アンカー機能状況確認装置
【課題】
アンカーの機能状況を確認する方法には、アンカーに生じている荷重を計測する方法、測量により頭部の変位を計測する方法、縦型伸縮計により地盤変位を計測する方法がある。
荷重の計測方法は、計測値によってのみ機能状況を確認するめ、荷重値に異常があってもその原因となる受圧板の沈下やアンカー体の引き抜け等の異常個所を判断することはできない。変位の計測方法は、間接的にアンカーの状態を推定するため、アンカーの荷重変化やアンカーの機能状況を直接的に判断することはできず、耐久性や精度及び経済性に難があった。
【解決手段】
シースパイプ(1)内において、低伸縮率の素材からなる複数本のシース付きワイヤー(6)を挿入し、そのシース付きワイヤー長さを変えた先端部をアンカー体(4)、スペーサー(5)・ソケット錨(18)に固定し、該シース付きワイヤーの先端部側をシースパイプから引き出して多点式標尺(10)に設置するアンカー機能状況確認装置。
アンカーの機能状況を確認する方法には、アンカーに生じている荷重を計測する方法、測量により頭部の変位を計測する方法、縦型伸縮計により地盤変位を計測する方法がある。
荷重の計測方法は、計測値によってのみ機能状況を確認するめ、荷重値に異常があってもその原因となる受圧板の沈下やアンカー体の引き抜け等の異常個所を判断することはできない。変位の計測方法は、間接的にアンカーの状態を推定するため、アンカーの荷重変化やアンカーの機能状況を直接的に判断することはできず、耐久性や精度及び経済性に難があった。
【解決手段】
シースパイプ(1)内において、低伸縮率の素材からなる複数本のシース付きワイヤー(6)を挿入し、そのシース付きワイヤー長さを変えた先端部をアンカー体(4)、スペーサー(5)・ソケット錨(18)に固定し、該シース付きワイヤーの先端部側をシースパイプから引き出して多点式標尺(10)に設置するアンカー機能状況確認装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンカーの機能状況を確認する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のアンカーの機能状況を確認する方法は、アンカーに生じている荷重を計測するものと、アンカーないし地盤の変位を計測するものである。
荷重を計測する方法には,施工時に設置したロードセルを測定する方法と、リフトオフテストによる方法がある。
変位を計測する方法には、測量により頭部の変位を計測する方法と縦型伸縮計により地盤変位を計測する方法があり、これらを単独あるいは組み合わせて用いられる。
【特許文献1】特開平11−63972号(特許第2967923号)公報
【非特許文献1】(社)地盤工学会基準:グラウンドアンカー設計・施工基準、同解説書(184〜189頁)(平成12年5月22日発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
(1) 上記特許文1の発明は、アンカーの頭部(上端部)において計測する点が共通するが、本発明の上記請求項に対して、特許文献1のそれは「グラウンドアンカーの上端の端面に対向させて配置した反射式レーザー変位計、前記加圧装置の荷重を測定する荷重計及び前記レーザー変位計の出力と前記荷重計の出力とを実質上同時に読取る読取り手段を備えてなるグラウンドアンカーの伸び計測装置。」であるから、その構成は本発明とは全く異なる。
(2) 従前の技術のうち、荷重を計測する方法は残存引張り力を確認するのみであったため、荷重値に異常があってもその原因となる受圧板の沈下やアンカー体の引き抜け等の異常個所、すべり変位の発生等の地盤状況の変化を判断することはできなかった。さらに、ロードセルを測定する方法は低寿命であったり、リフトオフテストによる方法は計測に労力を要するため、いずれも高コストであった。
また従前の技術のうち変位を計測する方法は、アンカー頭部の位置変化や地盤の変動計測から、間接的にアンカーの状態を推定するため、アンカーの荷重変化やアンカーの機能状況を直接的に判断することはできなかった。
さらに測量による方法は、光波測距儀を用いた場合でも計測誤差が大きく、アンカーの徴少な変化を計測するには十分ではなかった。このほか縦型伸縮計による地盤変位計測は、アンカー設置するための孔とは別に縦孔を掘削してシース付きワイヤーを設置しなければならないため、高コストであった。
