説明

アルミン酸リチウム層触媒及びその触媒を用いた選択酸化プロセス

水素の選択酸化のための触媒は、菫青石のような不活性な内核、及びアルミン酸リチウム担体で構成される外層で構成される。上記担体は、その上に白金族金属及びプロモーター金属、例えば、それぞれ白金及びスズを分散させて成る。この触媒は脱水素化プロセスにおける水素の選択酸化に特に効果的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素の選択酸化のための触媒、及びその触媒を用いるためのプロセスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
不飽和炭化水素を産生するための脱水素可能な炭化水素の脱水素化は本技術分野で十分周知である。その代表的なプロセスは、脱水素可能な炭化水素を、脱水素化条件で脱水素触媒に接触させて、脱水素化化合物と未転化炭化水素の混合物を産生するステップを含んでいる。通常、上記脱水素化は水素が遊離した蒸気の存在下で行われる。また、例えば、エチルベンゼンからスチレンへの脱水素化が吸熱性であることも周知であり、従って、触媒床温度は反応が進行する間に著しく低下し、その結果エチルベンゼンからスチレンへの転化が減少する。転化が制限されるのは、エチルベンゼンの平衡転化が低下し、エチルベンゼンの脱水素化速度が、反応温度の低下につれて低下することに起因する。平衡条件では望ましくない副反応だけが継続して生じるので、温度の低下は、転化レベルだけでなく、スチレンに対する選択性にも悪影響を及ぼす。反応温度を維持するために本技術分野で見いだされた1つの方法は、酸素または脱水素化反応中に形成される水素を燃焼する気体を含んでいる酸素を導入し、それによって流出ストリーム(effluent stream)の温度が上昇し、その結果エチルベンゼンからスチレンへの転化が増加する。
【0003】
酸素との水素の燃焼または酸化は、酸化触媒の存在下で起こる。数多くの酸化触媒が本技術分野で周知である。例えば、米国特許第4,914,249号には、アルミナのような固体の多孔性担体で構成される酸化触媒について述べられており、その酸化触媒は、白金のようなVIII族貴金属やスズのようなIVA族金属で含浸され、上記含浸された担体を焼成し、リチウムを含んでいる化合物で焼成された担体に最後の含浸を行って、最後の焼成を行う。上記特許権所有者は、そうした触媒は、従来の触媒よりも優れた安定性と性能を有すると主張している。米国特許第4,565,898号には、900℃から1500℃までの範囲の温度で焼成されているアルミナ担体上に分散されるVIII族貴金属、IVA族金属、及びIまたはII族金属で構成される酸化触媒について述べられている。
【0004】
この技術とは対照的に、本出願人は、触媒金属に対する担体としてアルミン酸リチウムを用いる脱水素化プロセスにおける水素の選択的酸化のための触媒を作り出した。さらに、本出願人による触媒は、菫青石のような不活性内核及びその不活性内核と結合したアルミン酸リチウムの外層で構成され、上記外層上にのみ分散される、例えば白金やスズなどの触媒金属を有する層状触媒である。
【0005】
層状触媒についても、例えば、米国特許第6,177,381号におけるように本技術分野で周知であり、上記米国特許第6,177,381号には、内核と外層を有し、その外層が耐熱無機酸化物であり、オプションとしてアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含むことができる層状触媒が開示されている。しかし、上記米国特許第6,177,381号には、アルミン酸リチウムから成る層を有することについての記述はない。
【発明の開示】
【発明の概要】
【0006】
述べられたように、本発明は、選択酸化触媒、及びその触媒を用いるためのプロセスに関するものである。従って、本発明による1つの実施の形態は、不活性内核及びその不活性内核と結合した外層で構成され、その外層が、少なくとも1つの白金族金属及び少なくとも1つのプロモーター金属をその上に分散させているアルミン酸リチウム担体で構成される、水素の選択酸化のための触媒である。
【0007】
