説明

アンギュラ玉軸受

【課題】保持器を使用せずに、玉を傷つけることなく、アンギュラ玉軸受を積み重ねることができるアンギュラ玉軸受を提供する。
【解決手段】アンギュラ玉軸受10は、内周面に軌道面11aが設けられる外輪11と、外周面に軌道面12aが設けられる内輪12と、軌道面11a,12a間に接触角αを持って転動自在に設けられる複数の玉13と、を備え、外輪11の軸方向中心位置と内輪12の軸方向中心位置とが軸方向でオフセットされていると共に、外輪11及び内輪12の一部が径方向から見て重なり合うように構成され、外輪11の軸方向寸法B1は、玉13の直径寸法Dよりも大きく設定され、玉13は、外輪11の軸方向両端面から軸方向外方に突出しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アンギュラ玉軸受に関し、より詳細には、各種重機械装置の回転軸を支持する高負荷容量のアンギュラ玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のアンギュラ玉軸受30は、図5に示すように、内周面に軌道面31aが設けられる外輪31と、外周面に軌道面32aが設けられる内輪32と、軌道面31a,32a間に転動自在に設けられる複数の玉33と、を備える。そして、この種の軸受は、例えば、産業用ロボットや建設機械用の減速装置等の各種重機械装置に組み込まれている。
【0003】
近年、これら重機械装置の小型化及び軽量化に伴い、この種の軸受も同様にコスト低減化のみならず軸受の軽量化が求められるようになった。そして、コスト低減化及び軽量化を目指して、アンギュラ玉軸受30の軸方向寸法と比較して、外輪31及び内輪32の軸方向寸法を小さくすることが行われている。これにより、外輪31及び内輪32の軸方向寸法が狭くなるため、玉33の一部が外輪31又は内輪32の軸方向端面から突出する。
【0004】
一方、この種の軸受を製造する際、特に、組立工程や搬送工程の際には、組み上がった複数のアンギュラ玉軸受30を軸方向に積み重ねるため、図6に示すように、前述した玉33の突出する部分が、積み重ねられる相手側の外輪31又は内輪32に接触して、玉33の表面が傷つく可能性がある。
【0005】
そこで、この傷の発生を防止するため、従来のアンギュラ玉軸受では、保管及び搬送の際、保持器を支えとしてアンギュラ玉軸受を積み重ねるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−39069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載のアンギュラ玉軸受では、積み重ねられたアンギュラ玉軸受を保持器で支持するため、保持器に大きな荷重が負荷され、保持器の強度上好ましくなかった。また、上記特許文献1に記載のアンギュラ玉軸受では、保持器で積み重ねることを前提にしているため、保持器の設計の自由度に制限が生じていた。
【0008】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、保持器を使用せずに、玉を傷つけることなく、アンギュラ玉軸受を積み重ねることができるアンギュラ玉軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)内周面に軌道面が設けられる外輪と、外周面に軌道面が設けられる内輪と、外輪の軌道面と内輪の軌道面との間に接触角を持って転動自在に設けられる複数の玉と、を備え、外輪の軸方向中心位置と内輪の軸方向中心位置とが軸方向でオフセットされていると共に、外輪及び内輪の一部が径方向から見て重なり合うアンギュラ玉軸受であって、外輪の軸方向寸法は、玉の直径寸法よりも大きく設定され、玉は、外輪の軸方向両端面から軸方向外方に突出しないことを特徴とするアンギュラ玉軸受。
