説明

アルミニウム合金塗装板の製造方法

【課題】アウターワックスの付着量が極少かつ均一であって、良好な印刷性と成形性を両立するアルミニウム合金塗装板の製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム合金板の少なくとも片面に、樹脂塗料を塗布して樹脂層を形成する樹脂層形成工程S1と、前記アルミニウム合金板の温度を、アウターワックス層を形成するアウターワックスの融点以上に保持しつつ、前記アルミニウム合金板のいずれか片面に、前記アウターワックスを5〜20mg/m2で塗布してアウターワックス層を形成するアウターワックス層形成工程S2と、前記アウターワックス層を形成したアルミニウム合金板を、前記アウターワックスの融点〜融点+20℃の温度範囲でコイル状に巻き取り、アルミニウム合金塗装板を製造するコイル巻き取り工程S3と、を含むことを特徴とするアルミニウム合金塗装板の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金塗装板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金板を、容器材(容器の蓋材)や電子機器部材(電子部品)として使用する場合には、プレス成形性、耐食性、絶縁性等の機能を付与するため、プレス成形前のアルミニウム合金板に予め樹脂塗料が塗装されることがある。
【0003】
このようなアルミニウム合金板の樹脂塗料内には、成形性を向上させることを目的として、予めワックスを添加しておくのが一般的である(このようなワックスをインナーワックスという)。しかし、インナーワックスの添加量が多すぎると、耐食性、絶縁性、アルミニウム合金板と樹脂塗料との密着性等が低下する場合があるので、その添加量を安易に増加させることができない。
そのため、アルミニウム合金板に、樹脂塗料を塗装して焼付けして樹脂層を形成した後、その樹脂層上にさらに少量のワックスを塗布することにより、成形性の向上を図ることがある(このようなワックスをアウターワックスという)。
【0004】
このようなアルミニウム合金塗装板が、食品等の容器の蓋材として使用される場合には、アルミニウム合金塗装板の樹脂層上に、蓋の開け方や注意書き等がUVインキ等により印刷されることがある。また、電子部品として使用される場合には、その部品の性能等が印刷されることがある。
【0005】
このようにアルミニウム合金塗装板を容器の蓋材や電子部品として使用する場合には、例えば、コイル状に巻き取られたアルミニウム合金板を徐々に巻き解きながら、樹脂塗料の塗装工程(焼付を含む)、アウターワックスの塗布工程の各工程を順に行った後、再びコイル状に巻き取る。その後、コイル状のアルミニウム合金塗装板を再度巻き解きながら、印刷工程、プレス成形工程の各工程が順に行われる。
前記プレス成形工程では、アルミニウム合金塗装板の両面にアウターワックスが付着していることが望ましいものの、前記印刷工程では、アルミニウム合金塗装板の印刷面に、アウターワックスが多く付着していると前記UVインキ等の印刷性を阻害することから、少なくとも印刷面におけるアウターワックスの付着量を極少かつ均一にする必要がある。
【0006】
また、アウターワックスの塗布の方法(塗布方法)としては、アウターワックスの付着形態を制御するための方法(特許文献1参照)、アウターワックスの結晶状態を制御するための方法(特許文献2参照)、アウターワックスとインナーワックスの混合比率を制御するための方法(特許文献3参照)等が提案されている。
【0007】
さらに、アルミニウム合金塗装板の片面にアウターワックスを塗布した後、アウターワックスの融点以下でコイル状に巻き取ることにより、一側面側のアウターワックスの付着量を他側面側よりも少なくする方法(特許文献4参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平6−9716号公報
【特許文献2】特開平6−254490号公報
【特許文献3】特開2005−66439号公報
【特許文献4】特開2007−268992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1、2、3に記載のアウターワックスの塗布方法は、アウターワックスの付着形態等を制御するための方法であって、アウターワックスの付着量を制御するための方法ではない。アルミニウム合金塗装板の両面それぞれにアウターワックスを極少かつ均一に塗布することは非常に困難であり、当該方法を用いるのみでは、アウターワックスの付着量を極少にできなかったり、局部的にアウターワックスの付着量が多すぎたりすることがある。
