説明

アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性の判定方法及び判定装置

【課題】アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を高い精度で判定することができる、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性の判定方法及び判定装置を提供する。
【解決手段】アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されていないがん細胞におけるCDK1の活性に関する情報とアンスラサイクリン系抗がん剤で処理されたがん細胞におけるCDK1の活性に関する情報とに基づいて、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性の判定方法及び判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
抗がん剤による治療の有効性、抗がん剤に対する細胞の感受性等を判定する方法として、例えば、サイクリン依存性キナーゼの発現量の値、活性値、及び発現量と活性値との比のうちの少なくとも1つをパラメータとして用いる方法が知られている(特許文献1〜4を参照のこと)。
【0003】
例えば、特許文献1には、抗がん剤治療前の患者から採取した乳癌組織の、CDK1比活性値、CDK2比活性値及びCDK2比活性値/CDK1比活性値の比に基づいて、タキサン系抗がん剤に対する患者の感受性を判定する方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、腫瘍細胞を含む組織から調製した細胞可溶化液の、CDK1比活性又は、CDK2及びCDK4の発現量を測定し、所定の閾値と比較することで、CMF(シクロフォスファミド、メトトレキセート、フルオロウラシルの3剤を併用して投与する療法)による治療の有効性を予測する方法が開示されている。また、CDK2比活性及び/又はp21発現量を測定し、所定の閾値と比較することで、ヒト乳がん細胞の担がんマウスのパクリタキセルの感受性を予測する方法が記載されている。
【0005】
特許文献3には、パクリタキセルを投与したヒト乳がん細胞の担がんマウスの腫瘍組織のCDK1比活性、CDK2比活性、又はp21発現量を測定し、所定の閾値と比較することで、ヒト乳がん細胞の担がんマウスのパクリタキセルの感受性を予測する方法が記載されている。
【0006】
特許文献4には、患者から摘出されたがん組織のCDK2比活性とp21の発現量を測定し、所定の閾値と比較することで、タキサン系抗がん剤の感受性を判定する方法が開示されている。また、CDK2比活性とサイクリンEの発現量の比を所定の閾値と比較することで、CE(シクロフォスファミド、エピルビシンの2剤を併用して投与する療法)の感受性を判定する方法が開示されている。さらに、CDK1比活性を所定の閾値と比較することで、CMFの感受性を判定する方法が開示されている。
【特許文献1】米国公開2007/231837号公報
【特許文献2】米国公開2006/173632号公報
【特許文献3】米国公開2007/003964号公報
【特許文献4】米国公開2007/077658号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定することができる、新規なアンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性の判定方法及び判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
(1) アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されていないがん細胞におけるCDK1の活性値を測定する第1測定ステップ、
アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されたがん細胞におけるCDK1の活性値を測定する第2測定ステップ、及び
第1測定ステップで得られたCDK1の活性値及び第2測定ステップで得られたCDK1の活性値に基づいて、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定する判定ステップ
を含む、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性の判定方法、
(2) がん細胞が、乳癌細胞である(1)に記載の判定方法、
(3) アンスラサイクリン系抗がん剤が、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、アクラルビシン、エピルビシン、オキザウノマイシン又はイダルビシンである(1)又は(2)に記載の判定方法、
(4) 判定ステップが、アンスラサイクリン系抗がん剤の処理によるCDK1の活性値の変化度に基づいて、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定するステップである(1)〜(3)のいずれかに記載の判定方法、
(5) 判定ステップが、変化度と閾値とを比較して、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定するステップである(4)に記載の判定方法、
(6) 変化度が、第1測定ステップで得られたCDK1の活性値と第2測定ステップで得られたCDK1の活性値との差、又は第1測定ステップで得られたCDK1の活性値と第2測定ステップで得られたCDK1の活性値との比率である(4)又は(5)に記載の判定方法、
(7) 判定ステップが、第2測定ステップで得られたCDK1の活性値が、第2測定ステップで得られたCDK1の活性値よりも一定以上減少したときに、がん細胞がアンスラサイクリン系抗がん剤に対して感受性であると判定する、(1)〜(3)のいずれかに記載の判定方法、
(8) アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されていないがん細胞におけるCDK1の活性値及び発現量を測定する第1測定ステップ、
アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されたがん細胞におけるCDK1の活性値及び発現量を測定する第2測定ステップ、
第1測定ステップで得られたCDK1の活性値及び発現量と、第2測定ステップそれぞれで得られたCDK1の活性値及び発現量とに基づいて、アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されていないがん細胞のCDK1の比活性値と、アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されたがん細胞のCDK1の比活性値とをそれぞれ算出する算出ステップ、及び
算出ステップで得られた比活性値に基づいて、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定する判定ステップ
を含む、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性の判定方法、
(9) 判定ステップが、アンスラサイクリン系抗がん剤によるCDK1の比活性値の変化度に基づいて、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定するステップである(8)に記載の判定方法、
(10) 判定ステップが、変化度と閾値とを比較して、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定するステップである(9)に記載の判定方法、
(11) 変化度が、第1測定ステップで得られたCDK1の比活性値と第2測定ステップで得られたCDK1の比活性値との差、又は第1測定ステップで得られたCDK1の比活性値と第2測定ステップで得られたCDK1の比活性値との比率である(9)又は(10)に記載の判定方法、
(12) 判定ステップが、第2測定ステップで得られたCDK1の比活性値が第2測定ステップで得られたCDK1の比活性値よりも一定以上減少したときに、がん細胞がアンスラサイクリン系抗がん剤に対して感受性であると判定するステップである、(8)に記載の判定方法、
(13) アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されていないがん細胞におけるCDK1の活性に関する第1情報とアンスラサイクリン系抗がん剤で処理されたがん細胞におけるCDK1の活性に関する第2情報とを取得する取得部と、
前記第1情報と前記第2情報に基づいて、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定する判定部と、
前記判定部の判定結果を出力する出力部と、
を備えてなる、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性に関する情報を提供するためのアンスラサイクリン系抗がん剤感受性判定装置、
(14) 前記判定部が、アンスラサイクリン系抗がん剤によるCDK1の活性に関する変化度を算出し、算出した変化度に基づいてアンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定する、(13)に記載の装置、並びに
