説明

アルミナセラミックス

【課題】低コストかつ純度の高い低誘電損失のアルミナセラミックスを得る。
【解決手段】化学成分において、SiOをモル比でNaOの2倍以上でかつ0.05質量%以上0.5質量%以下含有し、さらに、Yを0.05質量%以上0.5質量%以下含有し、残部がAlと不可避的不純物からなり、1MHz〜1GHzにおける誘電損失がtanδ=10×10−4以下であり、体積固有抵抗率が1×1014Ωcm以上、密度が3.8g/cm以上であるアルミナセラミックス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波あるいはマイクロ波を用いる装置の絶縁部材等に用いる低誘電損失かつ高抵抗のアルミナセラミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナセラミックスは、比較的安価なセラミックスとして構造用部材、耐摩耗部材、絶縁部材として用いられている。特に一般的なアルミナセラミックスは、体積固有抵抗が1014Ωcm以上とセラミックスの中でも高抵抗な材料であることから、絶縁部材等に広く用いられている。しかしながら、高周波電源部の絶縁部材やマイクロ波部品のパッケージングとして用いる場合、特に純度の低いアルミナセラミックスでは、誘電損失が大きくなり、装置、部品の性能を著しく損なう等の欠点がある。
【0003】
このような問題に対して、不純物の少ない高純度アルミナを用いることにより、誘電損失を小さくする試みがなされているが、近年、装置、部品の高効率化のニーズが高まり、より低誘電損失の材料が求められている。
【0004】
このようなニーズに対し、不純物濃度や添加成分などに関して様々な検討がなされている。特許文献1および 特許文献2には、アルカリ金属が誘電損失を増大させる原因となるため、NaをNaO換算で100ppm以下にすることにより、誘電損失を低減する技術が開示されている。しかしながら、市販されている比較的安価なアルミナ原料は、Al純度が99.9%のものでも、100ppmより多いNaOを含んでおり、100ppm以下の原料は精錬した金属アルミニウムを原料として製造されるため、一般的な低ソーダアルミナ原料と比べ10倍以上の高価格であるため、製品の高コスト化を招く大きな要因となる。
【0005】
特許文献3には、SiOがアルミナ焼結体中のイオン振動を大きくするため、SiO含有量を0.2質量%以下に低減し、さらにYAGを3〜50質量%含有させることにより、誘電損失を低減する技術が開示されている。しかしながら、この技術ではYAG含有量が3質量%未満になると誘電損失が高くなることから98質量%以上の高純度のアルミナセラミックスを得ることができない欠点がある。
【0006】
また、特許文献4および特許文献5には、TiOを析出させることにより誘電損失を低減する方法が開示されている。しかしながら、誘電損失を低減させるためにはTiOを単独で析出させることが必要であり、そのためにCuOあるいはNbをTiOと合わせて4質量%以上添加する必要があるため、99質量%以上の高純度のアルミナセラミックスを得ることができない欠点がある。また、TiO量が多くなると体積固有抵抗が低くなり、絶縁性が損なわれてしまう。
【0007】
特許文献6には酸化合物の成形用バインダーによってNaOとの金属塩を生成させて除去する方法が開示されている。しかしながら、金属塩を生成させるには多量の成形用バインダーを添加する必要があり、脱脂時や焼成時の揮発分が多くなるため亀裂が発生し易いという欠点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−143358号公報
【特許文献2】特開平8−235933号公報
【特許文献3】特開2003−112964号公報
【特許文献4】特開平9−52761号公報
【特許文献5】特開平9−52762号公報
【特許文献6】特開平9−263440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上述べたように、従来技術では、低誘電損失のアルミナセラミックスを得るために、高価な高純度原料を用いる、あるいは誘電損失を低減するための添加剤を多く添加する必要があった。そこで本発明は、低コストかつ純度の高い低誘電損失のアルミナセラミックスを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)化学成分において、SiOをモル比でNaOの2倍以上でかつ0.05質量%以上0.5質量%以下含有し、さらに、Yを0.05質量%以上0.5質量%以下含有し、残部がAlと不可避的不純物からなり、1MHz〜1GHzにおける誘電損失がtanδ=10×10−4以下であり、体積固有抵抗率が1×1014Ωcm以上、密度が3.8g/cm以上であるアルミナセラミックス。