また、特許文献4に記載のアウターワックスの塗布方法を用いた場合では、アウターワックスを片面に塗布したアルミニウム合金塗装板を、アウターワックスの融点以下でコイル状に巻き取ることから、一側面側/他側面側の各面のアウターワックス量を大まかに制御できるものの、コイルの部位によって一側面側/他側面側のアウターワックスの量の割合に差が生じ易く、それぞれの面内におけるアウターワックスの付着量を均一に制御することが困難であった。
そのため、上記の塗布方法を用いて製造されたアルミニウム合金塗装板を印刷した場合には、良好な印刷性と成形性を得ることができなかった。
【0010】
そこで、本発明は、アウターワックスの付着量が極少かつ均一であって、良好な印刷性と成形性を両立するアルミニウム合金塗装板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段として、本発明に係るアルミニウム合金塗装板の製造方法は、アルミニウム合金板の少なくとも片面(印刷される面)に、樹脂塗料を塗布して樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、前記アルミニウム合金板の温度を、アウターワックス層を形成するアウターワックスの融点以上に保持しつつ、前記アルミニウム合金板のいずれか片面に、前記アウターワックスを5〜20mg/m2で塗布してアウターワックス層を形成するアウターワックス層形成工程と、前記アウターワックス層を形成したアルミニウム合金板を、前記アウターワックスの融点〜融点+20℃の温度範囲でコイル状に巻き取り、アルミニウム合金塗装板を製造するコイル巻き取り工程と、を含む手順で行っている。
【0012】
このような手順で行うアルミニウム合金塗装板の製造方法では、樹脂層形成工程において、アルミニウム合金板の少なくとも片面(印刷される面)に、樹脂塗料を塗布することによって、アルミニウム合金板にプレス成形性、印刷性、耐食性、絶縁性等の機能を付与することができる。また、アウターワックス層形成工程において、アルミニウム合金板の温度を、アウターワックス層を形成するアウターワックスの融点以上に保持することによって、アウターワックスをアルミニウム合金板に、十分に(しっかりと)付着させることができる。
【0013】
また、アウターワックス層形成工程において、アルミニウム合金板の樹脂層上に、アウターワックスを5〜20mg/m2で塗布してアウターワックス層を形成することによって、アウターワックスの付着量が適切(極少)となり、良好な印刷性と成形性を両立することができる。
【0014】
また、コイル巻き取り工程において、アウターワックス層を形成したアルミニウム合金板を、アウターワックスの融点〜融点+20℃の温度範囲でコイル状に巻き取ることによって、アルミニウム合金塗装板(コイル状)の両面におけるアウターワックスの付着量が極少かつ均一となり、良好な印刷性と成形性を両立することができる。
【0015】
また、前記アルミニウム合金塗装板の製造方法において、前記アウターワックスは、パラフィンワックスであることが望ましい。
【0016】
このようなアルミニウム合金塗装板の製造方法では、アウターワックスとして、パラフィンワックスを用いることにより、他のアウターワックスを用いる場合と比べ、印刷性を大きく阻害することなく、成形性を向上させることができる。
【0017】
また、前記アルミニウム合金塗装板の製造方法において、前記アウターワックスを塗布する方法は、静電塗布法であることが望ましい。
【0018】
このようなアルミニウム合金塗装板の製造方法では、静電塗布法により、アウターワックスを塗布することによって、その他の塗布方法に比べて、少量(5〜20mg/m2)のアウターワックスを、アルミニウム合金板の樹脂層上に塗布しやすくなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るアルミニウム合金塗装板の製造方法では、アルミニウム合金塗装板の印刷される面(印刷面)に付着するアウターワックスの付着量を極少かつ均一とすることができる。また、アルミニウム合金塗装板の印刷面の反対の面に付着するアウターワックスの付着量も均一とすることができる。そのため、当該方法により製造されたアルミニウム合金塗装板は、良好な印刷性と成形性を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態に係るアルミニウム合金塗装板の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態について、図1を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態に係るアルミニウム合金塗装板の製造方法は、樹脂層形成工程S1と、アウターワックス層形成工程S2と、コイル巻き取り工程S3と、でなる。
