説明

アルミニウム蒸着した導電性織物

【課題】帯電防止仕切り材や電磁波シールド用材料などとして使用できる安価な材料として導電性織物を提供するものである。
【解決手段】経糸と緯糸が交差する部分が接合固定されている平織物の表面に、アルミニウム蒸着処理をして、導電性のアルミニウム蒸着織物を得る。経糸と緯糸が交差する部分を接合固定する方法として、糸を芯鞘構造の合成樹脂モノフィラメントとし、この芯を成す合成樹脂の溶融温度が鞘を成す合成樹脂の溶融温度より10℃以上高くなるように選定することにより、後処理工程でモノフィラメントの鞘部分のみを溶融させた後、冷却して経糸と緯糸が交差する部分を接合固定した平織物が効果的に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルミニウム蒸着処理により導電性を付与した織物に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
導電性を有するシートは帯電防止用の仕切り材、さらには電磁波シールド用の材料として活用されている。
【0003】
導電性シートの場合、一般的には合成樹脂シートに導電性の金属線を張り合わせたり、合成樹脂に多量のカーボンブラックや導電性金属粉を混合してシート状に成形したものであった。そのため、シートとして充分な柔軟性や強度を付与するにも高い技術が必要であり、製造コストも高価になりがちであった。
【0004】
導電性の金属線を目の小さい網に仕立てたものもあるが、重量が重くて取り扱いにくく、柔軟性を欠くという欠点もあった。
【0005】
また、織物の分野では、カーボンブラックを練りこんだ樹脂で作った繊維や導電性の金属繊維を織り込んで帯電防止性を付与したものや、織物そのものに銅やクロムのメッキを施して電磁波シールド製を付与したものがあるが、どちらも高価なものであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
帯電防止仕切り材や電磁波シールド用材料などとして使用できる安価な材料として導電性織物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、経糸と緯糸で格子状に織られた平織物で、経糸と緯糸が交差する部分が後加工により接合固定されている織物の表面に、アルミニウム蒸着処理をして得られる導電性のアルミニウム蒸着織物を提供しようとするものである。
【0008】
本発明のアルミニウム蒸着織物において、使用する平織物の経糸と緯糸が芯鞘構造を持つ合成樹脂モノフィラメントであり、芯を成す合成樹脂の溶融温度が鞘を成す合成樹脂の溶融温度より10℃以上高くなるように選定することにより、後処理工程でモノフィラメントの鞘部分のみを溶融させた後、冷却して経糸と緯糸が交差する部分を接合固定した織物にアルミニウム蒸着処理をしてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の導電性織物は、経糸と緯糸で格子状に織られた平織物で、経糸と緯糸が交差する部分が後加工により接合固定されている織物の表面に、アルミニウム蒸着処理をして得られる。また、経糸と緯糸が交差する部分が接合固定されている織物は、芯鞘構造を持つ合成樹脂モノフィラメントで芯の溶融温度が鞘の溶融温度より10℃以上高くなるように設計した糸を経糸および緯糸とした平織物を、後加工工程で鞘部分のみが溶融する温度に加熱した後、冷却して得られる。高価な導電性繊維を織り込んだり、織物そのものに銅やクロムのメッキを施して得られた従来の帯電防止または電磁波シールド用の材料に比べて安価に提供できるものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のアルミニウム蒸着により導電性を付与した織物は、経糸と緯糸が交差する部分が後加工により接合固定された織物の表面に、アルミニウム蒸着処理をして得られる。織物の糸表面に連続的なアルミニウムの薄膜が形成されることにより、導電性が付与されるのである。
【0011】
経糸と緯糸が交差する部分が接合固定されていない織物の場合には、アルミニウム蒸着処理後に織物に付加された力によって経糸と緯糸が交差する部分で糸が移動し、アルミニウム蒸着処理をして形成されたアルミニウム薄膜の連続性が損なわれることとなり、充分な導電性を付与し、それを維持することはできない。
【0012】
織物に用いる経糸と緯糸としては、撚糸などのマルチフィラメントとモノフィラメントのどちらでも良いが、アルミニウム蒸着処理によって糸表面に形成されるアルミニウム薄膜の連続性維持や、経糸と緯糸が交差する部分を後加工により接合固定することを考えると、その容易さからモノフィラメントが好ましい。
【0013】