以上の通り、アンカーの機能状況は地盤状況と合わせて把握する必要があるものの、従前の荷重を計測する方法と変位を計測する方法について、そのどちらも簡便さ、耐久性、コストの面で十分な技術とはいえなかった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明は上記の課題を解決するためこ、アンカーの荷重変化や定着体の引き抜け、地盤の変状を、簡易且つ長期的、経済的に精度よく確認することができる方法を提供するものである。
【0005】
本発明の第1は、アンカー機能状況確認装置において、シースパイプ内において、低伸締率の素材からなる複数本のシース付きワイヤーを挿入し、当該各ワイヤーの長さを変えた基端を削孔の余長削孔部とアンカー体、スペーサー・ソケット錨などに固定し、そのシース付きワイヤーの先端部側をシースパイプから引き出して、その先端を多点式標尺に接続するようにしたものである。
【0006】
本発明の第2は、第1の発明に係るアンカー機能状況確認装置において、アンカー頭部のヘッドアダプタに挿通孔をあけ、当該挿通孔にシース付きワイヤーを挿通してその先端部側を外部に引き出し、その先端部を可動式インジケーター付き多点式標尺に取付け、さらにその先端に緊張力を与えるカウンターウエイトを取り付けるようにしたものである。
【0007】
本発明の第3は、第1の発明に係るアンカー機能状況確認装置において、アンカー頭部のオイルキャップに挿通孔をあけ、当該挿通孔にシース付きワイヤーを挿通してその先端部側を外部に引き出し、その先端を可動式インジケーター付き多点式標尺に取付け、さらにその先端に緊張力を与えるカウンターウエイトを取り付けるようにしたものである。
【発明の効果】
【0008】
本願発明は上記の構成であるから、安価で高耐久性のワイヤーを変位計の機能する多点式標尺として用いることで、長期的・経済的にアンカーの機能状況を確認することができ、シース付きワイヤーをアンカーと同時に施工することから、技術的に優れ、且つ設置が簡易化されることで、さらに経済性にも優れる。
【0009】
また、伸縮率の低いワイヤーを用いてアンカー各部および削孔余長部の変位を計測できるようにしたことから、測量などと較べて精度が高く、異常があった場合には荷重変化や定着体の引き抜け、地盤の変状などの異常原因と異常個所を容易に特定することができる。
【0010】
さらに、アンカー各部の変位を地上部で容易に目視確認できるようにしたことから、アンカーの機能状況の確認を経済的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明の実施形態を図に即して示す。図1の実施形態ではある種のアンカーに適用した例を示しているが、構造を多少変更することによりあらゆる形式のアンカーに適用できる。
【0012】
図1の実施形態では、計測用ワイヤーの緊張力をカウンターウエイトによって与えているが、バネなどを用いて小型化してもよい。
また、図1の実施形態では目視判読できる多点式標尺を用いているが、電気的な変位計に変更して連続観測することもできる。
【0013】
さらに,多点式標尺はオイルキャップを貫通した形状とすることもできる。利用形態の例として、計測結果に基づく正常の状態から変位する異常個所の判断例を図5〜図8に示す。
【実施例】
【0014】
本発明の実施例を図面に則して説明する。図1において、アンカーは、後述のアンカー体と自由長部とアンカー頭部とからなっている。そして、図1〜3において、1はアンカーの引張り部を納めるポリエチレン材質からなるシースパイプ、2はシースパイプ1の中に挿入するアンボンドPC鋼より線、3は支圧板、4は耐荷体、5はスペーサ、6はシースパイプ1内に挿入するワイヤーであり、複数本のワイヤー束をシースで被覆してある。そのシース付きワイヤー6の長さを変えた基端部6a′、6b′、6c′、6d′、6e′を支圧板3やアンカー体4・スペーサー5・ソケット錨18などに圧着し、又は小孔をあけて結線して固定してある。7はアンカー体Aの頭部A′側のアンカープレート、8はヘッドアダプタ、9はそのヘッドアダプタ8にあけた挿通孔である。当該挿通孔には締込型パッキン9pを設けてある。10は前記の挿通孔9からワイヤー6の先端部側から引き出してその先端部6a、6b、6c、6d、6eを可動式インジケーター11に結んで変位量を読みとる多点式標尺であり、図4にあっては目盛線10′が設けられている。12はその多点式標の直下においてワイヤー先端部6a、6b、6c、6d、6eから延長した先端に結んで緊張力を与えるためのカウンターウエイトである。