本発明による別の実施の形態は、脱水素可能な炭化水素の脱水素化のためのプロセスであり、上記プロセスは:(a)炭化水素を脱水素触媒に蒸気の存在下で脱水素化ゾーンで脱水素化条件で接触させて、脱水素化炭化水素、未転化炭化水素、水素及び蒸気で構成される流出ストリームを生成するステップと;(b)上記流出ストリームを酸化ゾーンに流し、その流出ストリームを、気体を含んでいる酸素に酸化触媒の存在下で酸化条件で接触させて、脱水素化及び未転化炭化水素の実質的な酸化なしに流出ストリーム中で水素を選択的に酸化し、脱水素化炭化水素、未転化炭化水素及び蒸気で構成される第2の流出ストリームを産生するステップにおいて、上記酸化触媒が、不活性内核及びその不活性内核と結合した外層で構成され、その外層は、少なくとも1つの白金族金属及び少なくとも1つのプロモーター金属をその上に分散させるアルミン酸リチウム担体で構成されることを特徴とするステップと;そして、(c)上記第2の流出ストリームを、脱水素化条件で運転され、脱水素触媒を含んでいる第2の脱水素化ゾーンへ流し、脱水素化炭化水素生成物ストリームを産生するステップとで構成される。
【0008】
これら及びその他の目的と実施の形態は、本発明の詳細な説明の後、より明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の1つの態様は、炭化水素脱水素化プロセスにおける水素の選択酸化触媒、すなわち燃焼のための層状触媒である。その層状触媒は、触媒金属前駆体に対する吸着能を実質的に殆ど持たない物質から成る内核で構成される。上記内核物質は、アルファ・アルミナ、金属、炭化珪素、菫青石及びそれらの混合物で構成される群から選択することができる。菫青石は好ましい内核物質である。
【0010】
上記内核を形成するこれらの物質は、すべての物質が各々の形状に形成できるわけではないが、ペレット、押出し成形体、球体、または不規則な形状の粒子のような種々の形状に形成することができる。内核の調製は、油滴、プレス成形、金属成形、ペレット化、造粒、押出し成形、圧延法及び球状化のような本技術分野で周知の方法で行うことができる。球形の内核が好ましい。球形であるかどうかにかかわらず、効果的な内核の直径は、0.05 mmから10 mmであり、好ましくは0.8 mmから5 mmである。球形でない内核について、効果的な直径は、その形状の物体が仮に球体に成形されたとした場合の直径として定義される。
【0011】
次に、通常は解膠剤の使用を伴う、本技術分野で十分周知の手段を用いてアルミナのスラリーを形成することによってアルミナ層を上記内核に塗布する。具体的には、上記アルミナは、水、及び硝酸、塩酸または硫酸のような酸と混合し、スラリーを産生することができる。あるいは、アルミナ・ゾルは、例えば、アルミニウム金属と塩酸を溶解し、そのアルミニウム・ゾルをアルミナ粉末と混合することによってつくることができる。上記アルミナは、ガンマ・アルミナまたはシータ・アルミナのいずれでもよい。
【0012】
上記スラリーは、オプションとして、層物質が内核に付着する一助となる有機結合剤を含むことができる。この有機結合剤の例には、ポリビニル・アルコール(PVA)、ヒドロキシ・プロピル・セルロース、メチルセルロース、及びカルボキシ・メチルセルロースなどがある。スラリーに添加される有機結合剤の量は、スラリーの0.1重量%から3重量%までかなり変化する。
【0013】
上記アルミナの粒径に応じて、粒径を小さくし、同時に粒径分布の幅を狭めるために、スラリーを粉砕することが必要な場合がある。これは、ボールミル粉砕のような本技術分野で周知の方法によって、30分から5時間、好ましくは1.5時間から3時間行うことができる。
【0014】
上記スラリーによる内核の被覆は、吹付けなどの方法によって達成することができる。1つの好ましい手法は、内核粒子の固定流動床を用いるステップと、スラリーを上記床に吹付けて、粒子を均一に被覆するステップとを含んでいる。上記層の厚さはかなり変化するが、通常は40から400ミクロン、好ましくは40から300ミクロン、最も好ましくは50から200ミクロンである。内核がアルミナの層で被覆されるとすぐに、生じた層状担体を100℃から350℃までの温度で1から24時間乾燥させ、次に400℃から1300℃まで、好ましくは600℃から1200℃まで、より好ましくは750℃から1050℃までの温度で0.5時間から10時間焼成して、外層を内核に効果的に結合させる。当然のことながら、上記乾燥と焼成のステップを1つのステップに組み合わせることができる。
【0015】
アルミン酸リチウム担体を形成するために、今度はアルミナ層状組成物を、塩化リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、重炭酸リチウムなどのリチウム化合物に含浸する。上記層状組成物は、焼成の結果アルミナを実質的にすべてアルミン酸リチウムに転化する外層上のリチウム濃度を与えるのに十分な量でリチウム化合物を含んでいる溶液に含浸される。実質的にすべてとは、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%のアルミン酸リチウムを意味する。この量は、Li:Alのモル比が1:5からLi:Alのモル比が1:1まで変化することが可能である。Li:Alの比は、AlよりもLiのモルを多くして、1:1を超えて増加させることができるが、それは一般に好ましくない。完成した触媒の外層上の(元素ベースの)リチウムの重量%については、その範囲は1重量%から11重量%までである。従って、アルミン酸リチウムという語が本明細書で用いられる場合、上に定義されたように、実質的にすべてのアルミン酸リチウムと同じ意味を持つことになる。
【0016】
好ましい含浸手順には、蒸気ジャケット回転乾燥器の利用が含まれる。上記担体を、乾燥器に入れられ、望ましいリチウム化合物を含んでいる含浸溶液中に沈め、担体を乾燥器の回転運動によってその中で回転させる。回転する担体と接触する溶液の蒸発は、蒸気を乾燥器ジャケットに当てることによって促進される。得られた化合物を大気温度条件で乾燥させるか、または80℃から110℃までの温度で乾燥し、続いて400℃から1300℃まで、好ましくは600℃から1300℃まで、より好ましくは750℃から1050℃までの温度で1時間から24時間焼成し、それによってアルミン酸リチウムを形成する。
【0017】
上記内核をアルミン酸リチウムで被覆する別のプロセスでは、初めにアルミナ(ガンマまたはシータ)を、望ましい濃度のリチウム化合物を含んでいる溶液に含浸する。これも先と同様に、上に述べられたような本技術分野で周知の手段によって行うことができる。アルミナを含んでいるリチウムは、次に100℃から350℃までの温度で乾燥させられる。この時点で、アルミナを含んでいる乾燥させられたリチウムは、上に述べられたように焼成してアルミン酸リチウムを形成するか、あるいはスラリー化して上に述べられたように内核に塗布するかのいずれかを行うことができる。スラリーが焼成よりも先に調製される場合、上記層が内核物質上に形成されるとすぐに、層状化合物は乾燥、焼成されて、アルミン酸リチウムを形成する。アルミン酸リチウムが内核上に塗布される前に形成される場合、アルミン酸リチウムをスラリー化し、アルミナとして上に述べられた同じ手順によって内核上へ被覆する。先と同様に、アルミン酸リチウム層を内核へ結合させるために、アルミン酸リチウム層状担体は、乾燥させられ、400℃から1300℃までの温度で1から24時間焼成される。
【0018】
次に、白金族金属を、上に述べられたような含浸手段によってアルミン酸リチウム層状担体上に分散させる。従って、アルミン酸リチウム層状組成物は、1種以上の金属の分解可能化合物を含んでいる溶液(好ましくは水溶液)に含浸することができる。分解可能とは、熱を加えると、その金属化合物が副生成物を放出して金属または金属酸化物に変わることを意味する。白金族金属を含んでいるアルミン酸リチウムは、80℃から100℃までの温度で乾燥させ、続いて200℃から700℃までの温度で1から4時間焼成することができ、それによって金属化合物を金属または金属酸化物に変える。上記白金族金属は、触媒、すなわち内核と外層の0.005から5重量%の量で存在する。
【0019】
次にプロモーター金属は、白金族金属について述べられたものと同様な方法で含浸することができる。プロモーター金属は、スズ、ゲルマニウム、レニウム、ガリウム、ビスマス、鉛、インジウム、セリウム、亜鉛及びそれらの混合物で構成される群から選択される。分解可能なプロモーター金属の例は、プロモーター金属のハロゲン化物塩である。好ましいプロモーターはスズであり、好ましい分解可能化合物は塩化第一スズまたは塩化第二スズである。プロモーター金属及び白金族金属は同時に共通の溶液から含浸できる。さらに、白金族金属及びプロモーター金属は、スラリーの形成と内核の被覆の前にリチウム化合物またはアルミン酸リチウムに含浸されたアルミナ上に(そのアルミナが内核上に堆積する前または後に)分散させるか、または外層がアルミン酸リチウムである層状構成物上に分散させるかのいずれかが可能である。触媒金属は多くの方法でアルミン酸リチウム上に分散させることができるが、それぞれの手順によって必ずしも同等の触媒は得られない。触媒を調製する便利な方法は、初めに不活性な核を、プロモーター金属を含んでいるアルミナで被覆することである。乾燥と焼成の後、上記被覆された核は、上に述べられたような白金族金属化合物及びリチウム化合物で構成される溶液を用いて含浸される。その後、含浸された複合物は、上に述べられたように加熱されて、アルミン酸リチウムを形成する。プロモーター金属の量は、上記触媒の0.005から5.0重量%の量で存在する。
【0020】
オプションとしての重合調整剤金属も、アルミン酸リチウム上に分散させることができる。この重合調整剤は、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びそれらの混合物で構成される群から選択される。好ましい重合調整剤金属は、ナトリウム、リチウム、セシウム、バリウム及びそれらの混合物である。これら重合調整剤金属は、同等の結果が得られるわけではないが、白金族金属の分散の前または後のいずれかでアルミン酸リチウム上に堆積することができる。上記重合調整剤金属は、白金族金属またはプロモーター金属について述べられたのと同じ方法によってアルミン酸リチウム上に堆積される。プロモーター金属の効果的な量は広い範囲で変化するが、通常は触媒の0.1から5重量%の間である。
【0021】
述べられたように、上述の触媒は、脱水素化プロセスの一部として水素を選択的に酸化(燃焼)するために用いられる。代表的なプロセスでは、脱水素化可能な炭化水素は、脱水素触媒に蒸気の存在下で多触媒床システムで接触させられる。上記脱水素触媒と選択酸化触媒は、1つの反応器内の互層または床として配置するか、または個々の反応器に配置することができる。脱水素触媒と選択酸化触媒の互層の数は、用いられる器具の大きさとタイプに応じて変化するが、層の総数は3から9までの範囲にある。
【0022】
本プロセスで用いることができる脱水化触媒は、米国特許第3,387,053号、米国特許第4,467,046号、米国特許第4,914,249号及び米国特許第4,599,471号に述べられているような本技術分野で周知のいずれの脱水化触媒でもよい。完全を期すために、これらの脱水素触媒について以下に述べる。一般的な脱水素触媒は、鉄化合物及びアルカリまたはアルカリ土類金属で構成されるものである。アルカリ及びアルカリ土類金属は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びそれらの混合物で構成される群から選択される。加えて、脱水素触媒は、オプションとして、元素周期表のIVB、VB及びVIB(それぞれIUPAC4、5、6)から選択される少なくとも1つの金属を含んでいる化合物を含んでもよい。これらの触媒の調製も周知であり、上に引用した特許に述べられている。通常、望ましい比率で種々の化合物を混合し、望まれる形状、例えば押出し成形体に成形し、その後乾燥させて触媒を形成する。
【0023】
脱水素化することができる炭化水素は広範囲にわたって様々であり、制限なしに、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、エチルトルエン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、パラフィン、特にC2-C16パラフィンなどである。好ましい炭化水素はエチルベンゼンであり、エチルベンゼンは、脱水素化の際に、例えばポリスチレンへの重合化など多数の商業的用途を持つスチレンを提供する。以下の説明では、エチルベンゼンを用いて、脱水素化可能な炭化水素を代表させる。これは、一例としてのみ行われるものであり、上に一般的に述べられたアルキル芳香族及びパラフィン系炭化水素のいずれかを、本発明の範囲から除外する意図はない。
【0024】
脱水素化条件には一般に、500℃から750℃、好ましくは540℃から675℃の温度などがある。本プロセスは、10 kPaから1013 kPaまで、好ましくは20 kPaから150 kPaまでの範囲の圧力で実施される。当然のことながら、的確な温度と圧力は、供給炭化水素と触媒の活性によって決まる。炭化水素供給ストリームは、触媒床を通って供給され、0.1から10時間-1、好ましくは0.5から2時間-1の液体炭化水素供給量に基づく1時間あたり液空間速度(LHSV)を生じさせる。
【0025】
脱水素化ステップの別の構成要素は蒸気である。蒸気対炭化水素の重量比が0.5:1から40:1、好ましくは1:1から3:1になる量で蒸気は炭化水素ストリームと混合される。
【0026】
脱水素化ゾーンを通り抜けた後、同ゾーンからの流出ストリームは、脱水素化炭化水素、未転化炭化水素、蒸気及び水素で構成されることになる。この流出ストリームは、次に酸化ゾーンで、上に述べられた選択酸化触媒と接触させられる。水素を選択的に酸化し、流出ストリームを再加熱するために、酸素含有気体が酸化ゾーンに供給される。酸素含有気体の例には、空気、酸素、及び、蒸気、二酸化炭素、窒素、アルゴン、ヘリウムなどその他の気体で希釈された酸素などがある。酸化ゾーンに導入される酸素の量は、流出ストリーム中の水素1モルあたり酸素が0.1:1から2:1モルの範囲である。温度及び圧力条件は、脱水素化ステップについて上に述べられたものと同様である。これらの条件下で、水素は、未転化炭化水素または脱水素化炭化水素を実質的に酸化することなしに酸化されるか、または燃焼して水になる。
【0027】
未転化炭化水素、脱水素化炭化水素及び蒸気で構成される酸化ゾーンからの第2の流出ストリームは、さらに炭化水素を脱水素化するために今度は第2の脱水素化ゾーンへ流れる。主に脱水素化された炭化水素で構成される生成物ストリームが次に回収され、周知の方法によって処理され、例えば、スチレン・ストリームなど精製された脱水素化炭化水素を得ることができる。
【0028】
相当量の未転化炭化水素が、第2の脱水素化ゾーンからの流出ストリームに存在する場合、上記流出物(effluent)は第2の選択的酸化ゾーンへ、次に第3の脱水素化ゾーンへ流すことができる。この脱水素化と酸化ゾーンを交互にすることは、必要に応じて継続することができるが、ゾーンまたは床の数は通常3から9である。これも上に述べられたように、各ゾーンは、それが好ましいというわけではないが、個々の反応器に格納することができる。
【0029】
水素の酸化に加えて、本発明による触媒は、以下のようなその他の酸化反応に触媒作用を及ぼすことができる:
1)合成ガス(CO+H2)を発生させるための、ナフサやメタンのような炭化水素ストリームの部分酸化、;そして
2)燃焼プロセスからの燃焼排ガスを浄化するためのメタン、エタンまたは一酸化炭素の酸化。
【0030】
本触媒は、芳香族化合物とイソパラフィンの両方のアルキル化、水素化分解、熱分解、異性化、水素化及び脱水素化などの炭化水素転化プロセスに触媒作用を及ぼすこともできる。
【0031】
芳香族化合物のアルキル化を行うために必要な条件は周知であり、例えば、米国特許第3,965,043号及び特許第3,979,331号に開示されている。一般に上記プロセスは、バッチ・タイプまたは連続タイプの運転で行うことができる。バッチ・タイプのプロセスでは、上記触媒、芳香族化合物及びアルキル化剤はオートクレーブ内に戴置され、必要な場合には、液相で反応を実施するために、圧力を高める。芳香族化合物は過剰な量で存在すべきであり、好ましくは、芳香族化合物はアルキル化剤1モルに対して2:1から20:1の範囲にある。アルキル化率は室温では低くなってしまうので、上記反応は高温で行う。好ましくはその温度は40℃から200℃である。上記プロセスは、0.5から4時間行われ、その後生成物は、従来の方法によって出発原料から分離される。
【0032】
上記プロセスを連続的に行うことが望ましい場合、上記触媒を反応器内に載置し、望ましい運転温度まで加熱し、必要な場合には大気圧より高い圧力に圧力を高める。芳香族化合物とアルキル化剤は、アルキル化を行うために十分な所定の1時間あたり液空間速度で触媒床の上に流される。その流出物は連続的に回収され、従来の分離法を用いて望ましい生成物が単離される。
【0033】
水素化分解条件には一般に、240℃から649℃(400°Fから1200 °F)、好ましくは316℃から510℃(600 °Fから9500 °F)の温度などがある。反応圧力は、大気圧から24,132 kPag(3,500 psig)までの範囲、好ましくは1,379 と20,685 kPag(200から3,000 psig)の間である。接触時間は一般に、0.1から15時間-1の範囲、好ましくは0.2から3時間-1の間の1時間あたり液空間速度(LHSV)に相当する。水素循環速度は、供給量1立方メートルあたり178から8,888標準立方メートル(供給量1バレルあたり1,000から50,000標準立法フィート(scf))の範囲、好ましくは355から5,333標準m3/m3(供給量1バレルあたり2,000から30,000 scf)の間である。
【0034】
上記反応ゾーン流出物は通常触媒床から除去され、部分凝縮と気液分離にかけられ、その後分別されて、その種々の成分が回収される。水素及び、必要に応じて未転化のより重い物質の一部またはすべてが反応器へ再循環させられる。あるいは、二段階フローを用いて、未転化物質を第2の反応器へ送り込むことができる。本発明による触媒は、そのようなプロセスの1つの段階のみで用いることができるが、あるいは両方の反応器の段階で用いることもできる。
【0035】
