説明

アルツハイマー病の診断法

本発明は、患者におけるアルツハイマー病の診断を支援する生体外における方法であって、患者からの血小板試料におけるモノアミンオキシダーゼ‐B、凝固第XIIIa因子、全トロポミオシン(αおよびβ)、WD‐リピートタンパク質1ならびにアポリポタンパク質E4から選ばれる、少なくとも4つの血小板タンパク質の発現量を測定する工程、ならびに(i)の結果を対照値と比較する工程を含み、対照値より高い結果がアルツハイマー病の指標となる方法を提供する。好ましくは、本発明の方法は、野生型GSTO‐1または変異型GSTO‐1の発現量を測定することをさらに含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー病の末梢バイオマーカーを定量することを用いた生体外における診断法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は神経変性障害であり、全世界で、約2千4百万の人々を苦しめている。該疾患は、大脳皮質および脳の特定の皮質下領域におけるニューロンおよびシナプスの喪失がもたらす認識および行動機能障害を特徴とする。
【0003】
該疾患は、最終的に診断がつく何年も前に、発症している可能性がある。初期では、短期記憶障害が一般的な症状である。後の症状には、混乱、怒り、気分変動、言語障害、長期の記憶喪失・障害、ならびに感覚および身体機能の全般的な低下が含まれる。
【0004】
アルツハイマー病は、高齢者で最も一般的な種類の認知症であり、全認知症患者のほぼ半数に影響を及ぼしている。それに一致して、加齢が該疾患の主要な危険因子である。65歳の人では、2〜3%が該疾患の兆候を示すのに対し、85歳の人では25〜50%がアルツハイマー病の症状をもち、さらにより多くの人が特徴的な症状はないものの若干の該疾患の病理学的特徴をもっている。世界保健機関の推定では、全世界で、アルツハイマー病およびその他の認知症に関する全障害調整生存年数(DALY)は、2005年に、一千百万人を超え、推定年3.4%で増えている。現在、アルツハイマー病の治療法は知られておらず、施すことができる治療は、比較的小さい症状面での有益性を提供し、実際は苦痛を一時的に緩和するものである。
【0005】
鬱病はアルツハイマー病における一般的な初期の症状であり、他の要因のなかでも特に、モノアミンオキシダーゼ(MAO)酵素の上方制御に寄与されると考えられている。この酵素には2つのアイソフォーム、MAO‐AおよびMAO‐Bがある。双方とも中枢神経系(CNS)の細胞の至るところに見られ、そこで、フェネチルアミンおよびドーパミンなどのモノアミン神経伝達物質を不活性化する働きをする。また、MAO‐Bは、血小板でも豊富である。
【0006】
アルツハイマー病の発症および進行はアミロイドプラークおよび神経原線維変化の発生に関連する。アミロイドプラーク(「老人斑」としても知られている)は、膜貫通タンパク質アミロイド前駆体タンパク質(APP)に由来するタンパク質であるβ‐アミロイドの高密度の不溶性の堆積を含む。APPのタンパク質分解に続いて、ベータ‐アミロイドタンパク質は細胞外に凝集して、プラークを形成する。神経原線維変化は、CNSに豊富にある微小管関連タンパク質であるタウの過剰リン酸化によって形成される。複数の過剰リン酸化されたタウ分子は絡まって神経細胞体内に塊を形成する。そのような神経原線維変化は微小管の崩壊を引き起こし、ニューロン輸送系の崩壊をもたらす。
【0007】
アルツハイマー病は、通常、患者の病歴、身内の観察および臨床観察から臨床的に診断される。しかしながら、アミロイドプラークおよび神経原線維変化などのアルツハイマー病に特徴的な神経系および神経心理的特徴の存在は、死後に調べられるだけのことが多い。
【0008】
アルツハイマー病の多くの症例は家族性の遺伝的性質を示さないが、少なくとも80%の散発性アルツハイマーの症例では、遺伝的危険因子を伴う。アポリポタンパク質E(ApoE)遺伝子のε4対立遺伝子の遺伝は、最大50%の遅発型の散発性アルツハイマー
症例の発生危険因子と見なされている。
【0009】
グルタチオン S‐トランスフェラーゼ オメガ‐1(GSTO‐1)は、還元されたグルタチオン(GSH)のさまざまな求電子性の中心をもつ疎水性の基質との接合を触媒する酵素であるグルタチオン S‐トランスフェラーゼファミリ―の構成酵素である。GSTO‐1をコードする遺伝子には、異なる遺伝子アイソフォームが存在することが知られている。これらのアイソフォームは、アルツハイマー病およびパーキンソン病の発症年齢(AAO)に相関する(Li, Y et al., Hum Mol Genet.
(2003) 12(24):3259−67)。Liと同僚は、GSTO‐1h SNP 7‐1(rs4825、A ヌクレオチド)は、アルツハイマー病については、6.8(+/−4.41)年、パーキンソン病については、8.6(+/−5.71)年のAAO遅延に関連すると記載している((Li, Y et al., Neurobiol Aging (2006) 27(8):1087−93)。
【0010】
神経障害の診断マーカーは、治療化合物が最大の潜在的効果を有する疾患経過の初期における診断に、特に重要である。しかしながら、正確な診断は難しい。利用可能な初期神経障害の診断マーカーはほとんどなく、利用可能なものは、試料材料(例えば、脳脊髄液)の分析に依存し、その試料は、採取が難しく、痛みを伴う。
【0011】
