説明

アルミダイカスト材の改質方法

【課題】
本発明はSiを含有するアルミニウムダイカストにおいて、Siを分散させることにより、耐食性を付与することに関わり、ダイカストの機械的強度も増加させる効果をもたらす方法を提供することである。
【解決手段】
Siを含有するアルミニウムダイカストにおいて、交流電場,高周波加熱,抵抗加熱の作用によりSiを分散させることにより、耐食性を付与する。
【効果】
本発明によれば、本発明はSiを含有するアルミニウムダイカストにおいて、Siを分散させることにより、耐食性を付与することが可能となり、ダイカストの機械的強度も増加できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はADC12のようなSiを含有するアルミニウムダイカスト材(アルミダイカスト材ともいう)の改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウムダイカスト材を供用するに際しては、強度を補償するための厚肉化が採用され、また、耐食性を付与するためにはアルミニウムダイカスト材の陽極酸化や他の物質で表面を被覆する化成処理が多用されていた。
【0003】
アルミニウムダイカスト中のSiについては、Siが凝集することにより、腐食を促進させる表面電位の著しい分布を生ずるために、従来からSiを分散させる方法が提案されている。
【0004】
たとえば、特許文献1に示されているものは、アルミニウムダイカストの凝固プロセス中にヘキサフルオロリン酸塩を加える方法である。
【0005】
また、特許文献2のように合金成分としてMgを添加して凝固させるアルミニウムダイカストの製造プロセスも提案されている。しかし、凝固中に塩を均一に加えることが難しく、Mgが耐食性を劣化させる等の理由で、これらの方法でのアルミニウムダイカストにおけるSi分散はほとんどなされていない。
【0006】
以上のように、アルミニウムダイカスト材でのSi分散を可能にする技術を提供するに至っていない。
【0007】
【特許文献1】特開平02−080157号公報
【特許文献2】特開2005−139552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、ADC12のようなアルミダイカスト材において、Siを分散させ均一な組織とすることが、耐食性向上と機械的強度の増加につながるため、アルミダイカストのSi分布についての改質が課題となる。
【0009】
特に、アルミダイカスト材中のSi原子を移動分散させる、ダイカスト組織の改良が本発明の目的である。
【0010】
したがって、従来のアルミダイカスト材は使用目的によって機械的強度と耐食性に課題を抱えている。
【0011】
本発明は、これらの課題を解決する金属組織改変技術である。
【0012】
以上の技術課題に鑑み、本発明の目的をまとめると以下の通りとなる。
【0013】
本発明の目的は、Siを含有するアルミダイカストに耐食性を付与することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のSiを含有するアルミダイカスト材は、含有率体積百分率のSiが直径10μm以下のSi粒もしくはアルミシリサイド粒として存在することを特徴とする。
【0015】
また、前記アルミダイカスト材に存在するSiの化合物もしくはSi単体の粒体が、体積の分布として30μm3以下に最頻値を有することを特徴とする。
【0016】
更に、Siを1%から20%の範囲の重量百分率で含有するアルミダイカスト材においては、Siが1mm3に細分した体積中において所定の重量百分率±25%で存在することを特徴とする。
【0017】
そして、Siを1%から20%の範囲の重量百分率で含有するアルミダイカスト材においては、25℃3.5%食塩水中における孔食電位が標準水素電極電位で1Vより貴となることを特徴とする。
【0018】
また、Siを含有するアルミダイカスト材の改質方法においては、前記アルミダイカスト材に交流電場を付与することにより、Siをダイカスト中又は/及び表面で分散させることを特徴とする。
【0019】
また、前記アルミダイカスト材に50Hzから20kHzのいずれかの周波数を有する交流電場を付与することにより、Siをダイカスト中又は/及び表面で分散させることを特徴とする。
【0020】
また、前記アルミダイカスト材をアルコール蒸気中で加熱するとともに、交流電場を付与することにより、Siをダイカスト中又は/及び表面で分散させることを特徴とする。
【0021】
