説明

アルデヒドの製造方法、触媒及びその製造方法

【課題】高い選択性及び高い転化率をもって、一級アルコールの酸化によりアルデヒドを製造する方法を提供すること。
【解決手段】架橋性官能基を含む側鎖を有するスチレン系高分子の架橋性官能基を架橋させてなる担体と、担体に担持された金−白金のナノサイズクラスター及びカーボンブラックとを有する触媒の存在下、一級アルコールの酸化によりアルデヒドを得る工程を備えることを特徴とするアルデヒドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一級アルコールの酸化によりアルデヒドを製造する方法、並びに当該製造方法に好適に使用される触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金ナノサイズクラスターを触媒として用いる酸素酸化反応は1989年Harutaらによって、低温一酸化炭素酸化反応において非常に高活性であると報告された(非特許文献1)。
【0003】
一方、酸素を酸化剤として用いた金属触媒によるアルコールのアルデヒド、ケトン、カルボン酸への酸化反応は、ルテニウムやパラジウム触媒等を用いる例が、均一系触媒、固相触媒ともに多数報告されている。また、近年、金クラスターを触媒として用いる例も多数報告されている(非特許文献2)。
【0004】
本願発明者らは、マイクロカプセル化法を用いてスチレン系高分子に遷移金属ナノサイズクラスターを担持することにより、パラジウムや白金に於いて非常に高活性な触媒の製造ができることを見出してきた(非特許文献3〜4、特許文献1)。また、金触媒についても、酸化反応でカルボニル化合物が生成することが報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2005/085307
【特許文献2】特開2007−237116号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Catal.1989,115,301−309.
【非特許文献2】Chem.Rev.2004,104,3037−3058.
【非特許文献3】J.Am.Chem.Soc.2005,127,2125−2135.
【非特許文献4】Synlett 2005,813−816.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまで、金クラスターを触媒として用いる例が多数報告されているが、適用可能な基質が限られていることや、選択性が悪いといった問題点が残っている。
【0008】
本発明は、高い選択性及び高い転化率をもって、一級アルコールの酸化によりアルデヒドを製造する方法、並びに、当該製造方法に好適に使用される触媒及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、架橋性官能基を含む側鎖を有するスチレン系高分子の該架橋性官能基を架橋させてなる担体と、該担体に担持された金−白金のナノサイズクラスター及びカーボンブラックとを有する触媒の存在下、一級アルコールの酸化によりアルデヒドを得る工程を備えることを特徴とするアルデヒドの製造方法を提供する。
【0010】
本発明のアルデヒドの製造方法においては、上記スチレン系高分子が上記架橋性官能基としてエポキシ基及び水酸基を含むことが好ましい。
【0011】
本発明のアルデヒドの製造方法においては、上記工程を塩基の非存在下で行うことができる。
【0012】
また、本発明のアルデヒドの製造方法においては、上記工程を塩基の存在下で行うことができる。
【0013】
上記スチレン系高分子は、下記式(1)で表される重合性単量体と、下記式(2)で表される重合性単量体と、下記式(3)で表される重合性単量体との重合体であることが好ましい。
【化1】


