の状態と関連付けることからなる。この方法の一実施態様では、薬物治療の経過の間の少なくとも2種の異なる時点、例えば、第一の時間及び第二の時間における、バイオマーカーのレベルの測定、バイオマーカーの量の変化(存在する場合)の比較が必要となる。例えば、バイオマーカーは、薬物投与の前後、又は薬物投与の間、2種の異なる時点で測定することができる。治療効果は、これらの比較に基づいて判定される。処置が効果的である場合、バイオマーカーは正常に向かう傾向にあるが、処置が効果的でない場合、バイオマーカーは、疾患の指標に向かう傾向にある。
【0094】
8.アルツハイマー病の状態を定性化するための分類アルゴリズムの作成
幾つかの実施形態において、「既知の試料」等の試料を使用して生成されるスペクトル(例えば、質量スペクトル又は飛行時間スペクトル)のデータは、分類モデルを「トレーニング」するために使用してもよい。「既知の試料」は、予め分類された試料である。スペクトルから得られ、分類モデルの形成に使用されるデータは、「トレーニングデータセット」と呼ばれる。一度トレーニングを行うと、分類モデルは、未知の試料を使用して生成されたスペクトルのデータのパターンを認識することができる。次いで、分類モデルは、未知の試料をクラスに分類するために使用することができる。例えば、このモデルは、特定の生体試料が特定の生物学的病体と関連するかどうか(例えば、疾患と非疾患)を予測するのに有用である。
【0095】
分類モデルを形成するトレーニングデータセットは、生データ又は前処理されたデータを含む。幾つかの実施形態において、生データは、飛行時間形質量分析又は質量分析から直接得ることができ、前述したように前処理してもよい。
【0096】
分類モデルは、データ本体を、データ内に存在する客観的なパラメータに基づくクラスに分離することを試みる、何れか好適な統計的分類(学習)法を使用して形成することができる。分類法は、教師ありの場合もあれば、教師なしの場合もある。教師あり分類法及び教師なし分類法については、その教示内容が参考として組み入れられている、Jain, “Statistical Pattern Recognition: A Review”, IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence, Vol.22, No.1, January 2000に記載されている。
【0097】
教師あり分類において、既知の分類の具体例を含むトレーニングデータは、それぞれの既知のクラスを定義する1つ以上の関連性を学習する学習メカニズムに送られる。その後、学習メカニズムには新しいデータが適用される場合があり、このメカニズムは学習した関連性を基に新しいデータを分類する。教師あり分類法の具体例には、直線回帰法(例えば、多重線形回帰(MLR)、部分最小二乗法(PLS)回帰、及び主成分回帰(PCR))、二分決定木(例えば、CART(分類及び回帰木)等の再帰分割法)、バック・プロパゲーションネットワーク等の人工の神経ネットワーク、判別分析(例えば、ベイズ式分類法又はフィッシャー分析)、ロジスティック分類、及びサポートベクター分類(サポートベクターマシン)が含まれる。本明細書の実施例においては、データの分析にPLS回帰分析を使用した。
【0098】
別の実施形態において、生成される分類モデルは、教師なし学習法を使用して形成することができる。教師なし分類は、データセットが派生するスペクトルを予め分類せずに、トレーニングデータセットにおける類似性分類を学習することを企図する。教師なし学習法には、クラスター分析が含まれる。クラスター分析は、データを、クラスター、又は理想的には、相互に非常に類似し、他のクラスターのメンターとは非常に似ていないグループに分けることを企図する。次いで、類似性は、距離メトリックを使用して測定される。クラスタリング技術には、マックィーンのK−平均アルゴリズム、及びコホネンの自己組織化マップアルゴリズムが含まれる。
【0099】
生物情報の分類に使用することが主張される学習アルゴリズムについては、例えば、PCT国際出願第WO01/31580号(Barnill,ら、“Mehods and devices for identifing patterns in biological systems and methods of use thereof”)、米国特許出願第2002 0193950A1号(Gavin,ら、“Methjod or analyzing mass spectra”)、米国特許出願第2003 0004402A1号(Hitt,ら、“Process for discriminating between biological states based on hidden patterns from biological data”)、及び米国特許出願第2003 0055615A1号(Zhang and Zhang, “Systems and methods for processing biological expression data”)に記載されている。
