説明

アルミニウム固体電解コンデンサ素子

【課題】 箔巻回型アルミニウム固体電解コンデンサにおいて、固体電解質材料の含浸性を高めて静電容量発現率を改善する。
【解決手段】 タブ端子13a,13bが取り付けられたともにアルミニウム材からなる所定幅のテープ状に形成された陽極箔11と陰極箔12とをセパレータ14a,14bを介して巻回してなる箔巻回体10を有し、箔巻回体10に導電性高分子からなる電解質材料を含浸してなるアルミニウム固体電解コンデンサ素子において、陽極箔11と陰極箔12の各々に、一方の面側が凸で他方の面側が凹となる箔の幅方向に延びる溝20を箔の長さ方向にわたって所定の間隔をもって形成し、箔間に所定幅の隙間を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質として導電性高分子材を用いるアルミニウム固体電解コンデンサ素子に関し、さらに詳しく言えば、固体電解質材料の含浸性を高めて静電容量発現率を改善する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム電解コンデンサ素子は、図4に示すように、基本的な構成として、陽極酸化皮膜を有するアルミエッチド陽極箔2と、アルミエッチド陰極箔3とを、それらの各箔の所定個所にあらかじめタブ端子4a,4bを取り付けた状態で、例えばセルローズ系のセパレータ5a,5bを介して渦巻き状に巻回し、所定の電解液が含浸される箔巻回体1を備えているが、電解液に代えて電解質としてポリピロールやポリチオフェンなどの導電性高分子材からなる固体電解質を用いたものがアルミニウム固体電解コンデンサ素子である。
【0003】
この種のアルミニウム固体電解コンデンサ素子を製造するにあたって、例えば特許文献1では、箔巻回体1とした状態で例えば導電性高分子モノマーと酸化剤とを含む重合溶液を含浸させるようにしているが、箔巻回体1は箔が緊密に巻かれているため、重合溶液が内部にまで浸透しにくく、したがって製品寸法でいえば、例えば定格が10V1000μF〜10V1500μFである場合、高さ寸法が12.5mm程度に抑えられてしまう。
【0004】
このように製品高さが抑えられるため、大容量化を図るには製品直径を大きくせざるを得ないが、このようにすると、箔巻き取り時に巻ずれが発生しやすくなり歩留まりが悪くなる。また、基板上での実装スペースも広くなるため、高密度実装の要求に応えられないという問題がある。
【0005】
なお、別の方法として、巻き取る前の例えば陽極箔側にあらかじめ化学酸化重合により導電性高分子を形成し、箔巻回後に電解重合する方法も知られているが、これによると、箔巻回時に巻き取り機との接触や振動などより、化学酸化重合により形成された導電性高分子膜が箔表面から剥離することがあるため、好ましい方法とは言えない。
【0006】
【特許文献1】特開2001−110683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の課題は、陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回してなる箔巻回体を有するアルミニウム固体電解コンデンサにおいて、固体電解質材料の含浸性を高めて静電容量発現率を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、ともにタブ端子が取り付けられたアルミニウム材からなる所定幅のテープ状に形成された陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回してなる箔巻回体を有し、上記箔巻回体に導電性高分子からなる電解質材料を含浸してなるアルミニウム固体電解コンデンサ素子において、上記陽極箔と陰極箔の各々に、一方の面側が凸で他方の面側が凹となる箔の幅方向に延びる溝が、箔の長さ方向にわたって所定の間隔をもって形成されていることを特徴としている。
【0009】
本発明において、少なくとも上記タブ端子が取り付けられる部分においては、上記溝の配置間隔が上記タブ端子の端子幅よりも大きくされていることが好ましい。また、箔巻回体の内周側においても、箔間に適当な隙間を確保するうえで、上記溝の配置間隔をL,上記タブ端子の幅をWとして、W<L≦W×1.5とすることが好ましい。また、上記溝の形状については、断面コ字形や断面Λ(ラムダ)形など任意に選択されてよいが、巻回体とした場合の箔への傷つきなどを考慮すると、角のない断面ほぼ半円形であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、陽極箔と陰極箔とに溝が形成されているため、陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻いたときに、箔と箔の間に溝による隙間が確保される。したがって、固体電解質材料を素子内部にまで速やかに含浸でき、高い静電容量発現率が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、図1ないし図3により、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。図1は本発明のアルミニウム固体電解コンデンサ素子が備える箔巻回体を示す概略的な平面図,図2は本発明の要部である溝の部分を示す斜視図,図3は溝の変形例を示す図2と同様の斜視図である。
【0012】
図1に示すように、この箔巻回体10は、ともに所定幅のテープ状に形成された陽極箔11,陰極箔12および一対のセパレータ14a,14bを、例えば陽極箔11→一方のセパレータ14a→陰極箔12→他方のセパレータ14bの順に重ねて渦巻き状に巻回することにより構成される。
【0013】
陽極箔11には陽極酸化皮膜を有するアルミエッチド箔が、また、陰極箔12にはアルミエッチド箔が用いられることが好ましい。陽極箔11と陰極箔12には、それぞれ巻回に先立ってアルミニウム製のタブ端子13a,13bが取り付けられる。その取り付け方法は、かしめや溶接などであってよい。セパレータ14a,14bには、セルローズ系のみでなく既存のセパレータのほとんどを使用することができる。
【0014】
この箔巻回体10には、固体電解質材料として例えば導電性高分子モノマーと酸化剤を含む重合溶液が含浸されるが、その含浸を容易とするため、陽極箔11と陰極箔12の各々に溝加工が施される。
【0015】