【化2】


【化3】

【0014】
本発明は、架橋性官能基を含む側鎖を有するスチレン系高分子の該架橋性官能基を架橋させてなる担体と、該担体に担持された金−白金のナノサイズクラスター及びカーボンブラックとを有することを特徴とする触媒を提供する。
【0015】
また、本発明は、1価又は3価の金化合物及び2価又は4価の白金化合物を、架橋性官能基を含む側鎖を有するスチレン系高分子及びカーボンブラックを含む溶液中で還元剤により還元する第1の工程と、上記溶液に、上記スチレン系高分子に対する貧溶媒を加えて相分離させることにより金−白金のナノサイズクラスター及び上記カーボンブラックをスチレン系高分子に担持する第2の工程と、上記第2の工程の後で上記スチレン系高分子の上記架橋性官能基を架橋させる第3の工程と、を経て、架橋性官能基を含む側鎖を有するスチレン系高分子の該架橋性官能基を架橋させてなる担体と、該担体に担持された金−白金のナノサイズクラスター及びカーボンブラックとを有する触媒を得ることを特徴とする触媒の製造方法を提供する。
【0016】
上記スチレン系高分子の重量平均分子量は1万〜15万であることが好ましい。
【0017】
また、上記第3の工程において、上記スチレン系高分子の上記架橋性官能基を加熱により架橋させることが好ましい。
【0018】
また、上記還元剤は、水素化ホウ素化合物、水素化アルミニウム化合物又は水素化ケイ素化合物であることが好ましい。
【0019】
また、上記金化合物は、ハロゲン化金又はハロゲン化金のトリフェニルホスフィン錯体であることが好ましい。
【0020】
さらに、上記白金化合物は、ハロゲン化白金又はハロゲン化白金のトリフェニルホスフィン錯体であることが好ましい。
【0021】
また、上記金化合物はAuCl(PPh)であることが好ましく、上記白金化合物はNaPtClであることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高い選択性及び高い転化率をもって、一級アルコールの酸化によりアルデヒドを製造する方法、並びに、当該製造方法に好適に使用される触媒及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例4〜9において反応に用いた流通系装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0025】
本実施形態に係る触媒は、架橋性官能基を含む側鎖を有するスチレン系高分子の該架橋性官能基を架橋させてなる担体と、該担体に担持された金−白金のナノサイズクラスター及びカーボンブラックとを有する。
【0026】
また、本実施形態に係る触媒の製造方法は、1価又は3価の金化合物及び2価又は4価の白金化合物を、架橋性官能基を含む側鎖を有するスチレン系高分子及びカーボンブラックを含む溶液中で還元剤により還元する第1の工程と、上記溶液に、上記スチレン系高分子に対する貧溶媒を加えて相分離させることにより金−白金のナノサイズクラスター及び上記カーボンブラックをスチレン系高分子に担持する第2の工程と、上記第2の工程の後で上記スチレン系高分子の上記架橋性官能基を架橋させる第3の工程と、を経て、架橋性官能基を含む側鎖を有するスチレン系高分子の該架橋性官能基を架橋させてなる担体と、該担体に担持された金−白金のナノサイズクラスター及びカーボンブラックとを有する触媒を得るものである。
【0027】
上記第1及び第2の工程で、金−白金のナノサイズクラスター及びカーボンブラックをスチレン系高分子に担持するには、1価又は3価の金化合物及び2価又は4価の白金化合物と、スチレン系高分子及びカーボンブラックとを、a)適当な極性の良溶媒に溶解し還元剤と混合した後適当な非極性の貧溶媒で凝集させる、又はb)適当な非極性又は低極性の良溶媒に溶解し還元剤と混合した後適当な極性の貧溶媒で凝集させる、ことにより行われる。金−白金クラスターはスチレン系高分子の芳香環との相互作用により担持される。
【0028】
尚、極性の良溶媒としてはテトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などがあり、非極性又は低極性の良溶媒としてはトルエン、ジクロロメタン、クロロホルムなどが使用できる。極性の貧溶媒としてはメタノール、エタノール、ブタノール、アミルアルコールなどがあり、非極性の貧溶媒としてはヘキサン、ヘプタン、オクタンなどが使用できる。
【0029】
金−白金クラスターを架橋性ポリマーに担持する際のポリマーの濃度は、用いる溶媒やポリマーの分子量によっても異なるが、約5.0〜200mg/mL、好ましくは10〜100mg/mlである。1価又は3価の金化合物は、ポリマー1gに対して、0.01〜0.5mmol、好ましくは0.03〜0.2mmol使用する。2価又は4価の白金化合物は、ポリマー1gに対して、0.01〜0.5mmol、好ましくは0.05〜0.2mmol使用する。還元剤は、還元に必要な量の1〜10当量使用するが、例えば1価の金化合物及び4価の白金化合物を、水素化ホウ素ナトリウムで還元する場合の水素化ホウ素ナトリウムは、金化合物及び白金化合物の0.5〜5倍モルが好適である。還元に必要な温度および時間は金化合物、白金化合物及び還元剤の種類によるが、通常は0℃〜50℃の間、好ましくは室温で、1〜24時間で行われる。相分離する際の貧溶媒は、良溶媒に対して1〜10(v/v)倍量、好ましくは2〜5倍量使用し、0.5〜5時間程度で滴下する。
【0030】
1価又は3価の金化合物としては、ハロゲン化金や、ハロゲン化金のトリフェニルホスフィン錯体が好ましい。特に、AuCl(PPh)が好ましい。
【0031】
2価又は4価の白金化合物としては、ハロゲン化白金や、ハロゲン化白金のトリフェニルホスフィン錯体が好ましい。特に、NaPtClが好ましい。
【0032】
カーボンブラックとしては、ケッチェンブラック等が挙げられる。
【0033】
還元剤としては、水素化ホウ素化合物、水素化アルミニウム化合物又は水素化ケイ素化合物、好ましくは水素化ホウ素ナトリウム又はボランを用いることができる。
【0034】
スチレン系高分子は、架橋性官能基を含む側鎖を有する。上記架橋性官能基としてエポキシ基及び水酸基を含むことが好ましい。架橋性官能基を含む側鎖としては、架橋性官能基のみから成るものであっても、二価の基に架橋性官能基が結合したものでもよい。
【0035】
上基二価の基としては、比較的短いアルキレン基、例えば、炭素数が1〜6程度のアルキレン基であってもよいが、−R(OR−、−R(COOR−、又は−R(COOR(OR−(式中、Rは共有結合又は炭素数1〜6、好ましくは共有結合又は炭素数1〜2のアルキレン基を表し、Rはそれぞれ独立して炭素数2〜4、好ましくは炭素数2のアルキレン基を表し、w、x及びzは1〜10の整数、yは1又は2を表す。)で表される主鎖をもつものが親水性であるため好ましい。このような好ましい二価の基として、−CH(OC−や−CO(OC−等が挙げられる。
【0036】
このようなスチレン系高分子として、例えば、下記式(4):
【化4】


