説明

アルミニウム合金押出形材及びその製造方法

【課題】 熱伝導率が210W/m・K以上で、且つJISH4100のA6063S−T5の機械的性質を満足するアルミニウム合金押出形材の提供。
【解決手段】 Siを0.4〜0.6質量%、Feを0.25質量%以下、Mgを0.45〜0.6質量%含有し、MnとCrとTiが0.02質量%以下、Vが0.01質量%以下で、残部がAl及び不可避的不純物であり、過時効処理をしてあり、熱伝導率が210W/m・K以上で、且つJISH4100のA6063S−T5の機械的性質を満足するアルミ合金押出形材であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い熱伝導率と高い強度をあわせ持つアルミニウム合金押出形材と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の放熱のため、従来よりアルミニウム合金の押出形材よりなるヒートシンクが用いられている。ヒートシンクの放熱性能を向上させる手段の1つとして、材料の熱伝導率を高めることが一般的に行われている。代表的な押出用アルミニウム合金であるA6063は、押出性に優れ、複雑な断面形状が得られるが、熱伝導率210W/m・K以上の押出形材を安定的に供給することは困難であった。
【0003】
特許文献1には、「Bを添加することで、Al以外の元素、特に熱伝導を低下させるTi,V,Zr,CrをBと晶出物を形成させてアルミニウム母相中に固溶される他の元素の固溶量を低減させると共に、熱間加工後に300〜400℃の温度範囲で焼鈍を行うことにより、母相中に固溶されているMgとSiをMgSiとして析出させ、母相中の固溶量を低減させて熱伝導度の低下を抑制したもの」が記載されている。
特許文献1記載のアルミニウム合金によれば、熱伝導率210W/m・K以上を満足するが、不純物を低減させたことと、熱間加工後に300〜400℃の温度範囲で焼鈍を行ったことでMgSiが粗大に析出することに伴い強度が低下し、JISH4100に規定されるA6063S−T5の機械的性質を満足しない。そのように強度の低いものでは、振動を受ける場所、例えば自動車や電車等の乗り物等に使用することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−217945号公報、3頁、38〜47行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上に述べた実情に鑑み、熱伝導率が210W/m・K以上で、且つJISH4100のA6063S−T5の機械的性質を満足するアルミニウム合金押出形材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を達成するために請求項1記載の発明によるアルミニウム合金押出形材は、Siを0.4〜0.6質量%、Feを0.25質量%以下、Mgを0.45〜0.6質量%含有し、MnとCrとTiが0.02質量%以下、Vが0.01質量%以下で、残部がAl及び不可避的不純物であり、過時効処理をしてあり、熱伝導率が210W/m・K以上であることを特徴とする。
SiとMgを含有するアルミニウム合金押出形材を200℃前後で加熱すると、MgSiの析出により時間の経過と共に硬度が上昇し、ある時間が経過すると硬度がピークに達し、その後は硬度が次第に低下する。過時効処理とは、硬度がピークを過ぎる状態まで時効処理することを意味する。
【0007】
請求項2記載の発明によるアルミニウム合金押出形材の製造方法は、ビレット鋳造時にBを添加し、Bとボライドを形成させて不純物を沈降・除去する処理を行い、Siを0.4〜0.6質量%、Feを0.25質量%以下、Mgを0.45〜0.6質量%含有し、MnとCrとTiを0.02質量%以下、Vを0.01質量%以下に調整したアルミニウム合金ビレットを鋳造し、そのビレットを押出加工し、押出後に過時効処理を行い、熱伝導率を210W/m・K以上とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の発明によるアルミニウム合金押出形材は、Siを0.4〜0.6質量%、Feを0.25質量%以下、Mgを0.45〜0.6質量%含有し、熱伝導率を下げるMn,Cr,Tiが0.02質量%以下、Vが0.01質量%以下であって、過時効処理により母相中に固溶するSiとMgがMgSiとして適度に析出し、これにより熱伝導率が210W/m・K以上で、且つJISH4100のA6063S−T5の機械的性質を満足するものである。本発明のアルミニウム合金押出形材をヒートシンクに適用することで、高い放熱性能が得られ、しかも高い強度を有しているため、自動車等の振動を受ける所に使用しても、破損したり脱落したりといった問題が生ずるのを防止できる。
