説明

アルブミン分子のブラウン運動の拡散係数変化に基づく血清または血漿粘度測定方法及び装置

【課題】血清または血漿の粘度を少量の試料で簡便に測定できる技術の提供。
【解決手段】血清または血漿中に最も多く含まれ、粒径及び質量既知のアルブミン分子を基準マーカーとして、血清または血漿アルブミン分子のブラウン運動の拡散係数の変化をレーザー散乱光の変化から求め、アインシュタイン・ストークスの式に基づいて、血清または血漿アルブミンの見かけの粒径からその血清または血漿粘度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドップラーシフトや動的光散乱法等を用いて、血清または血漿中に最も多く含まれる分子サイズ及び質量既知の単純タンパク質であるアルブミン分子のブラウン運動に基づく散乱光の変化から拡散係数を測定し、その血清または血漿粘度を求める方法及び装置に関する。本発明はさらに、これらの方法及び装置を用いた種々の疾患の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脱水やその他さまざまな疾患、例えば心筋梗塞、脳梗塞、肝硬変、膜性腎症、ネフローゼ、生活習慣病などで、血液の粘度が増すことが知られている。血液の粘度は、血液における血球の割合(ヘマトクリット値)、血球の変形能の変化、電解質量、血糖値、タンパク質濃度、構成タンパク質成分、リポタンパク質濃度などさまざまな要因で変化し、血管が詰まりやすい状態では、極端に言えば血液がドロドロの状態になる。この血液のドロドロ状態を知ることは、さまざまな疾患の予防や診断、治療にとって極めて有意義である。
【0003】
血液の全体の粘度は、血球数や血球の変形能や血球凝集能で変化することが知られており、臨床検査の分野ではヘマトクリット値や赤沈や浸透圧などの検査が行われている。また、いわゆる「血液サラサラ検査」と称して、毛細管中を通過する血液の流速の検査装置などが開発されている。しかし、血液粘度は血球と血清または血漿の両方のさまざまな要因の影響を受けて変化し、その評価は極めて困難である。
血管の詰まりに大きな影響を及ぼし、かつ血球に依拠しない、いわゆる血清または血漿粘度を測定することは、老化や心筋梗塞、脳梗塞、肝硬変、膜性腎症、ネフローゼ、生活習慣病など血管が詰まって起こるさまざまな疾患の予防や診断、治療にとって極めて有用であると考えられる。また、血清または血漿粘度は、血清または血漿の一般生化学検査や凝固線溶検査と同時に測定できるので、利用効率も高い。
【0004】
従来、粘度の測定には、毛細管粘度計、回転粘度計、落球粘度計、振動粘度計などが用いられているが、いずれも多量の試料が必要であったり、検査が煩雑であったりするため臨床に応用することは困難であった。そのため臨床に使用できる検査方法及び装置の開発が望まれていた。
【0005】
先に本発明者らは、さまざまな疾患の血清または血漿約1ml中のタンパク質分子、リポタンパク質分子またはそれらの凝集物の粒径サイズを、これらの粒子のブラウン運動から、アインシュタイン・ストークスの式(D=RT/NA・1/6πηr;D:拡散係数、NA:微粒子数、η:粘度、r:粒子の半径)に基づいて求めようと試みた。
この式は、微粒子数が一定とすると、微粒子の拡散係数が液体の粘性係数と微粒子の半径で決まるというものであり、粘性を一定にした溶液中の、一定時間における粒子のブラウン運動の軌跡を測定することによって粒径を求めることができる。これらの原理を応用して、レーザー光のドップラーシフトや動的光散乱法による粒度分布測定装置が市販されている(例えば、日機装株式会社製:ナノトラック粒度分布測定装置、大塚電子株式会社製:ダイナミック光散乱光度計、シスメックス株式会社製:ゼータサイザーナノシリーズ等)。この測定の結果、C型肝炎患者血清では、冷状態にすると、血清中に新たな特異的サイズの凝集コロイドが出現することを発見し、このコロイド検出によるC型肝炎罹患検査法を提案した(特許文献1:特開2004−177158号公報)。
