説明

アンカーの定着構造

【課題】あと施工アンカーにおいて、既設構造物のコンクリート強度やアンカー筋の埋め込み深さによる制約を受けずに十分を定着力を確保できるようにする。
【解決手段】既設構造物(1)の表面から深さ方向に径が漸増するようにテーパーを付けて削孔した孔(10)に、先端部に定着板(12a)を有するアンカー筋(12)を埋め込んで充填材(14)を充填するとともに、既設構造物の表面から少なくとも所定深さまでアンカー筋側面と充填材との間に付着力が作用しないように縁切りする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアンカー筋の定着力を確保するアンカー定着構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のあと施工アンカーでは、既設コンクリート構造物に所定深さの孔を削孔して鉄筋(アンカー筋)を挿入し、孔とアンカー筋との間にモルタルや樹脂等の固化材料を充填してアンカー筋と既設コンクリート構造物との付着によってアンカー筋の定着力を確保する構造(接着系アンカー)が通常用いられている。
図4に示すように、既設コンクリート構造物1に対して所定深さの孔2を削孔し(図4(a))、孔2にアンカー筋3を挿入し(図4(b))、モルタルや樹脂等の固化材料(充填材)4を充填する(図4(c))。充填材4はアンカー筋3、既設コンクリート構造物1と付着し、この付着によってアンカー筋3の定着力が確保される。
【0003】
しかし、図5に示すように、アンカー筋3に対して矢印Aで示すように引き抜き力が作用すると、アンカー筋3と充填材4との間の付着力によって充填材4が上方へ引っ張られて図の破線5で示すように上端部にコーン破壊力が作用し、コンクリート構造物上端部から順次破壊して定着長が短くなってしまう。特に、コンクリート強度が弱い場合や、アンカー筋の差し込み深さが十分にとれない場合には、定着力が確保できなくなってしまう。
【0004】
なお、接着系アンカーにおいて、コンクリート構造物に削孔する孔を開口側から底面側へ順次径を大きくして定着力を確保するもの(特許文献1)、下方に至るに伴って孔径を漸次大きくしてJ 型アンカーボルトを埋設することで定着力を確保するもの(特許文献2)も提案されているが、アンカー筋に引き抜き力が作用するとコンクリート構造物上端部から順次コーン破壊が起こって定着長が短くなってしまうことは同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2000−80661号公報
【特許文献2】特開平10−245852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、接着系アンカーにおいては、既設コンクリート構造物上端部から順次破壊が起こって定着長が短くなってしまうことは避けられず、特にコンクリート強度が弱い場合や、アンカー筋の差し込み深さが十分にとれない場合には、定着長が短くなって十分な定着力が確保できなくなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決しようとするもので、あと施工アンカーにおいて、既設構造物のコンクリート強度やアンカー筋の埋め込み深さによる制約を受けずに十分な定着力を確保できるようにすることを目的とする。
本発明は、既設構造物の表面から深さ方向に径が漸増するようにテーパーを付けて削孔した孔に、先端部に定着板を有するアンカー筋を埋め込んで充填材を充填するとともに、既設構造物の表面から少なくとも所定深さまでアンカー筋側面と充填材との間に付着力が作用しないように縁切りしたことを特徴とする。
また、本発明は、既設構造物の表面から少なくとも所定深さまで被覆部材で覆ってアンカー筋側面と充填材との間に付着力が作用しないように縁切りしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、アンカー筋の側面と充填材とが付着していないため、アンカー筋に引き抜き力が作用しても上端部にコーン破壊が生ぜず、引き抜き力が作用したとき先端部の定着板が充填材を押し上げ、孔径が上端へ向かって小さくなっているため、充填材に楔効果が作用して充填材やアンカー筋が抜け出すことはなく、充填材はコンクリートから拘束力を受けて充填材の破壊強度が大きくなり、また、充填材を押し上げる力が周囲のコンクリートに伝わり、コンクリートも力を分担することになって十分な定着力を確保することができる。
本発明によれば、既設構造物の強度や寸法が明確でないものに対して、十分な定着力を満足するあと施工アンカーが施工可能となる。
また、あと施工アンカー取り付けのための既設構造物の補強が不要となる。
また、あと施工アンカーの適用範囲を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のアンカー筋の定着構造を説明する図である。
【図2】アンカー筋に引き抜き力が作用したときの説明図である。
