説明

アルファチモシンペプチドによる呼吸器ウイルス感染の治療または予防

呼吸器ウイルス感染、コロナウイルス感染および/もしくはSARSを有するかまたはその危険性のある患者に対して、アルファチモシンペプチドが投与される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2003年4月23日に提出された米国仮出願連続番号第60/464,645号および2003年5月15日に提出された米国仮出願連続番号第60/470,420号の利益を主張する。
【0002】
発明の分野
この発明は、呼吸器ウイルス感染の治療の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
背景技術の説明
重症急性呼吸器症候群(SARS)は、SARS関連コロナウイルス(SARS−CoV)と呼ばれるコロナウイルスによってもたらされるウイルス性の呼吸器の病気である。SARSは最初に2003年2月にアジアにおいて報告された。その後数ヶ月にわたり、この病気は北アメリカ、南アメリカ、ヨーロッパおよびアジアの2ダース以上の国々に広がった。
【0004】
一般的に、SARSは高熱(100.4°Fより高温[>38.0°C])から始まる。その他の症状は頭痛、全体的な不快感および体の痛みを含むことがある。人によっては最初に軽い呼吸器の症状がある。患者の約10%から20%は下痢をする。2日から7日後に、SARS患者は乾性咳を起こすことがある。ほとんどの患者が肺炎を起こす。
【0005】
SARSは主に人と人との密な接触によって伝播するようである。SARSをもたらすウイルスは、感染者が咳またはくしゃみをしたときに生成される呼吸性飛沫(飛沫伝播)によって最も容易に伝達されると考えられる。感染者の咳またはくしゃみからの飛沫が空気中を短距離(一般的に3フィート以下)進み、近くにいる人の口、鼻または目の粘膜に付着するときに飛沫伝播が起こり得る。また、人が感染性の飛沫で汚染された表面または物体に触り、次いで彼または彼女の口、鼻または目に触れることによってもウイルスが伝播し得る。加えて、SARSウイルスは空気(空気伝播)を通じて、または現在は知られていない他の態様でより広範に伝播する可能性もある。
【0006】
世界保健機関(WHO)によると、2003年の発生の際に世界中で合計8098人がSARSにより病気になった。そのうち774人が死亡した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
当該技術分野においては、SARSなどの呼吸器ウイルス感染の治療または予防がなおも要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の概要
この発明に従うと、患者の呼吸器ウイルス感染を治療または予防する方法は、患者に有効量のアルファチモシンペプチドを投与するステップを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
発明の詳細な説明
実施形態の1つに従うと、この発明は、患者にアルファチモシンペプチドを投与するこ
とによる呼吸器ウイルス感染の治療または予防に関する。
【0010】
別の実施形態に従うと、この発明は、患者にアルファチモシンペプチドを投与することによるコロナウイルス感染の治療または予防に関する。
【0011】
さらなる実施形態に従うと、この発明は、アルファチモシンペプチドを投与することによる患者の重症急性呼吸器症候群(SARS)の治療または予防に関する。
【0012】
予防のための投与は、疾患保菌者の疑いがある人または無症候性の保菌者との接触による危険性が高い人に対して行なわれ得る。
【0013】
アルファチモシンペプチドはチモシンアルファ1(TA1)ペプチドを含み、これは天然に存在するTA1の他に、天然に存在するTA1のアミノ酸配列、それと実質的に類似のアミノ酸配列、またはその短縮した配列形を有する合成TA1および組換TA1、ならびにTA1と実質的に同様の生物活性を有する、置換、欠失、伸長、交換またはその他の態様で変更された配列を有するそれらの生物的に活性な類似物、たとえばTA1と実質的に同じ態様で実質的に同じ活性で機能するために十分なTA1とのアミノ酸相同性を有するTA1由来ペプチドなど、を含む。
【0014】
投与は、注射、周期的な注入、継続的な注入などを含むあらゆる好適な方法で行なわれてもよい。アルファチモシンペプチドの好適な投与量は約0.001−10mg/kg/日の範囲であってもよい。
【0015】
この発明のこの実施形態の1つの局面に従うと、アルファチモシンペプチドを含む投与量単位は定期的に患者に投与される。たとえば、投与量単位は毎日1回より多く、毎日1回、毎週、毎月などの間隔で投与されてもよい。投与量単位は1週間に2回、たとえば火曜日と土曜日とに投与されてもよい。TA1の投与量単位は1週間に3回投与されてもよい。
【0016】
皮下注射されたTA1の血漿半減期は約2時間しかないため、実施形態の1つに従うと、免疫刺激が必要な患者にTA1などのTA1ペプチドが投与されることによって、実質的により長い治療または予防期間の間、患者の循環系において免疫刺激に有効な量のTA1ペプチドを実質的に継続的に維持するようにされる。この発明に従うともっと長い治療期間が予期されるが、この発明の実施形態は、少なくとも約6、10、12時間またはそれより長い治療期間の間、患者の循環系において免疫刺激に有効な量のTA1ペプチドを実質的に継続的に維持するステップを含む。他の実施形態において、治療期間は少なくとも約1日、および複数日、たとえば1週間またはそれより長い期間である。しかし、患者の循環系において免疫刺激に有効な量のTA1ペプチドを実質的に継続的に維持する上述において定めた治療は、類似または異なる持続時間の非治療期間によって分離されてもよいことが予期される。
【0017】
実施形態の1つに従うと、TA1ペプチドは治療期間の間たとえば静脈注入によって患者に継続的に注入されることによって、患者の循環系において免疫刺激に有効な量のTA1ペプチドを実質的に継続的に維持するようにされる。注入はミニポンプなどのあらゆる好適な手段によって行なわれてもよい。
【0018】
代替的には、TA1ペプチドの注射投与計画が維持されることによって、患者の循環系において免疫刺激に有効な量のTA1ペプチドを実質的に継続的に維持するようにされてもよい。好適な注射投与計画は1、2、4、6時間ごとなどの注射を含むことによって、治療期間の間患者の循環系において免疫刺激に有効な量のチモシンアルファ1ペプチドを