(15) 閾値を記憶する記憶部をさらに備え、
前記判定部が、算出した変化度と閾値を比較し、比較結果に基づいてアンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定する、(14)に記載の装置、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性の判定方法によれば、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定することができる。また、本発明のアンスラサイクリン系抗がん剤の感受性判定装置によれば、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定し、がん患者に対して有効な抗がん剤を選択するに有用な情報を生成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
1. アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性の判定方法
本発明の一実施の形態(実施の形態1)に係るアンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性の判定方法は、アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されていないがん細胞におけるCDK1の活性値を測定する第1測定ステップ、
アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されたがん細胞におけるCDK1の活性値を測定する第2測定ステップ、及び
第1測定ステップで得られたCDK1の活性値及び第2測定ステップで得られたCDK1の活性値に基づいて、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定する判定ステップ
を含む方法である。
【0011】
本実施の形態1に係る判定方法では、第1測定ステップにおいて、アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されていないがん細胞におけるCDK1の活性値を測定する。
【0012】
がん細胞としては、例えば、乳癌細胞、肺癌細胞、肝臓癌細胞、胃癌細胞、大腸癌細胞、子宮頸癌細胞、卵巣癌細胞、膵臓癌細胞、前立腺癌細胞、皮膚癌細胞、脳腫瘍細胞、白血病細胞等が挙げられる。がん細胞は、種々のがんに罹患したがん患者から採取される。本発明の判定方法では、これらのがん細胞のなかでは、乳癌細胞が好適ある。これらのがん細胞は、乳癌、肺癌、肝臓癌、胃癌、大腸癌、子宮頸癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、皮膚癌、脳腫瘍、白血病等の患者から採取することができる。これらのなかでは、乳癌細胞が好ましい。
【0013】
アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されていないがん細胞は、アンスラサイクリン系抗がん剤を含まない適切な培地が入った容器中でがん細胞を培養することで得ることができる。
【0014】
培地としては、がん細胞を生育させるに適した培地であればよい。かかる培地としては、例えば、ダルベッコ改変培地、イーグル最少必須培地、RPMI 1640培地、リーボビッツL15培地などを基本培地として含む培地が挙げられる。これらの培地は、所望により、L−グルタミン、ウシ胎仔血清、インシュリン、グルコース、炭酸水素ナトリウムなどの補添成分が補われている培地であってもよい。培地中におけるこれらの補添成分の濃度は、がん細胞が採取された組織の種類、がんの種類、補添成分の種類などに応じて適宜設定することができる。
【0015】
培地におけるがん細胞の培養条件は、がん細胞が採取された組織の種類、がんの種類などにより異なるため、一概に決定されるものではない。かかる培地でのがん細胞の培養条件は、通常、5体積%二酸化炭素、37℃で培養する条件である。
【0016】
がん細胞を培地で培養した場合、容器中のがん細胞を洗浄し、つぎに、洗浄後のがん細胞を、容器から剥離させる。がん細胞の洗浄には、例えば、リン酸緩衝化生理的食塩水、TrisやHEPES等の緩衝液を含む生理食塩水等を用いることができる。また、容器からのがん細胞の剥離は、例えば、トリプシン‐EDTA溶液(組成:0.25質量%トリプシン、1mM EDTA)等の細胞分散用試薬を洗浄後のがん細胞を添加し、インキュベーションすることにより行なうことができる。剥離後のがん細胞は、例えば、リン酸緩衝化生理的食塩水により洗浄し、回収すればよい。このように回収されたがん細胞について、CDK1の活性値を測定する。
【0017】
CDK1の活性値は、特定のサイクリンと結合して、前記サイクリンをリン酸化する基質の量から算出されるキナーゼ活性のレベル(単位をU(ユニット)で表わす)である。なお、前記CDK1がリン酸化する基質としては、例えば、ヒストンH1等が挙げられる。
【0018】
CDK1の活性値は、慣用のCDK活性測定方法で測定することができる。CDK1の活性値の測定方法としては、放射性物質による標識を用いる方法や、放射性物質による標識を用いない方法が挙げられる。放射性物質による標識を用いる方法としては、具体的には、細胞溶解液から活性型CDK1を含む試料を調製し、当該試料と32P標識したATP([γ−32P]ATP)とを用いて、基質タンパク質に32Pを取り込ませ、32P標識されたリン酸化基質の標識量を測定し、標準品で作成された検量線をもとに定量する方法などが挙げられる。また、放射性物質による標識を用いない方法としては、米国公開2002/164673号公報に記載の方法が挙げられる。米国公開2002/164673号公報に記載の方法は、測定試料の細胞可溶化液から、活性型CDK1を含む試料を調製し、アデノシン5’−O−(3−チオトリホスフェート)(ATPγS)と基質タンパク質を反応させて、該基質タンパク質のセリン残基又はスレオニン残基にモノチオリン酸基を導入し、導入されたモノチオリン酸基の硫黄原子に蛍光標識物質又は標識酵素を結合させることによって基質タンパク質を標識し、標識されたチオリン酸基に基づく標識量(蛍光標識物質を用いた場合には蛍光量)を測定し、標準品で作成された検量線に基づいて定量する方法である。
【0019】
CDK1の活性値の測定に供する試料は、測定対象となるがん細胞の細胞溶解液からCDK1を特異的に採取することにより調製する。がん細胞の細胞溶解液は、界面活性剤を含む溶液等によりがん細胞を溶解させることにより得ることができる。CDK1の活性値の測定に供する試料は、CDK1に特異的な抗CDK1抗体、CDK1/サイクリンA複合体に特異的な抗CDK1/サイクリンA複合体抗体、及びCDK1/サイクリンB複合体に特異的な抗CDK1/サイクリンB複合体抗体などを用いた免疫沈降法により、調製することができる。試料には、活性型CDK1以外のCDKが試料に含まれていてもよい。試料には、例えば、サイクリンA・CDK1複合体又はサイクリンB・CDK1複合体にCDKインヒビターがさらに結合した複合体も含まれる。さらに、試料には、CDK1単独、CDK1とサイクリン(サイクリンA又はサイクリンB)及び/又はCDKインヒビターとの複合体、CDK1とその他の化合物との複合体等が含まれる。したがって、活性値は、活性型CDK1、不活性型CDK1、各種競合反応が混在する状態下で、リン酸化された基質の量により算出される単位(U)として測定される。
【0020】
本発明の判定方法の実施の形態1では、第2測定ステップにおいて、アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されたがん細胞におけるCDK1の活性値を測定する。
【0021】
アンスラサイクリン系抗がん剤は、抗がん作用を有するアンスラサイクリン化合物であればよい。アンスラサイクリン系抗がん剤は、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、アクラルビシン、エピルビシン、オキザウノマイシン及びイダルビシンが好ましい。
【0022】
また、アンスラサイクリン系抗がん剤によるがん細胞の処理は、がん細胞を、アンスラサイクリン系抗がん剤を添加した抗がん剤含有培地で培養することにより行なわれる。
【0023】
抗がん剤含有培地中に含まれるアンスラサイクリン系抗がん剤の量は、がん細胞のアポトーシスや増殖阻害等の抗がん作用が認められる濃度であればよく、一概に決定されるものではない。抗がん剤含有培地中に含まれる抗がん剤の量は、通常、0.1nM〜10000nM、好ましくは10nM〜1000nMである。
【0024】
アンスラサイクリン系抗がん剤によるがん細胞の処理の後、第1測定ステップと同様の操作により、がん細胞を回収し、回収されたがん細胞について、CDK1の活性値を測定する。
【0025】
その後、判定ステップにおいて、第1測定ステップで得られたCDK1の活性値及び第2測定ステップで得られたCDK1の活性値に基づいて、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定する。
【0026】