触媒分解プロセスは、好ましくは、軽油、ヘビー・ナフサ、脱アスファルト化原油残渣などの供給原料を用いて触媒組成物と共に行われ、ガソリンが望ましい主要生成物である。温度条件は454℃から593℃(850 °Fから1100 °F)、LHSVの値は0.5から10時間-1、そして圧力条件は0から345 kPag(50 psig)が好適である。
【0036】
異性化反応は、371℃から538℃(700 °Fから1000 °F)の温度範囲で行われる。オレフィンは好ましくは260℃から482℃(500 °Fから900 °F)の温度で異性化されるのに対して、パラフィン、ナフテン及び芳香族化合物は、371℃から538℃(700 °Fから1000 °F)の温度で異性化される。水素の圧力は689から3,445 kPag(100から500 psig)の範囲内である。接触時間は、通例0.1から10時間-1の範囲の1時間あたり液空間速度(LHSV)に相当する。水素対炭化水素のモル比は1から20の範囲であり、好ましくは4と12の間である。
【0037】
水素化プロセスは、上に述べられた脱水素化プロセスと同様の反応器と水素化ゾーンを使って行うことができる。具体的には、水素化条件は、圧力が0kPagから13,789 kPag、温度が30℃から280℃、H2対水素化可能な炭化水素のモル比は5:1から0.1:1、そして、LHSVは0.1から20時間-1である。
【0038】
以下の実施例は、本発明の説明として提示されるものであり、添付請求項に述べられているような本発明の一般に広範な範囲に対する不当な制限としての意図はない。
【実施例1】
【0039】
439.3 gのアルミニウム・ゾル(15重量% Al2O3)及び118.8 gのポリビニル・アルコールの10%水溶液及び448.1 gの純水を混合してスラリーを調製した。この混合物に、粒径が200ミクロン未満になるよう予め処理した349.4 gのガンマ・アルミナ粉末を加えた。ミキサーを使って10分間攪拌した後、10.51 gの塩化第2スズ(SnCl4)の50%水溶液を上記混合物に加え、そのスラリーを4時間大気温度でボールミル粉砕し、それによって最大粒径を40ミクロン未満まで小さくした。このスラリーを、造粒被覆装置を19分間用いることによって平均直径4.0 mmの菫青石核の上に吹付けて、100ミクロンの外層を得た。
【0040】
この層状球形担体を150℃で2時間乾燥させ、その後、外層内のガンマ・アルミナをシータ・アルミナにさらに転化するため1000℃で12時間焼成した。
【0041】
硝酸リチウム溶液と塩化白金酸溶液の混合物を含んでいる水溶液(1:1溶液:担体容量比)に上記担体を接触させることによって、上記焼成した層状担体を白金及びリチウムに回転含浸器を用いて含浸した。含浸させた触媒を、溶液が残らなくなるまで回転含浸器内で加熱、乾燥し、その後水素内で565℃で2時間還元した。還元された触媒を次に2時間150℃の温度で乾燥させ、その後650℃まで流動空気中で加熱した。この時点で、上記空気は、触媒の上を流れる前に大気温度で、水を通って気泡化した。この焼成を2時間行い、その後バブラーを通過しなかった流動空気内で冷却した。元素分析により、この触媒は、触媒全体に対する揮発性物質を含まない量を基準にして、0.13重量%の白金、0.16重量%のスズ、及び0.07重量%のリチウムを含んでいることが示された。この触媒を回収し、触媒Aとした。X線回折分析により、上記外層は、微量のアルミン酸リチウム以外には主としてシータ・アルミナから成ることが示された。
【実施例2】
【0042】
439.3 gのアルミニウム・ゾル(15重量% Al2O3)及び118.8 gのポリビニル・アルコールの10%水溶液及び448.1 gの純水を混合してスラリーを調製した。この混合物に、粒径が200ミクロン未満になるよう予め処理した349.4 gのガンマ・アルミナ粉末を加えた。ミキサーを使って10分間攪拌した後、10.51 gの塩化第2スズ(SnCl4)の50%水溶液を上記混合物に加え、そのスラリーを4時間大気温度でボールミル粉砕し、それによって最大粒径を40ミクロン未満まで小さくした。このスラリーを、造粒被覆装置を19分間用いることによって平均直径4.0 mmの菫青石上に吹付けて、100ミクロンの外層を得た。
【0043】
この層状球形担体を150℃で2時間乾燥させ、その後、外層内のガンマ・アルミナをシータ・アルミナにさらに転化するために1000℃で12時間焼成した。
【0044】
