説明

アンジオポエチン様タンパク質3Angptl3含有組成物とその使用方法

【課題】Angptl3のアンタゴニストを有効成分として含む、炎症性肝疾患を治療又は予防するための医薬の提供。
【解決手段】Angptl3のアンタゴニストが、Angptl3又はαvβ3インテグリンに結合し、Angptl3の特異的な結合能を阻害し、αvβ3インテグリンによって媒介される細胞性応答を調節する。該アンタゴニストは、Angptl3抗体又は抗αvβ3インテグリン抗体、又はイムノグロブリン配列に融合したαvβ3インテグリンのリガンド結合領域を含む又は、Angptl3のレセプター結合領域を含むイムノアドヘシン。該アンタゴニストはAngptl3のアミノ酸配列に少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むぺプチド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Angptl3ポリペプチド、並びにそのようなタンパク質分子とAngptl3に結合する抗体の作製及び使用方法及び手段に関する。
【背景技術】
【0002】
新生血管の増殖は、胚及び生後発育の通常の生理的過程中の必須条件である。先在する毛細血管からの新生血管のこういった増生(血管新生と称される過程)はさらに、充実性腫瘍、糖尿病性網膜症、乾癬、炎症及びリウマチ様関節炎の病理進行において重要な役割を果たす(Ferrara, Recent Prog. Horm. Res. 55:15-35 (2000), discussion 35-6)。
【0003】
血管新生は、血管内皮増殖因子(VEGF)及び繊維芽細胞増殖因子(FGF)といった増殖因子に依存するだけでなく、インテグリンを含む細胞接着分子(CAM)によっても影響される。特定の接着レセプターをコードする様々な遺伝子の不活性化、又は動物モデルへの遮断抗体の投与は、内皮細胞の血管新生反応に著しい影響を及ぼした(Elicieri及びCheresh, Mol. Med., 4:741-50 (1998))。
【0004】
細胞接着タンパク質のインテグリンファミリーは、少なくとも22の異なるαβヘテロ二量体の組合せで発現される15のαと8のβサブユニットからなる(Byzova等, Mol. Cell., 6(4):851-60 (2000))。これらのうち、少なくとも6の組合せ(αvβ3, αvβ5, α5β1, α2β1, αvβ1及びα1β1)が血管新生と関連している(Hynes及びBader, Thromb. Haemost., 78(1):83-7 (1997);Hynes等, Braz. J. Med. Biol. Res., 32(5):501-10 (1999))。インテグリンは、細胞隙間及び基底膜に見られる細胞外マトリクスタンパク質への細胞接着と、該タンパク質への転位を容易にする。
【0005】
インテグリンαvβ3は、とりわけビトロネクチン、フィブロネクチン、フィブリノゲン、ラミニン、コラーゲン、フォン・ヴィレグブランド因子、オステオポンチン、及びMMP2(PEX)断片を含む多種多様の細胞外マトリクスタンパク質のレセプターである(Eliceiri及びCheresh, Cancer J. Sci. Am. 6 Suppl 3:S245-9 (2000)参照)。その無差別なリガンド結合性にも関わらず、αvβ3は成体組織では広く発現されず、一部の血管、腸及び子宮の平滑筋細胞に見られる(Brem等, Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 35:3466-74 (1994))。このレセプターは特定の活性化白血球、マクロファージ及び破骨細胞でも発現され、破骨細胞においては骨吸収の間重要な役割を果たす(McHugh等, J. Clin. Invest., 105:433-40 (2000))。最も顕著には、αvβ3は低酸素状態に曝された内皮細胞と、血管内皮増殖因子A(VEGF-A)といったサイトカインで上方制御される(Suzuma等, Invest Ophthalmol. Vis. Sci. 39:1029-35 (1998);Walton等, J. Cell. Biochem.. 78:674-80 (2000))。インビボで、αvβ3発現の増加が、腫瘍肉芽組織内の血管細胞で、創傷治癒、黄斑変性及び他の新生血管疾患中に観察された。腫瘍血管新生の様々なインビトロ及びインビボモデルで、モノクローナル抗体又はリガンドアンタゴニストを用いたαvβ3の阻害によって、血管形成の鈍化がもたらされた(Brooks等, Cell 79:1157-64 (1994);Eliceiri及びCheresh, Mol. Med. 4:741-50 (1998))。
【0006】
腫瘍増殖又は心筋虚血後の側副血管形成といった病的状態における血管新生の調整に関与するメカニズムに焦点を当てた報告は膨大な数に昇るが、肝再生中の血管新生過程の役割は驚いたことに殆ど知られていない。部分的な肝切除(PH)の後、肝細胞と非実質細胞の双方が血管内皮増殖因子(VEGF)mRNAを発現し(Mochida等, Biochem. Biophys. Res. Commun. 226:176-9 issn: 0006-291x (1996))、このことはVEGFが、血管新生を誘発することによって、肝再生で役割を果たし得ることを示す。しかし、VEGFに対する中和抗血清によって、傷害後の治癒率は変化しなかったが、増殖型内皮細胞及び肝細胞はこのモデルにおいて減少した(Taniguchi等, J. Histochem. Cytochem. 49:121-30 (2001))。このことに加えて、血管新生インヒビターTNP470は部分的な肝切除後の創傷治癒を妨げなかった。これは肝再生中、TNP470感受性血管新生は必要とされないことを示唆する(Tanaka等, Br. J. Surg., 83(10):1444-7 (1996))。
【0007】
肝再生、特に肝再生中の血管新生過程に関与する新規な因子を同定する必要がある。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、ヒトAngptl3配列と配列同一性を持つアミノ酸配列を有するポリペプチド又はそのアゴニストを、Angptl3の過剰発現を特徴とする組織損傷を治療するために使用することに関する。特に本発明は、組織損傷、好適には肝又は心臓組織損傷の危険性があるヒト対象体の治療(予防を含む)又は同定におけるAngptl3の使用に関する。従って、Angptl3は肝再生中の血管新生過程の調整に関与すると考えられる。
【0009】
本発明は、配列番号2のAngptl3のアンタゴニスト又はその哺乳類ホモログを用いた組織治療からなる、Angptl3の過剰発現を特徴とする組織損傷の治療方法に関する。1つの実施態様で、治療は予防を含み、より特定すると組織損傷の進行の予防を含む。
【0010】
好適な実施態様で、組織は好ましくはヒト肝組織である。アンタゴニストは好ましくは配列番号2のAngptl3のアンタゴニストである。組織損傷は、炎症又は肝腫瘍と関連しているのが好ましい。炎症は、肝硬変、肝線維症、慢性肝炎、ウイルス性肝炎A、B、C、D、E及びG型、中毒代謝性肝損傷、脂肪肝、肝臓の虚血再灌流傷害、及び敗血症からなる群から選択された慢性肝疾患と関連しているのが好ましい。肝硬変は、アルコール性肝硬変又は原発性胆汁性肝硬変(PBC)である。肝炎は、慢性自己免疫性肝炎、慢性アルコール性肝炎、及び非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)からなる群から選択される。肝腫瘍は、肝細胞癌、胆管癌、及び肝臓の転移性癌からなる群から選択される。
【0011】
他の実施態様で、組織は好ましくは心臓組織である。組織損傷は、炎症と関連しているのが好ましい。組織損傷は、Angptl3の発現の上昇を特徴とする心疾患と関連しているのが好ましい。また別の側面では、組織損傷は、その病因が炎症反応を含む心疾患、又はその進行において炎症が危険因子である心疾患と関連している。心疾患は、冠動脈疾患、心筋症、心筋炎、うっ血性心不全(CHF)、及び心筋梗塞からなる群から選択されるのが好ましい。心筋症は、非特異性肥大、及び拡張型心筋症からなる群から選択されるのが好ましい。
【0012】
他の実施態様で、アンタゴニストは抗Angptl3抗体、抗αvβ3抗体、イムノアドヘシン又は小分子である。抗体は好ましくは、モノクローナル抗体、抗体断片、又はFab、Fab'、F(ab')及びFv断片からなる群から選択された単鎖抗体である。モノクローナル抗体は好ましくは、キメラ化、ヒト化又はヒトモノクローナル抗体である。イムノアドヘシンは、少なくとも、免疫グロブリン配列と融合したαvβ3のリガンド結合領域を有するか、又は少なくとも、免疫グロブリン配列と融合したAngptl3のレセプター結合領域を有する。
【0013】
また別の側面で、本発明は、必要とする哺乳類対象体に有効量の配列番号2のAngptl3のアンタゴニスト又はその哺乳類ホモログを投与することを含んでなる、哺乳類対象体における慢性肝疾患の治療方法を含む。1つの実施態様で、哺乳類対象体はヒトである。治療は予防を含み、より特定すると肝損傷の進行の予防を含む。投与されるアンタゴニストは配列番号2のAngptl3のアンタゴニスト又は抗体、特に抗Angptl3抗体又は抗αvβ3抗体である。慢性肝疾患はAngptl3の発現の上昇を特徴とする。肝疾患は、肝硬変、肝線維症、慢性肝炎、ウイルス性肝炎A、B、C、D、E及びG型、中毒代謝性肝損傷、脂肪肝、肝臓の虚血再灌流傷害、及び敗血症からなる群から選択される。
【0014】
また別の側面で、本発明は、対象体に有効量の配列番号2のAngptl3のアンタゴニスト又はその哺乳類ホモログを投与することを含んでなる、哺乳類対象体における心臓病の治療方法を含む。1つの実施態様で、哺乳類対象体はヒトである。治療は予防を含み、より特定すると心疾患の進行の予防を含む。投与されるアンタゴニストは配列番号2のAngptl3のアンタゴニストである。心臓病は、冠動脈疾患、心筋症、心筋炎、うっ血性心不全(CHF)、及び心筋梗塞からなる群から選択される。アンタゴニストは、抗Angptl3抗体又は抗αvβ3抗体である。
【0015】
また別の側面で、本発明は、必要とする哺乳類対象体に、配列番号2のヒトAngptl3配列と少なくとも80%の配列同一性を持つアミノ酸配列を有する有効量のポリペプチド又はそのアゴニストを投与することを含んでなる、哺乳類対象体における急性肝疾患の治療方法を含む。1つの実施態様で、哺乳類対象体はヒトである。治療は予防を含み、より特定すると急性肝疾患の進行の予防を含む。ポリペプチドは配列番号2のヒトAngptl3配列と少なくとも98%の配列同一性を有するアミノ酸配列、又はそのアゴニストを有する。好適な実施態様で、ポリペプチドは配列番号2のヒトAngptl3配列のアミノ酸領域281−293(P1、配列番号14)、442−460(P2、配列番号15)、415−430(P3、配列番号17)を有する。さらに好適な実施態様で、ポリペプチドは配列番号2のヒトAngptl3配列のフィブリノゲンドメインを有する。さらに好適な実施態様で、当該方法は付加的な治療薬の投与を含んでなる。付加的な治療薬は、血管内皮増殖因子(VEGF)又は繊維芽細胞増殖因子(FGF)である。アゴニストは、Angptl3又はαvβ3に特異的に結合するアゴニスト抗体である。
【0016】
また別の側面で、本発明は、必要とする哺乳類対象体に、配列番号2のヒトAngptl3配列と少なくとも80%の配列同一性を持つアミノ酸配列を有する治療有効量のポリペプチド又はそのアゴニストを投与することを含んでなる、急性肝傷害後の肝再生誘発方法を含む。哺乳類対象体はヒトであるのが好ましい。ヒト対象体は、炎症性肝疾患、例えば慢性、アルコール性又はウイルス性肝炎、敗血症、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、又は原発性又は転移性肝癌であると診断されているか、肝臓に化学的又は機械的傷害を受けているか、又は慢性肝炎、肝硬変、原発性又は転移性肝癌、又は胆嚢癌等、何らかの原因で肝切除を受けている者であってよい。あるいは、患者は、肝傷害を引き起こす化学薬品又は他の環境又は他の因子に曝されていて、そういった傷害が進行する前に処置を受けている者であってよい。予防的処置は厳密に言えば本発明の範囲内である。
【0017】
また別の側面で、本発明は、配列番号2のヒトAngptl3配列と少なくとも80%の配列同一性を持つアミノ酸配列を有する有効量のポリペプチド又はそのアゴニストで組織を治療することを含んでなる、組織における血管新生誘発方法を含む。1つの実施態様で、組織は、感染過程又は自己免疫過程、機械的又は化学的傷害、又は癌又は転移性癌の結果、損傷を受けた病変肝組織であり得る肝組織又は心臓組織である。予防的処置、より具体的には疾患の進行の予防は厳密に言えば本発明の範囲内である。
【0018】
また別の側面で、本発明は、有効量の配列番号2のAngptl3のアンタゴニスト又はその哺乳類ホモログを投与することを含んでなる、組織における血管透過性の望ましくない亢進の抑制方法を含む。血管透過性の亢進は、組織損傷後の小血管透過性の亢進であり得て、毒素への露出による血管内皮の壊死に続いて起こり得る。血管透過性の亢進は、炎症、好ましくは慢性炎症と関連する。組織は肝組織又は心臓組織である。予防的処置、より具体的には疾患の進行の予防は、厳密に言えば本発明の範囲内である。
【0019】
また別の側面で、本発明は、好ましくは深刻な損傷が起こる前に、心臓血管疾患の危険性があるヒト対象体を同定する方法を含む。当該方法は、該対象体の心臓組織におけるAngptl3 mRNA又はその発現産物のレベルを、該対象体の心臓組織におけるAngptl3又はその発現産物のレベルと比べて、正常な心臓組織におけるAngptl3又はその発現産物のレベルと比べて決定することと、該対象体の心臓組織におけるAngptl3 mRNA又はその発現産物のレベルが正常な心臓細胞と比べて高い場合、該対象体を危険性があるとして同定することを含んでなる。心臓細胞サンプルは、心臓血管疾患の危険性が疑われている対象体、好ましくはヒト患者から採取され、配列番号1のヒトAngptl3遺伝子の上方制御を検出するための遺伝子発現変化分析を受け、ここで、危険性のある心臓組織サンプルにおけるAngptl3の発現が、正常な心臓組織から採取された第二の心臓サンプルにおける発現と比較される。遺伝子発現変化分析は、ノーザンブロット法、インサイツハイブリダイゼーション、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT−PCR)を含む周知の技術によって、又はマイクロアレイ技術を用いて実行されてよい。
【0020】
また別の側面で、本発明は、好ましくは深刻な損傷が起こる前に、肝損傷の危険性があるヒト対象体を同定する方法を含む。当該方法は、該対象体の肝組織におけるAngptl3 mRNA又はその発現産物のレベルを、正常な肝組織におけるAngptl3又はその発現産物のレベルと比べて決定することと、該対象体の肝組織におけるAngptl3 mRNA又はその発現産物のレベルが正常な肝組織と比べて高い場合、該対象体を危険性があるとして同定することを含んでなる。肝組織サンプルは、肝疾患の危険性が疑われている対象体、好ましくはヒト患者から採取され、配列番号1のヒトAngptl3遺伝子の上方制御を検出するための遺伝子発現変化分析を受け、ここで、危険性のある肝サンプルにおけるAngptl3の発現が、正常な肝組織から採取された第二の肝サンプルにおける発現と比較される。遺伝子発現変化分析は、ノーザンブロット法、インサイツハイブリダイゼーション、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT−PCR)を含む周知の技術によって、又はマイクロアレイ技術を用いて実行されてよい。
【0021】
全ての治療への応用(予防を含む)において、Angptl3ポリペプチド、又はそのアゴニスト又はアンタゴニストは、さらなる治療薬、例えばさらなる血管新生因子、例えば血管内皮増殖因子(VEGF)又は繊維芽細胞増殖因子(FGF)と組合わせて投与され得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】Angptl3のヌクレオチド配列(配列番号1)(DNA16451)である。
【図2A】図2Aは、Angptl3のアミノ酸配列(配列番号2)である。
【図2B】図2Bは、Angptl3のアミノ酸配列(配列番号2)である。
【図3A】図3Aは、Angptl3(配列番号2)及びアンジオポエチン-1(ANG1)及びアンジオポエチン-2(ANG2)のドメイン構造の比較である。
【図3B】図3Bは、gDエピトープタグ付きヒトANG2、ARP1、Angptl3を含む条件付培地又はコントロール培地でインキュベートしたHMVEC細胞のFACS分析の結果を示す。
【図4】gDタグ付きANG1、ANG2、ARP1、Angptl3及びTie1レセプター又はTie2レセプターをそれぞれコードするプラスミドと同時形質移入された293細胞を用いた、同時免疫沈降実験の結果を示す。上清をTie1又はTie2に対する抗体で免疫沈降し、SDS-PAGEで分解しPVDF膜にブロットしたタンパク質を、gDタグ又はTieレセプターに対する抗体とインキュベートした。
【図5】図5A−Cは、Angptl3のフィブリノゲンドメインのホモロジーモデリングを示す。(A)白色は、ヒトフィブリノゲン(3FIB)のγ鎖のC末端のx線構造の重ね合わせのリボンダイヤグラム、及び緑色は、Angptl3のフィブリノゲン様ドメインのモデル化構造。α螺旋を円柱として、β鎖を矢印として示す。双方の構造で異なる領域を標識化した。(B)緑色は、Angptl3のフィブリノゲン様ドメインのモデル化構造。α5β3に関与する領域P1、P2及びP3を黄色でハイライトする。(C)ヒトフィブリノゲン(3FIB)(配列番号27)のγ鎖のC末端と、Angptl3のフィブリノゲン様ドメイン(配列番号28)と、ヒトアンジオポエチン1(配列番号29)、2(配列番号30)及び4(配列番号31)の配列アラインメント。親水及び荷電残基を青色で示し、芳香族/疎水残基をオレンジ色で示す。コンセンサス配列をアラインメントの下に示し;親水/荷電及び芳香族/疎水変異をそれぞれ、青色とオレンジ色で印を付けた。我々の研究で使用したペプチドに対応する残基を黄色の四角で囲む。番号付けは3FIBx線構造に対応する。
【図6】図6A−Cは、Angptl3が分泌糖タンパク質である証拠を提示する。(A)イムノアフィニティで精製したヒトAngptl3の、クマシー染色されたSDSポリアクリルアミドゲル。(B)一過性形質移入されたCHO細胞からの、イムノアフィニティで精製したマウスAngptl3の、銀染色されたSDSポリアクリルアミドゲル。(C)PNGase-F処理あり(+)又はなし(−)での組換えAngptl3タンパク質の分子量の比較。gDタグ付きhAngptl3の予想分子量は60kDaである。抗gD抗体を用いてウェスタンブロットを行った。
【図7A】図7A−Eは、Angptl3による内皮細胞結合に関与するドメインの機能分析と生物学的反応のメディエーターとしてのαvβ3インテグリンの同定を示す。(A)ペプチドp1、p2及びp3(100μM又は250μM総量)、コントロール(NL6-PP2-scr, 250μM)又はRGD又はRGEペプチド(250μM)の組合わせとのプレインキュベーション後、4時間にわたる200nM MAでの刺激前に、HMVEC接着を検査した。200nM PMAの存在下且つペプチドの不在下での接着を100%の値とした。
【図7B】(B)インテグリンαIIbβ3、αvβ3, αvβ1又はαvβ5の何れかを過剰発現している293細胞の接着を、20μg/ml hAngptl3又はBSAで被膜したマイクロタイタープレートで検査した。細胞は、37℃で接着でき、4時間後に定量化できた。
【図7C】(C)96ウェルプレートを、4℃で終夜hAngptl3の増加量で被膜し、37℃で1時間3%BSAによって非特異的な結合を遮断し、HMVEC細胞をプレート化する前にウェルをPBSで洗浄した。示したデータは、3つの別個の実験のSDと手段である。
【図7D】(D)200nM PMAでの刺激前、25mg/mlの遮断抗体、抗α5β1(JBS5)、抗αvβ3(LM609)又は抗 αvβ5(P1F6)あり又はなしで、HMVECをプレインキュベートした。ネガティブコントロールとして、10mM EDTAの存在下で接着を行った。
【図7E】(E)16時間にわたって25μg/ml遮断抗体、抗αvβ3(LM609)又は抗 αvβ5(P1F6)の存在下又は不在下でhAngptl3で刺激された又は非刺激の(50μg/ml)HMCECの転位。
【図8A】図8A−Cは、進行中、肝細胞にAngptl3が発現し、病的な肝臓では強く上方制御されることを示す。(A)ヒト多組織ブロット(Clontech)を用いてhAngptl3のノーザンブロット分析を行い、これにより肝臓及び腎臓におけるhAngptl3の発現が示された。各レーンは、成体の脳(BR)、心臓(HT)、骨格筋(SM)、結腸(CO)、胸腺(TH)、脾臓(SP)、腎臓(KD)、肝臓(LI)、小腸(SI)、胎盤(PL)、肺(LU)及び末梢血白血球(PBL)からの2μgのRNAを含む。
【図8B】(B)hAngptl3の発現は、肝硬変を患った及びアセトミノフェンで毒性傷害を受けた組織の肝細胞で強く上方制御される。肝臓腫瘍サンプルでは変化が見られなかった。
【図8C】(C)胎仔マウスの肝臓のインサイツハイブリダイゼーションは、肝細胞においてE15及びE18でmAngptl3の発現を示したが、赤血球前駆体、内皮細胞及び巨核球においては見られなかった。
【図9A−D】図9A−Eは、マウス角膜におけるインビボでの血管新生の誘発への、CCLF1の影響を示す。(A)バッファー(コントロール)、(B)マウスAngptl3(500ng)、(C)VEGF(100ng)、(D)マウスAngptl3(500ng)及びVEGF(100ng)で処置されたハイドロン・ペレット(hydron pellets)の注入後6日目のマウス角膜の代表的な平面顕微鏡写真。
【図9E】(E)コントロール、VEGF(100ng)、mAngptl3(500ng)、mAngptl3(500ng)及び上述した組合わせに対するインビボでの血管新生反応の概略データ。データは平均±SEとして表され、n=5動物/群である。コントロールと比較してp<0.005(ノンパラメトリック値のMann-Whitney検定)。