【0006】
さらに、本発明者らは、ナノトラック粒度分布測定装置を用いて、心筋梗塞患者血清(血漿)中タンパク質分子の粒径測定中、その中に最も多く含まれるアルブミン分子の粒径(分子サイズ)が、本来の分子サイズより大きく換算されることを見出した。そして、さらに解析を進めた結果、その原因が心筋梗塞患者血清または血漿の粘度変化にあることを発見した。
血清中に含まれるもう一つの主成分である免疫グロブリンの分子量は146000×1.66×10-24g〜970000×1.66×10-24gであり、粒径(分子サイズ)も10nm〜100nmと範囲が広い。しかし、アルブミン分子は質量66270×1.66×10-24g、粒径(分子サイズ)8nmと単一タンパク質であるため一定である。
アインシュタイン・ストークスの式から、血清または血漿中アルブミン分子の拡散係数について見てみると、rは4nmと一定なので、血清または血漿粘度ηが増すにつれてアルブミン分子の拡散係数Dは小さくなる。逆に、アルブミン分子の拡散係数Dが小さいほど血清または血漿粘度ηは高いことになり、心筋梗塞患者血清または血漿における見かけのアルブミン分子サイズの変化は、血清または血漿粘度ηの変化を反映すると考えられた。
【0007】
【特許文献1】特開2004−177158号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明では、粒度分布測定とは逆に、血清または血漿中に最も多く含まれる、粒径及び質量既知のアルブミン分子のブラウン運動に基づく散乱光の変化から、その血清または血漿の粘度を少量の試料で簡便に測定できる技術を提供し、さまざまな疾患の予防や診断、治療に寄与する血清または血漿粘度測定装置の構築を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1.血清または血漿中のアルブミン分子のブラウン運動の拡散係数を測定し、前記血清または血漿の粘度を求める方法。
2.血清または血漿中のアルブミン分子のブラウン運動の拡散係数を測定してアルブミン分子の見掛け粒度を求め、これをアルブミン分子の見掛け粒度とアルブミン分子が存在する液中の粘度との関係に当て嵌めることにより前記血清または血漿の粘度を求める前記1に記載の方法。
3.血清または血漿中のアルブミン分子のブラウン運動の拡散係数を測定し、前記血清または血漿の粘度を求める装置。
4.血清または血漿中のアルブミン分子のブラウン運動の拡散係数を測定してアルブミン分子の見掛け粒度を求め、これをアルブミン分子の見掛け粒度とアルブミン分子が存在する液中の粘度との関係に当て嵌めることにより前記血清または血漿の粘度を求める前記3に記載の装置。
5.32℃〜38℃の範囲内で、一定温度に保たれた血清または血漿アルブミン分子のブラウン運動の拡散係数から血清または血漿粘度を測定し、これを正常値と比較することを特徴とする血管疾患の検査方法。
6.検査対象から採取した血清または血漿について、32℃〜38℃の範囲内で、一定温度に保たれた血清または血漿アルブミン分子のブラウン運動の拡散係数から血清または血漿粘度を測定し、これを経時的に比較することを特徴とする血管疾患及び/またはその病態変化の検査方法。
7.血管疾患が、心筋梗塞、脳梗塞、肝硬変、膜性腎症、ネフローゼ、生活習慣病、または血清もしくは血漿の過過粘性症候群である前記5または6記載の検査方法。
8.アルブミン分子を含む種々の粘度の液体についてブラウン運動の拡散係数を測定してアルブミン分子の見掛け粒度を求め、これにより粘度と見掛け粒度の関係を求めておき、検査対象から採取した血清または血漿について、32℃〜38℃の範囲内で、一定温度に保たれた血清または血漿アルブミン分子のブラウン運動の拡散係数からその見掛け粒度を求め、これを前記関係に当て嵌めることにより、血清または血漿の粘度を測定する前記5〜7のいずれかに記載の検査方法。