本実施の形態1に係る判定方法では、判定ステップは、アンスラサイクリン系抗がん剤によるCDK1の活性値の変化度に基づいて、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定するステップであるのが好ましい。アンスラサイクリン系抗がん剤に対して感受性であるがん細胞と、アンスラサイクリン系抗がん剤に対して非感受性であるがん細胞との間において、当該変化度が大きく異なる。したがって、かかる変化度に基づいて、感受性を判定する判定方法によれば、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定することができる。
【0027】
なお、本明細書において、アンスラサイクリン系抗がん剤によるCDK1の活性値の変化度は、第1測定ステップで得られたCDK1の活性値と第2測定ステップで得られたCDK1の活性値の変化の度合いを示すものであればよい。例えば、第1測定ステップで得られたCDK1の活性値と第2測定ステップで得られたCDK1の活性値との差、及び第1測定ステップで得られたCDK1の活性値と第2測定ステップで得られたCDK1の活性値との比率を含む概念をいう。第1測定ステップで得られたCDK1の活性値と第2測定ステップで得られたCDK1の活性値との差としては、例えば、〔[第1測定ステップで得られたCDK1の活性値]−[第2測定ステップで得られたCDK1の活性値]〕及び〔[第2測定ステップで得られたCDK1の活性値]−[第1測定ステップで得られたCDK1の活性値]〕が挙げられる。また、第1測定ステップで得られたCDK1の活性値と第2測定ステップで得られたCDK1の活性値との比率としては、〔[第2測定ステップで得られたCDK1の活性値]/[第1測定ステップで得られたCDK1の活性値]〕及び〔[第1測定ステップで得られたCDK1の活性値]/[第2測定ステップで得られたCDK1の活性値]〕が挙げられる。
【0028】
本実施の形態1に係る判定方法では、変化度として、例えば、〔[第1測定ステップで得られたCDK1の活性値]−[第2測定ステップで得られたCDK1の活性値]〕を用いる場合、〔[第1測定ステップで得られたCDK1の活性値]−[第2測定ステップで得られたCDK1の活性値]〕が、小さい値であるか、マイナスの値である場合、がん細胞が、アンスラサイクリン系抗がん剤に対して、非感受性であると判定することができる。逆に、大きい値である場合、がん細胞が、アンスラサイクリン系抗がん剤に対して、感受性であると判定することができる。
【0029】
また、変化度として、例えば、〔[第2測定ステップで得られたCDK1の活性値]/[第1測定ステップで得られたCDK1の活性値]〕を用いる場合、〔[第2測定ステップで得られたCDK1の活性値]/[第1測定ステップで得られたCDK1の活性値]〕が大きい値であるほど、がん細胞が、アンスラサイクリン系抗がん剤に対して、非感受性であると判定することができる。逆に、小さい値であるほど、がん細胞が、アンスラサイクリン系抗がん剤に対して、感受性であると判定することができる。
【0030】
本実施の形態1に係る判定方法では、判定ステップは、変化度と閾値とを比較して、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定するステップであるのが好ましい。これにより、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性の判定を、より客観的に行なうことができる。また、これにより、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性の判定のシステム化が可能になる。
【0031】
閾値は、前記変化度と、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性に関するデータの蓄積から、経験的に導き出すことができる。
【0032】
例えば、抗がん剤含有培地中におけるアンスラサイクリン系抗がん剤の濃度が100nMであって、変化度として〔[第1測定ステップで得られたCDK1の活性値]−[第2測定ステップで得られたCDK1の活性値]〕を用いる場合、閾値は、70〜370の間に設定することができる。特に、100〜300の間に設定することが好ましい。このとき、〔[第1測定ステップで得られたCDK1の活性値]−[第2測定ステップで得られたCDK1の活性値]〕が、かかる閾値よりも小さい値である場合、がん細胞が、アンスラサイクリン系抗がん剤に対して、非感受性であると判定できる。逆に、閾値よりも大きい値である場合、がん細胞が、アンスラサイクリン系抗がん剤に対して、感受性であると判定できる。
【0033】
また、抗がん剤含有培地中におけるアンスラサイクリン系抗がん剤の濃度が100nMであって、変化度として〔[第2測定ステップで得られたCDK1の活性値]/[第1測定ステップで得られたCDK1の活性値]〕を用いる場合、閾値は、0.65〜0.9の間に設定することができる。特に、0.7〜0.8の間に設定することが好ましい。このとき、〔[第2測定ステップで得られたCDK1の活性値]/[第1測定ステップで得られたCDK1の活性値]〕が、かかる閾値よりも大きい値である場合、がん細胞が、アンスラサイクリン系抗がん剤に対して、非感受性であると判定できる。逆に、閾値よりも小さい値である場合、がん細胞が、アンスラサイクリン系抗がん剤に対して、感受性であると判定することができる。
【0034】
なお、アンスラサイクリン系抗がん剤に対して感受性のがん細胞は、アンスラサイクリン系抗がん剤による処理で、CDK1の活性値が大きく減少する。それに対し、アンスラサイクリン系抗がん剤に対して非感受性のがん細胞は、アンスラサイクリン系抗がん剤で処理しても、CDK1の活性値が大きく減少することがない。従って、判定ステップは、第2測定ステップで得られたCDK1の活性値が、第2測定ステップで得られたCDK1の活性値よりも一定以上減少したときに、がん細胞がアンスラサイクリン系抗がん剤に対して感受性であると判定することもできる。ここで、一定以上減少は、アンスラサイクリン系抗がん剤の処理前後におけるがん細胞のCDK1の活性値と、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性に関するデータの蓄積から、経験的に導き出すことができる。
【0035】
本発明の他の実施の形態(実施の形態2)に係るアンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性の判定方法は、アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されていないがん細胞におけるCDK1の活性値及び発現量を測定する第1測定ステップ、
アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されたがん細胞におけるCDK1の活性値及び発現量を測定する第2測定ステップ、
第1測定ステップで得られたCDK1の活性値及び発現量と、第2測定ステップそれぞれで得られたCDK1の活性値及び発現量とに基づいて、アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されていないがん細胞のCDK1の比活性値と、アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されたがん細胞のCDK1の比活性値とをそれぞれ算出する算出ステップ、及び
算出ステップで得られた比活性値に基づいて、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定する判定ステップ
を含む方法である。
【0036】
本実施の形態2に係る判定方法では、第1測定ステップにおいて、アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されていないがん細胞におけるCDK1の活性値及び発現量を測定する。
【0037】
活性値の測定は、実施の形態1に係る判定方法と同様に行なうことができる。
【0038】
CDK1の発現量は、細胞可溶化液に含まれるCDK1の量(分子個数に対応する単位)であり、タンパク質混合物から目的のタンパク質の量を測定する従来公知の方法で測定できる。CDK1の発現量は、例えば、ELISA法、ウェスタンブロット法等を使用してもよく、米国公開2004/214180号公報に開示の方法で測定してもよい。CDK1は、抗CDK1抗体を用いて捕捉することができる。したがって、抗CDK1抗体により捕捉されたCDK1の量を決定することにより、細胞可溶化液に含まれるCDK1の発現量を測定する。
【0039】
また、第2測定ステップにおいて、アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されたがん細胞におけるCDK1の活性値及び発現量を測定する。アンスラサイクリン系抗がん剤によるがん細胞の処理は、実施の形態1にかかる判定方法の第2測定ステップと同様に行なうことができる。また、CDK1の活性値及び発現量は、本実施の形態2の判定方法の第1測定ステップと同様の手法により測定することができる。
【0040】
つぎに、第1測定ステップで得られたCDK1の活性値及び発現量と、第2測定ステップそれぞれで得られたCDK1の活性値及び発現量とに基づいて、アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されていないがん細胞のCDK1の比活性値と、アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されたがん細胞のCDK1の比活性値とをそれぞれ算出する。ここで、比活性値とは、活性値と発現量との比を表す値である。例えば、活性値/発現量により、算出することができる。かかる比活性値は、細胞に存在しているCDK1のうち、活性を示すCDK1の割合に相当する。かかるCDK1の比活性値は、測定試料の調製方法に依存しない点で優れる。
