説明

アルミ覆鋼線及びそれを用いた架空電線

【課題】通常の架空送電線用アルミニウムと同等の純度を有するアルミニウムを用いながらも、高い耐食性能を有するアルミ覆鋼線とそれを用いた架空電線を提供する。
【解決手段】アルミ覆鋼線1は、鋼線10の外周にアルミニウムを被覆しており、そのアルミニウム被覆層11の表面に耐食層のアルマイト層12あるいはベーマイト層13を有している。アルマイト層12の厚さとしては0.2μm以上50μm以下の範囲内の厚さが好適であり、ベーマイト層13の厚さとしては0.2μm以上5μm以下の範囲内の厚さが好適である。このアルミ覆鋼線1の外周に複数本のアルミニウム導体線21を形成することで架空電線2が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム被覆鋼線(アルミ覆鋼線)及びそれを用いた架空電線に関し、特に、通常の架空送電線用アルミニウムと同等の純度を有するアルミニウムを用いながらも、高い耐食性能を有するアルミ覆鋼線及びそれを用いた架空電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、架空電線として、亜鉛めっき鋼より線の外周にアルミニウム導体線を複数本撚り合わせた鋼心アルミニウムより線(Aluminum Conductor Steel Reinforced:ACSR)が広く用いられている。このような電線は、海岸近接地帯や工業地帯などの汚損地域に布設されると、周辺環境に存在する海塩粒子や煤煙ガス等に起因して腐食を生じる場合がある。また、近年では、これら以外の地域においても、酸性雨に代表されるように、汚損物質を含んだ水分によって腐食が進むことも指摘されている。電線が腐食すると、その機械的性能や電気的性能が低下し、安定して電力を供給することが困難となる。さらに、腐食が進展すると電線が破断し、送電が不可能になることもある。
【0003】
従来、このような架空電線の腐食を抑制する手段として、防食グリスの適用がなされてきた。すなわち、本手法は架空電線の素線間や外表面にグリス状の防食剤を充填・塗布するものであり、海塩粒子や汚損ガス成分等の腐食性物質が電線を構成するアルミ線や鋼線に接触することを防ぎ、腐食の進展を抑制するものである。
【0004】
また、架空電線の耐食性を高めるものとして、高純度アルミニウムを被覆材として用いる架空電線が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載された従来の架空電線によると、腐食の原因になる汚損物質に対して耐食性に優れる純度99.9%以上の高純度アルミニウムを防食対象物である鋼線上に被覆して形成されている。これにより、耐食性に優れた架空電線が得られる。
【0005】
さらに、耐食性と機械的強度を備えた被覆を付与するものとして、純度99.9重量%以上のアルミニウムに他の元素を添加した架空電線が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2に記載された従来の架空電線によると、純度99.9重量%以上のアルミニウムの機械的強度を補うものとして、添加量合計で0.03〜0.3重量%となる範囲で、ジルコニウム、マンガン及びマグネシウムのいずれか1種または2種以上を添加したアルミニウム合金を、鋼心アルミニウムより線(ACSR)のアルミ導体線、または、鋼線の被覆材として用いたものである。このように、防食対象物を高耐食かつ高強度材料で置き換え、または被覆することで、耐食性及び機械的強度に優れた架空電線が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−11570号公報
【特許文献2】特開2006−222021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、架空電線に防食グリスを充填・塗布する方法では、以下のような問題があった。すなわち、
(1)屋外に布設された電線は雨や風に晒されており、電線表面のグリス剤が剥離したり、流れ落ちたりすることがある。この場合、グリス剤の防食効果は低減するだけでなく、流れ落ちたグリス剤によって周辺環境の汚染に繋がることがある。
(2)また、経年の日光照射(紫外線照射)等の影響を受けてグリス剤自体が劣化し、防食効果が低下してしまった事例もある。
(3)さらに、グリス剤を充填・塗布した電線の布設工事時の作業性は、グリス剤を用いない通常電線と比較してやや劣ることも指摘されている。
