説明

アルミナ及びその生成方法

【課題】 フッ素系化合物によってアルミ製品をエッチングすることによって生じるスラッジからアルミナを分離生成する。
【解決手段】 700℃以上に加熱した高温加熱蒸気中に脱水したスラッジを晒して該スラッジに高温加水分解処理を施す。上記フッ素系化合物によって,例えば酸性フッ化アンモニウムNHFHFがアルミ押出形材のアルミAlと反応して生じる(NHAlF(ヘキサフルオロアルミニウムアンモニウム)のスラッジに高温加水分解を施すことによって(NHAlF+3/2HO→1/2Al+3NHFHFの反応を生じさせる。得られた酸性フッ化アンモニウムはエッチングに再利用し,アルミナは窯業,耐火材等に有効利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,例えばアルミ製品のフッ素系化合物水溶液のエッチングによって生じるスラッジ乃至これによって得られるフッ化アルミニウムを出発物質とするアルミナ及びその生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミ製品の表面処理に際して,フッ素系化合物水溶液,例えばフッ化水素アンモニウム水溶液に該アルミ製品,例えばサッシ用アルミ押出材を浸漬して該アルミ製品にフッ素系化合物のエッチングを施すことによってエッチング槽に沈殿蓄積するフッ化水素含有のスラッジからフッ化アルミニウムを生成する方法を提案済みである。
【0003】
これによれば,例えばフッ化水素含有のスラッジを,焼成炉で400〜600℃の高温で焼成することによって該スラッジをフッ化アンモニウムとフッ化アルミニウムとに分離し,フッ化アンモニウムは,これをエッチング槽に戻して再利用する一方,例えば95%程度の高純度として得られるフッ化アルミニウムは,これを常法に従ってフラックス剤や脱酸剤として利用するものとされる。
【0004】
【特許文献1】特開2005−23363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この場合フッ化アンモニウムの再利用が可能となり,クローズドシステムを採用することによってアルミ製品の表面処理に際して生じるフッ素系化合物含有のスラッジを有効に処理して再利用に供することが可能となるが,これによって得られるフッ化アルミニウムの用途は,上記フラックス剤や脱酸剤程度しかなく,その需要が限定されているという状況がある一方で,フッ素系化合物のエッチングを施したアルミ製品は,例えば梨地マット状の色調外観を呈することによって,アルミ調の外観のものに代えてその需要が増大し,これに伴って該フッ素系化合物のエッチングによるスラッジが量的に増大する傾向にある。
【0006】
アルミ製品メーカーはフッ化アルミニウムを自己消費できないから,これを売却する以外にその処理方法がなく,需要が限られる用途のフッ化アルミニウムの供給量を増やすことも不可能であるから,スラッジ量の増大に伴ってスラッジに代えて増加する処理不能のフッ化アルミニウムを蓄積保有せざるを得なくなる可能性がある。
【0007】
然るにフッ素系化合物を使用するエッチングによって生じるスラッジから乃至は上記背景技術を用いた場合に生じるフッ化アルミニウムを中間生成物としてこれからアルミナを分離生成することができれば,その量が増大してもアルミナの需要は多いから,上記スラッジに代る処理不能の蓄積物を抱えるようなことも解消でき,また上記クローズドシステムを採用することによってアルミナと分離生成するフッ素を含有する生成物の再利用を可能とすることができる。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので,その解決課題とするところは,上記フッ素系化合物のエッチングによって生じるスラッジ乃至その中間生成物から生成したアルミナを提供するにあり,また該スラッジ乃至中間生成物からアルミナを生成するアルミナ生成方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に沿って鋭意検討したところ,上記フッ素系化合物,即ちフッ化アンモニウム,フッ化水素酸,ケイフッ酸等の水溶液を用いたエッチングによって生じるスラッジ乃至その中間生成物に対して高温且つ水分子の存在下における分解反応処理,即ち高温加水分解処理を施すことによって,スラッジ乃至その中間生成物から直接にアルミナを分離生成し,実用的にして簡易且つ確実にアルミナを生成することができるとの知見を得るに至った。
