アンカー構造、アンカーケーブル組付体、およびアンカー構造の構築方法
【課題】耐久性が高く、構築の際の作業性に優れるアンカー構造、およびこのアンカー構造の構築方法を提供する。
【解決手段】アンカーケーブル２と、コルゲートシース４と、第一仕切り部材５Ａと、１次グラウトと、２次グラウトと、防食材とを備えるアンカー構造Ａである。アンカーケーブル２は、樹脂被覆２ｒを有するストランド２ｔである。コルゲートシース４は、アンカーケーブル２を内部に収納する管状部材である。第一仕切り部材５Ａは、アンカーケーブル２を定着長部３Ａと自由長部３Ｂとに区画する。１次グラウトは、仕切り部材５Ａより削孔Ｈの奥側のコルゲートシース４内に充填される。２次グラウトは、削孔Ｈとコルゲートシース４との間に充填される。防食材は、仕切り部材５Ａより施工面Ｓ側のコルゲートシース４内に充填される。
【解決手段】アンカーケーブル２と、コルゲートシース４と、第一仕切り部材５Ａと、１次グラウトと、２次グラウトと、防食材とを備えるアンカー構造Ａである。アンカーケーブル２は、樹脂被覆２ｒを有するストランド２ｔである。コルゲートシース４は、アンカーケーブル２を内部に収納する管状部材である。第一仕切り部材５Ａは、アンカーケーブル２を定着長部３Ａと自由長部３Ｂとに区画する。１次グラウトは、仕切り部材５Ａより削孔Ｈの奥側のコルゲートシース４内に充填される。２次グラウトは、削孔Ｈとコルゲートシース４との間に充填される。防食材は、仕切り部材５Ａより施工面Ｓ側のコルゲートシース４内に充填される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は、既設のコンクリート構造物の耐久性を向上させるためのアンカー構造、そのアンカー構造に使用されるアンカーケーブル組付体、およびそのアンカー構造の構築方法に関するものである。特に、本発明は、ダムや防波堤、地下の駅舎など、改築の困難なコンクリート構造物を補強するためのアンカー構造、そのアンカー構造に使用されるアンカーケーブル組付体、およびそのアンカー構造の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【０００２】
従来から、擁壁の法面を補強するためのアンカー構造が知られている（例えば、特許文献１参照）。このアンカー構造は、施工面である擁壁の法面に形成される削孔内に配置される複数のアンカーケーブルを緊張した状態で削孔の開口部に定着することで構成される。そして、このアンカー構造は、各アンカーケーブルの緊張力を施工面に圧縮力として付与することで擁壁を補強する。
【０００３】
図３は、アンカー構造の一例を示す図である。このようなアンカー構造を形成する方法を以下に説明する。
【０００４】
アンカー構造Ｂを形成するには、まず、地盤Ｇの表面を覆うコンクリートの施工面Ｓから地盤Ｇに向かって形成した削孔Ｈに複数のアンカーケーブル１１０を配置する。各アンカーケーブル１１０は、スペーサ１２０により互いに離隔された状態で１本のシース１３０に収納される。アンカーケーブル１１０を削孔Ｈ内に配置する際は、シース１３０の一端側を所定の長さだけ剥がして、その部分でケーブル１１０をむき出しの状態にする。剥がしたシース１３０の端部には、シース１３０とケーブル１１０との隙間を封止する止水部１４０を形成する。
【０００５】
次に、削孔Ｈから外部に露出するアンカーケーブル１１０の端部をアンカーディスクＤとアンカープレートＰで地盤Ｇに仮固定し、削孔Ｈを封止する。アンカーケーブル１１０とアンカーディスクＤ、アンカープレートＰの配置が終了したら、削孔Ｈ内にグラウトを注入する。削孔Ｈへのグラウトの充填から所定時間が経過すると、グラウトが硬化する。ここで、例示したアンカーケーブル１１０は、シース１３０の開口部を封止する止水部１４０を境にして、むき出しの部分（定着長部）とシース１３０に覆われた部分（自由長部）とに分けられている。そのため、グラウトが硬化したときに、アンカーケーブル１１０のむき出しの部分のみが削孔Ｈに固着される。
【０００６】
最後に、アンカーディスクＤから突出するアンカーケーブル１１０を緊張し、ウェッジＷでアンカーディスクＤに定着することで、アンカー構造Ｂを完成する。ケーブル１１０に付与された緊張力は、ウェッジＷ、アンカーディスクＤ、アンカープレートＰを介して施工面Ｓに伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【０００７】
【特許文献１】特開平５―１２５５６６号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【０００８】
近年では、阪神・淡路大震災の教訓から、特に、既設のダムや防波堤、地下の駅舎など、容易に改築することができない環境にあるコンクリート構造物にアンカー構造を適用して、コンクリート構造物を補強することが推奨されている。このようなコンクリート構造物にアンカー構造を適用する場合、求められる特性は、長期にわたる信頼性、即ち耐久力を備えることである。しかし、上述した特許文献１のような従来のアンカー構造をそのままダムなどのコンクリート構造物の補強に適用すると、アンカー構造の耐久性が十分でない虞がある。
【０００９】
図３に示すようにケーブル１１０のむき出しの部分（定着長部）は、その周囲をグラウトが覆うのみであるので、地盤Ｇから削孔Ｈ内に染み出してくる水に対して、万全の防水対策が施されているとは言い難い。ケーブル１１０が錆びると、アンカー構造Ｂの耐久性は低下するので、むき出しのケーブル１１０に対する防水対策が重要である。特に、大量の水が存在する環境にあるダムや防波堤などのコンクリート構造物に設けられるアンカー構造Ｂでは、防水対策の重要度が高いことが予想される。
【００１０】
また、コンクリート構造物に削孔Ｈを形成する場合、削孔Ｈの内周面が硬いため、この削孔Ｈの内周面にむき出しのアンカーケーブル１１０が接触して損傷する虞がある。そのため、削孔Ｈへのアンカーケーブル１１０の挿入を慎重に行う必要があり、アンカー構造Ｂを構築する際の作業性が良くなかった。
【００１１】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは耐久性が高く、構築の際の作業性に優れるアンカー構造、およびこのアンカー構造の構築方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、上記アンカー構造の構築に好適なアンカーケーブル組付体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【００１２】
＜アンカー構造＞