したがって、容易に採取可能な患者試料から末梢的に利用可能であるアルツハイマー病のバイオマーカーを用いた新しい診断法をみつける必要があり、それによって、簡素かつ正確に診断する助けとなる。
【発明の概要】
【0012】
本発明の第1の態様は、
(i)患者からの血小板試料中の、モノアミンオキシダーゼ‐B、凝固第XIIIa因子、全トロポミオシン、WD‐リピートタンパク質1およびアポリポタンパク質E4から選ばれる少なくとも4つの血小板タンパク質の発現量を測定すること;ならびに、
(ii)(i)の結果を対照値に比較すること、
を含むアルツハイマー病の診断を支援する生体外における方法であって、対照値より高い結果がアルツハイマー病の指標となる生体外における方法を提供する。
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様による診断法に包含される1つ以上の血小板タンパク質の発現量における生物学的なばらつきを正規化するための、表3または表4に特定されている1つ以上のタンパク質の使用を対象とする。
本発明の第3の態様は、モノアミンオキシダーゼ‐B、凝固第XIIIa因子、全トロポミオシン、WD‐リピートタンパク質1およびApoE4から選ばれる少なくとも4つの血小板タンパク質の、担体上に固定された1つ以上のリガンドを含む固体担体を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、モデル1、2および3のそれぞれのアルゴリズムを使用するための判断プロセスを図示する。
【図1B】図1Bは、モデル4のアルゴリズムを使用するための判断プロセスを図示する。
【図2a】図2aは、それぞれ、モデル1を使った発見セットのROC曲線および散布図を示す。
【図2b】図2bは、それぞれ、モデル1を使った発見セットのROC曲線および散布図を示す。
【図2c】図2cは、それぞれ、モデル1を使った検証セットのROC曲線および散布図を示す。
【図2d】図2dは、それぞれ、モデル1を使った検証セットのROC曲線および散布図を示す。
【図3a】図3aは、それぞれ、モデル2を使った発見セットのROC曲線および散布図を示す。
【図3b】図3bは、それぞれ、モデル2を使った発見セットのROC曲線および散布図を示す。
【図3c】図3cは、それぞれ、モデル2を使った検証セットのROC曲線および散布図を示す。
【図3d】図3dは、それぞれ、モデル2を使った検証セットのROC曲線および散布図を示す。
【図4a】図4aは、それぞれ、モデル3を使った発見セットのROC曲線および散布図を示す。
【図4b】図4bは、それぞれ、モデル3を使った発見セットのROC曲線および散布図を示す。
【図4c】図4cは、それぞれ、モデル3を使った検証セットのROC曲線および散布図を示す。
【図4d】図4dは、それぞれ、モデル3を使った検証セットのROC曲線および散布図を示す。
【図5】図5は、モデル4のROC曲線を示す。
【図6】図6は、14‐3‐3ガンマが内部抽出標準として適していることを示す1D ウェスタンブロットである。
【図7】図7は、タンパク質測定のみ(P<0.01)、および続いて内部抽出タンパク質14‐3‐3ガンマ(P<0.00000007)を用いて正規化した後に分析したMao‐B発現の増加の比較である。
【図8】図8は、内部抽出標準としてERK2を適用した代表的なウェスタンブロットである。
【図9】図9は、3つのGSTO‐1アイソフォームの2Dウェスタンブロットを示す。
【図10】図10は、モデル1を使った、アルツハイマー病患者試料およびパーキンソン病患者試料についての散布図を示す。
【図11】図11は、モデル2を使った、アルツハイマー病患者試料およびパーキンソン病患者試料についての散布図を示す。
【図12】図12は、モデル3を使った、アルツハイマー病患者試料およびパーキンソン病患者試料についての散布図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、血小板タンパク質モノアミンオキシダーゼ‐B、凝固第XIIIa因子、α‐トロポミオシン、β‐トロポミオシン、WD‐リピートタンパク質1およびアポリポタンパク質E4(ApoE4)の発現が、年齢および性別が一致する健常対照者と比較して、アルツハイマー病患者において著しく変わるという驚くべき認識に基づく。したがって、これらの血小板タンパク質は、該疾患のバイオマーカーとして機能する。更に、wtGSTO‐1(140位がアラニン)がApoE4対立遺伝子を1つももたないアルツハイマー病患者において過剰出現し、一方、wtGSTO‐1は、ApoE4陽性のアルツハイマー病患者では、過少出現することが見いだされた。
【0015】
本発明は、患者におけるアルツハイマー病の診断を支援する生体外における方法であって、患者からの血小板試料におけるモノアミンオキシダーゼ‐B、凝固第XIIIa因子、全トロポミオシン(αおよびβ)、WD‐リピートタンパク質1ならびにApoE4から選ばれる、少なくとも4つの血小板タンパク質の発現量を測定する工程、ならびに総発現量(標準存在量として測定される)を対照値と比較する工程を含み、対照値より高い結
果がアルツハイマー病の指標となる方法を提供する。したがって、対照値より高い結果を使って、アルツハイマー病陽性であると診断することができる。
【0016】
本発明の方法を、ミニメンタルステート試験(MMSE)スコアおよび医師との相談などの他の方法と併せて、アルツハイマー病の診断を支援するために使用することができる。