【0010】
本発明はかかる知見に基づいてなされたもので,請求項1に記載の発明は,上記スラッジから生成分離したアルミナを提供するように,これを,アルミ製品のフッ素系化合物のエッチングによるスラッジに高温加水分解処理を施して生成したことを特徴とするアルミナとしたものである。
【0011】
請求項2に記載の発明は,上記スラッジの中間生成物から生成分離したアルミナを提供するように,これを,アルミ製品のフッ素系化合物のエッチングによるスラッジの中間生成物に高温加水分解処理を施して生成したことを特徴とするアルミナとしたものである。
【0012】
請求項3に記載の発明は,上記スラッジからアルミナを生成分離するアルミナ生成方法を提供するように,これを,アルミ製品のフッ素系化合物のエッチングによって生じるスラッジに高温加水分解処理を施すことによってフッ化水素又はその化合物と分離してアルミナを生成することを特徴とするアルミナ生成方法としたものである。
【0013】
請求項4に記載の発明は,上記スラッジの中間生成物からアルミナを生成分離するアルミナ生成方法を提供するように,これを,アルミ製品のフッ素系化合物のエッチングによって生じるスラッジに焼成処理を施して中間生成物を分離生成し,該中間生成物に高温加水分解処理を施すことによってフッ化水素又はその化合物と分離してアルミナを生成することを特徴とするアルミナ生成方法としたものである。
【0014】
請求項5に記載の発明は,上記高温加水分解処理の温度を,アルミナの分離生成を可及的確実且つ好適になし得る好ましい形態のものとするように,これを,上記高温加水分解処理を,700℃程度以上の高温で行うことを特徴とする請求項3又は4に記載のアルミナ生成方法としたものである。
【0015】
請求項6に記載の発明は,上記高温加水分解処理の水分子との接触を,アルミナの生成分離を可及的確実且つ好適になし得る好ましい形態のものとするように,これを,上記高温加水分解処理を,高温加熱蒸気に上記スラッジ又は中間生成物を接触させることによって行うことを特徴とする請求項3,4又は5に記載のアルミナ生成方法としたものである。
【0016】
本発明は,これらをそれぞれ発明の要旨として上記課題解決の手段としたものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明は以上のとおりに構成したから,請求項1に記載の発明は,上記フッ素系化合物のエッチングによって生じるスラッジから分離生成したアルミナを提供することができる。
【0018】
請求項2に記載の発明は,上記スラッジの中間生成物から生成分離したアルミナを提供することができる。
【0019】
請求項3に記載の発明は,上記スラッジからアルミナを生成分離するアルミナ生成方法を提供することができる。
【0020】
請求項4に記載の発明は,上記スラッジの中間生成物からアルミナを生成分離するアルミナ生成方法を提供することができる。
【0021】
請求項5に記載の発明は,上記高温加水分解処理の温度を,アルミナの分離生成を可及的確実且つ好適になし得る好ましい形態のものとすることができる。
【0022】