【0009】
請求項2記載の発明によるアルミニウム合金押出形材の製造方法は、ビレット鋳造時にBを添加し、Bとボライドを形成させて不純物を沈降・除去する処理を行うことで、熱伝導率を低下させるV,Ti等の不純物が低減し、さらに押出後に過時効処理をすることで母相中に固溶するSiとMgがMgSiとして適度に析出するため、熱伝導率が210W/m・K以上で、且つJISH4100のA6063S−T5の機械的性質を満足するアルミニウム合金押出形材を製造できる。本発明の製造方法によるアルミニウム合金押出形材をヒートシンクに適用することで、高い放熱性能が得られ、しかも高い強度を有しているため、自動車等の振動を受ける所に使用しても、破損したり脱落したりといった問題が生ずるのを防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明のアルミニウム合金押出形材は、Siを0.4〜0.6質量%、Feを0.25質量%以下、Mgを0.45〜0.6質量%含有し、Mn,Cr,Tiを0.02質量%以下、Vを0.01質量%以下に調整する。
【0011】
Siは、MgSiを析出させて材料に強度を付与するために添加されるものであり、含有量増とともに強度が向上するが、熱伝導率は低下する。よって、高い強度と高い熱伝導率を確保するため、Siは0.4〜0.6質量%とした。
【0012】
Feは、多すぎると熱伝導率が低下するため、0.25質量%以下とした。
【0013】
Mgは、MgSiを析出させて材料に強度を付与するために添加されるものであり、含有量増とともに強度が向上するが、熱伝導率は低下する。よって、高い強度と高い熱伝導率を確保するため、Mgは0.45〜0.6質量%とした。
【0014】
Mn,Crはアルミニウム合金中に含有されると熱伝導率を低下させる元素であるため、0.02質量%以下に調整する。
【0015】
アルミニウム地金には、不可避不純物としてTi,Vが含まれているが、これらはアルミニウム合金中に含有されると熱伝導率を低下させる元素であるため、本発明のアルミニウム合金押出形材では、ビレット鋳造時にBを微量添加し、Bとボライドを形成させてこれらの不純物を沈降・除去する処理(ボロン処理)を行って、Tiを0.02質量%以下、Vを0.01質量%以下に調整する。鋳造時に溶湯中に添加するBの量は、ビレットの径等によって異なるが、例えば0.01質量%添加することで十分な効果が得られる。ビレット及び押出形材には、Bが残っていても残っていなくてもよいが、熱伝導率を上げるためにはBの残存量が少ない方が好ましい。
【0016】
上述のようにボロン処理を行って、従前の半連続鋳造方法により、Siを0.4〜0.6質量%、Feを0.25質量%以下、Mgを0.45〜0.6質量%含有し、Mn,Cr,Tiを0.02質量%以下、Vを0.01質量%以下に調整したビレットを鋳造し、凝固によって生じたミクロ偏析を均質化するために、ビレットに熱処理を行う(均質化処理)。その後、ビレットを加熱して所望の断面形状に押出加工する。均質化処理と押出加工は、通常のA6063合金と同様の条件で行うことができる。その後、押出した形材に対して過時効処理を行う。過時効処理は、押出後にAl母相中に固溶しているSiとMgをMgSiとして析出させ、形材の強度と熱伝導率を上げるために行われる。通常、A6063合金の押出形材では、おおむね200℃で2時間加熱する時効処理を行い、強度がピークになるようにするが、本発明ではMgSiの析出がそれよりも進み、強度がピーク付近を過ぎた状態となるまで熱処理する。
【0017】
本発明の具体的な実施例を以下に示す。実施例1は、ビレット鋳造時にボロン処理を行い、Si,Fe,Mg,Mn,Cr,Ti,Vの含有量が請求項に特定した範囲の上限付近で、強度が最も高くなる成分のもので、且つ押出後に200℃で16時間加熱する過時効処理をしたものである。実施例2は、ビレット鋳造時にボロン処理を行い、Si,Fe,Mg,Mn,Cr,Ti,Vの含有量が請求項に特定した範囲の下限付近で、熱伝導率が最も高くなる成分のもので、且つ押出後に同様に過時効処理をしたものである。鋳造時に添加したBの量は、いずれも0.01質量%である。なお表1には、Mn,Cr,Ti,Vの合計を記載しているが、個別にはMn,Cr,Tiは0.02質量%以下、Vは0.01質量%以下である。比較例1は、ビレット鋳造時にボロン処理を行い、実施例1と同じ成分としたもので、押出後に通常の時効処理(200℃で2時間加熱)をしたもの、比較例2はビレット鋳造時にボロン処理を行わず、押出後に過時効処理をしたもの、比較例3は従来のA6063合金押出形材であって、鋳造時にボロン処理を行わず、且つ押出後に通常の時効処理をしたものである。
【0018】
【表1】