なお、アルミダイカスト材に付与する交流電場の代替として、高周波領域の電磁波を付与してもよい。アルミダイカスト材に付与する交流電場としては、アルミダイカストの質量に対する交流電気出力が50W/kgから1000W/kgとなることが好ましい。
【0022】
また、アルミダイカストに付与する交流電場の代替として、高周波領域の電磁波を付与するに際し、高周波の周波数が10MHzから10GHzの範囲で、出力が100W以上であることが好ましい。
【0023】
なお、アルミダイカストに付与する交流電場がアルミダイカスト重量に対して、50W/g以上であることがこのましい。また、アルミダイカストに付与する高周波のエネルギーがアルミダイカスト重量に対して、50W/g以上であることがこのましい。
【0024】
なお、アルコール蒸気中での加熱温度として、70℃以上110℃以下であることが好ましい。エチルアルコール液体もしくはメチルアルコール液体を加熱してアルコール蒸気を作製し、アルミダイカストと接触させることが好ましい。
【0025】
Siを含有するアルミダイカストにおいて、Siを分散させるためには、交流電場、あるいは高周波加熱、もしくは抵抗加熱の作用を用いる。さらにSiを均一分散させるためにアルコール蒸気を用いる。Siを分散させると、耐食性が付与される。
【0026】
耐食性を付与することに加え、ダイカストの機械的強度も増加させることが可能となる。
【0027】
まず、アルミダイカスト中のSiとSi化合物をダイカスト後に拡散移動させて、均一に分散させるためには、50Hzから20kHzのいずれかの周波数を有する交流電場を印加することによって達成される。
【0028】
交流電場を印加する時間はアルミダイカスト重量に対して、50W/g以上となるようにすることが望ましい。さらに、アルコール蒸気を雰囲気とした容器にアルミダイカストを設置することにより、交流電場によるSi分散効果は高まる。
【0029】
特に、アルコール蒸気雰囲気温度を100℃、交流印加でアルミダイカストの電気抵抗により交流印加により200℃の自己発熱が生じた際にはSiの表面及び内部での均一分散が速やかに進行する。
【0030】
あるいは、アルミダイカスト中のSiとSi化合物をダイカスト後に拡散移動させて、均一に分散させるためには、高周波の周波数が1MHzから30MHzの範囲で、出力が100W以上である高周波領域の電磁波を印加することによって達成される。
【0031】
電磁波を印加する時間はアルミダイカスト重量に対して、50W/g以上となるようにすることが望ましい。
【0032】
さらに、アルコール蒸気を雰囲気とした容器にアルミダイカストを設置することにより、電磁波によるSi分散効果は高まる。特にアルコール蒸気雰囲気温度を100℃、電磁波によるアルミダイカストの内部加熱により200℃の自己発熱が生じた際にはSiの表面及び内部での均一分散が速やかに進行する。
【0033】
そこで、アルミダイカストの表面に、高周波もしくは交流電場を印加するシールド配線を接続し、アルコール液を容れた容器中に保持すると、アルコール蒸気との接触が容易となる。さらに、その容器を加熱することにより、アルコールの蒸気を生成しやすくすることが望ましい。
【0034】
また、Si分散の効果を確認することは、アルミダイカストを食塩水中で分極することにより、孔食電位のアノード側へのシフトを計測することで達成される。
【0035】
こうして、特にダイカスト材中のSi原子を移動分散させる、ダイカスト組織の改良が可能となり、アルミニウムダイカスト材は使用目的によって機械的強度と耐食性が向上する。本発明は、これらの課題を解決する金属組織改変技術である。
【0036】
そして、Siを含有するアルミダイカストにSiを均一分散させることができ、生ずる孔食の進展速度を予め予測し、構造部材の材料選択方法を提供することもできる。Siを含有するアルミダイカストにSiを均一分散させ、機械的強度を増加させることも可能である。また、Siを含有するアルミダイカストにSiを均一分散させる装置を提供することも可能である。
【発明の効果】
【0037】
本発明により、Siを含有するアルミダイカストに耐食性を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0039】
以下、本発明の一実施例を説明する。本実施例ではアルミダイカストに生ずる孔食をアノード分極することにより再現して、アルミダイカストの孔食電位と耐食性の関係を説明する。
【0040】