【図3】既設構造物を貫通して削孔した例を示す図である。
【図4】従来の接着系アンカーを説明する図である。
【図5】コンクリート構造物上端部にコーン破壊が生ずることの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本実施形態について説明する。図1は本実施形態を説明する図で、既設のコンクリート構造物1に、深さ方向に孔径が徐々に増大するように孔10を削孔し(図1(a))、孔10にアンカー筋12を挿入する(図1(b))。アンカー筋12の先端には幅広の定着板12aが溶接、ボルト等で取り付けてある。次いで、孔10にモルタルや樹脂等の固化材料(充填材)14を充填し、このとき充填材14とアンカー筋の側面との間に付着力が作用しないように縁切りし(付着を切る)、先端の定着板12aの端部は充填材14の中に埋没させて先端定着部を形成し、アンカーの定着力を先端定着部に負担させる(図1(c))。アンカー筋側面の付着を切る場合、アンカー筋12の側面と充填材14との間に隙間があってはアンカー筋が安定しないので隙間はつくらないようにすることが望ましく、図では付着を切る縁切り部16を模式的に示している。
【0011】
このようなアンカー定着構造において、図2に示すように、アンカー筋に矢印Aで示すような引き抜き力が作用しても、アンカー筋の側面と充填材とは付着を切っているため、アンカー筋が充填材を引っ張り上げるような力は作用せず、そのため上端部にコーン破壊は生じない。そして、引き抜き力によって先端部の定着板12aは充填材14を押し上げ、このとき孔径が上端へ向かって小さくなっているため、充填材に楔効果が作用して充填材やアンカー筋が抜け出すことはなく、充填材はコンクリートから拘束力を受けて充填材の破壊強度が大きくなり、また、充填材を押し上げる力が矢印Bで示すように周囲のコンクリートに伝わり、コンクリートも力を分担することになって十分な定着力を確保することができる。
【0012】
なお、アンカー筋の側面に凹凸があり、充填材との間に隙間がないとアンカー筋が上方へ引っ張られたとき充填材に対して上方への機械的な力が作用してしまうのでアンカー筋は丸棒が望ましいが、さらに、アンカー筋側面を平滑にし、アンカー筋側面に付着力が作用しないようにする必要がある。そのため管状のものやシート状の被覆部材、例えばシース管やビニールホースでアンカー筋を被覆したり、アンカー筋にビニールテープを巻き付けるなどの方法を用いることが望ましい。また、アンカー筋側面に縁切り用の材料、例えばパラフィンやグリース等を塗布してアンカー筋側面を平滑にするとともに付着力が作用しないようにしてもよい。特に、アンカー筋が異径鉄筋のような場合にはシース管やビニールホースで被覆して充填材との付着を切る必要がある。また、上記ではアンカー筋の側面と充填材との間は全長にわたって付着を切るように説明したが、付着を切るのは必ずしもアンカー筋全長でなくてもよく、コンクリートの強度等の状況にも依存するが上部側の一部範囲であってもよい。また、アンカー筋に引き抜き力が作用したとき先端の定着板12aで充填材14を押し上げるようにしているので、定着板は広い面積とすることが望ましく、孔の入り口は小径なので、アンカー筋を孔に入れた後、拡幅する構造のものを用いるようにしてもよい。
【0013】
図3は本発明の他の実施形態を説明する図である。
コンクリート強度が強くないことが分かっている場合には、削孔する孔をなるべく深くすることで定着強度を大きくすることができる。図示の例では、先端まで貫通して最大に深さを大きくした場合であり、図1の場合と同様にアンカー筋12の側面と充填材14とは付着を切り、先端の定着板12aの端部は充填材14の中に埋没させて先端定着部を形成し、アンカーの定着力を先端定着部に負担させることは同じである。
【符号の説明】
【0014】
1…既設コンクリート構造物、10…深さ方向に径が増大する孔、12…アンカー筋、12a…定着板、14…充填材、16…付着を切る縁切り部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設構造物の表面から深さ方向に径が漸増するようにテーパーを付けて削孔した孔に、先端部に定着板を有するアンカー筋を埋め込んで充填材を充填するとともに、既設構造物の表面から少なくとも所定深さまでアンカー筋側面と充填材との間に付着力が作用しないように縁切りしたことを特徴とするアンカーの定着構造。
【請求項2】
既設構造物の表面から少なくとも所定深さまで被覆部材で覆ってアンカー筋側面と充填材との間に付着力が作用しないように縁切りした請求項1記載のアンカーの定着構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−196130(P2011−196130A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65563(P2010−65563)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】