(2)内周面に軌道面が設けられる外輪と、外周面に軌道面が設けられる内輪と、外輪の軌道面と内輪の軌道面との間に接触角を持って転動自在に設けられる複数の玉と、を備え、外輪の軸方向中心位置と内輪の軸方向中心位置とが軸方向でオフセットされていると共に、外輪及び内輪の一部が径方向から見て重なり合うアンギュラ玉軸受であって、内輪の軸方向寸法は、玉の直径寸法よりも大きく設定され、玉は、内輪の軸方向両端面から軸方向外方に突出しないことを特徴とするアンギュラ玉軸受。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、外輪又は内輪の軸方向寸法が、玉の直径寸法よりも大きく設定され、玉が、外輪又は内輪の軸方向両端面から軸方向外方に突出しないため、軸受を積み重ねる際の支持が外輪又は内輪で行われる。これにより、保持器を使用せずに、玉を傷つけることなく、アンギュラ玉軸受を積み重ねることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るアンギュラ玉軸受の第1実施形態を説明する要部拡大断面図である。
【図2】図1に示すアンギュラ玉軸受を積み重ねた状態の要部拡大断面図である。
【図3】本発明に係るアンギュラ玉軸受の第2実施形態を説明する要部拡大断面図である。
【図4】図3に示すアンギュラ玉軸受を積み重ねた状態の要部拡大断面図である。
【図5】従来のアンギュラ玉軸受を説明するための要部拡大断面図である。
【図6】図5に示すアンギュラ玉軸受を積み重ねた状態の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るアンギュラ玉軸受の各実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
(第1実施形態)
まず、図1及び図2を参照して、本発明に係るアンギュラ玉軸受の第1実施形態について説明する。
【0014】
本実施形態のアンギュラ玉軸受10は、図1に示すように、薄肉タイプのアンギュラ玉軸受であって、内周面に軌道面11aを有するカウンターボア形状(軸方向片側に肩部を有しない形状)の外輪11と、外周面に軌道面12aを有するカウンターボア形状の内輪12と、軌道面11a,12a間に接触角αを持って転動自在に設けられる複数の玉13と、を備える。また、外輪11、内輪12、及び玉13は、高炭化クロム軸受鋼、浸炭軸受用鋼、転がり軸受用ステンレス鋼などの鉄鋼を用いて製造される。
【0015】
また、外輪11及び内輪12は、それぞれのカウンターボア側の軸方向寸法を短くすることで、外輪11の軸方向中心位置C1と内輪12の軸方向中心位置C2とが軸方向でオフセットするように(図1では、外輪11が下方に位置するように)、且つ外輪11及び内輪12の一部が径方向から見て重なり合うように組み付けられている。
【0016】
そして、本実施形態では、外輪11の軸方向寸法B1は、玉13の直径寸法Dよりも大きく設定されている。これにより、玉13が外輪11の軸方向両端面から軸方向外方に突出しないようになっている。また、内輪12の軸方向寸法B2は、外輪11の軸方向寸法B1且つ玉13の直径寸法Dよりも小さく設定されている。
【0017】
また、外輪11の軸方向下端部及び内輪12の軸方向上端部には、肩部11b,12bがそれぞれ形成されており、内輪12の肩部12bの軸方向寸法B4は、外輪11の軸方向寸法B1から玉13の直径寸法Dを引いた値よりも小さく設定されている。また、肩部11b,12bの径方向寸法が等しい場合、内輪12の肩部12bの軸方向寸法B4は、外輪11の肩部11bの軸方向寸法B3よりも小さく設定されていてもよい。
【0018】
このように構成されたアンギュラ玉軸受10では、例えば、2個のアンギュラ玉軸受10を積み重ねた場合、図2に示すように、下段のアンギュラ玉軸受10の外輪11の上に、上段のアンギュラ玉軸受10の外輪11が載置されて、上段のアンギュラ玉軸受10が下段のアンギュラ玉軸受10の外輪11で支持される。また、下段のアンギュラ玉軸受10の内輪12が上段のアンギュラ玉軸受10の玉13に接触しないので、玉13が傷つくことはない。
【0019】
以上説明したように、本実施形態のアンギュラ玉軸受10よれば、外輪11の軸方向寸法B1が、玉13の直径寸法Dよりも大きく設定され、玉13が、外輪11の軸方向両端面から軸方向外方に突出しないため、軸受10を積み重ねる際の支持が外輪11で行われる。これにより、玉13を傷つけることなく、アンギュラ玉軸受10を積み重ねることができる。また、軸受10の積み重ねに保持器を使用しないので、保持器の設計の自由度を向上することができる。
【0020】
(第2実施形態)
次に、図3及び図4を参照して、本発明に係るアンギュラ玉軸受の第2実施形態について説明する。なお、上記第1実施形態と同一又は同等部分については、図面に同一或いは同等符号を付してその説明を省略或いは簡略化する。
【0021】