(式中、Xはアルキレン基又はエーテル結合を含むアルキレン基を表す。)又は下記式(5):
【化5】


(式中、Xはアルキレン基又はエーテル結合を含むアルキレン基を表す。)で表される構造を有するモノマーを全モノマー中に5〜60%含み、下記式(6):
【化6】


(式中、Xはアルキレン基又はエーテル結合を含むアルキレン基を表す。)又は下記式(7):
【化7】


(式中、Xはアルキレン基又はエーテル結合を含むアルキレン基を表す。)で表される構造を有するモノマーを全モノマー中に10〜60%含み、かつこれらの合計が100%以下となるように含み、更にこれらの合計が100%未満の場合には残部としてスチレンモノマーを含むモノマー混合物を共重合して得られたスチレン系高分子が挙げられる。
【0037】
好ましいスチレン系高分子として下記式(1)で表される重合性単量体と、下記式(2)で表される重合性単量体と、下記式(3)で表される重合性単量体との重合体が挙げられる。
【化8】


【化9】


【化10】

【0038】
上記スチレン系高分子は、式(2)で表される重合性単量体を、全単量体中に5〜60%含むことが好ましく、10〜50%含むことがより好ましい。また、式(3)で表される重合性単量体を、10〜60%含むことが好ましく、20〜50%含むことがより好ましい。また、式(2)及び(3)で表される重合性単量体の合計が100%未満となるように含み、残部として式(1)で表されるスチレンモノマーを含むことが好ましい。
【0039】
スチレン系高分子の重量平均分子量は、1万から15万であることが好ましい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0040】
上述したようなスチレン系高分子、カーボンブラック、金化合物及び白金化合物を、上記のような適当な溶媒に還元剤と共に溶解すると、金化合物及び白金化合物がまず還元を受ける。金化合物及び白金化合物に配位子が結合していた場合は、その際に配位子が脱離する。還元された金及び白金はクラスターとして高分子の疎水性部分に取り込まれ、高分子の芳香環から電子供与を受け微小な状態でも安定化される。その後、高分子に対する貧溶媒を加えることにより、金−白金クラスター及びカーボンブラックを担持した、スチレン系高分子を相分離させることができる。
【0041】
カーボンブラックと共にスチレン系高分子に担持されている金−白金クラスター1個の平均径は20nm以下、好ましくは0.3〜20nm、より好ましくは0.3〜10nm、更に好ましくは0.3〜5nm、より更に好ましくは0.3〜2nm、最も好ましいのは0.3〜1nmであり、数多くの金−白金クラスターがミセルの疎水性部分(スチレン系高分子の芳香環)に均一に分散して存在していると考えられる。このように金属が微小なクラスター(微小金属塊)となっているため、高い触媒活性を示すことができる。
【0042】
金−白金クラスターの径及び価数等の周辺環境は、透過型電子顕微鏡(TEM)又は拡張X線吸収微細構造(EXAFS)で測定することができる。
【0043】
上記第3の工程では、上述のように金−白金クラスター及びカーボンブラックを担持したスチレン系高分子の架橋性官能基を架橋させる。架橋により金−白金クラスターは安定化すると共に種々の溶剤に対して不溶化し、担持した金−白金クラスターの漏れを防止することができる。架橋反応により、金−白金クラスターを担持した高分子鎖同士を結合させることや、架橋基を有する材料など適当な担体に結合させることもできる。架橋反応は、無溶媒条件で、加熱や紫外線照射、好ましくは加熱により架橋性官能基を反応させることにより行う。架橋反応は、これらの方法以外にも、使用する直鎖型有機高分子化合物を架橋するための従来公知の方法である、例えば架橋剤を用いる方法、過酸化物やアゾ化合物等のラジカル重合触媒を用いる方法、酸又は塩基を添加して加熱する方法、例えばカルボジイミド類のような脱水縮合剤と適当な架橋剤を組み合わせて反応させる方法等に準じても行うことができる。
【0044】
架橋性官能基を加熱により架橋させる際の温度は、通常50〜200℃、好ましくは70〜180℃、より好ましくは100〜160℃である。加熱架橋反応させる際の反応時間は、通常0.1〜100時間、好ましくは1〜50時間、より好ましくは2〜10時間である。
【0045】
上記の様にして製造した、高分子担持金−白金クラスターは、塊や膜としたり、担体に固定することもできる。ガラス、シリカゲル、樹脂などの担体表面の架橋性官能基(例えば、水酸基やアミノ基など)と金−白金含有ポリマーの架橋性官能基とを架橋反応させると、高分子担持金−白金クラスターは担体表面に強固に固定される。また、適当な樹脂やガラスで出来た反応容器の表面に、ミセルの架橋性官能基を使用して高分子担持金−白金クラスター組成物を固定化してやれば、より再使用が簡便な触媒担持反応容器として使用できる。
【0046】
このようにして得られた架橋型金−白金含有ポリマーミセルは多くの空孔を有しており、適当な溶剤で膨潤して表面積を拡大する。また担持された金及び白金は数ナノメートル以下の非常に小さいクラスターを形成する。
【0047】
本実施形態に係るアルデヒドの製造方法は、架橋性官能基を含む側鎖を有するスチレン系高分子の該架橋性官能基を架橋させてなる担体と、該担体に担持された金−白金のナノサイズクラスター及びカーボンブラックとを有する触媒の存在下、一級アルコールの酸化によりアルデヒドを得る工程を備える。上記製造方法を用いると、高い選択性及び高い転化率をもって、一級アルコールの酸化によりアルデヒドを製造することができる。