【0022】
アルミニウム合金塗装板の製造方法で使用されるアルミニウム合金板は、樹脂層及びアウターワックス層を設けることができるものであれば、特に制限されるものではない。例えば、板厚0.2〜0.4mm程度のJIS H4000に規定される5052合金や5182合金等のAl−Mg系合金板や、3004合金等のAl−Mn系合金を好適に用いることができる。また、アルミニウム合金板の表面には、塗装前処理としてリン酸クロメート処理、ジルコニウムまたはチタニウム等を含む化成処理、あるいは陽極酸化等の化成処理を行なってもよい。これによって、耐食性や樹脂層との密着性を安定して確保する(高める)こと等ができる。
【0023】
樹脂層形成工程S1では、アルミニウム合金板の少なくとも片面(印刷面)に、樹脂塗料を塗布して樹脂層を形成する。なお、この樹脂層形成工程S1には、(ロールコーター等の樹脂塗料を塗布する塗布手段により)樹脂塗料を塗装(塗布)した後の(前記樹脂塗料の種類や用途に適した焼付け温度での)焼付けも含まれている。アルミニウム合金板の少なくとも片面に、樹脂塗料を塗布することによって、アルミニウム合金板にプレス成形性、印刷性、耐食性、絶縁性等の機能を付与することができる。
【0024】
このアルミニウム合金板の少なくとも片面(印刷面)上に形成される樹脂層は、例えば、エポキシ−フェノール系樹脂、エポキシ−尿素系樹脂、アクリル変性エポキシ樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、及び熱硬化ビニル系樹脂の中から選択される少なくとも一つを含んでなる樹脂塗料、またはこれらの樹脂の共重合体を含む樹脂塗料を用いて形成される樹脂層とするのがよい。また、これらの樹脂塗料の溶媒や分散媒は、有機溶剤系及び水系のいずれをも好適に用いることができる。
【0025】
なお、本実施形態では、アルミニウム合金板の少なくとも片面(印刷面)に樹脂塗料を塗布して樹脂層を形成すればよいが、アルミニウム合金板の両面に樹脂塗料を塗布して樹脂層を形成してもよい。
このようにアルミニウム合金板の両面に樹脂塗料を塗布して樹脂層を形成する場合に、アルミニウム合金板の一側面側に塗布する樹脂塗料と、他側面側とに塗布する樹脂塗料とは、同じ種類のものを用いて形成してもよく、また、異なる種類のものを用いてもよい。また、アルミニウム合金板の一側面側と他側面側とに塗布する樹脂塗料を同量塗布してもよく、また、異なる量を塗布してもよい。これらは用途等によって、適宜設定することができる。
【0026】
また、印刷面側の当該樹脂塗料中には、当該樹脂塗料中の固形分に対してインナーワックスを0.1〜5.0質量%含むのが好ましく、0.1〜3.0質量%含むのがより好ましい。
樹脂塗料がインナーワックスを前記した範囲内で含有すると、プレス成形時において良好な成形性を得ることができる。
樹脂塗料中のインナーワックスの含有量が0.1質量%未満であると、前記した効果を得ることができないおそれがある。これに対し、樹脂塗料中のインナーワックスの含有量が5.0質量%を超えると、印刷性が低下するおそれがあるほか、プレス成形の金型にワックス(インナーワックスやアウターワックス)が堆積しやすくなったり、樹脂層とアルミニウム合金板との密着性が低下したりすることがある。
なお、印刷面の反対の面側の樹脂塗料中のインナーワックス含有量については、印刷面ほどの制限は受けないが、成形性を向上させ、かつ、プレス成形時における金型へのワックス堆積や樹脂層とアルミニウム合金板との密着性低下を防止するためには、0.1〜10.0質量%含むのが好ましい。
【0027】
このインナーワックスとしては、カルナウバワックス、ポリエチレンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ラノリンワックス等を単独で用いてもよく、あるいは複数併用してもよい。
【0028】
アウターワックス層形成工程S2では、アルミニウム合金板の温度を、アウターワックス層を形成するアウターワックスの融点以上に保持しつつ、アルミニウム合金板のいずれか片面に、アウターワックスを5〜20mg/m2で塗布してアウターワックス層を形成する。
【0029】
アウターワックスの塗布時におけるアルミニウム合金板の温度は、アウターワックスの融点以上とする。アルミニウム合金板の温度がアウターワックスの融点未満であると、アウターワックスのアルミニウム合金板(の樹脂層)への付着が不十分となり、コイル巻き取り前に接触するロール等にアウターワックスが堆積しやすくなる。なお、アウターワックスの塗布時におけるアルミニウム合金板の温度としては、より好ましくは、アウターワックスの融点+10℃〜融点+50℃の温度範囲とするのがよい。