13はアンカー頭部A′のアンカーヘッド、14はそのアンカーヘッド用のくさび、15はオイルキャップ、16は受圧板、17はアンカー体Aの先端キャップ、18は削孔Hの余長部H′にワイヤー基端部を設置するためのソケット錨であり、アンカー体Aと分離する構造を有する。そして、その先端キャップ17に被せた着脱可能なソケット錨18に固定したシース付きワイヤー6は、削孔Hの余長部H′に当該削孔内に注入したグラウトで固定され、アンカー引抜け時にはアンカー体Aとソケット錨18が分離する構造とすることにより、当該ソケット式錨は削孔余長部H′に残存し、アンカー変状の様々な原因を把握することができるようにしてなる。図中Lfは、アンカー体Aとアンカー頭部A′と共にアンカーの全長をなす自由長部である。
【0015】
図4は、図1のアンカー頭部A′の他の実施例を示し、オイルキャップ15の中央に挿通孔19があけられ、当該挿通孔に締込型パッキン19Pが設けられ、この挿通孔にワイヤー先端部側を引き出してそのワイヤー先端部6a、6b、6c、6d、6eをインジケーター11付きの多点式標尺10に取り付け、さらにワイヤー先端部から延長した先端にカウンターウエイト12を取り付けたものを示す。
【0016】
「本発明に係る装置の設置工程」
本発明に係るアンカー機能状況確認装置の設置工程は次のとおりである。
(1) アンカーの工場組み立てにおいて、テンドン・アンカー体組み立て作業と同時に、シース付きのワイヤー6の基端部(6a′、6b′、6c′、6d′、6e′)をアンカー体Aとスペーサー5とソケット錨18などに専用プレスにより圧着して固定し、又は小孔をあけてこれに挿通して結線して固定した後、シースパイプ1内に挿入する。そして、シース付きワイヤー6の先端部側をアンカー頭部A′の挿通孔9(又はオイルキャップ15の挿通孔19「図4」)から外部に導き出しておく(図1)。または、前記のワイヤー6の先端部側をオイルキャップ15の挿通孔19から外部に導き出しておく(図4)。
(2) 削孔H内にアンカー(アンカー体A+自由長部+アンカー頭部A′)を挿入する(図9)。
(3) シース付きワイヤー6の先端部側をグラウトから保護する処理を行った後、シースパイプ1内に納め、公知の手段でアンカーのグラウトの注入を行う(図10)。グラウトの注入が終了したら、シース付きワイヤー6の先端部6a〜6e側をシースパイプ1から引き出し、カウンターウエイト程度の緊張力を与えておく。
(4) グラウトが所定の強度に達した後、アンカー頭部A′の処理を行い、アンカープレート7とヘッドアダプタ8を取り付け、挿通孔9又はオイルキャップ15の挿通孔19からシース付きワイヤー6の先端部を引き出した後、緊張して試験を行い、定着する(図11又は図4)。
(5) 上記(4)の工程において、アンカー頭部A′あるいは受圧板16に可動式インジケーター11付きの多点式標尺10などを取り付け、さらに引き出したワイヤー6の先端にカウンターウエイト12などを取り付けると共に、複数本のワイヤー6を可動式インジケーター11に取り付ける(図1、図2)。
【0017】
「本発明装置による作用」
本発明装置による具体的な作用は次の通りである。
(1) 計測用ワイヤー6は、シースによってグラウトや地盤と分離した構造であるため、地盤Gやアンカー(アンカー体A+自由長部Lf+アンカー頭部A′)の変形によって、ワイヤー6に引込まれたり引出される。そのシース付きワイヤー6は、アンカー頭部A′とワイヤー先端部の距離を計測するので、アンカー頭部を含む受圧板16が沈下した場合には、ワイヤー基端部6a′・6b′・6′・6′・6e′とアンカー頭部A′の距離が短縮するため、ワイヤーは引き出される(この変位を縮み量(↓)とする)。
【0018】
逆に地滑り等により、アンカーの一部に折れ曲がりが生じると、折れ曲がり部の奥に設置したワイヤーでは、ワイヤー基端端部6a′・6b′・6′・6′・6e′とアンカー頭部A′のワイヤー6に沿う距離が増加するため、ワイヤーは引き込まれる(この変位を伸び量(↑)とする)。
【0019】
インジケーター11は、ワイヤー6の伸縮に応じて当該インジケーターに成形してあるガイド溝に沿って上下に可動し、その移動量はガイド溝脇に取り付けた多点式標尺10により読みとる。
地滑りが発生したり、受圧板13が沈下したりすると、PC鋼より線2に伸縮が生じ、同時にその変位がシース付きワイヤー6に現れる。PC鋼より線2の伸び量は、緊張荷重と線形関係であり、定着時荷重は既知であることから、多点式標尺10のワイヤー6の伸び量(「上向き矢印」↑)や縮み量(「下向き矢印」↓)の数値を計測することでアンカーに作用する残存引張り力を推定することができる。