【0048】
本実施形態に係るアルデヒドの製造方法においては、上記工程を塩基の非存在下で行うことができる。上記工程を塩基の非存在下で行うと、生成したアルデヒドからカルボン酸への更なる酸化反応の進行を抑制することができる。
【0049】
また、本実施形態に係るアルデヒドの製造方法においては、上記工程を塩基の存在下で行うことができる。上記工程を塩基の存在下で行うと、一級アルコールの酸化反応が一層促進され、転化率をさらに高めることができる。塩基としては、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属カルボン酸塩や水酸化物塩が好適であり、具体的には、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどが挙げられる。塩基の量は、基質に対して0.05〜3当量用いることが好ましい。また、塩基は、水溶液として用いることが好ましい。
【0050】
基質である一級アルコールを、RCHOHで表した場合、Rは脂肪族基、脂環式脂肪族基、又は芳香族基を示し、ヘテロ原子が含まれていてもよい。本実施形態に係るアルデヒドの製造方法は、特にRが炭素数1〜Xのアルキル基を示す場合に効果的である。この場合、Rは直鎖状でも分岐状でも良い。
【0051】
本実施形態に係るアルデヒドの製造方法で用いる酸化剤としては、酸素ガス、又は空気を用いることができる。反応溶媒としては、高分子を膨潤させ基質アルコールを溶解するものであれば、単一溶媒でも混合溶媒でも使用できる。水と有機溶媒の混合溶媒が有効な場合もある。有機溶媒としてはベンゾトリフルオリド(BTF)や、メチルエチルケトンなどが挙げられる。混合溶媒を用いる場合、水と有機溶媒の混合比は1:1〜1:10(容積比)であることが好ましい。触媒量は、基質に対して、金として0.1〜10%(mol/mol)、白金として0.1〜10%(mol/mol)であることが好ましい。基質の濃度は、0.01〜1mmol/ml、好ましくは0.05〜0.5mmol/mlである。反応温度は、0〜80℃、好ましくは室温〜60℃であり、反応時間は、1〜50時間である。
【実施例】
【0052】
以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。4−ビニルベンジルグリシジルエーテルは特許文献1に記載の方法に従って合成した。他の化合物は市販品を必要に応じて精製して使用した。酸化反応で得られたアルデヒドの収率は内部標準を用いたガスクロマトグラフィーで定量した。ガスクロマトグラフとして、島津製作所(株)製GC−17Aを用いた。
【0053】
[製造例1]
150mLのTHFにソジウムハイドライド(60% in mineral oil,5.2g)を加え、0℃にてその反応液にテトラエチレングリコール(25.4g,131mmol)を加えた。室温で1時間撹拌した後、1−クロロメチル−4−ビニルベンゼン(13.3g,87.1mmol)を加え、さらに12時間撹拌を続けた。0℃に冷却しジエチルエーテルを加え、飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、反応を停止した。水相をエーテルで抽出した後、併せた有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧下留去した。得られた残さをシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、2−(2−(2−(2−(4−vinylbenzyloxy)ethoxy)ethoxy)ethoxy)ethanolを得た(20.6g,66.2mmol,76%)。
H−NMR(CDCl) δ2.55−2.59(m,1H),3.59−3.73(m,16H),4.55(s,2H),5.25(d,1H,J=6.4Hz),5.53(d,1H,J=18Hz),6.71(dd,1H,J=11.0,17.9Hz),7.22−7.27(m,3H),7.31−7.39(m,2H);
13C−NMR δ61.8,69.5,70.5,70.69,70.74,72.6,73.0,113.8,126.3,128.0,136.0,137.1,138.0。
【0054】
[製造例2]
スチレン(2.6g、25mmol)、4−ビニルベンジルグリシジルエーテル(WO2005/085307に記載の方法に従って合成したもの)(4.75g、25mmol)、製造例1で得た2−(2−(2−(2−(4−vinylbenzyloxy)ethoxy)ethoxy)ethoxy)ethanol(7.67g、25mmol)、及び重合開始剤(和光純薬工業社製V−70、308mg、1mmol)をクロロホルム(15ml)に溶解させ、脱気操作後アルゴン中で室温、72時間攪拌した。反応液を室温まで冷却した後、THF100mlを加えた反応液をジエチルエーテル1l中に室温にてゆっくりと滴下し、得られた沈殿物を濾過分取した後、ジエチルエーテルにて十分に洗浄した。その後、室温にて減圧乾燥させ透明ガム状固体として下式のスチレン系高分子(高分子A)(8.98g、x:y:z=29:35:36)を得た。コポリマーのモノマー成分の比はH−NMRにより決定した。
【化11】

