説明

アルミニウムキレート系潜在性硬化剤及びその製造方法

【課題】アルミニウムキレート系潜在性硬化剤でグリシジルエーテル系エポキシ樹脂を低温速硬化できるようにし、更に、熱硬化型エポキシ樹脂組成物を製造する際に、予めシランカップリング剤をエポキシ樹脂に溶解または分散させる工程を省略できるようにし、また、本来的には、シランカップリング剤(あるいはシラノール化合物)と反応してしまうような官能基を有するエポキシ樹脂等も使用できるようにする。
【解決手段】アルミニウムキレート系潜在性硬化剤は、アルミニウムキレート系硬化剤が、多官能イソシアネート化合物を界面重合させると同時に、ラジカル重合開始剤の存在下で多官能ラジカル重合性化合物をラジカル重合させて得た多孔性樹脂に保持されているものであり、更に、式(A)のシラノール化合物も該多孔性樹脂に保持されているものである。


式中、mは2又は3であり、但しmとnとの和は4である。Arは、置換されてもよいアリール基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムキレート系硬化剤が、多孔性樹脂に保持されてなるアルミニウムキレート系潜在性硬化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エポキシ樹脂に対する低温速硬化活性を示す硬化剤として、多官能イソシアネート化合物を界面重合させて得た多孔性樹脂にアルミニウムキレート系硬化剤を保持させたマイクロカプセル化アルミニウムキレート系潜在性硬化剤が提案されている(特許文献1)。また、このアルミニウムキレート系潜在性硬化剤に、ビニル基等の重合性基とトリアルコキシ基とを有するシランカップリング剤とエポキシ樹脂とを配合した熱硬化型エポキシ樹脂組成物は、一剤型であるにも関わらず、保存安定性に優れており、カチオン重合で低温速硬化するという特性を有するとされている(同特許文献)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−70051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されたアルミニウムキレート系潜在性硬化剤とシランカップリング剤とエポキシ樹脂とを配合した熱硬化型エポキシ樹脂組成物の場合、加熱により重合(硬化)反応を開始させると、シランカップリング剤から生じたシラノレートアニオンがエポキシ樹脂のエポキシ基のβ位炭素に付加して重合停止反応が生じるという問題があった。このため、特許文献1に開示されたアルミニウムキレート系潜在性硬化剤では、β炭素付加反応が生じやすいグリシジルエーテル系エポキシ樹脂を、重合停止反応を生じさせることなく重合させることが困難であり、そのため、製造コストが高いがシラノレートアニオンによるβ位炭素へ付加反応が生じにくい脂環式エポキシ化合物を使用せざるを得ないという問題があった。
【0005】
また、アルミニウムキレート系潜在性硬化剤とシランカップリング剤とエポキシ樹脂とから熱硬化型エポキシ樹脂組成物を製造する際に、予めシランカップリング剤をエポキシ樹脂に溶解または分散させる工程が必須となっており、製造コストの削減のために、そのような溶解または分散工程を省略することが求められていた。また、シランカップリング剤(あるいはそれに代えて使用可能なシラノール化合物)は、熱硬化型エポキシ樹脂組成物中に直接混合されるため、それと意図しない反応をしてしまう官能基を有するエポキシ樹脂等は使用が制約されるという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、以上の従来の技術の課題を解決しようとするものであり、脂環式エポキシ化合物を使用せずに、アルミニウムキレート系潜在性硬化剤でグリシジルエーテル系エポキシ樹脂を低温速硬化できるようにし、更に、熱硬化型エポキシ樹脂組成物を製造する際に、予めシランカップリング剤をエポキシ樹脂に溶解または分散させる工程を省略できるようにし、また、本来的には、シランカップリング剤(あるいはシラノール化合物)と反応してしまうような官能基を有するエポキシ樹脂等も使用できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、アルミニウムキレート系潜在性硬化剤のカチオン触媒形成を促進させるために、特定の高立体障害性化学構造を有するシラノール化合物の使用について研究したところ、予想外にも、多官能イソシアネート化合物の界面重合の際にイソシアネート基との反応性が低いこと、また、界面重合の際に多官能ラジカル重合性化合物を共存させ、ラジカル重合を同時に行うことにより得られるマイクロカプセル壁である多孔性樹脂に、前述した特定の高立体障害性化学構造を有するシラノール化合物が保持されること、しかもその多孔性樹脂に保持された特定のシラノール化合物が、予想外にも重合停止反応を抑制し、アルミニウムキレート系硬化剤とカチオン活性種を形成することから上述の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、アルミニウムキレート系硬化剤が、多官能イソシアネート化合物を界面重合させると同時に、ラジカル重合開始剤の存在下で多官能ラジカル重合性化合物をラジカル重合させて得た多孔性樹脂に保持されているアルミニウムキレート系潜在性硬化剤であって、更に、式(A)のシラノール化合物が該多孔性樹脂に保持されていることを特徴とするアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を提供する。
【0009】
【化1】