また、特許文献1及び2に記載された従来の架空電線によると、純度99.9重量%以上の高純度アルミニウムを用いるために耐食性の向上が図られるものの、アルミニウム精錬に要する工程及びその製造コストが大になり、架空電線全体の大幅なコストアップに繋がるという問題がある。
【0008】
従って、本発明の目的は、通常の架空送電線用アルミニウムと同等の純度を有するアルミニウムを用いながらも、高い耐食性能を備え、かつ経済性に優れたアルミ覆鋼線及びそれを用いた架空電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するため、鋼線の外周に被覆してアルミニウム被覆層を形成したアルミ覆鋼線において、前記アルミニウム被覆層の表面に耐食層を有することを特徴とするアルミ覆鋼線を提供する。
【0010】
耐食層としては、アルマイト層またはベーマイト層が好ましい。また、このアルマイト層の厚さは、0.2μm以上50μm以下であることが好ましい。ベーマイト層の厚さは、0.2μm以上5μm以下であることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、上記目的を達成するため、1本または複数本の上記アルミ覆鋼線と、前記アルミ覆鋼線の外周に周方向に複数本のアルミニウム導体線とを有することを特徴とする架空電線を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、通常の架空送電線用アルミニウムと同等の純度を有するアルミニウムを用いながらも、高い耐食性能を備え、かつ優れた経済性を有するアルミ覆鋼線及びそれを用いた架空電線を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は、本発明の第1の実施の形態に係るアルマイト層を設けたアルミ被覆鋼線の横断面構造を示した断面図であり、(b)は、ベーマイト層を設けたアルミ被覆鋼線の横断面構造を示した断面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る架空電線の横断面構造を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて具体的に説明する。
【0015】
[第1の実施の形態]
図1(a)及び(b)において、符号1は本発明の第1の実施の形態に係るアルミニウム被覆鋼線を示している。このアルミニウム被覆鋼線1は、アルミニウム被覆層11の外周表面に耐食性能を有するアルマイト層の耐食層、もしくはベーマイト層の耐食層を設けたアルミニウム被覆鋼線である。なお、以下の説明においては、これらアルミニウム被覆鋼線を単に「アルミ覆鋼線」という。
【0016】
このアルミ覆鋼線1は、丸線からなる鋼線10と、鋼線10の外周を被覆するように設けられるアルミニウムからなるアルミニウム被覆層11と、アルミニウム被覆層11の外周表面に設けられるアルマイト層12、もしくはベーマイト層13とを有している。この耐食層となるアルマイト層12の厚さは0.2μm以上50μm以下の範囲内にあり、また耐食層となるベーマイト層13の厚さは0.2μm以上5μm以下の範囲内にある。アルミ覆鋼線1としては、例えば送電線や配電線等に用いることができる。
【0017】
アルミニウム被覆層11のアルミニウムは実用金属の中でも卑な部類に属しているものの、大気中においては腐食し難い。これはアルミニウムが大気中の酸素によって直ちに酸化され、表面に極薄で緻密な酸化皮膜(厚さ数十Å、10−3μmオーダ)が形成されるためである。このことから、アルミニウムの耐食性を高めるには、アルマイト処理やベーマイト処理などの表面処理によって表面の皮膜厚さを増大させることが有効となる。これら皮膜の優れた耐食性能については、例えば、(社)軽金属協会、「アルミニウムハンドブック」1963,朝倉書店,p824-829,p1265-1267など多くの文献にて報告されている。
【0018】
この優れた耐食性能を有するアルマイト層12は、特定の電解液中でアルミニウムを陽極として電流を印加することで得ることができる。アルマイト層12の厚さが0.2μm未満の場合は皮膜厚さが薄く、十分な耐食性能が得られない。また、アルマイト層12の厚さが50μmを超えて大きくなると、アルマイト層12の形成時間(電解時間)に長時間費やすことになり、製造コストの増大に繋がる。このことにより、アルマイト層12の厚さとしては0.2μm以上50μm以下の範囲が好ましい。
【0019】
