説明

アルミニウム基端子金具

【課題】Sn層が剥離し難いアルミニウム基端子金具、この端子金具を具える電線の端末接続構造を提供する。
【解決手段】アルミニウム基端子金具は、電線200に具えるアルミニウム又はアルミニウム合金から構成された導体210が接続されるワイヤバレル部110と、ワイヤバレル部110に延設され、別の端子金具に電気的に接続される嵌合部(メス型嵌合部130又はオス型嵌合部140)とを具える。この嵌合部における接点領域に当該端子金具を構成する母材に直接形成されたSn層を具える。本発明端子金具は、アルミニウム合金から構成される母材とSn層との間にZn層が介在しないため、異種金属の接触腐食によるZn層の流出に伴ってSn層が消失せず、Sn層が長期に亘り存在する。従って、Sn層を接点材料として良好に機能させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる導体に取り付けられるアルミニウム基端子金具、この端子金具を具える電線の端末接続構造に関するものである。特に、表面に設けたSn層が剥離し難いアルミニウム基端子金具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や飛行機などの移動用機器、ロボットなどの産業機器などの電線は、その端部において絶縁層を除去して導体を露出させ、この露出部分に端子金具を取り付けて利用されている。端子金具は、種々の形態がある。例えば、端子金具同士を接続する形態では、両端子金具を電気的に接続する電気的接続部として、図1に示すようなメス型嵌合部130を具えるメス型端子金具100Fや、オス型嵌合部140を具えるオス型端子金具100Mがある。
【0003】
図1に示すメス型端子金具100F、オス型端子金具100Mはいずれも、電線200に具える導体210を接続する導体接続部として、一対の圧着片を主体とするワイヤバレル部110を具える圧着タイプである。図1(A)に示すようにメス型端子金具100Fは、ワイヤバレル部110の一方の側に筒状のメス型嵌合部130が延設され、筒体内部に対向配置された弾性片131,132を具え、オス型端子金具100Mは、ワイヤバレル部110の一方の側に棒状のオス型嵌合部140が延設されている。図1(B)に示すようにメス型嵌合部130の筒体に棒状のオス型嵌合部140を挿入すると、オス型嵌合部140は、弾性片131,132の付勢力によって強固に挟持され、両端子金具100F,100Mは電気的に接続される。なお、図1では、分かり易いように、メス型嵌合部130のみ、断面を示す。
【0004】
電線の導体や端子金具の構成材料は、導電性に優れた銅や銅合金といった銅系材料が主流である。近年、電線の軽量化のために、比重が銅の約1/3であるアルミニウム又はアルミニウム合金(以下、Al合金等と呼ぶ)を導体や端子金具の構成材料に用いることが検討されている(特許文献1)。
【0005】
特許文献1では、端子金具同士を接続したときの電気的な接続抵抗を低減するために、上述の嵌合部の表面にめっき層を設けることを提案している。このめっき層は、母材側から順にZn層/Cu層/Sn層、或いはZn層/Ni層/Cu層/Sn層を具える。Sn(錫)は柔らかく変形し易いことから、Snの変形によって、接続する端子金具間の導通を十分にとることができる。つまり、Sn層を接点材料として機能させることで、接続抵抗を低減することができる。また、このようなめっき層により母材表面を覆うことで、母材を構成するAl合金等の酸化を防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-272414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アルミニウム合金からなる端子金具の外周にSn層を設ける場合、長期に亘り、Sn層が密着していることが望まれる。特に、Sn層を接点材料として利用する場合、Sn層の剥離によって接続抵抗の増大を招くため、Sn層が剥離し難いことが望まれる。
【0008】
本発明者らが検討した結果、特許文献1に記載されるように下地層としてZn層を具えると、異種金属の接触腐食によって、経時的にZn層が溶出し、結果として、Zn層の外周に設けたSn層が母材から剥離する恐れがある、との知見を得た。そのため、Sn層が長期に亘って脱落せずに十分に存在することができるアルミニウム基端子金具の開発が望まれる。
【0009】
そこで、本発明の目的の一つは、Sn層が剥離し難いアルミニウム基端子金具を提供することにある。また、本発明の他の目的は、端子金具同士を接続した場合に接続抵抗を低減することができるアルミニウム基端子金具を提供することにある。更に、本発明の他の目的は、上記アルミニウム基端子金具を具える電線の端末接続構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、アルミニウム合金からなる母材にSn層を直接形成することで上記目的を達成する。本発明の端子金具は、電線の導体が接続される導体接続部と、上記導体接続部に延設され、別の接続対象と電気的に接続される電気的接続部とを具えるアルミニウム基端子金具であり、アルミニウム又はアルミニウム合金から構成された上記導体に取り付けられる。そして、当該端子金具の表面において少なくとも上記電気的接続部における接点領域に、当該端子金具を構成する母材に直接形成されたSn層を具える。