【0010】
式中、mは2又は3であり、但しmとnとの和は4である。Arは、置換されてもよいアリール基である。
【0011】
また、本発明は、上述のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤の製造方法であって、
アルミニウムキレート系硬化剤、多官能イソシアネート化合物、多官能ラジカル重合性化合物、ラジカル重合開始剤および式(A)のシラノール化合物とを有機溶媒に溶解または分散させて得た油相を、分散剤を含有する水相に投入しながら加熱撹拌することにより、多官能イソシアネート化合物を界面重合させると同時に多官能ラジカル重合性化合物をラジカル重合反応させ、それにより得られる多孔性樹脂に、アルミニウムキレート剤および式(A)のシラノール化合物を保持させることを特徴とする製造方法を提供する。
【0012】
更に、本発明は、上述のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤と、エポキシ樹脂とを含有する熱硬化型エポキシ樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤においては、特定の高立体障害性化学構造を有するシラノール化合物が、多官能イソシアネート化合物と多官能ラジカル重合性化合物との混合物を同時にそれぞれ界面重合とラジカル重合させて得た多孔性樹脂に保持(換言すれば保護)されている。このため、重合停止反応を抑制できると共に、アルミニウムキレート系硬化剤とカチオン活性種を形成することができる。また、シラノール化合物と反応してしまうような官能基を有するエポキシ樹脂等も使用できる。従って、本発明のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を含有する熱硬化型エポキシ樹脂組成物においては、シラノール化合物を併用しているにも関わらず、エポキシ樹脂としてグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を低温速硬化させることが可能となる。また、特定のシラノール化合物をカプセル壁である多孔性樹脂に保持させているので、熱硬化型エポキシ樹脂組成物を製造する際に、予めシラノール化合物をエポキシ樹脂に溶解または分散させておく工程は不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤の粒度分布図である。
【図2A】実施例1のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真(倍率:2000倍)である。
【図2B】実施例1のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真(倍率:5000倍)である。
【図3】実施例2のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤の粒度分布図である。
【図4A】実施例2のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真(倍率:2000倍)である。
【図4B】実施例2のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真(倍率:5000倍)である。
【図5】実施例4、実施例5および比較例2の熱硬化型エポキシ樹脂組成物のDSC測定図である。
【図6】実施例4および実施例6〜8の熱硬化型エポキシ樹脂組成物のDSC測定図である。
【図7】実施例4および実施例9の熱硬化型エポキシ樹脂組成物のDSC測定図である。
【図8】実施例4および実施例10〜12の熱硬化型エポキシ樹脂組成物のDSC測定図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤は、アルミニウムキレート系硬化剤が、多官能イソシアネート化合物を界面重合させると同時に、ラジカル重合開始剤の存在下で多官能ラジカル重合性化合物をラジカル重合させて得た多孔性樹脂に保持されているものであって、更にその多孔性樹脂に高立体障害性のシラノール化合物も保持されているものである。より具体的には、アルミニウムキレート系硬化剤のコアの周囲を多孔性樹脂のシェルで被覆した単純な構造のマイクロカプセルではなく、多孔性樹脂マトリックス中に存在する微細な多数の孔にアルミニウムキレート系硬化剤が保持された構造のものである。
【0016】
本発明のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤は、界面重合法を利用して製造されるため、その形状は球状であり、その粒子径は硬化性及び分散性の点から、好ましくは0.5〜100μmであり、また、孔の大きさは硬化性及び潜在性の点から、好ましくは5〜150nmである。
【0017】
また、アルミニウムキレート系潜在性硬化剤は、使用する多孔性樹脂の架橋度が小さすぎるとその潜在性が低下し、大きすぎるとその熱応答性が低下する傾向があるので、使用目的に応じて、架橋度が調整された多孔性樹脂を使用することが好ましい。ここで、多孔性樹脂の架橋度は、微小圧縮試験により計測することができる。
【0018】
アルミニウムキレート系潜在性硬化剤は、その界面重合時に使用する有機溶剤を実質的に含有していないこと、具体的には、1ppm以下であることが、硬化安定性の点で好ましい。
【0019】
また、アルミニウムキレート系潜在性硬化剤における多孔性樹脂とアルミニウムキレート硬化剤との配合は、アルミニウムキレート系硬化剤の配合量が少なすぎると、硬化させるべきエポキシ樹脂の硬化性が低下し、多すぎるとアルミニウムキレート系潜在性硬化剤の潜在性が低下するので、多孔性樹脂100質量部に対しアルミニウムキレート系硬化剤の配合量は、好ましくは10〜200質量部、より好ましくは10〜150質量部である。
【0020】
本発明のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤における高立体障害性のシラノール化合物の配合量は、少なすぎると硬化不足となり、多すぎると潜在性が低下するので、多孔性樹脂100質量部に対し、シラノール化合物の配合量は、好ましくは10〜200質量部、より好ましくは10〜150質量部である。
【0021】
本発明で使用する高立体障害性のシラノール化合物は、トリアルコキシ基を有している従来シランカップリング剤とは異なり、以下の式(A)の化学構造を有するアリールシランオールである。
【0022】
【化2】

