説明

アレルゲン低減建材

【課題】アレルゲン低減剤の近傍に十分な水を供給でき、アレルゲンを効率良く低減できるアレルゲン低減建材を提供する。
【解決手段】アレルゲン低減建材(10)では、水分の吸放湿特性を有する調湿建材(11)の表面に、透湿性を有する塗膜層(20)が形成され、この塗膜層(20)内にアレルゲン低減剤(30)が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルゲンを不活性化させる機能を有するアレルゲン低減建材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダニや花粉等のアレルゲンは、アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎等の要因となっており、社会的にも問題視されている。このようなアレルゲンを低減させる技術として、特許文献1には、アレルゲンの低減機能が付与された建材が開示されている。
【0003】
具体的に、特許文献1に開示のアレルゲン低減建材は、アレルゲン低減剤と保湿剤とを塗料中に分散させた後、この塗料を建材表面に塗布することで得られる。アレルゲン低減剤は、アレルゲンを不活性化させるものであり、例えば光触媒等が用いられる。保湿剤は、空気中の水分を吸着する例えばゼオライトやシリカゲル等で構成される。
【0004】
このアレルゲン低減建材では、アレルゲン低減剤の近傍に水を供給することで、アレルゲンの低減効果を高めている。具体的に、保湿剤に空気中の水分が吸着すると、保湿剤の表面には、水膜が形成される。このため、保湿剤に隣接するアレルゲン低減剤の近傍では、このような水の存在化において、アレルゲンの不活性化作用が高まる。その結果、このアレルゲン低減建材では、アレルゲン低減剤の近傍に水が存在しない場合と比較して、アレルゲンを効率良く除去することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−146453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、特許文献1に開示のアレルゲン低減建材のように、建材表面に保湿剤を用いる方式では、表面に保持できる保湿剤の量に限界がある。従って、例えば冬季等の比較的乾燥した空気条件において、保湿剤の表面に吸着できる水の量が少なくなると、アレルゲン低減剤の近傍に充分な水を供給することができなくなる。その結果、水の供給に起因するアレルゲンの低減効果を十分に発揮することができず、アレルゲンの低減効率が低下するという問題が生じる。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、アレルゲン低減剤の近傍に十分な水を供給でき、アレルゲンを効率良く低減できるアレルゲン低減建材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、建材と、該建材の表面側に形成される塗膜と、該塗膜中に含まれるアレルゲン低減剤とを有するアレルゲン低減建材を対象とする。そして、このアレルゲン低減建材は、上記建材が、空気中の水分を吸収する吸湿特性と、吸収した水分を空気中へ放出する放湿特性とを有する調湿建材で構成され、上記塗膜は、水を透過する透湿性の塗膜で構成されていることを特徴とする。
【0009】
第1の発明では、調湿建材の表面側に透湿性の塗膜が形成され、この塗膜内にアレルゲン低減剤が含まれる。このため、例えば室内空間の室内空気と、調湿建材との間で水分の授受が行われる。具体的には、例えば室内空気の湿度が比較的高い場合、室内空気中の水が透湿性の塗膜を透過して、調湿建材の内部へ吸収される。また逆に、例えば室内空気の湿度が比較的低い場合、調湿建材の内部の水が透湿性の塗膜を透過して外部(室内空間)へ放出される。以上のように、本発明では、空気中の水と調湿建材内の水との間の濃度差を推進力として水が移動する。このような水の移動は、調湿建材の表面全域に亘って行われる。このため、塗膜内のアレルゲン低減剤の近傍は、湿潤状態が維持される。その結果、このような水の存在により、アレルゲン低減剤によるアレルゲンの不活性化作用が向上する。
【0010】