【0011】
本発明の電線の端末接続構造は、導体を具える電線と、上記導体の端部に取り付けられた端子金具とを具え、上記導体がアルミニウム又はアルミニウム合金から構成されている。そして、上記端子金具が、上記Sn層を具える本発明アルミニウム基端子金具である。
【0012】
本発明アルミニウム基端子金具は、アルミニウム合金からなる母材の表面にSn層が直接形成され、当該母材とSn層との間にZn層を具えていない。そのため、本発明端子金具は、異種金属の接触腐食によるZn層の流出に伴ってSn層の消失・剥離が生じ得ず、Sn層を長期に亘り、十分に維持することができる。このSn層を接点領域に具えて接点材料に利用することで本発明端子金具は、別の接続対象との接続抵抗を小さくすることができる上に、長期に亘り接続抵抗が小さい状態を維持することができる。また、接点領域以外においてSn層に覆われた領域は酸化を防止できる。
【0013】
本発明電線の端末接続構造は、本発明端子金具を具えることで、長期に亘り、接続抵抗が小さい接続構造や酸化防止効果が高い接続構造を構築したり、接続抵抗の増大に伴う損失を抑制したりすることができる。
【0014】
本発明端子金具の一形態として、上記電気的接続部が別の端子金具に嵌合して電気的に接続される嵌合部であり、この嵌合部における接点領域に上記Sn層を具える形態が挙げられる。
【0015】
上記形態は、端子金具同士が接続される形態であり、少なくとも接点領域にSn層を具えることで、Sn層を接点材料として機能させて、接続抵抗を小さくすることができる。また、上記形態は、長期に亘り、接続抵抗が小さい状態を維持することができる。
【0016】
本発明端子金具の一形態として、上記Sn層が当該端子金具を構成する母材側から順に置換めっき層、電気めっき層を具え、上記置換めっき層の厚さが0.05μm以上0.3μm以下、上記電気めっき層の厚さが0.25μm以上1.7μm以下、両めっき層の合計厚さが0.3μm以上2μm以下である形態が挙げられる。
【0017】
ここで、アルミニウム合金は、活性な金属であることから、大気といった酸素含有雰囲気に曝されていると、自然酸化膜が形成される。自然酸化膜が存在すると、めっき層が母材に十分に密着し難い。また、自然酸化膜は絶縁物であることから、導通が必要な電気めっき法を利用してもめっき層を形成することが難しい。これらのことから、特許文献1では、ジンケート処理を行ってZn層を形成しているが、Zn層を形成すると、上述のように経時的にSn層の脱落が生じ得る。そこで、本発明者らは、ジンケート処理に代えて、Sn層を置換めっき法や、プラズマスパッタリング法といった真空めっき法などによりSn層を形成した。その結果、Sn層を厚く形成する場合には、置換めっき法などの単一の手法によってSn層を形成すると、Sn層が剥離する恐れがある、との知見を得た。そこで、更に検討した結果、置換めっき法やスパッタリング法などによって薄い層を形成し、この薄い層を下地層として電気めっき法などを施して所望の厚さのSn層を形成すると、アルミニウム合金からなる母材に対して密着性に優れるSn層が得られる、との知見を得た。特に、置換めっき法は、真空めっき法と比較して短時間でめっき層を形成することができ、生産性の向上を図ることもできる。
【0018】
上記形態は、比較的薄い置換めっき層と比較的厚い電気めっき層との複合層とすることで、置換めっき法のみで複合層と同じ厚さのSn層を形成した場合と比較してSn層が剥離し難く密着性に優れ、Sn層を長期に亘り存在させることができる。また、上記形態は、特定の厚さのSn層を具えることで、Sn層を接点材料や酸化防止層として十分に機能させることができる。更に、上記形態は、特定の厚さにSn層を形成するにあたり、比較的形成が容易な電気めっき法によって厚膜化を図るため、生産性に優れる。
【0019】
本発明端子金具の一形態として、その表面全体に亘ってSn層を具える形態とすることができる。この形態は、端子金具を構成するアルミニウム合金の全体がSn層に覆われることで、当該アルミニウム合金からなる母材の酸化を防止して、外部環境に対する耐食性の向上を図ることができる。一方、Sn層を接点材料に利用する場合などでは、端子金具の表面の一部にのみ、詳しくは電気的接続部における接点領域にのみSn層を具える形態とすることができる。この場合、本発明端子金具の一形態として、上記母材の露出面積に対する上記Sn層の面積の割合が0.02%以上0.6%以下である形態が挙げられる。
【0020】
本発明者らが調べた結果、アルミニウム合金からなる母材の露出面積に対してSn層を比較的小さくする、具体的には、上述の面積の割合が上記特定の範囲を満たすと、異種金属の接触腐食による母材の溶出を効果的に低減できる、との知見を得た。従って、上記形態は、異種金属の接触腐食を低減して、母材が十分に存在することで、少なくとも接点領域に具えるSn層を接点材料として十分に利用することができ、長期に亘り接続抵抗が小さい状態を維持できる。上記面積の割合が上記特定の範囲を満たす場合とは、例えば、母材を20mm×20mmのアルミニウム合金板と仮定すると、Sn層が直径φ0.5mm以上2.5mm以下の円形領域を有する場合となる。
【0021】
本発明端子金具の一形態として、当該端子金具を構成する母材が2000系合金、6000系合金、及び7000系合金から選択される1種のアルミニウム合金から構成された形態が挙げられる。
【0022】