【0023】
式中、mは2又は3、好ましくは3であり、但しmとnとの和は4である。従って、式(A)のシラノール化合物は、モノまたはジオール体となる。“Ar”は、置換されてもよいアリール基であるが、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基(例えば、1または2−ナフチル基)、アントラセニル基(例えば、1、2または9−アントラセニル基、ベンズ[a]−9−アントラセニル基)、フェナリル基(例えば、3または9−フェナリル基)、ピレニル基(例えば、1−ピレニル基)、アズレニル基、フロオレニル基、ビフェニル基(例えば、2,3または4−ビフェニル基)、チエニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピリジル基等を挙げることができる。中でも、入手容易性、入手コストの観点からフェニル基が好ましい。m個のArは、いずれも同一でもよく異なっていてもよいが、入手容易性の点から同一であることが好ましい。
【0024】
これらのアリール基は、1〜3個の置換基を有することができ、例えば、クロロ、ブロモ等のハロゲン;トリフルオロメチル;ニトロ;スルホ;カルボキシル、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル等のアルコキシカルボニル;ホルミル等の電子吸引基、メチル、エチル、プロピルなどのアルキル;メトキシ、エトキシ等のアルコキシ;ヒドロキシ;アミノ;モノメチルアミノ等のモノアルキルアミノ;ジメチルアミノ等のジアルキルアミノ等の電子供与基などが挙げられる。なお、置換基として電子吸引基を使用することによりシラノールの水酸基の酸度を上げることができ、逆に、電子供与基を使用することにより酸度を下げることができるので、硬化活性のコントロールが可能となる。ここで、m個のAr毎に、置換基が異なっていてもよいが、m個のArについて入手容易性の点から置換基は同一であることが好ましい。また、一部のArだけに置換基があり、他のArに置換基が無くてもよい。置換基を有するフェニル基の具体例としては、2,3または4−メチルフェニル基;2,6−ジメチル、3,5−ジメチル、2,4−ジメチル、2,3−ジメチル、2,5−ジメチル又は3,4−ジメチルフェニル基;2,4,6−トリメチルフェニル基;2または4−エチルフェニル基等が挙げられる。
【0025】
式(A)のシラノール化合物の中でも、好ましいものとして、トリフェニルシラノール又はジフェニルシランジオールが挙げられる。特に好ましいものは、トリフェニルシラノールである。
【0026】
また、本発明のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を構成するアルミニウムキレート剤としては、式(1)に表される、3つのβ−ケトエノラート陰イオンがアルミニウムに配位した錯体化合物が挙げられる。






【0027】
【化3】

【0028】
ここで、R、R及びRは、それぞれ独立的にアルキル基又はアルコキシル基である。アルキル基としては、メチル基、エチル基等が挙げられる。アルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、オレイルオキシ基等が挙げられる。
【0029】
式(1)で表されるアルミニウムキレート剤の具体例としては、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビスオレイルアセトアセテート、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。
【0030】
多孔性樹脂を構成するための多官能イソシアネート化合物は、好ましくは一分子中に2個以上のイソシアネート基、好ましくは3個のイソシアネート基を有する化合物である。このような3官能イソシアネート化合物の更に好ましい例としては、トリメチロールプロパン1モルにジイソシアネート化合物3モルを反応させた式(2)のTMPアダクト体、ジイソシアネート化合物3モルを自己縮合させた式(3)のイソシアヌレート体、ジイソシアネート化合物3モルのうちの2モルから得られるジイソシアネートウレアに残りの1モルのジイソシアネートが縮合した式(4)のビュウレット体が挙げられる。