【発明の効果】
【0010】
少量の被験血清または血漿を用いて簡便かつ正確にその粘度が求められ、血清または血漿のドロドロ・サラサラ状態をより正確に判定することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、基本的には、特定温度条件下における血清または血漿アルブミンのブラウン運動の拡散係数の変化をレーザー散乱光の変化から測定することができる装置であり、そのデータから、アインシュタイン・ストークスの式に基づいて血清または血漿粘度を算出する。
血清または血漿粘度は、さまざまな疾患や老化に伴う血清または血漿のドロドロ・サラサラ状態を反映するものであり、電解質量、血糖値、タンパク質濃度、構成タンパク質成分、リポタンパク質濃度などさまざまな血清または血漿要因によって変化し、心筋梗塞、脳梗塞、肝硬変、膜性腎症、生活習慣病または血清もしくは血漿の過過粘性症候群など血管が詰まったりその粘度変化に起因する、または粘度変化を伴うさまざまな疾患の危険性や予後を判定できる。なお、血清もしくは血漿の過過粘性症候群の具体的病態は特に限定されないが、Waldenstromマクログロブリン血症などさまざまな疾患が含まれる。
【0012】
(検査方法)
本発明の検査方法は、上記の通り極めて簡便なものである。すなわち、被験者から血液を採取し、通常の方法(例えば、1時間以上静置後、遠心分離)により血清分離し、体温付近の温度条件下で血清または血漿アルブミンのブラウン運動の拡散係数を求め、そのデータから患者の血清または血漿粘度を算出する。その方法は限定されないが、特に見掛け粒度を媒介として粘度を測定する方法が好ましい。
すなわち、
(1)初めに、種々の粘度のアルブミンを含む液体(以下、「標準溶液」という)について、これらの液体を(2)で用いる測定系で計測して見掛け粒度を求め両者の対応について標準曲線を作成する。これらの標準溶液の粘度の測定方法は特に限定されないが、(2)とは異なる測定系、例えば、毛細管粘度計、回転粘度計、落球粘度計、振動粘度計などを用いることができる。粘度調整の方法も特に限定されず、例えば、グリセリン等の粘稠な液体を種々の割合で混合するなど、既知の粘度調整方法を用いることができる。
(2)次に、検査対象である試料を所定の方式で計測して見掛け粒度を求める。
(3)さらに、(2)で得られた見掛け粒度を、(1)で求めた標準曲線に当てはめて液体の粘度を求める。
健常者に比べて患者血清または血漿粘度が極めて高い場合には、血管が詰まりやすく、心筋梗塞、脳梗塞、肝硬変、膜性腎症、ネフローゼ、生活習慣病などの発症の危険性がある。年齢が高くなるにつれて血清または血漿粘度が増している場合もこれらの疾患の危険性が増していることになる。このように本発明によって少量の血清または血漿試料で簡便に血管が詰まる疾患のモニタリングが行えるようになる。
血清または血漿の変性に伴う凝集は血清または血漿粘度を変化させるので、本発明の検査に際しては、好ましくは新鮮血清または血漿を試料とする。
例えば、健常者の場合、アルブミン分子のピークは8nmで、血清または血漿粘度は正常である。ところが、心筋梗塞直後では、一般的に血清または血漿粘度が著しく上昇し、アルブミン分子の見掛けピークは10nm〜80nmに移動する。これは実際には、血清または血漿粘度が2倍〜20倍の高い値となったことを示す。その後、病態の進展や治療によって血清または血漿粘度は低下する。高い血清または血漿粘度では、血管が詰まる危険性が大きく、心筋梗塞、脳梗塞、肝硬変、膜性腎症、ネフローゼ、生活習慣病または血清もしくは血漿の過過粘性症候群などの危険因子としてモニタリングされる。
【0013】
(検査装置/システム)