列挙したアルミニウム合金は、曲げなどの機械的特性、耐熱性に優れることから、上記形態は、プレス加工を行い易く製造性に優れたり、高温環境(例えば、自動車用途では、120℃〜150℃程度)で使用したりすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明アルミニウム基端子金具及び本発明電線の端末接続構造は、Sn層が剥離し難い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】メス型端子金具及びオス型端子金具の概略構成図であり、(A)は、両端子金具の嵌合前、(B)は、両端子金具の嵌合部を嵌合した状態を示す。
【図2】試験例1で作製したZn層を具える各試料の形態を説明する模式説明図である。
【図3】(A)は、密着性試験後における試料No.3-1の表面状態を示す写真、(a)は、試料No.3-1の断面の走査型電子顕微鏡:SEM写真、(B)は、密着性試験後における試料No.3-100の表面状態を示す写真、(b)は、試料No.3-100の断面のSEM写真である。
【図4】密着性試験後における表面状態を示す写真であり、(A)は、試料No.3-2、(B)は、試料No.3-3、(C)は、試料No.3-4を示す。
【図5】密着性試験の試験方法を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明をより詳細に説明する。
[端子金具]
〔組成〕
本発明アルミニウム基端子金具は、アルミニウム合金から構成されるものとする。アルミニウム合金は、種々の組成のものがあるが、特に、曲げなどの機械的特性や耐熱性に優れる組成のもの、具体的には、JIS規格に規定される2000系合金、6000系合金、7000系合金が挙げられる。2000系合金は、ジュラルミン、超ジュラルミンと呼ばれるAl-Cu系合金であり、強度に優れる。具体的な合金番号として、例えば、2024,2219などが挙げられる。6000系合金は、Al-Mg-Si系合金であり、強度、耐食性、陽極酸化性に優れる。具体的な合金番号として、例えば、6061などが挙げられる。7000系合金は、超々ジュラルミンと呼ばれるAl-Zn-Mg系合金であり、非常に高強度である。具体的な合金番号として、例えば、7075などが挙げられる。
【0026】
〔形状〕
本発明端子金具は、電線に具える導体が接続される導体接続部と、別の接続対象と電気的に接続される電気的接続部とを具えるものが挙げられる。導体接続部は、導体を圧着する圧着タイプのもの、溶融した導体が接続される溶融タイプのものなどがある。圧着タイプは、導体接続部として、一対の圧着片や一つの圧着筒体を主体とするワイヤバレル部を具えるものが挙げられる。より具体的には、断面U字状で、電線の導体が配置される底部と、この底部に立設され、導体を挟持する一対の圧着片により構成されたワイヤバレル部が挙げられる。上記圧着片を折り曲げるように圧縮することで、このワイヤバレル部は導体に接続される。圧着筒体は、導体が挿入される孔を有しており、この孔に導体を挿入し、この状態で圧縮することで、このワイヤバレル部は導体に接続される。
【0027】
電気的接続部は、導体接続部の一方の側に延設されて、接続対象である別の端子金具や電子機器などに接続される。端子金具同士を接続する形態では、電気的接続部は、上述の図1に示すような棒状のオス型嵌合部140、対向配置された弾性片131,132を具えるメス型嵌合部130が挙げられる。ボルトなどの締結部材を介して別の端子金具や電子機器などに接続される形態では、電気的接続部は、締結部材が挿通される貫通孔やU字片を具える締結部が挙げられる。或いは、電気的接続部は、接続対象に設けられた嵌合孔に挿入される平板部材などがある。
【0028】
その他、本発明端子金具は、図1に示すように導体接続部の他方の側に電線200の絶縁層220を圧着するインシュレーションバレル部120を具える形態とすることができる。本発明端子金具は、導体接続部及び電気的接続部を具える公知の端子金具の形状を適宜利用することができる。
【0029】
〔Sn層〕
本発明端子金具は、その表面の少なくとも一部に、アルミニウム合金からなる母材に直接形成されたSn層を具えることを最大の特徴とする。Sn層は、接点材料として好適に利用できるため、本発明端子金具では、少なくとも上述の電気的接続部における接点領域にSn層を具えるものとする。その他、Sn層は酸化防止層として機能できるため、本発明端子金具の一形態として、更に、酸化腐食の防止が望まれる箇所にSn層を具える形態とすることができる。
【0030】
上記接点領域は、電気接続部において、別の接続対象に直接接触する領域とする。上述した嵌合部を具える形態では、接点領域は、オス型端子金具の場合、棒状のオス型嵌合部において、メス型嵌合部の弾性片131,132(図1)に接触する対向する二面の少なくとも一部、メス型端子金具の場合、メス型嵌合部に具える対向配置された弾性片131,132の表面の少なくとも一部が挙げられる。特に、上記母材の露出面積に対するSn層の面積の割合(以下、面積比と呼ぶ)が0.02%以上0.6%以下を満たすようにSn層を具えると、異種金属の接触腐食による母材(アルミニウム合金)の溶出を効果的に低減でき、母材の溶出によるSn層の消失・剥離を防止できる。従って、上記嵌合部における接点領域にSn層を具えて、Sn層を接点材料として利用する場合、上記面積比を満たすことが好ましい。上記面積比は、上記範囲において小さいほど異種金属の接触腐食を低減し易く、大きいほど接点材料を十分に具えられ、0.1%以上0.4%以下がより好ましい。