実質的に継続的に維持するようにされてもよい。
【0019】
TA1ペプチドの継続的な注入の際に、投与は実質的により長い持続時間にわたると予期されるが、実施形態の1つに従うと、TA1ペプチドの継続的な注入は少なくとも約1時間の治療期間にわたって行なわれる。より好ましくは、継続的な注入は少なくとも約6、8、10、12時間またはより長い期間など、より長い期間にわたって行なわれる。別の実施形態において、継続的な注入は少なくとも約1日、および1週間以上などの複数日にわたって行なわれる。
【0020】
好ましい実施形態において、TA1ペプチドは、注入用の水、生理的濃度の塩水またはその類似物などの医薬上許容可能な液体担体中に存在する。
【0021】
この発明はまた、材料にコンジュゲートされたTA1ペプチドを含む生理的に活性なコンジュゲートの投与を含み、その材料は患者にコンジュゲートが投与されたときに患者の血清中のTA1ペプチドの半減期を増加させる。材料は実質的に非抗原性のポリマーであってもよい。好適なポリマーは分子量が約200−300,000の範囲にあり、好ましくは約1,000−100,000の範囲にあり、より好ましくは約5,000−35,000の範囲にあり、最も好ましくは約10,000−30,000の範囲にあり、約20,000の分子量が特に好ましい。
【0022】
含まれるポリマー物質はまた、室温において水溶性であることが好ましい。こうしたポリマーの制限的でないリストには、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリプロピレングリコールなどのポリアルキレンオキシドホモポリマー、ポリオキシエチレン化ポリオール、そのコポリマーおよびそのブロックコポリマーが含まれる。ただしブロックコポリマーの水溶解度は維持されるものとする。実質的に非抗原性のポリマーのうち、モノメチル終端ポリエチレングリコール(mPEG)などのモノ活性化アルキル終端ポリアルキレンオキシド(PAO)が予期される。mPEGに加え、C1−4アルキル終端ポリマーも有用であり得る。
【0023】
PAO系ポリマーの代替物として、デキストラン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、炭水化物系ポリマーなどの事実上非抗原性の材料を用いることができる。前述のリストは単なる例示的なものであって、ここに記載される特性を有するすべてのポリマー材料が予期されることを通常の当業者は認めるであろう。この発明の目的に対して、「事実上非抗原性」とは、非毒性であり、かつ哺乳動物においてはっきり認められる免疫原性応答を誘発しないことが当該技術分野において理解されているすべての材料を意味する。
【0024】
ポリマーは直鎖であっても、または分岐していてもよい。ポリエチレングリコール(PEG)は特に好ましいポリマーである。
【0025】
ポリマーはあらゆる好適な方法によってTA1ペプチドにコンジュゲートできる。ペプチドにポリマーをコンジュゲートするための例示的な方法は、米国特許第4,179,337号、第4,766,106号、第4,917,888号、第5,122,614号および第6,177,074号、ならびにPCT国際公開第WO95/13090号に開示されており、そのすべてをここに引用により援用する。チモシンアルファ1はポリマーのアミノ基コンジュゲートが可能な5つの独立した部位を有し、ポリマーは1つまたは複数の部位においてコンジュゲートできる。実施形態の1つに従うと、分子量20,000のPEGがTA1のN末端にコンジュゲートされてPEG−TA1を形成する。これは当該技術分野において公知のとおり、適切な側鎖保護基を伴う、不溶性重合支持ビーズ上でのTA1の固相ペプチド合成によって形成できる。ビーズ上でのTA1ペプチドの完全な合
成の後、保護されたTA1は遊離アミノ基とともにN末端を残してビーズから切断され、それが分子量20,000のPEGと反応する。次いで側鎖保護基が除去されて、この発明の実施形態に従うコンジュゲートが形成される。
【0026】
TA1ペプチドの単離、特徴付けおよび使用は、たとえば米国特許第4,079,127号、米国特許第4,353,821号、米国特許第4,148,788号および米国特許第4,116,951号に記載される。TA1ペプチドの有効量は、ルーチン投与量滴定実験によって定めることができる。TA1は人間に対して16mg/kg体重/日という高い投与量で投与されても安全であることが見出されている。TA1ペプチドの好ましい投与量は0.001mg/kg体重/日から10mg/kg体重/日の範囲内である。実施形態の1つに従うと、免疫刺激に有効な量は、約0.1−20mgの範囲内の量のTA1ペプチドを含む投与量である。好ましい投与量は、約0.5−10mg、より好ましくは約1−5mg、最も好ましくは約1.6−3.2mgの範囲内の量のTA1ペプチドを含む。前述の投与量は組成物中に存在するTA1ペプチドのみを反映するものであり、そこにコンジュゲートされるポリマーがあったとしてもその重量は反映されない。
【0027】
この発明に従ったTA1ペプチドへのポリマーのコンジュゲートは、ペプチドの血漿半減期を実質的に増加させる。
【0028】
TA1ペプチドを有効量のインターフェロンアルファなどのインターフェロンとともに投与することもでき、ここではインターフェロンアルファ−2bが好ましい。インターフェロンアルファ−2bの好適な投与量は約1−3MUの範囲にあってもよい。
【0029】
TA1ペプチドを他の免疫刺激物質または抗ウイルス剤とともに投与することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における呼吸器ウイルス感染を治療または予防する方法であって、前記患者に有効量のアルファチモシンペプチドを投与するステップを含む、方法。
【請求項2】
呼吸器ウイルス感染はコロナウイルス感染の結果である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記呼吸器ウイルス感染はSARSである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