一方、この優れた耐食性能を有するベーマイト層13は、高圧蒸気で蒸すか、もしくは水中で煮沸することで得ることができる。ベーマイト層13の厚さが0.2μm未満であると皮膜厚さが薄く、耐食性能が不十分となる。また、ベーマイト層13の厚さが5μmを超えて大きくなると、ベーマイト層13の形成時間(ベーマイト処理時間)に長時間費やすことになり、製造コストが増大する問題が生じる。このことにより、ベーマイト層13の厚さとしては0.2μm以上5μm以下の範囲が好ましい。
【0020】
またアルマイト層12形成時の電解液としては、硫酸系溶液、シュウ酸系溶液、クロム酸系溶液などの種々の組成が挙げられるが、任意に選定することができる。また、ベーマイト層13の形成にあたっては、製造方法、添加物質等に特に制約はなく、従来技術の処理条件を任意に選定することができる。
【0021】
[第1の実施の形態の効果]
上述した第1の実施の形態によると、鋼線10の外周に被覆してアルミニウム被覆層11を形成したアルミ覆鋼線1において、そのアルミニウム被覆層11の外周表面に耐食性能を有する厚さ0.2μm以上50μm以下のアルマイト層12の耐食層、もしくは厚さ0.2μm以上5μm以下のベーマイト層13の耐食層を設けたので、通常の架空送電線用アルミニウムと同等の純度を有するアルミニウムを用いながらも、高い耐食性能を有し、かつ耐食性向上のためのアルミニウムの高純度化処理(精錬)を省略できるため、優れた経済性を付与することができる。
【0022】
また、耐食層を設けたことにより、海塩粒子や汚損物質等の腐食性物質による腐食の進展を抑制でき、さらに架空電線を構成する本発明のアルミ覆鋼線はアルミニウム導体線との接触による鋼とアルミニウムとの電位差に基づくアルミニウム導体線の腐食促進作用(異種金属接触腐食、電食)を抑制できる。
【0023】
[第2の実施の形態]
図2を参照すると、本発明の第2の実施の形態に係る架空電線が示されている。この架空電線2は、第1の実施の形態で説明したアルミ覆鋼線1と、1本のアルミ覆鋼線1の外周に周方向に撚り合わされる6本のアルミ覆鋼線1と、7本のアルミ覆鋼線1の外周に周方向に撚り合わされる12本のアルミニウム導体線21と、12本のアルミニウム導体線21の外周に周方向にさらに撚り合わされる18本のアルミニウム導体線21とを有している。7本のアルミ覆鋼線1はテンションメンバーとして機能する。また、アルミニウム導体線21は、電気用純アルミニウム(純度99.7重量%程度)によって形成されている。
【0024】
[第2の実施の形態の効果]
上記した第2の実施の形態によると、テンションメンバーを構成するアルミ覆鋼線1のアルミニウム被覆層11の外周表面に、厚さ0.2μm以上50μm以下のアルマイト層12の耐食層、もしくは厚さ0.2μm以上5μm以下のベーマイト層13の耐食層を設けたので、第1の実施の形態で説明した好ましい効果に加えてテンションメンバーの耐食性向上による鋼線10の露出を防ぐことができる。
【0025】
アルミニウム被覆層11の腐食によって鋼線10の鋼地が露出し、隣接するアルミニウム導体線21と接触すると、鋼とアルミニウムとの電位差に基づくアルミニウム導体線の腐食促進作用(異種金属接触腐食、電食)が生じるだけでなく、その際生じた腐食生成物によって周辺の腐食が助長される問題がある。しかしながら、この第2の実施の形態では、このようなアルミ覆鋼線1の鋼線10の鋼地の露出によるアルミニウム導体線21の異種金属接触腐食(電食)が極めて作用し難く、ならびに腐食生成物の生成量も非常に少ないので、架空電線2全体の腐食が抑制され、長期にわたって架空電線2の機械的強度、電気的性能が維持される。
【0026】
また、耐食性の向上とそれに伴う電線の機械的強度、電気的性能の確保によって安定した電力の供給が可能となり、使用期間の延伸化が図れることから、送電設備の運用コストを低減させることも可能となる。更に、重大事故を未然に防止することができる。
【0027】
以下に、本発明の更に具体的な実施例について比較例及び従来例とともに説明する。まず、アルミ覆鋼線1の実施例について説明する。
【実施例1】
【0028】
実施例1として、鉄(Fe)0.20重量%、珪素(Si)0.07重量%、銅(cu)0.003重量%、チタン(Ti)0.002重量%、バナジウム(V)0.002重量%、残部がアルミニウム(Al)からなる純度99.7重量%程度のアルミニウム地金を用いて鋳造材を作製し、この鋳造材について熱間圧延工程を経て素線径φ9.5mmのアルミニウム荒引線を得た。次に、熱間押出法により、この荒引線を用いて鋼線にアルミニウムを被覆した。そして、得られた複合線材を単頭伸線機にて、1パスリダクション25±5%、伸線速度20m/minの条件で冷間伸線し、素線径φ2.6mm、アルミニウム被覆厚0.17mmのアルミ覆鋼線を得た。このアルミ覆鋼線をサンドブラスト処理した後、陽極としてシュウ酸系溶液中で直流電流を印加した。この際、電流印加時間をパラメータとし、アルマイト層の厚さがそれぞれ0.2、8、29、50μmのアルミ覆鋼線1(表1に示す実施例1−1、1−2、1−3及び1−4)を得た。