モノフィラメントの経糸と緯糸が交差する部分を接合固定する方法としては、モノフィラメントを芯鞘構造とし、芯を成す合成樹脂の溶融温度が鞘を成す合成樹脂の溶融温度より10℃以上高くなるように選定することにより、後処理工程でモノフィラメントの鞘部分のみを溶融させた後、冷却して経糸と緯糸が交差する部分を接合固定する方法が使用できる。
【0014】
モノフィラメントを成形する合成樹脂としては、ナイロン、ポリエステル、ポリオレフィン、アクリル、ポリウレタンなど合成繊維素材として用いられる合成樹脂であればどれでもよい。モノフィラメントの芯を形成する合成樹脂と鞘を形成する合成樹脂の選定は、溶融温度の差が10℃以上という条件を満たし、成形工程で問題が発生しないのであれば、合成繊維素材として用いられる合成樹脂のどのような組み合わせでも良く、同一系統樹脂に限るものではない。
【0015】
アルミニウム蒸着をする平織物のメッシュの大きさについては、なんら制限するものではなく、使用目的によって自由に設定することができる。
【0016】
アルミニウム蒸着は、真空チャンバー内の熔融アルミニウムが入った坩堝の上に冷却ドラムを設置し、この冷却ドラムに接触させて平織物を通して、巻き取ることで実施される。従って、一回のアルミニウム蒸着処理では、平織物の冷却ドラムに接触している部分にはアルミニウム薄膜は形成されないが、片面には連続したアルミニウム薄膜が形成されている。必要に応じて、平織物の表裏を一回ずつアルミニウム蒸着処理して織物全体にアルミニウム薄膜を形成することもできる。
【0017】
アルミニウム蒸着処理によって形成するアルミニウム薄膜の厚さは、使用目的に応じて自由に設定することができる。
【実施例1】
【0018】
芯を成す樹脂として、テレフタル酸とエチレングリコールを縮合重合して得られるポリエチレンテレフタレート樹脂を用いる。この樹脂の融解温度は255℃である。鞘を成す樹脂として、イソフタル酸を5mol.%含有するテレフタル酸とエチレングリコールを縮合重合して得られるポリエステル樹脂を用いた。示差走査熱量計で測定した融解温度は180℃を中心にブロードなピークをを持った。これら2種類の樹脂を用いた芯・鞘構造を持つ28dTのモノフィラメントを、経糸および緯糸とした100メッシュで巾150cm・長さ300mの平織物を作成した。この平織物を精練工程において180℃で熱セットして、鞘部分のみを溶融した後冷却して、経糸と緯糸が交差する部分を接合固定した。この平織物の表面にアルミニウム蒸着を行って約500Åのアルミニウム薄膜を形成した。平織物はアルミニウム蒸着の工程で、真空の蒸着チャンバーを通過して巻き取られる。こうして得られたアルミニウム蒸着した平織物原反を巾200mmにスリットして巻き取った。この巾200mmの巻物を手で解いて、長さ10mを測定用試料として切り取った。この試料のアルミニウム蒸着した側にテスターを当て、導電性の有無を確認した。また、タバコの灰、綿・毛・ポリエステル繊維を細かく切って混ぜ合わせたものに試料を近づけ、織物への付着の有無により静電気の発生を確認した。その結果を表1.に示した。
【実施例2】
【0019】
芯を成す樹脂として、ポリプロピレン樹脂を用いる。この樹脂の融解温度は164℃である。鞘を成す樹脂として、エチレンを含有するプロピレンを重合して得られる共重合ポリプロピレン樹脂を用いた。この樹脂の融解温度は141℃である。これら2種類の樹脂を用いた芯・鞘構造を持つ25dTのモノフィラメントを、経糸および緯糸とした100メッシュで巾150cm・長さ300mの平織物を作成した。この平織物を精練工程において145℃で熱セットして、鞘部分のみを溶融し、経糸と緯糸が交差する部分を接合固定した。この平織物の表面にアルミニウム蒸着を行って約450Åのアルミニウム薄膜を形成した。平織物はアルミニウム蒸着の工程で、真空の蒸着チャンバーを通過して巻き取られる。こうして得られた巾150cmのアルミニウム蒸着平織物原反を巾200mmにスリットして巻き取った。この巾200mmの巻物を手で解いて、長さ10mを測定用試料として切り取った。この試料のアルミニウム蒸着した側にテスターを当て、導電性の有無を確認した。また、タバコの灰、綿・毛・ポリエステル繊維を細かく切って混ぜ合わせたものに試料を近づけ、織物への付着の有無により静電気の発生を確認した。その結果を表1.に示した。
【実施例3】
【0020】
芯を成す樹脂として、テレフタル酸とエチレングリコールを縮合重合して得られるポリエチレンテレフタレート樹脂を用いる。この樹脂の融解温度は255℃である。鞘を成す樹脂として、ナイロン6樹脂を用いた。この樹脂の融解温度は220℃である。これら2種類の樹脂を用いた芯・鞘構造を持つ30dTのモノフィラメントを、経糸および緯糸とした90メッシュで巾150cm・長さ300mの平織物を作成した。この平織物を精練工程において225℃で熱セットして、鞘部分のみを溶融し、経糸と緯糸が交差する部分を接合固定した。この平織物の表面にアルミニウム蒸着を行って約550Åのアルミニウム薄膜を形成した。平織物はアルミニウム蒸着の工程で、真空の蒸着チャンバーを通過して巻き取られる。こうして得られた巾150cmのアルミニウム蒸着平織物原反を200mmにスリットして巻き取った。この巾200mmの巻物を手で解いて、長さ10mを測定用試料として切り取った。この試料のアルミニウム蒸着した側にテスターを当て、導電性の有無を確認した。また、タバコの灰、綿・毛・ポリエステル繊維を細かく切って混ぜ合わせたものに試料を近づけ、織物への付着の有無により静電気の発生を確認した。その結果を表1.に示した。