請求項6に記載の発明は,上記高温加水分解処理の水分子との接触を,アルミナの生成分離を可及的確実且つ好適になし得る好ましい形態のものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明にあってアルミナは,アルミ製品のフッ素系化合物の水溶液によるエッチングによるスラッジに高温加水分解処理を施して分離生成し,また該スラッジに,例えば背景技術の如くに熱処理を施す等して得た中間生成物に対して同じく高温加水分解処理を施して分離生成したものとしてあり,該スラッジ又はその中間生成物を出発物質とするアルミナの生成をその生成方法によって説明すれば,該アルミナ生成方法は,アルミ製品のフッ素系化合物のエッチングによって生じるスラッジに高温加水分解処理を施すことによってフッ化水素又はその化合物と分離してアルミナを生成し,またアルミ製品のフッ素系化合物のエッチングによって生じるスラッジに焼成処理を施して中間生成物を分離生成し,該中間生成物に高温加水分解処理を施すことによってフッ化水素又はその化合物と分離してアルミナを生成するものとしてある。
【0024】
即ちアルミ製品のフッ素化合物によるエッチングは,例えばサッシに使用するアルミ(JIS A6063合金)の押出形材に対して所定の陽極酸化,アクリル系塗料の電着塗装を施す表面処理を行うについて,例えばアルカリエッチングに代えて使用することによって表面処理仕上後の外観を梨地マット状の色調外観のものとするために,上記陽極酸化の前処理としてこれを行うものとしてあり,該フッ素化合物によるエッチングは,その水溶液,例えばフッ化アンモニウム,フッ化水素酸,ケイフッ酸等の所定濃度の水溶液をエッチング槽に建浴し,該エッチング槽に上記アルミ押出形材を所定時間浸漬処理することによって該アルミ押出形材の表面にフッ素系化合物,例えばそのフッ化水素による微細溶解を施して,その梨地マット状の色調外観を呈するようにしてある。
【0025】
フッ素系化合物のエッチングを行うと,アルミ押出形材の表面が溶解することによって,エッチング槽にはフッ素を含む生成物質としてのスラッジが沈殿蓄積するが,該スラッジはこれにフッ素を含むことによってそれ自体産業廃棄物として廃棄すべきものとされるところ,該スラッジを出発物質として,上記高温加水分解処理を施すことによって,該出発物質からフッ化水素又はその化合物と分離生成してアルミナを得ることができ,また該スラッジを,例えば高温焼成処理することによって生じた中間生成物についても同様にアルミナを得ることができる。
【0026】
即ちフッ素系化合物水溶液のエッチングに,酸性フッ化アンモニウム(NHFHF)を用いた場合,これがアルミ押出材のAlと反応することによって生じるスラッジ,即ち生成物質は(NHAlF(ヘキサフルオロアンモニウム)となり,例えばこれを乾燥した後に高温加水分解処理を施すことによって,(NHAlF+3/2HO→1/2Al+3NHFHFの反応を生じて,アルミナと酸性フッ化アンモニウムガスとを分離生成することができる。
【0027】
フッ化アンモニウム(NHF)及びフッ化水素酸(HF)を用いた場合,これがアルミ押出材のAlと反応することによって,スラッジ,即ち生成物質は(NHAlF(ヘキサフルオロアルミニウムアンモニウム塩)となり,これに同様に高温加水分解処理を施すことによって,(NHAlF+3/2HO→1/2Al+3NHF+3HFの反応を生じて,アルミナとフッ化アンモニウム及びフッ化水素の混合ガスとを分離生成することができる。
【0028】
フッ化水素酸(HF)を用いた場合,これがアルミ押出材のAlと反応することによって,スラッジ,即ち生成物質はAlF(フッ化アルミニウム)となり,これに同様に高温加水分解処理を施すことによって,AlF+3/2HO→1/2Al+3HFの反応を生じて,アルミナとフッ化水素ガスとを分離生成することができる。
【0029】
ケイフッ酸(HSiF)を用いた場合,これがアルミ押出材のAlと反応することによって,スラッジ,即ち生成物質はAl(SiF(ケイフッ化アルミニウム)となり,これに同様に高温加水分解処理を施すことによって,Al(SiF+3HO→3HSiF+Alの反応を生じて,アルミナとケイフッ酸ガスとを分離生成することができる。
【0030】
また上記背景技術の高温焼成処理を施して得たフッ化アルミニウム(AlF)を出発物質とする場合,上記HF+Alの反応を生じる如くに,フッ素系化合物の中間物質を出発物質とする場合も,同じく高温加水分解処理を施すことによって,これが水分子と反応して同様にアルミナとフッ化水素又はその化合物とを分離生成することができる。