本発明は、施工面に形成される削孔内に配置される複数のアンカーケーブルを緊張した状態で削孔の開口部に定着することで、アンカーケーブルの緊張力を施工面に圧縮力として付与するためのアンカー構造に係る。このアンカー構造に備わるアンカーケーブルは、樹脂被覆を有するストランドである。この本発明のアンカー構造は、複数のアンカーケーブルを内部に収納する管状のコルゲートシースと、各アンカーケーブルとコルゲートシースとの間のコルゲートシース内領域をアンカーケーブルの長手方向に仕切ることで、アンカーケーブルを削孔の開口部側の自由長部と削孔の奥側の定着長部とに区画する第一仕切り部材とを備える。さらに、本発明のアンカー構造は、コルゲートシース内領域において第一仕切り部材を挟んで削孔の奥側に充填されて、アンカーケーブルの定着長部をコルゲートシースに固定する１次グラウトと、削孔とコルゲートシースとの間に充填されて、コルゲートシースを削孔に固定する２次グラウトと、コルゲートシース内領域において第一仕切り部材を挟んで施工面側に充填されて、アンカーケーブルの腐食を防止する防食材とを備える。
【００１３】
本発明の構成とすることにより、削孔内におけるアンカーケーブル全体がコルゲートシースに覆われており、むき出しの状態となっていないため、アンカーケーブル（ストランド）が非常に腐食し難い。また、本発明のアンカー構造におけるアンカーケーブルは、アンカー構造の構築作業の際にコルゲートシースで保護された状態にあるので、殆ど損傷のない状態で配置される。従って、本発明のアンカー構造は、非常に高い耐久性を誇り、長期にわたって所定の緊張力を施工面に付与し続けることができる。
【００１４】
本発明のアンカー構造において、１次グラウトと２次グラウトは、別々に充填されて繋がっていない別体物であっても良いし、一部が繋がる一体物であっても良い。前者の場合、コルゲートシースを、内外に連通する貫通部を有しない構成とし、後者の場合、コルゲートシースを、内外に連通する貫通部を有する構成とすれば良い。１次グラウトと２次グラウトとを別体物とする構成の方が、後述する実施形態に示すように、１次グラウトを高圧で充填できるので、１次グラウトによるコルゲートシースへのストランドの固定（アンカーケーブルの固定）をより強固にすることができる。
【００１５】
本発明のアンカー構造において、第一仕切り部材を挟んで施工面側に充填された防食材は、例えばセメント系グラウトや、遅延硬化性の樹脂系グラウト（例えば、サーモスルー；商品名）などの時間の経過に伴って硬化する材質であっても良いし、グリースなどの時間の経過により硬化しない材質であっても良い。硬化する防食材であれば、硬化後に防食材によりケーブルを拘束できるのでケーブルに導入された緊張が弛み難い。これに対して、硬化しない防食材であれば、防食材によりケーブルが固定されないのでケーブルを再緊張することができる。いずれにしても、長期にわたって所定の緊張力を施工面に付与することができる。
【００１６】
＜アンカーケーブル組付体＞
本発明のアンカーケーブル組付体は、複数のアンカーケーブルと、コルゲートシースと、第一仕切り部材と、スペーサとを備える。アンカーケーブルは、ストランドの表面に樹脂被覆を形成した構成を備える。コルゲートシースは、複数のアンカーケーブルを一括して収納する管状部材である。第一仕切り部材は、各アンカーケーブルとコルゲートシースとの間のコルゲートシース内領域をアンカーケーブルの長手方向に仕切ることで、アンカーケーブルを自由長部と定着長部とに区画する部材である。そして、スペーサは、コルゲートシース内で各アンカーケーブルを離隔状態に保持する部材である。
【００１７】
本発明のアンカーケーブル組付体によれば、アンカーケーブルのほぼ全体がコルゲートシースに覆われているため、ケーブルを削孔内に挿入する際、アンカーケーブルを損傷することが殆どない。また、ケーブルを削孔内に配置し、アンカー構造を構築した状態において、３重の防食構造（樹脂被覆・コルゲートシース・シース内に充填される１次グラウトもしくは防食材）によりストランドが保護されることになる。そのため、本発明のアンカーケーブルを使用して形成したアンカー構造は、非常に耐久性が高く、長期にわたって所定の緊張力を施工面に付与し続けることができる。
【００１８】
本発明のアンカーケーブル組付体において、コルゲートシースを有底管状とし、その底部が封止されている構成としても良い。この場合、アンカーケーブルにおける第一仕切り部材と底部との間が定着長部として規定される。
【００１９】
このような構成によれば、コルゲートシース内領域のうち、コルゲートシースの底部と第一仕切り部材との間の領域を外部に対して封止できる。即ち、１次グラウトと２次グラウトとを別々に充填することができる。この場合、ケーブルをコルゲートシースに固定するための１次グラウトを高圧で充填することができ、ケーブルとコルゲートシースとを強固に固定することができる。
【００２０】
底部を有するコルゲートシースを備えるアンカーケーブル組付体において、第一仕切り部材と底部で仕切られたコルゲートシース内領域に１次グラウトを充填しておいても良い。
【００２１】
この構成によれば、アンカー構造の構築現場における１次グラウトの充填を省略できる。
【００２２】
また、本発明のアンカーケーブル組付体において、第一仕切り部材よりもアンカーケーブルの先端側でコルゲートシース内領域を長手方向に仕切る第二仕切り部材を備える構成としても良い。この場合、アンカーケーブルにおける第一仕切り部材と第二仕切り部材との間が定着長部として規定される。
【００２３】
このような構成によれば、コルゲートシース内領域のうち、第一仕切り部材と第二仕切り部材と間の領域を外部に対して封止できる。その結果、コルゲートシースに封止された底部を設けた場合と同様の効果を奏する。
【００２４】
第二仕切り部材を備えるアンカーケーブル組付体において、第一仕切り部材と第二仕切り部材とで仕切られたコルゲートシース内領域に１次グラウトを充填しておいても良い。
【００２５】
この構成によれば、アンカー構造の構築現場における１次グラウトの充填を省略できる。
【００２６】
＜アンカー構造の構築方法＞
また、本発明のアンカーケーブルを使用してコンクリート構造物に圧縮力を付与し、当該構造物を補強するためのアンカー構造を構築することができる。即ち、本発明は、地盤に設置されるコンクリート構造物にプレストレスを付与してコンクリート構造物を補強するためのアンカー構造を構築する方法であって、以下の工程を備えることを特徴とする。
・コンクリート構造物の施工面からコンクリート構造物を貫通して地盤に到達する削孔を形成する工程。
・本発明のアンカーケーブル組付体を削孔に挿入して、アンカーケーブルの定着長部を地盤内の位置に配置する工程。
・定着長部をコルゲートシースに固定するための１次グラウトが、第一仕切り部材よりも削孔の奥側のコルゲートシース内領域に充填されていない場合、当該領域に１次グラウトを充填する工程。
・コルゲートシースを削孔に固定するための２次グラウトを削孔内に充填する工程。
・１次グラウトおよび２次グラウトの硬化後に、アンカーケーブルの自由長部側端部を緊張して施工面に定着する工程。
・第一仕切り部材よりも施工面側のコルゲートシース内領域に防食材を充填する工程。
【００２７】