【0100】
分類モデルは、適切なデジタルコンピュータで形成され、使用することができる。適切なデジタルコンピュータには、Unix(登録商標)、Windows(登録商標)又はLinuxTMオペレーティングシステムを使用した、ミクロ、ミニ又は大型コンピュータが含まれる。使用されるデジタルコンピュータは、対象となるスペクトルを生成するために使用される質量分析計から物理的に分離されている場合もあれば、質量分析計と連結されている場合もある。
【0101】
本発明の実施態様によるトレーニングデータセット及び分類モデルは、デジタルコンピュータにより作成されるか使用されるコンピュータコードによって具現化され得る。コンピュータコードは、光又は磁気ディスク、スティック、テープ等を含むコンピュータ読み取り可能な媒体に保存することができ、C、C++、ビジュアルベーシック等を含む、任意の適切なプログラム言語により書き込むことができる。
【0102】
前述した学習アルゴリズムは、既に発見されているバイオマーカーのための分類アルゴリズムを開発するため、又はアルツハイマー病のための新規のバイオマーカーを発見するための両方に有用である。分類アルゴリズムは、単独で又は組み合わせて使用してバイオマーカーのための診断の値(例えば、カットオフ点)を供給することによって診断試験のための基礎を順々に形成する。
【0103】
9.アルツハイマー病のバイオマーカーを検出するためのキット
別の実施形態において、本発明は、本発明のバイオマーカーを検出するために使用される、アルツハイマー病の状態を定性化するためのキットを提供する。一実施形態において、このキットは、固相支持体、例えば、それに結合した捕捉試薬(該捕捉試薬は本発明のバイオマーカーを結合する)を有するチップ、マイクロタイタープレート又はビーズ又は樹脂を含む。従って、例えば、本発明のキットは、ProteinChip(登録商標)アレイ等の、SELDIの質量分析プローブを含んでもよい。生体特異的捕捉試薬の場合、このキットは、反応性表面を有する固相支持体、及び生体特異的捕捉試薬を含有する容器を含んでもよい。
【0104】
このキットは又、洗浄溶液、又は洗浄溶液を製造するための説明書を含んでもよい。捕捉試薬とこの洗浄溶液を組み合わせることにより、固相上のバイオマーカーを捕捉した後、質量分析等により検出することが可能となる。このキットには、それぞれ異なる固相支持体上に存在する複数種類の吸着剤が含まれる場合がある。
【0105】
更なる実施形態において、このようなキットは、ラベル又は別個の添付文書の形態で好適な操作パラメータの説明書を含んでもよい。例えば、説明書は、試料の収集方法、検出するプローブ又は特定のバイオメーカーの洗浄方法に関する情報を消費者に提供する場合がある。
【0106】
更に別の実施形態において、このキットは、キャリブレーションの基準として使用されるバイオマーカー試料を含有する1つ以上の容器を含んでもよい。
【0107】
10.スクリーニング試験及びアルツハイマー病の処置方法におけるアルツハイマー病のバイオマーカーの使用
本発明は、又他の用途を有する。例えば、バイオマーカーは、in vitro又はin vivoでバイオマーカーの発現を調節する、アルツハイマー病の処置又は予防に有用な化合物のスクリーニングに使用されてもよい。別の具体例において、バイオマーカーは、アルツハイマー病の処置に対する応答を監視するために使用してもよい。更に別の具体例において、バイオマーカーは、被験体がアルツハイマー病を発現する危険性を有するか否かを判定する遺伝研究に使用してもよい。
【0108】
従って、例えば、本発明のキットは、タンパク質バイオチップ(例えば、Ciphergen H50 ProteinChipアレイ)等の疎水性官能基を有する固相支持体、基質を洗浄するための酢酸ナトリウム緩衝液、並びにチップ上で本発明のバイオマーカーを測定し、これらの測定結果をアルツハイマー病の診断に使用するためのプロトコルを提供する説明書を含んでもよい。
【0109】
治療的試験に好適な化合物は最初に、表1に列挙する1つ以上のバイオマーカーと相互作用する化合物を特定することによってスクリーニングされる場合がある。具体例として、スクリーニングには、表1に列挙するバイオマーカーを組換えにより発現して、バイオマーカーを精製し、そのバイオマーカーを基質に付加することが含まれる場合がある。その後、試験化合物は、通常水性条件下で基質と接触するとされ、試験化合物及びバイオマーカーの相互作用は、例えば、塩濃度を関数として溶出速度を測定することによって測定される。特定のタンパク質は、表1の1つ以上のバイオマーカーを認識及び開裂する場合があり、この場合、タンパク質は、タンパク質のゲル電気泳動等による標準試験において1つ以上のバイオマーカーの消化を監視することにより検出される場合がある。
【0110】