図1は、アルミダイカストADC12の25℃3.5%食塩水中におけるアノード分極測定結果を示す。200Hz100Wの交流電場を30分および60分印加した場合、未処理で観察された920mVでの電流密度の急増で示される孔食電位が1300mVでも観察されず、交流電場を30分および60分印加したアルミダイカスト表面では孔食が発生しなかった。一方アルミダイカストADC12の未処理品はアノード分極後に孔食が発生した。
【0041】
以上のようにして、孔食が発生した後にその深さ方向に孔食が拡大する現象によるアルミダイカストADC12の腐食に関して、交流電場を印加することが腐食防止に有効であることがわかった。
【0042】
以下、本発明の一実施例を説明する。本実施例ではアルミダイカストに生ずる孔食をアノード分極することにより再現して、アルミダイカストの孔食電位と耐食性の関係を説明する。
【0043】
アルミダイカストADC12の25℃3.5%食塩水中におけるアノード分極を測定した。2.45GHz100Wの高周波を30分および60分印加した場合、未処理で観察された920mVでの電流密度の急増で示される孔食電位が1300mVでも観察されず、高周波を30分および60分印加したアルミダイカスト表面では孔食が発生しなかった。一方アルミダイカストADC12の未処理品はアノード分極後に孔食が発生した。
【0044】
以上のようにして、孔食が発生した後にその深さ方向に孔食が拡大する現象によるアルミダイカストADC12の腐食に関して、高周波を印加することが腐食防止に有効であることがわかった。
【0045】
以下、本発明の他の一実施例を説明する。本実施例ではアルミダイカストに生ずるSi分散を電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分析による元素分析で観察した結果を説明する。
【0046】
図2は、アルミダイカストADC12の表面組織の電子顕微鏡観察写真とエネルギー分散型X線分析による元素分析でAlとSiについての分布を測定した結果を示す。200Hz100Wと200Hz200Wの交流電場を30分印加した場合、それぞれ内部抵抗によりアルミダイカストが100℃と200℃に加熱された。未処理で観察されたSiの偏析によってもたらされた局所的分布は、100℃と200℃に交流電場で加熱された表面では見られず、Siを含有する粒子も細分されている。
【0047】
以上のようにして、アルミダイカストADC12のSi分布に関して、交流電場を印加することが均一分散に有効であることがわかった。
【0048】
以下、本発明の他の一実施例を説明する。本実施例ではアルミダイカストに生ずるSi分散を電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分析による元素分析で観察した結果を説明する。
【0049】
図3は、図2で示した無処理のアルミダイカストADC12と交流電場印加による200℃処理したアルミダイカストADC12の表面組織について、Si含有粒子の面積についてその頻度を求めたヒストグラムである。200Hz200Wの交流電場を30分印加した場合、Si含有粒子の最も頻度の高い表面積は3μm2となり、また、分布も10μm2以内の粒子面積に集中した。
【0050】
以上のようにして、アルミダイカストADC12のSi分布に関して、交流電場を印加することがSi含有粒子の微細均一分散に有効であることがわかった。
【0051】
以下、本発明の他の一実施例を説明する。図4は本発明の交流電場を印加するシステムの概略図である。Si含有アルミダイカスト1030ADC12円柱に対して、アルミダイカストを保持して、アルコール蒸気1010に接することを可能とする容器101と、その上部から、交流電場印加のための交流発生装置105からの電流をアルミダイカスト1030に供給するシールド配線1020及びシールド配線1040からなる。交流発生装置で100Wの交流電場を発生させ、シールド配線でアルミダイカストに通電し、内部抵抗で加熱されたアルミダイカストは、アルコール蒸気に接した状態で加熱状態が維持される。
【0052】
以上のようにして作製した交流電場印加システムを使用すれば、当該アルミダイカストのSi含有粒子は微細化され、さらに均一分散することが可能となる。
【0053】
これによれば、Siを含有するアルミニウムダイカストにおいて、Siを分散させることにより、耐食性を付与することに関わり、ダイカストの機械的強度も増加させる効果をもたらす方法を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、アルミダイカスト材を使用するような部材に適用することができ、特に、耐食性が要求されるような部材に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明のADC12における交流電場印加後の分極曲線を示す図。