また、アウターワックスが塗布されるアルミニウム合金板は、一般的に用いられる加熱装置等を用いて、アウターワックスの融点以上に保持される。
【0030】
このアルミニウム合金板上に塗布するアウターワックスとしては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロレータム等を用いることができる。なお、印刷性を大きく阻害することなく、成形性を向上させるためには、アウターワックスを、パラフィンワックスとするのがよい。
また、このアウターワックスの塗布は、融点以上に加熱して液体状にしたアウターワックスを静電塗布法によりスプレーする方法や、ロールコーターでアウターワックスを塗布する方法(ロールコート法)等により行うことができる。なお、(ロールコート法等では、アウターワックスを少量で塗布しにくいが、)静電塗布法であれば、比較的容易に、アウターワックスを5〜20mg/m2(少量)で塗布することができる。静電塗布装置には、スプレーノズルの形式により、回転ノズル式やブレードノズル式等があるが、アルミニウム合金板の部位によるアウターワックス塗布量の偏差を小さくするためには、ブレードノズル式の静電塗布装置が特に好ましい。また、この塗布する量(5〜20mg/m2)については、前記アウターワックス塗布手段を適宜操作することにより決められる。
【0031】
このアルミニウム合金板の樹脂層上に塗布するアウターワックスの量(アウターワックス塗布量)は、(アルミニウム合金塗装板の)印刷面に付着させたいアウターワックスの量と、その反対面に付着させたいアウターワックスの量との合計量とし、その(両面に付着させたい)合計量(5〜20mg/m2)をアルミニウム合金板の片面のみに塗布する。
このようにアルミニウム合金板の樹脂層上にアウターワックスを5〜20mg/m2で塗布することによって、印刷面におけるアウターワックスの付着量が適切(極少)となる。
アウターワックスの塗布(付着)量が5mg/m2未満であると、アウターワックスの付着量が少ないので、成形性が劣ることとなる。一方、アウターワックスの塗布(付着)量が20mg/m2を超えると、アウターワックスの付着量が多いので、印刷性が阻害されたり、プレス成形の金型にワックス(インナーワックスやアウターワックス)が堆積したりすることがある。
なお、アルミニウム合金板の樹脂層上に塗布するアウターワックスの量としては、より好ましくは、5〜15mg/m2とするのがよい。
【0032】
印刷面に付着させたいアウターワックスの量と、その反対面に付着させたいアウターワックスの量を、それぞれの面に均一に塗布することは非常に困難である(極少であるため量的にも困難であるし、さらに均一性を求めることは極めて困難である)が、このように片面のみに合計量を塗布することは比較的容易である。
【0033】
コイル巻き取り工程S3では、アウターワックス層を形成したアルミニウム合金板を、アウターワックスの融点〜融点+20℃の温度範囲でコイル状に巻き取り、アルミニウム合金塗装板を製造する。なお、このコイル巻き取り工程S3には、(巻き取り機等のアルミニウム合金板をコイル状に巻き取る巻き取り手段により)アルミニウム合金板をコイル状に巻き取った後、アウターワックスの融点以下に冷却することも含まれている。
【0034】
このようにアウターワックス層を形成したアルミニウム合金板を、アウターワックスの融点〜融点+20℃の温度範囲でコイル状に巻き取ることによって、溶融(軟化)したアウターワックスが、アウターワックスを塗布した片面からその反対の面に転写される。その結果、アルミニウム合金板の両面に、極少のアウターワックス層が均一に形成される。
このコイル状に巻き取る際の巻き取り温度は、例えば、巻き取り直後のアルミニウム合金板の最外周の幅方向中央部にて接触式の温度計等の温度測定手段により測定することができる。
【0035】
なお、アルミニウム合金板の両面に同じ樹脂塗料が塗装されている場合には、塗布されたアウターワックスのほぼ半量が、アウターワックスを塗布した片面からその反対の面に転写される。一方、アルミニウム合金板の片面のみに樹脂塗料が塗装されている場合や、両面の樹脂塗料が異なる場合(インナーワックスの種類、量が異なる場合等も含む)には、塗布されたアウターワックスの半量が、アウターワックスを塗布した片面からその反対の面に転写されるとは限らない。この場合には、事前試験等により求められている転写割合を考慮して、アウターワックス塗布量を決定する。
さらに、アルミニウム合金板をコイル状に巻き取る際、巻き緩みがあると、アルミニウム合金塗装板の部位によって、アウターワックスの転写割合に差が生じ、結果として、それぞれの面内におけるアウターワックスの付着量が均一とならないことがある。このことから、巻き緩みがないように巻き取る必要がある。