【0041】
その後、算出ステップで得られた比活性値に基づいて、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定する。
【0042】
本実施の形態2に係る判定方法では、判定ステップが、アンスラサイクリン系抗がん剤によるCDK1の比活性値の変化度に基づいて、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定するステップであるのが好ましい。
【0043】
本実施の形態2に係る判定方法における変化度は、第1測定ステップで得られたCDK1の比活性値と第2測定ステップで得られたCDK1の比活性値の変化の度合いを示すものであればよい。例えば、第1測定ステップで得られたCDK1の比活性値と第2測定ステップで得られたCDK1の比活性値との差、及び第1測定ステップで得られたCDK1の比活性値と第2測定ステップで得られたCDK1の比活性値との比率が挙げられる。第1測定ステップで得られたCDK1の比活性値と第2測定ステップで得られたCDK1の比活性値との差としては、〔[第1測定ステップで得られたCDK1の比活性値]−[第2測定ステップで得られたCDK1の比活性値]〕及び〔[第2測定ステップで得られたCDK1の比活性値]−[第1測定ステップで得られたCDK1の比活性値]〕が挙げられる。また、第1測定ステップで得られたCDK1の比活性値と第2測定ステップで得られたCDK1の比活性値との比率としては、〔[第2測定ステップで得られたCDK1の比活性値]/[第1測定ステップで得られたCDK1の比活性値]〕及び〔[第1測定ステップで得られたCDK1の比活性値]/[第2測定ステップで得られたCDK1の比活性値]〕が挙げられる。
【0044】
本実施の形態2に係る判定方法では、変化度として、例えば、〔[第1測定ステップで得られたCDK1の比活性値]−[第2測定ステップで得られたCDK1の比活性値]〕を用いる場合、〔[第1測定ステップで得られたCDK1の比活性値]−[第2測定ステップで得られたCDK1の比活性値]〕が、小さい値であるか、マイナスの値である場合、がん細胞が、アンスラサイクリン系抗がん剤に対して、非感受性であると判定できる。逆に、大きい値である場合、がん細胞が、アンスラサイクリン系抗がん剤に対して、感受性であると判定することができる。
【0045】
また、変化度として、例えば、〔[第2測定ステップで得られたCDK1の比活性値]/[第1測定ステップで得られたCDK1の比活性値]〕を用いる場合、〔[第2測定ステップで得られたCDK1の比活性値]/[第1測定ステップで得られたCDK1の比活性値]〕が大きい値であるほど、がん細胞が、アンスラサイクリン系抗がん剤に対して、非感受性であると判定できる。逆に、小さい値であるほど、がん細胞が、アンスラサイクリン系抗がん剤に対して、感受性であると判定することができる。
【0046】
本実施の形態2に係る判定方法では、判定ステップが、変化度と閾値とを比較して、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定するステップであるのが好ましい。これにより、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性の判定を、より客観的に行なうことができる。
【0047】
例えば、抗がん剤含有培地中におけるアンスラサイクリン系抗がん剤の濃度が100nMであって、変化度として〔[第1測定ステップで得られたCDK1の比活性値]−[第2測定ステップで得られたCDK1の比活性値]〕を用いる場合、閾値は、4〜21の間に設定することができる。特に、5〜15の間に設定することが好ましい。このとき、〔[第1測定ステップで得られたCDK1の比活性値]−[第2測定ステップで得られたCDK1の比活性値]〕が、かかる閾値よりも小さい値である場合、がん細胞が、アンスラサイクリン系抗がん剤に対して、非感受性であると判定することができる。逆に、閾値よりも大きい値である場合、がん細胞が、アンスラサイクリン系抗がん剤に対して、感受性であると判定することができる。
【0048】
また、抗がん剤含有培地中におけるアンスラサイクリン系抗がん剤の濃度が100nMであって、変化度として〔[第2測定ステップで得られたCDK1の比活性値]/[第1測定ステップで得られたCDK1の比活性]〕を用いる場合、閾値は、0.6〜0.9の間に設定することができる。特に、0.7〜0.8の間に設定することが好ましい。このとき、〔[第2測定ステップで得られたCDK1の比活性値]/[第1測定ステップで得られたCDK1の比活性値]〕が、かかる閾値よりも大きい値である場合、がん細胞が、アンスラサイクリン系抗がん剤に対して、非感受性であると判定することができる。逆に、閾値よりも小さい値である場合、がん細胞が、アンスラサイクリン系抗がん剤に対して、感受性であると判定することができる。
【0049】
なお、アンスラサイクリン系抗がん剤に対して感受性のがん細胞は、アンスラサイクリン系抗がん剤による処理で、CDK1の比活性値が大きく減少する。それに対し、アンスラサイクリン系抗がん剤に対して非感受性のがん細胞は、アンスラサイクリン系抗がん剤で処理しても、CDK1の比活性値が大きく減少することがない。従って、判定ステップは、第2測定ステップで得られたCDK1の比活性値が、第2測定ステップで得られたCDK1の比活性値よりも一定以上減少したときに、がん細胞がアンスラサイクリン系抗がん剤に対して感受性であると判定することもできる。ここで、一定以上減少は、アンスラサイクリン系抗がん剤の処理前後におけるがん細胞のCDK1の比活性値と、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性に関するデータの蓄積から、経験的に導き出すことができる。
【0050】
2. アンスラサイクリン系抗がん剤の感受性判定装置
つぎに、本発明の判定方法を実施するのに好適な装置として、本発明のアンスラサイクリン系抗がん剤の感受性判定装置を添付の図面に基づき説明する。
【0051】
図10は、本実施形態における判定装置の概略構成を示すブロック図である。本実施形態における判定装置1は、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定する装置であって、図10に示すように、情報処理装置10と、測定装置20とを備えて構成されている。情報処理装置10は、測定装置20から出力された測定データを解析してアンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定し、判定結果を出力するための装置である。測定装置20は、がん細胞のCDK1の活性値及び発現量を測定して測定データを情報処理装置10へ出力するための装置である。
【0052】
情報処理装置10は、パーソナルコンピュータ(PC)からなり、情報処理部101と、キーボード103と、表示部105とを備えている。情報処理部101は、CPU101aと、ROM101bと、RAM101cと、ハードディスク101dと、入出力インタフェース101eと、通信インタフェース101fと、画像出力インタフェース101gと、バス101hとを備え、各部はバス101hを介して接続されており、相互にデータの送受信が可能である。
【0053】
CPU101aは、ROM101bに記憶されているコンピュータプログラムおよびRAM101cにロードされたコンピュータプログラムを実行することが可能である。ROM101bには、CPU101aによって実行されるコンピュータプログラムおよびCPU101aがコンピュータプログラムを実行するためのデータなどが記録されている。RAM101cは、ROM101bおよびハードディスク101dに記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU101aの作業領域として利用される。
【0054】
ハードディスク101dには、オペレーティングシステム(OS)やアプリケーションプログラムなど、CPU101aに実行させるための種々のコンピュータプログラムおよびそのコンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。
ハードディスク101dにインストールされているアプリケーションプログラム101iには、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性の判定方法を実現するためのアプリケーションプログラムが含まれている。また、ハードディスク101dには、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性の判定方法を実現するためのアプリケーションプログラムの実行に用いるデータとして、閾値が記憶されている。
【0055】
入出力インタフェース101eには、キーボード103やマウス(図示せず)が接続されている。通信インタフェース101fには測定装置20が接続されており、情報処理部101は、通信インタフェース101fを介して測定装置2とデータの送受信が可能である。
【0056】