関連する実施形態において、表1の1つ以上のバイオマーカーの活性を阻害する試験化合物の能力を測定する。当業者は、バイオマーカーの機能及び特性によって変化する、特定のバイオマーカーの活性を測定するための技術を認識するであろう。例えば、適切な基質が利用可能であり、基質の濃度又は反応生成物の出現が容易に測定することができれば、バイオマーカーの酵素活性は試験することができる。所定のバイオマーカーの活性を阻害又は増強する潜在的な治療的試験化合物の能力は、試験化合物の存在又は非存在下における触媒速度を測定することによって判定される場合がある。非酵素的(例えば、構造的)機能、又は表1のバイオマーカーの1つの活性を妨害する試験化合物の能力も測定することができる。例えば、表1のバイオマーカーの1つを含む、多種タンパク質複合体の自己集合は、試験化合物の存在又は非存在下における分光法によって監視することができる。或いは、バイオマーカーが転写の非酵素的エンハンサーである場合、転写を増強するバイオマーカーの能力を妨害する試験化合物は、試験化合物の存在又は非存在下におけるバイオマーカー依存性の転写レベルを測定することによって特定することができる。
【0111】
表1のバイオマーカーの何れかの活性を調節することのできる試験化合物を、アルツハイマー病又は他の癌の発現の危険に苦しんでいる患者に投与することができる。例えば、特定のバイオマーカーの活性を上昇させる試験化合物の投与は、特定のバイオマーカーの活性が、in vivoでアルツハイマー病についてのタンパク質の蓄積を妨害する場合、患者におけるアルツハイマー病の危険を減少することができる。逆に、特定のバイオマーカーの活性を低下させる試験化合物の投与は、バイオマーカーの上昇した活性が、少なくとも部分的にアルツハイマー病の発症の原因である場合、患者におけるアルツハイマー病の危険を減少することができる。例えば、サポシンDはセラミドの酵素的加水分解を促進するため、サポシンDはターゲティングされる。セラミドは、ADの発生と関連する、脳内のアポトーシス過程の誘導における第二メッセンジャーとしての役割を果たす(Alessenko AV,ら、(2004) Biochem. Soc. Trans. 32:144−146;Ciaffoni F,ら、(2003) Biochem J. 373:785−92)。
【0112】
臨床レベルにおいて、試験化合物のスクリーニングには、被験体を試験化合物にさらす前後に試験対象から試料を得ることが含まれる。表1に列挙する1つ以上のバイオマーカー試料のレベルが測定及び解析されて、試験化合物への露出後にバイオマーカーのレベルが変化したかどうかを判定する場合がある。試料は、本明細書に記載の通り、質量分析によって解析される場合もあれば、試料は当業者に既知の適切な手段によって解析される場合もある。例えば、表1に記載の1つ以上のバイオマーカーのレベルは、抗体に特異的に結合する、放射線又は蛍光的に標識した抗体を使用したウェスタンブロットによって直接測定される場合がある。或いは、1つ以上のバイオマーカーをコードするmRNAのレベルの変化が測定され、被験体への所定の試験化合物の投与と関連付けられる場合もある。更なる実施形態において、1つ以上のバイオマーカーの発現レベルの変化は、in vitroの方法及び材料を使用して測定される場合がある。例えば、表1の1つ以上のバイオマーカーを発現するか、又は発現することのできるヒト組織培養細胞を試験化合物と接触させる場合がある。試験化合物で処置された被験体は、処置によりもたらされる場合がある生理学的効果について定期的に検査される。特に、試験化合物は、被験体における疾患の可能性を減少させる能力について評価される。或いは、以前にアルツハイマー病と診断された被験体に試験化合物を投与する場合、試験化合物は、疾患の進行を遅らせるか停止する能力についてスクリーニングされる。
【実施例】
【0113】
実施例1.アルツハイマー病のバイオマーカーの発見
材料及び方法
研究の設計及び臨床試料:認知機能検査(MMSE)が24を超える、83人の非常に軽いケースを含む97人のアルツハイマー病患者(年齢:平均74.11、範囲50〜89)、及び49人の正常な個体(年齢:平均62.94,範囲39〜92)由来のCSF試料(150μL)を本研究において使用した(表4を参照)。
【0114】
【表4】

全ての患者は、以下、即ち医学的(病歴を含む);物理的、神経学的、神経学的、及び精神医学的試験:スクリーニング研究室試験;脳波;及び脳のコンピュータ化された断層撮影を含む完全な臨床的研究を経験した。痴呆の存在又は非存在を、DMS−IV判定基準で診断した。有望なADは、NINCDS−ADRDA判定基準(McKhann G.,ら、(1984) Neurology 34:939−944)に従って診断し、疾患の重症度は、MMSEスコア(Folstein MF,ら、(1975) J Psychiatr Res 12:189−198)を使用して評価した。
【0115】