本発明のアンカー構造の構築方法によれば、所定の耐久性を誇るアンカー構造を構築することができる。特に、この方法で使用する本発明のアンカーケーブル組付体は、アンカーケーブル（ストランド）がコルゲートシースにより保護されており、ケーブルを削孔内に挿入する際、過度の慎重さを要求されない。そのため、本発明のアンカー構造の構築方法は、従来の方法よりも作業性に優れる。
【発明の効果】
【００２８】
本発明のアンカー構造は、非常に高い耐久性を誇り、長期にわたって所定の緊張力を施工面に付与し続けることができる。そのため、本発明のアンカー構造によれば、例えば、ダムや、防波堤、地下の駅舎など、改築が困難なコンクリート構造物を補強し、長期にわたってコンクリート構造物を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【００２９】
【図１】ダムの堤体（コンクリート構造物）に本発明のアンカーを適用した概略図を示す。
【図２】アンカー構造の主要な部分を示す概略構成図である。
【図３】従来のアンカー構造の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【００３０】
以下、本発明アンカー構造をダムの補強に適用する例を図面に基づいて説明する。
【００３１】
図１は、ダムの堤体Ｃ（コンクリート構造物）に本発明のアンカー構造を適用した概略図を示す。また、図２は、アンカー構造の主要な部分を示す概略構成図である。
【００３２】
まず、堤体Ｃに削孔Ｈを形成する（図１参照）。削孔Ｈは、堤体Ｃを貫通し、堤体Ｃよりも深い位置の地盤Ｇにまで到達している。
【００３３】
次に、本発明のアンカーケーブル組付体１を用意する（図２を参照）。アンカーケーブル組付体１は、コルゲートシース４と、コルゲートシース４内に配される複数本のアンカーケーブル２と、第一仕切り部材５Ａと、第二仕切り部材５Ｂと、スペーサ６とを有する。
【００３４】
アンカーケーブル２は、ストランド２ｔと、ストランド２ｔの表面に防食対策として施された樹脂被覆２ｒとからなる。樹脂被覆２ｒとしては、例えばエポキシ樹脂を挙げることができる。
【００３５】
アンカーケーブル２を収納するコルゲートシース４は、一端側が開口した構成を備える有底管状の部材である。このコルゲートシース４の開口部からは、アンカーケーブル２の一端が突出している。また、コルゲートシース４の底部は厳密に封止されておらず、底部を挟んでコルゲートシース４の内外間で１次グラウトの移動は遮断されない。このようなコルゲートシース４は、例えばポリエチレンなどの透明樹脂で形成しても良いし、例えばステンレスなどの金属で形成しても良い。コルゲートシース４を透明樹脂で構成すれば、コルゲートシース４内のアンカーケーブル２の配置状態を確認することができる。また、コルゲートシース４を金属で構成すれば、コルゲートシース４の強度を確保できる。
【００３６】
コルゲートシース４内の各アンカーケーブル２は、複数のスペーサ６および第一・第二仕切り部材５Ａ，５Ｂにより離隔状態に保持されている。スペーサ６は、コルゲートシース４内で所定の間隔を空けて複数設けられている。
【００３７】
第一仕切り部材５Ａと第二仕切り部材５Ｂは、アンカーケーブル２を離隔状態に保持する機能に加え、コルゲートシース４の内部の空間をコルゲートシース４（アンカーケーブル２）の長手方向に仕切る機能を有する。これら仕切り部材５Ａ，５Ｂにより、コルゲートシース内領域における仕切り部材５Ａ，５Ｂ間の領域Ｒ１が区画された状態で封止される。この領域Ｒ１の形成と同時に、アンカーケーブル２は、削孔Ｈの奥側に配される定着長部３Ａと、削孔Ｈの開口部側に配される自由長部３Ｂとに区画される。通常、これら仕切り部材５Ａ，５Ｂは両方とも、アンカーケーブル組付体１を削孔Ｈ内に配置したときに、堤体Ｃよりも下の地盤Ｇの位置になるように形成されている。
【００３８】
上記スペーサ６、第一仕切り部材５Ａおよび第二仕切り部材５Ｂは、例えば以下のようにコルゲートシース４内に配置できる。まず、コルゲートシース４の内径よりも小さい外径で複数の貫通孔を有する円環状部材を用意する。この円環状部材の各貫通孔に１本ずつアンカーケーブル２を挿通して、貫通孔とケーブル２との隙間を封止して一体化する。その際、円環状部材とコルゲートシース４の内周面との隙間付近に二液型発泡ウレタンなどの樹脂を塗布して、この一体化物をコルゲートシース４内に挿通した後、樹脂が硬化するのを待つ。この場合、円環状部材がスペーサ６や部材５Ａ，５Ｂになる。ここで、スペーサ６には、ケーブル２が配置されない貫通孔も設けられており、コルゲートシース４内における後述する１次グラウトや防食材の移動を規制しない。
【００３９】
その他、アンカーケーブル２の定着長部３Ａ側の端部には、キャップや熱収縮チューブなどを被せてストランド２ｔの端面がむき出しとならないようにしておくことが好ましい。
【００４０】
上述したアンカーケーブル２を用意したら、次にケーブル２のコルゲートシース４の開口端にジョイント管Ｊを取り付ける。ジョイント管Ｊは、管部と、管部の一端側で管部の径方向に伸びるフランジ部とを備える。ジョイント管Ｊをコルゲートシース４に取り付けるときは、管部にアンカーケーブル２を挿通させ、かつ、管部の一部がコルゲートシース４の内部に配されるようにする。そして、管部とコルゲートシース４との隙間を封止することでジョイント管Ｊとアンカーケーブル組付体１とを一体化する。
【００４１】
次に、平板状のアンカープレートＰを施工面Ｓに当接するように配置する。アンカープレートＰの中央には貫通孔が形成されており、この貫通孔は、上述したジョイント管Ｊの管部の径よりも大きく、フランジ部の外径よりも小さい。
【００４２】
次いで、アンカープレートＰの貫通孔を介して、ジョイント管Ｊと一体化したアンカーケーブル組付体１を削孔Ｈ内に挿入する。このとき、ジョイント管Ｊのフランジ部がアンカープレートＰに係合し、削孔Ｈ内でのアンカーケーブル組付体１の位置が決まると共に、ケーブル組付体１のコルゲートシース４と削孔Ｈとの間の領域Ｒ２が区画される。挿入されたアンカーケーブル１の領域Ｒ１は通常、完全に地盤Ｇに囲まれる位置に配置される。このように領域Ｒ１を設定することにより、アンカーケーブル組付体１のアンカーケーブル２を緊張・定着した際、堤体Ｃにプレストレスを付与することができる。
【００４３】
さらに、ジョイント管Ｊのフランジ部の上にアンカーディスクＤを配置する。アンカーディスクＤは、アンカーケーブル組付体１のアンカーケーブル２に対応する位置にケーブル２を１本ずつ挿通できる貫通孔を有する。そのため、ジョイント管Ｊのフランジ部にアンカーディスクＤを配置すれば、ケーブル２がディスクＤの貫通孔から突出した状態で配置されると共に、アンカーディスクＤの一面、ジョイント管Ｊの管部の内周面、コルゲートシース４の内周面、および仕切り部材５Ａで囲まれる領域Ｒ３が形成される。
【００４４】
削孔Ｈ内にアンカーケーブル組付体１を配置したら、コルゲートシース４の領域Ｒ１にセメント系の１次グラウトを充填すると共に、コルゲートシース４と削孔Ｈとの間の領域Ｒ２にセメント系の２次グラウトを充填する。１次グラウトの注入は、外部から領域Ｒ１に連通する連通管（図示略）、例えば、部材Ｄ、Ｊを貫通するホースにより行えば良い。また、２次グラウトの注入も、外部から領域Ｒ２に連通する連通管（図示略）、例えば、部材Ｄ、Ｊを貫通し、さらにコルゲートシース４内に伸びてコルゲートシース４の底部を貫通するホースにより行えば良い。