上述のように、本発明では、本来、大きさ8nmの血清または血漿アルブミン分子のブラウン運動の拡散係数を測定し、血清または血漿粘度を算出する。よって、8nm程度のタンパク粒子のブラウン運動の測定が不可欠であるが、そのような装置としては市販の粒度測定装置(例えば、日機装株式会社製:ナノトラック粒度分布測定装置、大塚電子株式会社製:ダイナミック光散乱光度計、シスメックス株式会社製:ゼータサイザーナノシリーズ等)を用いることができる。本発明の検査装置は、このような装置に、アルブミン分子の物理化学的既知データ(例えば、質量や粒径)と拡散係数(例えばレーザー光のドップラーシフトやブラウン運動軌跡等)からアインシュタイン・ストークスの式に基づいて血清または血漿粘度を算出できる計算式を組み込んで構成できる。
【0014】
すなわち、従来、このような装置では、有機高分子や顔料等を粘度(η)既知の溶媒に分散させサンプル装入部に装入する。次いで、例えば、レーザー光を利用する装置では、サンプル装入部の一部に設けたプローブ光窓からレーザー光を照射する。照射されたレーザー光は液中の粒子に当たって散乱するが、この際、液中の粒子はブラウン運動をしているため、ドップラーシフトにより散乱光には波長の分布が生じる。簡単に言えば、ドップラーシフト法では、この波長分布から拡散係数(D)を導き、これとR(気体定数)、温度(T)、粘度(η)から粒径(r)の分布を求めている。
これに対し、本発明では、拡散係数(D)の導出までは同様であるが、粒径(r)としてアルブミン粒子の粒径を用いることにより、粘度(η)を求める。もっとも、一般に、このような装置では拡散係数(D)を中間的に操作者に示すようには設計されていない上、粒度は分布として求められるので、所定の液体については一意的に決定されるはずの粘度(η)を単純に求めることは困難である。そこで、いったん、見掛けの粒度分布を求め、これからアルブミンの見掛け粒度を決定する。また、検査方法の項目で説明したように、予め、その測定系を用いて種々の粘度のアルブミンを含む液体について見掛け粒度を求め両者の対応について標準曲線を作成しておき、これを装置のプログラムに付加することにより、見掛け粒度を介して液体の粘度を求める。
なお、一般に上記のような装置で粒径分布を測定できるのは、希薄溶液に限定されるが、本発明において測定対象とする血清または血漿試料に含まれる総タンパク質濃度は6.47g/dl〜7.96g/dl程度であり、そのうちアルブミン濃度は4.08g/dl〜5.13g/dl程度で、60%〜70%の高い割合を占め、このアルブミンのピークの見かけ上のシフトを利用して、血清または血漿試料を希釈等の前処理をすることなく、正確な粘度が容易に測定できる。
また、血漿または血清中には種々のリポタンパク質なども存在するが、アルブミンの割合は充分に高く、支障なくアルブミンの見かけの粒径を求めることができる。また、仮に粒径に複数のピークが存在する場合でも、そのピーク面積の大小からアルブミンのピークを自動的に解析すればよい(通常は最大ピークを選択すればよい)。
【0015】
血清または血漿アルブミン分子のブラウン運動の拡散係数測定は、体温付近の特定温度、通常は、32℃〜38℃(例えば37℃)で行う必要がある。血清または血漿の温度低下によってクリオグロブリン等の出現による粘度変化が起こる危険性がある。好ましくは、本発明の検査装置は、血清または血漿試料の入ったセルを特定温度(例えば37℃)に保つ機能を持つ。例として動的光散乱法を用いた測定装置の一例を図1に示す。
【0016】
この粒径測定装置は、光源1、測定セル2、測定セル2を保持するホルダーまたはステージ3、検知手段4及び光学系(5、6)を含む。光源1は、例えば、Arレーザー、He−Neレーザー等のレーザー光源である。光源から入射経路の光学系5を経て測定セル2に入射したレーザービームは、測定セル2内のコロイド粒子10により散乱され互いに干渉する。この干渉された散乱光を受光経路の光学系6を経て検出手段4で受光する。ホルダーまたはステージ3は一般には回転可能であり、その回転によって任意の方向の散乱光を検出できる。また、本発明では温度制御手段を含む。検出手段4で得た信号は処理手段7でデータ処理される。
【0017】