【0031】
Sn層の厚さ(合計厚さ)は、厚過ぎると、端子金具同士の接続時などで変形して摩擦が大きくなり、接続作業性の低下を招き、薄過ぎると、端子金具同士の接続時などで摩耗して母材が露出し、所望の機能を十分に果たすことが難しい。従って、Sn層の厚さは、0.3μm以上2μm以下が好ましく、0.7μm以上1.2μm以下がより好ましい。Sn層が上記範囲を満たす場合、Sn層を接点材料や酸化防止層として良好に利用することができる。
【0032】
Sn層において、少なくとも母材に接触する領域は、湿式めっき法の一つである置換めっき法、又は乾式めっき法の一つである真空めっき法(PVD法)より形成することが好ましい。置換めっき法は、アルミニウム合金からなる母材の表面に形成された自然酸化膜を除去しつつ、Sn層を形成できることから、母材に対する密着性に優れるSn層を形成できる。また、置換めっき法は比較的短時間でSn層を形成可能であり、生産性にも優れる。真空めっき法は、真空蒸着法、スパッタリング法(例えば、プラズマスパッタリング法など)、イオンプレーティング法などが挙げられ、前処理として、真空中でプラズマ処理を施すことで自然酸化膜を除去することができる。
【0033】
置換めっき法を利用する場合には、置換めっき層の厚さを0.3μm以下とし、Sn層の全体厚さを0.3μm超にする場合には、所望の厚さのSn層となるように、電気めっき法など、その他の手法を利用して、置換めっき層の上に、別の手法による層を形成することが好ましい。置換めっき層を上述のように薄くし、別の手法により形成した層を複合して具えることで、厚い置換めっき層を一層具える場合に比較して、Sn層の剥離を効果的に防止でき、密着性に優れるSn層とすることができる。置換めっき層の厚さが0.05μm以上であれば、例えば、電気めっき層の下地層として十分に利用でき、その上に、電気めっき層を具える形態を容易に形成可能である。置換めっき層の上に具える層は、電気めっき層とすると、形成が比較的容易であり、生産性に優れる。電気めっき層の厚さは、0.25μm以上1.7μm以下が好ましく、0.4μm以上1.15μm以下がより好ましい。置換めっき層と電気めっき層との合計厚さが上述の範囲(0.3μm〜2μm)を満たすように、両層の厚さを選択する。なお、アルミニウム合金からなる母材の表面に形成されたSn層の厚さは、母材の断面を顕微鏡で観察し、この観察像から選択した測定領域(例えば、Sn層を円形状に形成した場合、その直径の20%以上の長さを満たす領域)における厚さの平均を求め、この平均厚さとする。
【0034】
本発明端子金具に具えるSn層は、アルミニウム合金からなる母材との密着性に優れる。具体的には、後述する密着性試験を行った場合に実質的に剥離が生じない。また、断面をとり、この断面を走査型電子顕微鏡:SEMにて観察し(1000倍〜10000倍程度)、観察像から任意の測定長(例えば、Sn層を円形状に形成した場合、その直径の20%以上の長さ)をとったとき、測定長の95%以上の領域について、母材とSn層との境界に実質的に空隙が存在しない。
【0035】
〔製造方法〕
上述の形態の端子金具はいずれも、代表的には、素材板を所定の形状に打ち抜き、所定の形状になるようにプレス加工といった塑性加工を施すことで製造することができる。素材板は、例えば、鋳造→熱間圧延→冷間圧延→種々の熱処理(例えば、T6処理やT9処理など)という工程により製造することができる。
【0036】
本発明端子金具も、基本的には、上述の素材板の作製⇒打ち抜き⇒プレス加工、という手順により製造することができる。そして、上記製造工程の任意の時期、具体的には、素材板の段階、所定の形状に打ち抜かれた素材片の段階、プレス加工された成形体の段階のいずれかにおいて、所望の領域にSn層を形成する。素材板や素材片の段階では、Sn層の形成対象が平坦な形状であるため、Sn層を形成し易く生産性に優れ、成形体の段階では、所望の領域に高精度にSn層を形成することができる。Sn層を形成しない箇所には、予め、マスキング処理を施しておく。Sn層の形成は、上述のように置換めっき法や真空めっき法、電気めっき法などを利用することができる。Sn層が所望の厚さとなるように条件(置換めっき法や電気めっき法の場合、めっき前の洗浄工程における洗浄液の材質、めっき液の材質、温度、時間、電流密度など、真空めっき法の場合、真空度、ターゲット温度など)を調整する。上述の各手法において、めっき液の浸漬時間や通電時間、蒸着時間を短くすると、Sn層を薄くし易い。
【0037】
[電線の端末接続構造]
〔電線〕
本発明端子金具が取り付けられる電線は、導体と、導体の外周に設けられた絶縁層とを具え、導体がアルミニウム又はアルミニウム合金(Al合金等)から構成されたものとする。つまり、本発明電線の端末接続構造は、アルミニウム合金からなる端子金具と、Al合金等からなる導体との接続構造、という主成分が同種の金属からなる接続構造であり、導体と端子金具との間では電池腐食が実質的に生じない。
【0038】
