説明

アルミニウム合金

【課題】靭性に優れるアルミニウム合金、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明アルミニウム合金は、質量%で、Siを5%以上10%以下、少なくとも1種の希土類元素を合計で1%以上6%以下、Zrを0.3%以上1.5%以下含有し、Fe,Ni,Co,Cr,Mn,Mo,W及びVからなる群から選択される1種以上の遷移元素のうち、Fe及びNiの双方を少なくとも含有し、これら遷移元素を合計で5%以上12%以下含有し、残部が実質的にAlからなる。特定の組成とすることで上記アルミニウム合金は、引張強さが高く、伸びといった靭性に優れる。このアルミニウム合金は、更に、Mgを0.1質量%以上0.5質量%以下含有してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金及びその製造方法に関する。特に、靭性に優れるアルミニウム合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
耐摩耗性を有するアルミニウム合金として、特許文献1,2に記載されるようなAl-Si系合金が知られている。このようなアルミニウム合金からなる部材は、代表的には、エアアトマイズ法などにより得られた急冷凝固粉末を圧粉成形して予備成形体を作製し、予備成形体に温間押出や温間粉末鍛造を施して加工材とし、加工材に更に温間鍛造や切削加工を施して所定の形状にすることで製造される。
【0003】
【特許文献1】WO2002/077308号公報
【特許文献2】特開平11-293374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のアルミニウム合金は、靭性が十分でなく、更なる靭性の向上が望まれている。
【0005】
そこで、本発明の目的の一つは、靭性に優れるアルミニウム合金を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記アルミニウム合金の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、特定の合金組成とする、特に、Siの含有量を低めにすることで上記目的を達成する。本発明アルミニウム合金は、質量%で、Siを5%以上10%以下、少なくとも1種の希土類元素を合計で1%以上6%以下、Zrを0.3%以上1.5%以下含有し、Fe,Ni,Co,Cr,Mn,Mo,W及びVからなる群から選択される1種以上の遷移元素のうち、Fe及びNiの双方を少なくとも含有し、これら遷移元素を合計で5%以上12%以下含有し、残部が実質的にAlからなることを特徴とする。
【0007】
上記組成を具える本発明アルミニウム合金は、引張強さが高く、かつ伸びといった靭性にも優れる。以下、本発明をより詳細に説明する。
【0008】
本発明アルミニウム合金は、Alをマトリクスとし、所定の添加元素(Si,Fe及びNi,希土類元素,Zr、適宜Co,Cr,Mn,Mo,W,V,Mg)を所定量含有する。即ち、本発明アルミニウム合金は、上記添加元素を所定量含有し、残部が実質的にAlからなる。
【0009】
Siは、Alマトリクス中にSi結晶として晶出し、耐摩耗性の向上に寄与する。そのため、従来のAl-Si系合金は、10質量%を超えるSiを含有させていた。しかし、本発明者らは、Siを少なくすると、伸びといった靭性を向上し易いとの知見を得た。一方、Siが少な過ぎると、切削加工を施す際、切粉が細かくならず、切粉の排出性が悪くなる。そこで、靭性の向上と切粉の良好な排出性とを考慮して、本発明アルミニウム合金は、Siの含有量を5質量%以上10質量%以下とする。好ましくは、7質量%以上9質量%以下である。
【0010】
本発明アルミニウム合金は、特定の遷移元素(Fe,Ni,Co,Cr,Mn,Mo,W及びVからなる群から選択される1種以上の元素)を特定範囲(合計で5〜12質量%)含有する。特に、Fe及びNiの双方を少なくとも含有する。従って、Fe及びNiのみで5〜12質量%含有してもよいし、Co,Cr,Mn,Mo,W及びVからなる群から選択される1種以上の元素とFe及びNiとの合計で5〜12質量%含有してもよい。
【0011】