第2の発明は、アレルゲン低減剤が固体粒子状に形成され、塗膜の表面に担持される。これにより、アレルゲン低減剤とアレルゲンとの接触効率が向上し、更には移動する水とアレルゲン低減剤の接触効率も向上する。その結果、アレルゲンの不活性化作用が更に向上する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、吸湿特性及び放湿特性を有する調湿建材の表面に、透湿性の塗膜を形成し、この塗膜内にアレルゲン低減剤を含有するようにしたので、調湿建材の表面全域に亘って、水の授受を行うことができる。これにより、アレルゲン低減剤の近傍の湿潤状態を保つことができ、アレルゲンを効率良く低減できる。また、調湿建材の表面にアレルゲン低減剤を保持させると、アレルゲン低減剤と調湿建材との距離が近くなる。このため、調湿建材と空気との間を水が移動する際、この水がアレルゲン低減剤の周囲を通り易くなる。よって、水の存在によるアレルゲンの低減効果を高めることができる。
【0012】
また、調湿建材は、従来例の保湿剤と比較すると、格段に体積を大きく取ることができる。このため、調湿建材内の水分が飽和状態(即ち、平衡含水率が100%の状態)となることはほとんどない。よって、本発明では、空気と調湿建材との間での水の濃度差がある限り、アレルゲン低減剤の周囲に水を常時供給することができる。従って、本発明では、アレルゲンの低減効果を継続的に発揮することができる。
【0013】
第2の発明では、固体粒子状のアレルゲン低減剤を塗膜の表面に担持させている。このため、例えばアレルゲン低減剤を塗膜内に溶解させる方式と比較すると、アレルゲン低減剤とアレルゲンとの接触効率を高めることができる。従って、アレルゲン低減剤の添加量を比較的少量としながら、アレルゲンを効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態に係るアレルゲン低減建材の概略構成を示す断面図である。
【図2】実施形態に係るアレルゲン低減建材の概略構成を示す断面図であり、空気中から建材側へ移動する水分を矢印で示したものである。
【図3】実施形態に係るアレルゲン低減建材の概略構成を示す断面図であり、建材側から空気中へ移動する水分を矢印で示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限することを意図するものではない。
【0016】
本実施形態に係るアレルゲン低減建材(10)は、室内等に設けられる建材(11)にアレルゲンの低減機能を付与したものである。
【0017】
〈アレルゲン低減建材の構成〉
図1に示すように、アレルゲン低減建材(10)は、室内空間(S)に設置される建材(11)と、建材(11)の表面に形成される塗膜層(20)と、この塗膜層(20)内に含まれるアレルゲン低減剤(30)とを有している。なお、建材(11)と塗膜層(20)との間に下塗り層等を形成するようにしても良い。
【0018】
本実施形態に係る建材(11)は、室内の内装用の壁材(化粧板)を構成している。建材(11)は、空気中の水分を吸収する吸湿特性、及び吸収した水分を空気中へ放出する放湿特性とを有する、調湿建材で構成されている。具体的に、本実施形態の建材(11)は、水分の吸放湿性を有する木質系の軟質繊維板(いわゆるインシュレーションボード)で構成されている。しかしながら、建材(11)は、吸放湿性を有するものであれば、これ以外の材料であっても良い。具体的には、建材(11)としては、火山性ガラス質複層板や鉱物質繊維板等が挙げられる。
【0019】
塗膜層(20)は、建材(11)の表面に塗布した塗料を硬化させることで形成される。なお、建材(11)と塗膜層(20)との間に下塗り層や中塗り層を形成しても良い。塗膜層(20)は、水分を透過させる透湿性を有する材料で構成されている。具体的に、塗膜層(20)を形成する透湿性塗料としては、水性の塗料、より具体的にはエマルション系の塗料が用いられる。本実施形態では、透湿性の塗料として、アクリルエマルションが用いられている。
【0020】