【0055】
[製造例3]
以下のようにして、触媒(PI−CB/Au−Pt)を製造した。
製造例2で得た高分子A500.0mgをジグライム(和光純薬工業社製、特級)32mLに溶解させ、0℃まで冷却した後、ケッチェンブラック(ライオン社製、カーボンECP)500.0mgを加えた。この混合液を0℃で15分間攪拌した後に、この混合液へ水素化ホウ素ナトリウム87mgのジグライム8mLに溶解させた溶液をゆっくり加えた。この混合液を0℃で15分間攪拌した後に、この混合液へAuClPPh(Strem社製、特級)141.0mg及びNaPtCl(Alderich社製、特級)158.0mgのジグライム20mLに溶解させた溶液をゆっくり加えた。この混合液を0℃から室温で12時間攪拌した後に、ジエチルエーテル120mLを室温でゆっくり加えた。分散した金属を包み込んだ内包した黒色の粉末(触媒カプセル)が生じた。この触媒カプセルをジエチルエーテルで数回洗浄し、室温で乾燥した。次にこの触媒カプセルを無溶媒条件で120℃で5時間加熱し、生成した黒色粉末を塩化メチレンと水とテトラヒドロフランで洗浄し、室温で乾燥することで黒色粉末1.036gが生成した(以下「PI−CB/Au−Pt」という。)。
PI−CB/Au−Pt 10−20mgを硫酸及び硝酸の重量比1:1の混合液中で200℃で3時間加熱し、室温に戻した後に王水を加えた。この溶液のICP分析により触媒中の金と白金の含量を測定したところ、Au:0.1196mmol/g,Pt:0.1764mmol/gであった。
【0056】
[実施例1]
1−オクタノール(東京化成社製、特級)(32.6mg,0.25mmol)、PI−CB/Au−Pt(Au含量0.1196mmol/g,Au換算で1mol%)、水(2.0mL)、ベンゾトリフルオリド(関東化学社製、特級)(2.0mL)を丸底フラスコ内で混合した。酸素雰囲気下、室温で24時間撹拌した後、触媒を濾過してアセトンで洗浄することによって回収した。収率は、アニソールを内部標準物質としてガスクロマトグラフィーで決定した。反応式を下式に示す。また、反応結果(アルデヒド収率、カルボン酸収率、アルコール回収率)を表1に示す。
【化12】