CSF試料は、L3/L4又はL4/L5の空間における腰椎穿刺によって得られ、ポリエチレンチューブに収集し、−80℃に保存した。全ての患者(又はそれらに近い親戚)及び正常な個体は、研究に参加するためのインフォームドコンセントを与えられ、宣言に従って研究が行われた。CSF試料は、専門の3箇所のメモリークリニック、サーレンスカ大学病院(AD部位1、N−64)、クオピオ大学(AD部位2、N=33)及びゴテンバーグ大学(正常、N=49)を通じて調達された。試料と一緒にプールされたCSFの一定量を、組織的な傾向を除去するため、無作為な配置で96ウェルのマイクロタイターにプレートに入れた。
【0116】
SELDI解析:CSF試料を溶解し、5μLの各試料を50μLの適切な結合緩衝液で希釈し、ProteinChip(登録商標)アレイタイプ(Ciphergen Biosystems[米国カリフォルニア州フリーモント])に基づいてプロファイルした。全てのアレイの調整は、平等に振盪し、無作為な試料配置で、Biomek(登録商標)2000ロボット(Beckman Coulter)を使用して実施された。以下の結合緩衝液、即ち、H50アレイについて、0.1%トリフルオロ酢酸を含む10%アセトニトリル、IMAC30−Cu及びIMAC30−Niアレイについて、100mMリン酸ナトリウム(pH7.0、0.5M NaCl)、CM10アレイについて100mM酢酸ナトリウム(pH4.0)、及びQ10アレイについて100mMトリス(pH9.0)を、各ProteinChipアレイタイプについて使用した。試料を、室温で30分間で結合させた。各アレイを、適切な結合緩衝液で3回洗浄し、水で2回洗浄し、質量分析リーダーにおいてタンパク質の脱離及びイオン化を促進するために使用されるエネルギー吸収分子(EAM)を添加した。シナピン酸(SPA)及び4−ヒドロキシ−α−シアノケイ皮酸(CHCA)をEAMs(Ciphergen Biosystems[米国カリフォルニア州フリーモント])として使用した。SPAを有するアレイは、CHCAの読み取りが下側の大規模領域に焦点を合わせていた間、下側の、そして、より高い量の焦点を合わせるために2つの異なった器具で読まれた。各試料を、異なるアレイで3連で連日実施した。アレイの解析は、ProteinChip Reader、シリーズPBS(IIc)(Ciphergen Biosystems[米国カリフォルニア州フリーモント])中で実施した。タンパク質レテンテートマップを、個々のタンパク質、そらの質量及び電荷(m/z)に基づいて固有のピークを示すように、生成した。
【0117】
試料調製及びアレイ解析の再現性を保証するため、基準CSF標準を、臨床試料中の幾つかの別々のアリコート中に無作為に配置し、正確に同じ条件で解析した。再現性は、獲得パラメータの各セットについてのプールされた変異係数(CV)として測定した。CV値は、20〜25%(N=28)であると測定され、アレイのロットに依存しなかった。
【0118】
データ解析:ProteinChipプロファイリングスペクトルデータを、ProteinChipソフトウェアバージョン3.1を使用して収集し、CiphergenExpressTMソフトウェアバージョン3.0に直接データ転送し、データ処理及び一変量解析を実施した。全てのスペクトルを内部で質量測定し、ピーク強度を規格化した。ピーククラスタリングを、EAMピークによって特徴付けられる、非常に低い質量領域を排除する範囲で実施した。各グループを横切った個々のピークについてのP値を、マンホイットニーを使用して計算した。受信者動作特性曲線(ROC AUC)を各ピークについて計算し、特徴の数は、0.65を超えた値に従ったピークのみを維持することによって減少させた。初期の一変量解析における有意な相違を示す全てのピークを、手作業でチェックし、偽のピークを排除した。更なるデータの減少のため、AD試料を部位毎に別々に、即ち、スウェーデン型(AD部位1)対正常コントロール、フィンランド型(AD部位2)対正常コントロールで比較し、ROC AUCが両方の比較で0.65を超え、同じ方向で変化している候補のバイオマーカーを選択する。
【0119】
マーカーの生成及びID:一連のBiosepra吸着剤を使用した、クロマトグラフ技術の組み合わせ、通常は、それに続くSDS−PAGEを使用してバイオマーカーを精製した。精製法は、対象となるバイオマーカーを追跡するProteinChipReaderを使用して監視される。30kDaより小さいタンパク質については、対象となる無傷のバンドは、ゲルから抽出され、ProteinChipReaderを使用して再解析され、元のバイオマーカーに適合する正確な質量を確認する。ゲル抽出タンパク質は、トリプシンを使用して溶液内で消化し、30kDaを超えるタンパク質はゲル中消化である。トリプシン消化物を、ProteinChip Reader使用したペプチドマッピング、及びPCI−1000 ProteinChip Interfaceと適合するQ−STAR(Applied Biosystems)装置を使用したタンデムMSにより解析した。4kDaより小さいバイオマーカーは、クロマトグラフ技術の組み合わせによって濃縮され、SDS−PAGE精製及び/又はトリプシン消化なしのタンデムMSによって直接特定される。
【0120】