(2)TiOを0.5質量%以下で含有する(1)に記載のアルミナセラミックス。
(3)少なくともSiを33.3mol%以上90mol%以下、Alを5mol%以上33.3mol%以下、Naを5mol%以上33.3mol%以下の割合で含む酸化物および不可避不純物からなる粒界相が存在する(1)または(2)に記載のアルミナセラミックス。
(4)平均結晶粒径が10μm以上である(1)〜(3)のいずれかに記載のアルミナセラミックス。
(5)NaO換算で100ppm以上1000ppm以下のNaを含み、Al
含有量が99.9質量%以上のアルミナ粉末を原料粉末として使用した(1)〜(4)のいずれかに記載のアルミナセラミックス。
【発明の効果】
【0011】
本発明により1MHzから1GHzでの誘電損失が10×10−4以下であり、体積固有抵抗率が1×1014Ωcm以上である安価なアルミナセラミックスが得られ、高周波あるいはマイクロ波で使用される絶縁部材等に有用な材料を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明は、安価な低誘電損失のアルミナセラミックスを得ることを目的としているが、アルミナの誘電損失を増大させる主要因として、粒界での損失や不純物、ポアの影響が挙げられる。発明者らは、原料に不純物として含まれるNaが誘電損失を増大させる大きな原因となることから、安価なアルミナ原料に不可避なNaの影響を低減する方法を鋭意検討した結果、焼結体中のNa量に対して適切な量のSiOを含有させることにより誘電損失を低減できることを見出した。
【0014】
これは、SiO結晶またはSiOを骨格とする非晶質のガラス中にNaを取り込むことにより、Naの影響を低減する効果が現れるためと考えられる。NaのSiOへの取り込みは、SiOの4価のSiサイトで3価のAlによる置換が起こると、正電荷が不足するため、これを補填する形で1価のNaが取り込まれ易くなる。Naを取り込んだSiOは、粒界相として焼結体中に存在する。SiOのAlによる置換とともにNaが取り込まれて生成する化合物としては、NaAlSiが安定な化合物として知られている。粒界相としては、このNaAlSiあるいはNaAlSi4−x(0<x≦2)で示される結晶、あるいはこれらの組成に近い非晶質の状態で存在する。
【0015】
NaAlSi4−xにおいて、x=2の場合、Naに対するSiOのモル割合としては、1:1となり、この比よりもSiOが多くなれば誘電損失を低減させる効果が得られるが、SiOの割合が多くなりすぎると粒界相の割合が多くなり、強度の低下の原因となったり、焼結性を低下させたりする原因となる。このため、Naに対するSiOの割合は、同量以上18倍以下であることが望ましい。また、SiOの4価のSiサイトで発生する3価のAlによる置換量とそれによって取り込まれるNaの量はほぼ同量である。以上のことから、少なくともSi、Al、Naの存在割合(酸化物の場合、酸化物中の酸素を含まないmol%)としては、Si 33.3〜90mol%、Al 5〜33.3mol%、Na 5〜33.3mol%となる酸化物を生成させることが重要である。この粒界相には、Si、Al、Na以外に、Al原料中の他の不純物であるK、Mg、Ca等が結晶あるいは非晶質の状態で存在し得る。
【0016】
一方、アルミナセラミックス中においてNaに対するSiOの割合としては、NaをNaOに換算したモル比で2倍以上のSiOを含有させることにより、1MHz〜1GHzでの誘電損失を大きく低減させることができる。ただし、SiOの含有量としては、0.05質量%より少ないと誘電損失を低減させる効果が少なく、焼結性改善の効果も得られない。また、0.5質量%より多くなると焼結時に粒界に存在する液相が多くなるため、粒成長を妨げるとともに焼結性を低下させてしまうため、アルミナセラミックス中のSiOの含有量はモル比でNaOの2倍以上でかつ0.05質量%以上0.5質量%以下である必要がある。
【0017】