【0017】
本明細書で使用する場合、「患者」という用語は、アルツハイマー病を有すると疑われる哺乳類、好ましくはヒト、または該疾患に対する素因を有すると思われる人を指す。
【0018】
好ましい実施形態では、試料材料は単離した血小板溶解物であり、それは例えば標準的な静脈切開技法を使うことによって得られる。
【0019】
「アイソフォーム」という用語は、本願明細書において、別のタンパク質として等価の機能をもち、類似または同一の配列であるが異なる遺伝子によりコードされるタンパク質として定義される。
【0020】
本明細書で使用する場合、「遺伝子産物」という用語は、遺伝子の転写によって生ずるmRNAまたはタンパク質生成物を指す。
【0021】
本明細書で使用する場合、「発現量(発現レベル)」という用語は、試料として採取した血小板中の特定のタンパク質(またはそのタンパク質をコードするmRNA)の量を指す。タンパク質発現量を測定する技術は、当業者に明らかであると思われ、バイオチップアレイ技術または2D DIGE(ディファレンシャルゲル二次元電気泳動)の使用が挙げられる。
【0022】
好ましくは、特定の血小板タンパク質の発現量を、「標準存在量」の点から定量し、それは、血小板タンパク質の濃度における自然のばらつきを考慮に入れる数値を提供する。標準存在量の値は、公知の対照値との比較を可能にする。
【0023】
「末梢バイオマーカー」という用語は、血小板中に末梢的に存在するタンパク質として定義され、そのタンパク質の末梢性発現における変化は、CNSにおける病理的に著しい変化を反映し、そのような変化はアルツハイマー病の病理学に関連する。
【0024】
本明細書で使用する場合、「GSTO‐1」という用語は、EC 2.5.1.18として特定され、UniProtKB/SwissProtプライマリーアクセッション番号P78417(配列第2版)を有するタンパク質、またはその変異体およびアイソフォームを指す。
【0025】
本明細書で使用する場合、「モノアミンオキシダーゼ」または「MAO」という用語は、EC 1.4.3.4として特定され、モノアミンの酸化を触媒する酵素であるタンパク質を指す。ヒトでは、MAOの2つの形があり、MAO‐Aは、UniProtKB/SwissProtプライマリーアクセッション番号P21397を有し、MAO‐Bは、UniProtKB/SwissProtプライマリーアクセッション番号P27338を有する。双方とも、ニューロンおよび星状膠細胞に存在する。MAO‐Aは、肝臓、消化管および胎盤にも存在し、一方、MAO‐Bは、血小板に見いだされる。
【0026】
本明細書で使用する場合、「凝固第XIIIa因子」という用語は、UniProtKB/SwissProtプライマリーアクセッション番号P00488を有し、ヒトでは、F13A1遺伝子によりコードされるタンパク質を指す。凝固第XIIIa因子は、凝
固第XIII因子の触媒的活性のあるサブユニットであり、血液凝固カスケードにおいてフィブリン塊を安定化する働きをする。
【0027】
トロポミオシンは、アクチンの機械的構造を調節するアクチン‐結合タンパク質である。2つのトロポミオシン鎖は、集合して平行で重なり合ったコイルドコイル二量体を構築する。トロポミオシンアルファはヒトではTPM1遺伝子によりコードされ、UniProtKB/SwissProtプライマリーアクセッション番号P09493を有する。トロポミオシンベータはヒトではTPM2遺伝子によりコードされ、UniProtKB/SwissProtプライマリーアクセッション番号P07951を有する。本発明の方法のために、α‐トロポミオシンおよびβ‐トロポミオシンの標準存在量を合わせて、のちにアッセイに使用する「全トロポミオシン」の値を得る。
【0028】
本明細書で使用する場合、「WD‐リピートタンパク質1」という用語は、UniProtKB/SwissProtプライマリーアクセッション番号075083を有するタンパク質を指す。WD‐リピートタンパク質1(アクチン相互作用タンパク質1としても知られている)は、ADF/コフィリンファミリータンパク質と共にアクチンフィラメントの分解を誘導する働きをする、真核生物で高度に保存されたタンパク質である。
【0029】
「ApoE」という用語は、アポリポタンパク質Eの略称である。ApoE2、E3およびE4として知られているApoEの3つ主なアイソフォームがあり、それぞれ対立遺伝子、ε2、ε3およびz4でコードされる。ApoE3は最も一般的なアイソフォームである。ApoE4は、遅発性アルツハイマー病と関連していることが知られており、ε4対立遺伝子の2つのコピーを有することは、その対立遺伝子を1つ有するかまたは有さない場合より該疾患を発症する危険がより大きいことを示す。したがって、アルツハイマーの患者は、ApoE4および非ApoE4患者として分類される。
【0030】
表1で詳説されるように、GSTO‐1遺伝子型分布は、ApoE3およびApoE4遺伝子型に依存し、非ApoE4アルツハイマー病患者およびパーキンソン病患者において著しく変わる。一般の集団における野生型(WT)GSTO‐1の通常の分布は、約40%であり、一方、73%の非ApoE4アルツハイマーの患者および71%の非ApoE4パーキンソンの患者がWT GSTO‐1を有することが判明している。したがって、アルツハイマー病のリスクは、GSTO‐1表現型または遺伝子型分析を組み合わせてApoE4表現型または遺伝子型分析を使って決定される。
【0031】
【表1】