導体を構成するアルミニウム合金は、例えば、Fe,Mg,Si,Cu,Zn,Ni,Mn,Ag,Cr及びZrから選択される1種以上の元素を合計で0.005質量%以上5.0質量%以下含有し、残部がAl及び不純物からなるものが挙げられる。各元素の好ましい含有量は、質量%で、Fe:0.005%以上2.2%以下、Mg:0.05%以上1.0%以下、Mn,Ni,Zr,Zn,Cr及びAg:合計で0.005%以上0.2%以下、Cu:0.05%以上0.5%以下、Si:0.04%以上1.0%以下が挙げられる。これらの添加元素は、1種のみ、又は2種以上を組み合わせて含有することができる。上記添加元素に加えて、Ti,Bを500ppm以下の範囲で含有することができる(質量割合)。上記添加元素を含有する合金として、例えば、Al-Fe合金、Al-Fe-Mg合金、Al-Fe-Mg-Si合金、Al-Fe-Si合金、Al-Fe-Mg-(Mn,Ni,Zr,Agの少なくとも1種)合金、Al-Fe-Cu合金、Al-Fe-Cu-(Mg,Siの少なくとも1種)合金、Al-Mg-Si-Cu合金などが挙げられる。導体を構成する線材として、公知のアルミニウム合金線を利用することができる。
【0039】
導体を構成する線材は、単線、複数の素線を撚り合わせた撚り線、撚り線を圧縮した圧縮線材のいずれでもよい。導体を構成する線材の線径(撚り線の場合は撚り合わせ前の素線の線径)は、用途などに応じて適宜選択することができる。例えば、線径が0.2mm以上1.5mm以下の線材が挙げられる。
【0040】
導体を構成する線材(撚り線の場合には素線)は、引張強さが110MPa以上200MPa以下、0.2%耐力が40MPa以上、伸びが10%以上、導電率が58%IACS以上の少なくとも一つを満たすものが挙げられる。特に、伸びが10%以上である線材は、耐衝撃性に優れ、端子金具を別の端子金具やコネクタ、電子機器などに取り付ける際などで断線し難い。
【0041】
絶縁層の構成材料は、種々の絶縁材料、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリオレフィン系樹脂をベースとしたハロゲンフリーの樹脂組成物、難燃性組成物などが挙げられる。絶縁層の厚さは、所望の絶縁強度を考慮して適宜選択することができる。
【0042】
上記導体は、例えば、鋳造→熱間圧延(→ビレット鋳造材の場合:均質化処理)→冷間伸線加工(→適宜、軟化処理・撚り合わせ・圧縮)という工程により製造することができる。この導体に絶縁層を形成することで、上記電線を製造することができる。
【0043】
上記電線の端部において絶縁層を剥がして導体を露出させ、この露出部分を上述した本発明端子金具の導体接続部に配置して接続する。例えば、圧着片を具える形態では、導体接続部の底部に導体を配置し、この導体を包むように圧着片を折り曲げ、更に圧縮する。このとき、クリンプハイト:C/Hが所定の大きさ(高さ)となるように圧縮状態を調整する。上記工程により、本発明電線の端末接続構造や、上記電線の端部に本発明端子金具が取り付けられた端子付き電線を製造することができる。
【0044】
[試験例1]
アルミニウム合金板にZn層を含む金属めっき層を形成して腐食試験を行い、異種金属の接触腐食の状態を調べた。
【0045】
この試験では、JIS規格の6000系合金(6061合金相当)からなるアルミニウム合金板を用意し、T6処理(ここでは、550℃×3時間→水冷→175℃×16時間)を施したものを用意した。用意したアルミニウム合金板を適宜な大きさに切断して、種々の大きさの試験板を作製し、各試験板の上に公知の条件によってジンケート処理を施した後、公知の条件の電気めっき法によって、適宜Ni層を形成し、最表面にSn層を形成し、アルミニウム合金からなる母材側から順に、Zn層、Ni層、Sn層を具える試料、又はZn層、Sn層を具える試料を作製した。
【0046】
より具体的には、母材側から順に、試料No.Aは、図2(A)に示すようにアルミニウム合金からなる試験板1000、Zn層1100、Ni層1200、Sn層1300を具え、試料No.Bは、図2(B)に示すようにアルミニウム合金からなる試験板1000、Zn層1100、Sn層1300を具える。試料No.A,Bは、試験板1000において金属めっき層を設けた一面の面積SAlと、各層1100,1200,1300の形成面積とを等しくした。
【0047】
試料No.Cは、図2(C)に示すようにアルミニウム合金からなる試験板1001、Zn層1101、Ni層1201、Sn層1301を具え、各層1101,1201,1301の形成面積を等しくし、かつ試験板1001の面積SAlに対して、各層1101,1201,1301の形成面積を小さくした。試料No.Dは、試料No.Cに対してNi層を形成していない試料であり、図2(D)に示すようにZn層1101及びSn層1301の形成面積が等しく、かつ試験板1001の面積SAlに対して各層1101,1301の形成面積が小さい。試料No.Eは試料No.Cに対してSn層の形成面積を変えた試料であり、図2(E)に示すように試験板1001の面積SAlに対して、Zn層1101,Ni層1201の形成面積が小さく、Sn層1302の形成面積が更に小さい。なお、図2では、金属めっき層の各層が分かり易いように試験板と同じ厚さで示すが、実際には厚さが異なる。また、試料No.A〜Eに具える金属めっき層の各層の厚さは、同一材質については同じ厚さとした。
【0048】
用意した試料No.A〜Eについて、腐食試験を行った後、腐食状態を確認した。ここでは、JIS Z 2371(2000)に規定される塩水噴霧試験方法に準拠した試験条件と高温高湿条件とを組み合せた条件で腐食試験を行って、腐食状況を調べた。