【００４５】
ここで、領域Ｒ１は、仕切り部材５Ａ，５Ｂで完全に仕切られているため、１次グラウトを高圧で充填することができる。そのため、領域Ｒ１における定着長部３Ａとコルゲートシース４とを非常に強固に固定することができる。
【００４６】
１次グラウトと２次グラウトは、同時に充填しても良いし、時間差を設けて充填しても良い。但し、時間差を設ける場合、２次グラウトを先に充填すると２次グラウトの充填圧力によりコルゲートシース４が圧壊する虞があるため、１次グラウトの充填を先に行うことが好ましい。なお、１次グラウトは、現場ではなく工場で予め充填しておいても良い。
【００４７】
充填した１次グラウトと２次グラウトの両方が硬化したら、アンカーケーブル組付体１のアンカーケーブル２を緊張する。ここで、アンカーケーブル２の定着長部３Ａは１次グラウトによりコルゲートシース４に固定されており、コルゲートシース４は２次グラウトにより削孔Ｈに固定されている。そのため、アンカーケーブル２を緊張しても、定着長部３Ａは殆ど伸びることなくその位置を保つ。一方、ケーブル２の自由長部３Ｂは、コルゲートシース４に固定されていないので、伸びることができる。
【００４８】
上述のようにアンカーケーブル２を緊張した状態で、ウェッジＷによりケーブル２をアンカーディスクＤに定着する。定着されたアンカーケーブル２は、ウェッジＷ、アンカーディスクＤ、ジョイント管Ｊ、アンカープレートＰを介して施工面Ｓ（即ち、堤体Ｃ）に圧縮力を付与する。
【００４９】
最後に、アンカーディスクＤに設けた充填孔（図示略）から領域Ｒ３に３次グラウトを充填してアンカー構造Ａを完成する。このようにして完成したアンカー構造Ａは、削孔Ｈ内でアンカーケーブル２がむき出しになる箇所がないので、耐腐食性が高い。即ち、長期にわたってケーブル２（ストランド２ｔ）が健全な状態で維持されることになり、所定の緊張力を堤体Ｃに付与し続けることができる。また、このアンカー構造Ａは、緊張されたケーブル２がほぼ全長にわたってグラウトにより固定されているので、ケーブル２の緊張力が弛み難い。
【００５０】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。例えば、第二仕切り部材５Ｂを省略し、コルゲートシース４の底部を封止する構成としても良く、この場合も、上述した実施形態と同様の効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【００５１】
本発明アンカー構造は、ダムや防波堤、地下の駅舎など、改築が容易でないコンクリート構造物の補強に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【００５２】
Ｃ 堤体（コンクリート構造物） Ｇ 地盤 Ｓ 施工面 Ｈ 削孔
Ｗ ウェッジ Ｄ アンカーディスク Ｊ ジョイント管 Ｐ アンカープレート
Ａ アンカー構造
１ アンカーケーブル組付体
２ アンカーケーブル ２ｔ ストランド ２ｒ 樹脂被覆
３Ａ 定着長部 ３Ｂ 自由長部 ４ コルゲートシース
５Ａ 第一仕切り部材 ５Ｂ 第二仕切り部材 ６ スペーサ
Ｒ１〜Ｒ３ 領域
Ｂ アンカー構造
１１０ アンカーケーブル １２０ スペーサ １３０ シース
１４０ 止水部
【技術分野】
【０００１】
本発明は、既設のコンクリート構造物の耐久性を向上させるためのアンカー構造、そのアンカー構造に使用されるアンカーケーブル組付体、およびそのアンカー構造の構築方法に関するものである。特に、本発明は、ダムや防波堤、地下の駅舎など、改築の困難なコンクリート構造物を補強するためのアンカー構造、そのアンカー構造に使用されるアンカーケーブル組付体、およびそのアンカー構造の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【０００２】
従来から、擁壁の法面を補強するためのアンカー構造が知られている（例えば、特許文献１参照）。このアンカー構造は、施工面である擁壁の法面に形成される削孔内に配置される複数のアンカーケーブルを緊張した状態で削孔の開口部に定着することで構成される。そして、このアンカー構造は、各アンカーケーブルの緊張力を施工面に圧縮力として付与することで擁壁を補強する。
【０００３】
図３は、アンカー構造の一例を示す図である。このようなアンカー構造を形成する方法を以下に説明する。
【０００４】
アンカー構造Ｂを形成するには、まず、地盤Ｇの表面を覆うコンクリートの施工面Ｓから地盤Ｇに向かって形成した削孔Ｈに複数のアンカーケーブル１１０を配置する。各アンカーケーブル１１０は、スペーサ１２０により互いに離隔された状態で１本のシース１３０に収納される。アンカーケーブル１１０を削孔Ｈ内に配置する際は、シース１３０の一端側を所定の長さだけ剥がして、その部分でケーブル１１０をむき出しの状態にする。剥がしたシース１３０の端部には、シース１３０とケーブル１１０との隙間を封止する止水部１４０を形成する。
【０００５】
次に、削孔Ｈから外部に露出するアンカーケーブル１１０の端部をアンカーディスクＤとアンカープレートＰで地盤Ｇに仮固定し、削孔Ｈを封止する。アンカーケーブル１１０とアンカーディスクＤ、アンカープレートＰの配置が終了したら、削孔Ｈ内にグラウトを注入する。削孔Ｈへのグラウトの充填から所定時間が経過すると、グラウトが硬化する。ここで、例示したアンカーケーブル１１０は、シース１３０の開口部を封止する止水部１４０を境にして、むき出しの部分（定着長部）とシース１３０に覆われた部分（自由長部）とに分けられている。そのため、グラウトが硬化したときに、アンカーケーブル１１０のむき出しの部分のみが削孔Ｈに固着される。
【０００６】
最後に、アンカーディスクＤから突出するアンカーケーブル１１０を緊張し、ウェッジＷでアンカーディスクＤに定着することで、アンカー構造Ｂを完成する。ケーブル１１０に付与された緊張力は、ウェッジＷ、アンカーディスクＤ、アンカープレートＰを介して施工面Ｓに伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【０００７】
【特許文献１】特開平５―１２５５６６号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【０００８】
近年では、阪神・淡路大震災の教訓から、特に、既設のダムや防波堤、地下の駅舎など、容易に改築することができない環境にあるコンクリート構造物にアンカー構造を適用して、コンクリート構造物を補強することが推奨されている。このようなコンクリート構造物にアンカー構造を適用する場合、求められる特性は、長期にわたる信頼性、即ち耐久力を備えることである。しかし、上述した特許文献１のような従来のアンカー構造をそのままダムなどのコンクリート構造物の補強に適用すると、アンカー構造の耐久性が十分でない虞がある。