【0031】
【化4】

【0032】
上記(2)〜(4)において、置換基Rは、ジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた部分である。このようなジイソシアネート化合物の具体例としては、トルエン2,4−ジイソシアネート、トルエン2,6−ジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサヒドロ−m−キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンジフェニル−4,4´−ジイソシアネート等が挙げられる。
【0033】
また、多孔性樹脂を構成するためのもう一つの成分である多官能ラジカル重合性化合物は、多官能イソシアネート化合物の界面重合の際に、同時にラジカル重合し、マイクロカプセル壁を構成する多孔性樹脂の機械的性質を改善する。これにより、エポキシ樹脂の硬化時の熱応答性を高めることができる。
【0034】
このような多官能ラジカル重合性化合物は、分子内に2個以上のCC不飽和結合を有するものであり、ジビニルベンゼンに代表されるビニルモノマー、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等のアクリルモノマー等を例示することができる。中でも、潜在性及び熱応答性の点からジビニルベンゼンを好ましく使用することができる。
【0035】
ラジカル重合開始剤としては、多官能イソシアネート化合物の界面重合条件下で、ラジカル重合を開始させることのできるものであり、例えば、過酸化物系開始剤、アゾ系開始剤等を使用することができる。
【0036】
このような多官能イソシアネート化合物を界面重合させ同時に、ラジカル重合開始剤の存在下で多官能ラジカル重合性化合物をラジカル重合させて得られる多孔性樹脂は、界面重合の間にイソシアネート基の一部が加水分解を受けてアミノ基となり、そのアミノ基とイソシアネート基とが反応して尿素結合を生成してポリマー化して得られる多孔性ポリウレアという側面と、ラジカル重合の間に、ラジカル重合開始剤の分解により生じたラジカルが不飽和結合を連鎖的に結合してなる3次元的ポリマーという側面がある。このような側面を有する多孔性樹脂とその孔に保持されたアルミニウムキレート系硬化剤と式(A)のシラノール化合物とからなるアルミニウムキレート系潜在性硬化剤は、エポキシ樹脂の硬化のために加熱されると、明確な理由は不明であるが、保持されているアルミニウムキレート系硬化剤と式(A)のシラノール化合物とが熱硬化型樹脂と接触できるようになり、硬化反応を進行させることができる。
【0037】
なお、アルミニウムキレート系潜在性硬化剤の構造上、その表面にもアルミニウムキレート剤が存在することになると思われるが、界面重合の際に重合系内に存在する水により不活性化し、アルミニウムキレート剤は多孔性樹脂の内部で保持されたものだけが活性を保持していることになり、結果的に得られる硬化剤は潜在性を獲得できたものと考えられる。
【0038】
本発明のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤は、アルミニウムキレート系硬化剤、多官能イソシアネート化合物、多官能ラジカル重合性化合物、ラジカル重合開始剤および式(A)のシラノール化合物とを有機溶媒に溶解または分散させて得た油相を、分散剤を含有する水相に投入しながら加熱撹拌することにより、多官能イソシアネート化合物を界面重合させると同時に多官能ラジカル重合性化合物をラジカル重合反応させ、それにより得られる多孔性樹脂に、アルミニウムキレート剤および式(A)のシラノール化合物を保持させることにより製造することができる。以下、更に詳細に説明する。
【0039】
この製造方法においては、まず、アルミニウムキレート系硬化剤、多官能イソシアネート化合物、多官能ラジカル重合性化合物、ラジカル重合開始剤および式(A)のシラノール化合物を有機溶剤、好ましくは揮発性有機溶剤に溶解または分散させ、界面重合における油相となる溶液を調製する。ここで、揮発性有機溶剤を使用する好ましい理由は以下の通りである。即ち、通常の界面重合法で使用するような沸点が300℃を超える高沸点溶剤を用いた場合、界面重合の間に有機溶剤が揮発しないために、イソシアネート−水との接触確率が増大せず、それらの間での界面重合の進行度合いが不十分となるからである。そのため、界面重合させても良好な保形性の重合物が得られ難く、また、得られた場合でも重合物に高沸点溶剤が取り込まれたままとなり、熱硬化型樹脂組成物に配合した場合に、高沸点溶剤が熱硬化型樹脂組成物の硬化物の物性に悪影響を与えるからである。このため、この製造方法においては、油相を調製する際に使用する有機溶剤として、揮発性のものを使用することが好ましい。
【0040】
このような揮発性有機溶剤としては、アルミニウムキレート系硬化剤、多官能イソシアネート化合物、多官能ラジカル重合性化合物、ラジカル重合開始剤および式(A)のシラノール化合物のそれぞれの良溶媒(それぞれの溶解度が好ましくは0.1g/ml(有機溶剤)以上)であって、水に対しては実質的に溶解せず(水の溶解度が0.5g/ml(有機溶剤)以下)、大気圧下での沸点が100℃以下のものが好ましい。このような揮発性有機溶剤の具体例としては、アルコール類、酢酸エステル類、ケトン類等が挙げられる。中でも、高極性、低沸点、貧水溶性の点で酢酸エステル類、特に酢酸エチルが好ましい。
【0041】
揮発性有機溶剤の使用量は、アルミニウムキレート系硬化剤、多官能イソシアネート化合物、多官能ラジカル重合性化合物、ラジカル重合開始剤および式(A)のシラノール化合物の合計量100質量部に対し、少なすぎると粒子サイズ及び硬化特性が多分散化し、多すぎると硬化特性が低下するので、好ましくは10〜500質量部である。
【0042】
なお、揮発性有機溶剤の使用量範囲内において、揮発性有機溶剤の使用量を比較的多く使用すること等により、油相となる溶液の粘度を下げることができるが、粘度を下げると撹拌効率が向上するため、反応系における油相滴をより微細化かつ均一化することが可能になり、結果的に得られる潜在性硬化剤粒子径をサブミクロン〜数ミクロン程度の大きさに制御しつつ、粒度分布を単分散とすることが可能となる。油相となる溶液の粘度は1〜100mPa・sに設定することが好ましい。
【0043】
また、多官能イソシアネート化合物等を水相に乳化分散する際にPVAを用いた場合、PVAの水酸基と多官能イソシアネート化合物が反応してしまうため、副生成物が異物として潜在性硬化剤粒子の周囲に付着してしまったり、および粒子形状そのものが異形化してしまったりする。この現象を防ぐためには、多官能イソシアネート化合物と水との反応性を促進すること、あるいは多官能イソシアネート化合物とPVAとの反応性を抑制することが挙げられる。