【0057】
[実施例2、3]
実施例2、3においては、実施例1における1−オクタノールに代えて、それぞれ表1に示す基質を用いたこと以外は、実施例と同様にして、酸化反応を行った。反応結果(アルデヒド収率、カルボン酸収率、アルコール回収率)を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
[実施例4]
PI−CB/Au−Pt(Au含量0.1196mmol/g)200mg、セライト(関東化学社製)760mgを混合し、ガラス製カラム(直径5mm、全長100mm)に充填した。このカラムを60℃へ加熱し、1−オクタノール(東京化成社製、特級)を0.108mmol/mL溶解させたベンゾトリフルオリドを0.0070mL/min、水を0.0070mL/min、酸素ガスを1mL/minで、それぞれポンプおよびマスフローコントローラーを用いて導入し、流通系での酸化反応を行った。カラムを通過した液相を回収し、アセトンで希釈した。収率は、アニソールを内部標準物質としてガスクロマトグラフィーで決定した。反応に用いた流通系装置の概略図を図1に示す。また、反応結果(アルデヒド収率、カルボン酸収率、アルコール回収率)を表2に示す。
【0060】
[実施例5]
実施例4における1−オクタノールに代えて、表2に示す基質を用いたこと以外は実施例4と同様にして、実施例5と同様に酸化反応を行った。反応結果(アルデヒド収率、カルボン酸収率、アルコール回収率)を表2に示す。
【0061】
[実施例6〜9]
実施例6〜9においては、実施例1における1−オクタノールに代えて、それぞれ表2に示す基質を用いたこと、水の代わりに水酸化カリウム(和光純薬・特級)0.324mmol/Lを溶解させた水を用いたこと、ベンゾトリフルオリドおよび水の流量を0.0140mL/minとしたこと、酸素ガスの流量を7mL/minとしたこと以外は、実施例4と同様にして、酸化反応を行った。反応結果(アルデヒド収率、カルボン酸収率、アルコール回収率)を表2に示す。
【0062】
【表2】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋性官能基を含む側鎖を有するスチレン系高分子の該架橋性官能基を架橋させてなる担体と、該担体に担持された金−白金のナノサイズクラスター及びカーボンブラックとを有する触媒の存在下、一級アルコールの酸化によりアルデヒドを得る工程を備えることを特徴とするアルデヒドの製造方法。
【請求項2】
前記スチレン系高分子が前記架橋性官能基としてエポキシ基及び水酸基を含むことを特徴とする、請求項1に記載のアルデヒドの製造方法。
【請求項3】
前記工程は塩基の非存在下で行われることを特徴とする、請求項1又は2に記載のアルデヒドの製造方法。
【請求項4】
前記工程は塩基の存在下で行われることを特徴とする、請求項1又は2に記載のアルデヒドの製造方法。
【請求項5】
前記スチレン系高分子が下記式(1)で表される重合性単量体と、下記式(2)で表される重合性単量体と、下記式(3)で表される重合性単量体との重合体である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【化1】