【0020】
(2) 「正常時」:地盤Gに設置したアンカーに地滑り等の負荷がかからない正常時は、そのアンカーには全く変位は発生せず、変位計の機能を有する多点式標尺10の変位量の数値は「0」である(図5)。
【0021】
(3) 「異常発生(1)」:地盤Gに地滑りの異常が発生すると、アンカーAの荷重量(残存引張り力)が増加し、の多点式標尺10のうち、一部のシース付きワイヤー6が引き込まれてその先端部6a・6b・6cの変位量の数値は「0」から伸び量(↑)を示す数値になる(図6)。
【0022】
(4)「異常発生(2)」:アンカーの引き抜け作用が発生するとアンカーにかかる荷重(残存引張り力)が減少して、縮み量が生じての多点式標尺10のうち、図において、一部のシース付きワイヤー6の先端部6b・6cが引き出されてその変位量の数値は「0」から縮み量(↓)を示す数値になる(図7)。
【0023】
(5) 「異常発生(3)」:アンカー受圧板16の地中方向への沈下作用が進行するとアンカーにかかる荷重(残存引張り力)が減少して、縮み量が生じて多点式標尺10のうち、図において、全部のシース付きワイヤー6先端部の6a〜6eが引き出されてその変位量の数値は「0」から縮み量(↓)を示す数値になる(図8)。
【0024】
このように、アンカーに生じている変化の状態によって、それぞれのワイヤーには異なった変動と変動量が表れるため、アンカーの機能状況を判定することができる。
【0025】
実際には、上記段落「0021」〜「0023」に示す異常(1)・(2)・(3)が同時に発生するが、シース付きワイヤー6の先端部6a′、6b′、6c′、6d′、6e′をアンカー体A、自由長部Lf、ソケット錨18にそれぞれ1個所以上設置してその変位を計測することにより、いずれの組み合わせでも識別できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るアンカー機能状況確認装置を具備したアンカーの側面図である。
【図2】図1のアンカー機能状況確認装置の多点式標尺を具備した側面図である。
【図3】図1の3−3線に沿う拡大切断端面図である。
【図4】図1のアンカー頭部に多点式標尺を具備した多点式標尺の他の実施例を示す正面図である。
【図5】正常時におけるアンカー埋設状態を示す側面図である。
【図6】異常時におけるすべり変位発生時の状態を示す側面図である。
【図7】異常時におけるアンカーの引抜け状態を示す側面図である。
【図8】異常時における受圧板の沈下状態を示す側面図である。
【図9】削孔及びシース付きワイヤーを取り付けたアンカーの挿入状態を示す概略側面図である。
【図10】シースパイプ内にグラウトの注入状態の概略側面図である。
【図11】アンカー頭部の組み立て状態を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0027】
1……シースパイプ
2……アンボンドPC鋼より線
3……支圧板
4……耐荷体
5……スペーサ
6……複数本のシース付きワイヤー
7……アンカープレート
8……ヘッドアダプタ
9……挿通孔
10……多点式標尺
11……可動式インジケーター
11……カウンターウエイト
12……オイルキャップ
13……挿通孔
14……アンカーのヘッド体
15……ヘッド体用くさび
16……受圧板
17……先端キャップ
18……ソケット錨
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンカーの機能状況を確認する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のアンカーの機能状況を確認する方法は、アンカーに生じている荷重を計測するものと、アンカーないし地盤の変位を計測するものである。
荷重を計測する方法には,施工時に設置したロードセルを測定する方法と、リフトオフテストによる方法がある。
変位を計測する方法には、測量により頭部の変位を計測する方法と縦型伸縮計により地盤変位を計測する方法があり、これらを単独あるいは組み合わせて用いられる。
【特許文献1】特開平11−63972号(特許第2967923号)公報