Feは、単独で添加すると、微細なAl-Fe系金属間化合物(IMC,
intermetallic compound)やAl-Si-Fe系金属間化合物をつくり、Alマトリクス中に晶出する。Feに加えてNiを添加すると、Al-Fe系金属間化合物がAl-Fe-Niの3元系金属間化合物となり、より細かくなってAlマトリクス中に晶出する。このような微細な金属間化合物が晶出することで、温間押出や温間粉末鍛造といった温間塑性加工を施す際にAlマトリクスの結晶粒が粗大化することを抑制できる。上記結晶粒の粗大化を抑制することで、合金の強度や靭性を高められる。また、このような微細な金属間化合物がAlマトリクス中に存在することで、耐熱性を高めることもできる。一方、Fe及びNiが多過ぎると、大きな針状の金属間化合物が晶出して合金が脆化し、靭性が低下する。また、Fe及びNiのいずれか一方のみを含有する場合、上述した微細な金属間化合物による靭性の向上が得られ難い。そこで、靭性や強度、耐熱性の向上を考慮して、本発明アルミニウム合金は、Fe及びNiの双方を含有する。上述のように特定の遷移元素のうち、Fe及びNiのみを含有する場合、その含有量は、合計で5質量%以上12質量%以下とし、7質量%以上10質量%以下がより好ましい。また、NiよりもFeの方が多い方が好ましい。
【0012】
本発明アルミニウム合金は、上記Fe及びNiに加えてCo,Cr,Mn,Mo,W,及びVからなる群から選択される1種の遷移元素を含有していてもよい。これらの元素は、AlやAlとSiとの間で微細な金属間化合物を形成し、Alマトリクス中に晶出することで、Alマトリクスの結晶粒の粗大化を抑制する効果がある。一方、これらの元素が多過ぎると、靭性が低下する。好ましい合計含有量は、0.5質量%以上5質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上3質量%以下である。上記の群から選択される元素は、1種でも複数種でもよい。Fe及びNiを加えてこれらの遷移元素を添加する場合、Fe及びNiは少なめにする。具体的には、Fe及びNiの合計含有量を2質量%以上5質量%以下とし、Co,Cr,Mn,Mo,W,及びVとFe及びNiとの合計含有量が7質量%以上10質量%以下とすると、靭性が低下し難い。
【0013】
希土類元素は、AlやAlとSiとの間で微細な金属間化合物を形成し、Alマトリクスの結晶粒界に晶出して、Alマトリクスの結晶粒の粗大化を抑制する効果がある。また、希土類元素は、Al-遷移金属系金属間化合物を小さくしたり、Si結晶を微細にして室温から高温までの引張強さを向上する働きを有する。このような効果を十分に得るには、希土類元素の合計含有量が1質量%以上であることが望ましい。一方、この効果は、6質量%を超えると飽和する。また、希土類元素が多過ぎると、希土類元素を含む金属間化合物が粗大化するなどして靭性の低下を招く。従って、本発明アルミニウム合金は、希土類元素の合計含有量を1質量%以上6質量%以下とする。好ましくは、3質量%以上5質量%以下である。希土類元素は、例えば、CeやLa、MM(ミッシュメタル)といった複数種の元素からなるものが挙げられ、1種でも複数種でもよい。
【0014】
Zrは、Alとの間で微細な金属間化合物を形成し、結晶生成の核となることで、Alマトリクスの結晶粒を微細にし、組織の微細化を図ることができる。この組織の微細化により、靭性が向上し易い。また、Zrは、耐熱性の向上に効果がある。このような効果を十分に得るには、Zrの含有量が0.3質量%以上であることが望ましい。一方、この効果は、1.5質量%を超えると飽和する。また、Zrが多過ぎると粗大な金属間化合物が晶出して靭性の低下を招く。従って、本発明アルミニウム合金は、Zrの含有量を0.3質量%以上1.5質量%以下とする。好ましくは、0.5質量%以上1.0質量%以下である。
【0015】