【実施例2】
【0029】
実施例2として、実施例1と同一の組成で同一重量%を有する純度99.7重量%程度のアルミニウム地金を用いて鋳造材を作製し、実施例1と同一条件にて熱間圧延工程により得られたアルミニウム荒引線を熱間押出法による鋼線へのアルミニウムの被覆、冷間伸線を実施し、実施例1と同素線径、同アルミニウム被覆厚のアルミ覆鋼線を得た。このアルミ覆鋼線をサンドブラスト処理した後、90°Cの純水中に浸漬させて、ベーマイト処理を行った。この際、浸漬時間をパラメータとし、ベーマイト層の厚さがそれぞれ0.2、1.4、3.5、5μmのアルミ覆鋼線1(表1に示す実施例2−1、2−2、2−3及び2−4)を得た。
【比較例1】
【0030】
また、アルミ覆鋼線の比較例1として、実施例1と同一の組成で同一重量%を有する純度99.7重量%程度のアルミニウム地金を用いて鋳造材を作製し、実施例1と同一条件にて熱間圧延工程により得られたアルミニウム荒引線を熱間押出法による鋼線へのアルミニウムの被覆、冷間伸線を実施し、実施例1と同素線径、同アルミニウム被覆厚のアルミ覆鋼線を得た。このアルミ覆鋼線をサンドブラスト処理後、実施例1と同一組成の溶液中で直流電流を印加し、アルマイト層の厚さが0.1μm、55μm、82μmのアルミ覆鋼線(表1に示す比較例1−1、1−2及び1−3)を得た。
【比較例2】
【0031】
アルミ覆鋼線の比較例2として、実施例1と同一の組成で同一重量%を有する純度99.7重量%程度のアルミニウム地金を用いて鋳造材を作製し、実施例1と同一条件にて熱間圧延工程により得られたアルミニウム荒引線を熱間押出法による鋼線へのアルミニウムの被覆、冷間伸線を実施し、実施例1と同素線径、同アルミニウム被覆厚のアルミ覆鋼線を得た。このアルミ覆鋼線をサンドブラスト処理後、実施例2と同温度、同溶液にてベーマイト処理を行い、ベーマイト層の厚さが0.1μm、5.9μm、7.7μmのアルミ覆鋼線(表1に示す比較例2−1、2−2及び2−3)を得た。
【従来例1】
【0032】
また、アルミ覆鋼線の従来例1として、実施例1と同一の組成で同一重量%を有する純度99.7重量%程度のアルミニウム地金を用いて鋳造材を作製し、実施例1と同一条件にて熱間圧延工程により得られたアルミニウム荒引線を熱間押出法による鋼線へのアルミニウムの被覆、冷間伸線を実施し、実施例1と同素線径、同アルミニウム被覆厚のアルミ覆鋼線(表1に示す従来例1)を得た。
【0033】
上記した実施例1−1〜1−4、2−1〜2−4のアルミ覆鋼線1、比較例1−1〜1−3、2−1〜2−3及び従来例1のアルミ覆鋼線について、腐食加速実験により耐食性を調査するとともに、皮膜形成時間からみた経済性を相対的に評価し、それらの総合評価を行った。腐食加速実験は500mm長に切断したアルミ覆鋼線をpH2の塩化水素水溶液中に50時間浸漬し、それぞれの腐食進展状況を相対的に評価した。各種アルミ覆鋼線の性能評価結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1から明らかなように、上記実施例1−1〜1−4及び2−1〜2−4のアルミ覆鋼線1では、従来例1と比較して腐食進展が抑制されており、耐食性が良好であった。特に、実施例1−2、1−3、1−4及び2−3、2−4では腐食進展の程度が極めて小さく、優れた耐食性能を有していた。また、実施例1−1〜1−4及び2−1〜2−4の異なる被膜厚さからなる耐食層のものは皮膜形成時間が短時間と良好であることから、実際の製造面において問題とならないレベルにあり、経済性の点からも良好である。このように、鋼線10の外周に通常の架空送電線用アルミニウムと同等の純度を有する電気用純アルミニウムを被覆してアルミニウム被覆層11を形成し、その外周表面に耐食層のアルマイト層12、もしくはベーマイト層13を規定の範囲内の厚さで形成することにより、優れた耐食性と経済性を有するアルミ覆鋼線1を得ることが可能となる。
【0036】