前段落に記載した技法により、表1のバイオマーカーの特定が可能となった。アルツハイマー病の診断に特に有用である、約20.8kDaのバイオメーカーは、以下に太字で強調した予想配列を有する、N末端が短縮されたFAM3Cタンパク質に相当する。
【0121】
【化1】

太字における配列は配列番号1である。FAM3Cは最近クローニングされ、殆ど全ての組織で発現される分泌性サイトカインと特定された(Zhu Y,ら、(2002)Genomics 80:144−150)。或いは、FAM3Cは、多発性硬化症患者のCSF中に見出される(Dumont D,ら、(2004) Proteomics 4:2117−24)。
【0122】
更に、約10.4kDa、10.3kDa、及び9.98kDaの質量/電荷比を有するバイオマーカーのセットが特定された(表1)。ペプチドの種々の形態に関連する、これらのバイオマーカーはサポシンD(Swiss Protein Databese Sap_HUMAN P07602)に由来する。沈着したサポシンD前駆体配列の残基405〜486(配列番号2)を以下に示す。
【0123】
【化2】

Asn22はN−グリコシル化されている。ポリペプチドは6個のCysを含み、図3に示すように3個のブリッジを形成する。サポシンDは、アミノ酸配列のレベル、及びグリコシドの部分のレベルにおいて微小不均一性を有することが知られている。観察された10.4kDaのサポシンD(I)バイオマーカーは、HexHexNAc部分でグリコシル化された配列番号2のアミノ酸1〜80に相当する(予想される分子量=10.37kDa)。観察された10.3kDaのサポシンD(II)バイオマーカーは、HexHexNAc部分をでグリコシル化された配列番号2のアミノ酸2〜80に相当する(予想される分子量=10.26kDa)。観察された9.9kDaのサポシンD(III)バイオマーカーは、HexHexNAc部分でグリコシル化された配列番号2のアミノ酸1〜80に相当する(予想される分子量=9.97kDa)。Sap Dは、通常の前駆体タンパク質プロサポシンから後期のエンドソーム/ライソソーム中で精製される、4種の低分子等タンパク質(Sap A、Sap B、Sap C及びSap D)のメンバーである[Kishimoto (1992) J. Lipid Res.]。Sap Dは、セラミドのリソソーム分解を促進する、スフィンゴ脂質活性化タンパク質である[Klein (1994) Biochem. Biophys. Res. Commun.]。スフィンゴミエリンの分解により生産される、脂質第二メッセンジャー分子である、セラミドは、プロテアーゼ及びキャスパーゼの活性化により、グリア細胞及び神経細胞を含む、種々のタイプの細胞においてアポトーシス及び細胞死を誘導することが知られている[Hannum (1996) Science]。繊維状Aβ1−42ペプチドは、スフィンゴミエリナーゼの活性化、及びヒト初代神経細胞におけるセラミドの生産を誘導する[Jana (2004) J. Biol. Chem]。或いは、セラミドのレベルは、アルツハイマー病を患う患者の脳及びCSF中で有意に上昇するが、年齢を適合させた筋萎縮性側索硬化症(ALS)及び他の神経制御を患う患者では上昇しない[Satoi (2005) Neuroscience]。星状膠細胞に由来する、AD患者由来のCSF中の上昇したセラミドのレベルは、ADにおける細胞内セラミドに対する応答によってニューロンのアポトーシスの可能性を上昇させる。Sap Dのレベルの上昇は、AD脳内のセラミドのレベルの上昇に対する代償性反応である可能性がある。
【0124】
最終的な一覧表由来のマーカーは、モデル(75%)及び試験セット(25%)に無作為に分配される。モデルセットのみを用い、部分最小二乗法(PLS)回帰(XLSTAT PLS,Addinsoft)による性能のランキングは、特徴の数を4種のタンパク質:7B2のC末端断片(3.5kDa)、サポシンD(I)、β−2−ミクログロブリン及びFAM3C(I)に減少するのに役立つ。予測的なモデルは、これら4種のピークのPLS回帰を使用して構築され、試験セットにおけるデータに適用される。
【0125】
実施例2.カチオン交換SELDIチップ上でアルツハイマー病のバイオマーカーとして確認されるサポシンD
本発明者等は、アニオン交換SELDIチップ、CM−10(Ciphergen)を使用して、アルツハイマー病のバイオマーカーとしてのサポシンDを確認した。試料を採取した集団は、表5に記載する。
【0126】
【表5】

検出プロトコルには、以下が含まれる。
【0127】
緩衝液一覧:
100mM酢酸ナトリウム pH4.0。
【0128】
物質一覧:
バイオプロセッサーキット
CM10アレイ。
【0129】
A.平衡手順
各ウェルに適切なチップ結合緩衝液を100μL添加
室温(RT)で5分間混合
緩衝液を除去
各ウェルに適切な緩衝液を100μL添加
室温(RT)で5分間混合
緩衝液を除去。
【0130】
B.アレイへの試料の結合
各ウェルに対応する緩衝液を45μLの添加(E−ビーズの場合、45μL)