【比較例1】
【0021】
実施例1で用いたものと同じモノフィラメントを経糸および緯糸とした100メッシュで巾150cm・長さ300mの平織物を作成し、この平織物を、精錬工程での180℃での熱セット処理を省いたまま、その表面にアルミニウム蒸着を行って約500Åのアルミニウム薄膜を形成した。平織物はアルミニウム蒸着の工程で、真空の蒸着チャンバーを通過して巻き取られる。こうして得られた巾150cmのアルミニウム蒸着平織物原反を巾200mmにスリットして巻き取った。この巾200mmの巻物を手で解いて、長さ10mを測定用試料として切り取った。この試料のアルミニウム蒸着した側にテスターを当て、導電性の有無を確認した。また、タバコの灰、綿・毛・ポリエステル繊維を細かく切って混ぜ合わせたものに試料を近づけ、織物への付着の有無により静電気の発生を確認した。その結果を表1.に示した。
【比較例2】
【0022】
実施例2で用いたものと同じモノフィラメントを経糸および緯糸とした100メッシュで巾150cm・長さ300mの平織物を作成し、この平織物を、精錬工程での145℃での熱セット処理を省いたまま、その表面にアルミニウム蒸着を行って約450Åのアルミニウム薄膜を形成した。こうして得られた巾150cmのアルミニウム蒸着平織物原反を巾200mmにスリットして巻き取った。この巾200mmの巻物を手で解いて、長さ10mを測定用試料として切り取った。この試料のアルミニウム蒸着した側にテスターを当て、導電性の有無を確認した。また、タバコの灰、綿・毛・ポリエステル繊維を細かく切って混ぜ合わせたものに試料を近づけ、織物への付着の有無により静電気の発生を確認した。その結果を表1.に示した。
【比較例3】
【0023】
実施例3で用いたものと同じモノフィラメントを経糸および緯糸とした100メッシュで巾150cm・長さ300mの平織物を作成し、この平織物を、精錬工程での225℃での熱セット処理を省いたまま、その表面にアルミニウム蒸着を行って約550Åのアルミニウム薄膜を形成した。こうして得られた巾150cmのアルミニウム蒸着平織物原反を巾200mmにスリットして巻き取った。この巾200mmの巻物を手で解いて、長さ10mを測定用試料として切り取った。この試料のアルミニウム蒸着した側にテスターを当て、導電性の有無を確認した。また、タバコの灰、綿・毛・ポリエステル繊維を細かく切って混ぜ合わせたものに試料を近づけ、織物への付着の有無により静電気の発生を確認した。その結果を表1.に示した。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0024】
合成繊維を用いて織った平織物にアルミニウム蒸着した導電性織物は、静電気発生による帯電が無く、帯電防止膜が必要とされる分野での使用が期待される。いわゆるフィルム状のものではなく、メッシュ構造を持つため、空気が流通する帯電防止膜としての活用も可能である。また、アルミニウム蒸着した導電性織物は電磁波シールド性能も有しており、電磁波シールド膜としての使用も期待される。例えば、通常の布と縫い合わせて電磁波シールド用のエプロンや衣類などを作成することも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸と緯糸で格子状に織られた平織物で、経糸と緯糸が交差する部分が後加工により接合固定されている織物の表面に、アルミニウム蒸着処理をして得られるアルミニウム蒸着した導電性織物
【請求項2】
平織物の経糸と緯糸が芯・鞘構造を持つ合成樹脂モノフィラメントであり、芯を成す合成樹脂の溶融温度が鞘を成す合成樹脂の溶融温度より10℃以上高くすることにより、後処理工程でモノフィラメントの鞘部分のみを溶融させた後、冷却して経糸と緯糸が交差する部分を接合固定されている織物を用いた、請求項1のアルミニウム蒸着した導電性織物

【公開番号】特開2010−261138(P2010−261138A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129640(P2009−129640)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(000178882)山中産業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】