【0032】
したがって、野生型GSTO‐1は、非ApoE4患者において有用なアルツハイマー病の末梢バイオマーカーであり、表1に示すように、それによって、アルツハイマー病とパーキンソン病との間の識別をつけることができる。
【0033】
本発明の発明者らは、少なくとも4つのアルツハイマー病のバイオマーカーを組み合わせて使用することが、単一のバイオマーカー分析と比べて、より正確な診断を提供することを見いだした。したがって、本発明は、
(i)患者からの血小板試料中の、モノアミンオキシダーゼ‐B、凝固第XIIIa因子、全トロポミオシン(αおよびβ)、WD‐リピートタンパク質1ならびにApoE4から選ばれる少なくとも4つの血小板タンパク質の発現量を測定する工程;ならびに、
(ii)(i)の結果を対照値に比較する工程、
を含むアルツハイマー病の診断を支援する生体外における方法であって、対照値より高い結果がアルツハイマー病の指標となる生体外における方法を提供する。
【0034】
好ましい実施形態では、本発明の方法の工程(i)は、野生型または変異型GSTO‐1いずれかの発現量を測定することをさらに含む。どちらの型のGSTO‐1をアッセイに含むかに関する判断は、患者のゲノム中のApoE4対立遺伝子の数を参照してなされる。したがって、本発明の方法の好ましい実施形態は、ApoE4対立遺伝子の数を測定することをさらに含む。患者が1または2つの対立遺伝子をもつ場合、変異型GSTO‐1の発現量を測定する。患者がApoE4対立遺伝子をもたない場合、野生型GSTO‐1の発現量を測定する。
【0035】
好ましい実施形態では、各血小板タンパク質の発現量は、タンパク質量を正確に測定するタンパク質アッセイを用いて測定する。
【0036】
好ましい実施形態では、各血小板タンパク質の発現量を、バイオチップアレイを使って測定する。固定化されたリガンドと形成した検出可能な相互作用によって試料中に存在するタンパク質を同定するように、その表面に固定化された、検出すべき血小板タンパク質のリガンドを有するバイオチップを、患者の血小板細胞溶解物試料と接触させ、次にバイオチップの表面を洗浄する。
【0037】
ApoE4遺伝子型判定をタンパク質発現量にて行うために、ApoE4タンパク質量および全ApoE量の双方を測定する必要がある。
【0038】
バイオマーカー統計分析の標準的な方法は、さまざまな群におけるバイオマーカー量に比較して、群の間で著しく異なる濃度のバイオマーカーを明らかにするために、一変量法を使用することである。
【0039】
本発明の方法における使用に選択した個々のバイオマーカーを、受信者動作特性(ROC)分析により分析する。それは、テストの感度(すなわち、真陽性の数)および特異性(すなわち、偽陽性の数)の双方を扱うので、ROC曲線は診断テストの精度を評価する好ましい方法である。高感度および高特異性(感度および特異性の両方に関して約80%が診断分野において一般に認められた値である)を与える1つ(または複数)のバイオマーカーが、ロジスティック回帰式の基準を形成する。バイオマーカーのタンパク質濃度の測定値をロジスティック回帰式に入力し、アルツハイマー病の診断を支援するために使用することができる最終的な値を得る。
【0040】
複数のバイオマーカーについてROC曲線を作成するために、患者の試料における各バイオマーカーのタンパク質濃度測定値をロジスティック回帰式に入力することによって、目的のバイオマーカーの組合せに関する式を導く。
【0041】
当発明にとってロジスティック回帰式が好ましい統計の方法ではあるが、他の従来の統計方法を使用することができる。
【0042】
例として、2つの仮想的検体、AおよびBを考えたとき、検体Aおよび検体Bについて導いたロジスティック回帰式は、
y=3.2027×log[A]−0.9506×log[B]+0.1548、であ
り、
式中、患者試料における、[A]は検体Aの測定濃度、および[B]は検体Bの測定濃度Bである。
【0043】
yがROC曲線で導いたカットオフ値を超える場合、患者におけるアルツハイマー病の診断を支持する。yがカットオフ値未満の場合、アルツハイマー病の診断を支持しない。
【0044】
「対照値」および「カットオフ」という用語は、本願明細書において、互換可能的に使用され、本発明の方法にしたがって患者試料について得られた値を、アルツハイマー病の診断を支援するために比較する基準値を指す。
【0045】
対照値を得るために、本発明の方法の工程(i)に列挙されている血小板タンパク質の発現量を、健常な人の集団の試料から測定する。次に、単一のカットオフ値を得るために、ROC曲線分析および線形回帰の統計ツールをその結果に適用する。
【0046】
カットオフ値が対照集団の大きさによって異なることは理解されるであろう。対照集団内の生物学的なばらつきは、集団の大きさを増加させることによって減少する。したがって、対照値は、少なくとも30人の健常人、好ましくは、少なくとも50人の健常人、より好ましくは、少なくとも100人の健常人を含む対照集団から導かれることが好ましい。
【0047】
本発明の方法のさらなる実施例は、アルツハイマー病の診断のための4つの異なるモデルを提供し、これらを表2にまとめる。モデル1は、単一のアルゴリズムを含む。モデル2、3および4は、各々、2つのアルゴリズムを含み、ApoE4遺伝子型の存在または非存在に依存して選択される。所与の患者試料に対して最も適切なアルゴリズムを選択するための判断プロセスを図1に図示する。
【0048】
モデル1
モデル1は、ApoE4の存在に依存しないアルゴリズムAに基づく(すなわち、患者が0、1または2つのApoE4対立遺伝子を有するかどうかにかかわらず、このアルゴリズムを適用することができる)。「X」で指し示したアッセイの測定値の結果を合わせて加算する。
【0049】
本明細書において記載されている4つのモデルの各々について、加重係数を各バイオマーカーの発現値に適用することができ、これらの値は、異なるバイオマーカーに対して違ってよく、アッセイがバイオチップまたは2D DIGEを使ってなされているかどうかに依存して違ってよい。
【0050】
その最も単純な形態では、すべてバイオマーカーに対して、1の加重係数を使って、テスト対象の結果を以下の計算を適用することにより、モデル1を使って決定することになる:
1×標準存在量(Mao‐B)+1×標準存在量(全トロポミオシン)+1×標準存在量(凝固第XIIIa因子)+1×標準存在量(wtGSTO‐1)+1×標準存在量(ApoE4)。
【0051】
次に、その結果を対照値と比較する。対照より高い結果は、患者におけるアルツハイマー病の指標となる。
【0052】
モデル2
モデル2は、非ApoE4アルツハイマー病患者におけるwtGSTO‐1の過剰出現
を考慮する2つの異なるアルゴリズムを使用する。それぞれのアルゴリズムの使用は、患者におけるApoE4の存在または非存在に依存し、それによって、非ApoE4患者におけるwtGSTO‐1の過剰出現を考慮する。ApoE4対立遺伝子が患者試料にない場合、アルゴリズムAを使用する。そうでなければ、アルゴリズムBを使用する。モデル1について上記で説明したように、加重係数を、各バイオマーカーの標準存在量に適用することによって結果を得る。
【0053】
モデル3
モデル3もまた、2つの異なるアルゴリズムを使用する。モデル2と同様に、患者のゲノムにApoE4対立遺伝子がない場合、アルゴリズムAを適用する。患者が1または2つのApoE4対立遺伝子をもつ場合、アルゴリズムCを適用する。モデル1に関して上で説明したように、加重係数を、各バイオマーカーの標準存在量に適用することによって結果を得る。
【0054】
モデル4
モデル4は、患者のゲノムにおけるApoE4の存在または非存在に依存して、異なるアルゴリズム(すなわち、DまたはE)を使用するという点で、モデル2および3に類似している。しかしながら、モデル4は、追加のバイオマーカーであるWD‐リピートタンパク質1を含む。モデル1、2、3または4のアルゴリズムを使って計算して得られた値を、疾患の診断を支援するために、所定の対照値と比較する。どのように対照値を決定しうるかの説明を実施例1に提供する。
【0055】
【表2】