さらにYを0.05質量%以上0.5質量%以下含有させることによって、本発明の目的とする1MHz〜1GHzにおける誘電損失がtanδ=10×10−4以下であり、体積固有抵抗率が1×1014Ωcm以上、密度が3.8g/cm以上という優れた特性を有するアルミナセラミックスを得ることができる。Yは、アルミナの焼結性を改善する効果が大きく、得られる焼結体が緻密になるため、ポアが少なくなり、ポアでの誘電損失が低減する。特にSiOを添加する場合、SiOを単独で添加するだけでは、添加量が多くなると焼結性が悪くなるが、SiOと同時にYを添加することにより緻密な焼結体を得ることが可能となる。Yは、0.05質量%より少ないと焼結性改善の効果が得られない。また、0.5質量%より多いと粒界にYAG相などのY含有相が多く生成するため、粒成長を阻害する原因となるとともに誘電特性を低下させてしまう。従って、Yの含有量は0.05質量%以上0.5質量%以下である必要がある。
【0018】
SiO添加の効果として、Na取り込みによる誘電損失の低減効果の他に、焼結時にAl、Yと液相を生成することにより、アルミナの焼結性を改善するとともに得られるアルミナ焼結体の結晶粒径を増大させる効果がある。粒径が大きくなった場合、粒界の数が少なくなるため、誘電損失を増大させる原因となる粒界での損失が低減されるために誘電損失を低下させる効果がある。
【0019】
TiOは、アルミナ結晶に固溶することにより、Al23の拡散を促進する効果がある。このため、アルミナの焼結時の拡散促進効果により、得られる焼結体の結晶粒径を増大させる効果が特に大きい。このため、SiOによるNa取り込みによる誘電損失の低減とともに、粒径増大の効果によりさらに誘電損失を低下させることが可能となる。TiOは、0.05質量%より少ないと焼結時の粒成長が十分に起こらず、TiO添加による粒径増大の効果が小さくなるので、添加する場合は0.05質量%以上が好ましい。また、0.5質量%より多いと粒成長が著しくなり、結晶粒内にポアを多く取り込むとともに粒界にポアが残りやすくなり緻密な焼結体を得ることが困難になるため、0.5質量%以下である必要がある。
【0020】
本発明のアルミナセラミックスを製造するための原料として用いるアルミナ粉末の粒径については、平均粒径が0.3μm以上2.0μm以下である粉末を用いることが望ましい。平均粒径が0.3μmより小さい原料を用いることも可能であるが、0.3μmより小さい原料は、一般に高価であるため、0.3μm以上の低コストの原料を用いることが望ましい。また、平均粒径が2μmより大きい原料を用いた場合、焼結性に劣り、目的とする緻密な焼結体を得ることが困難となるため、平均粒径2.0μm以下の原料を用いることが望ましい。また、アルミナ粉末に含まれる不純物のNa量については、NaO換算で100ppm以上1000ppm以下のものを用いるのが望ましい。NaがNaO換算で100ppm未満の原料は、一般に特殊な製造方法を用いるため、価格が一般的な低ソーダアルミナ原料より一桁以上高く、安価なアルミナセラミックスを得ることができない。また、NaがNaO換算で1000ppmより多い原料を用いた場合、Naの影響により誘電損失が大きくなり、本発明が目的とするtanδ=10×10−4以下の低誘電損失の材料を得ることが困難になる。市販の低ソーダアルミナ原料では、NaがNa2O換算で100ppm以上500ppm以下の原料が比較的安価であるため、これらの原料を使用して本発明を適用することにより低コストかつ低誘電損失のアルミナセラミックスを得ることができるため、これらの原料を用いることが特に好適である。
【0021】
添加剤として用いるイットリア、シリカ、チタニアの原料には、いずれも平均粒径が0.1μm以上2μm以下の粉末を用いることが望ましい。平均粒径が0.1μmより小さい原料は、一般に高価であるとともに凝集を起こしやすいため、均一に分散させることが困難であることから、0.1μm以上のものを用いることが望ましい。また、平均粒径が2μmより大きいものでは、添加剤の十分な効果を得ることができず、目的とする特性の焼結体を得ることが困難となるため、2μm以下のものを用いることが望ましい。
【0022】
使用するアルミナ原料中のNaをNaOに換算したモル比の2倍以上でかつ添加量が0.05質量%以上0.5質量%以下のシリカ、および所定量のイットリア、チタニアに適量のバインダーによって原料が構成されるが、アルミナ原料中にはSiOが不純物として数百ppm程度含有されているのが一般的で、また製法によってはアルミナ原料中のNaが製造中に揮発する場合があるので、SiOの不純物量やのNaの揮発量を考慮した上で、焼結後に本発明の範囲内となるようにシリカの添加量は適宜調整する必要がある。
【0023】
原料粉末の混合は、均一な混合粉体を得るために、湿式混合を用いることが望ましい。湿式混合の溶媒には、有機溶剤、水などを用いるが、分散剤を用いることにより、より均一な混合が可能となる。また、必要に応じて混合粉末の成形性、成形体の加工性を高めるために、結合剤や可塑剤等の添加物を用いることが望ましい。これらの混合には、回転式ボールミル、アトライターなどを用いることができる。