【0031】
上記高温加水分解処理,即ち出発物質を上記スラッジ又はその中間生成物とする高温加水分解処理は,これを,700℃程度以上の高温で行うことが好ましく,また該高温加水分解処理は,これを,高温加熱蒸気に上記スラッジ又は中間生成物を接触させることによって行うことが好ましい。従って該高温加水分解処理は,例えば後述の如くに,上記700℃程度以上の高温に加熱し且つ水蒸気を供給した高温水蒸気密封空間に上記スラッジ又はその中間生成物を投入してこれを行うのが好ましい。
【0032】
高温加水分解処理を,その温度を,例えば600℃程度とすると,処理時間を10時間程度の相当長時間としても,なおアルミナとフッ化水素又はその化合物との分離生成が不十分で,アルミナが幾分生成されるが大量の未反応スラッジ又は中間生成物が残り,処理時間を,例えば数十時間程度とすれば更に分離生成をなし得る可能性があるが,この場合アルミナを生成する高温加水分解処理として工業的に実用性を欠き好ましくない。温度を700℃程度とすると,同じくアルミナとともに一部に未反応スラッジ又は中間生成物が残る傾向があり,同じく処理時間をある程度長時間,例えば数時間とすればその分離生成をなし得るに至るから,実用に供することが可能となる。
【0033】
このとき700℃程度から徐々に温度を上昇すると,例えば725℃で1時間の処理時間の高温加水分解処理を行うと大半はアルミナとなるが,未反応スラッジ又は中間生成物が僅かに残存する傾向を呈する一方,これを750℃とすると,上記1時間の処理時間でアルミナとフッ化水素又はその化合物との分離生成を完全になし得るに至る。従って工業的な実用化に適した処理時間,即ち一般に最大1時間程度の処理時間を考慮すると,該750℃乃至これを幾分下回る,例えば730℃乃至740℃が臨界温度となり,従って該750℃程度,より具体的には730℃程度以上の温度を採用するのが,特に好ましい。
【0034】
一方高温加水分解処理の温度は,好ましい上記700℃程度,特に好ましい750℃近辺を上回れば,アルミナとフッ化水素又はその化合物との分離生成を良好に維持しながら,次第に処理時間が短縮する傾向が生じ,例えば800℃で1/2の30分程度,900℃で10分程度に短縮されるに至り,従って高温加水分解処理の温度を更に上昇して,例えば1000℃以上とすることは妨げないが,アルミナとフッ化水素又はその化合物との分離生成において変わらず,従って高温加水分解処理のためのエネルギーコストがアップするに止まるから,例えば1000℃程度までは使用し得ても,それ以上の温度とすることは技術的意義がなく,同じく工業的な実用性を欠くに至り,従って高温加水分解処理は,これを上記700℃程度以上,特に好ましくは730℃以上,1000℃程度以下,特に好ましくは900℃程度以下とするのがよい。
【0035】
例えば酸性フッ化アンモニウムのエッチングによって生じたスラッジを脱水した後に強制乾燥して出発物質とし,これに温度を750℃,775℃及び800℃とし且つ上記高温水蒸気を用いた各高温加水分解処理を所定時間施すことによって,アルミナの生成量と生成率,酸性フッ化アンモニウムの捕集量及び生成したアルミナのX線解析を行って処理時間とアルミナ生成完了との関係を実験によって確認したところ,表1のとおりであった。
【0036】
【表1】

【0037】
表1において,対スラッジ生成率とは,上記強制乾燥のスラッジ重量と高温加水分解処理後の生成物(残渣物)の重量を測定することにより,生成率=生成物測定重量/スラッジ重量×100によって算出したスラッジに対する生成物の比率を示す。即ち酸性フッ化アンモニウムとアルミの反応によって生じる(NHAlF(ヘキサフルオロアンモニウム塩)は,(NHAlF+3/2HO→1/2Al+3NHFHFの反応で生成するから,その理論生成率は生成物アルミナの分子量(102×1/2)/ヘキサフルオロアンモニウムの分子量(195)×100=26%となる。
【0038】