【0049】
その結果、アルミニウム合金からなる試験板において金属めっき層の形成面の面積SAlと金属めっき層の形成面積とが同じである試料No.A,Bでは、金属めっき層が積層されて形成された積層面(端面)において金属めっき層の剥離が見られた。上記試験板の面積SAlに対して金属めっき層を小さくした試料No.C,Dでは、Zn層が溶出し、その上のSn層が当該試験板から消失した。上記試験板の面積SAlに対して金属めっき層を小さくし、特にSn層を面積SAlよりも十分に小さくした試料No.Eでも、試料No.C,Dと同様に、Zn層が溶出してSn層が消失した。また、試料No.C,D,Eの試験板において金属めっき層が設けられていない箇所には、孔食1010が見られた。
【0050】
以上の結果から、アルミニウム合金からなる母材の直上にZn層を形成すると、Zn層の形成領域の大小に係わらず、Zn層が溶出し、その結果として、Zn層の上方に設けたSn層が当該母材から消失・剥離することが確認された。
【0051】
[試験例2]
アルミニウム合金板にSn層を直接形成して腐食試験を行い、異種金属の接触腐食の状態を調べた。
【0052】
この試験では、試験例1と同様のアルミニウム合金板(6061合金相当からなるアルミニウム合金板に上述のT6処理を施したもの)を用意し、20mm×20mmに切断して試験板とし、この試験板に置換めっき法によりSn層を直接形成した(Sn層の厚さ:0.1μm、形状:円形状、直径φ2mm)。この試料を試料No.2-1とする。置換めっき処理は、脱脂→エッチング→水洗→酸洗→水洗→めっき→水洗という工程で行った。脱脂工程は、市販の脱脂液に含浸した後、撹拌しながらエタノールに含浸し、その後、超音波洗浄を行った。エッチング工程では、アルカリ溶液:水酸化ナトリウム水溶液(200g/L、pH12)、酸洗工程では、硝酸:400ml/Lと50%ふっ酸:40ml/Lとを混合した混合酸水溶液を用いた。めっき工程では、大和化成株式会社製のすずめっき溶液(すず酸ナトリウム:150g/L+水酸化ナトリウム水溶液(10g/L、pH12))を用いて、上記厚さのSn層を形成した。エッチング後の水洗工程及び酸洗後の水洗工程は、超音波洗浄、めっき後の水洗工程では、流水を用いた。形成したSn層の厚さの測定は、試料の断面をとり、この断面の顕微鏡写真を用いて行った(測定領域:2mm×20%=0.4mm以上)。
【0053】
比較として、試験例1で作製した試料No.Dを用意した。試験板の大きさは、試料No.2-1と同じとし(20mm×20mmの平板)、Sn層の厚さ:0.1μm、Zn層,Sn層の形状:円形状、直径φ2mmとした。
【0054】
試料No.2-1,Dについて、試験例1と同様の条件で腐食試験を行った後、腐食状態を確認した。ここでは、光学顕微鏡により外観を調べると共に、エネルギー分散型X線分析装置:EDXが装備された走査型電子顕微鏡:SEMを用いて、試験板において金属めっき層を形成した領域及びその近傍についてEDXによる元素分析(Sn又はAl)を行った。顕微鏡観察像及び元素マッピングを表1に示す。元素マッピングは、分析対象である元素を明るい色で示し、その他の元素を暗い色で示す。
【0055】
【表1】

【0056】
顕微鏡観察像から、腐食試験後において、試料No.Dでは、Sn層及びZn層が消失し、アルミニウム合金の地金が見えていることが分かる。一方、試料No.2-1では、変色しているもののSn層が存在していることが分かる。
【0057】
元素分析の結果、試料No.Dでは、Snがほとんど検出できず、母材を構成しているアルミニウム合金のAl成分が検出された。一方、試料No.2-1では、Sn成分の分析では、Sn成分が検出された箇所とSn成分がほとんど検出されない箇所とが得られ、Al成分の分析では、Al成分が検出された箇所とAl成分がほとんど検出されない箇所とが得られた。そして、Sn成分が検出された箇所及びAl成分がほとんど検出できなかった領域は、円形状の領域となっており、試料No.2-1では、円形状に形成した置換めっき層が十分に残存しているといえる。
【0058】
以上の結果から、アルミニウム合金からなる母材にSn層を直接形成することで、異種金属の接触腐食によりSn層が消失・剥離することを抑制できることが確認された。
【0059】
[試験例3]
アルミニウム合金板にSn層を直接形成し、Sn層の厚さと密着性との関係を調べた。
【0060】
この試験では、試験例1と同様のアルミニウム合金板(6061合金相当からなるアルミニウム合金板に上述のT6処理を施したもの)を用意し、適宜な大きさに切断して試験板とし、この試験板に試験例2と同様にして置換めっき法によりSn層を形成した。但し、この試験では、置換めっき法の形成条件を調整して、Sn層の厚さが異なる試料を作製した。試料No.3-1は、Sn層の厚さが0.1μmの試料であり、試料No.3-100は、Sn層の厚さが0.4μmの試料であり、いずれの試料も、用意した試験板の全面に置換めっき層を形成した。
【0061】
作製した試料No.3-1,3-100について以下の密着性試験を行った。密着性試験は、図5に示すように試験板2000に形成した置換めっき層2300の表面に市販の粘着テープ3000を貼り付ける(長さ20mm)。そして、粘着テープ3000の一端部を上方に引っ張り上げ、粘着テープ3000において置換めっき層2300に貼り付けられた領域と引っ張り上げた領域とがつくる角度が90°となるように粘着テープ3000を剥がす。その結果を図3(A),図3(B)に示す。なお、粘着テープ3000は、住友スリーエム株式会社製メンディングテープ スコッチ(登録商標) 810-1-12を用いた。