【図10A】図10A−Bは、0日目にアデノウイルス感染させ、4日目にCCl4で処置した後7日目にアスパラギン酸トランスフェラーゼ(AST)の血中濃度によって評価された、CCl4誘発肝臓毒性における、マウスAngptl3の保護効果を示す。図10Aは、0日目にアデノウイルス感染させ、4日目にCCl4で処置した後7日目における、検査された全コンストラクトの同等の発現レベルを示す。
【図10B】図10Bは、0日目に示されたウイルスベクターで、4日目にCCl4で処置した後7日目における、マウスの血清中のASTレベルを示す(P<0.0001)。
【図11A】図11A−Bは、C57/B16野生型マウスの肝臓におけるマウスAngptl3の長期発現後の血清ASTレベルの上昇を示す。図11Aは、0日目に示されたウイルスコンストラクトで、4日目にCCl4で処置した後の様々な時点でのマウスの血清中のASTレベルを示す。
【図11B】図11Bは、アデノウイルス感染後2週目のRAG2ノックアウトマウスの血清中のALT及びASTレベルの上昇を示す。結果は平均±SEMで示す。1群あたりの動物の数は6である(P<0.0001)。
【図12A】図12A−Dは、Angptl3発現アデノウイルスベクターの皮内投与に反応した、K5−Angptl3トランスジェニックマウス又は野生型FVBマウスの皮膚における血管露出の増加を示す。図12Aは、トランスジェニック及びリットルが同等の野生型コントロールマウスの様々な器官から単離されたRNAのリアルタイムRT−PCR分析の結果を示す。皮膚での導入遺伝子発現は、肝臓で検出された内因性Angptl3発現レベルの約10%に達した。
【図12B】図12Bは、生後様々な時点でトランスジェニック及びリットルが同等の野生型コントロールマウスの皮膚生検から単離されたRNAのリアルタイムRT−PCR分析の結果を示す。
【図12C】図12Cは、血管透過性レベルを決定するために、生後11週目のトランスジェニック及びリットルが同等の野生型コントロールマウスに施されたエバンスブルーアッセイの結果を示す。トランスジェニックマウスは、基本条件において(左側パネル)血管透過性の有意な亢進を示したが、からし油が投与された場合(右側パネル)示さなかった。滲出したエバンスブルー色素の量を、分光光度計を用いて610nmで測定し、湿った組織の重量1mg(下側パネル)あたりの含有色素として示した。結果は平均±SEMで示し、1群あたりの動物の数は6で、P<0.05である。
【図12D】図12Dは、示されたアデノウイルスコンストラクトの1×10 Pfuが皮内注射されたFVBマウスの投与後6日目に行われたエバンスブルーアッセイの結果を示す。Angptl3(p<0.05)又はVEGF(p<0.005)で処置されたマウスの皮膚は、コントロール処置マウス(LacZ)と比較すると、基本条件下で(左側パネル)血管透過性の著しい亢進を示した。滲出したエバンスブルー色素の量を、分光光度計を用いて610nmで測定し、湿った組織の重量1mg(下側パネル)あたりの含有色素として示した。結果は平均±SEMで示し、1群あたりの動物の数は6で、P<0.05である。
【図13】図13は、単離したばかりのマウス肝細胞の、組換えマウスAngptl3(mAngptl3)への結合レベルを示す。組換えmAngptl3、フィブロネクチン又はBSAコントロールの示された濃度で被膜された培養皿への肝細胞接着を示す。非特異的結合を、37℃で1時間3%BSAによって遮断し、細胞をプレート化する前にウェルをPBSで洗浄した。示したデータは、3つの独立した実験全体を3回行ったうちの1つの典型的な実験の平均±SDを表す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
好適な実施態様の詳細な説明
A.定義
「肝疾患」なる用語はここで最も広義に使用され、根底にある原因に関わらず、何らかの種類の肝傷害に関連した任意の肝臓の疾患を表す。よって、肝疾患は、例えば、感染過程又は自己免疫過程、機械的又は化学的傷害、又は癌に起因するものであってよく、それらは全て「肝疾患」なる定義に含まれる。肝臓への化学的傷害は、種々の毒素、例えばアルコール、四塩化炭素、トリクロロエチレン、鉄分の過剰摂取、薬物の過剰摂取、薬物の副作用等によるものであり得る。
【0024】
「炎症に関連した組織損傷」なる用語及びその文法的な変形は、少なくとも部分的に炎症に起因する、又は炎症反応を伴う任意の組織損傷を表すのに使用される。組織は、例えば肝組織又は心臓組織であってよく、組織損傷は、例えば炎症性肝疾患又は心臓疾患と関連していてよい。
【0025】
「炎症性肝疾患」なる用語はここで、根底にある原因が感染過程又は自己免疫過程か、肝臓への化学的損傷か、又はその他かに関わらず、その病因が肝臓に炎症細胞の活性と漸増を引き起こす、任意の肝疾患を表すのに使用される。よって、炎症性肝疾患は、非限定的に、アルコール性肝炎及び肝硬変、ウイルス性肝炎、肝臓の虚血再灌流傷害、敗血症、及び原発性胆汁性肝硬変(PBC)を含む。概説に関しては、Lawson等, Toxicol Sci 54:509-16 (2000)参照。
【0026】
「慢性肝疾患」なる用語はここで、Angptl3の過剰発現を特徴とする肝疾患を表すのに使用され、非限定的に、肝臓の炎症性疾患、及び肝臓癌を含む。肝臓の炎症性疾患は、例えば肝硬変、例えばアルコール性肝硬変及び原発性胆汁性肝硬変(PBC)、肝線維症、慢性肝炎、つまり慢性自己免疫性肝炎、慢性アルコール性肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH、脂肪症としても知られる)、ウイルス性肝炎A、B、C、D、E及びG型、中毒代謝性肝損傷、脂肪肝、肝臓の虚血再灌流障害、及び敗血症を含む。肝臓癌は、例えば、肝細胞癌、胆管癌、及び肝臓の転移性癌を含む。
【0027】
「急性肝疾患」なる用語はここで、その病歴が通常6か月を超えない短期間の肝疾患を表すのに使用される。この定義に含まれるのは、例えば、急性肝炎、つまり急性自己免疫性肝炎及び急性アルコール肝炎、及び急性肝不全である。厳密に言えば、この定義に含まれるのは、Angptl3の過剰発現を特徴としない短期間の任意の肝疾患である。
【0028】
「心疾患」なる用語はここで、その病因が炎症反応を含む任意の心疾患、又はその進行において炎症が危険因子である任意の心疾患を表すのに使用される。厳密に言えば、この定義に含まれるのは、Angptl3の過剰発現を特徴とする任意の心疾患である。この定義に包含される心疾患は、非限定的に、冠動脈疾患、心筋症、例えば肥大性心筋症、非特異性肥大及び拡張型心筋症、心筋炎、うっ血性心不全(CHF)、心筋梗塞等である。
【0029】
ここで使用される「アルコール性肝炎」は、過剰アルコール摂取に起因する急性及び慢性肝炎を含み、その範囲は、臨床検査結果の異常性が唯一の疾患の兆候である軽度の肝炎から、黄疸(ビリルビン滞留に起因する黄色の皮膚)、肝性脳症(肝不全に起因する神経機能障害)、腹水(腹部の体液貯留)、出血性食道静脈瘤(食道の静脈炎)、血液凝固異常及び昏睡等の合併症を伴う重度の肝機能障害にわたる。
【0030】
ここで使用される「ウイルス性肝炎」なる用語は、A、B、C、D、E及びG型肝炎感染による肝炎を表す。
【0031】
A型肝炎ウイルス(HAV)は、ピコルナウイルス科のエンテロウイルス群からのウイルスであり、一般に、突然の発熱、倦怠感、悪心、食欲不振、及び腹部不快感を特徴とする軽度の疾病を引き起こし、数日で黄疸が生じる。
【0032】
B型肝炎ウイルス(HBV)は、ヘパドナウイルス科の多くは二本鎖のDNAである。HBVは、ヒトに肝炎を引き起こし、この科の関連ウイルスは、アヒル、地リス及びウッドチャックに肝炎を引き起こす。HBVゲノムはpol、env、pre−core及びXの4つの遺伝子を有し、それらは各々、ウイルス性DNAポリメラーゼ、外膜タンパク質、プレコアタンパク質(ウイルスキャプシドへと処理される)及びプロテインXをコードする。プロテインXの機能は明らかではないが、宿主細胞遺伝子の活性化と癌の進行に関与し得る。HBVは、急性及び慢性肝炎を引き起こす。慢性感染される確率は年齢によって決まる。感染した新生児の90%及び感染した幼児の50%が慢性感染されることとなる。これに対して、HBVに感染した免疫適格性のある成体は、約5ないし10%だけが慢性B型肝炎を患う。
【0033】
C型肝炎ウイルス(HCV)は、フラビウイルス科の陽性の一本鎖RNAウイルスである。ゲノムは約10,000ヌクレオチドであり、約3,000アミノ酸の単一ポリプロテインをコードする。ポリプロテインは、宿主細胞とウイルスプロテアーゼによって、3つの主な構造タンパク質とウイルス複製に必要な複数の非構造タンパク質へと処理される。わずかに異なるゲノム配列を有する複数の異なるHCV遺伝子型が同定されており、これらは予後及び治療に対する反応における差異と相関する。HCVに急性感染した個体の約85%が慢性感染となる。故に、HCVは慢性(6か月以上続く)肝炎の主要な原因である。一旦慢性感染すると殆どの場合、治療なしでは治らない。稀に、HCV感染は臨床的に急性の疾患及びさらには肝不全を引き起こすが、急性感染は殆どの場合、臨床的に検出困難である。
【0034】
D型肝炎ウイルス(HDV、デルタウイルスとも呼ばれる)は、小さな環状RNAウイルスである。HDVは複製障害があるため、他のウイルスの存在がなければ増殖できない。ヒトでは、HDV感染はHBV感染の存在下でのみ発生する。
【0035】
E型肝炎ウイルス(HEV)は、A型肝炎疾患と臨床的に区別できない肝炎を通常引き起こす。症状は、倦怠感、食欲不振、腹痛、関節痛、及び発熱を含む。E型肝炎は伝染病及び地方病双方の形態で発生し、通常、汚染飲料水と関連している。
【0036】
G型肝炎ウイルス(HGV)は、HCVと関連しているが異なった、比較的新しく発見されたフラビウイルス属であり、急性及び慢性肝炎を引き起こし得る。
【0037】
虚血再灌流傷害は、身体の一領域への血流が一時的に止められ(虚血)、次いで復旧される(再灌流)と起こる。「虚血再灌流傷害」及び「虚血性再灌流傷害」なる用語は、殆ど同じ意味で使われ、細胞の酸素欠乏と関連する初期の損傷と、細胞に酸素が再供給されたときの炎症反応と関連する後続の損傷とを表す。虚血再灌流傷害は、特定の大動脈瘤の治療及び臓器移植といった、特定の外科的処置中に発生し得る。該傷害は、血液供給が遮断された身体部分で発生するか、又は虚血期間中に完全な血液供給がなされた部分で発生し得る。肝臓の虚血再灌流傷害は、例えば肝臓及び胆管の外科的切除によって起こることがあり、急性肝細胞損傷及び壊死を含む肝機能障害等の合併症が臨床的に認められる。
【0038】
「原発性胆汁性肝硬変(PBC)」は、肝内の小胆管の炎症性破壊を特徴とする疾患である。PBCは最終的に肝硬変を引き起こす。PBCの病因は完全にはわかっていないが、自己抗体の存在のために一般に自己免疫性疾患と考えられているが、病原菌等、他の病因も完全に除外されてはいない。PBCと診断された患者の約90%は女性で、最も多くは40から60歳の間である。
【0039】
「敗血症」は、肝臓又は胆道を含む身体の任意の部分から発生し得る細菌感染の結果である。敗血症は、特に免疫系の弱った人間においては、生死に関わる状態となることがある。
【0040】
ここで使用される「血管新生」なる用語は、新たな血管が既存の脈管構造から現れる過程を意味し、その進行には内皮細胞の増生及び運動性の双方が必要である。
【0041】
「肝硬変」なる用語はここで、線維症と併発された肝内に蔓延した小結節を解剖学的に特徴とする病的な肝臓状態を表す。肝硬変は、慢性アルコール依存症、慢性ウイルス性肝炎、代謝性及び胆道疾患と関連するものを含む殆どの種類の慢性肝疾患が共通して最後に至る状態である。
【0042】
「Angptl3ポリペプチド」「Angptl3タンパク質」及び「Angptl3」なる用語は、殆ど同じ意味で使われ、天然配列Angptl3及びAngptl3ポリペプチド変異体(ここでさらに定義する)を包含する。Angptl3ポリペプチドは様々な源から、例えばヒト組織タイプから又は他の源から単離されるか、組換え及び/又は合成法によって調製されてよい。Angptl3は以前「FLS139」「NL6」又は「CCFL1」とも称されたことに注意されたい。従って、Angptl3なる記載は何れも、FLS139、NL6及びCCFL1ポリペプチドを表すものでもある。
【0043】
「天然配列Angptl3」又は「天然Angptl3」は、天然由来のAngptl3分子と同じアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。こういった天然配列Angptl3は自然から単離できるか、組換え及び/又は合成手段によって産生できる。「天然配列Angptl3」又は「天然Angptl3」なる用語は、厳密には、天然に存在する切断又は分泌型(例えば細胞外ドメイン配列)、天然に存在する変異型(例えば選択的にスプライシングされた型)及び天然に存在するAngptl3の対立遺伝子多型を包含する。本発明の1つの実施態様で、天然配列Angptl3は、配列番号2のアミノ酸1ないし460を含む成熟又は完全長配列Angptl3である。配列番号2のヒトAngptl3ポリペプチドは、アミノ酸1位としてここで指定したメチオニン残基から始まることが示されているが、配列番号2のアミノ酸1位の上流又は下流の何れかに位置する他のメチオニン残基を、Angptl3ポリペプチドの開始アミノ酸残基として使用することも考えられ且つ可能である。また、「天然配列Angptl3」及び「天然Angptl3」なる用語は、厳密には、開始メチオニンを持たないポリペプチドを含む。
【0044】
「Angptl3変異体」又は「Angptl3変異体ポリペプチド」なる用語は、殆ど同じ意味で使われ、(a)配列番号2のAngptl3ポリペプチドの残基1ないし460又はその非ヒト哺乳類ホモログ、又は(b)配列番号2のアミノ酸配列のまた別の特異的由来断片又はその非ヒト哺乳類ホモログ、のアミノ酸配列と少なくとも約80%のアミノ酸配列同一性を有する、下記に定義する活性Angptl3ポリペプチドを意味する。こういったAngptl3変異体ポリペプチドには、例えば、配列番号2の一又は複数の内部ドメイン内のみならず一又は複数のN及び/又はC末端においても、一又は複数のアミノ酸残基が付加もしくは欠失されているAngptl3ポリペプチドが含まれる。通常、Angptl3変異体ポリペプチドは、配列番号2のAngptl3ポリペプチドの残基1ないし460又はその非ヒト哺乳類ホモログと、少なくとも約80%のアミノ酸配列同一性、あるいは少なくとも約81%のアミノ酸配列同一性、あるいは少なくとも約82%のアミノ酸配列同一性、あるいは少なくとも約83%のアミノ酸配列同一性、あるいは少なくとも約84%のアミノ酸配列同一性、あるいは少なくとも約85%のアミノ酸配列同一性、あるいは少なくとも約86%のアミノ酸配列同一性、あるいは少なくとも約87%のアミノ酸配列同一性、あるいは少なくとも約88%のアミノ酸配列同一性、あるいは少なくとも約89%のアミノ酸配列同一性、あるいは少なくとも約90%のアミノ酸配列同一性、あるいは少なくとも約91%のアミノ酸配列同一性、あるいは少なくとも約92%のアミノ酸配列同一性、あるいは少なくとも約93%のアミノ酸配列同一性、あるいは少なくとも約94%のアミノ酸配列同一性、あるいは少なくとも約95%のアミノ酸配列同一性、あるいは少なくとも約96%のアミノ酸配列同一性、あるいは少なくとも約97%のアミノ酸配列同一性、あるいは少なくとも約98%のアミノ酸配列同一性、そして、あるいは少なくとも約99%のアミノ酸配列同一性を有している。Angptl3変異体ポリペプチドは、天然Angptl3ポリペプチド配列を包含しない。通常、Angptl3変異体ポリペプチドは、少なくとも約10アミノ酸長、あるいは少なくとも約20アミノ酸長、あるいは少なくとも約30アミノ酸長、あるいは少なくとも約40アミノ酸長、あるいは少なくとも約50アミノ酸長、あるいは少なくとも約60アミノ酸長、あるいは少なくとも約70アミノ酸長、あるいは少なくとも約80アミノ酸長、あるいは少なくとも約90アミノ酸長、あるいは少なくとも約100アミノ酸長、あるいは少なくとも約150アミノ酸長、あるいは少なくとも約200アミノ酸長、あるいは少なくとも約250アミノ酸長、あるいは少なくとも約300アミノ酸長、又はそれ以上である。特に好ましいAngptl3変異体は、配列番号2の天然ヒトAngptl3配列のアミノ酸領域281ないし193、415ないし430及び442−460の少なくとも1つ、又は非ヒト哺乳類Angptl3ホモログの対応領域を保持するか、又はそういった領域内に保守的なアミノ酸置換だけを含む。
【0045】
「フィブリノゲンドメイン」又は「フィブリノゲン様ドメイン」なる用語は、Angptl3のアミノ酸配列(配列番号2)における約238位から約460位のアミノ酸配列を表すのに使用される。
【0046】
ここで同定されるAngptl3ポリペプチド配列に対する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、配列を整列させ、最大のパーセント配列同一性を得るために必要ならば間隙を導入した後の、そしていかなる保守的置換も配列同一性の一部と考えないとした、Angptl3配列のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセントとして定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決定する目的のためのアラインメントは、当業者の技量の範囲にある種々の方法、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN、ALIGN-2又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアのような公に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用することにより達成可能である。当業者であれば、比較される配列の完全長にわたる最大アラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。しかし、ここでの目的のためには、アミノ酸配列同一性%値は、ALIGN-2プログラム用の完全なソースコードが図4A-Qに提供されている配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を使用することによって、後述するように得られる。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムはジェネンテック・インコーポレーテッドによって作成され、図4A-Qに示したソースコードは米国著作権事務所, ワシントンD.C., 20559にユーザー向け文書とともに提出済みで、米国著作権登録番号TXU510087で登録されている。ALIGN-2プログラムはジェネンテック・インコーポレーテッド, サウス サン フランシスコ, カリフォルニアから公的に入手可能であり、図4A-Qに提供されたソースコードからコンパイルしてもよい。ALIGN-2プログラムは、UNIX(登録商標)オペレーティングシステム、好ましくはデジタルUNIX(登録商標)V4.0Dでの使用のためにコンパイルされるべきである。全ての配列比較パラメータは、ALIGN-2プログラムによって設定され変動しない。
【0047】
ここでの目的のためには、与えられたアミノ酸配列Aの、与えられたアミノ酸配列Bとの、又はそれに対する%アミノ酸配列同一性(あるいは、与えられたアミノ酸配列Bと、又はそれに対してある程度の%アミノ酸配列同一性を持つ又は含む与えられたアミノ酸配列Aと言うこともできる)は次のように計算される:
分率X/Yの100倍
ここで、Xは配列アラインメントプログラムALIGN-2によって、該アラインメントのA及びBで同一であるとスコアされたアミノ酸残基の数であり、YはBの全アミノ酸残基数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと異なる場合、AのBに対する%アミノ酸配列同一性は、BのAに対する%アミノ酸配列同一性とは異なることが理解されるであろう。
【0048】
特に明記しない限り、ここでの全ての%アミノ酸配列同一性値は、ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムを用いて上記のようにして得られる。しかし、%アミノ酸配列同一性値は、また、配列比較プログラムNCBI-BLAST2(Altschul等, Nucleic Acids Res. 25:3389-3402 (1997))を用いて決定してもよい。NCBI-BLAST2配列比較プログラムは、http://www.ncbi.nlm.nih.gov.からダウンロードできる。NCBI-BLAST2はいくつかの検索パラメータを使用し、それら検索パラメータの全ては初期値に設定され、該初期値は、例えば、unmask=可、鎖=全て、予測される発生=10、最小低複合長=15/5、マルチパスe値=0.01、マルチパスの定数=25、最終ギャップアラインメントのドロップオフ=25、及びスコアリングマトリクス=BLOSUM62である。
【0049】
アミノ酸配列比較にNCBI-BLAST2が用いられる状況では、与えられたアミノ酸配列Aの、与えられたアミノ酸配列Bとの、又はそれに対する%アミノ酸配列同一性(あるいは、与えられたアミノ酸配列Bと、又はそれに対してある程度の%アミノ酸配列同一性を持つ又は含む与えられたアミノ酸配列Aと言うこともできる)は次のように計算される:
分率X/Yの100倍
ここで、Xは配列アラインメントプログラムNCBI-BLAST2によって、該アラインメントのA及びBで同一であるとスコアされたアミノ酸残基の数であり、YはBの全アミノ酸残基数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと異なる場合、AのBに対する%アミノ酸配列同一性は、BのAに対する%アミノ酸配列同一性とは異なることが理解されるであろう。
【0050】