表1についての詳細な説明は避けるが,該表1によれば750℃で30分の高温加水分解処理ではアルミナとフッ化水素との分離生成が未完であるも,60分とすることによって分離生成が完了し,このときアルミナの対スラッジ生成率は26%強であり,120分までその状態に変化はなく,X線解析のPDF番号12−0539,26−0031のアルミナが生成されることが判明する。775℃では30分で分離生成が完了し,このときアルミナの対スラッジ生成率は26%弱であり,X線解析のPDF番号12−0539,26−0031及び04−0425のアルミナが生成されるが,処理時間を更に継続して90分以上とするとPDF番号10―0173のアルミナ,即ち結晶系のコランダムアルミナの生成が見られるようになる。800℃では30分で分離生成が完了し,このときアルミナの対スラッジ生成率は26%弱であり,60分までその状態に変化はなく,X線解析のPDF番号12−0539,26−0031及び04−0425のアルミナが生成されるが,処理時間を同じく90分以上とすると,同様に結晶系のコランダムアルミナの生成が見られるようになる。
【0039】
なおこれらのアルミナは粉末の残渣として得られるところ,例えば上記背景技術によって得られるフッ化アルミニウムが淡いピンク色を呈するのに対して,その色調はそれぞれ完全に白色を呈するアルミナ100%のものであった。
【0040】
高温加水分解処理は,これを,上記高温加熱蒸気にスラッジ又はその中間生成物を接触させることによるのが好ましいが,該高温加熱蒸気を使用することによりスラッジ又はその中間生成物が高温の加熱蒸気に直接且つ有効に接触する結果,加水分解を可及的効率的且つ確実に行うことによって,アルミナとフッ化水素又はその化合物との分離生成に特に推奨される。
【0041】
この高温加熱蒸気を用いたスラッジの高温加水分解処理は,独立工程としてバッチ的に行うことができるが,エッチング槽に付属するクローズドシステムとして,例えば図1に示す工程図の如くに行うのが,特にアルミナから分離生成したフッ化水素をエッチング槽に戻し,エッチングに再利用する上で好ましい。スラッジの中間生成物の場合はこれに準じてその中間工程からこれを開始すればよい。
【0042】
即ち図1の工程は,エッチング槽からのスラッジをフィルタープレスによって脱水し,その濾過液をエッチング槽に戻す一方,脱水スラッジを乾燥機によって乾燥して乾燥スラッジとし,該乾燥スラッジを高温加水分解炉に投入し,該高温加水分解炉においてスラッジに対する高温加水分解処理を所定時間施し,該高温加水分解炉からフッ化水素又はその化合物と分離生成して無害化したアルミナを取り出して,該アルミナを資源として再利用する。このときボイラーで純水を加熱して得た水蒸気を高温水蒸気発生装置によって高温水蒸気として,加熱装置による加熱を施した高温加水分解炉に供給する。高温加水分解炉への高温水蒸気の供給は,その下方から行うようにするとともに,例えば低速撹拌機を用いて炉内に高温水蒸気が可及的均一に分布するとともに乾燥スラッジを上方から継続的に投入してスラッジと高温水蒸気の接触を可及的高度になし得るようにしてその高温加水分解を施すようにすればよい。高温加水分解炉において上記アルミナと分離したフッ化水素又はその化合物は,熱分解ガスとして高温加水分解炉から凝縮塔に移送し,該凝縮塔に冷却水を供給することによってその凝縮処理を施し,その結果生じるフッ化水素又はその化合物の凝縮液はエッチング槽に戻し,また凝縮塔に沈降残存した沈降凝縮物は,これを上記フィルタープレスに戻してその再利用を行うようにし,更に該凝縮塔からの未凝縮ガスは,これを除害塔に移送し,該除害塔において該ガスに気液接触処理を施すことによって無害化ガスとして大気に放出する一方,気液接触処理によって生じた回収液はエッチング槽に戻し,また同様に除害塔に沈降残存した沈降凝縮物はフィルタープレスに戻して同じくその再利用を行うようにしてある。
【0043】