【非特許文献1】(社)地盤工学会基準:グラウンドアンカー設計・施工基準、同解説書(184〜189頁)(平成12年5月22日発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
(1) 上記特許文1の発明は、アンカーの頭部(上端部)において計測する点が共通するが、本発明の上記請求項に対して、特許文献1のそれは「グラウンドアンカーの上端の端面に対向させて配置した反射式レーザー変位計、前記加圧装置の荷重を測定する荷重計及び前記レーザー変位計の出力と前記荷重計の出力とを実質上同時に読取る読取り手段を備えてなるグラウンドアンカーの伸び計測装置。」であるから、その構成は本発明とは全く異なる。
(2) 従前の技術のうち、荷重を計測する方法は残存引張り力を確認するのみであったため、荷重値に異常があってもその原因となる受圧板の沈下やアンカー体の引き抜け等の異常個所、すべり変位の発生等の地盤状況の変化を判断することはできなかった。さらに、ロードセルを測定する方法は低寿命であったり、リフトオフテストによる方法は計測に労力を要するため、いずれも高コストであった。
また従前の技術のうち変位を計測する方法は、アンカー頭部の位置変化や地盤の変動計測から、間接的にアンカーの状態を推定するため、アンカーの荷重変化やアンカーの機能状況を直接的に判断することはできなかった。
さらに測量による方法は、光波測距儀を用いた場合でも計測誤差が大きく、アンカーの徴少な変化を計測するには十分ではなかった。このほか縦型伸縮計による地盤変位計測は、アンカー設置するための孔とは別に縦孔を掘削してシース付きワイヤーを設置しなければならないため、高コストであった。
以上の通り、アンカーの機能状況は地盤状況と合わせて把握する必要があるものの、従前の荷重を計測する方法と変位を計測する方法について、そのどちらも簡便さ、耐久性、コストの面で十分な技術とはいえなかった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明は上記の課題を解決するためこ、アンカーの荷重変化や定着体の引き抜け、地盤の変状を、簡易且つ長期的、経済的に精度よく確認することができる方法を提供するものである。
【0005】
本発明の第1は、アンカー機能状況確認装置において、シースパイプ内において、低伸締率の素材からなる複数本のシース付きワイヤーを挿入し、当該各ワイヤーの長さを変えた基端を削孔の余長削孔部とアンカー体、スペーサー・ソケット錨などに固定し、そのシース付きワイヤーの先端部側をシースパイプから引き出して、その先端を多点式標尺に接続するようにしたものである。
【0006】
本発明の第2は、第1の発明に係るアンカー機能状況確認装置において、アンカー頭部のヘッドアダプタに挿通孔をあけ、当該挿通孔にシース付きワイヤーを挿通してその先端部側を外部に引き出し、その先端部を可動式インジケーター付き多点式標尺に取付け、さらにその先端に緊張力を与えるカウンターウエイトを取り付けるようにしたものである。
【0007】
本発明の第3は、第1の発明に係るアンカー機能状況確認装置において、アンカー頭部のオイルキャップに挿通孔をあけ、当該挿通孔にシース付きワイヤーを挿通してその先端部側を外部に引き出し、その先端を可動式インジケーター付き多点式標尺に取付け、さらにその先端に緊張力を与えるカウンターウエイトを取り付けるようにしたものである。
【発明の効果】
【0008】
本願発明は上記の構成であるから、安価で高耐久性のワイヤーを変位計の機能する多点式標尺として用いることで、長期的・経済的にアンカーの機能状況を確認することができ、シース付きワイヤーをアンカーと同時に施工することから、技術的に優れ、且つ設置が簡易化されることで、さらに経済性にも優れる。
【0009】
また、伸縮率の低いワイヤーを用いてアンカー各部および削孔余長部の変位を計測できるようにしたことから、測量などと較べて精度が高く、異常があった場合には荷重変化や定着体の引き抜け、地盤の変状などの異常原因と異常個所を容易に特定することができる。
【0010】
さらに、アンカー各部の変位を地上部で容易に目視確認できるようにしたことから、アンカーの機能状況の確認を経済的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明の実施形態を図に即して示す。図1の実施形態ではある種のアンカーに適用した例を示しているが、構造を多少変更することによりあらゆる形式のアンカーに適用できる。
【0012】
図1の実施形態では、計測用ワイヤーの緊張力をカウンターウエイトによって与えているが、バネなどを用いて小型化してもよい。