セル内の粒子はブラウン運動によりその位置が絶えず変動しているため、散乱光の干渉による強度分布も絶えず変動する。すなわち、小粒子の散乱光の変動は激しく、大粒子では相対的に緩慢である。例えば、光子相関法により自己相関関数を求め、慣用の方法(例えば、キュムラント法及び度数分布図法解析)を用いることで、ブラウン運動速度を示す拡散係数、さらに粒径や粒径分布が求められる。
【0018】
測定セルはレーザービームの透過性が高い材料からなり、数十μl〜数ml程度の内容量を有する。散乱光を検知する検知手段は好ましくは光電子倍増管である。光学系は、例えば、入射経路ではシャッター5a、フィルター5b及び5e、鏡5d、集光レンズ5f等を、受光経路では偏光素子6a、集光レンズ6b、ピンホール6c及び6d等を含む(もっとも、これらは例示であり、これ以外の光学素子を含んでもよいし、図中の配置とは異なる様々な配置が可能である。)。
【0019】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明する。なお、以下の血清または血漿粘度測定例では、ナノトラック粒度分布測定装置(日機装株式会社製)を用いて行った。
【実施例】
【0020】
実施例1:健常者及び心疾患患者の血清粘度測定例
標準曲線作成用に、精製したアルブミンを溶解した蒸留水にグリセリンを添加し、従来用いられている回転式粘度計(ビスコメイト VM-1A-L,CBCマテリアルズ株式会社製)でその粘度を測定するとともに、前記ナノトラック粒度分布測定装置によりアルブミンの見かけの粒子径と粘度の相関関係を求めた。結果をグラフ化したものを図4に示す。
健常者6名と心疾患患者20名の血清を37℃に保ち、アルブミン分子の拡散係数を測定して粒度分布を求める前記粒度分布測定装置によって、粒度分布を求めた。結果を図2及び3に示す。図2の健常ボランテイア血清アルブミンは、粒径8nm付近にピークを形成するが、図3のa、b、c、d、e、f、g、h、i、jはいずれもアルブミン分子の見かけの粒径がシフトしている。
二峰性を示すi以外の患者について、最大ピークからアルブミンの見かけの粒径を求め、これを図4のグラフの関係に当て嵌めることにより各患者の血清粘度を求めた。これらの粘度は標準的な粘度測定方法により測定した値とよく一致した。これにより、血清の粘度変化に伴って、アルブミンの見かけの粒子径ピークがシフトしていること、及び、見掛けの粒子径ピークから粘度が求められることが確認できた。
さらに、2名の心疾患患者について、病院に搬送されてからの血清粘度の変化を図5に示す。図5では、アルブミン分子の見かけの粒径から求めた心筋梗塞患者血清の血清粘度を心筋梗塞マーカーのクレアチンキナーゼ活性と併せて示した。このグラフ、特にaに示すように、処置ないし治療(概ね病院搬送直後に行なわれている)によって心筋梗塞マーカーのクレアチンキナーゼ活性は低下するが、上述の方法により求めた粘度もその低下とともに低下していることがわかる。本発明によれば、所定の測定装置により光学的手法により血清の検査を行なうだけでその粘度を測定できるため、血管疾患等循環器系疾患の病態及び/またはその変化(この例では心筋梗塞への治療効果)を迅速かつ簡便に測定できる。
【0021】
実施例2:C型肝炎患者の血清粘度測定例
C型肝炎患者20名のアルブミン分子の拡散係数を測定して得た、アルブミンの見かけの粒径ピークの結果を図6に示す。C型肝炎患者でもアルブミン分子の見かけの粒径の大きなシフトが見られ、血清粘度が2倍〜20倍に上昇していることがわかる。また、C型肝炎患者では2峰性を示し、アルブミンピーク以外の異常凝集塊ピークも出現し、粘度上昇を引き起こしていることが推定される。従って、実施例1と同様に、本発明によれば、血管疾患等循環器系疾患の病態及び/またはその変化を迅速かつ簡便に測定し得ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明によれば、少量の血清または血漿試料でさまざまな疾患患者の血清または血漿粘度を簡便に測定でき、血清または血漿粘度上昇によるドロドロ血液で、血管が詰まることによって引き起こされる疾患等、循環器系疾患の病態及び/またはその変化のモニタリングに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明で用いられる粒径測定装置の一例を示す模式図。
【図2】健常者の血清粘度測定参考例を示すグラフ。
【図3】心疾患患者の血清粘度測定参考例を示すグラフ。
【図4】見かけのアルブミン分子の粒径と振動粘度計で求められた粘度の相関関係を示すグラフ。
【図5】心筋梗塞患者の病院入院後の血清粘度とクレアチンキナーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図6】C型肝炎患者の血清粘度測定実施例を示すグラフ。
【符号の説明】
【0024】
1 光源
2 測定セル
3 測定セルを保持するホルダー(ステージ)
4 検知手段
5 入射経路の光学系
5a シャッター
5b フィルター
5d 鏡
5e フィルター
6 受光経路の光学系
6a 偏光素子
6b 集光レンズ
6c、6d ピンホール
7 処理手段
10 コロイド粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血清または血漿中のアルブミン分子のブラウン運動の拡散係数を測定し、前記血清または血漿の粘度を求める方法。
【請求項2】
血清または血漿中のアルブミン分子のブラウン運動の拡散係数を測定してアルブミン分子の見掛け粒度を求め、これをアルブミン分子の見掛け粒度とアルブミン分子が存在する液中の粘度との関係に当て嵌めることにより前記血清または血漿の粘度を求める請求項1に記載の方法。
【請求項3】
血清または血漿中のアルブミン分子のブラウン運動の拡散係数を測定し、前記血清または血漿の粘度を求める装置。
【請求項4】
血清または血漿中のアルブミン分子のブラウン運動の拡散係数を測定してアルブミン分子の見掛け粒度を求め、これをアルブミン分子の見掛け粒度とアルブミン分子が存在する液中の粘度との関係に当て嵌めることにより前記血清または血漿の粘度を求める請求項3に記載の装置。
【請求項5】
32℃〜38℃の範囲内で、一定温度に保たれた血清または血漿アルブミン分子のブラウン運動の拡散係数から血清または血漿粘度を測定し、これを正常値と比較することを特徴とする血管疾患の検査方法。
【請求項6】
検査対象から採取した血清または血漿について、32℃〜38℃の範囲内で、一定温度に保たれた血清または血漿アルブミン分子のブラウン運動の拡散係数から血清または血漿粘度を測定し、これを経時的に比較することを特徴とする血管疾患及び/またはその病態変化の検査方法。
【請求項7】
血管疾患が、心筋梗塞、脳梗塞、肝硬変、膜性腎症、ネフローゼ、生活習慣病、または血清もしくは血漿の過過粘性症候群である請求項5または6記載の検査方法。
【請求項8】
アルブミン分子を含む種々の粘度の液体についてブラウン運動の拡散係数を測定してアルブミン分子の見掛け粒度を求め、これにより粘度と見掛け粒度の関係を求めておき、検査対象から採取した血清または血漿について、32℃〜38℃の範囲内で、一定温度に保たれた血清または血漿アルブミン分子のブラウン運動の拡散係数からその見掛け粒度を求め、これを前記関係に当て嵌めることにより、血清または血漿の粘度を測定する請求項5〜7のいずれかに記載の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−175723(P2008−175723A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−10222(P2007−10222)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【Fターム(参考)】