この工程を採用することによって,高温加水分解炉においてスラッジからアルミナとフッ化水素又はその化合物との分離生成を簡易且つ確実になし得るとともに生成したアルミナは該高温加水分解炉から取り出し,またフッ化水素又はその化合物に対しては凝縮塔及び除害塔による凝縮及び気液接触処理を行うことによってエッチング槽に復帰してその再利用を行う一方,フッ素系化合物を用いてエッチングを行うことによる大気汚染の可能性を完全に解消することができる。
【0044】
スラッジから分離生成したアルミナは,窯業材の骨材,耐火材等各種の用途に有効利用することができる。
【実施例1】
【0045】
フィルタープレスで脱水し乾燥機で乾燥したフッ化水素エッチングのスラッジとして(NHAlF(ヘキサフルオロアルミニウムアンモニウム塩)を載置したボートるつぼを管状炉の反応管中に設置し,反応管に800℃の雰囲気下で高温加熱蒸気を送入して60分間高温加水分解処理を施した。この際分解ガスのPH挙動を観察し,また処理後に生成物及び凝縮液を観察するとともに生成物をX線解析し且つ生成物の当初スラッジに対する重量比を測定した。その結果を表2に示す。生成物は純白にして100%のアルミナ粉末であった。
【実施例2】
【0046】
上記高温加熱蒸気の温度を900℃とした以外,実施例1と同様とした。その結果を表2に示す。生成物は同じく純白にして100%のアルミナ粉末であった。
【実施例3】
【0047】
上記高温加熱蒸気の温度を1000℃とした以外,実施例1と同様とした。その結果を表2に示す。生成物は同じく純白にして100%のアルミナ粉末であった。
【実施例4】
【0048】
上記高温加熱蒸気の温度を700℃とした以外,実施例1と同様とした。その結果を表2に示す。生成物はフッ化アルミニウムと純白にして100%のアルミナ粉末との双方が混在したものであり,即ち高温加水分解処理時間が60分では不足しているが,アルミナが確実に生成されている事実から更に長時間の高温加水分解処理を行うことによってフッ化アルミニウムをフッ化水素とアルミナに分離生成することが可能となることを示すものであった。
【比較例1】
【0049】
上記高温加熱蒸気の温度を600℃とした以外,実施例1と同様とした。その結果を表2に示す。生成物は殆どアルミナ粉末の見られないフッ化アルミニウムであった。
【0050】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】クローズドシステムの工程図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミ製品のフッ素系化合物のエッチングによるスラッジに高温加水分解処理を施して生成したことを特徴とするアルミナ。
【請求項2】
アルミ製品のフッ素系化合物のエッチングによるスラッジの中間生成物に高温加水分解処理を施して生成したことを特徴とするアルミナ。
【請求項3】
アルミ製品のフッ素系化合物のエッチングによって生じるスラッジに高温加水分解処理を施すことによってフッ化水素又はその化合物と分離してアルミナを生成することを特徴とするアルミナ生成方法。
【請求項4】
アルミ製品のフッ素系化合物のエッチングによって生じるスラッジに焼成処理を施して中間生成物を分離生成し,該中間生成物に高温加水分解処理を施すことによってフッ化水素又はその化合物と分離してアルミナを生成することを特徴とするアルミナ生成方法。
【請求項5】
上記高温加水分解処理を,700℃程度以上の高温で行うことを特徴とする請求項3又は4に記載のアルミナ生成方法。
【請求項6】
上記高温加水分解処理を,高温加熱蒸気に上記スラッジ又は中間生成物を接触させることによって行うことを特徴とする請求項3,4又は5に記載のアルミナ生成方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−314371(P2007−314371A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−145521(P2006−145521)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(302045705)トステム株式会社 (949)
【Fターム(参考)】