【０００９】
図３に示すようにケーブル１１０のむき出しの部分（定着長部）は、その周囲をグラウトが覆うのみであるので、地盤Ｇから削孔Ｈ内に染み出してくる水に対して、万全の防水対策が施されているとは言い難い。ケーブル１１０が錆びると、アンカー構造Ｂの耐久性は低下するので、むき出しのケーブル１１０に対する防水対策が重要である。特に、大量の水が存在する環境にあるダムや防波堤などのコンクリート構造物に設けられるアンカー構造Ｂでは、防水対策の重要度が高いことが予想される。
【００１０】
また、コンクリート構造物に削孔Ｈを形成する場合、削孔Ｈの内周面が硬いため、この削孔Ｈの内周面にむき出しのアンカーケーブル１１０が接触して損傷する虞がある。そのため、削孔Ｈへのアンカーケーブル１１０の挿入を慎重に行う必要があり、アンカー構造Ｂを構築する際の作業性が良くなかった。
【００１１】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは耐久性が高く、構築の際の作業性に優れるアンカー構造、およびこのアンカー構造の構築方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、上記アンカー構造の構築に好適なアンカーケーブル組付体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【００１２】
＜アンカー構造＞
本発明は、施工面に形成される削孔内に配置される複数のアンカーケーブルを緊張した状態で削孔の開口部に定着することで、アンカーケーブルの緊張力を施工面に圧縮力として付与するためのアンカー構造に係る。このアンカー構造に備わるアンカーケーブルは、樹脂被覆を有するストランドである。この本発明のアンカー構造は、複数のアンカーケーブルを内部に収納する管状のコルゲートシースと、各アンカーケーブルとコルゲートシースとの間のコルゲートシース内領域をアンカーケーブルの長手方向に仕切ることで、アンカーケーブルを削孔の開口部側の自由長部と削孔の奥側の定着長部とに区画する第一仕切り部材とを備える。さらに、本発明のアンカー構造は、コルゲートシース内領域において第一仕切り部材を挟んで削孔の奥側に充填されて、アンカーケーブルの定着長部をコルゲートシースに固定する１次グラウトと、削孔とコルゲートシースとの間に充填されて、コルゲートシースを削孔に固定する２次グラウトと、コルゲートシース内領域において第一仕切り部材を挟んで施工面側に充填されて、アンカーケーブルの腐食を防止する防食材とを備える。
【００１３】
本発明の構成とすることにより、削孔内におけるアンカーケーブル全体がコルゲートシースに覆われており、むき出しの状態となっていないため、アンカーケーブル（ストランド）が非常に腐食し難い。また、本発明のアンカー構造におけるアンカーケーブルは、アンカー構造の構築作業の際にコルゲートシースで保護された状態にあるので、殆ど損傷のない状態で配置される。従って、本発明のアンカー構造は、非常に高い耐久性を誇り、長期にわたって所定の緊張力を施工面に付与し続けることができる。
【００１４】
本発明のアンカー構造において、１次グラウトと２次グラウトは、別々に充填されて繋がっていない別体物であっても良いし、一部が繋がる一体物であっても良い。前者の場合、コルゲートシースを、内外に連通する貫通部を有しない構成とし、後者の場合、コルゲートシースを、内外に連通する貫通部を有する構成とすれば良い。１次グラウトと２次グラウトとを別体物とする構成の方が、後述する実施形態に示すように、１次グラウトを高圧で充填できるので、１次グラウトによるコルゲートシースへのストランドの固定（アンカーケーブルの固定）をより強固にすることができる。
【００１５】
本発明のアンカー構造において、第一仕切り部材を挟んで施工面側に充填された防食材は、例えばセメント系グラウトや、遅延硬化性の樹脂系グラウト（例えば、サーモスルー；商品名）などの時間の経過に伴って硬化する材質であっても良いし、グリースなどの時間の経過により硬化しない材質であっても良い。硬化する防食材であれば、硬化後に防食材によりケーブルを拘束できるのでケーブルに導入された緊張が弛み難い。これに対して、硬化しない防食材であれば、防食材によりケーブルが固定されないのでケーブルを再緊張することができる。いずれにしても、長期にわたって所定の緊張力を施工面に付与することができる。
【００１６】
＜アンカーケーブル組付体＞
本発明のアンカーケーブル組付体は、複数のアンカーケーブルと、コルゲートシースと、第一仕切り部材と、スペーサとを備える。アンカーケーブルは、ストランドの表面に樹脂被覆を形成した構成を備える。コルゲートシースは、複数のアンカーケーブルを一括して収納する管状部材である。第一仕切り部材は、各アンカーケーブルとコルゲートシースとの間のコルゲートシース内領域をアンカーケーブルの長手方向に仕切ることで、アンカーケーブルを自由長部と定着長部とに区画する部材である。そして、スペーサは、コルゲートシース内で各アンカーケーブルを離隔状態に保持する部材である。
【００１７】
本発明のアンカーケーブル組付体によれば、アンカーケーブルのほぼ全体がコルゲートシースに覆われているため、ケーブルを削孔内に挿入する際、アンカーケーブルを損傷することが殆どない。また、ケーブルを削孔内に配置し、アンカー構造を構築した状態において、３重の防食構造（樹脂被覆・コルゲートシース・シース内に充填される１次グラウトもしくは防食材）によりストランドが保護されることになる。そのため、本発明のアンカーケーブルを使用して形成したアンカー構造は、非常に耐久性が高く、長期にわたって所定の緊張力を施工面に付与し続けることができる。
【００１８】
本発明のアンカーケーブル組付体において、コルゲートシースを有底管状とし、その底部が封止されている構成としても良い。この場合、アンカーケーブルにおける第一仕切り部材と底部との間が定着長部として規定される。
【００１９】
このような構成によれば、コルゲートシース内領域のうち、コルゲートシースの底部と第一仕切り部材との間の領域を外部に対して封止できる。即ち、１次グラウトと２次グラウトとを別々に充填することができる。この場合、ケーブルをコルゲートシースに固定するための１次グラウトを高圧で充填することができ、ケーブルとコルゲートシースとを強固に固定することができる。
【００２０】
底部を有するコルゲートシースを備えるアンカーケーブル組付体において、第一仕切り部材と底部で仕切られたコルゲートシース内領域に１次グラウトを充填しておいても良い。
【００２１】
この構成によれば、アンカー構造の構築現場における１次グラウトの充填を省略できる。
【００２２】
また、本発明のアンカーケーブル組付体において、第一仕切り部材よりもアンカーケーブルの先端側でコルゲートシース内領域を長手方向に仕切る第二仕切り部材を備える構成としても良い。この場合、アンカーケーブルにおける第一仕切り部材と第二仕切り部材との間が定着長部として規定される。