【0019】
実施例1,2、比較例1〜3の各押出形材について、機械的性質(引張強さ、0.2%耐力、伸び)、導電率及び熱伝導率の試験を行った。その結果を表2に示す。
【0020】
【表2】

【0021】
表2に示すとおり、ビレット鋳造時にボロン処理を行い且つ押出後に過時効処理をした実施例1及び実施例2は、何れもJISH4100のA6063S−T5の規格を十分に満足する優れた機械的性質を示し、尚且つ210W/m・K以上の高い熱伝導率が得られることが確認された。ビレット鋳造時にボロン処理を行い、且つ押出後に通常の時効処理を行った比較例1は、引張強さと耐力は実施例1,2より高いが、熱伝導率は210W/m・Kよりも低くなった。ボロン処理を行わずに押出後に過時効処理を行った比較例2は、引張強さと耐力が実施例1よりも劣り、熱伝導率も210W/m・Kより低くなった。また実施例1,2は、ボロン処理を行わず、押出後に通常の時効処理をした比較例3と比較して、引張強さと耐力が向上し、熱伝導率も向上した。
【0022】
以上の結果より明らかなように、ビレット鋳造時にボロン処理を行ってMn,Cr,Tiを0.02質量%以下、Vを0.01質量%以下に調整し、Siを0.4〜0.6質量%、Feを0.25質量%以下、Mgを0.45〜0.6質量%とし、押出後に過時効処理を行った本発明のアルミニウム合金押出形材は、熱伝導率を低下させるV,Ti等の不純物が低減し、さらに押出後に過時効処理をすることで母相中に固溶するSiとMgがMgSiとして適度に析出するため、熱伝導率が210W/m・K以上で、且つJISH4100のA6063S−T5の機械的性質を満足するものとなる。したがって本アルミニウム合金押出形材をヒートシンクに適用することで、高い放熱性能が得られ、しかも高い強度を有しているため、自動車等の振動を受ける所に使用しても、破損したり脱落したりといった問題が生ずるのを防止できる。
【0023】
本発明は以上に述べた実施形態に限定されない。合金成分は、特許請求の範囲に記載の範囲で適宜変更することができ、また特許請求の範囲に記載されていない元素を含有するものであってもよい。過時効処理は、あまりに長時間行うと強度が低下してJISH4100のA6063S−T5の機械的性質を満足しなくなるので(例えば実施例2の合金成分の場合、200℃で72時間以上の過時効処理を行うと、0.2%耐力がJISH4100のA6063S−T5に規定の110N/mmを下回る)、JISH4100のA6063S−T5の機械的性質を満足するものが得られる範囲で、過時効処理の温度と時間を適宜変更することができる。用途はヒートシンクに限定されるものではなく、高い熱伝導率、高い導電率が求められるものに広く用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siを0.4〜0.6質量%、Feを0.25質量%以下、Mgを0.45〜0.6質量%含有し、MnとCrとTiが0.02質量%以下、Vが0.01質量%以下で、残部がAl及び不可避的不純物であり、過時効処理をしてあり、熱伝導率が210W/m・K以上であることを特徴とするアルミニウム合金押出形材。
【請求項2】
ビレット鋳造時にBを添加し、Bとボライドを形成させて不純物を沈降・除去する処理を行い、Siを0.4〜0.6質量%、Feを0.25質量%以下、Mgを0.45〜0.6質量%含有し、MnとCrとTiを0.02質量%以下、Vを0.01質量%以下に調整したアルミニウム合金ビレットを鋳造し、そのビレットを押出加工し、押出後に過時効処理を行い、熱伝導率を210W/m・K以上とすることを特徴とするアルミニウム合金押出形材の製造方法。

【公開番号】特開2012−172164(P2012−172164A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32759(P2011−32759)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(307021715)三協マテリアル株式会社 (17)
【Fターム(参考)】