【0024】
混合後は、乾燥、成形を行うが、特にスプレードライを用いることにより流動性の良い粉体を一度に大量に製造することが可能である。乾燥した粉末の成形は、一軸成形や静水圧加圧成形(CIP)により、所望の形状に成形するが、均一な密度分布を有する焼結体を得るためには、CIP成形法を用いることが望ましい。また、乾燥した粉体を経ずに、泥しょう鋳込み成形法や射出成形法などの方法により混合したスラリーから直接成形する方法を用いることもできる。
【0025】
得られた成形体を焼成することにより緻密な焼結体を得ることができる。焼成は、大気中で行うことが望ましい。窒素ガス雰囲気中もしくはAr等の不活性ガス雰囲気中で行うことも可能であるが、アルミナの焼成で一般的な大気中で行うことが望ましい。
【0026】
焼成は、1300℃以上1700℃以下の温度で行うことが好ましい。1300℃より低い温度では、アルミナの拡散が起こり難く、また、添加成分のY、SiOとAlなどにより形成される液相が生成しにくく、液相を介した焼結が起こりにくくなるため緻密な焼結体を得ることが困難である。また、誘電損失を低下させるためには、焼結体の結晶粒径を大きくすることにより、誘電損失を増大させる要因である粒界の数を低減させることが有効である。特に結晶粒径の平均サイズを10μm以上とした場合、粒界による誘電損失への影響を著しく低減させることができることから、焼成温度は緻密化が十分に起こるとともに粒成長が起こりやすい温度とすることが重要である。特にY、SiO、Alにより液相生成が起こるという点で、焼成は1450℃以上1700℃以下で行うことがより望ましい。1700℃より高い温度で焼成しても緻密な焼結体を得ることは可能であるが、添加剤の揮発が起こり始める可能性があり、粒成長が著しくなりアルミナの結晶粒内や粒界に大きなポアを生じやすくなるため、得られる焼結体の密度が低下してしまう。また、焼成に1700℃より高い温度で使用可能な特殊な炉を用いる必要が生じるという点からも、十分に緻密な焼結体が得られる1700℃以下の温度で焼成することが望ましい。
【0027】
得られる焼結体の結晶粒の平均サイズ(平均結晶粒径)は10μm以上100μm以下であることが望ましい。平均結晶粒径が10μm未満の場合、粒界の数が多くなるため、誘電損失が大きくなるが、平均結晶粒径を10μm以上にすることで粒界での誘電損失を少なくすることができる。また、平均結晶粒径が100μmを超えるとになると大きなポアが欠陥として残存しやすくなるため、このポア部分での誘電損失増加が焼結体の誘電損失を大きくする原因となる。さらに、平均結晶粒径が100μmを超えた場合、得られるアルミナの強度が著しく低下してしまうため、低誘電損失でかつ、高強度で信頼性の高い材料を得るためには、平均結晶粒径は10μm以上100μm以下であることが望ましい。
【0028】
以上の方法により作製したアルミナセラミックスのうち、1MHzから1GHzでの誘電損失がtanδ=10×10−4以下、体積固有抵抗率が1×1014Ωcm以上、密度が3.8g/cm以上のものが本発明となり、高周波あるいはマイクロ波を用いる装置の絶縁部材等に用いる低誘電損失かつ高抵抗のアルミナセラミックスを得ることが可能となる。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
3種類のアルミナ原料粉末として、アルミナ粉末A(純度99.9質量%、平均粒径0.5μm、不純物Na含有量;NaO換算で170ppm)、アルミナ粉末B(純度99.9質量%、平均粒径0.5μm、不純物Na含有量;NaO換算で250ppm)、アルミナ粉末C(純度99.9質量%、平均粒径0.5μm、不純物Na含有量;NaO換算で430ppm)、さらにシリカ粉末(純度99.5%、粒径0.5μm)、イットリア粉末(純度99.9%、平均粒径0.3μm)を用い、蒸留水を加えアルミナ製ボールミルを用い湿式混合した後、スプレードライにより混合粉を得た。得られた混合粉を金型で一軸加圧成形した後,1.4ton/cmの圧力でCIP成形した。この成形体を大気中1600℃で8時間焼成し、焼結体を得た。得られた焼結体のNaO、SiO、Y含有量を化学分析した結果を表1の化学成分の欄に示す。また、JIS−R1634に準拠して測定した密度とJIS−C2138に準拠して測定した誘電損失の結果については表1の特性欄に示す。なお、JIS−C2139に準拠して体積固有抵抗率を測定した結果、全ての焼結体において1×1014Ωcm以上であったため表中への記載は省略する。
【0030】