本発明アルミニウム合金は、Si,Fe及びNi,希土類元素,Zr,適宜Co,Cr,Mn,Mo,W,Vに加えて、微量のMgを含有していてもよい。本発明者らが調べたところ、微量のMgを含有させると、原料粉末の接合性を高めたり、靭性の低下を更に低減できるとの知見を得た。微量のMgは、原料粉末を所定の温度に加熱すると、表面に出てきて、粉末表面の酸化皮膜を破壊して、アルミニウムの新生面を露出させる働きがあり、温間押出や温間粉末鍛造などの温間塑性加工を行う際、粉末の接合性を高められる。また、温間粉末鍛造は、温間押出に比較して靭性が低下し易いが、Mgを所定量含有させることで、靭性の低下を低減することができる。更に、Mgは、固溶強化によって合金の強度を高められる。そのため、Mgを含有することで、強度と靭性との双方がより優れるアルミニウム合金とすることができる。一方、Mgが多過ぎると、靭性や耐熱性を低下させる。Mgの好ましい含有量は、0.1質量%以上0.5質量%以下であり、より好ましくは0.2質量%以上0.4質量%以下である。
【0016】
なお、本発明アルミニウム合金は、添加元素としてTiを含有しない。Tiは、Zrの添加効果を阻害して結晶粒の微細化を妨げ、靭性を低下させる恐れがあるからである。
【0017】
上記組成を具える本発明アルミニウム合金は、上記組成を有するアルミニウム合金からなる粉末で形成した予備成形体に、適宜加熱と温間塑性加工とを施すことで製造することができる。具体的には、以下の本発明製造方法により製造することができる。本発明アルミニウム合金の製造方法は、上記添加元素を含有するアルミニウム合金からなる原料粉末を用意する工程と、この原料粉末を圧粉成形して、予備成形体を作製する工程と、得られた予備成形体を以下の加熱条件で加熱する工程と、加熱した予備成形体に温間塑性加工を施す工程とを具える。
[加熱条件]
加熱温度を380℃以上450℃以下とし、この温度範囲内の所定の温度に到達した後、その到達温度を20分以上5時間以内保持する。
【0018】
原料粉末は、エアアトマイズ法(大気アトマイズ法)や水アトマイズ法といったアトマイズ法などで製造された急冷凝固粉末が好適に利用できる。急冷凝固粉末は、Alマトリクスの結晶粒、Si結晶粒、金属間化合物が微細に形成されており、この微細組織を利用した超塑性的な加工を行うことで、得られたアルミニウム合金の組織も微細組織とすることができる。
【0019】
予備成形体を作製するに当たり、上記原料粉末に圧粉成形を施す際、圧粉成形を加熱状態で行うと、粉末がべとつきハンドリング性が低下する。従って、ハンドリング性を考慮すると、圧粉成形は、冷間で行うことが好ましい。例えば、CIP(静水圧プレス)や冷間金型成形が挙げられる。
【0020】
予備成形体は、相対密度が低く、結晶水や水素などのガスを吸着した状態である。そこで、相対密度を高め、結晶水などを除去するために予備成形体を加熱する。加熱は、例えば、不活性ガス雰囲気炉で行う。このとき、加熱は、加熱温度を380℃以上450℃以下とし、この温度範囲内の所定の温度に到達した後、その到達温度を20分以上5時間以内保持して行うことが好ましい。加熱温度が380℃未満の低温だったり、保持時間が20分未満の短時間であると、結晶水などを十分に除去できない。加熱温度が450℃超の高温だったり、保持時間が5時間超の長時間であると、Si結晶粒などが成長して、微細組織を維持することが難しい。粗大な結晶粒などが存在すると、靭性の低下を招く。より好ましい加熱温度は、390℃以上430℃以下、保持時間は、30分以上2時間以下である。
【0021】
加熱は、誘導加熱により行ってもよい。このとき、予備成形体が450℃以上550℃の温度に曝される時間を15秒以上30分未満とすることが好ましい。より好ましい温度は、460℃以上520℃である。誘導加熱では、主として予備成形体の表面を加熱する。従って、熱伝導により内部の温度も十分に高められるように、加熱温度を雰囲気炉の場合よりも高めにする。
【0022】
加熱した予備成形体に温間塑性加工を施すことで、本発明アルミニウム合金が得られる。得られた本発明アルミニウム合金は、更に緻密化され、結晶水などがほぼ完全に除去されている。温間塑性加工は、予備成形体に圧縮とせん断とを加えて原料粉末の活性な面を露出させ、粉末同士が十分に接合できるような条件(温度,時間,圧力)で行う。このような温間塑性加工として、例えば、温間押出や粉末鍛造などの温間鍛造が挙げられる。この温間塑性加工は、最終製品を得るための加工でもよいし、最終製品を得る途中の中間製品を得るための加工でもよい。中間製品の場合、別途、温間塑性加工や切削加工を施して最終製品を製造する。
【0023】