また、図1の実施形態では目視判読できる多点式標尺を用いているが、電気的な変位計に変更して連続観測することもできる。
【0013】
さらに,多点式標尺はオイルキャップを貫通した形状とすることもできる。利用形態の例として、計測結果に基づく正常の状態から変位する異常個所の判断例を図5〜図8に示す。
【実施例】
【0014】
本発明の実施例を図面に則して説明する。図1において、アンカーは、後述のアンカー体と自由長部とアンカー頭部とからなっている。そして、図1〜3において、1はアンカーの引張り部を納めるポリエチレン材質からなるシースパイプ、2はシースパイプ1の中に挿入するアンボンドPC鋼より線、3は支圧板、4は耐荷体、5はスペーサ、6はシースパイプ1内に挿入するワイヤーであり、複数本のワイヤー束をシースで被覆してある。そのシース付きワイヤー6の長さを変えた基端部6a′、6b′、6c′、6d′、6e′を支圧板3やアンカー体4・スペーサー5・ソケット錨18などに圧着し、又は小孔をあけて結線して固定してある。7はアンカー体Aの頭部A′側のアンカープレート、8はヘッドアダプタ、9はそのヘッドアダプタ8にあけた挿通孔である。当該挿通孔には締込型パッキン9pを設けてある。10は前記の挿通孔9からワイヤー6の先端部側から引き出してその先端部6a、6b、6c、6d、6eを可動式インジケーター11に結んで変位量を読みとる多点式標尺であり、図4にあっては目盛線10′が設けられている。12はその多点式標の直下においてワイヤー先端部6a、6b、6c、6d、6eから延長した先端に結んで緊張力を与えるためのカウンターウエイトである。13はアンカー頭部A′のアンカーヘッド、14はそのアンカーヘッド用のくさび、15はオイルキャップ、16は受圧板、17はアンカー体Aの先端キャップ、18は削孔Hの余長部H′にワイヤー基端部を設置するためのソケット錨であり、アンカー体Aと分離する構造を有する。そして、その先端キャップ17に被せた着脱可能なソケット錨18に固定したシース付きワイヤー6は、削孔Hの余長部H′に当該削孔内に注入したグラウトで固定され、アンカー引抜け時にはアンカー体Aとソケット錨18が分離する構造とすることにより、当該ソケット式錨は削孔余長部H′に残存し、アンカー変状の様々な原因を把握することができるようにしてなる。図中Lfは、アンカー体Aとアンカー頭部A′と共にアンカーの全長をなす自由長部である。
【0015】
図4は、図1のアンカー頭部A′の他の実施例を示し、オイルキャップ15の中央に挿通孔19があけられ、当該挿通孔に締込型パッキン19Pが設けられ、この挿通孔にワイヤー先端部側を引き出してそのワイヤー先端部6a、6b、6c、6d、6eをインジケーター11付きの多点式標尺10に取り付け、さらにワイヤー先端部から延長した先端にカウンターウエイト12を取り付けたものを示す。
【0016】
「本発明に係る装置の設置工程」
本発明に係るアンカー機能状況確認装置の設置工程は次のとおりである。
(1) アンカーの工場組み立てにおいて、テンドン・アンカー体組み立て作業と同時に、シース付きのワイヤー6の基端部(6a′、6b′、6c′、6d′、6e′)をアンカー体Aとスペーサー5とソケット錨18などに専用プレスにより圧着して固定し、又は小孔をあけてこれに挿通して結線して固定した後、シースパイプ1内に挿入する。そして、シース付きワイヤー6の先端部側をアンカー頭部A′の挿通孔9(又はオイルキャップ15の挿通孔19「図4」)から外部に導き出しておく(図1)。または、前記のワイヤー6の先端部側をオイルキャップ15の挿通孔19から外部に導き出しておく(図4)。
(2) 削孔H内にアンカー(アンカー体A+自由長部+アンカー頭部A′)を挿入する(図9)。
(3) シース付きワイヤー6の先端部側をグラウトから保護する処理を行った後、シースパイプ1内に納め、公知の手段でアンカーのグラウトの注入を行う(図10)。グラウトの注入が終了したら、シース付きワイヤー6の先端部6a〜6e側をシースパイプ1から引き出し、カウンターウエイト程度の緊張力を与えておく。
(4) グラウトが所定の強度に達した後、アンカー頭部A′の処理を行い、アンカープレート7とヘッドアダプタ8を取り付け、挿通孔9又はオイルキャップ15の挿通孔19からシース付きワイヤー6の先端部を引き出した後、緊張して試験を行い、定着する(図11又は図4)。