【００２３】
このような構成によれば、コルゲートシース内領域のうち、第一仕切り部材と第二仕切り部材と間の領域を外部に対して封止できる。その結果、コルゲートシースに封止された底部を設けた場合と同様の効果を奏する。
【００２４】
第二仕切り部材を備えるアンカーケーブル組付体において、第一仕切り部材と第二仕切り部材とで仕切られたコルゲートシース内領域に１次グラウトを充填しておいても良い。
【００２５】
この構成によれば、アンカー構造の構築現場における１次グラウトの充填を省略できる。
【００２６】
＜アンカー構造の構築方法＞
また、本発明のアンカーケーブルを使用してコンクリート構造物に圧縮力を付与し、当該構造物を補強するためのアンカー構造を構築することができる。即ち、本発明は、地盤に設置されるコンクリート構造物にプレストレスを付与してコンクリート構造物を補強するためのアンカー構造を構築する方法であって、以下の工程を備えることを特徴とする。
・コンクリート構造物の施工面からコンクリート構造物を貫通して地盤に到達する削孔を形成する工程。
・本発明のアンカーケーブル組付体を削孔に挿入して、アンカーケーブルの定着長部を地盤内の位置に配置する工程。
・定着長部をコルゲートシースに固定するための１次グラウトが、第一仕切り部材よりも削孔の奥側のコルゲートシース内領域に充填されていない場合、当該領域に１次グラウトを充填する工程。
・コルゲートシースを削孔に固定するための２次グラウトを削孔内に充填する工程。
・１次グラウトおよび２次グラウトの硬化後に、アンカーケーブルの自由長部側端部を緊張して施工面に定着する工程。
・第一仕切り部材よりも施工面側のコルゲートシース内領域に防食材を充填する工程。
【００２７】
本発明のアンカー構造の構築方法によれば、所定の耐久性を誇るアンカー構造を構築することができる。特に、この方法で使用する本発明のアンカーケーブル組付体は、アンカーケーブル（ストランド）がコルゲートシースにより保護されており、ケーブルを削孔内に挿入する際、過度の慎重さを要求されない。そのため、本発明のアンカー構造の構築方法は、従来の方法よりも作業性に優れる。
【発明の効果】
【００２８】
本発明のアンカー構造は、非常に高い耐久性を誇り、長期にわたって所定の緊張力を施工面に付与し続けることができる。そのため、本発明のアンカー構造によれば、例えば、ダムや、防波堤、地下の駅舎など、改築が困難なコンクリート構造物を補強し、長期にわたってコンクリート構造物を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【００２９】
【図１】ダムの堤体（コンクリート構造物）に本発明のアンカーを適用した概略図を示す。
【図２】アンカー構造の主要な部分を示す概略構成図である。
【図３】従来のアンカー構造の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【００３０】
以下、本発明アンカー構造をダムの補強に適用する例を図面に基づいて説明する。
【００３１】
図１は、ダムの堤体Ｃ（コンクリート構造物）に本発明のアンカー構造を適用した概略図を示す。また、図２は、アンカー構造の主要な部分を示す概略構成図である。
【００３２】
まず、堤体Ｃに削孔Ｈを形成する（図１参照）。削孔Ｈは、堤体Ｃを貫通し、堤体Ｃよりも深い位置の地盤Ｇにまで到達している。
【００３３】
次に、本発明のアンカーケーブル組付体１を用意する（図２を参照）。アンカーケーブル組付体１は、コルゲートシース４と、コルゲートシース４内に配される複数本のアンカーケーブル２と、第一仕切り部材５Ａと、第二仕切り部材５Ｂと、スペーサ６とを有する。
【００３４】
アンカーケーブル２は、ストランド２ｔと、ストランド２ｔの表面に防食対策として施された樹脂被覆２ｒとからなる。樹脂被覆２ｒとしては、例えばエポキシ樹脂を挙げることができる。
【００３５】
アンカーケーブル２を収納するコルゲートシース４は、一端側が開口した構成を備える有底管状の部材である。このコルゲートシース４の開口部からは、アンカーケーブル２の一端が突出している。また、コルゲートシース４の底部は厳密に封止されておらず、底部を挟んでコルゲートシース４の内外間で１次グラウトの移動は遮断されない。このようなコルゲートシース４は、例えばポリエチレンなどの透明樹脂で形成しても良いし、例えばステンレスなどの金属で形成しても良い。コルゲートシース４を透明樹脂で構成すれば、コルゲートシース４内のアンカーケーブル２の配置状態を確認することができる。また、コルゲートシース４を金属で構成すれば、コルゲートシース４の強度を確保できる。
【００３６】
コルゲートシース４内の各アンカーケーブル２は、複数のスペーサ６および第一・第二仕切り部材５Ａ，５Ｂにより離隔状態に保持されている。スペーサ６は、コルゲートシース４内で所定の間隔を空けて複数設けられている。
【００３７】
第一仕切り部材５Ａと第二仕切り部材５Ｂは、アンカーケーブル２を離隔状態に保持する機能に加え、コルゲートシース４の内部の空間をコルゲートシース４（アンカーケーブル２）の長手方向に仕切る機能を有する。これら仕切り部材５Ａ，５Ｂにより、コルゲートシース内領域における仕切り部材５Ａ，５Ｂ間の領域Ｒ１が区画された状態で封止される。この領域Ｒ１の形成と同時に、アンカーケーブル２は、削孔Ｈの奥側に配される定着長部３Ａと、削孔Ｈの開口部側に配される自由長部３Ｂとに区画される。通常、これら仕切り部材５Ａ，５Ｂは両方とも、アンカーケーブル組付体１を削孔Ｈ内に配置したときに、堤体Ｃよりも下の地盤Ｇの位置になるように形成されている。
【００３８】
上記スペーサ６、第一仕切り部材５Ａおよび第二仕切り部材５Ｂは、例えば以下のようにコルゲートシース４内に配置できる。まず、コルゲートシース４の内径よりも小さい外径で複数の貫通孔を有する円環状部材を用意する。この円環状部材の各貫通孔に１本ずつアンカーケーブル２を挿通して、貫通孔とケーブル２との隙間を封止して一体化する。その際、円環状部材とコルゲートシース４の内周面との隙間付近に二液型発泡ウレタンなどの樹脂を塗布して、この一体化物をコルゲートシース４内に挿通した後、樹脂が硬化するのを待つ。この場合、円環状部材がスペーサ６や部材５Ａ，５Ｂになる。ここで、スペーサ６には、ケーブル２が配置されない貫通孔も設けられており、コルゲートシース４内における後述する１次グラウトや防食材の移動を規制しない。
【００３９】
その他、アンカーケーブル２の定着長部３Ａ側の端部には、キャップや熱収縮チューブなどを被せてストランド２ｔの端面がむき出しとならないようにしておくことが好ましい。
【００４０】
上述したアンカーケーブル２を用意したら、次にケーブル２のコルゲートシース４の開口端にジョイント管Ｊを取り付ける。ジョイント管Ｊは、管部と、管部の一端側で管部の径方向に伸びるフランジ部とを備える。ジョイント管Ｊをコルゲートシース４に取り付けるときは、管部にアンカーケーブル２を挿通させ、かつ、管部の一部がコルゲートシース４の内部に配されるようにする。そして、管部とコルゲートシース４との隙間を封止することでジョイント管Ｊとアンカーケーブル組付体１とを一体化する。