また、上記したアルミニウム合金板や樹脂層の厚さが部位によって異なる場合にも、同様の理由により、アウターワックスの付着量が均一とならないことがあるため、それらの厚さはできる限り均一であることが好ましい。
【0036】
また、アウターワックス層を形成したアルミニウム合金板を、コイル状に巻き取る際の巻き取り温度(コイル巻き取り温度)が、アウターワックスの融点未満の場合、アウターワックスが固体であるため、アウターワックスの転写割合が少なくなりすぎたり、アルミニウム合金板の部位により、アウターワックスの転写割合が不均一となったりしやすい。一方、コイル巻き取り温度が、アウターワックスの融点+20℃を超える場合、アウターワックスが流動しやすくなりすぎるため、アルミニウム合金板の部位により、アウターワックスの付着量が不均一になりやすい。このようなことから、アルミニウム合金塗装板の印刷性、または(及び)成形性が不十分となる。
このコイル巻き取り温度は、例えば、アウターワックスとして融点が60℃のパラフィンワックスを用いる場合には、パラフィンワックスの融点(60℃)〜融点+20℃(80℃)となる。
なお、コイル巻き取り温度としては、より好ましくは、アウターワックスの融点+5℃〜融点+15℃の温度範囲とするのがよい。
【0037】
また、アルミニウム合金板をコイル状に巻き取った後、アウターワックスの融点以下に冷却する方法としては、自然冷却や空冷等により強制冷却する方法が好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0038】
このように適切な条件で、アウターワックス層形成工程S2及びコイル巻き取り工程S3を行うことによって、アルミニウム合金塗装板の少なくとも印刷面に付着するアウターワックスの付着量は極少かつ均一となる。また、アルミニウム合金塗装板の印刷面の反対の面(反対面)に付着するアウターワックスの付着量も均一となる。
なお、本発明のアルミニウム合金塗装板の製造方法は、以上説明したとおりであるが、本発明を行うにあたり、前記各工程の間あるいは前後に、他の工程を含めてもよい。
【実施例】
【0039】
さらに、実施例及び比較例を示しながら、本発明を具体的に説明する。
【0040】
板厚0.25mm、板幅1000mm、長さ5000mのJIS A5052−H18合金板(アルミニウム合金板)に、樹脂層を形成する樹脂塗料の塗装前処理として、Cr換算量で20mg/m2となるように、リン酸クロメート処理を施した。
このリン酸クロメート処理が施されたアルミニウム合金板の両面に、乾燥後の樹脂層(塗膜)重量が4g/m2となるように、水性アクリル変性エポキシ樹脂塗料(インナーワックスとして、ポリエチレンワックスを塗料の固形分に対し1.0質量%添加)を塗装し、その後、ガスオーブン方式の乾燥炉により焼付を行い、樹脂層を形成した。
この樹脂層が形成されたアルミニウム合金板を、空冷にて30℃まで冷却し、その後、アウターワックスであるパラフィンワックス(融点60℃)の融点以上である90℃に再加熱し、このアルミニウム合金板の片面(印刷面の反対面)の樹脂層上に、パラフィンワックスを回転ノズル式の静電塗油機を使用して表1に示すアウターワックス塗布量で塗布し、アウターワックス層を形成した。
そして、このアウターワックス層が形成されたアルミニウム合金板を、表1に示すコイル巻き取り温度でコイル状に巻き取り、巻き取ったコイルを30℃まで自然冷却することによって、アルミニウム合金塗装板を作製(製造)した。
【0041】
表1に、アルミニウム合金板の片面の樹脂層上に塗布したアウターワックス塗布量及びコイル巻き取りの際のコイル巻き取り温度を示す。このコイル巻き取り温度は、コイル巻き取り直後に、アルミニウム合金板の最外周の幅方向中央部にて接触式の温度計を用いて測定した。なお、表1中の下線は、本発明で規定する要件を満たさないことを示す。
【0042】
本実施例及び比較例の評価部位としては、コイル長さ部位3か所(巻き始めから20m、中央、巻き終わりから20m)、コイル幅部位3か所(両エッジから50mm、中央)からなる計9か所であって、当該9か所で後記する印刷性及び成形性の評価を行った。
【0043】
印刷性の評価として、製造したアルミニウム合金塗装板に、UVインキを印刷し、UVを照射し、UVインキを硬化させた後、テープ剥離試験を行い、UVインキの剥離の有無を観察した。
UVインキの剥離が全く無く、非常に良好な評価部位を◎、UVインキを印刷した部位の縁部等において、極めてわずかに剥離したものの、良好な評価部位を○、顕著な剥離が生じた評価部位を×とし、それぞれの数を表1に示した。また、×となった評価部位が全く無かった場合を総合評価の「良」、1か所でも×となった場合を総合評価の「不良」とした。
【0044】