「Angptl3変異体核酸配列」とは、下記に定義する活性Angptl3ポリペプチドをコードする核酸分子であり、且つ(a)配列番号2のAngptl3アミノ酸配列の残基1ないし460又はその非ヒト哺乳類ホモログをコードする核酸配列、又は(b)配列番号2のアミノ酸配列のまた別の特異的由来断片又はその非ヒト哺乳類ホモログをコードする核酸配列、のいずれかと少なくとも約80%の核酸配列同一性を有する核酸分子を意味する。通常、Angptl3変異体ポリヌクレオチドは、配列番号2の残基1ないし460又はそういったヒトポリペプチドの非ヒト哺乳類ホモログをコードする核酸配列と、少なくとも約80%の核酸配列同一性、あるいは少なくとも約81%の核酸配列同一性、あるいは少なくとも約82%の核酸配列同一性、あるいは少なくとも約83%の核酸配列同一性、あるいは少なくとも約84%の核酸配列同一性、あるいは少なくとも約85%の核酸配列同一性、あるいは少なくとも約86%の核酸配列同一性、あるいは少なくとも約87%の核酸配列同一性、あるいは少なくとも約88%の核酸配列同一性、あるいは少なくとも約89%の核酸配列同一性、あるいは少なくとも約90%の核酸配列同一性、あるいは少なくとも約91%の核酸配列同一性、あるいは少なくとも約92%の核酸配列同一性、あるいは少なくとも約93%の核酸配列同一性、あるいは少なくとも約94%の核酸配列同一性、あるいは少なくとも約95%の核酸配列同一性、あるいは少なくとも約96%の核酸配列同一性、あるいは少なくとも約97%の核酸配列同一性、あるいは少なくとも約98%の核酸配列同一性、そして、あるいは少なくとも約99%の核酸配列同一性を有している。
【0051】
通常、Angptl3変異体核酸配列は、少なくとも約30ヌクレオチド長、あるいは少なくとも約60ヌクレオチド長、あるいは少なくとも約90ヌクレオチド長、あるいは少なくとも約120ヌクレオチド長、あるいは少なくとも約150ヌクレオチド長、あるいは少なくとも約180ヌクレオチド長、あるいは少なくとも約210ヌクレオチド長、あるいは少なくとも約240ヌクレオチド長、あるいは少なくとも約270ヌクレオチド長、あるいは少なくとも約300ヌクレオチド長、あるいは少なくとも約450ヌクレオチド長、あるいは少なくとも約600ヌクレオチド長、あるいは少なくとも約900ヌクレオチド長、又はそれ以上である。
【0052】
ここで同定されるAngptl3ポリペプチドをコードする核酸配列に対する「パーセント(%)核酸配列同一性」は、配列を整列させ、最大のパーセント配列同一性を得るために必要ならば間隙を導入した後の、Angptl3ポリペプチドコード化核酸配列のヌクレオチドと同一である候補配列中のヌクレオチドのパーセントとして定義される。パーセント核酸配列同一性を決定する目的のためのアラインメントは、当業者の技量の範囲にある種々の方法、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN、ALIGN-2又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアのような公に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用することにより達成可能である。当業者であれば、比較される配列の完全長にわたる最大アラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。しかし、ここでの目的のためには、%核酸配列同一性値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を使用することによって、後述するように得られる。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムはジェネンテック・インコーポレーテッドによって作成され、ソースコードは米国著作権事務所, ワシントンD.C., 20559にユーザー向け文書とともに提出済みで、米国著作権登録番号TXU510087で登録されている。ALIGN-2プログラムはジェネンテック・インコーポレーテッド, サウス サン フランシスコ, カリフォルニアから公的に入手可能である。ALIGN-2プログラムは、UNIX(登録商標)オペレーティングシステム、好ましくはデジタルUNIX(登録商標) V4.0Dでの使用のためにコンパイルされるべきである。全ての配列比較パラメータは、ALIGN-2プログラムによって設定され変動しない。
【0053】
ここでの目的のためには、与えられた核酸配列Cの、与えられた核酸配列Dとの、又はそれに対する%核酸配列同一性(あるいは、与えられた核酸配列Dと、又はそれに対してある程度の%核酸配列同一性を持つ又は含む与えられた核酸配列Cと言うこともできる)は次のように計算される:
分率W/Zの100倍
ここで、Wは配列アラインメントプログラムALIGN-2によって、該アラインメントのC及びDで同一であるとスコアされたヌクレオチドの数であり、ZはDの全ヌクレオチド数である。核酸配列Cの長さが核酸配列Dの長さと異なる場合、CのDに対する%核酸配列同一性は、DのCに対する%核酸配列同一性とは異なることが理解されるであろう。
【0054】
特に明記しない限り、ここでの全ての%核酸配列同一性値は、ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムを用いて上記のようにして得られる。しかし、%核酸配列同一性値は、また、配列比較プログラムNCBI-BLAST2(Altschul等, Nucleic Acids Res. 25:3389-3402 (1997))を用いて決定してもよい。NCBI-BLAST2配列比較プログラムは、http://www.ncbi.nlm.nih.gov.からダウンロードできる。NCBI-BLAST2はいくつかの検索パラメータを使用し、それら検索パラメータの全ては初期値に設定され、該初期値は、例えば、unmask=可、鎖=全て、予測される発生=10、最小低複合長=15/5、マルチパスe値=0.01、マルチパスの定数=25、最終ギャップアラインメントのドロップオフ=25、及びスコアリングマトリクス=BLOSUM62である。
【0055】
核酸配列比較にNCBI-BLAST2が用いられる状況では、与えられた核酸配列Cの、与えられた核酸配列Dとの、又はそれに対する%核酸配列同一性(あるいは、与えられた核酸配列Dと、又はそれに対してある程度の%核酸配列同一性を持つ又は含む与えられた核酸配列Cと言うこともできる)は次のように計算される:
分率W/Zの100倍
ここで、Wは配列アラインメントプログラムNCBI-BLAST2によって、該アラインメントのC及びDで同一であるとスコアされたヌクレオチドの数であり、ZはDの全ヌクレオチド数である。核酸配列Cの長さが核酸配列Dの長さと異なる場合、CのDに対する%核酸配列同一性は、DのCに対する%核酸配列同一性とは異なることが理解されるであろう。
【0056】
他の実施態様で、Angptl3変異体ポリヌクレオチドは、活性Angptl3ポリペプチドをコードする核酸分子であり、該核酸分子は、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション及び洗浄条件下で配列番号2の完全長Angptl3ポリペプチドをコードする核酸配列にハイブリダイゼーション可能である。Angptl3変異体ポリペプチドは、Angptl3変異体ポリヌクレオチドによってコードされるものであってもよい。
【0057】
上記のように実施されたアミノ酸配列同一性比較における「ポジティブ(陽性)」なる用語は、比較された配列において同一であるアミノ酸残基だけでなく、類似の特性を有している残基も含む。対象のアミノ酸残基に対してポジティブ値をスコアするアミノ酸残基は、対象のアミノ酸残基と同一であるか又は対象のアミノ酸残基の好適な置換であるものである。
【0058】
ここでの目的のためには、与えられたアミノ酸配列Aの、与えられたアミノ酸配列Bとの、又はそれに対するポジティブの%値(あるいは、与えられたアミノ酸配列Bと、又はそれに対してある程度の%ポジティブを持つ又は含む与えられたアミノ酸配列Aと言うこともできる)は次のように計算される:
分率X/Yの100倍
ここで、Xは配列アラインメントプログラムALIGN-2によって、該アラインメントのA及びBで上述されたようなポジティブ値をスコアするアミノ酸残基の数であり、YはBの全アミノ酸残基数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと異なる場合、AのBに対する%ポジティブは、BのAに対する%ポジティブとは異なることが理解されるであろう。
【0059】
「抗体」なる用語は最も広義に使用され、特に、例えば、単一の抗Angptl3モノクローナル抗体(アゴニスト、アンタゴニスト、及び中和抗体を含む)、多エピトープ特異性を持つ抗Angptl3抗体組成物、一本鎖抗Angptl3抗体、及び抗Angptl3抗体断片(下記参照)を包含する。ここで使用される「モノクローナル抗体」なる用語は、実質的に均一な抗体の集団、すなわち、集団を構成する個々の抗体が、少量だけ存在することのある自然に存在し得る突然変異以外は同一である集団、から得られた抗体を表す。
【0060】
ここで使用される「モノクローナル抗体」なる用語は、実質的に均一な抗体の集団、すなわち、集団を構成する個々の抗体が、少量だけ存在することのある自然に存在し得る突然変異以外は同一である集団、から得られた抗体を表す。
【0061】
「抗体断片」は、無傷な抗体の一部を含み、好ましくは該無傷な抗体の抗原結合又は可変領域を含む。抗体断片の例には、Fab、Fab'、F(ab')、及びFv断片;ダイアボディ(diabodies);線状抗体(Zapata等, Protein Eng., 8(10):1057-1062 (1995));一本鎖抗体分子;及び抗体断片から形成された多重特異性抗体が含まれる。
【0062】
抗体のパパイン消化は、「Fab」断片と呼ばれる、各々が単一の抗原結合部位を持つ2つの同一の抗原結合断片と、容易に結晶化する能力を表す名称を持つ残りの「Fc」断片とを産生する。ペプシン処理により、2つの抗原結合部位を持ち、さらに抗原を架橋することができるF(ab')断片が生じる。
【0063】
「Fv」は、完全な抗原認識及び結合部位を含む最小の抗体断片である。この領域は、密接に非共有結合した1つの重鎖及び1つの軽鎖可変ドメインの二量体からなる。各可変ドメインの3つCDRが相互作用してV-V二量体の表面に抗原結合部位を決定するのは、この構造においてである。合わせて6つのCDRが抗体に対する抗原結合特異性をもたらす。しかしながら、単一の可変ドメイン(又は抗原に対して特異的な3つのCDRのみを含むFvの半分)でさえ、結合部位全体より低い親和性で、ではあるが、抗原を認識し結合する能力を持つ。
【0064】
またFab断片は、軽鎖の定常ドメイン及び重鎖の第一の定常ドメイン(CH1)も含む。Fab断片は、抗体ヒンジ領域からの一又は複数のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端にいくつかの残基が付加されている点でFab'断片と相違する。Fab'-SHはここで、定常ドメインのシステイン残基が遊離のチオール基を持つFab'を表す。F(ab')抗体断片は、最初は、間にヒンジシステインを有するFab'断片の対として産生された。抗体断片の他の化学的結合も知られている。
【0065】
任意の脊椎動物種由来の抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖」は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2つの明らかに異なる型の一方に分類される。
【0066】
それらの重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列によって、免疫グロブリンは異なるクラスに分類できる。免疫グロブリンの5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMがあり、それらのいくつかはさらにサブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA及びIgA2に分類される。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインはそれぞれ、α,δ,ε,γ及びμと呼ばれている。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造と三次元構造はよく知られている。
【0067】
「ダイアボディ」なる用語は、2つの抗原結合部位を持つ小型の抗体断片を表し、その断片は同じポリペプチド鎖(V-V)内で軽鎖可変ドメイン(V)に結合した重鎖可変ドメイン(V)を含む。同じ鎖で2つのドメインを対形成するには短すぎるリンカーを用いることにより、ドメインは強制的に他の鎖の相補的ドメインと対形成して2つの抗原結合部位を生成する。ダイアボディは、例えばEP404097;WO93/11161;及びHollinger等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)で、より詳述されている。
【0068】
「単離された」抗体は、同定され、そして、その自然環境の成分から分離及び/又は回収されたものである。その自然環境の汚染成分とは、その抗体の診断又は治療的使用を妨害する物質であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質様又は非タンパク質様溶質が含まれる。好ましい実施態様において、抗体は、(1)ローリー法で測定した場合95重量%を越えるまで、最も好ましくは99重量%を越えるまで、(2)スピニングカップシークエネーターを使用することにより、少なくとも15残基のN末端あるいは内部アミノ酸配列を得るのに充分なほど、あるいは(3)クマシーブルー又は好ましくは銀染色を用いた非還元又は還元条件下においてSDS−PAGEで均一となるまで精製される。単離された抗体には、抗体の自然環境の少なくとも1つの成分が存在しないため、組換え細胞内のインサイツの抗体が含まれる。しかしながら通常は、単離された抗体は少なくとも1つの精製工程により調製される。
【0069】
「可変」という用語は、可変ドメインのある部分が、抗体間で配列が広範囲に異なっており、その特定の抗原に対する各特定の抗体の結合性と特異性に使用されていることを意味する。しかしながら、可変性は抗体の可変ドメインにわたって一様には分布していない。それは、軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメイン両方の高頻度可変領域又は相補性決定領域(CDR)と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変ドメインの、より高度に保存された部分はフレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然の重鎖及び軽鎖の各可変ドメインは、大部分がβシート構造を取り入れ、3つのCDRにより連結された4つのFR領域を有しており、それらCDRはβシート構造を連結するループを形成するか、場合によってはβシート構造の一部を形成する。各鎖のCDRはFR領域によって互いに近接して保持されており、別の鎖のCDRとともに抗体の抗原結合部位の形成に寄与している(Kabat等, NIH Publ. No. 91-3242, Vol. I, 647-669ページ (1991))。定常ドメインは抗原への抗体の結合に直接関与しないが、抗体依存性の細胞毒性への抗体の関与等、様々なエフェクター機能を示す。
【0070】
ここで使用される場合「高頻度可変領域」なる用語は、抗原結合性を生じる抗体のアミノ酸残基を意味する。高頻度可変領域は「相補性決定領域」又は「CDR」からのアミノ酸残基(すなわち、軽鎖可変ドメインの残基24−34 (L1)、50−56 (L2)及び89−97 (L3)と、重鎖可変ドメインの残基31−35 (H1)、50−65 (H2)及び95−102 (H3);Kabat等, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 第5版, Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991))及び/又は「高頻度可変ループ」からの残基(すなわち、軽鎖可変ドメインの残基26−32 (L1)、50−52 (L2)及び91−96 (L3)と、重鎖可変ドメインの残基26−32 (H1)、53−55 (H2)及び96−101 (H3);Clothia及びLesk, J.Mol.Biol. 196:901-917 (1987))を含んでなる。「フレームワーク」又は「FR」残基はここで定義した高頻度可変領域残基以外の可変ドメイン残基である。
【0071】
非ヒト(例えばマウス)抗体の「ヒト化」型とは、キメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、あるいはそれらの断片(例えばFv、Fab、Fab'、F(ab')あるいは抗体の他の抗原結合サブ配列)であって、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含むものである。通例、ヒト化抗体は、レシピエントのCDRからの残基が、マウス、ラット又はウサギのような所望の特異性、親和性及び能力を有する非ヒト種(ドナー抗体)のCDRからの残基によって置換されているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。ある場合には、ヒト免疫グロブリンのFvFR残基は、対応する非ヒト残基によって置換されている。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも、移入されたCDRもしくはフレームワーク配列にも見出されない残基を含んでもよい。これらの修飾は抗体能力をさらに洗練し、最適化するために行われる。一般に、ヒト化抗体は、全てあるいは殆ど全てのCDR領域が非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、全てあるいは殆ど全てのFR領域がヒト免疫グロブリン配列のものである、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含む。ヒト化抗体は最適には、また、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒトの免疫グロブリンのものの少なくとも一部も含む。さらなる詳細については、Jones等, Nature 321, 522-525 (1986);Reichmann等, Nature 332, 323-329 (1988);及びPresta, Curr. Op. Struct. Biol., 2:593-596 (1992)を参照のこと。ヒト化抗体には、抗体の抗原結合領域が、カニクイザルを対象の抗原で免疫化して産生された抗体由来である、PRIMATIZEDTM抗体が含まれる。
【0072】
ここで用いられる「イムノアドヘシン」なる用語は、異種タンパク質(「アドヘシン」)の結合特異性と免疫グロブリン定常ドメインのエフェクター機能とを結合する抗体様分子を指す。構造的には、イムノアドヘシンは抗体の抗原認識及び結合部位以外(即ち「異種」)の所望の結合特異性を持つアミノ酸配列と免疫グロブリン定常ドメイン配列との融合物である。イムノアドヘシン分子のアドへシン部分は、典型的にはレセプター又はリガンドの結合部位を少なくとも含む隣接アミノ酸配列である。イムノアドヘシンの免疫グロブリン定常ドメイン配列は、IgG-1、IgG-2、IgG-3、又はIgG-4サブタイプ、IgA(IgA-1及びIgA-2を含む)、IgE、IgD又はIgM等の任意の免疫グロブリンから得ることができる。
【0073】
ハイブリダイゼーション反応の「ストリンジェンシー」は、当業者によって容易に決定され、一般的にプローブ長、洗浄温度、及び塩濃度に依存する経験的な計算である。一般に、プローブが長いと適切なアニーリングに必要な温度が高くなり、プローブが短いとそれに必要な温度は低くなる。ハイブリダイゼーションは、一般的に、相補鎖がその融点より低い環境に存在する場合に、変性DNAの再アニールする能力に依存する。プローブとハイブリダイゼーション配列の間で所望されるホモロジーの程度が高くなればなるほど、用いることができる相対温度が高くなる。その結果、より高い相対温度は、反応条件をよりストリンジェントにすることになり、低い温度はストリンジェンシーを低下させることになる。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーのさらなる詳細及び説明については、Ausubel等, Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Interscience Publishers, (1995)を参照のこと。
【0074】
ここで定義される「ストリンジェントな条件」又は「高度のストリンジェンシー条件」は:(1)洗浄のために低イオン強度及び高温度を用いるもの、例えば、50℃において0.015Mの塩化ナトリウム/0.0015Mのクエン酸ナトリウム/0.1%のドデシル硫酸ナトリウムを用いるもの;(2)ハイブリダイゼーション中にホルムアミド等の変性剤を用いるもの、例えば、42℃において50%(v/v)ホルムアミドと0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%フィコール/0.1%のポリビニルピロリドン/50mMのpH6.5のリン酸ナトリウムバッファー、及び750mMの塩化ナトリウム、75mMのクエン酸ナトリウムを用いるもの;又は(3)42℃における50%ホルムアミド、5×SSC(0.75MのNaCl、0.075Mのクエン酸ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH6.8)、0.1%のピロリン酸ナトリウム、5×デンハード液、超音波処理サケ精子DNA(50μg/ml)、0.1%SDS、及び10%のデキストラン硫酸と、42℃における0.2×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)中の洗浄及び55℃での50%ホルムアミド、次いで55℃におけるEDTAを含む0.1×SSCからなる高ストリンジェンシー洗浄を用いるもの、によって同定される。
【0075】
「中程度のストリンジェント条件」は、Sambrook等, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, New York: Cold Spring Harbor Press, 1989に記載されているように同定され、上記の条件よりストリンジェンシーの低い洗浄溶液及びハイブリダイゼーション条件(例えば、温度、イオン強度及び%SDS)の使用を含む。中程度のストリンジェント条件は、20%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハード液、10%デキストラン硫酸、及び20mg/mLの変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中の37℃での終夜インキュベーション、次いで1×SSC中37−50℃でのフィルターの洗浄といった条件である。当業者であれば、プローブ長等の因子に適合させる必要に応じて、どのようにして温度、イオン強度等を調節するか、わかるであろう。