【0044】
多官能イソシアネート化合物と水との反応性を促進するためには、アルミニウムキレート剤の配合量を多官能イソシアネート化合物の重量で好ましくは1/2以下、より好ましくは1/3以下とする。これにより、多官能イソシアネート化合物と水とが接触する確率が高くなり、PVAが油相滴表面に接触する前に多官能イソシアネート化合物と水とが反応し易くなる。
【0045】
また、多官能イソシアネート化合物とPVAとの反応性を抑制するためには、油相中のアルミニウムキレート系硬化剤の配合量を増大させることが挙げられる。具体的には、アルミニウムキレート系硬化剤の配合量を多官能イソシアネート化合物の重量で好ましくは等倍以上、より好ましくは1.0〜2.0倍とする。これにより、油相滴表面におけるイソシアネート濃度が低下する。さらに多官能イソシアネート化合物は水酸基よりも加水分解により形成されるアミンとの反応(界面重合)速度が大きいため、多官能イソシアネート化合物とPVAとの反応確率を低下させることができる。
【0046】
アルミニウムキレート系硬化剤、多官能イソシアネート化合物、多官能ラジカル重合性化合物、ラジカル重合開始剤および式(A)のシラノール化合物を有機溶剤に溶解または分散させる際には、大気圧下、室温で混合撹拌するだけでもよいが、必要に応じ、加熱してもよい。
【0047】
次に、この製造方法においては、アルミニウムキレート系硬化剤、多官能イソシアネート化合物、多官能ラジカル重合性化合物、ラジカル重合開始剤および式(A)のシラノール化合物を有機溶剤に溶解または分散した油相を、分散剤を含有する水相に投入し、加熱撹拌することにより界面重合とラジカル重合とを行う。ここで、分散剤としては、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン等の通常の界面重合法において使用されるものを使用することができる。分散剤の使用量は、通常、水相の0.1〜10.0質量%である。
【0048】
油相の水相に対する配合量は、油相が少なすぎると多分散化し、多すぎると微細化により凝集が生ずるので、水相100質量部に対し、好ましくは5〜70質量部である。
【0049】
界面重合における乳化条件としては、油相の大きさが好ましくは0.5〜100μmとなるような撹拌条件(撹拌装置ホモジナイザー;撹拌速度6000rpm以上)で、通常、大気圧下、温度30〜80℃、撹拌時間2〜12時間、加熱撹拌する条件を挙げることができる。
【0050】
界面重合およびラジカル重合終了後に、重合体微粒子を濾別し、自然乾燥もしくは真空乾燥することにより本発明で使用できるアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を得ることができる。ここで、多官能イソシアネート化合物の種類や使用量、アルミニウムキレート剤の種類や使用量、界面重合条件、あるいは多官能ラジカル重合性化合物、ラジカル重合開始剤および式(A)のシラノール化合物の種類や使用量、ラジカル重合条件を変化させることにより、アルミニウムキレート系潜在性硬化剤の硬化特性をコントロールすることができる。例えば、重合温度を低くすると硬化温度を低下させることができ、反対に、重合温度を高くすると硬化温度を上昇させることができる。
【0051】
本発明のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤は、エポキシ樹脂に添加することにより、低温速硬化性の熱硬化型エポキシ樹脂組成物を提供することができる。このような熱硬化型エポキシ樹脂組成物も本発明の一部である。
【0052】
なお、本発明の熱硬化型エポキシ樹脂組成物におけるアルミニウムキレート系潜在性硬化剤の含有量は、少なすぎると十分に硬化せず、多すぎるとその組成物の硬化物の樹脂特性(例えば、可撓性)が低下するので、エポキシ樹脂100質量部に対し1〜70質量部、好ましくは1〜50質量部である。
【0053】
本発明の熱硬化型エポキシ樹脂組成物を構成するエポキシ樹脂は、成膜成分として使用されているものである。そのようなエポキシ樹脂としては、脂環式エポキシ樹脂のみならず、従来、アルミニウムキレート系潜在性硬化剤とシラノール化合物との混合系においては使用できなかったグリシジルエーテル型エポキシ樹脂も使用することができる。このようなグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、液状でも固体状でもよく、エポキシ当量が通常100〜4000程度であって、分子中に2以上のエポキシ基を有するものが好ましい。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エステル型エポキシ樹脂等を挙げることができる。中でも、樹脂特性の点からビスフェノールA型エポキシ樹脂を好ましく使用できる。また、これらのエポキシ樹脂にはモノマーやオリゴマーも含まれる。
【0054】
本発明の熱硬化型エポキシ樹脂組成物は、樹脂成分として、このようなグリシジルエーテル型エポキシ樹脂の他に、発熱ピークをシャープにするために、オキセタン化合物を併用することもできる。好ましいオキセタン化合物としては、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、1,4−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、4,4´−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ビフェニル、1,4−ベンゼンジカルボン酸 ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)]メチルエステル、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル、3−エチル−3−{[3−(トリエトキシシリル)プロポキシ]メチル}オキセタン、オキセタニルシルセスキオキサン、フェノールノボラックオキセタン等を挙げることができる。オキセタン化合物を使用する場合、その使用量は、エポキシ樹脂100質量部に対し、好ましくは10〜100質量部、より好ましくは20〜70質量部である。
【0055】
本発明の熱硬化型エポキシ樹脂組成物は、更に必要に応じて、シランカップリング剤、シリカ、マイカなどの充填剤、顔料、帯電防止剤などを含有させることができる。
【0056】