【図2】本発明のADC12における交流電場印加後の元素分布を示す図。
【図3】本発明のADC12における交流電場印加後でのSi含有粒子の粒子面積分布のヒストグラムを示す図。
【図4】本発明の交流電場印加装置を示す図。
【符号の説明】
【0056】
101 容器
105 交流発生装置
1010 アルコール蒸気
1020 シールド配線
1030 Si含有アルミダイカスト
1040 シールド配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siを含有するアルミダイカスト材において、
含有率体積百分率のSiが直径10μm以下のSi粒もしくはアルミシリサイド粒として存在することを特徴とするアルミダイカスト材。
【請求項2】
Siを含有するアルミダイカスト材において、
前記アルミダイカスト材に存在するSiの化合物もしくはSi単体の粒体が、体積の分布として30μm3以下に最頻値を有することを特徴とするアルミダイカスト材。
【請求項3】
Siを1%から20%の範囲の重量百分率で含有するアルミダイカスト材において、
Siが1mm3に細分した体積中において所定の重量百分率±25%で存在することを特徴とするアルミダイカスト材。
【請求項4】
Siを1%から20%の範囲の重量百分率で含有するアルミダイカスト材において、
25℃3.5%食塩水中における孔食電位が標準水素電極電位で1Vより貴となることを特徴とするアルミダイカスト材。
【請求項5】
Siを含有するアルミダイカスト材の改質方法において、
前記アルミダイカスト材に交流電場を付与することにより、Siをダイカスト中又は/及び表面で分散させることを特徴とするアルミダイカスト材の改質方法。
【請求項6】
Siを含有するアルミダイカスト材の改質方法において、
前記アルミダイカスト材に50Hzから20kHzのいずれかの周波数を有する交流電場を付与することにより、Siをダイカスト中又は/及び表面で分散させることを特徴とするアルミダイカスト材の改質方法。
【請求項7】
Siを含有するアルミダイカスト材の改質方法において、
前記アルミダイカスト材をアルコール蒸気中で加熱するとともに、交流電場を付与することにより、Siをダイカスト中又は/及び表面で分散させることを特徴とするアルミダイカスト材の改質方法。
【請求項8】
請求項5から7において、アルミダイカスト材に付与する交流電場の代替として、高周波領域の電磁波を付与することを特徴とするアルミダイカスト材の改質方法。
【請求項9】
請求項5から7において、アルミダイカスト材に付与する交流電場として、アルミダイカストの質量に対する交流電気出力が50W/kgから1000W/kgとなることを特徴とするアルミダイカスト材の改質方法。
【請求項10】
請求項9において、アルミダイカストに付与する交流電場の代替として、高周波領域の電磁波を付与するに際し、高周波の周波数が10MHzから10GHzの範囲で、出力が100W以上であることを特徴とするアルミダイカスト材の改質方法。
【請求項11】
請求項5から7及び9において、アルミダイカストに付与する交流電場がアルミダイカスト重量に対して、50W/g以上であることを特徴とするアルミダイカスト材の改質方法。
【請求項12】
請求項8及び10において、アルミダイカストに付与する高周波のエネルギーがアルミダイカスト重量に対して、50W/g以上であることを特徴とするアルミダイカスト材の改質方法。
【請求項13】
請求項7において、アルコール蒸気中での加熱温度として、70℃以上110℃以下であることを特徴とするアルミダイカスト材の改質方法。
【請求項14】
請求項13において、エチルアルコール液体もしくはメチルアルコール液体を加熱してアルコール蒸気を作製し、アルミダイカストと接触させることを特徴とするアルミダイカスト材の改質方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−101410(P2009−101410A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−278281(P2007−278281)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】