【0076】
ここで用いられる「エピトープタグ」なる用語は、「タグポリペプチド」と融合したAngptl3ポリペプチドを含んでなるキメラポリペプチドを意味する。タグポリペプチドは、その抗体が産生され得るエピトープを提供するに十分な残基を有しているが、その長さは融合されたポリペプチドの活性を阻害しないように十分に短いものである。タグポリペプチドは、好ましくは、抗体が他のエピトープと実質的に交差反応をしないようにかなり独特である。好適なタグポリペプチドは、一般に、少なくとも6のアミノ酸残基、通常は約8ないし50のアミノ酸残基(好ましくは約10ないし20のアミノ酸残基)を有する。
【0077】
Angptl3分子に関する「生物学的活性」及び「生物学的に活性な」なる語はここで、天然αvβ3インテグリンレセプターを介した細胞反応、例えば血管内皮細胞の接着及び/又は転位を調節する及びそれらに特異的に結合する分子能力を示す。この文脈において、「調節」なる語は促進及び阻害の両方を含み、よって、本発明の(天然及び変異)Angptl3分子は天然αvβ3インテグリンレセプターのアゴニスト及びアンタゴニストを含む。Angptl3リガンドの好適な生物学的活性はここで、脈管化(血管新生)の促進及び阻害を含み、そして特に、肝再生中の血管新生過程への関与を含む。
【0078】
「アゴニスト」なる語は、本発明の天然Angptl3分子のペプチド及び非ペプチドアナログを示し、そして、それらが天然Angptl3レセプター(αvβ3)を介したシグナリング能力を持つ場合はそういった天然Angptl3分子に特異的に結合する抗体を示す。換言すると、「アゴニスト」なる語は、Angptl3レセプター(αvβ3)の生物学的役割との関連で定義される。好適なアゴニストは、上述したように、例えば肝再生中の脈管化(血管新生)の促進といった天然Angptl3の好適な生物学的活性を持つ。
【0079】
「アンタゴニスト」なる語は、本発明の天然Angptl3分子のペプチド及び非ペプチドアナログを示し、そして、Angptl3又はそのレセプター、αvβ3への結合能力があるなしに関わらず、それらがAngptl3の生物学的機能を阻害する能力を持つ場合は、抗体を示す。従って、Angptl3又はそのレセプターに結合する能力を持つアンタゴニストは抗Angptl3及び抗αvβ3抗体を含む。好適なアンタゴニストは、血管内皮細胞の接着及び/又は転位のインヒビター、特に、血管新生、特に悪性腫瘍増殖、肝臓の炎症性疾患又は心疾患に関連した血管新生のインヒビターである。
【0080】
ここで使用される「腫瘍」は、悪性又は良性に関わらず、全ての新生細胞の増殖及び増生を示し、全ての前癌性及び癌性の細胞及び組織を示す。
【0081】
「癌」及び「癌性」なる語は、典型的には調節されない細胞増殖を特徴とする、哺乳類における生理学的状態を指す。癌の例には、これらに限定されるものではないが、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、及び白血病が含まれる。癌のより特定した例としては、乳癌、前立腺癌、結腸癌、扁平上皮細胞癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、胃腸癌、膵臓癌、神経膠芽細胞腫、子宮頸管癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、肝細胞腫、結腸直腸癌、子宮内膜癌、唾液腺癌、腎臓癌、産卵口癌、甲状腺癌、肝癌、及び様々な種類の頭部及び頸部の癌が挙げられる。
【0082】
ここで使用される「治療」とは、治療的処置、予防的療法及び防止的療法の両方を意味し、標的とする病的状態又は疾患の防止又は遅延(減少)を目的とする。治療が必要なものとは、既に疾患に罹っているもの、並びに疾患に罹りやすいもの又は疾患が防止されるべきものを含む。腫瘍(例えば癌)治療において治療薬剤とは、腫瘍細胞の病変を直接減少するものであってもよいし、又は腫瘍細胞を、他の治療薬剤、例えば放射線療法及び/又は化学療法による治療の影響を受けやすくするものであってよい。
【0083】
癌の「病変」とは、患者の健康を危うくする全ての現象を含む。これには、限定されるものではないが、異常又は制御不可能な細胞増殖、転移、隣接細胞の正常な機能の阻害、異常なレベルでのサイトカイン又は他の分泌産物の放出、炎症反応又は免疫学的反応の抑制又は悪化等が含まれる。
【0084】
「慢性」投与とは、緊急モードに対し、初期の治療効果(活性)を長期間に亘って維持するために、連続モードで薬剤を投与することを示す。「間欠」投与とは、中断なく連続的になされるのではなく、むしろ本質的に周期的になされる治療である。
【0085】
治療のための「哺乳類」とは、哺乳類に分類される任意の動物を意味し、ヒト、家畜用及び農場用動物、及び、動物園の、スポーツの又はペット用の動物、例えばイヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウサギ等を含む。好ましくは、哺乳類はヒトである。
【0086】
一又は複数のさらなる治療薬剤「と組合わせて」なされる投与には、同時(即時)投与及び任意の順序での連続投与が含まれる。
【0087】
ここで用いられる「担体」は、製薬的に許容され得る担体、賦形剤、又は安定化剤を含み、用いられる用量及び濃度でそれらに暴露される細胞又は哺乳類に対して非毒性である。生理学的に許容され得る担体は、水性pH緩衝溶液であることが多い。生理学的に許容され得る担体の例は、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸塩等のバッファー;アスコルビン酸を含む酸化防止剤;低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリン;疎水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン又はリシン;グルコース、マンノース又はデキストランを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;マンニトール又はソルビトール等の糖アルコール;ナトリウム等の塩形成対イオン;及び/又は非イオン性界面活性剤、例えばTWEENTM、ポリエチレングリコール(PEG)、及びPLURONICSTMを含む。
【0088】
「リポソーム」は、哺乳類への薬物(例えばPRO10282ポリペプチド、又はそれに対する抗体)の輸送に有用な、種々のタイプの脂質、リン脂質及び/又は界面活性剤を含んでなる小胞体である。リポソームの成分は、通常は生体膜の脂質配向に類似した二層構造に配列される。
【0089】
「小分子」とは、ここで約500ダルトン未満の分子量を有するものと定義される。
【0090】
ここで定義されたAngptl3ポリペプチドの「有効量」とは、所望の生物学的反応を引き起こすことが可能な量である。特にAngptl3ポリペプチド又はそのアゴニストの「有効量」は好ましくは、αvβ3Angptl3レセプターを介した細胞反応、例えば、内皮細胞、例えば血管内皮細胞の接着及び/又は転位、を調節することができる量である。この用語は、血管新生、特に肝再生に関連した血管新生を引き起こすことができる量を含む。
【0091】
「治療的有効量」は、腫瘍の治療に関して、例えば天然Angptl3ポリペプチドのアンタゴニストが使用される場合、一又は複数の次の効果:(1)遅延化及び完全な増殖停止を含む、腫瘍増殖のある程度の阻害;(2)腫瘍細胞数の減少;(3)腫瘍サイズの縮小;(4)末梢器官への腫瘍細胞の浸潤の阻害(即ち、減少、遅延化又は完全な停止);(5)転移の阻害(即ち、減少、遅延化又は完全な停止);(6)抗腫瘍免疫反応の促進、これは、腫瘍の退行又は拒絶をもたらしてもよいが、必ずしも必要ではない;及び/又は(7)疾患に伴う一又は複数の徴候のある程度の軽減、を誘起することのできる量を意味する。腫瘍の治療を目的とした、Angptl3ポリペプチドのアンタゴニストの「治療的有効量」は、経験的に、そして常套手段によって決定することができる。
【0092】
「血管内皮増殖因子」又は「VEGF」は、低酸素状態によって刺激され腫瘍血管新生に必要とされることが示された、内皮細胞特異的マイトジェンである(Senger等, Cancer 46:5629-5632 (1986);Kim等, Nature 362:841-844 (1993);Schweiki等, Nature 359:843-845 (1992);Plate等, Nature 359:845-848 (1992))。ここで使用されるこの用語は、全てのVEGFイソ型を含み、限定するものではないが、ヒトVEGF121とVEGF165イソ型を含む。
【0093】
B.ヒトAngptl3の非ヒト哺乳類ホモログ
天然ヒトAngptl3の単離は、実施例1とPCT公報WO99/15654に記載されている。Angptl3 DNAは、1997年9月18日に、称号FLS139-DNA16451-1078でAmerican Type Culture Collection (ATCC)に寄託されており、ATCC寄託番号209283が付与されている。
【0094】
他を同定するために、非ヒト哺乳類ホモログ、又はスプライス又は他の天然発生変異体、のライブラリーは、対象の遺伝子又はそれによってコードされたタンパク質を同定するために設計されたプローブ(例えばヒトAngptl3配列又は少なくとも約20−80塩基のオリゴヌクレオチド)でスクリーニングできる。選択されたプローブによるcDNA又はゲノムライブラリーのスクリーニングは、Sambrook等, Molecular Cloning: A Laboratory Manual (New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)に記載の標準的な手順で行われてよい。他の天然Angptl3ポリペプチドをコードする遺伝子を単離する他の方法は、PCR法を使用するものである(Sambrook等, 上掲;Dieffenbach等, PCR Primer: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1995))。
【0095】
プローブとして選択されたオリゴヌクレオチド配列は、十分な長さで、疑陽性が最小化されるよう十分に明瞭でなければならない。オリゴヌクレオチドは、スクリーニングされるライブラリー内のDNAとのハイブリダイゼーション時に検出可能であるように標識されていることが好ましい。標識化の方法は当該分野においてよく知られており、32P標識されたATPのような放射線標識、ビオチン化あるいは酵素標識の使用が含まれる。中程度のストリンジェンシー及び高度のストリンジェンシーを含むハイブリダイゼーション条件は、Sambrook等, 上掲に示されている。
【0096】
このようなライブラリースクリーニング法において同定された配列は、GenBank等の公共データベース又は個人の配列データベースに寄託され利用可能な周知の配列と比較及びアラインメントすることができる。分子の決定された領域内又は完全長にわたっての(アミノ酸又はヌクレオチドレベルのいずれかでの)配列同一性は、当該分野で知られた、及びここに記載した方法を用いて決定することができる。
【0097】
タンパク質コード配列を有する核酸は、初めてここで開示された推定アミノ酸配列を使用し、また必要ならば、cDNAに逆転写されていないmRNAのプロセシング中間体及び先駆物質を検出するSambrook等, 上掲に記述されているような従来のプライマー伸展法を使用して、選択されたcDNA又はゲノムライブラリーをスクリーニングすることによって得られる。
【0098】
C.Angptl3変異体
天然ヒトAngptl3は当該分野で知られており、例えば1999年4月1日発行のPCT公報WO99/15654に開示されている。天然完全長配列Angptl3(配列番号2)又はここに記載したAngptl3アミノ酸配列の種々のドメインにおける変異は、例えば、米国特許第5,364,934号等に記載されている保存的及び非保存的変異についての任意の技術及び指針を用いてなすことができる。変異は、結果として配列番号2の天然配列と比較してAngptl3のアミノ酸配列が変化するAngptl3ポリペプチドをコードする1つ又は複数のコドンの置換、欠失又は挿入であってよい。場合によっては、変異は、少なくとも1つのアミノ酸の、天然又は変異Angptl3配列の1つ又は複数のドメインにおける任意の他のアミノ酸との置換による。いずれのアミノ酸残基が所望の活性に悪影響を与えることなく挿入、置換又は欠失されるかの指針は、Angptl3の配列を、相同の知られたタンパク質分子の配列と比較し、ホモロジーの高い領域内でなされるアミノ酸配列変化数を最小にすることによって見出される。アミノ酸置換は、1つのアミノ酸の、類似した構造及び/又は化学特性を持つ他のアミノ酸での置換、例えばロイシンのセリンでの置換、即ち保存的アミノ酸置換の結果とすることができる。挿入又は欠失は、場合によっては1から5のアミノ酸の範囲内とすることができる。許容される変異は、配列においてアミノ酸の挿入、欠失又は置換を系統的に行い、得られた変異体を、完全長の又は成熟した天然配列によって示される活性について試験することにより決定される。
【0099】
このようにしてAngptl3ポリペプチド断片がここに提供される。このような断片は、N末端又はC末端で切断されてもよく、又は、例えば完全長天然タンパク質と比較した際に、内部残基を欠いていてもよい。ある種の断片は、Angptl3ポリペプチドの所望の生物学的活性に必須ではないアミノ酸残基を欠いている。
【0100】
配列番号2の天然ヒトAngptl3のフィブリノゲンドメインのホモロジーモデリングと、実施例5に記載されたような、Angptl3による内皮細胞結合に関与するドメインの機能分析とが、ここでのAngptl3変異体の設計に役立つ。Angptl3のフィブリノゲン様ドメインのモデル化構造に基づき、領域P1:アミノ酸281−293 (配列番号14);P2:アミノ酸442−460 (配列番号15);及びP3:天然ヒトAngptl3 (配列番号2)のアミノ酸415−430 (配列番号17)が、αvβ3結合に関与することがわかった。レセプター結合と、活性化能力及びレセプターを介したシグナリング能力を保持するために、P1、P2及びP3領域は、十分に保持されるべきであり、これらの領域では保存的置換のみが行われるべきである。一方、Angptl3アンタゴニストを設計するためには、1つ又は複数のこれらの領域内でより多くのアミノ酸変化を作製する必要があり得る。Angptl3変異体の設計は、図5Bに示したリボンダイヤグラム、及び図5Cに示した配列アラインメントによってさらに支援され、ここで親水及び荷電残基は青色で示され、芳香族/疎水残基はオレンジ色で示されている。
【0101】
上述したように、特定の実施態様では、保存的置換が、本発明のAngptl3変異体を作製するのに重要である。このような保存的置換を、表1に好ましい置換として示す。このような置換が生物学的活性の変化をもたらす場合、表1で例示的置換と称されている又は以下にアミノ酸分類に関してさらに記載される、より多くの変化が導入され、生成物がスクリーニングされる。

【0102】
Angptl3変異体ポリペプチドの機能及び免疫学的同一性の実質的な修飾は、(a)置換領域のポリペプチド骨格の構造、例えばシート又は螺旋構造、(b)標的部位における分子の疎水性又は電荷、又は(c)側鎖の嵩、の維持に対する影響が実質的に異なる置換を選択することによって達成される。天然発生残基は共通の側鎖特性に基づいて群に分けられる:
(1)疎水性:ノルロイシン, met, ala, val, leu, ile;
(2)中性の親水性:cys, ser, thr;
(3)酸性:asp, glu;
(4)塩基性:asn, gln, his, lys, arg;
(5)鎖配向に影響する残基:gly, pro;及び
(6)芳香族:trp, tyr, phe
【0103】
非保存的置換は、これらのクラスのうち1つのクラスのメンバーを他のクラスに交換することを伴うものである。また、そのように置換された残基は、保存的置換部位、好ましくは残された(非保存)部位に導入されうる。
【0104】
変異は、オリゴヌクレオチド媒介(部位特異的)突然変異誘発、アラニンスキャンニング、及びPCR突然変異誘発といった当該分野で知られた方法を用いてなすことができる。部位特異的突然変異誘発(Carter等, Nucl. Acids Res., 13: 4331 (1986); Zoller等, Nucl. Acids Res., 10: 6487 (1987))、カセット突然変異誘発(Wells等, Gene, 34: 315 (1985))、制限的選択突然変異誘発(Wells等, Philos. Trans. R. Soc. London SerA, 317: 415 (1986))又は他の知られた技術をクローニングしたDNAに実施してAngptl3変異体DNAを作製することもできる。
【0105】
Angptl3断片は、多くの従来技術の任意のものによって調製してよい。所望のペプチド断片は化学合成してもよい。代替的方法は、酵素的消化によって、例えば特定のアミノ酸残基によって決定される部位のタンパク質を切断することが知られた酵素でタンパク質を処理することによって、あるいは適当な制限酵素でDNAを消化して所望の断片を単離することによってAngptl3断片を生成することを含む。さらに他の好適な技術は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、所望のポリペプチド断片をコードするDNA断片を単離し増幅することを含む。DNA断片の所望の末端を決定するオリゴヌクレオチドは、PCRの5’及び3’プライマーで用いられる。好ましくは、Angptl3ポリペプチド断片は、配列番号2の天然Angptl3と少なくとも1つの生物学的及び/又は免疫学的活性を共有する。
【0106】
また、隣接配列に沿って1つ又は複数のアミノ酸を同定するのにスキャンニングアミノ酸分析を用いることができる。好ましいスキャンニングアミノ酸は比較的小さく、中性のアミノ酸である。そのようなアミノ酸は、アラニン、グリシン、セリン、及びシステインを含む。アラニンは、ベータ炭素を越える側鎖を排除し変異体の主鎖構造を変化させにくいので、この群の中で典型的に好ましいスキャンニングアミノ酸である(Cunningham及びWells, Science, 244: 1081-1085 (1989))。また、アラニンは最もありふれたアミノ酸であるため典型的には好ましい。さらに、それは埋もれた位置と露出した位置の両方に見られることが多い(Creighton, The Proteins, (W.H. Freeman & Co., N.Y.); Chothia, J. Mol. Biol., 150:1(1976))。アラニン置換が十分な量の変異体を生じない場合は、アイソテリック(isoteric)アミノ酸を用いることができる。
【0107】
Angptl3変異体の作製、天然及び変異体Angptl3ポリペプチドの共有結合修飾、Angptl3(変異体を含む)に特異的に結合する抗体、及びイムノアドヘシンに関するさらなる詳細は、例えばWO99/15654に記載されている。
【0108】
D.Angptl3ポリペプチドの用途
実施例で後述されるように、成体組織でのAngptl3の発現分析は、肝臓特異的発現と、疾患肝細胞での、硬変した肝臓での、又は毒性肝傷害後の強い上方制御とを示した。さらに、Angptl3のインビボ投与の結果、血管透過性の亢進と、肝損傷からの短期的保護効果とが生じたが、Angptl3の長期発現は肝損傷に関連した。さらに、Angptl3は、インビボでのラット角膜アッセイ検査では、血管新生を誘発した。疾患肝臓標本において検知された著しい発現と併合した、当該アッセイでのAngptl3による血管増殖の堅牢な誘発は、当該要因が肝再生中の血管新生過程の調整に重要な役割を果たすことを強く示す。
【0109】
従って、Angptl3及び Angptl3アゴニストは、急性肝疾患の虞がある対象体の治療、予防及び/又は同定と、急性肝傷害後の肝再生及び/又は組織における血管新生の誘発とに役立つと見られる。急性肝傷害は、炎症性肝疾患、例えば慢性、アルコール性又はウイルス性肝炎、肝臓への化学的又は機械的傷害、慢性肝炎、肝硬変、原発性又は転移性肝癌又は胆嚢癌によるものであり得る肝切除に関連するものであり得る。組織での血管新生は、感染性又は自己免疫過程、機械的又は化学的傷害又は癌又は転移性癌の結果負傷した心臓組織又は肝組織に関連し得る。
【0110】
従って、Angptl3アンタゴニストは、Angptl3の過剰発現を特徴とする組織損傷、慢性肝疾患、及び/又はAngptl3の上昇発現を特徴とする心臓病の治療及び/又は予防に役立つと考えられる。Angptl3の過剰発現を特徴とする組織損傷は、炎症、非限定的に慢性肝疾患に関連する炎症、に関連する肝組織損傷を含み、その病因は、根底にある原因が感染過程又は自己免疫過程か、肝臓への化学的損傷か、又はその他かに関わらず、肝臓に炎症細胞の活性と漸増を引き起こす。ひいては、Angptl3の過剰発現を特徴とする肝組織損傷は、肝硬変、例えばアルコール性肝硬変及び原発性胆汁性肝硬変(PBC)、肝線維症、慢性肝炎、例えば慢性自己免疫性肝炎、慢性アルコール性肝炎、及び非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、ウイルス性肝炎A、B、C、D、E及びG型、中毒代謝性肝損傷、脂肪肝、肝臓の虚血再灌流障害及び敗血症、及び肝臓癌に関連する損傷、非限定的に肝細胞癌、肝外胆管癌、胆肝癌及び肝臓の転移性癌に関連する損傷を含む。Angptl3の上昇発現に関連する心臓組織損傷又は心疾患は、その病因が炎症反応を含むか又はその進行において炎症が危険因子であり、非限定的に、冠動脈疾患、心筋症、例えば非特異性肥大及び拡張型心筋症、心筋炎、うっ血性心不全(CHF)、心筋梗塞等を含む。Lawson等, Toxicol Sci 54:509-16 (2000), 上掲参照。
【0111】