適切なCSF試料を5μL添加
室温(RT)で60分間混合
試料及び緩衝液を除去。
【0131】
C.洗浄手順
各ウェルに対応する緩衝液を100μL添加
室温で5分間混合
緩衝液を除去
各ウェルに対応する緩衝液を100μL添加
室温で5分間混合
緩衝液を除去
水で洗浄。
【0132】
この試験で検出されるサポシンD(I)を示すスペクトルを、図4に示す。
【0133】
本明細書に記載の実施例及び実施態様は、説明のみを目的としたものであり、種々の改変又はそれらに照らした変更は当業者に示唆され、本出願の趣旨及び適用範囲、並びに添付の特許請求の範囲内に含まれることが理解される。本明細書に引用される全ての刊行物、特許及び特許出願は、全ての目的のために全体が参考として組み入れられている。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1A】図1A及び1Bはそれぞれ、サポシンD及びFAM3C(I)バイオマーカーに対応するピークの代表的な質量スペクトルを示す。実施例に記載の通り、サポシンDスペクトルは、Ciphergen H50 ProteinChip を使用して、FAM3Cスペクトルは、Ciphargen IMAC30−Cu ProteinChipを使用して得た。図1Aの10384、10270及び9985のピークはそれぞれ、表1のサポシンD(I)、(II)及び(III)に対応する。同様に、図1Bの20851のピークは、表1のFAM3C(I)バイオマーカーに対応する。測定された質量/電荷比における極僅かな差は、この測定技法の質量校正及び統計的変動のアーチファクトによるものである。
【図1B】図1A及び1Bはそれぞれ、サポシンD及びFAM3C(I)バイオマーカーに対応するピークの代表的な質量スペクトルを示す。実施例に記載の通り、サポシンDスペクトルは、Ciphergen H50 ProteinChip を使用して、FAM3Cスペクトルは、Ciphargen IMAC30−Cu ProteinChipを使用して得た。図1Aの10384、10270及び9985のピークはそれぞれ、表1のサポシンD(I)、(II)及び(III)に対応する。同様に、図1Bの20851のピークは、表1のFAM3C(I)バイオマーカーに対応する。測定された質量/電荷比における極僅かな差は、この測定技法の質量校正及び統計的変動のアーチファクトによるものである。
【図2】図2は、4種類のマーカー(サポシンD(I)、FAM3C(I)、β−2−ミクログロブリン、及び7B2)モデルの他変数散布図を示す。AD:アルツハイマー病;C:コントロール。
【図3】図3は、サポシンD中のシステインブリッジのアミノ酸配列及び配置を示す。
【図4】図4は、10,374DにおいてサポシンD(I)がCiphergen CM−10アレイによりアルツハイマー病バイオマーカーとして検出されたスペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体におけるアルツハイマー病の状態を定性化するための方法であって、
(a)該被験体由来の生体試料中の少なくとも1つのバイオマーカーを測定する工程であって、該少なくとも1つのバイオマーカーは、サポシンD(I)、サポシンD(II)、サポシンD(III)及びFAM3C(I)から選択される、工程;ならびに
(b)該測定結果をアルツハイマー病の状態と関連付ける工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
サポシンD(I)を測定する工程を包含し、更にβ−2−ミクログロブリンを測定する工程、および該測定結果をアルツハイマー病の状態と関連付ける工程を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
サポシンD(I)及びFAM3C(I)を測定する工程、ならびに該測定結果をアルツハイマー病の状態と関連付ける工程を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
サポシンD(I)、FAM3C(I)、及びβ−2−ミクログロブリンを測定する工程、該測定結果をアルツハイマー病の状態と関連付ける工程を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
サポシンD(I)、β−2−ミクログロブリン、FAM3C(I)、及び7B2を測定する工程、該測定結果をアルツハイマー病の状態と関連付ける工程を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