(5) 上記(4)の工程において、アンカー頭部A′あるいは受圧板16に可動式インジケーター11付きの多点式標尺10などを取り付け、さらに引き出したワイヤー6の先端にカウンターウエイト12などを取り付けると共に、複数本のワイヤー6を可動式インジケーター11に取り付ける(図1、図2)。
【0017】
「本発明装置による作用」
本発明装置による具体的な作用は次の通りである。
(1) 計測用ワイヤー6は、シースによってグラウトや地盤と分離した構造であるため、地盤Gやアンカー(アンカー体A+自由長部Lf+アンカー頭部A′)の変形によって、ワイヤー6に引込まれたり引出される。そのシース付きワイヤー6は、アンカー頭部A′とワイヤー先端部の距離を計測するので、アンカー頭部を含む受圧板16が沈下した場合には、ワイヤー基端部6a′・6b′・6′・6′・6e′とアンカー頭部A′の距離が短縮するため、ワイヤーは引き出される(この変位を縮み量(↓)とする)。
【0018】
逆に地滑り等により、アンカーの一部に折れ曲がりが生じると、折れ曲がり部の奥に設置したワイヤーでは、ワイヤー基端端部6a′・6b′・6′・6′・6e′とアンカー頭部A′のワイヤー6に沿う距離が増加するため、ワイヤーは引き込まれる(この変位を伸び量(↑)とする)。
【0019】
インジケーター11は、ワイヤー6の伸縮に応じて当該インジケーターに成形してあるガイド溝に沿って上下に可動し、その移動量はガイド溝脇に取り付けた多点式標尺10により読みとる。
地滑りが発生したり、受圧板13が沈下したりすると、PC鋼より線2に伸縮が生じ、同時にその変位がシース付きワイヤー6に現れる。PC鋼より線2の伸び量は、緊張荷重と線形関係であり、定着時荷重は既知であることから、多点式標尺10のワイヤー6の伸び量(「上向き矢印」↑)や縮み量(「下向き矢印」↓)の数値を計測することでアンカーに作用する残存引張り力を推定することができる。
【0020】
(2) 「正常時」:地盤Gに設置したアンカーに地滑り等の負荷がかからない正常時は、そのアンカーには全く変位は発生せず、変位計の機能を有する多点式標尺10の変位量の数値は「0」である(図5)。
【0021】
(3) 「異常発生(1)」:地盤Gに地滑りの異常が発生すると、アンカーAの荷重量(残存引張り力)が増加し、の多点式標尺10のうち、一部のシース付きワイヤー6が引き込まれてその先端部6a・6b・6cの変位量の数値は「0」から伸び量(↑)を示す数値になる(図6)。
【0022】
(4)「異常発生(2)」:アンカーの引き抜け作用が発生するとアンカーにかかる荷重(残存引張り力)が減少して、縮み量が生じての多点式標尺10のうち、図において、一部のシース付きワイヤー6の先端部6b・6cが引き出されてその変位量の数値は「0」から縮み量(↓)を示す数値になる(図7)。
【0023】
(5) 「異常発生(3)」:アンカー受圧板16の地中方向への沈下作用が進行するとアンカーにかかる荷重(残存引張り力)が減少して、縮み量が生じて多点式標尺10のうち、図において、全部のシース付きワイヤー6先端部の6a〜6eが引き出されてその変位量の数値は「0」から縮み量(↓)を示す数値になる(図8)。
【0024】
このように、アンカーに生じている変化の状態によって、それぞれのワイヤーには異なった変動と変動量が表れるため、アンカーの機能状況を判定することができる。
【0025】
実際には、上記段落「0021」〜「0023」に示す異常(1)・(2)・(3)が同時に発生するが、シース付きワイヤー6の先端部6a′、6b′、6c′、6d′、6e′をアンカー体A、自由長部Lf、ソケット錨18にそれぞれ1個所以上設置してその変位を計測することにより、いずれの組み合わせでも識別できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るアンカー機能状況確認装置を具備したアンカーの側面図である。
【図2】図1のアンカー機能状況確認装置の多点式標尺を具備した側面図である。
【図3】図1の3−3線に沿う拡大切断端面図である。
【図4】図1のアンカー頭部に多点式標尺を具備した多点式標尺の他の実施例を示す正面図である。
【図5】正常時におけるアンカー埋設状態を示す側面図である。
【図6】異常時におけるすべり変位発生時の状態を示す側面図である。
【図7】異常時におけるアンカーの引抜け状態を示す側面図である。
【図8】異常時における受圧板の沈下状態を示す側面図である。
【図9】削孔及びシース付きワイヤーを取り付けたアンカーの挿入状態を示す概略側面図である。