さらに、Angptl3アンタゴニストは、組織における血管透過性の望ましくない亢進の阻害に役立つと考えられる。組織は肝臓又は心臓組織であってよい。血管透過性の亢進は、組織損傷後の小血管の透過性の亢進であってよく、毒素への露出による血管内皮の壊死に続いて起こり得るか、又は炎症、例えば慢性炎症と関連し得る。
【0112】
さらに、Angptl3アンタゴニストは、過剰アルコール摂取に起因する慢性アルコール肝炎の予防及び/又は治療に役立つと考えられる。アルコール性肝炎は、臨床検査結果の異常性が唯一の疾患の兆候である軽度の肝炎から、黄疸(ビリルビン滞留に起因する黄色の皮膚)、肝性脳症(肝不全に起因する神経機能障害)、腹水(腹部の体液貯留)、出血性食道静脈瘤(食道の静脈炎)、血液凝固異常及び昏睡等の合併症を伴う重度の肝機能障害にわたり得る。
【0113】
肝臓に影響するT細胞媒介疾患も、本発明に包含される。T細胞からの自己免疫性損傷は、細胞毒性T細胞により直接的に、及びTヘルパー細胞により間接的に媒介される。その治療がここで意図される自己免疫性疾患は、非限定的に自己免疫性肝炎及び原発性胆汁肝硬変を含む。自己免疫性肝炎(自己免疫性慢性活動性肝炎としても知られる)は、継続的な肝細胞の壊死と炎症を特徴とする慢性疾患であり、治療されないと、通常肝硬変に進行し、最終的には肝不全になる。原発性胆汁肝硬変は、肝内又は胆汁系の自己免疫疾患であり、胆汁分泌の低下に関連する。自己免疫抗体及び肝臓へのT細胞媒介組織損傷はこの疾患に関連すると考えられる。
【0114】
Angptl3アンタゴニストはまた、肝臓の虚血性再灌流傷害の治療にも役立つ。上述したように、虚血性再灌流傷害は通常、身体の一領域への血流が一時的に止められ(虚血)、次いで復旧される(再灌流)と起こる。該傷害は、血液供給が遮断された身体部分で発生するか、又は虚血期間中に完全な血液供給がなされた部分で発生し得る。肝臓の虚血再灌流傷害は、例えば肝臓及び胆管の外科的切除によって起こることがあり、急性肝細胞損傷及び壊死を含む肝機能障害等の合併症が臨床的に認められる。
【0115】
Angptl3アンタゴニストは、非限定的に、抗体、有機及び無機小分子、ペプチド、ホスホペプチド、アンチセンス及びリボザイム分子、三重螺旋分子等を含み、標的遺伝子産物の発現及び/又は活性を阻害する。
【0116】
例えば、アンチセンスRNA及びRNA分子は、標的mRNAにハイブリダイゼーションしてタンパク質翻訳を防止することによりmRNAの翻訳を直接阻害する。アンチセンスDNAが用いられる場合、翻訳開始部位、例えば標的遺伝子ヌクレオチド配列の−10から+10位置の間から誘導されるオリゴデオキシリボヌクレオチドが好ましい。
【0117】
リボザイムは、RNAの特異的切断を触媒できる酵素的RNA分子である。リボザイムは、相補的標的RNAへの配列特異的ハイブリダイゼーション、次いでヌクレオチド鎖切断的切断により作用する。潜在的RNA標的内の特異的リボザイム切断部位は、既知の技術で同定できる。さらなる詳細については、例えば、Rossi, Current Biology, 4:469-471 (1994)及びPCT公報WO97/33551(1997年9月18日発行)を参照。
【0118】
転写阻害に用いられる三重螺旋形成における核酸分子は一本鎖でデオキシヌクレオチドからなる。これらのオリゴヌクレオチドの基本組成は、フーグスチン塩基対則を介する三重螺旋形成を促進するように設計され、それは一般に二重鎖の一方の鎖上のプリン又はピリミジンのサイズ変更可能な伸展を必要とする。さらなる詳細は、例えば、PCT公報WO97/33551, 上掲を参照。
【0119】
ここでのAngptl3ポリペプチド(そのアゴニスト及びアンタゴニストを含む)が治療薬として使用される場合、それらは、製薬上有用な組成物を調製するための周知の方法に従って作製可能であり、ここでAngptl3ポリペプチドは製薬上許容される担体媒体と混合される。治療用製剤は、凍結乾燥された製剤又は水性溶液の形態で、任意的な製薬上許容可能な担体、賦形剤又は安定剤と、所望の精製度を有する活性成分とを混合することにより(Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, A. Osol, Ed., (1980))、調製され保管される。許容される担体、賦形剤、又は安定化剤は、用量及び濃度でレシピエントに無毒性であり、リン酸、クエン酸及び他の有機酸等のバッファー;アスコルビン酸を含む酸化防止剤;低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン又はリシン等のアミノ酸;グルコース、マンノース又はデキストリンを含む単糖類、二糖類及び他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;マンニトール又はソルビトール等の糖アルコール;ナトリウムなどの塩形成対イオン;及び/又はTWEENTM、PLURONICSTM又はPEG等の非イオン性界面活性剤を含む。
【0120】
インビボ投与に使用される製剤は滅菌されていなくてはならない。これは、凍結乾燥及び再構成の前又は後に、滅菌フィルター膜を通す濾過により容易に達成される。
【0121】
ここで、本発明の治療用組成物は一般に、無菌のアクセスポートを具備する容器、例えば、皮下注射針で貫通可能なストッパーを持つ静脈注射用溶液バッグ又はバイアル内に配される。
【0122】
投与経路は周知の方法、例えば、静脈内、腹膜内、脳内、筋肉内、眼内、動脈内又は病巣内経路での注射又は注入、局所投与、又は徐放系による。
【0123】
本発明の製薬組成物の用量及び望ましい薬物濃度は、意図する特定の用途に応じて異なってよい。適切な用量又は投与経路の決定は、通常の内科医の技量の範囲内である。動物実験は、ヒト治療のための有効な用量の決定についての信頼できるガイダンスを提供する。有効な用量の種間スケーリングは、Toxicokinetics and New Drug Development, Yacobi等編, Pergamon Press, New York 1989, pp. 42-96のMordenti, J. 及びChappell, W. 「The use of interspecies scaling in toxicokinetics」に記載された原理に従って実施できる。
【0124】
Angptl3ポリペプチド又はそのアゴニスト又はアンタゴニストのインビボ投与が用いられる場合、正常な投与量は、投与経路に応じて、哺乳類の体重当たり1日に約10ng/kgから100mg/kgまで、好ましくは約1μg/kg/日から10mg/kg/日である。特定の用量及び輸送方法の指針は文献に記載されている;例えば、米国特許第4,657,760号、第5,206,344号、又は第5,225,212号参照。異なる製剤が異なる治療用化合物及び異なる疾患に有効であること、例えばある1つの器官又は組織を標的とする投与には、別の器官又は組織を標的とする投与とは異なる方式での輸送が必要となることが予想される。
【0125】
例えば、任意の特定の肝疾患の治療に有効な用量を決定する前に、従来の患者の臨床及び実験室評価により疾患の重症度が決定される。例えば毎週、各週、毎月又は各月というふうに定期的に行われる臨床及び実験室評価による肝機能検査によって、治療の利益が評価される。
【0126】
Angptl3ポリペプチドの投与を必要とする任意の疾患又は疾病の治療に適した放出特性を持つ製剤でのAngptl3ポリペプチドの徐放投与が望まれる場合、Angptl3ポリペプチドのマイクロカプセル化が考えられる。徐放のための組換えタンパク質のマイクロカプセル化は、ヒト成長ホルモン(rhGH)、インターフェロン-γ(rhIFN-γ)、インターロイキン-2、及びMN rgp120で成功裏に実施されている。Johnson等, Nat. Med., 2: 795-799 (1996);Yasuda, Biomed. Ther., 27: 1221-1223 (1993);Hora等, Bio/Technology, 8: 755-758 (1990);Cleland, 「Design and production of Single Immunization Vaccines Using Polyactide Polyglycolide Microsphere Systems」in Vaccine Design: The Subunit and Adjuvant Approach, Powell 及び Newman編, (Plenum Press: New York, 1995), pp.439-462;WO97/03692、WO96/40072、WO96/07399;及び米国特許第5,654,010号。
【0127】
これらのタンパク質の徐放製剤は、その生体適合性及び広範囲の生分解特性により、ポリ-乳酸-コグリコール酸(PLGA)ポリマーを用いて開発された。PLGAの分解産物である乳酸及びグリコール酸は、ヒト身体内で即座にクリアされる。さらに、このポリマーの分解性は、分子量及び組成に依存して数ヶ月から数年まで調節できる。Lewis, 「Controlled release of bioactive agents from lactide/glycolide polymer」 in M. Chasin及び R. Langer (編), Biodegradable Polymers as Drug Delivery Systems (Marcel Dekker: New York, 1990), pp. 1-41。
【0128】
Angptl3治療用薬剤を他の治療用投与計画と組合わせることが望ましい場合もある。例えば、Angptl3ポリペプチド又はそのアゴニストでの治療を、他のアゴニスト因子、例えば血管内皮細胞増殖因子(VEGF)又は繊維芽細胞増殖因子(FGF)の投与と組合わせることができる。
【0129】
E.製造品
本発明の他の実施態様では、上記の疾患の診断又は治療に有用な物質を含む製造品が提供される。この製造品は容器とラベルとを具備する。好適な容器は、例えば、ビン、バイアル、シリンジ、及び試験管を含む。容器は、ガラス又はプラスチック等の材料から形成されてよい。容器は、状態を診断し治療するのに有効な組成物を収容し、無菌のアクセスポートを有し得る(例えば、容器は皮下注射針で貫通可能なストッパーを有する静脈注射用溶液バッグ又はバイアルであってよい)。組成物中の活性剤は、通例、本明細書で同定された遺伝子産物の活性を阻害することができる抗癌剤、例えば抗体である。容器上の又は容器に添付されるラベルは、組成物が、選択した状態の診断又は治療のために使用されることを示す。製造品はさらに、リン酸緩衝塩水、リンガー溶液及びデキストロース溶液などの製薬的に許容されるバッファーを含む第二の容器を具備してもよい。さらに、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、及び使用上の指示を付けたパッケージ挿入物を含む商業的及び使用者の見地から望ましい他の材料を含んでもよい。
【0130】
F.診断用使用
Angptl3は炎症性肝疾患において上方制御されるので、正常組織に対するその過剰発現は、そのような疾患の診断マーカーとしての機能を果たす。
【0131】
遺伝子の増幅及び/又は発現は、ここで提供された配列に基づき、適切に標識されたプローブを用い、例えば、従来のサザンブロット法、mRNAの転写を定量化するノーザンブロット法(Thomas, Proc. Natl. Acad. Sci. USA,77:5201-5205 (1980))、ドットブロット法(DNA分析)、又はインサイツハイブリダイゼーションによって、直接的に試料中で測定することができる。あるいは、DNA二本鎖、RNA二本鎖及びDNA-RNAハイブリッド二本鎖又はDNA−タンパク二本鎖を含む、特異的二本鎖を認識することができる抗体を用いてもよい。次いで、抗体を標識し、アッセイを実施することができ、ここで二本鎖は表面に結合しており、その結果、表面での二本鎖形成の時点でその二本鎖に結合した抗体の存在を検出することができる。
【0132】
例えば、抗体断片を含む抗体は、Angptl3タンパク質の発現の定性的及び定量的検出に使用することができる。上述したように、抗体は、好ましくは、検出可能な例えば蛍光標識を備えており、結合は、光学顕微鏡、フローサイトメトリー、蛍光定量法、又は当該分野で知られた他の技術によってモニターすることができる。これらの技術は、特に、増幅遺伝子が細胞表面タンパク質、例えば成長因子をコードする場合に適している。このような結合アッセイは、原則的に上文に記載したようにして行われる。
【0133】
Angptl3タンパク質と結合する抗体のインサイツ検出は、例えば、免疫蛍光検査法又は免疫電子顕微鏡によって行うことができる。この目的のために、組織学的標本を患者から取り出し、標識抗体を、好ましくは生物学的試料にその抗体をかぶせることによって、該標本に付与する。この手法は、また、検査する組織のマーカー遺伝子産物の分布を確定することも可能にする。幅広い種々の組織学的方法がインサイツ検出で容易に利用できることは、当業者にとって明らかであろう。
【0134】
遺伝子発現変化を定量化するための最も感受的で最も柔軟な定量法の1つは、RT−PCRであり、これを使用して、正常及び腫瘍組織で、異なる試料集団において、薬物治療あり又はなしで、mRNAレベルを比較し、遺伝子発現パターンを特徴付け、近縁のmRNA同士を区別し、そしてRNA構造を分析することができる。
【0135】
第一ステップではmRNAを標的試料から単離する。開始材料は、典型的には、罹患組織とそれに対応する正常組織からそれぞれ単離された全RNAである。こうしてmRNAは、例えば凍結又は保管された、パラフィン包理され及び固定された(ホルマリンで固定された)罹患組織の試料から、同種の正常組織との比較のために抽出できる。mRNA抽出に関する方法は当該分野でよく知られており、Ausubel等, Current Protocols of Molecular Biology, John Wiley and Sons (1997)を含む分子生物学の標準的教科書に開示されている。パラフィン包理組織からRNAを抽出する方法は、例えば、Rupp及びLocker, Lab Invest. 56:A67 (1987)、及びDe Andres等, Bio Techniques 18:42044 (1995)に開示されている。特に、RNAの単離は、Qiagen等の民間製造業者の精製キット、バッファーセット及びプロテアーゼを、製造業者の指示書に従って使用して行うことができる。例えば、培養細胞からの全RNAは、Qiagen RNeasy miniカラムを用いて単離できる。組織試料からの全RNAは、RNA Stat-60(Tel-Test)を使用して単離できる。
【0136】
RNAはPCRのテンプレートとして機能しないので、RT-PCRによる遺伝子発現変化分析の最初のステップはRNAテンプレートのcDNAへの逆転写と、それに続くPCR反応でのその指数関数的な増幅である。2つの最も広く用いられている逆転写酵素はトリ骨髄芽球症ウイルス逆転写酵素(AMV−RT)及びモロニーマウス白血球ウイルス逆転写酵素(MMLV−RT)である。逆転写段階は、通常、発現プロファイリングの環境及び目的に応じて、特異的プライマー、ランダムヘキサマー、又はオリゴ-dTプライマーを使用してプライムされる。例えば、製造者指示書に従い、GeneAmp RNA PCR キット(Perkin Elmer, カリフォルニア, アメリカ合衆国)を使用して抽出RNAを逆転写することができる。この誘導されたcDNAは、後のPCR反応のテンプレートとして使用できる。
【0137】
PCRステップでは、種々の熱安定性DNA-依存性DNAポリメラーゼを使用することができるが、典型的には、5’-3’ヌクレアーゼ活性を有するが-3’ -5’ヌクレアーゼ活性を欠くTaq DNAポリメラーゼを用いる。従って、TaqMan PCRでは、典型的には、Taq又はTthポリメラーゼの5’ヌクレアーゼ活性を用いて、その標的アンプリコンに結合したハイブリダイゼーションプローブを加水分解するが、同等の5’ヌクレアーゼ活性を有する任意の酵素を用いることができる。PCR反応に特有のアンプリコンを生成するために2つのオリゴヌクレオチドプライマーを使用する。三番目のオリゴヌクレオチド、又はプローブを、2つのPCRプライマーの間に位置するヌクレオチド配列を検出するために設計する。このプローブは、Taq DNAポリメラーゼ酵素によって伸長せず、レポーター蛍光色素及び消光蛍光色素で標識される。このレポーター色素のどんなレーザー誘導放射も、プローブ上でこの2つの色素が近接して位置している場合には、消光色素によって消光する。増幅反応の間、Taq DNAポリメラーゼ酵素は、テンプレート依存様式でプローブを切断する。この結果生じたプローブ断片は溶液中で解離し、遊離したレポーター色素からのシグナルは、二番目のフルオロフォアの消光効果とは無関係である。新しい分子が合成される度にレポーター色素の1分子が遊離し、消光しないレポーター色素の検出がデータの定量的な解釈の基礎を示すことになる。
【0138】
TaqMan RT-PCRは、例えば、ABI PRIZM 7700TM、Sequence Detection SystemTM(Perkin-Elmer-Applied Biosystems, フォスターシティー, カリフォルニア, アメリカ合衆国)、又はLightcycler(Roche Molecular Biochemicals, マンハイム, ドイツ)等の市販の装置を使用して行うことができる。好ましい実施態様では、5’ヌクレアーゼ手法は、ABI PRIZM 7700TM、Sequence Detection SystemTM等のリアルタイム定量PCR装置で進められる。このシステムは、サーモサイクラー、レーザー、電荷結合素子(CCD)、カメラ及びコンピューターで構成される。このシステムでは、サーモサイクラー上の96ウェルフォーマットで試料を増幅する。増幅の間、96ウェル全てについて、レーザー励起した蛍光シグナルが光ファイバーケーブルを通してリアルタイムで収集され、そしてCCDカメラで検出される。このシステムは、装置を作動し、データを分析するソフトウェアを装備している。
【0139】
5’ヌクレアーゼアッセイのデータは最初、Ct又は閾値サイクルとして表される。上で論じたように、蛍光値は毎サイクルの間に記録され、増幅反応においてそのポイントまでに増幅した産物の総量を表す。蛍光シグナルが極めて重要だとして最初に記録されたポイントが閾値サイクル(Ct)である。このΔCt値は、罹患組織からの細胞のRNA発現を正常細胞のそれと比べる場合に、核酸試料中の特定の標的配列の開始コピーの相対数の定量的測定として用いられる。
【0140】
エラー及び試料間のばらつきによる効果を最小限にするために、大抵は内部標準を使用してRT−PCRを行う。理想的な内部標準は、異なる組織間では一定のレベルで発現し、実験上の処理によって影響を受けない。遺伝子発現のパターンを均質化するために最も頻繁に使用されているRNAは、ハウスキーピング遺伝子であるグリセルアルデヒド-3-リン酸-デヒドロゲナーゼ(GAPDH)及びβ-アクチンのmRNAである。
【0141】
遺伝子発現変化はまた、マイクロアレイ技術を用いて同定又は確認できる。この方法では、対象のヌクレオチド配列をマイクロチップ基板上にプレートさせるか又は整列させる。次いで、整列させた配列を、対象の細胞又は組織からの特異的DNAプローブにハイブリッド形成する。
【0142】
マイクロアレイ技術の特定の実施態様では、cDNAクローンのPCRで増幅した挿入部分を高密度アレイの基板へ貼り付ける。好ましくは、少なくとも10,000ヌクレオチド配列を基板へ貼り付ける。それぞれ10,000エレメントがマイクロチップ上に固定化された、マイクロアレイ遺伝子は、ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーションに適している。蛍光標識したcDNAプローブは、対象の組織から抽出したRNAの逆転写によって蛍光ヌクレオチドを取り込むことで作製できる。チップへ貼り付けた標識したcDNAプローブは、アレイ上のDNAの各スポットに特異的にハイブリッド形成する。非特異的に結合したプローブを除くためにストリンジェントに洗浄した後、チップを共焦点レーザー顕微鏡によってスキャンする。各整列したエレメントのハイブリダイゼーションの定量化によって、対応するmRNA発生量の評価が可能となる。二色蛍光によって、RNAの2つのソースから作製した別々の標識したcDNAプローブを2つ1組でアレイへハイブリッド形成する。従って、各特定の遺伝子に対応する2つのソースからの転写物の相対発生量が、同時に確かめられる。小型化したハイブリダイゼーションのスケールによって、多数の遺伝子に関する発現パターンの簡便で迅速な評価が可能となる。このような方法は、細胞当たり少しのコピーが発現する希な転写物を検出し、及び発現レベルにおいて少なくともおよそ2倍の違いを再現可能に検出するのに必要な感受性を有することが示されている(Schena等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93 (20): 106-49 (1996))。核酸のハイブリダイゼーションの方法論とマイクロアレイ技術は当該分野でよく知られている。
【0143】
以下の実施例は例示するためにのみ提供されるものであって、本発明の範囲を決して限定することを意図するものではない。
【0144】
本明細書で引用した全ての特許及び参考文献の全体を、出典明示によりここに取り込む。
【実施例】
【0145】
実施例で言及されている全ての市販試薬は、特に示さない限りは製造者の使用指示に従い使用した。ATCC登録番号により以下の実施例及び明細書全体を通して特定される細胞の供給源はAmerican Type Culture Collection, マナッサス, ヴァージニアである。
【0146】
実施例1
Angptl3の同定
Angptl3を、「Instruction Manual: SUPERSCRIPT(商品名)Lambda System for cDNA Synthesis and λ cloning」カタログ番号19643-014, Life Technologies, ゲイサーズバーグ, メリーランド, アメリカ合衆国に記載のプロトコルに従って、Clontech Laboratories, Inc. Palo Alto, カリフォルニア, アメリカ合衆国、カタログ番号64018-1から得たヒト胎児肝臓mRNAから調製したcDNAライブラリーで同定した。特に明記しない限り、全ての試薬もLife Technologiesから得た。全体的な手順は、次の段階:(1)第一鎖の合成;(2)第二鎖の合成;(3)アダプター添加;(4)酵素消化;(5)cDNAのゲル単離;(6)ベクターへのライゲーション;及び(7)形質転換に要約できる。