上記焼成した層状担体を、実施例1で述べたように白金及びリチウムに回転含浸器を用いて含浸したが、元素分析によって、この触媒は、触媒全体に対する揮発性物質を含まない量を基準にして、0.12重量%の白金、0.14重量%のスズ、及び0.32重量%のリチウムを含んでいることが示された点が異なっていた。この触媒を回収し、触媒Bとした。X線回折分析により、上記外層は、不足当量的で無秩序なアルミン酸リチウム、すなわちLiAl5O8から成ることが示された。
【実施例3】
【0045】
回転含浸器に加える硝酸リチウム溶液の濃度を増加させて、触媒上のリチウム濃度が大きくなったことを除いて、実施例2の手順を繰り返した。元素分析により、この触媒は、触媒全体に対する揮発性物質を含まない量を基準にして、0.14重量%の白金、0.16重量%のスズ、及び0.72重量%のリチウムを含んでいることが示された。この触媒を回収し、触媒Cとした。X線回折分析により、上記外層は、アルミン酸リチウム、すなわちLiAl5O8とLiAlO2の混合物から成ることが示された。
【実施例4】
【0046】
引用によって本明細書に組み込まれる米国特許第4,812,597号による実施例IIの方法によって酸化触媒を調製した。この方法に従って調製した触媒は、スチレン生産において商業的に用いられており、従って、その触媒によって、別の調製方法を用いて調製されたその他の酸化触媒能を評価するための適切な基準が提供される。元素分析により、この触媒は、触媒全体に対する揮発性物質を含まない量を基準にして、0.20重量%の白金、0.23重量%のスズ、及び0.20重量%のリチウムを含んでいることが示された。この触媒を回収し、触媒Dとした。X線回折分析により、上記触媒は、基本的にアルファ・アルミナであることが示された。
【実施例5】
【0047】
実施例1−4による触媒を酸素転化について、及び水素と反応して水になる酸素に対する選択性について評価した。50 ccの量の触媒を内径2.2 cm(7/8'')のステンレス製反応器に入れた。反応器を流入口温度570℃まで加熱し、脱水素触媒床の間に位置する酸化触媒床を有する3-脱水素触媒床反応器系の第2の脱水素触媒床からの約60%エチルベンゼン転化での生成物ストリームを模擬したエチルベンゼン、スチレン、蒸気、水素、酸素及び窒素の混合物で構成される供給ストリームを反応器へ供給した。上記供給ストリームを酸化触媒床の上へ前述の流入口温度で、反応器の流出口圧力が70.9 kPa(0.7気圧)で流した。上記供給ストリームは、1時間あたり液空間速度を10.4時間-1に維持した。エチルベンゼン/スチレン/H2O/H2/O2/N2の供給ストリームの流入口供給割合は、0.3/0.7/9/0.45/0.13/1であった。さらに、加える空気の指定された限界までの反応器内の最高温度である630℃を維持するために、触媒床へ入る空気を制御した。酸素の転化をそれぞれのテストについてプロットし、その結果を図1に示す。スチレン燃焼選択性をそれぞれのテストについてプロットし、その結果を図2に示す。テスト結果をさらに以下の表1に要約して示す。この表で、欄Iは転化された酸素のパーセントであり、欄IIはモル・パーセントで示したスチレン燃焼選択性である。
【0048】
【表1】

【0049】
上記表から、より多くの量のリチウムで調製した触媒は、リチウムの量がより少ないその他の触媒よりも、触媒安定性が著しく高く、スチレン燃焼選択性がより低かったことが注目される。
【実施例6】
【0050】
本発明によるプロセスに従って調製した触媒能をさらに評価するため、上記触媒の一部を、模擬された老化活性を判定するために熱水老化プロセスにかけた。上記触媒を750℃の温度で101.3 kPa(1気圧)で空気及び蒸気雰囲気の存在下で老化に24時間かけた。
【0051】
上記老化プロセスは、商業用ユニットにおいて1年間の使用を模擬するものであった。その後触媒を選択酸化プロセスでテストした。約14 ccの触媒を内径2.2 cm(7/8'')のステンレス製反応器に入れた。床の最高温度が600℃に維持されるように反応器を流入口温度まで加熱し、7.3モル%の窒素、3.9モル%の水素、0.8モル%の酸素、8.7モル%の36%エチルベンゼンと64%の混合物、そして79.2モル%の蒸気の混合物で構成される供給ストリームを反応器に供給した。その供給ストリームを酸化触媒床の上へ前述の流入口温度で、反応器の流出口圧力が70.9 kPa(0.7気圧)で流した。上記供給は1時間あたり液空間速度を37時間-1に維持した。
【0052】
上記触媒の安定性及び活性を示すものとして、酸素転化を判定するための測定を定期的に行った。これらのテストの結果を下の表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
本発明による触媒は、基準となる触媒と比較して、このテスト手順の制約の範囲内において相等しい安定性と活性を示したことに注目すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】種々の量のリチウムを含んでいる触媒について、酸素転化対運転時間をプロットしたグラフである。
【図2】種々の量のリチウムを含んでいる触媒について、スチレン・モノマー(SM)燃焼選択性対運転時間をプロットしたグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素の選択酸化のための触媒であって、前記触媒が不活性内核及びその不活性内核と結合した外層で構成され、前記外層が、少なくとも1つの白金族金属及び少なくとも1つのプロモーター金属をその上に分散させているアルミン酸リチウム担体で構成されることを特徴とする触媒。
【請求項2】
前記不活性内核が、アルファ・アルミナ、金属、炭化珪素、菫青石及びそれらの混合物で構成される群から選択されることを特徴とする請求項1記載の触媒。
【請求項3】
前記白金族金属が、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウム及びそれらの混合物で構成される群から選択されることを特徴とする請求項1または2に記載の触媒。
【請求項4】
前記プロモーター金属が、スズ、ゲルマニウム、レニウム、ガリウム、ビスマス、鉛、インジウム、セリウム、亜鉛及びそれらの混合物で構成される群から選択されることを特徴とする請求項1または2または3に記載の触媒。
【請求項5】
前記外層が、40から400ミクロンの厚さを有することを特徴とする請求項1または2または3または4に記載の触媒。
【請求項6】
前記触媒が、アルミン酸リチウム担体上に分散し、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びそれらの混合物で構成される群から選択される重合調整剤でさらに構成されることを特徴とする請求項1または2または3または4または5に記載の触媒。
【請求項7】
前記重合調整剤が、リチウム、ナトリウム、セシウム、バリウム及びそれらの混合物で構成される群から選択されることを特徴とする請求項6記載の触媒。
【請求項8】
脱水素可能な炭化水素の脱水素化のためのプロセスであって、前記プロセスが:
(a)炭化水素を脱水素触媒に蒸気の存在下で脱水素化ゾーンで脱水素化条件で接触させて、脱水素化炭化水素、未転化炭化水素、水素及び蒸気で構成される流出ストリームを産生するステップと;
(b)前記流出ストリームを酸化ゾーンに流し、その流出ストリームを、気体を含んでいる酸素に請求項1または2または3または4または5または6または7のいずれかに記載の酸化触媒の存在下で酸化条件で接触させて、脱水素化及び未転化炭化水素の実質的な酸化なしに流出ストリーム中の水素を選択的に酸化し、脱水素化炭化水素、未転化炭化水素及び蒸気で構成される第2の流出ストリームを産生するステップと;そして
(c)前記第2の流出ストリームを、脱水素化条件で運転され、脱水素触媒を含んでいる第2の脱水素化ゾーンへ流し、脱水素化炭化水素生成物ストリームを産生するステップとで構成されるプロセス。
【請求項9】
前記酸化条件が、500から750℃の温度及び20から150 kPaの圧力を含んでいることを特徴とする請求項8記載のプロセス。
【請求項10】
炭化水素転化プロセスであって、前記プロセスが、炭化水素供給を触媒に、転化生成物を生じさせるための転化条件で接触させるステップで構成され、前記触媒が請求項1または2または3または4または5または6または7のいずれかに記載の触媒であることを特徴とするプロセス。
【請求項11】
前記プロセスが、アルキル化、脱水素化及び異性化で構成される群から選択されることを特徴とする請求項10記載のプロセス。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−502853(P2006−502853A)
【公表日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−545402(P2004−545402)
【出願日】平成15年10月17日(2003.10.17)
【国際出願番号】PCT/US2003/032854
【国際公開番号】WO2004/035201
【国際公開日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【出願人】(598055242)ユーオーピー エルエルシー (182)
【Fターム(参考)】