【0056】
また、上記のモデル1〜4に記載されているアルゴリズムの各々は、患者のゲノムに存在するApoE4対立遺伝子の数に基づいて加重係数を含むこともできる。患者が1または2つのApoE4対立遺伝子を持つ場合、それぞれ、+1または+2の値を、所与のア
ルゴリズムに含まれている血小板タンパク質のすべてについて、全標準存在量値に加算する。次に、得られた値を、診断をつけるために対照と比較する。あるいは、患者がApoE4対立遺伝子をもたない場合、追加の加重係数は、全標準存在量値に加算されない。
【0057】
本発明によれば、単離した血小板試料中の各々のバイオマーカーの総発現量を対照値と比較することによって、アルツハイマー病の診断を支援することができる。疾患の診断を、臨床観察および患者の病歴などの他の因子と組み合わせて、ならびに患者の以前のアッセイ結果を参照することにより達成してもよい。
【0058】
しかしながら、血小板は血液中で濃縮の程度が異なっているため、血小板タンパク質の濃度もまた多様である。血小板が豊富な血漿およびゲル濾過された血小板中の血小板濃度に関する変動係数は、それぞれ、38%および32%であり、血小板数と血小板濃度との相関関係は乏しい(血小板数による血小板バイオマーカーの分析正規化に関してK=0.58)。これによって、血液試料中の血小板タンパク質の濃度は脳における病理学的な変化の測定に信頼できない指標となり、血小板タンパク質濃度を正規化するさらなる工程が必要とされる。
【0059】
したがって、本発明は、「標準存在量」の点から血小板タンパク質の発現の正確な定量をすることができる内部抽出標準を利用する。
【0060】
好ましい実施形態では、内部抽出標準は、ヒト血小板プロテオームから導かれ、血小板溶解物の患者試料、または対照試料中に存在する。
【0061】
本明細書で使用する場合、「低い生物学的なばらつき」という用語は、0.18より少ない変動係数(CV)値をもつ細胞抽出タンパク質を指す。
【0062】
本明細書で使用する場合、「自然の生物学的なばらつきを正規化する」という用語は、サンプル間のより高い自然のばらつきをもつタンパク質の濃度を正確に決定することができる、サンプル間でごくわずかに異なるタンパク質の濃度に対応する基準値の使用を指す。
【0063】
内部抽出標準の候補タンパク質を、バイオインフォマティクス分析、質量分析および2D PAGEを使って、110人の血小板プロテオーム内で908の異なるタンパク質の生物学的なばらつきを分析することにより特定した。pH4〜7の範囲のゲル上で特定された低い生物学的なばらつきをもつ候補を表3に列挙する。pH6〜9の範囲のゲル上で特定された低い生物学的なばらつきをもつ候補を表4に列挙する。
【0064】
【表3】