シランカップリング剤は、特開2002−212537号公報の段落0007〜0010に記載されているように、アルミニウムキレート剤と共働して熱硬化性樹脂(例えば、熱硬化性エポキシ樹脂)のカチオン重合を開始させる機能を有する。従って、このような、シランカップリング剤を少量併用することにより、エポキシ樹脂の硬化を促進するという効果が得られる。このようなシランカップリング剤としては、分子中に1〜3の低級アルコキシ基を有するものであり、分子中に熱硬化性樹脂の官能基に対して反応性を有する基、例えば、ビニル基、スチリル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基等を有していてもよい。なお、アミノ基やメルカプト基を有するカップリング剤は、本発明の潜在性硬化剤がカチオン型硬化剤であるため、アミノ基やメルカプト基が発生カチオン種を実質的に捕捉しない場合に使用することができる。
【0057】
このようなシランカップリング剤の具体例としては、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−スチリルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0058】
シランカップリング剤を少量併用する場合、その含有量は、少なすぎると添加効果が望めず、多すぎるとシランカップリング剤から発生するシラノレートアニオンによる重合停止反応の影響が生じてくるので、アルミニウムキレート系潜在性硬化剤100質量部に対し1〜300質量部、好ましくは1〜100質量部である。
【0059】
このようにして得られた本発明の熱硬化型エポキシ樹脂組成物は、硬化剤としてアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を使用しているので、一剤型であるにも関わらず、保存安定性に優れている。また、アルミニウムキレート系潜在性硬化剤で十分に硬化させることができなかったグリシジルエーテル系エポキシ樹脂を含有しているにも関わらず、高立体障害性のシラノール化合物が、アルミニウムキレート系潜在性硬化剤中にカチオン重合触媒促進能を損なわずに含有されているので、熱硬化型エポキシ樹脂組成物を低温速硬化でカチオン重合させることができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0061】
実施例1(アルミニウムキレート系潜在性硬化剤の製造)
蒸留水800質量部と、界面活性剤(ニューレックスR−T、日本油脂(株))0.05質量部と、分散剤としてポリビニルアルコール(PVA−205、(株)クラレ)4質量部とを、温度計を備えた3リットルの界面重合容器に入れ、均一に混合し水相を調製した。
【0062】
この水相に、更に、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)の24%イソプロパノール溶液(アルミキレートD、川研ファインケミカル(株))100質量部と、メチレンジフェニル−4,4´−ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物(D−109、三井化学ポリウレタン(株))70質量部と、トリフェニルシラノール(TPS、東京化成工業(株))50質量部と、ジビニルベンゼン(メルク(株))30質量部と、ラジカル重合開始剤(パーロイルL、日本油脂(株))0.3質量部とを、酢酸エチル100質量部に溶解した油相を投入し、ホモジナイザー(10000rpm/5分)で乳化混合後、80℃で6時間、界面重合とラジカル重合を行った。
【0063】
反応終了後、重合反応液を室温まで放冷し、重合粒子を濾過により濾別し、自然乾燥することにより球状のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を100質量部得た。得られたアルミニウムキレート系潜在性硬化剤について、体積換算の粒度分布を、シースフロー電気抵抗式粒度分布測定装置(SD−2000、シスメックス(株))を用いて測定した。得られた結果を図1に示す。また、電子顕微鏡写真を図2A(倍率:2000倍)と図2B(倍率:5000倍)に示す。これらの結果から、このアルミニウムキレート系潜在性硬化剤はすべてシングルミクロンサイズに制御されており、平均粒子径が3.14μm、最大粒子径が8.43μmであることがわかる。
【0064】
実施例2(アルミニウムキレート系潜在性硬化剤の製造)
トリフェニルシラノールの配合量を50質量部から100質量部に増加させた以外は、実施例1と同様にして、球状のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を150質量部得た。得られたアルミニウムキレート系潜在性硬化剤について、体積換算の粒度分布を、シースフロー電気抵抗式粒度分布測定装置(SD−2000、シスメックス(株))を用いて測定した。得られた結果を図3に示す。また、電子顕微鏡写真を図4A(倍率:2000倍)と図4B(倍率:5000倍)に示す。これらの結果から、このアルミニウムキレート系潜在性硬化剤はすべてシングルミクロンサイズに制御されており、平均粒子径が3.62μm、最大粒子径が8.72μmであることがわかる。なお、シラノール化合物の量が多い実施例2の場合の方が、異形粒子の存在量が増加していることがわかる。
【0065】
実施例3(アルミニウムキレート系潜在性硬化剤の製造)
トリフェニルシラノールに代えて、ジフェニルシランジオール(DPSD)を50質量部使用した以外は、実施例1と同様にして、球状のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を100質量部得た。
【0066】
比較例1
トリフェニルシラノールを全く使用しない以外は、実施例1と同様にして、球状のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を50質量部得た。
【0067】
実施例4〜5、比較例2(熱硬化型エポキシ樹脂組成物の調製)
実施例1、2または比較例1のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤20質量部及びビスフェノールA型エポキシ樹脂(EP828、ジャパンエポキシレジン(株))80質量部を、均一に混合することにより熱硬化型エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0068】
得られた熱硬化型エポキシ樹脂組成物を、示差熱分析装置(DSC)(DSC6200、セイコーインスツル社)を用いて熱分析した。得られた結果を表1及び図5に示す。ここで、アルミニウムキレート系潜在性硬化剤の硬化特性に関し、発熱開始温度は硬化開始温度を意味しており、発熱ピーク温度は最も硬化が活性となる温度を意味しており、発熱終了温度は硬化終了温度を意味しており、そしてピーク面積は発熱量を意味している。総発熱量は、良好な低温速硬化性を実現するために、実用上250J/g以上であることが望まれる。
【0069】
【表1】