アレルゲン低減剤(30)は、略球形状の固形粒子状の材料で構成されている。具体的に、本実施形態では、アレルゲン低減剤(30)として「N−122P」が用いられている。このアレルゲン低減剤(30)は、ポリマーの骨格自体に吸湿・放湿性の機能を付与したアクリル系微粒子の表面に、アレルゲン低減性能を有するアニオン性官能基を付与したものである。なお、本実施形態のアレルゲン低減剤(30)の材料は、単なる一例であり、固形粒子状であれば他の材料を用いることもできる。具体的に、アレルゲン低減剤(30)として、例えば固形粒子状の無機材料の表面にポリフェノール系の有機系抗アレルゲン剤が付与されたものを用いることができる。また、アレルゲン低減剤(30)としては、例えば水溶液タイプ(例えばポリフェノール系)のものを用い、このアレルゲン低減剤(30)を塗膜(20)内に含有させる構成としても良い。また、アレルゲン低減剤(30)の形状は、球形状以外にも、例えば円柱形や楕円形等、他の形状を採用することもできる。
【0021】
本実施形態のアレルゲン低減剤(30)の平均的な粒子径は、約20μmである。これに対し、塗膜層(20)の平均的な厚さ(膜厚)は、約10μmである。以上のように、本実施形態では、アレルゲン低減剤(30)の粒子径が、塗膜を成す塗膜層(20)の厚さの2倍となっている。これにより、アレルゲン低減剤(30)は、その一部(本実施形態では、約半分の部分)が塗膜層(20)の外部へ露出する。その結果、アレルゲン低減剤(30)の露出面積を十分に確保でき、ひいては空気中のアレルゲンとアレルゲン低減剤(30)との接触効率を十分に確保できる。また、本実施形態のアレルゲン低減剤(30)は、その約半分が塗膜層(20)の内部に埋設されている。これにより、アレルゲン低減剤(30)を塗膜層(20)の内部に強固に担持させることができる。
【0022】
以上のように、アレルゲン低減剤(30)の粒子径は、塗膜層(20)の厚さよりも大きい方が好ましい。これにより、アレルゲン低減剤(30)を塗膜層(20)の外部へ確実に露出させることができる。また、アレルゲン低減剤(30)の粒子径は、塗膜層(20)の厚さの2倍以下である方が好ましい。アレルゲン低減剤(30)の粒子径が、塗膜層(20)の厚さの2倍よりも大きくなると、塗膜層(20)からアレルゲン低減剤(30)が剥がれ落ち易くなるからである。
【0023】
なお、アレルゲン低減剤(30)の形状が、円柱形や楕円形である場合には、これらの形状における最も長い径(最大長さ)を粒子径として、この粒子径を塗膜層(20)の厚さよりも大きく且つ該厚さの2倍以下とすれば良い。
【0024】
〈アレルゲン低減建材の製造方法〉
アレルゲン低減建材(10)は、建材(11)の表面側にアレルゲン低減剤(30)を含む基準塗料を塗布することを基本として製造される。具体的には、基準塗料としてのアクリルエマルションに対して、固体粒子状のアレルゲン低減剤(30)を10wt%添加して塗料を得た後、この塗料を建材(11)の表面にスプレーガン等によって塗布して塗膜を形成する。この塗膜を乾燥させて硬化させることで、塗膜層(20)の表面に固体粒子状のアレルゲン低減剤(30)が担持されたアレルゲン低減建材(10)を得ることができる(図1を参照)。なお、本実施形態では、建材(11)表面の単位面積あたりの基準塗料(アクリルエマルション)の塗布量が80g/mであり、建材(11)表面の単位面積あたりのアレルゲン低減剤(30)の担持量(使用量)が、8.0g/m となっている。
【0025】
〈アレルゲン低減建材によるアレルゲンの低減作用について〉
以上のようにして得られたアレルゲン低減建材(10)では、建材(11)と室内空間(S)の空気との間での水の移動に伴い、アレルゲンの低減作用の向上を図っている。
【0026】
具体的に、例えば室内空間(S)の空気の湿度が比較的高く、建材(11)内の水の含有量が比較的少ない条件下では、図2の白抜きの矢印で示すように、空気中の水分が建材(11)に向かって移動する。この際、水分はアレルゲン低減剤(30)の周囲を通過するようにしながら、透湿性の塗膜層(20)を透過し、その後に建材(11)の内部に吸収される。従って、このような条件下では、水分がアレルゲン低減剤(30)の近傍に常時供給されることになる。一方、空気中のアレルゲン(40)は、アレルゲン低減剤(30)の表面に付着して不活性化される。この際、アレルゲン低減剤(30)の近傍では、水の存在により、アレルゲンの不活性作用が向上する。その結果、アレルゲンが効率良く除去される。
【0027】