【0065】
【表4】

【0066】
したがって、本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様の方法に包含される1つ以上の血小板タンパク質の発現量における生物学的なばらつきを正規化するための、表3または4に列挙されている1つ以上のタンパク質の使用に関する。
【0067】
好適なタンパク質を、それらのSwissProtプライマリーアクセッション番号に従って特定できる。そのSwissProtアクセッション番号は、各タンパク質をコードするmRNA産物を特定する。
【0068】
UniProtKB/SwissProtタンパク質知識ベース(knowledgebase)は、SwissProtおよびUniProt知識ベースタンパク質データベースの合併により設立された、注釈付きタンパク質配列データベースである。それは、スイスバイオインフォマティクス研究所(SIB)、欧州バイオインフォマティクス研究所(EBI)および国立生物医学研究財団によって、協力して維持されている。本明細書において参照されるUniProtKB/SwissProtの公開は、2008年4月8日付けのv55.2であり、http://expasy.org/sprotにてアクセスすることができる。
【0069】
このmRNAに由来するタンパク質のすべて、すなわち、変異型および翻訳後修飾型すべてが本発明の範囲内である。
【0070】
本発明の好ましい実施形態では、内部抽出標準タンパク質は14‐3‐3タンパク質ガンマである。
【0071】
本発明の第3の態様は、モノアミンオキシダーゼ‐B、凝固第XIIIa因子、トロポミオシン(αおよびβ)、WD‐リピートタンパク質1ならびにApoE4から選択され
る、血小板タンパク質が少なくとも固定化された、個別のテスト領域を含む固体担体を含むバイオチップを提供する。好ましい実施形態では、その固体担体は、表3または表4に特定された1つ以上のタンパク質の、固定化されたリガンドをさらに含む。好ましくは、固体担体は、野生型GSTO‐1、変異型GSTO‐1およびアポリポタンパク質Eのうちの、1つ以上のリガンドをさらに含む。
【0072】
本発明のバイオチップの使用は、迅速で、正確で、使い易い形式で、患者試料の多検体スクリーニングを可能にする。多検体方法は、時間およびコスト削減を超える利点があり、それは、効率の増加および臨床成績の向上へ向かって進むにあたり不可欠である。従来の診断は、通常、幾つかは必要であるものの、単検体アッセイの形をとり、よって、試料量を増加させ、場合により、複数回の患者の検査受診(attendance)を必要とし、診断までの時間が増加する。多検体アッセイは、アッセイすべてが、単一の患者試料を使って行われるので、患者の不快感を減らし、患者からの複数の試料採取を必要のないものにする。
【0073】
本明細書で使用する場合、「リガンド」という用語は、標的に結合する分子を指す。本発明のバイオチップのリガンドは、抗体、抗原または核酸であってよい。
【0074】
表2から理解されることができるように、アルゴリズムAの適用は、バイオチップがモノアミンオキシダーゼ‐B、凝固第XIIIa因子、α‐トロポミオシン、β‐トロポミオシン、アポリポタンパク質E4、アポリポタンパク質Eおよび野生型(wt)GSTO‐1に対するリガンドを含むことを必要とする。アルゴリズムBの適用は、バイオチップが、モノアミンオキシダーゼ‐B、凝固第XIIIa因子、α‐トロポミオシン、β‐トロポミオシン、アポリポタンパク質E4、アポリポタンパク質Eのみに対するリガンドを含むことを必要とする。アルゴリズムCの適用は、バイオチップが、モノアミンオキシダーゼ‐B、凝固第XIIIa因子、α‐トロポミオシン、β‐トロポミオシン、アポリポタンパク質E4、アポリポタンパク質Eおよび変異型(mt)GSTO‐1に対するリガンドを含むことを必要とする。アルゴリズムDおよびEの適用は、バイオチップが、モノアミンオキシダーゼ‐B、凝固第XIIIa因子、α‐トロポミオシン、β‐トロポミオシン、アポリポタンパク質E4、アポリポタンパク質Eならびに野生型(wt)GSTO‐1(アルゴリズムDのみ)および変異型(mt)GSTO‐1(アルゴリズムEのみ)に対するリガンドを含むことを必要とする。
【0075】
(wt)GSTO‐1および(mt)GSTO‐1についての遺伝子型判定データのみが、モデルに含まれている場合、野生型(wt)GSTO‐1および変異型(mt)GSTO‐1についてのアッセイは互換可能である。タンパク質発現量を介しての遺伝子型判定が考えられる場合も、野生型(wt)GSTO‐1および変異型(mt)GSTO‐1についてのアッセイは同様に互換可能である。しかしながら、該モデルは、それぞれのタンパク質濃度を使用する場合に、より良く機能するので、遺伝子型判定データのみの使用は、診断の正確さの減少をもたらすことになる。
【0076】
本発明による患者試料中の特定の血小板タンパク質の発現は、標準存在量の点から、好ましくはバイオチップアレイ系を使って定量される。試料中に存在するタンパク質が、バイオチップ表面上に固定されたリガンドと形成される相互作用によって特定されるように、本発明のバイオチップを、患者の血小板細胞溶解物試料と接触させ、次に、その表面を洗浄する。リガンド‐タンパク質相互作用は、電荷結合素子(CCD)超冷却カメラなどの画像(処理)システムを使って、迅速に検出および分析可能な化学発光信号を生じ、個々の検体を同時に定量する。バイオチップへの試料の添加およびそれに続く洗浄、インキュベーションおよび信号試薬工程は、完全自動化、または用手適用によってのいずれでもよい。血小板タンパク質発現測定の結果は、2つの連続した正規化手順を経る。第一の手
順は、背景補正、参照スポットおよび補正スポット検証などの、バイオチップアレイ系を用いて得られた信号の技術的なばらつきの補正のための手順にかかわる。
【0077】
未知試料の信号を校正曲線と比較することによって、未知試料のタンパク質濃度を得る。全血中および単離された試料中の血小板濃度は、個人間で異なり、それ故に、試料中のADバイオマーカータンパク質濃度に影響を及ぼす。したがって、第2の標準化手順であるアルツハイマー病バイオマーカーの標準存在量の計算が必要である。(表3および4から選択される)1つ以上の内部抽出標準タンパク質を、アルツハイマー病バイオマーカーと同時に測定する。標準存在量値は、アルツハイマー病バイオマーカーの発現量と内部抽出標準または複数の内部抽出標準の合計との比に相当する。
【0078】
あるいは、発現量を、2D DIGE分析を使って、DeCyderソフトウエア6.5(GE ヘルスケア)などのソフトウエアを使ってゲル上の対応するスポットの標準存在量を計算して決定することができる。
【0079】
2D DIGE系でも、タンパク質の標準存在量を得るために使用される2つの連続した手順がある。第1の手順(正規化)は、第1のゲルおよび第2のゲルイメージの間のスポット比からデータヒストグラムを計算することによる正規化係数の計算にかかわる。正規分布曲線をヒストグラムに合わせ、得られたモデル曲線の中央が正規化係数である。次に、正規化係数:
C’:V1i’=V1i×10C’(ii)
を使って、第1のスポットマップ中のスポット体積を正規化する。
式中、V1i’は、第1のゲル像中のスポットiの正規化された体積;及およびV1iは第1のゲル画像中のスポットiの体積である。
【0080】
第2の手順は、通常は研究においてテストする試料すべての集まりであり、各二次元DIGEゲル上に存在する、内部標準の使用にかかわる。異なるゲルからの各標準像について標準化された量比を値1.0に設定する。次に、各試料スポットについての発現比を、同じゲル内の、その対応する標準スポットに関連付け、よって、異なるゲルにおける一致したタンパク質スポット間の比を比較することを可能にする。
【0081】
得られた標準存在量値は、何倍変化したかで表わされる、正規化されたタンパク質スポット量と正規化された内部標準スポット量との比である。
【0082】
グラフ表示および統計分析において尺度を変える助けをするために、標準化された値のLog10を使用することによって上述の計算を修正することができる。
【0083】
以下の非限定的実施例は、本発明の態様を説明する。
【実施例】
【0084】
実施例1:単一バイオマーカーアッセイおよび3、4および5つのアルツハイマー病の診断のためのバイオマーカーを含むアッセイの分析
試料を2つの段階で採集し、発見セットおよび検証セットに分けた。各血小板タンパク質の標準的な存在量を2D‐DIGEを使って測定し、各バイオマーカーについての最適カットオフ、実際のカットオフ、感度および特異性の値を得るために、ROC曲線を作成した。これら単一タンパク質アッセイの各々についての結果を表5に示す。
【0085】
【表5】

【0086】
アルツハイマー病の診断における基準値として使用するためのカットオフ(対照)値を得るために、3つおよび4つバイオマーカーの組み合わせを同時にアッセイするアルゴリズムを開発した。これらのアルゴリズムを表6にまとめる。
【0087】
【表6】

【0088】
理論的な閾値を全値が陽性AD診断を表すより上に設定した。各アルゴリズムについて計算された値を理論的な閾値と比較し、閾値より高い結果をアルツハイマー病の陽性診断に対応させた。次に、これらの診断を、2つの試験群(AD群および対照群)からの実際の診断と比較した。この比較から、偽陽性および偽陰性を決定し、特異性および感度の値を計算した。ROC曲線の各点は、特定の特異性および感度をもつ閾値(対照値)に対応する。
【0089】
全ROC曲線を得るために、理論的な閾値の値を連続的に増加し、各々の閾値についての特異性および感度を決定した。
【0090】
グラフの左上角に最も近いROC曲線の点が、最適カットオフ、即ち最も高い感度および特異性に対応する。ROC曲線上のその左上角(0,1)から各点の距離を、次式を使って計算した。
【0091】
【数1】