SELDIプローブの吸着剤表面上の前記バイオマーカーを捕捉し、該捕捉されたバイオマーカーをレーザー脱離イオン化質量分析により検出することによって、該少なくとも1つのバイオマーカーが測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記吸着剤が、疎水性吸着剤及びカチオン交換吸着剤からなる群より選択される吸着剤を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記吸着剤が生体特異性吸着剤を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つのバイオマーカーが質量分析によって測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つのバイオマーカーが免疫学的検定によって測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
更に、(c)前記被験体に前記状態を報告する工程を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
更に、(c)前記状態を有形の媒体に記録する工程を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つのバイオマーカーがSELDI−MSにより測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つのバイオマーカーがサポシンDである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
サポシンDが免疫学的検定により測定される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記試料が脳脊髄液である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記関連付けが、ソフトウェア分類アルゴリズムにより実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
アルツハイマー病の状態が、アルツハイマー病及び非痴呆から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
更に、(c)前記状態に基づき被験体の処置を管理する工程を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記測定結果がアルツハイマー病と関連付けられる場合に、被験体の処置を管理する工程が、サポシンD遺伝子発現の阻害剤を該被験体に投与する工程を包含する、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
更に、(d)被験体の管理後に前記少なくとも1つのバイオマーカーを測定し、該測定結果を疾患の進行と関連付ける工程を包含する、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
アルツハイマー病の経過を判定する方法であって、
(a)第一の時点で、被験体由来の生体試料中の少なくとも1つのバイオマーカーを測定する工程であって、該少なくとも1つのバイオマーカーは、サポシンD(I)、サポシンD(II)、サポシンD(III)、及びFAM3C(I)からなる群より選択される、工程;
(b)第二の時点で、該被験体由来の生体試料中の該少なくとも1つのバイオマーカーを測定する工程;
(c)第一の測定結果と第二の測定結果を比較する工程、
を包含し;
該比較測定によって該アルツハイマー病の経過が判定される、方法。
【請求項23】
第一及び第二の時点で少なくともサポニンD(I)及びβ−2−ミクログロブリンを測定する工程、ならびに該第一及び第二の測定結果を比較する工程を包含する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
第一及び第二の時点で7B2及び/又はFAM3C(I)の何れか又は両方を測定する工程、該第一及び第二の測定結果を比較する工程をさらに包含する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記第二の時点が被験体の管理の後である、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
被験体由来の試料中の少なくとも1つのバイオマーカーを測定する工程を包含する方法であって、該少なくとも1つのバイオマーカーが、サポシンD(I)、サポシンD(II)、サポシンD(III)及びFAM3C(I)からなる群より選択される、方法。
【請求項27】
少なくともサポシンD(I)及びβ−2−ミクログロブリンを測定する工程を包含する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
更に、7B2及び/又はFAM3C(I)の何れか又は両方を測定する工程を包含する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
サポシンD(I)、サポシンD(II)、サポシンD(III)、及びFAM3C(I)からなる群より選択される、精製された生体分子。
【請求項30】
サポシンD(I)、サポシンD(II)、サポシンD(III)、及びFAM3C(I)からなる群より選択されるバイオマーカーに結合する生体特異的捕捉試薬を含む組成物。