図2を参照して、陽極箔11と陰極箔12の幅方向をY,長さ方向をXとして、陽極箔11と陰極箔12には、図示しない例えば加圧ローラなどによる溝加工により、箔の一方の面側が凸で他方の面側が凹となる箔の幅Y方向に延びる溝20が、箔の長さX方向にわたって所定の間隔で形成される。
【0016】
この溝20によって、箔巻回体10内の箔間には所定幅の隙間が確保されるが、箔に対するタブ端子13a,13bの取り付け性の観点からすれば、溝20の配置間隔はタブ端子13a,13bの幅よりも大きいことが好ましい。
【0017】
しかしながら、溝20の配置間隔を大きく採りすぎると、箔巻回体10の内周側で箔間の隙間が確保できないおそれがあるため、溝20の配置間隔をL,タブ端子13a,13bの幅をWとして、溝20の配置間隔LをW<L≦W×1.5の範囲内とすることが好ましい。
【0018】
また、溝20の高さ(箔面からの突出長)は、タブ端子13a,13bの厚さとほぼ同じ程度とすることが好ましい。ちなみに、一例として直径16mm,高さ40mmのアルミニウム電解コンデンサに用いられるタブ端子について言えば、幅は2.5mm,厚さ0.3mmである。なお、溝20は、図1,2に示すように、角のない断面ほぼ半円形であることが好ましいが、図3に例示するように、断面Λ(ラムダ)形としてもよい。
【実施例】
【0019】
次に、本発明によるアルミニウム固体電解コンデンサを実際に作製して、その静電容量発現率を測定したので、その結果を比較例と対比して説明する。なお、静電容量発現率は、(実測による静電容量/静電容量設計値)×100(%)により求めた。
【0020】
《実施例1》
本発明にしたがって、陽極箔と陰極箔とに、それぞれ高さ0.4mm,幅0.8mmである半円形の溝を6.5mm間隔で形成し、これによる箔巻回体に固体電解質材料として導電性高分子モノマーと重合剤を含浸させたのち、常法にしたがって直径12.5mm,高さ30mmで、定格10V1000μFのアルミニウム固体電解コンデンサを作製したところ、静電容量発現率は95%であった。
〈比較例1〉
陽極箔と陰極箔とに溝を形成することなく、それ以外は実施例1と同様にして、直径12.5mm,高さ30mmで、定格10V1000μFのアルミニウム固体電解コンデンサを作製したところ、静電容量発現率は66%であった。
【0021】
《実施例2》
本発明にしたがって、陽極箔と陰極箔とに、それぞれ高さ0.4mm,幅0.8mmである半円形の溝を6.5mm間隔で形成し、これによる箔巻回体に固体電解質材料として導電性高分子モノマーと重合剤を含浸させたのち、常法にしたがって直径12.5mm,高さ35mmで、定格10V1200μFのアルミニウム固体電解コンデンサを作製したところ、静電容量発現率は92%であった。
〈比較例2〉
陽極箔と陰極箔とに溝を形成することなく、それ以外は実施例2と同様にして、直径12.5mm,高さ35mmで、定格10V1200μFのアルミニウム固体電解コンデンサを作製したところ、静電容量発現率は57%であった。
【0022】
《実施例3》
本発明にしたがって、陽極箔と陰極箔とに、それぞれ高さ0.4mm,幅0.8mmである半円形の溝を6.5mm間隔で形成し、これによる箔巻回体に固体電解質材料として導電性高分子モノマーと重合剤を含浸させたのち、常法にしたがって直径12.5mm,高さ40mmで、定格10V1500μFのアルミニウム固体電解コンデンサを作製したところ、静電容量発現率は90%であった。
〈比較例3〉
陽極箔と陰極箔とに溝を形成することなく、それ以外は実施例3と同様にして、直径12.5mm,高さ40mmで、定格10V1500μFのアルミニウム固体電解コンデンサを作製したところ、静電容量発現率は50%であった。
【0023】
上記実施例1〜3から分かるように、本発明によれば、特に製品高さが30mm以上の箔巻回型アルミニウム固体電解コンデンサにおいて、その静電容量発現率90%以上を確保することができる。これは、固体電解質材料が箔巻回体の内部にまで含浸していることによるものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のアルミニウム固体電解コンデンサ素子が備える箔巻回体を示す概略的な平面図。
【図2】本発明の要部である溝の部分を示す斜視図。
【図3】溝の変形例を示す図2と同様の斜視図。
【図4】従来のアルミニウム固体電解コンデンサ素子が備える箔巻回体を示す概略的な平面図。
【符号の説明】
【0025】
10 箔巻回体
11 陽極箔
12 陰極箔
13a,13b タブ端子
14a,14b セパレータ
20 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ともにタブ端子が取り付けられたアルミニウム材からなる所定幅のテープ状に形成された陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回してなる箔巻回体を有し、上記箔巻回体に導電性高分子からなる電解質材料を含浸してなるアルミニウム固体電解コンデンサ素子において、
上記陽極箔と陰極箔の各々に、一方の面側が凸で他方の面側が凹となる箔の幅方向に延びる溝が、箔の長さ方向にわたって所定の間隔をもって形成されていることを特徴とするアルミニウム固体電解コンデンサ素子。
【請求項2】
少なくとも上記タブ端子が取り付けられる部分においては、上記溝の配置間隔が上記タブ端子の端子幅よりも大きくされていることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム固体電解コンデンサ素子。
【請求項3】
上記溝の配置間隔をL,上記タブ端子の幅をWとして、W<L≦W×1.5であることを特徴とする請求項1または2に記載のアルミニウム固体電解コンデンサ素子。
【請求項4】
上記溝の形状が、断面ほぼ半円形であることを特徴とする請求項1,2または3に記載のアルミニウム固体電解コンデンサ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−186248(P2006−186248A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−380784(P2004−380784)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000103220)エルナー株式会社 (48)