画像出力インタフェース101gは、表示部105に接続されており、CPU101aから与えられた画像データに応じた映像信号を表示部105に出力する。表示部105は、入力された映像信号にしたがって、画像(画面)を表示する。
【0057】
情報処理装置10と通信インタフェース101fを介して接続される測定装置20は、生体組織からCDK1の活性値及び発現量を測定するための装置である。このような、測定装置として、米国公開2007/0077658号公報に記載されている装置を用いることができる。
【0058】
なお、本実施形態において、判定装置1は、測定装置20によって得られた測定データから、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定するように構成されているが、このような構成に限られない。例えば、予めCDK1の活性値及び発現量を測定しておき、キーボード103から測定データを入力する構成であってもよい。
【0059】
図11は、本実施形態に係る判定装置1によるアンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性の判定処理を示すフローチャートである。
まず、ステップS1において、測定装置20が、アンスラサイクリン系抗がん剤で処理していないがん細胞のCDK1の活性に関する情報と、アンスラサイクリン系抗がん剤で処理したがん細胞のCDK1の活性に関する情報とを取得する。より具体的には、測定装置20は、CDK1の活性に関する情報として、CDK1の活性値及び発現量を測定し、その測定データを取得する。以下、アンスラサイクリン系抗がん剤で処理していないがん細胞のCDK1の活性に関する情報を第1情報、アンスラサイクリン系抗がん剤で処理したがん細胞のCDK1の活性に関する情報を第2情報と言う。なお、測定装置20で取得された第1情報及び第2情報は、通信インタフェース101fを通じて、情報処理部101に送信される。
【0060】
つぎに、ステップS2において、情報処理部101のCPU101aは、ハードディスク101dにインストールされている、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性の判定方法を実現するためのアプリケーションプログラムを実行し、第1情報と第2情報に基づいて、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定する。より具体的には、第1情報と第2情報から、アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されていないがん細胞とアンスラサイクリン系抗がん剤で処理されたがん細胞とのCDK1の活性に関する変化度が算出される。算出された変化度は、ハードディスク101dに記憶されている閾値と比較される。そして、比較結果に基づいて、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性が判定される。
【0061】
ここで、CDK1の活性に関する変化度としては、(1)第1情報から得られるCDK1の活性値又は比活性値と、第2情報から得られるCDK1の活性値又は比活性値との差、及び(2)第1情報から得られるCDK1の活性値又は比活性値と、第2情報から得られるCDK1の活性値又は比活性値との比率が挙げられる。なお、CDK1の活性値及び比活性値は、測定装置20で測定されたCDK1の活性値及び発現量の測定データから求めることができる。また、閾値は、判定に用いられる変化度に応じて、適宜設定することができる。
【0062】
その後、ステップS3において、判定結果は、情報処理部101の画像出力インタフェース101gから表示部105に送信され、表示部105に判定結果が表示される。
【0063】
図12は、図10に示される判定装置1の表示部105に表示される画面(ウィンドウ画面)を示す図である。図12の画面701は、抗がん剤(アンスラサイクリン系抗がん剤)処理なしのがん細胞におけるCDK1の活性に関する情報702と、抗がん剤(アンスラサイクリン系抗がん剤)処理ありのがん細胞におけるCDK1の活性に関する情報703と、変化度の情報704と、判定結果の情報705とを表示する。
【0064】
情報702は、アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されていないがん細胞におけるCDK1の活性値、発現量及び比活性値を示す。また、情報703は、アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されたがん細胞におけるCDK1の活性値、発現量及び比活性値を示す。情報704は、変化度として比活性値の差、及び比活性値の比を示す。なお、情報704には、比活性値の差として、〔[アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されていない細胞におけるCDK1の比活性値]−[アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されたがん細胞におけるCDK1の比活性値]〕の値が表示されている。また、比活性値の比として〔[アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されたがん細胞におけるCDK1の比活性値]/[アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されていない細胞におけるCDK1の比活性値]〕
の値が表示されている。情報705は、比較結果に基づくアンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性の判定結果を示す。
【0065】
医師等に代表される使用者は、この画面701に表示される情報702、情報703、情報704及び情報705に基づいて、患者に対して使用する抗がん剤の選択を行なうことができる。
【0066】
以下に実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0067】
(参考例1)
ヒト乳癌細胞株であるHs578T細胞(ATCC HTB−126R)、MDA−MB−435s細胞(ATCC HTB−129)、BT20細胞(ATCC HTB−19)、CAMA−1細胞(ATCC HTB−21)、T47D細胞(ATCC HTB−133)、MDA−MB−361細胞(ATCC HTB−27)、UACC893細胞(ATCC CRL−1902)、BT474細胞(ATCC HTB−20)を、American Type Culture Collection(ATCC)から購入し、ATCC推奨の培養条件にしたがって、以下のように、培養を行なった。
【0068】
HS 578T細胞は、4mM L−グルタミンと、10質量%ウシ胎仔血清と0.01mg/Lウシインシュリンとを含み、グルコースの最終濃度が4.5g/Lで、炭酸水素ナトリウムの最終濃度が1.5/Lであるダルベッコ改変イーグル培地中、5体積%二酸化炭素で、37℃で培養した。
【0069】
MDA−MD−435S細胞は、2mM L−グルタミンと、10質量%ウシ胎仔血清と0.01mg/Lインシュリンとを含むリーボビッツ(Liebovitz)L15培地中、空気雰囲気下、37℃で培養した。
【0070】
BT−20細胞は、Earle’s BSSと2mM L−グルタミンと1.0mMピルビン酸ナトリウムと0.1mM非必須アミノ酸と1.5g/L炭酸水素ナトリウムと、10質量%ウシ胎仔血清とを含むイーグル最少必須培地中、5体積%二酸化炭素中、37℃で培養した。
【0071】
CAMA−1細胞は、Earle’s BSSと2mM L−グルタミンと1.0mMピルビン酸ナトリウムと0.1mM非必須アミノ酸と1.5g/L炭酸水素ナトリウムと、10質量%ウシ胎仔血清とを含むイーグル最少必須培地中、5体積%二酸化炭素中、37℃で培養した。
【0072】
T−47D細胞は、2mM L−グルタミンと10mM HEPESと1.0mMピルビン酸ナトリウムと4.5g/Lグルコースと1.5g/L炭酸水素ナトリウムと、10質量%ウシ胎仔血清と0.2単位/mLウシインシュリンとを含むRPMI 1640培地中、5体積%二酸化炭素中、37℃で培養した。
【0073】
MDA−MB−361細胞は、20質量%ウシ胎仔血清を含むリーボビッツ(Liebovitz)L15培地中、空気雰囲気下、37℃で培養した。
【0074】
UACC−893細胞は、2mM L−グルタミンと、10質量%ウシ胎仔血清と0.01mg/Lインシュリンとを含むリーボビッツ(Liebovitz)L15培地中、空気雰囲気下、37℃で培養した。
【0075】
BT−474細胞は、10質量%ウシ胎仔血清を含む改変ダルベッコ培地中、5体積%二酸化炭素、37℃で培養した。
【0076】
(参考例2)
Hs578T細胞、MDA−MB−435s細胞、BT20細胞、CAMA−1細胞、T47D細胞、MDA−MB−361細胞、UACC893細胞及びBT474細胞の各乳癌細胞株を、7系列の細胞数となるように段階的に希釈した。得られた各細胞の段階希釈物を培地に播種し、参考例1に示される培養条件で24時間培養した。
【0077】
得られた各培養物中における生細胞数を、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウムブロミドを用いたMTT法により測定した。段階希釈物の播種時の細胞数と、前記生細胞数の測定値との間において、一次相関が高い範囲を測定レンジとし、この範囲内で薬剤の影響を評価できるように、細胞ごとに播種時の細胞数を設定した。かかる細胞数の条件となるように、細胞を培地に播種し、インキュベーターを用いて参考例1に示される培養条件で、各細胞を24時間培養した。