【請求項31】
前記バイオマーカーが、サポシンD(I)及びβ−2−ミクログロブリンからなる群より選択されるメンバーである、請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
前記バイオマーカーが、7B2及びFAM3C(I)からなる群より選択されるメンバーである、請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
(a)固相支持体、及びそれに結合した少なくとも1つの捕捉試薬を含む製造品であって、該捕捉試薬は、サポシンD(I)、サポシンD(II)、サポシンD(III)、及びFAM3C(I)からなる第一群に由来する少なくとも1つのバイオマーカーを結合する、製造品;ならびに
(b)該少なくとも1つのバイオマーカーを測定し、該測定結果をアルツハイマー病の状態と関連付けるために該固相支持体を使用するための説明書、
を含むキット。
【請求項34】
前記バイオマーカー:サポシンD(I)及びβ−2−ミクログロブリンのそれぞれの測定に前記固相支持体を使用するための説明書を含む、請求項29に記載のキット。
【請求項35】
更に、7B2及び/又はFAM3C(I)の何れか又は両方の測定に前記固相支持体を使用するための説明書を含む、請求項34に記載のキット。
【請求項36】
前記捕捉試薬を含む固相支持体が、SELDIプローブである、請求項33に記載のキット。
【請求項37】
前記少なくとも1つの捕捉試薬が疎水性吸着剤を含む、請求項33に記載のキット。
【請求項38】
更に、サポシンD(I)、サポシンD(II)、サポシンD(III)、及びFAM3C(I)からなる群より選択されるバイオマーカーの少なくとも1つを含有する容器を含む、請求項33に記載のキット。
【請求項39】
前記少なくとも1つの捕捉試薬が、金属親和性クロマトグラフィー吸着剤、又はカチオン交換クロマトグラフィー吸着剤を含む、請求項33に記載のキット。
【請求項40】
(a)固相支持体、及びそれに結合した少なくとも1つの捕捉試薬を含む製造品であって、該少なくとも1つの捕捉試薬は、サポシンD(I)、サポシンD(II)、サポシンD(III)、及びFAM3C(I)からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーに結合する、製造品;ならびに
(b)該バイオマーカーの少なくとも1つを含有する容器、
を含むキット。
【請求項41】
前記容器が、前記バイオマーカー:サポシンD(I)及びβ−2−ミクログロブリンのそれぞれを含有する、請求項40に記載のキット。
【請求項42】
前記捕捉試薬を含む固相支持体が、SELDIプローブである、請求項40に記載のキット。
【請求項43】
前記少なくとも1つの捕捉試薬が、疎水性吸着剤及びカチオン交換吸着剤からなる群より選択される吸着剤を含む、請求項40に記載のキット。
【請求項44】
a.試料中の少なくとも1つのバイオマーカーの測定結果を含む、該試料に帰するデータにアクセスするコードであって、ここで、該バイオマーカーは、サポシンD(I)、サポシンD(II)、サポシンD(III)、及びFAM3C(I)からなる群より選択される、コード;ならびに
b.該試料の該アルツハイマー病の状態を該測定結果の関数として分類する分類アルゴリズムを実行するコード、
を含むソフトウェア製品。
【請求項45】
前記分類アルゴリズムが、サポシンD(I)、β−2−ミクログロブリン、7B2、及びFAM3C(I)からなる群より選択されるバイオマーカーの測定結果の関数として、前記試料の前記アルツハイマー病の状態を分類する、請求項44に記載のソフトウェア製品。
【請求項46】
前記分類アルゴリズムが、前記バイオマーカー:サポシンD(I)及びβ−2−ミクログロブリンのそれぞれの測定結果の関数として、前記試料の前記アルツハイマー病の状態を分類する、請求項44に記載のソフトウェア製品。
【請求項47】
前記分類アルゴリズムが、前記バイオマーカー:7B2及びFAM3C(I)のそれぞれの測定結果の関数として、前記試料の前記アルツハイマー病の状態を分類する、請求項46に記載のソフトウェア製品。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2008−537143(P2008−537143A)
【公表日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−507718(P2008−507718)
【出願日】平成18年4月11日(2006.4.11)
【国際出願番号】PCT/US2006/013727
【国際公開番号】WO2006/113289
【国際公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(507345871)バーミリオン, インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】