一方、耐食層の厚さが規定の範囲内から外れる比較例1−1、1−2、1−3及び2−1、2−2、2−3のアルミ覆鋼線については、耐食層の皮膜厚さが小さい場合は十分な耐食性能が得られず、また、耐食層の皮膜厚さが大きくなると耐食性は良好となるものの、皮膜形成時間が長時間となることから経済性の点から劣り(製品のコストアップに繋がり)、いずれの場合においても実用化が難しい結果となった。
【0037】
次に、本発明の架空電線2の実施例について説明する。
【実施例3】
【0038】
上記実施例1で得られたアルマイト層を有するφ2.6mmアルミ覆鋼線1の周囲に6本の同アルミ覆鋼線1を撚り合わせ、その周囲に純度99.7重量%程度の電気用純アルミニウムからなるアルミニウム導体線(φ2.6mm)21を12本、さらにその周囲に同アルミニウム導体線21を18本撚り合わせ、導体有効断面積160mmの架空電線2(表2に示す実施例3−1、3−2、3−3及び3−4)を作製した。
【実施例4】
【0039】
上記実施例2で得られたベーマイト層を有するφ2.6mmアルミ覆鋼線1の周囲に6本の同アルミ覆鋼線1を撚り合わせ、その周囲に純度99.7重量%程度の電気用純アルミニウムからなるアルミニウム導体線(φ2.6mm)21を12本、さらにその周囲に同アルミニウム導体線21を18本撚り合わせ、導体有効断面積160mmの架空電線2(表2に示す実施例4−1、4−2、4−3及び4−4)を作製した。
【比較例3】
【0040】
上記比較例1で得られたアルマイト層を有するφ2.6mmアルミ覆鋼線の周囲に6本の同アルミ覆鋼線を撚り合わせ、その周囲に純度99.7量%程度の電気用純アルミニウムからなるアルミニウム導体線(φ2.6mm)を12本、さらにその周囲に同アルミニウム導体線を18本撚り合わせ、導体有効断面積160mmの架空電線(表2に示す比較例3−1、3−2及び3−3)を作製した。
【比較例4】
【0041】
上記比較例2で得られたベーマイト層を有するφ2.6mmアルミ覆鋼線の周囲に6本の同アルミ覆鋼線を撚り合わせ、その周囲に純度99.7重量%程度の電気用純アルミニウムからなるアルミニウム導体線(φ2.6mm)を12本、さらにその周囲に同アルミニウム導体線を18本撚り合わせ、導体有効断面積160mmの架空電線(表2に示す比較例4−1、4−2及び4−3)を作製した。
【従来例2】
【0042】
また、架空電線の従来例2として、アルマイト層やベーマイト層を有しないアルミ覆鋼線の上記従来例1で得られたφ2.6mmアルミ覆鋼線の周囲に6本の同アルミ覆鋼線を撚り合わせ、その周囲に純度99.7重量%程度の電気用純アルミニウムからなるアルミニウム導体線(φ2.6mm)を12本、さらにその周囲に同アルミニウム導体線を18本撚り合わせ、導体有効断面積160mmの架空電線(表2に示す従来例2)を作製した。
【従来例3】
【0043】
また、架空電線の従来例3として、φ2.6mm溶融亜鉛めっき鋼線の周囲に6本の同溶融亜鉛めっき鋼線を撚り合わせ、その周囲に純度99.7重量%程度の電気用純アルミニウムからなるアルミニウム導体線(φ2.6mm)を12本、さらにその周囲に同アルミニウム導体線を18本撚り合わせ、導体有効断面積160mmの架空電線(表2に示す従来例3)を作製した。
【0044】
上記実施例3−1〜3−4、4−1〜4−4の架空電線2、比較例3−1〜3−3、4−1〜4−3及び従来例2,3の架空電線について、腐食加速実験により耐食性を調べるとともに、表1にて示した経済性と併せて評価した。腐食加速実験は、架空電線を水平に設置し、電線温度が90°Cになるようにトランスで通電した状態のもとに、3重量%の塩化ナトリウム水溶液に硫酸を添加し、pH3に調整した電解質溶液を噴霧1時間、大気乾燥2時間を1サイクルとし、これを繰り返すことで実施したものである。各種架空電線の性能評価結果として、腐食実験6000サイクル後における6本層のアルミ覆鋼線及び溶融亜鉛めっき鋼線の腐食進展状況と、これと接触する12本層アルミニウム導体線での電食(異種金属接触腐食)状況を調査した結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
表2から明らかなように、上記実施例3−1〜3−4、4−1〜4−4の架空電線2と比較して、従来例3の亜鉛めっき鋼線を用いた架空電線では腐食程度が甚大であり、6本層鋼線では全域にわたって亜鉛めっき層が消失して鋼地が露出するとともに、この鋼線と接触する内層の12本層アルミニウム導体線、ならびにその外側に位置する外層の18本層アルミニウム導体線において、腐食による素線切れが多発していた。架空電線の腐食は、鋼線の鋼地露出に大きく支配されることを示唆するものである。