【0078】
1μMドキソルビシンを段階的に希釈し、8系列の濃度の段階希釈物を調製し、得られたドキソルビシンの段階希釈物を、各細胞の培地に添加し、参考例1に示される培養条件で、各細胞を3日間培養した。対照として、ドキソルビシンの段階希釈物に代えて、同量の培地を用いたことを除き、前記と同様に各細胞を培養した。
【0079】
その後、得られた各培養物中における生細胞数を、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウムブロミドを用いたMTT法により測定した。なお、測定は、4回行なった。
【0080】
測定された生細胞数に基づき、ドキソルビシンで処理していない培養物中における生細胞数/ドキソルビシンで処理して得られた培養物中における生細胞数×100=50となるドキソルビシンの濃度(IC50)を求めた。その結果を、図1に示す。
【0081】
一般的に抗癌剤治療で用いられるドキソルビシンは、有効血中濃度として200nM前後であることが知られている。そこで、ドキソルビシンの血中濃度である200nM以上を示す乳癌細胞株を非感受性株とし、200nM未満を示す乳癌細胞株を感受性株とした。
【0082】
(実施例1)
(1)ドキソルビシン処理
参考例1に示される培養条件で培養した乳癌細胞株を、1×107細胞/T−225フラスコとなるように、T−225フラスコ中の培地にそれぞれ播種し、24時間培養した。その後、得られた培養物の培地を、100nMドキソルビシンを添加した培地40mLに交換し、細胞をさらに24時間培養した。その後、フラスコから培地を除去し、リン酸緩衝化生理的食塩水15mLをフラスコに入れ、当該リン酸緩衝化生理的食塩水でフラスコ内の細胞を洗浄した。その後、フラスコ内の細胞に、トリプシン−EDTA溶液(0.25質量%トリプシン、1mM EDTA)3mLを添加し、37℃で5分インキュベーションし、細胞をフラスコから剥がした。このフラスコに、10mL以上の培地を添加して、トリプシンによる反応を停止させ、細胞を回収した。回収した細胞を、190×g、5分間の遠心分離に供し、上清を除去した。得られた細胞を、適量のリン酸緩衝化生理的食塩水に懸濁した。得られた細胞懸濁物を、190×g、5分間の遠心分離に供し、上清を除去した。得られた細胞におけるCDK1の活性値及び発現量を、以下のように測定した。なお、得られた細胞は、CDK1の活性値及び発現量の測定まで、液体窒素中で凍結させ、−80℃で保存した。
【0083】
得られた細胞を、約150mg/mLとなるように、緩衝液A〔組成:0.1w/v%ノニデットP−40(カルビオケム社製)、50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.4)、5mM EDTA、50mMフッ化ナトリウム、1mMオルトバナジン酸ナトリウム、100uL/mLプロテアーゼ阻害剤カクテル(シグマ社製)〕に懸濁し、細胞懸濁物を得た。その後、ホモジナイザーを用いて、細胞懸濁物中の細胞を破砕して細胞可溶化液を調製した。つぎに、細胞可溶化液を、4℃で15000rpm、5分間の遠心分離に供し、上清を得た。得られた上清をドキソルビシン処理試料とした。
【0084】
100nMドキソルビシンを添加した培地に代えて、ドキソルビシン無添加培地を用いたことを除き、前記と同様に、ドキソルビシン非処理試料を得た。
【0085】
ドキソルビシン処理試料及びドキソルビシン非処理試料をCDK1測定用試料として用いた。
【0086】
(3)CDK1の活性値の測定
CDK1の活性値は、以下のように測定した。5mL容マイクロチューブ(エッペンドルフ社製)に緩衝液A500μLに入れ、さらに、CDK測定用試料を全タンパク質量が100μgとなるように添加した。
【0087】
得られた混合物に抗CDK1抗体2μgと20μLのプロテインAをコートしたセファロースビーズ(バイオラッド社)を加えて4℃、1時間静置してCDK1と抗CDK1抗体とを反応させた。
【0088】
反応後、ビーズをビーズ洗浄用緩衝液〔組成:0.1w/v%ノニデットP−40、50mMトリス塩酸(pH7.0)〕で3回洗浄し、溶解緩衝液A 15μL中に再懸濁させて、抗CDK1抗体を介してCDK1が結合したセファロースビーズを含む試料を得た。
【0089】
この試料に、CDK1の基質溶液〔組成:ヒストンH1 10μg、5mM ATP−γS(シグマ社製)、20mMトリス塩酸(pH7.4)、0.1w/v% Triron X−100〕を、得られる混合物の総量が50μLとなるように添加した。得られた混合物を37℃で10分間振盪させて、キナーゼ反応を行ない、ヒストンH1にモノチオリン酸基を導入した。
【0090】
キナーゼ反応後、混合物を2000rpmで20秒間の遠心分離に供し、ビーズを沈殿させ、上清18μLを採取した。得られた上清に、結合緩衝液〔組成:150mMトリス塩酸(pH9.2)、5mM EDTA〕15μLと、10mMヨードアセチルビオチン溶液〔10mMヨードアセチルビオチン、100mMトリス塩酸(pH7.5)、1mM EDTA〕とを添加した。得られた混合物を、90分間、室温、暗所で静置することにより、モノチオリン酸基を導入された基質(モノチオリン酸化基質)の硫黄原子にヨードアセチルビオチンを結合させた。
【0091】
ヨードアセチルビオチンが結合したモノチオリン酸化基質0.4μgを含む試料を、スロットブロッターを用いてPVDFメンブレン上にブロットした。ブロット後のPVDFメンブレンを1w/v% BSAを含む溶液でブロッキングし、ストレプトアビジン−FITC(ベクター社製)を添加して37℃で1時間インキュベーションした。その後、PVDFメンブレンを50mM洗浄液Bで3回洗浄した。洗浄後、蛍光イメージアナライザーMolecular Imager FX(バイオラッド社)を用いてPVDFメンブレンの蛍光分析を行なった。CDK1の活性値を、検量線に基づいて算出した。なお、検量線は、2種類の濃度のタンパク質(ビオチン標識免疫グロブリン)を含む溶液を、PVDFメンブレンにブロットし、上記と同様の方法でFITC標識し、タンパク質の蛍光強度を蛍光イメージアナライザーで測定することによって作成した。測定されるCDK1の活性1U(ユニット)は、前記タンパク質1ngの時の蛍光量と同等の蛍光強度を示す値をいう。
【0092】
ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の活性値とドキソルビシンで処理した乳癌細胞のCDK1の活性値との差を、〔[ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の活性値]−[ドキソルビシンで処理した乳癌細胞のCDK1の活性値]〕により算出した。その結果を、図2に示す。
【0093】
図2に示される結果から、IC50により感受性株とされた乳癌細胞株であるHs578T細胞、MDA−MB−435s細胞、BT20細胞及びCAMA−1細胞では、ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の活性値とドキソルビシンで処理した乳癌細胞のCDK1の活性値との差が大きくなっているのに対して、IC50により非感受性株とされた乳癌細胞株であるT47D細胞、MDA−MB−361細胞、UACC893細胞及びBT474細胞では、ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の活性値とドキソルビシンで処理した乳癌細胞のCDK1の活性値との差が小さいか、あるいは差がマイナスの値となっていることがわかる。かかる結果から、ドキソルビシンに代表されるアンスラサイクリン系抗がん剤で処理していないがん細胞のCDK1の活性値とアンスラサイクリン系抗がん剤で処理したがん細胞のCDK1の活性値との差に基づいて、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定することができることが示唆される。
【0094】
(実施例2)
実施例1と同様に、ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の活性値とドキソルビシンで処理した乳癌細胞のCDK1の活性値とを測定した。つぎに、ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の活性値とドキソルビシンで処理した乳癌細胞のCDK1の活性値との比率を、〔[ドキソルビシンで処理した乳癌細胞のCDK1の活性値]/[ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の活性値]〕により算出した。その結果を、図3に示す。
【0095】