【００４１】
次に、平板状のアンカープレートＰを施工面Ｓに当接するように配置する。アンカープレートＰの中央には貫通孔が形成されており、この貫通孔は、上述したジョイント管Ｊの管部の径よりも大きく、フランジ部の外径よりも小さい。
【００４２】
次いで、アンカープレートＰの貫通孔を介して、ジョイント管Ｊと一体化したアンカーケーブル組付体１を削孔Ｈ内に挿入する。このとき、ジョイント管Ｊのフランジ部がアンカープレートＰに係合し、削孔Ｈ内でのアンカーケーブル組付体１の位置が決まると共に、ケーブル組付体１のコルゲートシース４と削孔Ｈとの間の領域Ｒ２が区画される。挿入されたアンカーケーブル１の領域Ｒ１は通常、完全に地盤Ｇに囲まれる位置に配置される。このように領域Ｒ１を設定することにより、アンカーケーブル組付体１のアンカーケーブル２を緊張・定着した際、堤体Ｃにプレストレスを付与することができる。
【００４３】
さらに、ジョイント管Ｊのフランジ部の上にアンカーディスクＤを配置する。アンカーディスクＤは、アンカーケーブル組付体１のアンカーケーブル２に対応する位置にケーブル２を１本ずつ挿通できる貫通孔を有する。そのため、ジョイント管Ｊのフランジ部にアンカーディスクＤを配置すれば、ケーブル２がディスクＤの貫通孔から突出した状態で配置されると共に、アンカーディスクＤの一面、ジョイント管Ｊの管部の内周面、コルゲートシース４の内周面、および仕切り部材５Ａで囲まれる領域Ｒ３が形成される。
【００４４】
削孔Ｈ内にアンカーケーブル組付体１を配置したら、コルゲートシース４の領域Ｒ１にセメント系の１次グラウトを充填すると共に、コルゲートシース４と削孔Ｈとの間の領域Ｒ２にセメント系の２次グラウトを充填する。１次グラウトの注入は、外部から領域Ｒ１に連通する連通管（図示略）、例えば、部材Ｄ、Ｊを貫通するホースにより行えば良い。また、２次グラウトの注入も、外部から領域Ｒ２に連通する連通管（図示略）、例えば、部材Ｄ、Ｊを貫通し、さらにコルゲートシース４内に伸びてコルゲートシース４の底部を貫通するホースにより行えば良い。
【００４５】
ここで、領域Ｒ１は、仕切り部材５Ａ，５Ｂで完全に仕切られているため、１次グラウトを高圧で充填することができる。そのため、領域Ｒ１における定着長部３Ａとコルゲートシース４とを非常に強固に固定することができる。
【００４６】
１次グラウトと２次グラウトは、同時に充填しても良いし、時間差を設けて充填しても良い。但し、時間差を設ける場合、２次グラウトを先に充填すると２次グラウトの充填圧力によりコルゲートシース４が圧壊する虞があるため、１次グラウトの充填を先に行うことが好ましい。なお、１次グラウトは、現場ではなく工場で予め充填しておいても良い。
【００４７】
充填した１次グラウトと２次グラウトの両方が硬化したら、アンカーケーブル組付体１のアンカーケーブル２を緊張する。ここで、アンカーケーブル２の定着長部３Ａは１次グラウトによりコルゲートシース４に固定されており、コルゲートシース４は２次グラウトにより削孔Ｈに固定されている。そのため、アンカーケーブル２を緊張しても、定着長部３Ａは殆ど伸びることなくその位置を保つ。一方、ケーブル２の自由長部３Ｂは、コルゲートシース４に固定されていないので、伸びることができる。
【００４８】
上述のようにアンカーケーブル２を緊張した状態で、ウェッジＷによりケーブル２をアンカーディスクＤに定着する。定着されたアンカーケーブル２は、ウェッジＷ、アンカーディスクＤ、ジョイント管Ｊ、アンカープレートＰを介して施工面Ｓ（即ち、堤体Ｃ）に圧縮力を付与する。
【００４９】
最後に、アンカーディスクＤに設けた充填孔（図示略）から領域Ｒ３に３次グラウトを充填してアンカー構造Ａを完成する。このようにして完成したアンカー構造Ａは、削孔Ｈ内でアンカーケーブル２がむき出しになる箇所がないので、耐腐食性が高い。即ち、長期にわたってケーブル２（ストランド２ｔ）が健全な状態で維持されることになり、所定の緊張力を堤体Ｃに付与し続けることができる。また、このアンカー構造Ａは、緊張されたケーブル２がほぼ全長にわたってグラウトにより固定されているので、ケーブル２の緊張力が弛み難い。
【００５０】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。例えば、第二仕切り部材５Ｂを省略し、コルゲートシース４の底部を封止する構成としても良く、この場合も、上述した実施形態と同様の効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【００５１】
本発明アンカー構造は、ダムや防波堤、地下の駅舎など、改築が容易でないコンクリート構造物の補強に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【００５２】
Ｃ 堤体（コンクリート構造物） Ｇ 地盤 Ｓ 施工面 Ｈ 削孔
Ｗ ウェッジ Ｄ アンカーディスク Ｊ ジョイント管 Ｐ アンカープレート
Ａ アンカー構造
１ アンカーケーブル組付体
２ アンカーケーブル ２ｔ ストランド ２ｒ 樹脂被覆
３Ａ 定着長部 ３Ｂ 自由長部 ４ コルゲートシース
５Ａ 第一仕切り部材 ５Ｂ 第二仕切り部材 ６ スペーサ
Ｒ１〜Ｒ３ 領域
Ｂ アンカー構造
１１０ アンカーケーブル １２０ スペーサ １３０ シース
１４０ 止水部
【特許請求の範囲】
【請求項１】
施工面に形成される削孔内に配置される複数のアンカーケーブルを緊張した状態で削孔の開口部に定着することで、アンカーケーブルの緊張力を施工面に圧縮力として付与するためのアンカー構造であって、
各アンカーケーブルは、樹脂被覆を有するストランドであり、
複数のアンカーケーブルを内部に収納する管状のコルゲートシースと、
各アンカーケーブルとコルゲートシースとの間のコルゲートシース内領域をアンカーケーブルの長手方向に仕切ることで、アンカーケーブルを削孔の開口部側の自由長部と削孔の奥側の定着長部とに区画する第一仕切り部材と、
コルゲートシース内領域において第一仕切り部材を挟んで削孔の奥側に充填されて、アンカーケーブルの定着長部をコルゲートシースに固定する１次グラウトと、
削孔とコルゲートシースとの間に充填されて、コルゲートシースを削孔に固定する２次グラウトと、
コルゲートシース内領域において第一仕切り部材を挟んで施工面側に充填されて、アンカーケーブルの腐食を防止する防食材と、
を備えることを特徴とするアンカー構造。
【請求項２】
ストランドの表面に樹脂被覆を形成した構成を備える複数のアンカーケーブルと、
これらアンカーケーブルを内部に収納する管状のコルゲートシースと、
アンカーケーブルとコルゲートシースとの間のコルゲートシース内領域をアンカーケーブルの長手方向に仕切ることで、アンカーケーブルを定着長部と自由長部とに区画する第一仕切り部材と、
コルゲートシース内で各アンカーケーブルを離隔状態に保持するスペーサと、