【0047】
また、上記実施例3−1〜3−4及び4−1〜4−4の架空電線2においては、アルミ覆鋼線1の鋼地露出はいずれも認められず、この鋼線と接触する12本層のアルミニウム導体線21において電食による著しい腐食は認められなかった。このように、架空電線2用の純度99.7重量%程度の電気用純アルミニウム導体線21に対し、アルマイト層12もしくはベーマイト層13を規定の範囲内の厚さにより外周表面に耐食層を形成したアルミニウム被覆層11を有するアルミ覆鋼線1を用いることで、架空電線2全体の高耐食性化が可能となる。
【0048】
一方、耐食層の厚さが規定の範囲内から外れる比較例3−1、3−2、3−3及び4−1、4−2、4−3については、アルミ覆鋼線における耐食層の皮膜厚さが小さい場合は耐食効果が不十分となり、アルミ覆鋼線の鋼地露出やこれに伴うアルミニウム導体線の腐食進展が認められる。また、皮膜厚さが大きくなると耐食性は良好となるものの、先述のように、皮膜形成時間の長時間化に起因して経済性が大幅に低下する結果である。
【0049】
本実施例では、アルミ覆鋼線におけるアルミニウム被覆層の組成が電気用純アルミニウムの場合について述べたが、それ以外の組成、例えばアルミニウム合金を用いたアルミ覆鋼線においても同様の効果が得られる。
【0050】
また、本実施例においては、アルミ覆鋼線及び架空電線の素線形状が丸線(円形断面形状)の場合について説明したが、成形線(異型線)等それ以外の成形断面形状を有するアルミ覆鋼線、架空電線でも同様な効果が得られる。
【0051】
更に、本実施例では、アルミニウム被覆層の全外周表面に耐食層を有するアルマイト層、もしくはベーマイト層を形成したアルミ覆鋼線について述べたが、複数本のアルミ覆鋼線を撚り合わせてより線の状態とし、その後に耐食層のアルマイト層、ベーマイト層を設けることで、架空電線の内層アルミニウム導体線と接触する箇所にのみ皮膜が形成されることになる。よって、アルミ覆鋼線とアルミニウム導体線21との間における電食抑制効果があり、結果として架空電線全体の耐食性を高めることができる。
【0052】
また、本実施例では、アルミニウム導体線に耐食層を施していないが、アルミ覆鋼線と同様に耐食層を形成することで、さらなる架空電線の耐食性の向上が図れることとなる。
【0053】
本実施例では、アルミニウム導体線の導体として純度99.7重量%程度の電気用純アルミニウム線を用いたアルミ覆鋼心アルミニウムより線(ACSR/AC)の場合について説明したが、導体として耐熱アルミニウム合金線を用いたアルミ覆鋼心耐熱アルミニウム合金より線(TACSR/AC)等々、電線の種類が異なっても、得られる効果は変わらないことはいうまでもない。
【0054】
また、本発明のアルミ覆鋼線を適用した架空地線についても同様な耐食効果が得られる。
【符号の説明】
【0055】
1 アルミ覆鋼線
2 架空電線
10 鋼線
11 アルミニウム被覆層
12 アルマイト層
13 ベーマイト層
21 アルミニウム導体線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼線の外周に被覆してアルミニウム被覆層を形成したアルミ覆鋼線において、前記アルミニウム被覆層の表面に耐食層を有することを特徴とするアルミ覆鋼線。
【請求項2】
前記耐食層は、アルマイト層またはベーマイト層からなることを特徴とするアルミ覆鋼線。
【請求項3】
前記アルマイト層の厚さは、0.2μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項2記載のアルミ覆鋼線。
【請求項4】
前記ベーマイト層の厚さは、0.2μm以上5μm以下であることを特徴とする請求項2記載のアルミ覆鋼線。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の1本または複数本の前記アルミ覆鋼線と、前記アルミ覆鋼線の外周に周方向に複数本のアルミニウム導体線とを有することを特徴とする架空電線。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−182537(P2010−182537A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25178(P2009−25178)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(501304803)株式会社ジェイ・パワーシステムズ (89)
【Fターム(参考)】