【0062】
Sn層の厚さが薄い試料No.3-1では、密着性試験後、図3(A)に示すようにSn層が全く剥離していないことが分かる。一方、Sn層の厚さが厚い試料No.3-100では、密着性試験後、図3(B)に示すように粘着テープを貼り付けた領域のSn層が完全に剥離して、母材のアルミニウム合金が露出していることが分かる。
【0063】
作製した試料No.3-1,3-100の断面をSEMにより観察したところ、図3(a)に示すように、置換めっき法により薄いSn層を形成した試料No.3-1では、アルミニウム合金からなる母材とSn層との間に実質的に空隙が無く、Sn層が密着していることが分かる。一方、厚いSn層を形成した試料No.3-100では、図3(b)に示すようにアルミニウム合金からなる母材とSn層との間に、Sn層の全域に亘って空隙が存在していることが分かる。このような空隙が生じた理由は、試料No.3-100では、Sn層の形成途中に、既に形成されたSn層と母材との異種金属の接触腐食により、母材を構成するアルミニウム合金が溶出したため、と考えられる。そして、このような空隙が存在することで、母材とSn層とが密着できず、粘着テープを一旦貼り付けて剥がしただけで、母材からSn層が簡単に剥離し、試料No.3-1は、母材とSn層とが密着していたことで、母材からSn層が剥離し難かったと考えられる。
【0064】
アルミニウム合金の組成が異なる試料を作製し、同様に密着性試験を行った。試料No.3-3は、JIS規格の2000系合金(2219合金相当)からなるアルミニウム合金板にT6処理を施したもの、試料No.3-4は、JIS規格の7000系合金(7075合金相当)からなるアルミニウム合金板にT73処理を施したものである。試料No.3-2は、JIS規格の6000系合金(6061合金相当)からなるアルミニウム合金板にT6処理を施したものである。試料No.3-2〜3-4のいずれも、置換めっき法により、厚さ0.1μmのSn層をアルミニウム合金からなる母材(試験板)に直接形成した。
【0065】
そして、上述のように市販の粘着テープを用いた密着性試験を行った。その結果を図4に示す。図4(A)は、試料No.3-2(6061合金相当)、図4(B)は、試料No.3-3(2219合金相当)、図4(C)は、試料No.3-4(7075合金相当)である。図4に示すように試料No.3-2〜3-4のいずれも、密着性試験後、Sn層が剥離しておらず、アルミニウム合金からなる母材とSn層とが密着しているといえる。
【0066】
以上の結果から、アルミニウム合金の母材に、置換めっき法によりSn層を形成する場合、比較的薄く形成することで、母材とSn層との密着性に優れることが確認された。また、この結果から、ある程度厚さの厚いSn層を形成するには、例えば、置換めっき法により薄い層(好ましくは厚さ:0.3μm以下)を形成した後、その上に、電気めっき法や真空めっき法により所望の厚さの層を形成することが好ましいといえる。
【0067】
[試験例4]
アルミニウム合金板にSn層を直接形成し、Sn層の形成領域の大きさと、異種金属の接触腐食による腐食状態との関係を調べた。
【0068】
この試験では、試験例1と同様のアルミニウム合金板(6061合金相当からなるアルミニウム合金板に上述のT6処理を施したもの)を用意し、20mm×20mmに切断して試験板とし、この試験板にSn層を直接形成した。この試験では、試験例3の試料No.3-1と同様にして、置換めっき法により厚さ0.1μmの置換めっき層を形成した後、電気めっき法により厚さ0.9μmの電気めっき層を形成し、合計厚さが1μmのSn層を形成した。電気めっき処理には、石原薬品株式会社製のすずめっき溶液(めっき用すず塩:46g/L+めっき用酸:48g/L+添加剤:85ml/Lの水溶液)を用い、めっき後、流水により水洗した。試料No.4-1〜4-4のいずれも、Sn層の合計厚さを同じ(1μm)とし、形成領域の面積のみを異ならせた。具体的には、試料No.4-1が直径1.0mmの円形、試料No.4-2が直径2.0mm、試料No.4-1が直径3.0mmの円形、試料No.4-2が直径5.0mmの円形とした。アルミニウム合金からなる試験板の露出面積に対するSn層の面積の割合は、試料No.4-1:約0.1%、試料No.4-2:約0.4%、試料No.4-3:約0.9%)、試料No.4-4:約2.5%である。試験板の露出面積は、試験板の側面(試験板の厚さ方向に沿った面)を無視し、Sn層を設けた一面及びこの対向面の合計面積:800mm2から上記円形のSn層の面積を引いた面積とする。
【0069】
作製した試料No.4-1〜4-4について、試験例1と同様の条件で腐食試験を行った後、腐食状態を確認した。ここでは、光学顕微鏡により外観を調べた。その結果を表2に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
表2に示すように、Sn層の形成領域の大きさを小さくすると(上述の面積の割合が0.6%以下(ここでは0.5%未満)とすると)、Sn層が剥離せず、十分に残存できることが分かる。
【0072】