【0070】
表1及び図5から解るように、シラノール化合物を保持していない比較例1のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を単独で使用した比較例2の熱硬化型エポキシ樹脂組成物の場合、エポキシ樹脂を硬化させることができないことがわかる。それに対し、シラノール化合物を保持しているアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を使用した実施例4及び5の熱硬化型エポキシ樹脂組成物の場合、潜在性と低温速硬化性が達成されていることがわかる。
【0071】
なお、実施例4と5の結果から、アルミニウムキレート系潜在性硬化剤に保持させるTPSの量を調整することにより、熱硬化型エポキシ樹脂組成物の硬化特性をコントロールできることがわかる。
【0072】
実施例6〜8
実施例1のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤とビスフェノールA型エポキシ樹脂(EP828、ジャパンエポキシレジン(株))とを、表2の配合割合で混合することにより熱硬化型エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0073】
得られた熱硬化型エポキシ樹脂組成物を、示差熱分析装置(DSC)(DSC6200、セイコーインスツル(株))を用いて熱分析した。得られた結果を表2及び図6に示す。参照のために、実施例4の結果も併記する。
【0074】
【表2】

【0075】
表2及び図6から、アルミニウムキレート系潜在性硬化剤の配合割合が増加すると、熱硬化型エポキシ樹脂組成物の発熱開始温度が低温側にシフトし、曲線がブロードになることがわかる。なお、その配合割合が最もすくない実施例6の場合、高温領域にショルダーが生じることが観察できる。従って、良好な低温速硬化性を実現するために、実用上250J/g以上の総発熱量を確保するには、熱硬化型エポキシ樹脂組成物におけるアルミニウムキレート系潜在性硬化剤の配合量を5〜50質量%にすることが好ましいことがわかる。
【0076】
実施例9
トリフェニルシラノールに代えてジフェニルシランジオールを使用する実施例3のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を使用すること以外は、実施例4と同様に熱硬化型エポキシ樹脂組成物を調製した。得られた熱硬化型エポキシ樹脂組成物を、示差熱分析装置(DSC)(DSC6200、セイコーインスツル(株))を用いて熱分析した。得られた結果を表3及び図7に示す。参照のために、実施例4の結果も併記する。