特に、上記予備成形体に温間粉末鍛造を施して本発明アルミニウム合金を製造する場合、上述のようにMgを所定量含有する原料粉末を用いると、靭性の低下を低減できて好ましい。即ち、Mgを含有する組成からなる原料粉末を用いて形成された予備成形体に温間粉末鍛造を施して製造される本発明アルミニウム合金は、Mgを含有することで靭性に優れる。一方、上記予備成形体に温間押出を施して本発明アルミニウム合金を製造する場合、Mgを含有しない組成としても、Mgを含有する組成と同程度の靭性が得られる。即ち、Mgを含有しない組成からなる原料粉末を用いて形成された予備成形体に温間押出を施して製造される本発明アルミニウム合金は、Mgを含有していなくても靭性に優れる。
【0024】
本発明アルミニウム合金からなる部材(最終製品)を製造する方法を以下に例示する。
(1) 加熱を行った後、最終製品形状となる温間粉末形状鍛造を行う。具体的には、以下の手順で行う。
原料粉末の用意→圧粉成形による予備成形体の作製→加熱時間:450〜550℃、保持時間:15秒〜30分で加熱(誘導加熱)→温間粉末形状鍛造
(2) (1)の加熱後、緻密化及び結晶水などの除去を主たる目的とした温間粉末鍛造を行った後、最終製品形状となる形状鍛造を行ってもよい。具体的には、以下の手順で行う。
原料粉末の用意→圧粉成形による予備成形体の作製→加熱時間:450〜550℃、保持時間:15秒〜30分で加熱(誘導加熱)→粉末鍛造→形状鍛造
(3) (2)の温間粉末鍛造と形状鍛造との間で更に加熱を行ってもよい。具体的には、以下の手順で行う。
原料粉末の用意→圧粉成形による予備成形体の作製→加熱時間:420〜550℃、保持時間:15秒〜15分で加熱(誘導加熱)→粉末鍛造→加熱時間:400〜550℃、保持時間:15秒〜15分で加熱(誘導加熱)→形状鍛造
(4) (3)の温間粉末鍛造を温間押出に変えてもよい。具体的には、以下の手順で行う。
原料粉末の用意→圧粉成形による予備成形体の作製→加熱時間:450〜550℃、保持時間:15秒〜15分で加熱(誘導加熱)→押出→切断→加熱時間:400〜550℃、保持時間:15秒〜15分で加熱(誘導加熱)→形状鍛造
【0025】
本発明アルミニウム合金は、実質的にAlマトリクスの結晶粒、Si結晶粒、及び金属間化合物から構成される。そして、上述のように加熱温度や加熱時間などを制御することで、得られた本発明アルミニウム合金は、上記結晶粒や金属間化合物が微細である組織を有する。
【0026】
特に、Alマトリクスの結晶粒は、平均粒径が0.2μm以上2μm以下であると、超塑性が発現し易く、塑性加工性に優れる。Si結晶粒は、平均粒径が2μm以下であると、塑性加工の際、割れなどの起点が存在し難く、塑性加工性に優れる。金属間化合物は、平均粒径が1μm以下であると、超塑性が発現し易く、塑性加工性に優れる。また、微細な組織は、靭性を向上し易い。
【発明の効果】
【0027】
本発明アルミニウム合金は、靭性に優れる。また、本発明アルミニウム合金の製造方法は、靭性に優れる本発明アルミニウム合金を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
[試験例1]
アルミニウム合金からなる試験片を作製し、機械的特性を調べた。試験片は、以下のようにして作製した。
【0029】
表1,2に示す添加元素(質量%)を含有し、残部が実質的にAlからなる組成のアルミニウム合金溶湯を用意し、大気アトマイズ法により、急冷凝固粉末を作製する。大気アトマイズ法による粉末の製造条件は、公知の条件とする。表2に示す組成は、従来のアルミニウム合金である(試料No.116は試料No.1の組成にTiを添加した試料)。この試験例及び後述する試験例2において表中のMMは、質量%で、La:25%、Ce:50%、Pr:5%、Nd:20%の組成のミッシュメタルである。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
得られた各組成の急冷凝固粉末を圧粉成形して、予備成形体を作製する。具体的には、φ170mm×300mmの形状の予備成形体が得られるようにCIP(静水圧プレス、加圧:1.5ton/cm2)により作製する。得られた各予備成形体の相対密度は、約70%である。
【0033】