以上の結果から、アルミニウム合金の母材の表面の一部にSn層を形成する場合、母材の露出面積に対するSn層の大きさを比較的小さくすると、異種金属の接触腐食によりSn層が剥離し難いことが確認された。従って、この結果から、Sn層を接点材料に利用する場合などで、母材の表面の一部にSn層を形成する場合には、Sn層の形成領域を調整することで、長期に亘り、Sn層を存在させることができるといえる。
【0073】
なお、試験例2〜試験例4について、アルミニウム合金からなる母材に対して、プラズマスパッタリング法によりSn層を形成して、同様に異種金属の接触による腐食状態や密着性を調べた。その結果、置換めっき法により形成した場合と同様に、母材とSn層との密着性に優れ、Sn層が剥離し難いこと、異種金属の接触腐食によりSn層が消失・剥離することを抑制できることを確認している。
【0074】
[効果]
上記試験結果から、アルミニウム合金からなる端子金具において、その表面の少なくとも一部にSn層を直接形成することで、Sn層が剥離し難く、長期に亘り、Sn層を存在させることができるといえる。特に、別の接続対象と電気的に接続される電気的接続部における接点領域、より具体的には、オス型端子金具に具えるオス型嵌合部の接点領域やメス型端子金具に具えるメス型嵌合部の接点領域にSn層を形成すると、Sn層を接点材料として良好に利用することができ、接続抵抗が低い接続構造(例えば、電線の端末接続構造)が得られると期待される。
【0075】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更することができる。例えば、端子金具の組成、Sn層の厚さなどを適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明端子金具及び本発明電線の端末接続構造は、例えば、自動車や飛行機などの移動用機器、ロボットなどの産業機器などの配線構造の構成部材に好適に利用することができる。特に、本発明は、主成分がアルミニウムであることで軽量であることから、自動車用ワイヤーハーネスの構成部材に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0077】
100F メス型端子金具 100M オス型端子金具 110 ワイヤバレル部
120 インシュレーションバレル部 130 メス型嵌合部 140 オス型嵌合部
131,132 弾性片
200 電線 210 導体 220 絶縁層
1000,1001 アルミニウム合金からなる試験板 1010 孔食
1100,1101 Zn層 1200,1201 Ni層 1300,1301,1302 Sn層
2000 試験板 2300 置換めっき層 3000 粘着テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線の導体が接続される導体接続部と、前記導体接続部に延設され、別の接続対象と電気的に接続される電気的接続部とを具えるアルミニウム基端子金具であって、
前記導体は、アルミニウム又はアルミニウム合金から構成されており、
当該端子金具の表面において、少なくとも前記電気的接続部における接点領域に、当該端子金具を構成する母材に直接形成されたSn層を具えることを特徴とするアルミニウム基端子金具。
【請求項2】
前記電気的接続部は、別の端子金具に嵌合して電気的に接続される嵌合部であり、
前記嵌合部における接点領域に前記Sn層を具えることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム基端子金具。
【請求項3】
前記Sn層は、当該端子金具を構成する母材側から順に置換めっき層、電気めっき層を具え、
前記置換めっき層の厚さが0.05μm以上0.3μm以下、前記電気めっき層の厚さが0.25μm以上1.7μm以下、両めっき層の合計厚さが0.3μm以上2μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム基端子金具。
【請求項4】
前記母材の露出面積に対する前記Sn層の面積の割合が0.02%以上0.6%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルミニウム基端子金具。
【請求項5】
前記母材は、2000系合金、6000系合金、及び7000系合金から選択される1種のアルミニウム合金から構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルミニウム基端子金具。
【請求項6】
導体を具える電線と、前記導体の端部に取り付けられた端子金具とを具える電線の端末接続構造であって、
前記導体は、アルミニウム又はアルミニウム合金から構成されており、
前記端子金具は、請求項1〜5のいずれか1項に記載のアルミニウム基端子金具であることを特徴とする電線の端末接続構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図5】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−54824(P2013−54824A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190135(P2011−190135)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)