【化2】


【化3】

【請求項6】
架橋性官能基を含む側鎖を有するスチレン系高分子の該架橋性官能基を架橋させてなる担体と、該担体に担持された金−白金のナノサイズクラスター及びカーボンブラックとを有することを特徴とする触媒。
【請求項7】
1価又は3価の金化合物及び2価又は4価の白金化合物を、架橋性官能基を含む側鎖を有するスチレン系高分子及びカーボンブラックを含む溶液中で還元剤により還元する第1の工程と、
前記溶液に、前記スチレン系高分子に対する貧溶媒を加えて相分離させることにより金−白金のナノサイズクラスター及び前記カーボンブラックをスチレン系高分子に担持する第2の工程と、
前記第2の工程の後で前記スチレン系高分子の前記架橋性官能基を架橋させる第3の工程と、
を経て、架橋性官能基を含む側鎖を有するスチレン系高分子の該架橋性官能基を架橋させてなる担体と、該担体に担持された金−白金のナノサイズクラスター及びカーボンブラックとを有する触媒を得ることを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項8】
前記スチレン系高分子の重量平均分子量が1万〜15万であることを特徴とする、請求項7に記載の触媒の製造方法。
【請求項9】
前記第3の工程において、前記スチレン系高分子の前記架橋性官能基を加熱により架橋させることを特徴とする、請求項7又は8に記載の触媒の製造方法。
【請求項10】
前記還元剤が水素化ホウ素化合物、水素化アルミニウム化合物又は水素化ケイ素化合物であることを特徴とする、請求項7〜9のいずれか一項に記載の触媒の製造方法。
【請求項11】
前記金化合物が、ハロゲン化金又はハロゲン化金のトリフェニルホスフィン錯体であることを特徴とする、請求項7〜10のいずれか一項に記載の触媒の製造方法。
【請求項12】
前記白金化合物が、ハロゲン化白金又はハロゲン化白金のトリフェニルホスフィン錯体であることを特徴とする、請求項7〜11のいずれか一項に記載の触媒の製造方法。
【請求項13】
前記金化合物がAuCl(PPh)であり、前記白金化合物がNaPtClであることを特徴とする請求項7〜12のいずれか一項に記載の触媒の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−184397(P2011−184397A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53400(P2010−53400)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】