【図10】シースパイプ内にグラウトの注入状態の概略側面図である。
【図11】アンカー頭部の組み立て状態を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0027】
1……シースパイプ
2……アンボンドPC鋼より線
3……支圧板
4……耐荷体
5……スペーサ
6……複数本のシース付きワイヤー
7……アンカープレート
8……ヘッドアダプタ
9……挿通孔
10……多点式標尺
11……可動式インジケーター
11……カウンターウエイト
12……オイルキャップ
13……挿通孔
14……アンカーのヘッド体
15……ヘッド体用くさび
16……受圧板
17……先端キャップ
18……ソケット錨
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シースパイプ(1)内において、低伸締率の素材からなる複数本のシース付きワイヤー(6)を挿入し、当該各ワイヤー(6)の長さを変えた基端(6a′・6b′・6c′・6d′・6e′)を削孔(H)の余長削孔部(H′)とアンカー体(A′)、スペーサー(5)・ソケット錨などに固定し、そのシース付きワイヤー(6)の先端部側をシースパイプ(1)から引き出して、その先端部(6a・6b・6c・6d・6e)を多点式標尺(10)に接続することを特徴としたアンカー機能状況確認装置。
【請求項2】
アンカー頭部(A′)のヘッドアダプタ(8)に挿通孔(9)をあけ、当該挿通孔にシース付きワイヤー(6)を挿通してその先端部側を外部に引き出し、その先端部(6a・6b′・6c・6d・6e)を可動式インジケーター(11)付き多点式標尺(10)に取付け、さらにその先端に緊張力を与えるカウンターウエイト(12)を取り付けた請求項1記載のアンカー機能状況確認装置。
【請求項3】
アンカー頭部(A′)のオイルキャップ(15)に挿通孔(19)をあけ、当該挿通孔にシース付きワイヤー(6)を挿通してその先端部側を外部に引き出し、その先端部(6a・6b・6c・6d・6e)を可動式インジケーター(11)付き多点式標尺(10)に取付け、さらにその先端に緊張力を与えるカウンターウエイト(12)を取り付けた請求項1記載のアンカー機能状況確認装置。
【請求項1】
シースパイプ(1)内において、低伸締率の素材からなる複数本のシース付きワイヤー(6)を挿入し、当該各ワイヤー(6)の長さを変えた基端(6a′・6b′・6c′・6d′・6e′)を削孔(H)の余長削孔部(H′)とアンカー体(A′)、スペーサー(5)・ソケット錨などに固定し、そのシース付きワイヤー(6)の先端部側をシースパイプ(1)から引き出して、その先端部(6a・6b・6c・6d・6e)を多点式標尺(10)に接続することを特徴としたアンカー機能状況確認装置。
【請求項2】
アンカー頭部(A′)のヘッドアダプタ(8)に挿通孔(9)をあけ、当該挿通孔にシース付きワイヤー(6)を挿通してその先端部側を外部に引き出し、その先端部(6a・6b′・6c・6d・6e)を可動式インジケーター(11)付き多点式標尺(10)に取付け、さらにその先端に緊張力を与えるカウンターウエイト(12)を取り付けた請求項1記載のアンカー機能状況確認装置。
【請求項3】
アンカー頭部(A′)のオイルキャップ(15)に挿通孔(19)をあけ、当該挿通孔にシース付きワイヤー(6)を挿通してその先端部側を外部に引き出し、その先端部(6a・6b・6c・6d・6e)を可動式インジケーター(11)付き多点式標尺(10)に取付け、さらにその先端に緊張力を与えるカウンターウエイト(12)を取り付けた請求項1記載のアンカー機能状況確認装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−293325(P2009−293325A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149948(P2008−149948)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000170646)国土防災技術株式会社 (23)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000170646)国土防災技術株式会社 (23)
【Fターム(参考)】
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