図3に示される結果から、IC50により感受性株とされた乳癌細胞株であるHs578T細胞、MDA−MB−435s細胞、BT20細胞及びCAMA−1細胞では、ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の活性値とドキソルビシンで処理した乳癌細胞のCDK1の活性値との比率が小さくなっているのに対して、IC50により非感受性株とされた乳癌細胞株であるT47D細胞、MDA−MB−361細胞、UACC893細胞及びBT474細胞では、ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の活性値とドキソルビシンで処理した乳癌細胞のCDK1の活性値との比率が大きくなっていることがわかる。かかる結果から、ドキソルビシンに代表されるアンスラサイクリン系抗がん剤で処理していないがん細胞のCDK1の活性値とアンスラサイクリン系抗がん剤で処理したがん細胞のCDK1の活性値との比率に基づいて、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定することができることが示唆される。
【0096】
(実施例3)
(1)CDK1の活性値の測定
実施例1と同様に、ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の活性値とドキソルビシンで処理した乳癌細胞のCDK1の活性値とを測定した。
【0097】
(2)CDK1の発現量の測定
CDK1の発現量は、以下のように、測定した。PVDFメンブレン(ミリポア社製)をセットしたブロッターの各ウェルに、CDK1測定用試料50μLずつ入れた。つぎに、ウェルの底面、すなわちメンブレンの裏面から負圧約250mmHg(33.3Pa)で約30秒間吸引して、PVDFメンブレンにCDK1測定試料中のタンパク質を吸着させた。
【0098】
ウェルに洗浄液B〔組成:25mMトリス塩酸(pH7.4)、150mM塩化ナトリウム〕100μLを入れ、メンブレンの裏面から負圧500mmHg(66.6Pa)で洗浄液Bを15秒間吸引してメンブレンを洗浄した。
【0099】
つぎに、ブロッキング試薬B〔4質量% BSA、25mMトリス塩酸(pH7.4)、150mM塩化ナトリウム〕40μLを各ウェルに入れ、メンブレンを15分間静置した。その後、メンブレンの裏面から負圧500mmHg(66.6Pa)でブロッキング試薬Bを15秒間吸引することにより、メンブレンをブロッキングした。
【0100】
ウェルにウサギ抗CDK1抗体(一次抗体)溶液40μLを入れ、メンブレンを室温で約30分間静置して、メンブレン上のCDK1と一次抗体とを反応させた後、ウェル底面から負圧500mmHgで約15秒間吸引した。その後、ウェルに、洗浄液B 100μLを入れ、負圧500mmHg(66.6Pa)で15秒間吸引してメンブレンを洗浄した。
【0101】
ウェルにビオチン化した抗ウサギIgG抗体(二次抗体)溶液40uLを入れ、室温で約30分間静置してメンブレン上の一次抗体と二次抗体とを反応させた後、ウェル底面から負圧500mmHg(66.6Pa)で15秒間吸引した。
【0102】
その後、ウェルに洗浄液B100μLを入れ、負圧500mmHg(66.6Pa)で15秒間吸引してメンブレンを洗浄した。つぎに、ウェルにFITCで標識したストレプトアビジンを含む標識溶液50μLを入れ、室温で約30分間静置して、メンブレン上の二次抗体をFITCで標識した後、メンブレンの裏面から負圧500mmHg(66.6Pa)で15秒間吸引した。
【0103】
その後、ウェルに洗浄液B100μLを入れ、負圧500mmHg(66.6Pa)で15秒間吸引してメンブレンを洗浄した。洗浄液Bによるメンブレンの洗浄を5回繰り返して行なった。
【0104】
洗浄後のメンブレンをブロッターから取り外し、当該メンブレンを20体積%メタノール水溶液で約5分間濯いだ。その後、メンブレンを約20分間室温で乾燥させた後、メンブレンに吸着したタンパク質に基づく蛍光強度を、蛍光イメージアナライザーMolecular Imager FX(バイオラッド社)によって測定した。CDK1の活性値は、検量線をもとに算出した。なお、検量線は、0.005w/v%ノニデットP−40と50μg/mL BSAとを含む洗浄液B中に組み換えCDK1を溶解させた5種類の濃度の溶液を、上記と同様に処理したウェルに50μLずつ入れ、上記と同様の実験手順でFITC標識し、蛍光強度を測定して、蛍光強度とCDK1発現量との関係を表すことにより作成した。
【0105】
(3)比活性値の算出
【0106】
測定されたCDK1活性値及び発現量から、下記式:
【0107】
CDK1比活性=CDK1活性値/CDK1発現量
【0108】
によりCDK1比活性値(mU/ng)を算出した。
【0109】
ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の比活性値とドキソルビシンで処理した乳癌細胞のCDK1の比活性値との差を、〔[ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の比活性値]−[ドキソルビシンで処理した乳癌細胞のCDK1の比活性値]〕により算出した。その結果を、図4に示す。
【0110】
図4に示される結果から、IC50により感受性株とされた乳癌細胞株であるHs578T細胞、MDA−MB−435s細胞、BT20細胞及びCAMA−1細胞では、ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の比活性値とドキソルビシンで処理した乳癌細胞のCDK1の比活性値との差が大きくなっているのに対して、IC50により非感受性株とされた乳癌細胞株であるT47D細胞、MDA−MB−361細胞、UACC893細胞及びBT474細胞では、ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の比活性値とドキソルビシンで処理した乳癌細胞のCDK1の比活性値との差が小さいか、あるいは差がマイナスの値となっていることがわかる。かかる結果から、ドキソルビシンに代表されるアンスラサイクリン系抗がん剤で処理していないがん細胞のCDK1の比活性値とアンスラサイクリン系抗がん剤で処理したがん細胞のCDK1の比活性値との差に基づいて、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定することができることが示唆される。
【0111】
(実施例4)
実施例3と同様に、ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の活性値及び発現量とドキソルビシンで処理した乳癌細胞のCDK1の活性値及び発現量とを測定した。つぎに、ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の比活性値とドキソルビシンで処理した乳癌細胞のCDK1の比活性値との比率を、〔[ドキソルビシンで処理した乳癌細胞のCDK1の比活性値]/[ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の比活性値]〕により算出した。その結果を、図5に示す。
【0112】
図5に示される結果から、IC50により感受性株とされた乳癌細胞株であるHs578T細胞、MDA−MB−435s細胞、BT20細胞及びCAMA−1細胞では、ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の比活性値とドキソルビシンで処理した乳癌細胞のCDK1の比活性値との比率が小さくなっているのに対して、IC50により非感受性株とされた乳癌細胞株であるT47D細胞、MDA−MB−361細胞、UACC893細胞及びBT474細胞では、ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の比活性値とドキソルビシンで処理した乳癌細胞のCDK1の比活性値との比率が大きくなっていることがわかる。かかる結果から、ドキソルビシンに代表されるアンスラサイクリン系抗がん剤で処理していないがん細胞のCDK1の比活性値とアンスラサイクリン系抗がん剤で処理したがん細胞のCDK1の比活性値との比率に基づいて、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定することができることが示唆される。
【0113】
(比較例1)
実施例1と同様の操作を行なうことにより、ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の活性値を測定した。その結果を、図6に示す。
【0114】
図6に示される結果から、ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の活性値のみでは、感受性株と非感受性株とを区別することができないことがわかる。
【0115】
(比較例2)
実施例1と同様の操作を行なうことにより、ドキソルビシンで処理した乳癌細胞のCDK1の活性値を測定した。その結果を、図7に示す。
【0116】
図7に示される結果から、ドキソルビシンで処理した乳癌細胞のCDK1の活性値のみでは、感受性株と非感受性株とを区別することができないことがわかる。
【0117】
(比較例3)
実施例3と同様に、ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の活性値及び発現量を測定し、比活性値を算出した。その結果を図8に示す。
【0118】
図8に示される結果から、ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の比活性値のみでは、感受性株と非感受性株とを明確に区別することができないことがわかる。
【0119】
(比較例3)
実施例3と同様に、ドキソルビシンで処理した乳癌細胞のCDK1の活性値及び発現量を測定し、比活性値を算出した。その結果を図9に示す。
【0120】