アルファチモシンペプチドの前記量は約0.1−20mgの範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記範囲は約0.5−10mgである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記範囲は約1−5mgである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記アルファチモシンペプチドはチモシンアルファ1である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記チモシンアルファ1は約1−5mgの範囲内の投与量で前記患者に投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記投与量は約1.6−3.2mgである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記患者に有効量のインターフェロンを投与するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記インターフェロンはインターフェロンアルファである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記インターフェロンの前記量は約1−3MUである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記アルファチモシンペプチドはポリマーにコンジュゲートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリマーはポリエチレングリコール(PEG)である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記アルファチモシンペプチドはPEG−TA1である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記PEG−TA1の前記PEGは分子量が約20,000である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記アルファチモシンペプチドは前記患者の中で免疫刺激に有効な量が実質的に継続的に維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記アルファチモシンペプチドは前記患者への継続的な注入によって投与される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記アルファチモシンペプチドはTA1である、請求項18に記載の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸器ウイルス感染の予防のための医薬組成物であって、活性成分として有効量のアルファチモシンペプチドを含む、医薬組成物。
【請求項2】
呼吸器ウイルス感染はコロナウイルス感染の結果である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記呼吸器ウイルス感染はSARSである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
アルファチモシンペプチドの前記量は約0.1−20mgの範囲内である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記範囲は約0.5−10mgである、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記範囲は約1−5mgである、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記アルファチモシンペプチドはチモシンアルファ1である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記チモシンアルファ1は約1−5mgの範囲内である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記範囲は約1.6−3.2mgである、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
有効量のインターフェロンをさらに含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記インターフェロンはインターフェロンアルファである、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記インターフェロンの前記量は約1−3MUである、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記アルファチモシンペプチドはポリマーにコンジュゲートされる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記ポリマーはポリエチレングリコール(PEG)である、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記アルファチモシンペプチドはPEG−TA1である、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記PEG−TA1の前記PEGは分子量が約20,000である、請求項15に記載の医薬組成物。

【公表番号】特表2006−524704(P2006−524704A)
【公表日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−513284(P2006−513284)
【出願日】平成16年4月23日(2004.4.23)
【国際出願番号】PCT/US2004/012663
【国際公開番号】WO2004/094991
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(593199563)サイクローン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド (17)
【氏名又は名称原語表記】SciClone Pharmaceuticals,Inc.
【住所又は居所原語表記】901 Mariners Island Boulevard, Suite 205, San Mateo, CA 94404,U・S・A
【Fターム(参考)】