を備えることを特徴とするアンカーケーブル組付体。
【請求項３】
前記コルゲートシースは有底管状で、底部が封止されており、
前記アンカーケーブルにおける前記第一仕切り部材と底部との間が定着長部として規定されることを特徴とする請求項２に記載のアンカーケーブル組付体。
【請求項４】
前記コルゲートシース内領域における前記第一仕切り部材と前記底部との間に、アンカーケーブルをコルゲートシースに固定するための１次グラウトが充填されていることを特徴とする請求項３に記載のアンカーケーブル組付体。
【請求項５】
前記第一仕切り部材よりもアンカーケーブルの先端側でシース内空間を長手方向に区画する第二仕切り部材を備え、
前記アンカーケーブルにおける前記第一仕切り部材と第二仕切り部材の間が定着長部として規定されることを特徴とする請求項２に記載のアンカーケーブル組付体。
【請求項６】
前記コルゲートシース内領域における第一仕切り部材と第二仕切り部材との間に、アンカーケーブルをコルゲートシースに固定するための１次グラウトが充填されていることを特徴とする請求項５に記載のアンカーケーブル組付体。
【請求項７】
地盤に設置されるコンクリート構造物にプレストレスを付与してコンクリート構造物を補強するためのアンカー構造の構築方法であって、
コンクリート構造物の施工面からコンクリート構造物を貫通して地盤に到達する削孔を形成する工程と、
請求項２〜６のいずれか一項に記載のアンカーケーブル組付体を削孔に挿入して、アンカーケーブルの定着長部を地盤内の位置に配置する工程と、
定着長部をコルゲートシースに固定するための１次グラウトが、第一仕切り部材よりも削孔の奥側のコルゲートシース内領域に充填されていない場合、当該領域に１次グラウトを充填する工程と、
コルゲートシースを削孔に固定するための２次グラウトを削孔内に充填する工程と、
１次グラウトおよび２次グラウトの硬化後に、アンカーケーブルの自由長部側端部を緊張して施工面に定着する工程と、
第一仕切り部材よりも施工面側のコルゲートシース内領域に防食材を充填する工程と、
を備えることを特徴とするアンカー構造の構築方法。
【請求項１】
施工面に形成される削孔内に配置される複数のアンカーケーブルを緊張した状態で削孔の開口部に定着することで、アンカーケーブルの緊張力を施工面に圧縮力として付与するためのアンカー構造であって、
各アンカーケーブルは、樹脂被覆を有するストランドであり、
複数のアンカーケーブルを内部に収納する管状のコルゲートシースと、
各アンカーケーブルとコルゲートシースとの間のコルゲートシース内領域をアンカーケーブルの長手方向に仕切ることで、アンカーケーブルを削孔の開口部側の自由長部と削孔の奥側の定着長部とに区画する第一仕切り部材と、
コルゲートシース内領域において第一仕切り部材を挟んで削孔の奥側に充填されて、アンカーケーブルの定着長部をコルゲートシースに固定する１次グラウトと、
削孔とコルゲートシースとの間に充填されて、コルゲートシースを削孔に固定する２次グラウトと、
コルゲートシース内領域において第一仕切り部材を挟んで施工面側に充填されて、アンカーケーブルの腐食を防止する防食材と、
を備えることを特徴とするアンカー構造。
【請求項２】
ストランドの表面に樹脂被覆を形成した構成を備える複数のアンカーケーブルと、
これらアンカーケーブルを内部に収納する管状のコルゲートシースと、
アンカーケーブルとコルゲートシースとの間のコルゲートシース内領域をアンカーケーブルの長手方向に仕切ることで、アンカーケーブルを定着長部と自由長部とに区画する第一仕切り部材と、
コルゲートシース内で各アンカーケーブルを離隔状態に保持するスペーサと、
を備えることを特徴とするアンカーケーブル組付体。
【請求項３】
前記コルゲートシースは有底管状で、底部が封止されており、
前記アンカーケーブルにおける前記第一仕切り部材と底部との間が定着長部として規定されることを特徴とする請求項２に記載のアンカーケーブル組付体。
【請求項４】
前記コルゲートシース内領域における前記第一仕切り部材と前記底部との間に、アンカーケーブルをコルゲートシースに固定するための１次グラウトが充填されていることを特徴とする請求項３に記載のアンカーケーブル組付体。
【請求項５】
前記第一仕切り部材よりもアンカーケーブルの先端側でシース内空間を長手方向に区画する第二仕切り部材を備え、
前記アンカーケーブルにおける前記第一仕切り部材と第二仕切り部材の間が定着長部として規定されることを特徴とする請求項２に記載のアンカーケーブル組付体。
【請求項６】
前記コルゲートシース内領域における第一仕切り部材と第二仕切り部材との間に、アンカーケーブルをコルゲートシースに固定するための１次グラウトが充填されていることを特徴とする請求項５に記載のアンカーケーブル組付体。
【請求項７】
地盤に設置されるコンクリート構造物にプレストレスを付与してコンクリート構造物を補強するためのアンカー構造の構築方法であって、
コンクリート構造物の施工面からコンクリート構造物を貫通して地盤に到達する削孔を形成する工程と、
請求項２〜６のいずれか一項に記載のアンカーケーブル組付体を削孔に挿入して、アンカーケーブルの定着長部を地盤内の位置に配置する工程と、
定着長部をコルゲートシースに固定するための１次グラウトが、第一仕切り部材よりも削孔の奥側のコルゲートシース内領域に充填されていない場合、当該領域に１次グラウトを充填する工程と、
コルゲートシースを削孔に固定するための２次グラウトを削孔内に充填する工程と、
１次グラウトおよび２次グラウトの硬化後に、アンカーケーブルの自由長部側端部を緊張して施工面に定着する工程と、
第一仕切り部材よりも施工面側のコルゲートシース内領域に防食材を充填する工程と、
を備えることを特徴とするアンカー構造の構築方法。
【図１】
【図２】
【図３】
【図２】
【図３】
【公開番号】特開２０１０−１７４５５４（Ｐ２０１０−１７４５５４Ａ）
【公開日】平成２２年８月１２日（２０１０．８．１２）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２００９−２０２１２（Ｐ２００９−２０２１２）
【出願日】平成２１年１月３０日（２００９．１．３０）
【出願人】（３０２０６１６１３）住友電工スチールワイヤー株式会社 (163)
【出願人】（００００００５４９）株式会社大林組 (1,758)
【出願人】（３９００３６５０４）日特建設株式会社 (99)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成２２年８月１２日（２０１０．８．１２）
【国際特許分類】
【出願日】平成２１年１月３０日（２００９．１．３０）
【出願人】（３０２０６１６１３）住友電工スチールワイヤー株式会社 (163)
【出願人】（００００００５４９）株式会社大林組 (1,758)
【出願人】（３９００３６５０４）日特建設株式会社 (99)
【Ｆターム（参考）】
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