【0077】
【表3】

*1 ダブルピーク
【0078】
表3及び図7の結果から、シラノール化合物として、式(A)におけるmが3であるトリフェニルシラノールと、mが2であるジフェニルシランジオールとを使用した場合には、いずれもエポキシ樹脂を硬化させることができることがわかるが、mが3のシラノール化合物を使用した場合のほうが、低温速硬化性に優れていることがわかる。
【0079】
実施例10〜12
実施例4の熱硬化性エポキシ樹脂組成物中のビスフェノールA型エポキシ樹脂(EP828)の一部を、表4に示すように、オキセタン化合物(ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル:OXT−221、東亜合成(株))に代えること以外は実施例4と同様に熱硬化型エポキシ樹脂組成物を調製した。得られた熱硬化型エポキシ樹脂組成物を、示差熱分析装置(DSC)(DSC6200、セイコーインスツル(株))を用いて熱分析した。得られた結果を表4及び図8に示す。参照のために、実施例4の結果も併記する。
【0080】
【表4】

【0081】
表4及び図8の結果から、オキセタン化合物を併用すると発熱開始温度と発熱ピーク温度とが低温側にシフトする傾向があることがわかる。従って、オキセタン化合物を併用することにより、熱硬化性エポキシ樹脂組成物の低温速硬化性を改善できることがわかる。なお、オキセタン化合物を樹脂成分の30質量部配合すると総発熱量が400J/gを超え、高い反応性を示すことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤は、エポキシ樹脂として安価で汎用のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を含有しているにも関わらず、アルミニウムキレート系潜在性硬化剤で低温で短時間で硬化する。従って、低温短時間接続用のエポキシ系接着剤の潜在性硬化剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムキレート系硬化剤が、多官能イソシアネート化合物を界面重合させると同時に、ラジカル重合開始剤の存在下で多官能ラジカル重合性化合物をラジカル重合させて得た多孔性樹脂に保持されているアルミニウムキレート系潜在性硬化剤であって、更に、式(A)のシラノール化合物が該多孔性樹脂に保持されていることを特徴とするアルミニウムキレート系潜在性硬化剤。
【化1】

(式中、mは2又は3であり、但しmとnとの和は4である。Arは、置換されてもよいアリール基である。)
【請求項2】
Arが、置換されていてもよいフェニル基である請求項1記載のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤。
【請求項3】
シラノール化合物が、トリフェニルシラノール又はジフェニルシランジオールである請求項1又は2記載のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤。
【請求項4】
多官能ラジカル重合性化合物が、ジビニルベンゼンである請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤。
【請求項5】
請求項1記載のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤の製造方法であって、
アルミニウムキレート系硬化剤、多官能イソシアネート化合物、多官能ラジカル重合性化合物、ラジカル重合開始剤および式(A)のシラノール化合物とを有機溶媒に溶解または分散させて得た油相を、分散剤を含有する水相に投入しながら加熱撹拌することにより、多官能イソシアネート化合物を界面重合させると同時に多官能ラジカル重合性化合物をラジカル重合反応させ、それにより得られる多孔性樹脂に、アルミニウムキレート剤および式(A)のシラノール化合物を保持させることを特徴とする製造方法。
【化2】

(式中、mは2又は3であり、但しmとnとの和は4である。Arは、置換されてもよいアリール基である。)
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤と、エポキシ樹脂とを含有する熱硬化型エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
エポキシ樹脂が、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂である請求項6記載の熱硬化型エポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
更に、オキセタン化合物を含有する請求項6または7記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−168449(P2010−168449A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−11337(P2009−11337)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】