得られた各組成の予備成形体を加熱する。加熱は、雰囲気炉(不活性雰囲気)を用いて行い、加熱温度を400℃とし、400℃に到達した後、その到達温度を1時間保持して行う。
【0034】
加熱した各組成の予備成形体に温間押出を行い、棒状の押出加工材(φ40mm)を作製する。押出は、押出比:20として行う。
【0035】
得られた各組成の押出加工材に切削加工を施し、試験片を作製する。試験片10は、図1(II)に示すように押出加工材100の中間部から切り出して作製した長さL=30mmの棒状体で両端が太径、中間部が細径の部材である。太径部分は、つかみ部で直径がM8mm(ねじ切り)、細径部分は、直径R0がφ3mmで、標点距離L0=5mmである。
【0036】
上記押出加工材から切り出して得られた各試験片について、引張強さ及び伸びを測定した。その結果を表3,4に示す。引張強さ及び伸びは、いずれも室温で測定した。
【0037】
また、各押出加工材に切削加工を施した際の切粉の状態を観察した。その結果も表3,4に示す。切削加工は、切り込み=0.1mm、周速(速度)=400m/分で行った。切粉の評価は、切粉が2mm以下の細かい状態となっているものを○、2mmを超える大きい状態となっているものを×とした。
【0038】
更に、各試験片のSi結晶粒の平均粒径(μm)、金属間化合物(IMC)の平均粒径(μm)、Alマトリクスの結晶粒の平均粒径(μm)を測定した。その結果も表3,4に示す。各平均粒径は、各試験片の断面を顕微鏡観察し、JIS G 0551(鋼−結晶粒度の顕微鏡試験方法)に準じて行った。なお、試験片の断面を観察したところ、個々の原料粉末は伸びて線状となっていた。
【0039】
【表3】

【0040】
【表4】

【0041】
試料No.1〜28において、質量%で、Si:5〜10%、Fe,Ni,Co,Cr,Mn,Mo,W及びVから選択される遷移元素(但し、Fe及びNiを必須とする):合計5〜12%、希土類元素:合計1〜6%、Zr:0.3〜1.5%含有し、残部:実質的にAlからなるアルミニウム合金、更に、Mg:0.1〜0.5%含有するアルミニウム合金といった特定の組成からなる試料は、伸びが7%以上と高く、靭性に優れている。また、上記特定の組成の試料は、引張強さが480MPa以上と高く、強度も優れている。更に、上記特定の組成の試料は、切粉の状態もよく、切削加工性に優れている。加えて、上記特定の組成の試料は、Si結晶粒、金属間化合物、Al結晶粒がいずれも小さく、微細な組織を有している。
【0042】
これに対し、Si,Fe及びNi,希土類元素,Zrの少なくとも一つが上記特定の範囲外である試料やこれら全ての元素を含有していない試料、TiやCuを含む試料は、靭性が低下していたり、強度が低下している。また、これらの試料の中には、粗大なSi結晶粒や金属間化合物が晶出していたものがあった。
【0043】
上記試験結果から、上記特定の組成のアルミニウム合金は、靭性が望まれる部材の材料として好適に利用できると考えられる。例えば、押出加工材に温間鍛造などの塑性加工を行っても、割れなどが生じないと考えられる。
【0044】
[試験例2]
Mgの含有量を変化させた試験片を作製し、機械的特性を調べた。試験片は、以下のようにして作製した。
【0045】
表5に示す添加元素(質量%)を含有し、残部が実質的にAlからなるアルミニウム合金の急冷凝固粉末を作製する。この粉末の作製は、試験例1と同様に大気アトマイズ法により行う。
【0046】
【表5】

【0047】
得られた各組成の急冷凝固粉末を圧粉成形して、予備成形体を作製する。具体的には、φ85mm×40mmの形状の金型に上記各粉末を充填し、冷間金型成形(加圧:4ton/cm2)により作製する。得られた各予備成形体の相対密度は、約75%である。
【0048】
得られた各組成の予備成形体を加熱する。加熱は、誘導加熱により行い、加熱温度を450℃とし、450℃に到達した後、その到達温度を1分保持して行う。
【0049】
加熱した各組成の予備成形体に温間粉末鍛造を行い、円柱状の鍛造加工材(φ85mm×高さ30mm)を作製する。鍛造は、面圧:8ton/cm2として行う。
【0050】
得られた各組成の鍛造加工材に切削加工を施し、試験片を作製する。試験片20は、図2に示すように鍛造加工材110の中間部から切り出して作製した。試験片20の大きさ、形状は、試験例1の試験片10と同様である。