また、例えば室内空間(S)の空気の湿度が比較的低く、建材(11)内の水の含有量が比較的多い条件下では、図3の白抜きの矢印で示すように、建材(11)内に含まれる水分が、室内空間(S)に向かって移動する。この際、水分は、透湿性の塗膜層(20)を透過し、アレルゲン低減剤(30)の周囲を通過するようにしながら、空気中へ移動する。従って、このような条件下においても、水分がアレルゲン低減剤(30)の近傍に常時供給されることになる。一方、空気中のアレルゲン(40)は、アレルゲン低減剤(30)の表面に付着して不活性化される。この際、アレルゲン低減剤(30)の近傍では、水の存在により、アレルゲンの不活性作用が向上する。その結果、アレルゲンが効率良く除去される。
【0028】
〈実施形態の効果〉
上記実施形態によれば、吸湿特性及び放湿特性を有する建材(11)の表面に、透湿性の塗膜層(20)を形成し、この塗膜層(20)にアレルゲン低減剤(30)を含有するようにしたので、建材(11)の表面全域に亘って、水の授受を行うことができる(図2及び図3を参照)。これにより、アレルゲン低減剤(30)の近傍の湿潤状態を保つことができ、アレルゲン(40)を効率良く低減できる。また、建材(11)の表面にアレルゲン低減剤(30)を保持させると、アレルゲン低減剤(30)と建材(11)との距離が近くでき、アレルゲン低減剤(30)と建材(11)とを実質的に接触させることができる。このため、建材(11)と室内空気との間を水が移動する際、この水がアレルゲン低減剤(30)の周囲を通り易くなる。よって、水の存在によるアレルゲンの低減効果を高めることができる。
【0029】
また、従来例の保湿剤と比較すると、本実施形態の建材(11)は、格段に体積が大きくなっている。このため、この建材(11)内の水分が飽和状態(即ち、平衡含水率が100%の状態)となることはほとんどない。よって、室内空気と建材(11)との間での水の濃度差がある限り、アレルゲン低減剤(30)の周囲に水を常時供給することができる。従って、本実施形態に係るアレルゲン低減建材(10)では、アレルゲンの低減効果を継続的に発揮することができる。
【0030】
また、アレルゲン低減建材(10)では、固体粒子状のアレルゲン低減剤(30)を塗膜層(20)の表面に担持させている。このため、例えば水溶性のアレルゲン低減剤(30)を塗膜内に溶解させる方式と比較すると、アレルゲン低減剤(30)とアレルゲンとの接触効率を高めることができる。従って、アレルゲン低減剤(30)の添加量を比較的少量としながら、アレルゲンを効果的に低減することができる。
【0031】
また、このように固体粒子状のアレルゲン低減剤(30)を用いると、有機溶剤系の基準塗料であっても、アレルゲン低減剤(30)と基準塗料とを分離なく混合させることができる。即ち、例えば水溶性のアレルゲン低減剤と、有機溶剤系の基準塗料とを混合させて塗料を作成すると、両者が反発/分離してしまう。従って、このような塗料を建材に塗布して硬化処理を行っても、両者が反発することに起因して良好な表面形状を得ることができない。これに対し、本実施形態では、アレルゲン低減剤(30)を固体粒子状としているため、有機溶剤系の塗料に対してアレルゲン低減剤(30)が反発することがない。従って、本実施形態のアレルゲン低減建材(10)では、有機溶剤系の基準塗料を用いても、良好な表面形状を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上説明したように、本発明は、アレルゲンを不活性化させる機能を有するアレルゲン低減建材について、有用である。
【符号の説明】
【0033】
10 アレルゲン低減建材
11 建材(調湿建材)
20 塗膜(塗膜層)
30 アレルゲン低減剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建材と、該建材の表面側に形成される塗膜と、該塗膜中に含まれるアレルゲン低減剤とを有するアレルゲン低減建材であって、
上記建材は、空気中の水分を吸収する吸湿特性と、吸収した水分を空気中へ放出する放湿特性とを有する調湿建材で構成され、
上記塗膜は、水を透過する透湿性の塗膜で構成されていることを特徴とするアレルゲン低減建材。
【請求項2】
請求項1において、
上記アレルゲン低減剤は、上記塗膜の表面に担持される固体粒子状に形成されていることを特徴とするアレルゲン低減建材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate