説明

アルミ電線用圧着端子

【課題】凝着面積を稼ぐ必要がなく、高い圧縮率の領域でも安定した接続信頼性を得ることができるアルミ電線用圧着端子を提供する。
【解決手段】アルミ電線用圧着端子1において、アルミニウム系金属の複数の素線からなる導体部を有するアルミ電線の導体部に圧着され、銅系金属からなる圧着部9と、圧着部9の導体部と接触する接触面に設けられ、導体部に対して凝着作用を有するアルミニウム系金属からなるアルミ層11とを有した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミ電線用圧着端子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミ電線用圧着端子としては、アルミ電線のアルミ素線からなる導体部に加締められる圧着部に対してセレーションを設けることにより、アルミ素線の表面に形成された酸化皮膜を破壊してアルミ電線と圧着端子とを接触導通させる構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、端子の圧着部に形成されたセレーションについては、セレーションを構成する溝の深さとアルミ電線のアルミ素線の径との比を0.33以上、溝数を3以上にするなどの検討も行われている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
さらに、端子などの素材上に形成されるめっき層としては、最外層に形成された錫層中に炭素粒子を含有させることにより、摩擦係数が低く且つ接触抵抗値の経時劣化が少ない複合めっき材が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2003−249284号公報
【特許文献2】特開2007−173215号公報
【特許文献3】特開2007−9304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アルミ電線に圧着される圧着端子は、アルミ電線との接触面に錫(Sn)などのアルミ電線のアルミニウム(Al)と凝着作用を有するめっき層が形成されている。そして、導体部の表面に形成された酸化皮膜を破壊することにより、導体部の新生面(素地)を露出させ、Sn−Alとの金属間結合(凝着)によってアルミ電線と端子とを導通接触させている。
【0006】
しかしながら、Sn−Alによる凝着作用は比較的弱い。そこで、Sn−Alの結合面としての凝着面積を稼ぐため、上記の特許文献1,2に記載された技術のように端子におけるアルミ電線との接触面にセレーションを設けた圧着端子がある。すなわち、このような圧着端子は、圧着部でアルミ電線の導体部を圧着する際に、導体部の表面に形成された酸化皮膜をセレーションによって破壊させて導体部の新生面の面積を増加させてSn−Alの凝着面積を稼いでいる。
【0007】
また、圧着部による導体部の圧縮率を低くすると、アルミ電線の伸び量が増加して導体部に形成された酸化皮膜が破壊され、導体部の新生面露出面積が大きくなり、凝着面積を稼ぐことができる。
【0008】
なお、導体部の圧縮率とは、圧着部による圧着後の導体部の断面積に対する圧着前の導体部の断面積の比の値とする。従って、例えば、強い圧着力で導体部を圧着した場合には圧縮率が低くなり、弱い圧着力で導体部を圧着した場合には圧縮率が高くなる。
【0009】
しかしながら、導体部の圧縮率を低くしてしまうと、アルミ電線では銅素線からなる銅電線に比べて機械的強度が劣るため、セレーションによるアルミ素線の破断やセレーションが形成されていない圧着部でも圧着部自体によるアルミ素線の破断が起こる可能性があった。
【0010】
また、導体部の圧縮率を低くしてしまうと、圧着部の加締めによって発生する圧着部自体の反発(スプリングバック)も大きくなり、圧着部とアルミ素線との間のすき間が大きくなり、導体部と圧着部との圧着強度が低下してしまう可能性があった。
【0011】
そこで、この発明は、凝着面積を稼ぐ必要がなく、高い圧縮率の領域でも安定した接続信頼性を得ることができるアルミ電線用圧着端子の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載のアルミ電線用圧着端子は、アルミニウム系金属の複数の素線からなる導体部を有するアルミ電線の前記導体部に圧着され、銅系金属からなる圧着部と、この圧着部の前記導体部と接触する接触面に設けられ、前記導体部に対して凝着作用を有するアルミニウム系金属からなるアルミ層とを有することを特徴とする。
【0013】
請求項2記載のアルミ電線用圧着端子は、前記アルミ層は、前記圧着部の接触面に圧延によって貼り付けられていることを特徴とする。
【0014】
請求項3記載のアルミ電線用圧着端子は、前記アルミ層は、前記圧着部の接触面に無電解めっきによって設けられていることを特徴とする。
【0015】
請求項4記載のアルミ電線用圧着端子は、前記圧着部の接触面と前記アルミ層との間には、錫めっき層が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1のアルミ電線用圧着端子は、導体部に対して凝着作用を有するアルミニウム系金属からなるアルミ層が圧着部の導体部と接触する接触面に設けられているので、導体部の表面に酸化皮膜が破壊された箇所が少なくても、アルミ層と導体部との結合がAl−Alの同種金属間結合であり、Sn−Alのような異種金属間結合よりも凝着の強度が高く、確実に導体部とアルミ層とが凝着することができる。
【0017】
また、アルミ層と導体部との結合がAl−Alの同種金属間結合であるので、導体部の新生面露出面積を必要以上に大きくして凝着面積を稼ぐ必要がない。このため、圧着部による導体部の圧縮率を低くする必要がない。
【0018】
従って、このようなアルミ電線用圧着端子では、必要以上に凝着面積を稼ぐ必要がなく、高い圧縮率の領域でも安定した接続信頼性を得ることができる。
【0019】
請求項2のアルミ電線用圧着端子は、アルミ層が圧着部の接触面に圧延によって貼り付けられているので、アルミニウム系金属の薄膜を圧着部の接触面に選択的に貼り付けるだけで、導体部に対して高い凝着作用を得ることができ、接続信頼性を向上することができる。
【0020】
請求項3のアルミ電線用圧着端子は、アルミ層が圧着部の接触面に無電解めっきによって設けられているので、圧着部をアルミニウム系金属のめっき液中に浸すだけでアルミ層を形成することができ、アルミ層の形成を簡易化することができる。
【0021】
請求項4のアルミ電線用圧着端子は、圧着部の接触面とアルミ層との間に錫めっき層が設けられているので、従来の錫めっきされた圧着部にアルミ層を設ければよく、製造工程の変更による影響を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1〜図5を用いて本発明の実施の形態に係るアルミ電線用圧着端子について説明する。
【0023】
本実施の形態のアルミ電線用圧着端子1は、アルミニウム系金属の複数の素線3からなる導体部5を有するアルミ電線7の導体部5に圧着され、銅系金属からなる圧着部9と、この圧着部9の導体部5と接触する接触面に設けられ、導体部5に対して凝着作用を有するアルミニウム系金属からなるアルミ層11とを有する。
【0024】
また、アルミ層11は、圧着部9の接触面に圧延によって貼り付けられている、又は圧着部9の接触面に無電解めっきによって設けられている。
【0025】
さらに、圧着部9の接触面とアルミ層11との間には、錫めっき層13が設けられている。
【0026】
図1〜図5に示すように、アルミ電線7は、アルミニウム又はアルミニウム合金などのアルミニウム系金属からなる複数の素線3が撚られた導体部5と、この導体部5を被覆する絶縁被覆15とを備えている。このアルミ電線7は、絶縁被覆15が所定長さ剥がされ、露出した導体部5に対してアルミ電線用圧着端子1が圧着される。
【0027】
アルミ電線用圧着端子1は、銅又は銅合金などの銅系金属からなり、電気接続部17と、圧着部9とを備えている。電気接続部17は、ボルト(不図示)などの固定手段が貫通可能な孔19が形成され、固定手段によって固定されることにより、相手側の接続部材(不図示)と導通される。圧着部9は、電気接続部17と底板21を介して連続する一部材で形成され、一対の圧着片23,23と、一対の加締め片25,25とを備えている。
【0028】
一対の圧着片23,23は、電気接続部17側で底板21の両側部に底板21と一体に立設されている。この一対の圧着片23,23は、アルミ電線7の導体部5の外周側を包囲するように加締められ、アルミ電線7とアルミ電線用圧着端子1とを導通接触させる。一対の加締め片25,25は、アルミ電線7側で底板21の両側部に底板21と一体に立設されている。この一対の加締め片25,25は、アルミ電線7の絶縁被覆15の外周側を包囲するように加締められ、アルミ電線7とアルミ電線用圧着端子1とを固定する。
【0029】
このような圧着部9でアルミ電線7を加締める(圧着する)ことにより、アルミ電線7が伸びて導体部5の表面に形成された酸化皮膜が破壊され、新生面が露出される。この新生面が導体部5と圧着部9との凝着面となる。この凝着面となる圧着部9の導体部5との接触面には錫めっき層13及びアルミ層11が形成されている。
【0030】
錫めっき層13は、底板21の内面及び一対の圧着片23,23の内面にめっきされている。また、本実施の形態においては、錫めっき層13の厚さは、例えば1.0μm以下で形成されることが好ましい。この錫めっき層13とアルミニウム系金属からなる導体部5との間においても凝着は起こるが、圧着部9の圧着によるアルミ電線7の伸びだけでは酸化皮膜の破壊が不十分である場合があり、凝着面積が不十分である場合がある。このため、錫めっき層13の表面には、アルミ層11が設けられている。なお、錫めっき層13は、純錫だけではなく、錫合金であってもよい。また、錫めっき層13を設けずに圧着部9の表面に直接アルミ層11を設けてもよく、以下の説明では圧着部9の表面に直接アルミ層11を設けたものとする。
【0031】
アルミ層11は、導体部5と同様のアルミニウム又はアルミニウム合金などのアルミニウム系金属からなる。また、本実施の形態においては、アルミ層11の厚さは、例えば1.0μmで形成されることが好ましい。このアルミ層11は、圧着部9の接触面に圧延によって貼り付けられる、もしくは圧着部9の接触面に無電解めっきによって設けられている。
【0032】
アルミ層11を圧延によって設ける場合には、アルミニウム系金属の薄膜を圧延ローラ(不図示)によって延ばし、圧着部9の接触面の必要箇所に貼り付ける。このとき、接触面と薄膜とが比較的結合力の強いCu−Alの金属間結合によって結合されている。また、アルミ層11を無電解めっきによって設ける場合には、圧着部9をアルミニウム系金属のめっき液中に浸し、Cu−Alの金属間結合によって圧着部9の接触面にアルミ層11がめっきされる。なお、圧延及び無電解めっきする場合には、複数のアルミ電線用圧着端子1がバレル(不図示)によって連結されている状態で行うことが好ましい。この場合、複数のアルミ電線用圧着端子1において、各々の圧着部9の接触面の必要箇所に連続してアルミ層11を形成させることができ、生産性を向上することができる。