【0092】
もっとも低い距離の値をもつ点が、最良の特異性および感度をもつ対照値に対応する。ROC曲線から導かれた結果を表7に示す。
【0093】
最終的に、モデル1〜4のアルゴリズムを考案した。これらは、本発明の7つのバイオマーカーの発現を考慮に入れている(表2を参照のこと)。
【0094】
ROC曲線をこれらバイオマーカーの組合せについて作成し、得られた散布図から、対照値を計算した(図2〜4を参照のこと)。くわえて、モデル2および3は、野生型GSTO‐1が、APOE4対立遺伝子を1つも持たないアルツハイマー病患者では、過剰出現する一方で、wtGSTO‐1はAPOE4陽性のアルツハイマー病患者では、過少出現するという知見を考慮に入れている。
【0095】
モデル1〜3についての結果を表8に示す。データを評価する際、最も正確な分析を表すので、ROC曲線下の面積(AUC)の高い値、ならびに高い特異性値および高感度値が望ましい。「実際のカットオフ」の値はマーカーで塗られており(highlighted);これらは、アルツハイマー病の診断のための本発明の方法において使用した対照値である。
【0096】
表8の結果を見てもわかるように、モデル3が最も高いAUC値(0.949)を有し、最も正確なアッセイである。モデル3は、GSTO‐1遺伝子型に関してApoE4陽性とApoE4陰性AD患者との間の違いを考慮に入れているので、モデル1より良い結果を生むと思われる。
【0097】
モデル3では、アルゴリズムAをApoE4陰性テスト対象に対して使用するのみである。ApoE4陽性対象を診断するために、ApoE4陽性テスト対象により良く適合する第2のアルゴリズムが必要とされる。したがって、モデル3には2つのアルゴリズム(AよびC)があり、それぞれを、テスト対象の特定の群(ApoE4陰性試験者またはApoE4陽性試験者)に対してのみ使用し、それによって、AD診断法の正確さが上がる。
【0098】
モデル4はアルゴリズムDおよびE(それぞれ、ApoE4陰性およびApoE4陽性)を含む。これらのアルゴリズムは、血小板タンパク質WD‐リピートタンパク質1が含まれるという点でA〜Cとは異なる。8.1のカットオフ値を使って導かれた、各タンパク質についての加重係数を表9に示す。そのROC曲線(AUC)を図5に示す。
【0099】
【表7−1】