【0147】
第一鎖の合成:
Not1プライマーアダプター(Life Tech.、2μl, 0.5g/μl)をポリAmRNA(7μl, 5μg)を添加した無菌の1.5mlのマイクロ遠心分離チューブに加えた。反応チューブを5分間又はmRNAの二次構造を変性させるのに十分な時間、70℃まで温めた。次いで反応物を氷上で冷却し、5X第一鎖バッファー(Life Tech., 4μl)、0.1M DTT(2μl)及び10mM dNTP Mix(Life Tech.、1μl)を添加し、次いで恒温にするように37℃で2分間温めた。Superscript II(商品名)逆転写酵素(Life Tech., 5μl)を添加し、反応チューブをよく混合して37℃で1時間インキュベートし、氷上において終了した。反応物の最終濃度は次の通りであった:50mMのTris-HCl(pH8.3);75mMのKCl;3mMのMgCl;10mMのDTT;それぞれ500μMのdATP, dCTP, dGTP及びdTTP;50μg/mlのNot Iプライマーアダプター;5μg(250μg/ml)のmRNA;50,000U/mlのSuperscript II(商品名)逆転写酵素。
【0148】
第二鎖の合成:
氷上で、次の試薬を、第一鎖の合成の反応チューブに添加し、反応物をよく混合し、16℃を越えないように温度に注意しながら16℃で2時間反応させた:蒸留水(93μl);5X第二鎖バッファー(30μl);dNTP混合物(3μl);10U/μlの大腸菌DNAリガーゼ(1μl);10U/μl大腸菌DNAポリメラーゼI(4μl);2U/μl大腸菌RNase H(1μl)。10UのT4 DNAポリメラーゼ(2μl)を添加し、反応物をさらに5分間16℃でインキュベートし続けた。反応物の最終濃度は次の通りであった:25mMのTris-Hcl(pH7.5);100mMのKCl;5mMのMgCl;10mMの(NHSO;0.15mMのβNAD+;それぞれ250μMのdATP, dCTP, dGTP及びdTTP;1.2mMのDTT;65U/mlのDNAリガーゼI;250 U/mlのDNAポリメラーゼ;13U/mlのRNase H。反応物を氷上に置いて、0.5MのEDTA(10μl)を添加することにより停止し、次いで、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1、150μl)を通して抽出した。水相を取り出して回収し、5MのNaCl(15μl)及び無水エタノール(−20℃、400μl)で希釈し、14,000×gで2分間、遠心分離した。最終産物のDNAペレットから上清を注意深く取り出し、ペレットを70%エタノール(0.5ml)に再懸濁し、14,000×gで2分間、再び遠心分離した。上清を再び取り出し、ペレットをSpeedvacで乾燥した。
【0149】
アダプター添加:
次の試薬を、上記の第二鎖の合成のcDNAペレットに加え、反応物を穏やかにかき混ぜ、16℃で16時間インキュベートした:蒸留水(25μl);5X 4T DNAリガーゼバッファー(10μl);Sal Iアダプター(10μl);T4 DNAリガーゼ(5μl)。反応物の最終組成物は、次の通りであった:50mMのTris-HCl(pH7.6);10mMのMgCl;1mMのATP;5%(w/v)PEG 8000;1mMのDTT;200μl /mlのSal Iアダプター;100U/mlのT4 DNAリガーゼ。反応物をフェノール:クロロフォルム:イソアミルアルコール(25:24:1、50μl)を通して抽出し、水相を取り出して回収し、5MのNaCl(8μl)及び無水エタノール(−20℃、250μl)で希釈した。これを次いで14,000×gで20分間、遠心分離し、上清を取り出して、ペレットを0.5mlの70%エタノールに再懸濁し、14,000×gで2分間、再び遠心分離した。続いて上清を再び取り出し、最終産物のペレットをSpeedvacで乾燥して、次の手順に進んだ。
【0150】
酵素消化:
前の段落のSal Iアダプターで調製したcDNAに次の試薬を混合し、混合物を37℃で2時間インキュベートした:DEPC処理水(41μl);Not I制限バッファー(REACT, Life Tech., 5μl)、Not I(40μl)。この反応物の最終組成物は次の通りであった:50mMのTris-HCl(pH8.0);10mMのMgCl;100mMのMaCl;1,200U/mlのNot I。
【0151】
cDNAのゲル単離:
cDNAを5%アクリルアミドゲルのアクリルアミドゲル電気泳動により、サイズ分画し、分子量マーカーと比較して決定されるような、1kbよりも大きい任意の断片を、ゲルから除去した。次いでcDNAを、ゲルから0.1×TBEバッファー(200μl)に電気溶出し、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1、200μl)で抽出した。水相を取り出して回収し、14,000×gで20分間遠心分離した。上清を、70%エタノール(0.5ml)に懸濁したDNAペレットから取り出し、再び14,000×gで2分間遠心分離した。上清を再び除去し、ペレットをSpeedvacで乾燥し蒸留水(15μl)に再懸濁した。
【0152】
pRK5ベクターへのcDNAのライゲーション:
次の試薬をともに加え、16℃で16時間インキュベートした:5X T4 リガーゼバッファー(3μl);pRK5, Xho I, Not I消化ベクター, 0.5μg, 1μl);前の段落で調製されたcDNA(5μl)及び蒸留水(6μl)。続いて、さらなる蒸留水(70μl)及び10mg/mlのtRNA(0.1μl)を添加し、全ての試薬をフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1)を通して抽出した。水相を取り出して回収し、5MのNaCl(10μl)及び無水エタノール(−20℃, 250μl)中に希釈した。次いでこれを14,000×gで20分間、遠心分離し、ペレットを70%エタノール(0.5ml)に再懸濁し、14,000×gで2分間、再び遠心分離した。次いでDNAペレットをSpeedvacで乾燥して、次の手順で使用するために蒸留水(3μl)に溶出した。
【0153】
バクテリアへのライブラリーライゲーションの形質転換:
前記したように調製した、ライゲートされたcDNA/pRK5ベクターDNAを、電気コンピテントDH10Bバクテリア(Life Tech., 20μl)が添加された氷上で冷却した。次いでバクテリアベクター混合物を、メーカーの勧めに従って電気穿孔した。続いてSOC培地(1ml)を添加し、混合物を37℃で30分インキュベートした。次いで形質転換体をアンピシリンを含む20の標準150mm LBプレートに蒔き、コロニーが成育するまで16時間(37℃)インキュベートした。次いでポジティブコロニーをこすり取り、標準CsCl勾配プロトコルを用いてバクテリアペレットからDNAを単離した(例えば上掲のAusubel等, 2.3.1.)。
【0154】
Angptl3の同定
Angptl3は、Klein R.D.等, (1996), Proc. Natl. Acad. Sci 93, 7108-7113及びJacobs (1996年7月16日発行の米国特許第5,563,637号)により報告された方法を含む、当該分野で周知の任意の標準的な方法によって、ヒト胎児肝臓ライブラリーで同定可能である。Klein等及びJacobsによると、新規に分泌された哺乳類の膜結合タンパク質をコードするcDNAは、レポーター系として酵母転化酵素遺伝子を用いてそれらの分泌リーダー配列を検出することによって同定される。酵素転化酵素は、スクロースのグルコース及びフルクトースへの分解と、ラフィノースのスクロース及びメリビオースへの分解を触媒する。転化酵素の分泌形態は、分泌転化酵素を産生できない酵母細胞が、単一の炭素及びエネルギー源としてスクロースを含む培地上であまり増殖しないように、酵母(Saccharomyces cerevisiae)によってスクロースの利用のために必要とされる。Klein R.D.等, 上掲、及びJacobs, 上掲は双方とも、酵母転化酵素の天然シグナル配列を機能的に置換するために、哺乳類シグナル配列の周知の能力を利用する。哺乳類cDNAライブラリーは、非分泌酵母転化酵素をコードするDNAにライゲートされ、該ライゲートされたDNAは、単離され、転化酵素遺伝子を含まない酵母細胞に形質転換される。哺乳類シグナル配列にライゲートされた非分泌酵母転化酵素遺伝子を含む組換え体は、炭素源としてスクロースだけ又はラフィノースだけを含む培地で増殖する能力に基づいて同定される。同定された哺乳類シグナル配列は、次いで、対応する分泌タンパク質をコードする全長クローンを単離するために第二の全長cDNAライブラリーをスクリーニングするために使用される。クローニングは、例えば、発現クローニングによって、又は当該分野で周知の任意の他の技術によって行われてよい。
【0155】
Angptl3の同定に使用されるプライマーは以下の通りである:
OLI114 CCACGTTGGCTTGAAATTGA(配列番号3)
OLI115 CCTCCAGAATTGATCAAGACAATTCATGATTTGATTCTCTATCTCCAGAG(配列番号4)
OLI116 TCGTCTAACATAGCAAATC(配列番号5)
【0156】
Angptl3のヌクレオチド配列は図1に示されており(配列番号1)、アミノ酸配列は図2A及び2Bに示されている(配列番号2)。Angptl3は、TIE2レセプター(h-TIE2L1及びh-TIE2L2)及びヒトアンジオポエチン1、2及び4(ANG1、ANG2、ANG4、図5C)の2つの周知のヒトリガンドと高度の配列ホモロジーを示すヒトフィブリノゲン様ドメイン(図3A及び図5A−C)を含む。
【0157】
Angptl3のクローンは、ブダペスト条約の条項に従って1997年9月18日にAmerican Type Culture Collection (ATCC), 12301 Parklawn Drive, Rockville, Maryland 20852に寄託されており、ATCC寄託番号209281が付与されている。
【0158】
実施例2
Angptl3の発現
ヒトAngptl3を、真核細胞の発現ベクターpRK5tkNEO及びバキュロウイルスベクターpHIF、PharMingen, カリフォルニアから購入したpVL1393の誘導体にクローニングした。プラスミドDNAを、BaculoGoldTM DNA(PharMingen, カリフォルニア)とともにLipofectin(GIBCO-BRL, MD)を用いてSpodoptera frugiperda ("Sf9") 細胞(ATCC CRL 1711)中に同時形質移入した。4日後、細胞を回収し、500μlの上清を用いて2×10 Sf9細胞に感染させ、バキュロウイルスを増幅した。増幅の72時間後、細胞を回収し、40時間、10mlの上清を用いて7.5×10 H5細胞/mlに感染させた。回収、及び0.45μm酢酸セルロースフィルターでの濾過後、上清を精製した。マウスAngptl3を、大規模な一過性形質移入実験で、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞で発現させた。ヒトAngptl3を、イムノアフィニティクロマトグラフィーを利用して、懸濁液中で増殖したバキュロウイルスに感染した昆虫細胞から精製した。抗gD FabをグリコファーゼCPG(コントロールされたポアガラス)に結合してカラムを生成した。浄化(1000×g 5分、その後0.2μm濾過)培地を4℃で一晩中ローディングした。280nmの流出物で吸収度が基準に戻るまで、カラムをPBSで洗浄し、pH3.0の50mM クエン酸ナトリウムで溶出した。溶出されたタンパク質を、1mM HClに対して透析し(Spectra-pore; MWCO 10,000)、-70℃で凍結した。一過的に発現されたマウスAngptl3含有CHO培養物を、浄化し、10,000 MWCO膜(Amicon)を用いて濃縮した。この容積は、ヒトAngptl3について上述したグリコファーゼCPGに結合した抗gD Fabカラムを超えた。溶出されたプールを、<5mSの伝導性まで10mM 酢酸ナトリウム(pH5.0)で希釈し、S Sepharose Fast Flow(Amersham Pharmacia Biotech, ニュージャージー)にローディングした。280nmの流出物の吸収度が基準に戻るまで、カラムを10mM酢酸ナトリウム(pH5.0)で洗浄し、pH5.0の10mM 酢酸ナトリウム中、20カラム容積勾配0−0.5M NaClで溶出した。0.45M−0.5M NaClで溶出した、マウスAngptl3を含む分画をさらに、逆相C-4クロマトグラフィ(Vydac, カリフォルニア)を用いて精製した。分画を、0.1%トリフルオロ酢酸勾配で酸性化した。67%アセトニトリルで溶出したマウスmAngptl3を凍結乾燥し、−70℃で保存した。精製タンパク質の同定を、N末端配列分析で確認した。市販のキットでLPS濃度を確認し、全てのヒト又はマウスAngptl3調製について<5 Eu/mlとなるように決定した。
【0159】
実施例3
Angptl3に結合する抗体の調製
この実施例は、Angptl3に特異的に結合できるモノクローナル抗体の調製を例示する。
【0160】
モノクローナル抗体の生産のための技術は、この分野で知られており、例えば、Goding, 上掲に記載されている。用いられ得る免疫原は、本発明の精製されたリガンドホモログ、そのようなリガンドホモログを含む融合タンパク質、細胞表面に組換えリガンドホモログを発現する細胞を含む。免疫原の選択は、当業者が過度の実験をすることなくなすことができる。
【0161】
Balb/c等のマウスを、完全フロイントアジュバントに乳化して1−100μgの量で皮下又は腹腔内に注入した免疫原で免疫化する。あるいは、免疫原をMPL−TDMアジュバント(Ribi Immunochemical Research, ハミルトン, モンタナ)に乳化し、動物の後足蹠に注入してもよい。免疫化したマウスは、次いで10から12日後に、選択したアジュバント中に乳化した付加的免疫源で追加免疫する。その後、数週間、マウスをさらなる免疫化注射で追加免疫してもよい。抗体の検出のためのELISAアッセイで試験するために、レトロオービタル出血からの血清試料をマウスから周期的に採取してもよい。
【0162】
適当な抗体力価を検出した後、抗体に「ポジティブ(陽性)」な動物に、特定のリガンドの静脈内注射の最後の注入をすることができる。3から4日後、マウスを屠殺し、脾臓細胞を回収した。次いで脾臓細胞を(35%ポリエチレングリコールを用いて)、ATCCから番号CRL1597で入手可能なP3X63AgU.1等の選択されたマウス骨髄腫株化細胞に融合させた。融合によりハイブリドーマ細胞が生成され、次いで、これをHAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジン)培地を含む96ウェル組織培養プレートに蒔き、非融合細胞、骨髄腫ハイブリッド、及び脾臓細胞ハイブリッドの増殖を阻害することができる。
【0163】
ハイブリドーマ細胞は、抗原に対する反応性についてELISAでスクリーニングされる。ここでのTIEリガンドホモログに対する所望のモノクローナル抗体を分泌する「ポジティブ(陽性)」ハイブリドーマ細胞の決定は、技術常識の範囲内である。
【0164】
陽性ハイブリドーマ細胞を同系のBalb/cマウスに腹腔内注入し、抗TIEリガンドモノクローナル抗体を含む腹水を生成することができる。あるいは、ハイブリドーマ細胞を、組織培養フラスコ又はローラーボトルで増殖させることもできる。腹水中に生成されたモノクローナル抗体の精製は、硫酸アンモニウム沈降とそれに続くゲル排除クロマトグラフィーを用いて行うことができる。あるいは、抗体のプロテインA又はプロテインGへの結合に基づくアフィニティクロマトグラフィーを用いることもできる。
【0165】
実施例4
内皮細胞結合
アンジオポエチンは、N末端フィブリノゲン(FBN)様ドメインを介して内皮細胞特異的チロシンキナーゼレセプターTie2に結合することによって血管新生を調節する分泌因子である。この分泌リガンドのファミリーに存在するC末端コイルドコイル・ドメインが、リガンドのオリゴマー化に必要であることがわかった(Procopio等, J. Biol. Chem. 274:30196-201 (1999))。
【0166】
アンジオポエチンと類似して、Angptl3は、コイルドコイル・ドメインとC末端FBN様ドメインを伴うN末端シグナルペプチドからなる分泌グリコプロテインである(図3A)。
【0167】
Angptl3とアンジオポエチンが構造的に類似していることから、Tie2レセプターを発現する原発性内皮培養細胞と結合する能力について、Angptl3を検査した。Cell System(カークランド, ワシントン)から購入し、供給者からの推奨に従って10%ウシ胎仔血清及びマイトジェンを含むCS-C完全培地で保存したヒト微小血管内皮細胞(HMVEC)を、エピトープ(gD)タグ付きTie2リガンドアンジオポエチン1及び2(Ang1及びAng2)、Angptl3、及びアンジオポエチン関連タンパク質1(ARP1)をそれぞれ発現している一過性形質移入された293細胞からの条件付培地でインキュベートした。ARP1は、コイルドコイル及びフィブリノゲン様ドメインを備えるがTie2と結合できない、構造的に関連した分子であり、ネガティブコントロールとして使用した。図3Bに示したように、Ang2及びAngptl3は、ARP1について結合が観察されない条件で、HMVECと強く結合した。これらの発見は、Angptl3の内皮細胞への結合が特異的であることを実証し、Angptl3の結合を媒介する内皮細胞上のレセプターの存在を示した。
【0168】
Tie2(アンジオポエチン1、2及び3(Ang1、Ang2及びAng3)のレセプター)又はTie1(Tie2に対する高い配列ホモロジーを有するオーファンレセプター)がAngptl3と結合するか検査するために、それぞれTie1及びTie2の全長レセプターコンストラクトとともに、エピトープ(gD)タグ付きAng1及びAng2、Angptl3及びARP1の発現ベクターを一過的に有する293細胞を用いて、免疫沈降実験を行った。添加されたばかりのプロテアーゼインヒビターを含むRIPAバッファー(1×PBS;1% NP40;0.5% デオキシコール酸ナトリウム;0.1% SDS;PMSF, 100μg/ml;アプロチニン;30μl/ml;オルトバナジン酸ナトリウム, 1μM)での溶解によって、全体細胞抽出物を調製した。抽出物を、Tie1又はTie2に特異的な抗体(Santa Cruz Biotechnology, サンディエゴ, カリフォルニア)とインキュベートし、得られた免疫沈降物をSDS−PAGE及び免疫ブロット法で分析した。具体的には、SDS−PAGEで分解しPVDF膜にブロットしたタンパク質を、gDタグ又はTieレセプターのそれぞれに対する抗体とインキュベートした。図4に示したように、Tie2のAng1及びAng2への結合が可能な実験的条件では、Tie1及びTie2はAngptl3に結合しなかった。これらの発見は、Angptl3はTie2のリガンドでもTie1のリガンドでもないことを実証し、細胞結合実験で観察された強い結合を媒介する内皮細胞上の他のレセプターの存在を示した。
【0169】
興味深いことに、細胞を「腫瘍様」状態を模倣する低酸素状態又はVEGFに曝すと、Angptl3の結合が有意に増加した(データは示さず)。こういった状態は、内皮細胞上でインテグリン発現を誘発することがこれまでにわかっており(Suzuma等, Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 39:1028-35 (1999))、一方、Tie1及びTie2レセプターレベルは変化しないことがわかっている(Mandriota及びPepper, Circ. Res. 83:852-9 (1998)及びOh等, J. Biol. Chem. 274:15732-9 (1999))。
【0170】
実施例5
FBN−Angptl3の分子モデリング
Angptl3のFBN様ドメインは、ヒトフィブリノゲンのγ鎖のC末端と39.6%の配列同一性を共有する。Angptl3が内皮細胞に結合する生物学的機能と分子メカニズムを調査するために、FBNドメインに関するX線結晶学とホモロジーモデリング技術によってもたらされた構造情報を用いて、Angptl3 のFBN様ドメインのモデルを構築した。FBNドメインは、3つの明確なドメイン:短い螺旋に挟まれた二重鎖逆平行βシートによって形成されたN末端ドメイン;2つの短い螺旋と、その面の一方に対して配列されたヘアピンループとを有する五重鎖逆平行βシートによって形成された中央ドメイン;及び主にループからなる第三のドメイン(図5B)を備えた独特の折り畳みを有する。
【0171】
FBN−Angptl3モデルを構築するために、clustalW(Thompson等, Nucleic Acids Res., 22:4673-80 (1994))とスレッディング(ProCeryon Biosciences Inc.)を用いて、FBN-Angptl3配列と複数のFBNドメイン構造との間の配列構造アラインメントを実行した。このアラインメントから、モデル構築のテンプレート構造として3FB(PDBコード)を選択した。プログラムPROCHECK(Laskowski等, J. Biomol. NMR 8:477-86 (1996))を用いて、PDBに寄託された構造の参照データベースと比較したときに平均を上回る立体化学品質である、モデルの幾何学的品質を評価した。最終的なFBN−Angptl3モデルは、テンプレートと比較すると全てのCα原子について1.95Aのr.m.s.dを有した。アミノ酸位置220−224、289−306及び357−363のループ領域にいくつかの違いはあるが、FBNドメインの全ての折り畳みがFBN−Angptl3に保存される(図5A及びB)。
【0172】
ヒトフィブリノゲンγ鎖の研究により、インテグリンαMβ2、白血球で主に発現されるインテグリンへの結合に関与する2つの領域の同定がなされた(Ugarova等, J. Biol. Chem. 273:22519-27 (1998))。線状アミノ酸配列において分離された2つの領域は、FBNドメインの三次元構造で2つの隣接した逆平行β鎖(P1, 残基190−202;P2, 残基377−395)を形成する。フィブリノゲンγ鎖(P3, 346−358)及びテナシンC内の異なる領域もまた、インテグリンαvβ3への結合に関与することがわかっている(Yokoyama等, J. Biol. Chem. 275:16891-8 (2000))。本FBN-Angptl3モデルと、ヒトフィブリノゲンγ鎖のFBNドメインは、これらの領域で高度の構造的同一性を共有し(P1: 38−50;P2: 199−214;P3: 346−361)(図5A)、ここでナンバリングは3FIB(PDBコード)のナンバリングに従う。Angptl3(配列番号2)のアミノ酸ナンバリングに従って、成熟したタンパク質アミノ酸配列で、P1はアミノ酸281−293(配列番号14)に対応し;P2はアミノ酸442−460(配列番号15)に対応し;そしてP3はアミノ酸415−430(配列番号17)に対応する。
【0173】
Angptl3のFBN様ドメイン内の領域が結合に責任があるかどうか仮説を検証するために、複数のペプチドを設計し合成した(表2)。P3配列は、異なるドメイン間のほとんどの構造的多様性を有する領域をコードし、よってレセプター特異性を決定し得る。同一領域由来の複数のスクランブルされ逆転されたペプチドをコントロールペプチドとして用いた(表2)。実施例2で述べたようなバキュロウイルス発現系を用いてアミノ末端gDエピトープタグ付き組換えヒトAngptl3タンパク質を生成した(図6A)。
【0174】
製造者の指示に従ってPNGase-F処理を行い(New England Biolabs, マサチューセッツ)、組換えAngptl3のグリコシル化状態を決定した。精製タンパク質(50ng)をSDSポリアクリルアミドゲル(10% Tris-Glycine, Invitrogen, カリフォルニア)で電気泳動し、通常の手順でニトロセルロース膜(Invitrogen, カリフォルニア)に電気転写した。PBS中5% w/v ノンファットミルクの粉末とインキュベートして膜を遮断し、遮断バッファー中1μg/mlモノクローナル抗gD(クローン 5B6.K6)抗体と終夜4℃でインキュベートした。膜をPBS/0.05% Tween 20で洗浄し、次いでホースラディッシュペルオキシダーゼ結合ロバ抗マウス抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories, ペンシルバニア)と1時間室温でインキュベートした。製造者のプロトコルに従った化学発光検出によって(Amersham Pharmacia Biotech, ニュージャージー)Angptl3タンパク質を可視化した。免疫沈降、一過性形質移入及びFACS分析を先述したように実行した(Klein等, Nature 387:717-21 (1997))。
【0175】
PNGaseとのインキュベーション時のAngptl3バンドの流動性の低下が、組換えタンパク質がグリコシル化されたことを示した(図6C)。同様の観察が前もってアンジオポエチンについてなされた。図7Aに示したように、3つ全てのペプチドを接着アッセイに添加することで、Angptl3への内皮細胞の結合が完全に阻害された。インテグリンαvβ3は、RGD接着配列に照らしてそのリガンドのいくつかを認識することができる。Angptl3フィブリノゲン様ドメインはこういったRGD配列をコードしないという我々の観察の裏付けとして、RGDペプチドの添加はHMVEC接着を部分的にのみ阻止したが、RGEペプチドによる影響はなかった。この結果は、Angptl3のαvβ3との相互作用の一部のみがRGDに依存した形で媒介されることを意味する。結論として、これらのデータは、Angptl3のFBN様ドメイン内の3つ全ての領域がレセプター結合部位であることを示す。
表2

【0176】
実施例6
細胞接着アッセイ
A.インテグリン媒介Angptl3細胞接着の同定
Angptl3に結合する潜在的なインテグリンを同定するために、96ウェル平底マイクロタイタープレート(MaxiSorp, Nunc, デンマーク)を、組換えAngptl3タンパク質で終夜4℃で被膜し、PBS中100μg/ml BSAで1時間37℃で遮断した。IIbIIIa(αIIBβ3)、αvβ3、αvβ1及びαvβ5を含む、異なるインテグリンヘテロ二量体が安定して形質移入された様々な293細胞株を、Angptl3で被膜されたプレートに結合するそれらの能力について検査した。細胞を回収し、1% BSA、1mM CaCl及び1mM MgClを含有する無血清CS−C培地で10細胞/mlに希釈した。細胞を、遮断抗体又はペプチドあり又はなしで、15分間37℃でプレインキュベートし、その後200nM PMAで刺激した。被膜されたウェルに細胞懸濁液(10細胞/ウェル)を加え、プレートを選択した時間37℃でインキュベートした。非接着細胞をPBS洗浄によって除去し、LandegrenのPNAG法(Landegren, U., J. Immunol. Methods, 67:379-388 (1984))を用いて細胞付着性を測定した。結果は、3つのウェルの平均OD405値で表す。
【0177】
検査した安定細胞株のうち、他の細胞株と比較してαvβ3を発現する細胞が、Angptl3への付着性の著しい増加を示した(図7B)。ゆえに、これらの発見は、組換えヒトAngptl3がαvβ3インテグリンに特異的に結合することを実証する。これは、低酸素状態及びVEGFに曝された内皮細胞がより効果的にAngptl3に結合したという先の観察と一致する。
【0178】
B.αvβ3によるAngptl3細胞接着の媒介
インテグリンは、それらのリガンドによって活性化されたとき、細胞接着や細胞移動といった生物学的反応を誘発することが知られている。Angptl3が原発性ヒト内皮細胞にそういった影響を及ぼすか、及びαvβ3がこれらの反応を媒介するのに十分かを検査するために実験を設計した。内皮細胞接着アッセイでの検査時、Angptl3は、インキュベーション後4時間以内に堅牢な用量依存的接着を誘発した(図7C)。観察されたレベルは、細胞がビトロネクチン、αvβ3の原型的リガンド、に蒔かれたときに得られたレベルに匹敵した(データは示さず)。
【0179】
αvβ3インテグリンがAngptl3細胞接着を媒介するのに十分か決定するために、遮断抗体又は抑制ペプチドを、細胞接着アッセイで接着を抑制するそれらの能力について検査した。機能遮断抗体を、Angptl3被膜ウェルとインキュベーションする前に内皮細胞に添加した。α5β1又はαvβ5に対する機能遮断抗体の存在は、Angptl3(20μg/ml)で被膜された培養皿へのHMVECの接着を阻害しなかったが、αvβ3特異的抗体は接着を完全に遮断した(図7D)。一般的なコントロールとして、それらのリガンドに結合するインテグリンを排除するEDTA(10mM)を、結合実験に加えた。図7Dに示したように、二価カチオンへのインテグリン依存性の阻害は、内皮細胞接着を完全に阻止した。
【0180】
実施例7
細胞移動アッセイ
内皮細胞上でのインテグリン活性の別の特徴は、リガンド刺激に対するそれらの移動反応であるため、内皮細胞の移動の誘発に及ぼすAngptl3の影響を研究するために移動アッセイを展開した。
【0181】
T. V. Byzova等, Exp. Cell Res., 254:299-308 (2000)に記載の移動アッセイでAngptl3を検査した。移動アッセイは8μm孔サイズを有するHTS Multiwell組織培養挿入物(Becton Dickinson, ニュージャージー)を使用する。Angptl3タンパク質をPBS中50ng/μlに希釈し、膜フィルタの表面をアンダーコートするために使用した。3%BSA/PBSでプレコートした後、フィルタを500μl 無血清CS−C培地、1% BSA、1mM CaCl、に配置した。HMVECを3回PBSで洗浄し、回収し、上述したように補完された無血清培地で、10細胞/mlで懸濁した。細胞を、遮断抗体(25μg/ml)あり又はなしで、15分間37℃でプレインキュベートし、その後PMA(200nM)で刺激した。細胞懸濁液(250μl)を上方チャンバーに加え、5% CO加湿インキュベーター内で細胞を終夜37℃で移動させた。インキュベーション後、トップウェルに残っている細胞をスワブを用いて除去し、膜の下方表面に移動した細胞をメタノールで固定し、YO-PRO-1ヨウ化物(Molecular Probes)で染色した。移動結果は、Openlabソフトウェア(Improvision, マサチューセッツ)を用いて、細胞/顕微鏡視野の平均数として定量した。
【0182】
Angptl3を内皮細胞に16ないし20時間曝した後、BSAコントロール処理と比較して細胞移動の2.5倍の増加(図7E)が観察された。最も重要なことだが、このような移動は、αvβ3に対するアンタゴニスト抗体の投与によって遮断されたのであり、他のインテグリンを遮断するコントロール抗体によって遮断されたのではない。結論として、Angptl3は、原発性ヒト内皮細胞の移動を潜在的に誘発し、双方の活性はαvβ3に対するアンタゴニスト抗体によって遮断される。
【0183】
実施例8
Angptl3の組織発現
A.インサイツハイブリダイゼーション
上述したようにインサイツハイブリダイゼーションを行った(Lu, Cell Vision 1:169-176 (1994))。PCRプライマー
上流:5' T7プロモーター:GGATTCTAATACGACTCACT ATAGGGC(配列番号6)+GGCATTCCTGCTGAATGTACC(hAngptl3特異的配列、配列番号7)3'及び
下流:5' T3プロモーター:CTATGAAATT AACCCTCACTAAAGGGA(配列番号8)+ ACCACACTCATCATGCCACCA(hAngptl3特異的配列、配列番号9)3'
を、ヒトAngptl3の506-bp断片を増幅するために設計し、
上流:5' T7プロモーター:GGATTCTAATACGACTCACTATAGGGC(配列番号6)+5' GATGACCTTCCTGCCGACTG(mAngptl3特異的配列、配列番号11)3'及び
下流:T3プロモーター:CTATGAAATTAACCCTCACTAAAGGGA (配列番号8)+5' GTCATTCCACCACCAGCCA(mAngptl3特異的配列、配列番号13)。プライマーには、それぞれ増幅産物からセンス又はアンチセンスのリボプローブのインビトロ転写を可能にするために、27ヌクレオチドT7又はT3 RNAポリメラーゼ開始部位をコードする伸展部が含まれていた。ヒト組織の5μm厚切片を脱パラフィン処理し、20μg/mlプロテイナーゼKで15分間37℃で脱タンパクし、2×SSCでリンスし、段階的エタノール濃度で脱水し、プレハイブリダイゼーションバッファーで11−4時間インキュベートした。マウス組織を、4μg/mlプロテイナーゼKで30分間37℃で分解し、上述したように処理した。33P-UTP標識されたセンス及びアンチセンスプローブを終夜55℃で切片にハイブリッド形成した。20mg/ml RNaseAで30分間37℃でインキュベーションし、次いで0.1×SSCで2時間55℃での高度のストリンジェンシー洗浄を行い、段階的エタノール濃度で脱水することによって、非結合プローブを除去した。スライドをNBT2核軌道乳剤(Eastman Kodak, ニューヨーク)に浸漬し、乾燥剤入りの密封したプラスチックスライドボックスで4週間4℃で露出し、展開し、ヘマトキシリン及びエロシンで対比染色した。
【0184】
図8Cに示したように、E15及びE18マウス胚からの胚期の肝臓の切片に肝細胞特異的発現が観察された。分析した胚期の切片内の巨核球、内皮細胞又は赤血球前駆体でのAngptl3発現はなかった。
【0185】
B.ノーザンブロット分析
成体ヒト組織でのAngptl3発現を研究するために、上述したようにコード配列の5’端を覆う放射標識されたプローブを用いて多組織ノーザンブロット分析を行った。肝臓で独占的に発現されることがわかったマウスオルソログAngptl3での前の観察(Conklin等, Genomics 62:477-82 (1999))と対照的に、ヒトAngptl3の発現は、成体の肝臓及び腎臓で見出されたが、腎臓で観察されたシグナルは著しく低かった(図8A)。骨格筋組織でいくらかの弱いシグナルが見られたことを除いて、肺及び脳を含む分析した他の成体組織では発現が見られなかった。ヒト及びマウス標本由来の様々な正常及び罹患組織に対するインサイツハイブリダイゼーション実験によって、Angptl3 mRNA発現の細胞局在を調査した。組織は、全ての主要な器官、骨髄、病的な肝組織、例えば肝硬変、転移性肝腺癌及びアセトミノフェンが誘発する肝毒性のケースからの切片を含む。図8Bに示したように、何らかのバックグラウンド発現が正常な成体肝臓で見られ、ノーザンブロット分析データを裏付けた。分析した肝腫瘍サンプルでの発現に変化はなかったが、例えば肝硬変や毒性傷害後の、炎症と関連した罹患肝臓に由来する切片には強い誘発が観察された。高い倍率で拡大した図に示したように、肝細胞特異的発現が、正常な肝組織と罹患した肝組織の双方で見られた(図8C)。罹患組織内又はその周辺の間質細胞、リンパ球及び内皮細胞に、発現は検出されなかった。
【0186】
要約すれば、これらのデータは、胚発生中のAngptl3に関する肝細胞特異的発現パターンと、炎症と関連した罹患肝臓の様々なケースにおける強い肝細胞特異的上方制御とを実証する。
【0187】
C.遺伝子発現プロファイリング
癌及び非癌を含む正常及び罹患状態を示しているヒト組織のGeneLogicデータベースを用いて、遺伝子発現分析をAngptl3について行った。
【0188】
GeneLogic遺伝子発現データベースを用いて、ヒト肝臓切片のインサイツハイブリダイゼーションによって同定された肝疾患状態における発現の増加(図8B)を確認した。Angptl3の基礎レベルは、肝臓を除いてほとんどの組織及び器官で低かった。正常状態と病的状態の間のAngptl3の発現レベルの著しい上昇が、肝臓、心臓及び甲状腺で見られた。様々な形態の肝疾患を患っている患者由来のサンプルを用いた、Angptl3発現についてのより詳細なサブタイプ分析によって、肝硬変中のAngptl3の最も強い発現が確認された。興味深いことに、GeneLogicデータベース分析によって、病的な肝臓だけでなく、冠状動脈性心臓病及び肥大性心筋症といった心臓病においてもAngptl3発現が強く誘発されることが明らかになった。Angptl3の発現レベルの上昇と関連した疾患形態は、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン及びラミニン(これらECM分子は全て特異的インテグリン形態に結合することが知られている)を含む多種多様の細胞外マトリクスタンパク質からなる線維化組織の形成を共通して有する。
【0189】
実施例9
Angptl3のインビボ血管新生活性についてのアッセイ
Angptl3がラット角膜でインビボ血管新生反応を誘発できたか検査するために、マウス及びヒトAngptl3(500ng)及びヒトVEGF(100ng)を含有するヒアルロン・ペレットを別個に又は組合わせて上述したように注入した(Xin等, J. Biol. Chem., 274:99116-9121 (1999))。賦形剤(コントロール、マウス又はヒトAngptl3(500ng)、VEGF(100ng)、又はマウス又はヒトAngptl3(500ng)及びVEGF(100ng)の組合わせ)を含有するハイドロン・ペレットを、250ないし300gの雄Sprague-Dawleyラットの角膜に注入した。全てのハイドロン・ペレットが100ngのスクラルフェートを含んだ。6日目に、動物を安楽死させ、脈管構造を可視化するためにフルオレセインイソチオシアネート-デキストランを注入した。角膜のホールマウントを除核した眼球から作り、コンピュータ支援画像分析(Image Pro-Plus 2.0, Silver Spring, メリーランド)を用いて新生血管領域について分析した。角膜血管新生アッセイでの検査においてアンジオポエチン1及び2の効果に焦点を合わせた先の報告(Asahara等, Circ. Res. 83:233-40 (1998))と対照的に、ペレット注入の5日後、組換えAngptl3のみが強い血管新生反応を誘発した。図9A及びBに示したように、Angptl3は、組換えヒトタンパク質と比較してわずかに強く血管新生を誘発したが、どちらの反応もVEGFについて得られたレベルに匹敵した。VEGFとの組合わせ処置では、相乗効果ではなく追加効果が観察された(図9B)。これらの発見は、双方のリガンドが関与する相互依存的シグナル伝達経路を反映するものであり得る(Byzova等, Mol. Cell. 6:852-60 (2000))。
【0190】
実施例10
Angptl3のインビボ生物学的活性
A.Angptl3の静脈内及び皮内投与の一過的保護効果と長期的効果
手段
アデノウイルス生成:AdEasyアデノウイルスベクター系(Stratagene)を用いて原則的に製造者の指示に従い、アデノウイルスCMV−gD−mAngptl3、CMV−lacZ及びmVEGF164を生成した。マウスAngptl3又はVEGFをコードする組換えアデノウイルスベクターを、Angptl3又はVEGFのコード領域をStratageneからのAd-easyベクター構築キットのポリリンカー部位へクローニングすることによって、構築した。mAngptl3又はVEGFのコード領域は、pShuttleCMVベクターのNot IとHind III部位の間でクローニングした。供給されたpShuttleCMV-lacZとともに、これらのベクターを、BJ5183エレクトロコンピテント・バクテリア(Stratagene)で、E1及びE3領域が除かれたAd5ゲノムを含むAdEasyベクターと組換えした。組換えAdEasyプラスミドをホストHEK293細胞に一過性形質移入することによって、第一のウイルスストックを準備した。アデノウイルスストックをHEK293細胞でさらに増幅させ、Virakit Adeno精製キット(Virapur)を用いて精製した。アガロース・オーバーレイ・プラーク・アッセイでアデノウイルス力価を得た。
【0191】
1.Angptl3の短期的静脈内投与の保護効果
毒性傷害からの肝臓保護の短期的分析のために、尾静脈注射によって12の成体BalbCマウスにアデノウイルスコンストラクトを投与し、用量1×10PfuのmAngptl3及びLacZコード化コントロールウイルス、及び1×10PfusのVEGFコード化ウイルスで処置した後2日から3週間にわたって肝臓でタンパク質を連続的且つ堅牢に発現させた。アデノウイルスベクターでの処置の5日後、マウスを2つのサブグループ(n=6)に細分し、賦形剤(オリーブオイル)か又はCCl4(四塩化炭素)、肝損傷を誘発する強い肝細胞毒素、での処置をさらに施した。賦形剤及びCCl4は双方とも、強制経口投与により4ml/kgで与えた。48時間後、動物を屠殺し、血液を集め、組織を回収し分析のために固定した。マウスでのコンストラクトの発現レベルを、アデノウイルス感染の7日後にウェスタンブロット分析によって分析した(図10A)。
【0192】
結果
Angptl3をコードするアデノウイルスで処置されたマウスからの血清において、肝不全のインジケーターであるアスパラギン酸トランスフェラーゼ(AST)の血中濃度が有意に2.1倍低下したが、コントロールコンストラクト(P<0.0001)での処置ではいずれの場合も低減しなかったことにより、CCl4が誘発する肝細胞壊死に及ぼすAngptl3の保護効果が実証された(図10B)。しかして、組換えAngptl3の一時投与は肝臓損傷の治療に有益であり得る。
【0193】
2.Angptl3の長期にわたる静脈内発現による肝臓損傷の誘発
Angptl3レベルの上昇の長期的効果を評価するために、上述したようにAngptl3をコードするアデノウイルスベクターで処置したマウスを、ウイルス伝播後2週間にわたって、特徴付けた。
【0194】
a.血液化学分析
肝機能を示す血液化学レベルを、アデノウイルス伝播後2週間にわたって、野生型C57B16マウスから採取した血清サンプルで測定した。血液学Cell-Cyn 13700と血液化学レベルをCobas Integra 400で決定した。
【0195】
図11Aに示したように、Angptl3をコードするアデノウイルスベクターは、血清ALT及びASTレベルの強い上昇を誘発したが、LacZ又はアンジオポエチン1(Ang1)をコードするコントロールウイルスは上昇を誘発しなかった。血清ALT及びASTレベルの上昇は、四塩化炭素処置で観察されるALT及びASTレベルに匹敵した。従って、Angptl3活性の阻害は、肝臓の炎症性疾患又は心臓の疾患に対する潜在的治療となり得る。
【0196】
免疫系の潜在的寄与をさらに評価するために、B及びT細胞の欠如した免疫障害のあるRAG2ノックアウトマウスと、B、T及びナチュラルキラー(NK)細胞の欠如したSCIDマウスとで、肝機能を示す血液化学レベルを測定した。図11Bに示したように、Angptl3をコードするアデノウイルスベクターは、RAG2マウスでALT及びASTレベルの上昇を誘発した。これはAngptl3によって誘発される肝機能の変化が、無傷の免疫系の存在に関係なく起こることを示唆する。
【0197】
b.肝細胞の増生
RAG2ノックアウトマウス及びSCIDマウスにおける、Angptl3を発現するアデノウイルスベクターでの処置の効果をさらに特徴付けるために、Angptl3を発現するアデノウイルスベクター又はコントロールアデノウイルスベクターのいずれかで処置されたRAG2ノックアウトマウス及びSCIDマウスの、ホルマリンで固定されBrdUが加えられた様々な器官、例えば腎臓、心臓、肝臓、肺及び小腸での細胞増生を定量化した。アデノウイルス投与(IV)14日後のコントロール又はAngptl3処置されたマウスのパラフィン包理された切片上の、細胞周期のSフェーズにある細胞を検出するBrdU染色を行い、細胞増生を測定した。BrdUは、用量100mg/kgで動物に腹腔内投与し、1時間後に屠殺した。37℃で0.05%のトリプシンで20分間処置し、変性のために70℃で0.15Mクエン酸三ナトリウム中95%のホルムアミドで45分間処置した後、1:1000の希釈でIdU/BrdU(Caltag)に対するマウス抗体で終夜4℃で組織を染色した。マウスIgG(Vector)に対するビオチン化ウマ抗体を二次試薬として用いて、Vectastin ABC Standard Eliteキット(Vector Laboratories)を使用して検出した。マウスアイソタイプ(Zymed)をネガティブコントロールとして使用した。次いで切片をヘマトキシリンで対比染色した。40x対象を用いて無作為に選択した、10の独立した分野の標識された核の総数を数えた。各分野は0.063mmの領域をカバーした。