【0033】
このアルミ層11の表面にも酸化皮膜が形成されるが、圧着部9でアルミ電線7を圧着したときのアルミ電線7と同様に、圧着によって圧着部9自体が伸びて酸化皮膜が破壊され、新生面が露出される。そして、アルミ層11と導体部5とはAl−Alの同種金属間結合をなすため、Sn−Alのような異種金属間結合よりも強い凝着作用を有する。このため、錫めっき層13と導体部5との凝着には不十分であった凝着面積でも、アルミ層11と導体部5とが凝着することができ、アルミ電線7とアルミ電線用圧着端子1とを導通させることができる。
【0034】
このようなアルミ電線用圧着端子1では、導体部5に対して凝着作用を有するアルミニウム系金属からなるアルミ層11が圧着部9の導体部5と接触する接触面に設けられているので、導体部5の表面に酸化皮膜が破壊された箇所が少なくても、アルミ層11と導体部5との結合がAl−Alの同種金属間結合であり、Sn−Alのような異種金属間結合よりも凝着の強度が高く、確実に導体部5とアルミ層11とが凝着することができる。
【0035】
また、アルミ層11と導体部5との結合がAl−Alの同種金属間結合であるので、導体部5の新生面露出面積を必要以上に大きくして凝着面積を稼ぐ必要がない。このため、圧着部9による導体部5の圧縮率を低くする必要がない。
【0036】
従って、このようなアルミ電線用圧着端子1では、必要以上に凝着面積を稼ぐ必要がなく、高い圧縮率の領域でも安定した接続信頼性を得ることができる。
【0037】
また、アルミ層11が圧着部9の接触面に圧延によって貼り付けられている場合には、アルミニウム系金属の薄膜を圧着部9の接触面に選択的に貼り付けるだけで、導体部5に対して高い凝着作用を得ることができ、接続信頼性を向上することができる。
【0038】
さらに、アルミ層11が圧着部9の接触面に無電解めっきによって設けられている場合には、圧着部9をアルミニウム系金属のめっき液中に浸すだけでアルミ層11を形成することができ、アルミ層11の形成を簡易化することができる。
【0039】
また、圧着部9の接触面とアルミ層11との間に錫めっき層13が設けられている場合には、従来の錫めっきされた圧着部9にアルミ層11を設ければよく、製造工程の変更による影響を抑制することができる。
【0040】
なお、本発明の実施の形態に係るアルミ電線用圧着端子では、圧着部の導体部と接触する接触面にセレーションが設けられていないが、必要であればセレーションを設けてもよい。
【0041】
また、圧着部の表面に設けられた層をアルミ層としているが、これに限らず、例えばアルミニウムと同様の面心立方構造を有する金属などを層として設けてもよい。或いは、導体部のアルミニウム系金属と強い結合力を有する金属を層として設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態に係るアルミ電線用圧着端子をアルミ電線に圧着させたときの側面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るアルミ電線用圧着端子の平面図である。
【図3】図1のX−X断面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るアルミ電線用圧着端子の錫めっき層を設けたときの要部断面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るアルミ電線用圧着端子の要部断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1…アルミ電線用圧着端子
3…素線
5…導体部
7…アルミ電線
9…圧着部
11…アルミ層
13…錫めっき層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム系金属の複数の素線からなる導体部を有するアルミ電線の前記導体部に圧着され、銅系金属からなる圧着部と、
この圧着部の前記導体部と接触する接触面に設けられ、前記導体部に対して凝着作用を有するアルミニウム系金属からなるアルミ層と、
を有することを特徴とするアルミ電線用圧着端子。
【請求項2】
前記アルミ層は、前記圧着部の接触面に圧延によって貼り付けられていることを特徴とする請求項1記載のアルミ電線用圧着端子。
【請求項3】
前記アルミ層は、前記圧着部の接触面に無電解めっきによって設けられていることを特徴とする請求項1記載のアルミ電線用圧着端子。
【請求項4】
前記圧着部の接触面と前記アルミ層との間には、錫めっき層が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアルミ電線用圧着端子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−283287(P2009−283287A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134081(P2008−134081)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】