図9に示される結果から、ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の比活性値のみでは、感受性株と非感受性株とを明確に区別することができないことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】参考例2において、乳癌細胞におけるドキソルビシンのIC50を調べた結果を示すグラフである。
【図2】実施例1において、ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の活性値とドキソルビシンで処理した乳癌細胞のCDK1の活性値との差を調べた結果を示すグラフである。
【図3】実施例2において、ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の活性値とドキソルビシンで処理した乳癌細胞のCDK1の活性値との比率を調べた結果を示すグラフである。
【図4】実施例3において、ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の比活性値とドキソルビシンで処理した乳癌細胞のCDK1の比活性値との差を調べた結果を示すグラフである。
【図5】実施例4において、ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の比活性値とドキソルビシンで処理した乳癌細胞のCDK1の比活性値との比率を調べた結果を示すグラフである。
【図6】比較例1において、ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の活性値を調べた結果を示すグラフである。
【図7】比較例2において、ドキソルビシンで処理した乳癌細胞のCDK1の活性値を調べた結果を示すグラフである。
【図8】比較例3において、ドキソルビシンで処理していない乳癌細胞のCDK1の比活性値を調べた結果を示すグラフである。
【図9】比較例4において、ドキソルビシンで処理した乳癌細胞のCDK1の比活性値を調べた結果を示すグラフである。
【図10】判定装置の概略構成を示すブロック図である。
【図11】図10に示される判定装置1によるアンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性の判定処理を示すフローチャート。
【図12】図10に示される判定装置1の表示部150に表示される画面(ウィンドウ画面)を示す図である。
【符号の説明】
【0122】
1 判定装置
10 情報処理装置
20 測定装置
101 情報処理部
101a CPU
101b ROM
101c RAM
101d ハードディスク
101e 入出力インタフェース
101f 通信インタフェース
101g 画像出力インタフェース
101h バス
101i アプリケーションプログラム
103 キーボード
105 表示部
701 画面
702 情報
703 情報
704 情報
705 情報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されていないがん細胞におけるCDK1の活性値を測定する第1測定ステップ、
アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されたがん細胞におけるCDK1の活性値を測定する第2測定ステップ、及び
第1測定ステップで得られたCDK1の活性値及び第2測定ステップで得られたCDK1の活性値に基づいて、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定する判定ステップ
を含む、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性の判定方法。
【請求項2】
がん細胞が、乳癌細胞である請求項1に記載の判定方法。
【請求項3】
アンスラサイクリン系抗がん剤が、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、アクラルビシン、エピルビシン、オキザウノマイシン又はイダルビシンである請求項1又は2に記載の判定方法。
【請求項4】
判定ステップが、アンスラサイクリン系抗がん剤の処理によるCDK1の活性値の変化度に基づいて、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定するステップである請求項1〜3のいずれかに記載の判定方法。
【請求項5】
判定ステップが、変化度と閾値とを比較して、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定するステップである請求項4に記載の判定方法。
【請求項6】
変化度が、第1測定ステップで得られたCDK1の活性値と第2測定ステップで得られたCDK1の活性値との差、又は第1測定ステップで得られたCDK1の活性値と第2測定ステップで得られたCDK1の活性値との比率である請求項4又は5に記載の判定方法。
【請求項7】
判定ステップが、第2測定ステップで得られたCDK1の活性値が、第2測定ステップで得られたCDK1の活性値よりも一定以上減少したときに、がん細胞がアンスラサイクリン系抗がん剤に対して感受性であると判定する、請求項1〜3のいずれかに記載の判定方法。
【請求項8】
アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されていないがん細胞におけるCDK1の活性値及び発現量を測定する第1測定ステップ、
アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されたがん細胞におけるCDK1の活性値及び発現量を測定する第2測定ステップ、
第1測定ステップで得られたCDK1の活性値及び発現量と、第2測定ステップそれぞれで得られたCDK1の活性値及び発現量とに基づいて、アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されていないがん細胞のCDK1の比活性値と、アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されたがん細胞のCDK1の比活性値とをそれぞれ算出する算出ステップ、及び
算出ステップで得られた比活性値に基づいて、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定する判定ステップ
を含む、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性の判定方法。
【請求項9】
判定ステップが、アンスラサイクリン系抗がん剤によるCDK1の比活性値の変化度に基づいて、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定するステップである請求項8に記載の判定方法。
【請求項10】
判定ステップが、変化度と閾値とを比較して、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定するステップである請求項9に記載の判定方法。
【請求項11】
変化度が、第1測定ステップで得られたCDK1の比活性値と第2測定ステップで得られたCDK1の比活性値との差、又は第1測定ステップで得られたCDK1の比活性値と第2測定ステップで得られたCDK1の比活性値との比率である請求項9又は10に記載の判定方法。
【請求項12】
判定ステップが、第2測定ステップで得られたCDK1の比活性値が第2測定ステップで得られたCDK1の比活性値よりも一定以上減少したときに、がん細胞がアンスラサイクリン系抗がん剤に対して感受性であると判定するステップである、請求項8に記載の判定方法。
【請求項13】
アンスラサイクリン系抗がん剤で処理されていないがん細胞におけるCDK1の活性に関する第1情報とアンスラサイクリン系抗がん剤で処理されたがん細胞におけるCDK1の活性に関する第2情報とを取得する取得部と、
前記第1情報と前記第2情報に基づいて、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定する判定部と、
前記判定部の判定結果を出力する出力部と、
を備えてなる、アンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性に関する情報を提供するためのアンスラサイクリン系抗がん剤感受性判定装置。
【請求項14】
前記判定部が、アンスラサイクリン系抗がん剤によるCDK1の活性に関する変化度を算出し、算出した変化度に基づいてアンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定する、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
閾値を記憶する記憶部をさらに備え、
前記判定部が、算出した変化度と閾値を比較し、比較結果に基づいてアンスラサイクリン系抗がん剤に対するがん細胞の感受性を判定する、請求項14に記載の装置。

【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−240238(P2009−240238A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91443(P2008−91443)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】