成形性の評価として、印刷面を外面として、アルミニウム合金塗装板を缶(容器)蓋の形状にプレス成形を行い、アルミ素材の割れ、樹脂層(塗膜)の剥離、樹脂層の削れ等の有無を観察した。
樹脂層の剥離や削れが全く無く、非常に良好な評価部位を◎、樹脂層がわずかに削れたが、剥離は無く、良好な評価部位を○、樹脂層に剥離または顕著な削れが生じた評価部位を×とし、それぞれの数を表1に示した。また、×となった評価部位が全く無かった場合を総合評価の「良」、1か所でも×となった場合を総合評価の「不良」とした。
【0045】
【表1】

【0046】
表1からわかるように、アウターワックス塗布量が5〜20mg/m2であること、コイル巻き取り温度がアウターワックス(パラフィンワックス)の融点(60℃)〜融点+20℃(80℃)であることによって、アルミニウム合金塗装板上のアウターワックスの付着量が極少かつ均一となるので、良好な(問題の無い)印刷性と成形性を得ることができた(実施例1〜7)。
つまり、アウターワックス塗布量及びコイル巻き取り温度がともに上記範囲内であるによって、良好な印刷性とプレス成形時の成形性を両立することができ、アルミニウム合金塗装板として好適となる。
【0047】
これに対して、アウターワックスの塗布量が20mg/m2を超えると、アウターワックスの付着量が多くなるので、良好な印刷性を得ることができなかった(比較例8、比較例13、比較例14)。一方、アウターワックスの塗布量が5mg/m2未満であると、アウターワックスの付着量が少ないので、良好な成形性を得ることができなかった(比較例9、比較例12、比較例15)。
また、コイル巻き取り温度がアウターワックス(パラフィンワックス)の融点(60℃)未満であると、アウターワックスの転写割合が不均一かつ少なめとなるので、良好な成形性を得ることができなかった(比較例10)。一方、コイル巻き取り温度がアウターワックスの融点+20℃(80℃)を超えると、アウターワックスの付着量が不均一となるので、良好な印刷性と成形性を得ることができなかった(比較例11)。
つまり、アウターワックス塗布量が5〜20mg/m2、コイル巻き取り温度がアウターワックスの融点〜融点+20℃でなければ、製造されたアルミニウム合金塗装板は、良好な(十分な)印刷性とプレス成形時の成形性を両立することができない。
【0048】
以上のようにアルミニウム合金塗装板の製造方法において、アルミニウム合金板の片面の樹脂層上に、アウターワックスを5〜20mg/m2で塗布してアウターワックス層を形成するアウターワックス層形成工程と、アウターワックス層を形成したアルミニウム合金板を、アウターワックスの融点〜融点+20℃の温度範囲でコイル状に巻き取り、アルミニウム合金塗装板を製造するコイル巻き取り工程と、を含むことによって、当該方法により製造されたアルミニウム合金塗装板は、良好な印刷性と成形性を両立することができる。
【符号の説明】
【0049】
S1 樹脂層形成工程
S2 アウターワックス層形成工程
S3 コイル巻き取り工程


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金板の少なくとも片面に、樹脂塗料を塗布して樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、
前記アルミニウム合金板の温度を、アウターワックス層を形成するアウターワックスの融点以上に保持しつつ、前記アルミニウム合金板のいずれか片面に、前記アウターワックスを5〜20mg/m2で塗布してアウターワックス層を形成するアウターワックス層形成工程と、
前記アウターワックス層を形成したアルミニウム合金板を、前記アウターワックスの融点〜融点+20℃の温度範囲でコイル状に巻き取り、アルミニウム合金塗装板を製造するコイル巻き取り工程と、
を含むことを特徴とするアルミニウム合金塗装板の製造方法。
【請求項2】
前記アウターワックスが、パラフィンワックスであることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金塗装板の製造方法。
【請求項3】
前記アウターワックスを塗布する方法が、静電塗布法であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルミニウム合金塗装板の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2010−234265(P2010−234265A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84991(P2009−84991)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】