【0198】
表3に示したように、10倍を超える肝細胞増生の誘発が、Angptl3を発現するアデノウイルスベクターで処置されたRAG2ノックアウトマウス及びSCIDマウスで観察された。
表3:コントロールで処置したものと比較して、Angptl3で処置したRAG2ノックアウトマウス及びSCIDベージュマウスの処置後14日目の肝臓切片で増加したBrdU染色

【0199】
c.組織学的分析
アデノウイルスベクターで感染させた後14日目にC57/B16から回収した肝臓切片に、組織学的分析を行った。LacZをコードするアデノウイルスベクターで処置したコントロールマウスから単離した肝臓との比較において、肝細胞内での細胞増生と炎症性浸潤を示す有糸分裂像の増加が、Angptl3をコードするアデノウイルスベクターで処置したマウスから単離した肝臓切片に観察された。Angptl3で処置した動物の肝臓はまた、コントロールで処置した動物の肝臓よりも有意に大きかった。
【0200】
d.FACS分析
免疫細胞上に発現したLFA1及びMac-1は、インビボELISAアッセイでの検査時、組換えAngptl3に結合しなかった(Camenisch等, 2002)が、免疫細胞上に発現するインテグリンファミリーの他のメンバーはAngptl3と関与し得る。
【0201】
炎症細胞が、CCLF1を発現するアデノウイルスベクターで処置したマウスの肝臓で観察される組織損傷の一因となる可能性を研究するために、細胞タイプ特異的マーカーに染まる様々な系統の存在を調べるためにFACSによって末梢血液細胞の量を決定した。LacZ又はAng1を発現するコントロールアデノウイルスベクターで処置したマウスと、Angptl3を発現するアデノウイルスベクターで処置したマウスとでは、前駆体(Sca1)、T細胞(CD4及びCD8)、B細胞(B220)、マクロファージ(Gr1/Mac1)及び赤血球細胞(Ter119)の量に有意な違いがないことがわかった。同様に、処置グループ間で、血清グリセリド及びコレステロールの量にも違いは観察されなかった。
【0202】
e.細胞接着分析
肝損傷の媒介に関与する細胞メカニズムをさらに調査するために、Angptl3で被膜された組織培養皿上の肝細胞及び内皮細胞を用いた細胞接着実験を、実施例6に示した細胞接着アッセイと同様に行った。
【0203】
96ウェル平底プレート(MaxiSorp, Nunc, デンマーク)を、示した濃度のタンパク質で終夜4℃で被膜し、PBS中3% BSAで1時間37℃で遮断した。LeCouter等(LeCouter等, 2001)に記載の手段を用いて成体C57/B16マウスの肝臓から準備した単離したばかりのマウス肝細胞、及び原発性ヒト真皮内皮細胞(HMVEC)を回収して、200nM PMAの存在下で、1% BSA、1mM CaCl及び1mM MgClを含有する無血清CS−C培地で10細胞/mlに希釈した。PMAの非存在下で、細胞結合に関して定性的に同様の結果が観察された。被膜されたウェルに細胞懸濁液(10細胞/ウェル)を加え、プレートを選択した時間37℃でインキュベートした。非接着細胞をPBS洗浄によって除去し、LandegrenのPNAG法(Landegren, 1984)を用いて細胞付着性を測定した。結果は、3つのウェルの平均OD405値で表した。
【0204】
図13に示したように、Angptl3で被膜された皿へのHMVEC接着は、フィブロネクチンで被膜されたプレートについて観察された接着レベルの20%から50%の間であった。肝被膜濃度に依存した細胞接着もまた観察した。しかして、肝細胞及び内皮細胞は、Angptl3で処置されたマウスの肝臓で観察された生物学的効果の媒介に関与し得る。
【0205】
3.Angptl3の皮内投与による血管透過性の亢進
成体マウスで一過性Angptl3発現によって誘発される血管変化を研究するために、成体FVBマウスの耳の表皮層に、麻酔をかけて総量10μlのアデノウイルス発現ベクター(1×10-9 PFU)を投与し、エバンスブルーアッセイを用いて血管透過性の変化についてさらに分析した。簡単に言うと、最初からエバンスブルーアッセイの間中、マウスに麻酔をかけた。麻酔効果の発現後、100μlのエバンスブルー(PBS中1%溶液)をマウスに尾静脈注射によって静脈内投与した。エバンスブルー投与の60分後、120mmHgの圧力で、pH3.5のクエン酸バッファー中1%パラホルムアルデヒドを、左心室からマウスに灌流させた。耳を切り離し重さを量った。エバンスブルーを1mLのホルムアミドで耳から抽出した。滲出したエバンスブルーの量を、分光光度計を用いて610nmで測定し、組織の湿重量1mgあたりの含有色素として示した。
【0206】
結果
LacZを発現するコントロールアデノウイルスベクターを投与したマウスでの血管透過性レベルと比較して、Angptl3又はVEGFを発現するアデノウイルスベクターを皮内投与したマウスの耳での血管透過性は、エバンスブルーアッセイで測定したところ、投与の6日後に増加が観察された(図12D)。
【0207】
B.K5−mAngptl3を発現するトランスジェニックマウスにおける血管透過性の亢進
別の方法で、発育中及び成体で恒常的に発現される角化細胞特異的プロモーターの制御下で、マウスAngptl3を発現するトランスジェニックマウスを作製することによって、皮膚での上昇したAngptl3発現レベルの発生効果を研究した。
【0208】
1.初代トランスジェニックマウス
マウスK5プロモーターの制御下でAngptl3の発現を可能にするコンストラクトであるK5−gD−mAng5を用いて、標準的な手順(Filvaroff等, 2002)で初代トランスジェニックマウスを作製した。K5−gD−mAng5コンストラクトを生成するために、Angptl3からNotI−NotIを取り除き、pNASSK5β NotI−NotI−SAPに挿入し、K5−gD−mAng5を生じさせた。
【0209】
合計17のトランスジェニック初代株を作製した。以下のプライマーセット:
gD-mAng5.311.F:ATATGCCTTGGCGGATGC(配列番号:32);及び
gD-mAng5.578.R:ATGGACAAAATCTTTAAGTCCATGAC(配列番号:33)
を用いてマウス尾部DNA(QIAGEN, サンタクラリタ, カリフォルニア)のPCRによって生後9日目にマウス胎仔の遺伝子型を特定した。
【0210】
8週齢で、筋肉、腎臓、肝臓、脾臓、皮膚、脳、胸腺及び腸を含む、複数の組織の生検を採取し、Angptl3の内因性及び導入遺伝子発現レベルを決定するためにリアルタイムRT−PCRを行った。RT−PCR分析については、内因性及び導入遺伝子転写を測定できるように設計された以下のプローブ及びプライマー:
MMAng5.1165.FP:FAM-CTCCCAGAGCACACAGACCTGATGTTTTTAMRA(配列番号:34)
MMAng5.1144.F:GCTGGCAATATCCCTGGG(配列番号:35)
MMAng5.1223.R:AGCTGTCCCTTTGCTCTGTGA(配列番号:36)
を用いた。
【0211】
マウスK5プロモーター下でAngptl3を発現するトランスジェニックマウス間での相違の統計的分析をスチューデントのt検定によって決定し、P<0.05の値を統計学的に有意差あり、P<0.01の値を非常に有意差ありとした。
【0212】
2.継代トランスジェニックマウス
全ての初代トランスジェニックマウスの皮膚生検からの遺伝子発現分析に基づいて、5つの最も高度にAngptl3を発現している初代を同定し、さらにC57/B16マウスに交配した。遺伝子型頻度分析によって、導入遺伝子の正常なメンデル遺伝子頻度分布が明らかになり、導入遺伝子発現と関連する有意な生後致死性は観察されなかった。
【0213】
a.導入遺伝子発現
提示した様々な組織からのRNAを単離し、特に肝臓における、内因性発現に対する導入遺伝子発現の相対的レベルをリアルタイムRT−PCRで評価した。
【0214】
予想されたように、マウスAngptl3発現レベルの上昇が、トランスジェニック対リットルが同等の野生型コントロールの皮膚で観察された。皮膚でのAngptl3の導入遺伝子発現は、肝臓での内因性Angptl3発現レベルの約10%に達した(図12A)。
【0215】
さらに、野生型マウスと比較して、12週齢のトランスジェニックマウスの肺及び脳において中程度の発現が観察された。従って、肺及び脳での発現は、これらの組織でのK5プロモーターの転写活性の増加によるものであり得る。
【0216】
ノーザンブロット分析によって成体ヒト腎臓に見られた中程度のAngptl3発現(図8A)の裏付けとして、マウス腎臓RNAのTaqman分析によってAngptl3の中程度の内因性発現レベルを明らかにした。
【0217】
長期にわたって生後の導入遺伝子発現をモニターするために、3、6及び11週齢のトランスジェニックマウスの皮膚生検から単離したRNAでRT−PCR分析を行った。図12Bに示したように、検査した全発育段階において、一貫したレベルの導入遺伝子発現がトランスジェニックマウスの皮膚で観察された。
【0218】
b.血管透過性
導入遺伝子発現データに基づき、12週齢のトランスジェニック及びリットルが同等の野生型コントロールを選択し、血管新生分子のアンジオポエチンファミリーの構造上関連した2つのメンバーであるAng1及びAng2について行われた(Maisonpierre等, 1997;Thurston等, 2000;Thurston等, 1999)ような、及び上述したようなエバンスブルーアッセイを用いて血管透過性についてアッセイを施した。血管透過性を上述したようにエバンスブルーアッセイで測定した。エバンスブルー分析を行った11週齢のトランスジェニック株は双方とも、リットルが同等の野生型株と比較して、基礎レベルの血管透過性が約2ないし3倍と有意に亢進した(図12C)。しかし、エバンスブルーアッセイ分析を行う前にマウスにからし油を投与した場合、トランスジェニックマウスとリットルが同等の野生型マウスとの血管透過性の相違はそれほど顕著ではなかった。従って、リットルが同等の野生型マウスに対するトランスジェニックマウスでの血管透過性の亢進は、血管透過性の調節におけるAngptl3の役割を示し得る。
【0219】
材料の寄託
上述したように、以下の材料はAmerican Type Culture Collection, 12301 Parklawn Drive, Rockville, MD, USA (ATCC)に寄託されている:
材料 ATCC寄託番号 寄託日
Angptl3-DNA16451-1078 209281 1997年9月18日
【0220】
これらの寄託は、特許手続き上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約及びその規則(ブダペスト条約)の規定に従って行われた。これは、寄託の日付から30年間、寄託の生存可能な培養が維持されることを保証するものである。寄託物はブダペスト条約の条項に従い、またジェネンテック・インコーポレーテッドとATCCとの間の合意に従い、ATCCから入手することができ、これは、どれが最初であろうとも、関連した米国特許の発行時又は任意の米国又は外国特許出願の公開時に、寄託培養物の後代を永久かつ非制限的に入手可能とすることを保証し、米国特許法第122条及びそれに従う特許庁長官規則(特に参照番号886OG683の37CFR第1.14条を含む)に従って権利を有すると米国特許庁長官が決定した者に子孫を入手可能とすることを保証するものである。
【0221】
本出願の譲受人は、寄託した培養物が、適切な条件下で培養されていた場合に死亡もしくは損失又は破壊されたならば、材料は通知時に同一の他のものと即座に取り替えることに同意する。寄託された材料の入手可能性は、特許法に従いあらゆる政府の権限下で認められた権利に違反して、本発明を実施するライセンスであるとみなされるものではない。
【0222】
本明細書は、当業者に本発明を実施できるようにするために十分であると考えられる。記載した実施態様は、本発明のある側面の1つの説明として意図されており、機能的に等価なあらゆる構築物がこの発明の範囲内にあるため、寄託された構築物により、本発明の範囲が限定されるものではない。ここでの材料の寄託は、本明細書が、そのベストモードを含む、本発明の任意の側面の実施を可能にするために不十分であることを認めるものではないし、請求の範囲をそれが表す特定の例示に制限するものと解釈されるものでもない。実際、ここで示され説明された例に加えて、本発明の様々な変形が、上述した説明から当業者には明らかになるであろうし、それらは請求の範囲に含まれる。
【0223】
実施態様
1. Angptl3のアンタゴニストを用いて組織を治療することを含んでなる、Angptl3の過剰発現を特徴とする組織損傷の治療方法。
2. 組織が肝組織である請求項1に記載の方法。
3. 組織損傷が炎症に関連している請求項2に記載の方法。
4. 組織損傷が慢性肝疾患に関連している請求項3に記載の方法。
5. 組織損傷が肝腫瘍に関連している請求項2に記載の方法。
6. 組織が心臓組織である請求項1に記載の方法。
7. 組織損傷が炎症に関連している請求項6に記載の方法。
8. 組織損傷がAngptl3の上昇発現を特徴とする心疾患に関連している請求項6に記載の方法。
9. アンタゴニストが抗Angptl3抗体、又は抗αvβ3抗体である請求項1に記載の方法。
10. アンタゴニストがイムノアドヘシンである請求項1に記載の方法。
11. 必要とする哺乳類対象体に有効量のAngptl3のアンタゴニストを投与することを含んでなる、哺乳類対象体における慢性肝疾患の治療方法。
12. 慢性肝疾患がAngptl3の上昇発現を特徴とする請求項11に記載の方法。
13. アンタゴニストが抗Angptl3又は抗αvβ3抗体である請求項11に記載の方法。
14. 対象体に有効量のAngptl3のアンタゴニストを投与することを含んでなる、哺乳類対象体における、Angptl3の上昇発現を特徴とする心臓病の治療方法。
15. アンタゴニストが抗Angptl3抗体、又は抗αvβ3抗体である請求項14に記載の方法。
16. 必要とする哺乳類対象体に、配列番号2のヒトAngptl3配列と少なくとも80%の配列同一性を持つアミノ酸配列を有する治療有効量のポリペプチド又はそのアゴニストを投与することを含んでなる、急性肝疾患の治療方法。
17. 前記ポリペプチドが、配列番号2のヒトAngptl3配列のアミノ酸領域281−293(P1, 配列番号14)、442−460(P2, 配列番号15)、及び415−430(P3, 配列番号17)を有する請求項16に記載の方法。
18. 前記ポリペプチドが、配列番号2のヒトAngptl3配列のフィブリノゲンドメインを有する請求項16に記載の方法。
19. 付加的な治療薬の投与をさらに含んでなる請求項16に記載の方法。
20. 前記アゴニストが、Angptl3又はαvβ3に特異的に結合するアゴニスト抗体である請求項16に記載の方法。
21. 必要とする哺乳類対象体に、配列番号2のヒトAngptl3配列と少なくとも80%の配列同一性を持つアミノ酸配列を有する治療有効量のポリペプチド又はそのアゴニストを投与することを含んでなる、急性肝傷害後の肝再生誘発方法。
22. 配列番号2のヒトAngptl3配列と少なくとも80%の配列同一性を持つアミノ酸配列を有する有効量のポリペプチド又はそのアゴニストで組織を治療することを含んでなる、組織における血管新生誘発方法。
23. 組織が肝組織である請求項22に記載の方法。
24. 組織が心臓組織である請求項22に記載の方法。
25. 有効量のAngptl3のアンタゴニストで組織を治療することを含んでなる、組織における血管透過性の望ましくない亢進の抑制方法。
26. 組織が肝組織である請求項25に記載の方法。
27. 組織が心臓組織である請求項25に記載の方法。
28. ヒト対象体の心臓組織におけるAngptl3 mRNA又はその発現産物のレベルを、正常な心臓組織におけるAngptl3又はその発現産物のレベルと比べて決定することと、該対象体の心臓組織におけるAngptl3 mRNA又はその発現産物のレベルが正常な心臓細胞と比べて高い場合、該対象体を危険性があるとして同定することを含んでなる、心臓血管疾患の危険性があるヒト対象体の同定方法。
29. 対象体の肝組織におけるAngptl3 mRNA又はその発現産物のレベルを、正常な肝組織におけるAngptl3又はその発現産物のレベルと比べて決定することと、該対象体の肝組織におけるAngptl3 mRNA又はその発現産物のレベルが正常な肝細胞と比べて高い場合、該対象体を危険性があるとして同定することを含んでなる、肝損傷の危険性があるヒト対象体の同定方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Angptl3のアンタゴニストを用いて組織を治療することを含んでなる、Angptl3の過剰発現を特徴とする組織損傷の治療方法。
【請求項2】
組織が肝組織である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
組織損傷が炎症に関連している請求項2に記載の方法。
【請求項4】
組織損傷が慢性肝疾患に関連している請求項3に記載の方法。
【請求項5】
組織損傷が肝腫瘍に関連している請求項2に記載の方法。
【請求項6】
組織が心臓組織である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
組織損傷が炎症に関連している請求項6に記載の方法。
【請求項8】
組織損傷がAngptl3の上昇発現を特徴とする心疾患に関連している請求項6に記載の方法。
【請求項9】
アンタゴニストが抗Angptl3抗体、又は抗αvβ3抗体である請求項1に記載の方法。
【請求項10】
アンタゴニストがイムノアドヘシンである請求項1に記載の方法。
【請求項11】
必要とする哺乳類対象体に有効量のAngptl3のアンタゴニストを投与することを含んでなる、哺乳類対象体における慢性肝疾患の治療方法。
【請求項12】
慢性肝疾患がAngptl3の上昇発現を特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
アンタゴニストが抗Angptl3又は抗αvβ3抗体である請求項11に記載の方法。
【請求項14】
対象体に有効量のAngptl3のアンタゴニストを投与することを含んでなる、哺乳類対象体における、Angptl3の上昇発現を特徴とする心臓病の治療方法。
【請求項15】
アンタゴニストが抗Angptl3抗体、又は抗αvβ3抗体である請求項14に記載の方法。
【請求項16】
必要とする哺乳類対象体に、配列番号2のヒトAngptl3配列と少なくとも80%の配列同一性を持つアミノ酸配列を有する治療有効量のポリペプチド又はそのアゴニストを投与することを含んでなる、急性肝疾患の治療方法。
【請求項17】
前記ポリペプチドが、配列番号2のヒトAngptl3配列のアミノ酸領域281−293(P1, 配列番号14)、442−460(P2, 配列番号15)、及び415−430(P3, 配列番号17)を有する請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ポリペプチドが、配列番号2のヒトAngptl3配列のフィブリノゲンドメインを有する請求項16に記載の方法。
【請求項19】
付加的な治療薬の投与をさらに含んでなる請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記アゴニストが、Angptl3又はαvβ3に特異的に結合するアゴニスト抗体である請求項16に記載の方法。
【請求項21】
必要とする哺乳類対象体に、配列番号2のヒトAngptl3配列と少なくとも80%の配列同一性を持つアミノ酸配列を有する治療有効量のポリペプチド又はそのアゴニストを投与することを含んでなる、急性肝傷害後の肝再生誘発方法。
【請求項22】
配列番号2のヒトAngptl3配列と少なくとも80%の配列同一性を持つアミノ酸配列を有する有効量のポリペプチド又はそのアゴニストで組織を治療することを含んでなる、組織における血管新生誘発方法。
【請求項23】
組織が肝組織である請求項22に記載の方法。
【請求項24】
組織が心臓組織である請求項22に記載の方法。
【請求項25】
有効量のAngptl3のアンタゴニストで組織を治療することを含んでなる、組織における血管透過性の望ましくない亢進の抑制方法。
【請求項26】
組織が肝組織である請求項25に記載の方法。
【請求項27】
組織が心臓組織である請求項25に記載の方法。
【請求項28】
ヒト対象体の心臓組織におけるAngptl3 mRNA又はその発現産物のレベルを、正常な心臓組織におけるAngptl3又はその発現産物のレベルと比べて決定することと、該対象体の心臓組織におけるAngptl3 mRNA又はその発現産物のレベルが正常な心臓細胞と比べて高い場合、該対象体を危険性があるとして同定することを含んでなる、心臓血管疾患の危険性があるヒト対象体の同定方法。
【請求項29】
対象体の肝組織におけるAngptl3 mRNA又はその発現産物のレベルを、正常な肝組織におけるAngptl3又はその発現産物のレベルと比べて決定することと、該対象体の肝組織におけるAngptl3 mRNA又はその発現産物のレベルが正常な肝細胞と比べて高い場合、該対象体を危険性があるとして同定することを含んでなる、肝損傷の危険性があるヒト対象体の同定方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9A−D】
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【図9E】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−100624(P2010−100624A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−259497(P2009−259497)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【分割の表示】特願2003−545797(P2003−545797)の分割
【原出願日】平成14年11月13日(2002.11.13)
【出願人】(509012625)ジェネンテック, インコーポレイテッド (357)
【Fターム(参考)】