同表に示すように、本発明による焼結体は、1MHz〜1GHzでの誘電損失がtanδ=10×10−4以下であり、体積固有抵抗率が1×1014Ωcm以上、密度が3.8g/cm以上という優れた特性のアルミナセラミックスとなった。
【0031】
一方、SiOのNaOに対するモル比が2以下の比較例1〜3、SiOまたはY含有量が0.05質量%〜0.5質量%の範囲外である比較例4〜10はいずれも1MHzから1GHzでの誘電損失がtanδ=10×10−4以下という本発明の必要特性を満足することができない。
【0032】
実施例5、実施例13、比較例1にて作製した焼結体を鏡面研磨し、粒界エッチング処理を施した後、EPMAにより粒界部分の化学組成を調査した。化学組成は、粒界部を5点測定し、その平均値からSi、Al、Naの合量を100%とした各成分のモル%を算出した。実施例5は、Si=74mol%、Al=13mol%、Na=13mol%となった。実施例13は、Si=86mol%、Al=7mol%、Na=7mol%となった。比較例1は、Si=30mol%、Al=35mol%、Na=35mol%となった。これらより、Siを33.3mol%以上90mol%以下、Alを5mol%以上33.3mol%以下、Naを5mol%以上33.3mol%以下の割合で含む酸化物からなる粒界相が形成されている方が誘電特性に優れていることが分かる。
【0033】
【表1】

【0034】
(実施例2)
実施例1において使用したアルミナ粉末B、シリカ粉末、イットリア粉末に加えてチタニア粉末(純度99.9%,平均粒径0.5μm)を用い、実施例1と同様の方法で焼結体を作製した。得られた焼結体のNaO、SiO、Y、TiO含有量を化学分析した結果を表2の化学成分の欄に示す。また、JIS−R1634に準拠して測定した密度とJIS−C2138に準拠して測定した誘電損失の結果については表2の特性欄に示す。なお、JIS−C2139に準拠して体積固有抵抗率を測定した結果、全て1×1014Ωcm以上であったため表中への記載は省略する。
【0035】
同表の実施例17〜20に示すように、TiOを0.05質量%以上0.5質量%以下含有させることによって誘電損失を低減させる効果があることが明らかである。TiOを0.7質量%含有する比較例11は密度の低下と共に誘電損失が著しく増大する傾向となるため不適当である。
【0036】
【表2】

【0037】
(実施例3)
表3に示す化学組成となるように、上述した実施例と同様の製造方法によって作製した焼結体を鏡面研磨し、粒界エッチング処理を施した後、SEM観察により測定した平均粒径およびその他の特性を表3に示す。
【0038】
同表に示すように、本発明による誘電損失がtanδ=10×10−4以下の材料は、平均粒径10μm以上であるのに対して、比較例によるものは平均粒径が10μm未満であり、tanδ=10×10-4より高い結果となった。
【0039】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分において、SiOをモル比でNaOの2倍以上でかつ0.05質量%以上0.5質量%以下含有し、さらに、Yを0.05質量%以上0.5質量%以下含有し、残部がAlと不可避的不純物からなり、1MHz〜1GHzにおける誘電損失がtanδ=10×10−4以下であり、体積固有抵抗率が1×1014Ωcm以上、密度が3.8g/cm以上であるアルミナセラミックス。
【請求項2】
TiOを0.5質量%以下で含有する請求項1に記載のアルミナセラミックス。
【請求項3】
少なくともSiを33.3mol%以上90mol%以下、Alを5mol%以上33.3mol%以下、Naを5mol%以上33.3mol%以下の割合で含む酸化物および不可避不純物からなる粒界相が存在する請求項1または請求項2に記載のアルミナセラミックス。
【請求項4】
平均結晶粒径が10μm以上である請求項1〜3のいずれかに記載のアルミナセラミックス。
【請求項5】
NaO換算で100ppm以上1000ppm以下のNaを含み、Al
含有量が99.9質量%以上のアルミナ粉末を原料粉末として使用した請求項1〜4のいずれかに記載のアルミナセラミックス。

【公開番号】特開2012−46365(P2012−46365A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187989(P2010−187989)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【出願人】(306032316)新日鉄マテリアルズ株式会社 (196)
【Fターム(参考)】