【0051】
上記鍛造加工材から切り出して得られた各試験片について、引張強さ及び伸びを測定した。その結果を表6に示す。引張強さ及び伸びは、いずれも室温で測定した。
【0052】
また、各鍛造加工材に切削加工を施した際の切粉の状態を観察した。その結果も表6に示す。切削加工の条件、切粉の評価は、試験例1と同様である。
【0053】
更に、各試験片のSi結晶粒の平均粒径(μm)、金属間化合物(IMC)の平均粒径(μm)、Alマトリクスの結晶粒の平均粒径(μm)を測定した。その結果も表6に示す。平均粒径の測定方法は、試験例1と同様である。なお、試験片の断面を観察したところ、個々の原料粉末は、押出の場合ほど伸びていないが、圧縮を受けて断面楕円状となっていた。
【0054】
【表6】

【0055】
試料No.31〜38において、Mg:0.1〜0.5%含有する試料は、Mgを含有していない試料と比較して靭性に優れている。具体的には、加熱した予備成形体に鍛造加工を行っても、割れなどが生じなかった。従って、加熱した予備成形体を温間鍛造してアルミニウム合金を製造する場合、Mgを特定量含有させることで、靭性により優れるアルミニウム合金とすることができる。
【0056】
なお、上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明アルミニウム合金は、靭性に優れることから、高靭性が望まれる部材、例えば、家電部品、自動車部品、航空部品、建設用構造部品などの材料に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】(I)は、機械的特性を調べるための試験片の正面図、(II)は、押出加工材から試験片を切り出す様子を説明する説明図である。
【図2】鍛造加工材から試験片を切り出す様子を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0059】
10,20 試験片 100 押出加工材 110 鍛造加工材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Siを5%以上10%以下、少なくとも1種の希土類元素を合計で1%以上6%以下、Zrを0.3%以上1.5%以下含有し、Fe,Ni,Co,Cr,Mn,Mo,W及びVからなる群から選択される1種以上の遷移元素のうち、Fe及びNiの双方を少なくとも含有し、これら遷移元素を合計で5%以上12%以下含有し、残部が実質的にAlからなることを特徴とするアルミニウム合金。
【請求項2】
アルミニウム合金は、Co,Cr,Mn,Mo,W及びVからなる群から選択される1種以上の元素を合計で0.5質量%以上5質量%以下含有することを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項3】
アルミニウム合金は、更に、Mgを0.1質量%以上0.5質量%以下含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム合金。
【請求項4】
質量%で、Siを5%以上10%以下、少なくとも1種の希土類元素を合計で1%以上6%以下、Zrを0.3%以上1.5%以下含有し、Fe,Ni,Co,Cr,Mn,Mo,W及びVからなる群から選択される1種以上の遷移元素のうち、Fe及びNiの双方を少なくとも含有し、これら遷移元素を合計で5%以上12%以下含有し、残部が実質的にAlからなる原料粉末を用意する工程と、
前記原料粉末を圧粉成形して、予備成形体を作製する工程と、
前記予備成形体を以下の加熱条件で加熱する工程と、
前記加熱した予備成形体に温間塑性加工を施す工程とを具えることを特徴とするアルミニウム合金の製造方法。
[加熱条件]
加熱温度を380℃以上450℃以下とし、この温度範囲内の所定の温度に到達した後、その到達温度を20分以上5時間以内保持する。

【図1】
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【図2】
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