本実施形態のアンギュラ玉軸受20では、図3に示すように、外輪11及び内輪12は、それぞれのカウンターボア側の軸方向寸法を短くすることで、外輪11の軸方向中心位置C1と内輪12の軸方向中心位置C2とが軸方向でオフセットするように(図3では、内輪12が下方に位置するように)、且つ外輪11及び内輪12の一部が径方向から見て重なり合うように組み付けられている。
【0022】
また、本実施形態では、内輪12の軸方向寸法B2は、玉13の直径寸法Dよりも大きく設定されている。これにより、玉13が内輪12の軸方向両端面から軸方向外方に突出しないようになっている。また、外輪11の軸方向寸法B1は、内輪12の軸方向寸法B2且つ玉13の直径寸法Dよりも小さく設定されている。
【0023】
また、外輪11の軸方向上端部及び内輪12の軸方向下端部には、肩部11b,12bがそれぞれ形成されており、外輪11の肩部11bの軸方向寸法B3は、内輪12の軸方向寸法B2から玉13の直径寸法Dを引いた値よりも小さく設定されている。また、肩部11b,12bの径方向寸法が等しい場合、外輪11の肩部11bの軸方向寸法B3は、内輪12の肩部12bの軸方向寸法B4よりも小さく設定されていてもよい。
【0024】
このように構成されたアンギュラ玉軸受20では、例えば、2個のアンギュラ玉軸受20を積み重ねた場合、図4に示すように、下段のアンギュラ玉軸受20の内輪12の上に、上段のアンギュラ玉軸受20の内輪12が載置されて、上段のアンギュラ玉軸受20が下段のアンギュラ玉軸受20の内輪12で支持される。また、下段のアンギュラ玉軸受20の外輪11が上段のアンギュラ玉軸受20の玉13に接触しないので、玉13が傷つくことはない。
【0025】
以上説明したように、本実施形態のアンギュラ玉軸受20よれば、内輪12の軸方向寸法B2が、玉13の直径寸法Dよりも大きく設定され、玉13が、内輪12の軸方向両端面から軸方向外方に突出しないため、軸受20を積み重ねる際の支持が内輪12で行われる。これにより、玉13を傷つけることなく、アンギュラ玉軸受20を積み重ねることができる。また、軸受20の積み重ねに保持器を使用しないので、保持器の設計の自由度を向上することができる。
その他の構成及び作用効果については、上記第1実施形態と同様である。
【0026】
なお、本発明は上記各実施形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0027】
10,20 アンギュラ玉軸受
11 外輪
11a 軌道面
12 内輪
12a 軌道面
13 玉
B1 外輪の軸方向寸法
B2 内輪の軸方向寸法
D 玉の直径寸法
α 接触角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に軌道面が設けられる外輪と、外周面に軌道面が設けられる内輪と、前記外輪の前記軌道面と前記内輪の前記軌道面との間に接触角を持って転動自在に設けられる複数の玉と、を備え、
前記外輪の軸方向中心位置と前記内輪の軸方向中心位置とが軸方向でオフセットされていると共に、前記外輪及び前記内輪の一部が径方向から見て重なり合うアンギュラ玉軸受であって、
前記外輪の軸方向寸法は、前記玉の直径寸法よりも大きく設定され、
前記玉は、前記外輪の軸方向両端面から軸方向外方に突出しないことを特徴とするアンギュラ玉軸受。
【請求項2】
内周面に軌道面が設けられる外輪と、外周面に軌道面が設けられる内輪と、前記外輪の前記軌道面と前記内輪の前記軌道面との間に接触角を持って転動自在に設けられる複数の玉と、を備え、
前記外輪の軸方向中心位置と前記内輪の軸方向中心位置とが軸方向でオフセットされていると共に、前記外輪及び前記内輪の一部が径方向から見て重なり合うアンギュラ玉軸受であって、
前記内輪の軸方向寸法は、前記玉の直径寸法よりも大きく設定され、
前記玉は、前記内輪の軸方向両端面から軸方向外方に突出しないことを特徴とするアンギュラ玉軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−229783(P2012−229783A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99868(P2011−99868)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】