【0100】
【表7−2】

【0101】
【表8−1】

【0102】
【表8−2】

【0103】
【表9】

【0104】
しかしながら、これらのモデルおよびアルゴリズムは、2D DIGEデータに対して
最適化され、本発明を限定するよりはむしろ、例示的に説明するために、本明細書に提示されていることに注意しなければならない。バイオチップデータに対して最適化されたモデルおよび最適化されたアルゴリズムは、2D DIGEデータとは異なる。モデルの原理は、同じままでありうるが、特定のADバイオマーカーの加重は異なる可能性が非常に高いであろう。
【0105】
実施例2:内部抽出標準タンパク質としての14‐3‐3ガンマの選択
24人のアルツハイマー病患者、および24人の性別および年齢が一致した対照からの12.5μgの血小板タンパク質を、1D ウェスタンブロットで分析した。結果を図6に図示し、その図は14‐3‐3ガンマの信号(シグナル)の強度は、すべての試料において等しいのに対して、Mao‐Bの信号は、アルツハイマーの患者からの血小板試料のほうが、対照試料より強いことを示す。図7に示すように、全く正規化することなしに12.5μgの血小板タンパク質のMoa‐B信号を測定すると、低い有意性(P<0.01)の増加しか、アルツハイマーの試料中に検出されない。しかしながら、14‐3‐3ガンマを用いて正規化をした後、有意性はP<0.00000007に増加し、このことは、試料中でタンパク質を定量することができる精度が、内部抽出標準の適用で大幅に増加することを示す。
【0106】
図8は、内部抽出標準としてERK2を適用した代表的なウェスタンブロットを示す。14‐3‐3ガンマおよびERK2についての信号はすべての血小板試料で変わりがないのに対し、アルツハイマーの患者の血小板におけるMao‐B発現についての信号は、対照試料と比較してより強い。
【0107】
実施例3:GSTO‐1におけるアルツハイマー病ポリモーフィズムの検証
2Dゲル電気泳動分析は、6.19、5.87および5.64のpI値をもつ3つのGSTO‐1アイソフォームを明らかにした(図9)。これらのアイソフォームは、3つの群:AD患者、PD患者ならびに年齢および性別が一致した対照において異なる発現パターン示す。ゲルろ過した非ApoEアルツハイマーの患者の血小板試料は、pI6.19をもつGSTO‐1アイソフォームが著しく上方制御(35%の増加)され、一方、pI5.87をもつGSTO‐1アイソフォームが60%下方制御されることを明らかにした。
【0108】
図9の結果は、GSTO‐1のエクソン4における2つのミスセンスポリモーフィズム(Ala140AspおよびGlu155Δ)を表す。pI6.19をもつGSTO‐1スポットはWTに対応する。pI5.87をもつスポットは、Ala140がアスパラギン酸で置換されている(Ala140Asp)アイソフォームを表す。pI5.64をもつスポットは未知の起源の翻訳後修飾に関係している可能性がある。pI6.19およびpI5.87をもつGSTO‐1スポットの等しい発現は、それぞれ、野生型アイソフォームおよびAla140Asp置換を含むアイソフォームに対応する。pI5.87の唯一のスポットは、アミノ酸140位でのホモ接合型のアスパラギン酸/アスパラギン酸GSTO‐1遺伝子型を表す。あるいは、1つの対立遺伝子上でGlu155Δの欠失、およびもう一方の対立遺伝子上でAla140AspGSTO‐1遺伝子型をもつ個人に見られうる。Glu155Δ欠失をもつポリペプチドは、発現されないか、急激に分解されると思われるので、Asp140をもつポリペプチドのみが検出されることになる。
【0109】
実施例4:アルツハイマー病とパーキンソン病との識別
本発明の方法は、アルツハイマー病を患う患者パーキンソン病(PD)と患う患者とを識別するために使用することができ、表10は、AD試料とPD試料との比較を示す。
【0110】
図10は、アルツハイマー病患者の群(AD発見群)およびパーキンソン病患者の群に
ついての散布図を示す。この結果は、本発明の方法にしたがって、モデル1のアルゴリズムをパーキンソン病患者の群およびアルツハイマー病患者の群に由来する血小板試料に適用することによって得た。発見段階におけるアルツハイマー病患者についての算出平均は、6.92±1.25(SD)であり、パーキンソン病患者については5.00±0.74(SD)であった。カットオフを5.535に設定し、その値は、モデル1に関するアルツハイマー病発見セットにために決定されたカットオフ値である(図2aおよび2bを参照のこと)。得られた散布図をみてわかるように、2つの患者群からの結果の間に明らかな差異がある。
【0111】
同様に、図11は、アルツハイマー病患者の群(AD発見群)およびパーキンソン病患者の群についての散布図を示し、該散布図は、モデル2を2つの患者群に由来する血小板試料に適用することによって得た。発見段階におけるアルツハイマー病患者についての算出平均は、6.12±0.82(SD)であり、パーキンソン病患者については4.87±0.83(SD)であった。カットオフを5.405に設定し、その値は、モデル2に関するアルツハイマー病発見セットのために決定されたカットオフ値である(図3aおよび3bを参照のこと)。この場合もやはり、各患者群についての散布図上の点の分布の間に明らかな差異がある。
【0112】
図12は、アルツハイマー病患者の群(AD発見群)およびパーキンソン病患者の群についての散布図を示し、該散布図は、モデル3を2つの患者群に由来する血小板試料に適用することによって得た。発見段階におけるアルツハイマー病患者についての算出平均は、6.28±0.93(SD)であり、パーキンソン病患者については5.01±0.77(SD)であった。カットオフを5.535に設定し、その値は、モデル3に関するアルツハイマー病発見セットにために決定されたカットオフ値である(図4aおよび4bを参照のこと)。この結果は、本発明の方法の3つのモデルのすべては、アルツハイマー病とパーキンソン病との間を識別するための診断アッセイに適用できることを示している。
【0113】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)患者からの血小板試料中の、モノアミンオキシダーゼ‐B、凝固第XIIIa因子、全トロポミオシン(αおよびβ)、WD‐リピートタンパク質1およびアポリポタンパク質E4から選ばれる少なくとも4つの血小板タンパク質の発現量を測定すること;ならびに、
(ii)(i)の結果を対照値に比較すること、
を含む、患者におけるアルツハイマー病の診断を支援する生体外における方法であって、対照値より高い結果がアルツハイマー病の指標となる生体外における方法。
【請求項2】
(i)が野生型GSTO‐1または変異型GSTO‐1のいずれかの発現量を測定することをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(i)が患者のゲノムにおけるApoE4対立遺伝子の数を測定することをさらに含む請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
患者のゲノムにApoE4対立遺伝子がなく、請求項1の工程(i)がモノアミンオキシダーゼ‐B、凝固第XIIIa因子、全トロポミオシン(αおよびβ)および野生型GSTO‐1の発現量を測定することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
WD‐リピートタンパク質1の発現量を測定することをさらに含む請求項4に記載の方法。
【請求項6】
患者のゲノムに1つまたは2つのApoE4対立遺伝子があり、請求項1の工程(i)がモノアミンオキシダーゼ‐B、凝固第XIIIa因子および全トロポミオシン(αおよびβ)およびアポリポタンパク質E4の発現量を測定することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
変異型GSTO‐1の発現量を測定することをさらに含む請求項6に記載の方法。
【請求項8】
WD‐リピートタンパク質1の発現量を測定することをさらに含む請求項7に記載の方法。
【請求項9】
対照値より高い結果がアルツハイマー病の陽性診断に合致する前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
血小板タンパク質の発現における生物学的なばらつきが表3または表4に特定されている1つ以上のタンパク質の発現を基準とすることにより正規化される、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
生物学的なばらつきを正規化するために使用されるタンパク質が、14‐3‐3タンパク質ガンマである請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかの診断法に包含される1つ以上の血小板タンパク質の発現量における生物学的なばらつきを正規化するための、表3または表4に特定されている1つ以上のタンパク質の使用。
【請求項13】
表3または表4に特定されているタンパク質が、定量されるタンパク質として、同じ血小板試料中に存在する、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
表3または表4から選択されるタンパク質が14‐3‐3タンパク質ガンマである、請求項12または請求項13に記載のタンパク質の使用。
【請求項15】
モノアミンオキシダーゼ‐B、凝固第XIIIa因子、トロポミオシン(αおよびβ)、WD‐リピートタンパク質1およびApoE4から選ばれる少なくとも4つの血小板タンパク質の、担体上に固定された1つ以上のリガンドを含む固体担体。
【請求項16】
表3または表4に特定されている1つ以上のタンパク質の、担体上に固定された1つ以上のリガンドをさらに含む、請求項15に記載の固体担体。
【請求項17】
野生型GSTO−1タンパク質の1つ以上のリガンドをさらに含む請求項15または請求項16に記載の固体担体。
【請求項18】
変異型GSTO−1タンパク質の1つ以上のリガンドをさらに含む請求項15〜17のいずれかに記載の固体担体。
【請求項19】
アポリポタンパク質Eタンパク質の1つ以上のリガンドをさらに含む請求項15〜18のいずれかに記載の固体担体。

【図1】
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【図1B】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図4d】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2013−513103(P2013−513103A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541582(P2012−541582)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【国際出願番号】PCT/GB2010/052023
【国際公開番号】WO2011/067610
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(512145734)ランドックス ラボラトリーズ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】