アンテナ装置
【課題】伝播損失が小さく、放射の指向性が一様であり、通信領域を2次元平面状に広げることができるアンテナ装置を提供すること。
【解決手段】アンテナ装置10は、下層導体11、第1の誘電体層12、中心導体13、第2の誘電体層14、上層導体15がこの順に積層されてなり、中心導体13は、一の方向に延びて予め定められた間隔で互いに平行に配置されたストリップ部16a、16bと、ストリップ部16aの端部と、当該端部と同じ側のストリップ部16bの端部とを接続する接続部17aと、を有するミアンダ状の形状を成しており、上層導体15は、ストリップ部16a、16bに沿って予め定められた間隔で、ストリップ部16a、16bを跨ぐ位置に互いに平行に形成された複数のスロット18を有する。
【解決手段】アンテナ装置10は、下層導体11、第1の誘電体層12、中心導体13、第2の誘電体層14、上層導体15がこの順に積層されてなり、中心導体13は、一の方向に延びて予め定められた間隔で互いに平行に配置されたストリップ部16a、16bと、ストリップ部16aの端部と、当該端部と同じ側のストリップ部16bの端部とを接続する接続部17aと、を有するミアンダ状の形状を成しており、上層導体15は、ストリップ部16a、16bに沿って予め定められた間隔で、ストリップ部16a、16bを跨ぐ位置に互いに平行に形成された複数のスロット18を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、無線局免許が不要な微弱電波による通信を行うのに好適なシート状のアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オフィス、店舗、研究所等にて書類、書籍、事務用品、商品、薬品等の物品を管理する方法として、所定の情報が記憶された小型の無線タグ(応答器)から所定の通信装置(質問器)により情報の読み出しを行うRFID(Radio Frequency Identification)システムが知られている。
【0003】
このようなRFIDシステムにおいては、質問器側のアンテナとして、例えば、シート状の平行平板の上側導体がメッシュ状になっており、平行平板内を伝送される電磁波をわずかに漏らす構造としたものが用いられる(例えば、特許文献1参照)。さらに、特許文献1には、質問器アンテナと応答器との間で無線通信を良好に行うためのインターフェース装置の構成が開示されている。
【0004】
上記の質問器アンテナの平行平板内を電磁波が伝播している際に、メッシュ状の上側導体側にインターフェース装置を近接させると、インターフェース装置と質問器アンテナとが容量結合する。これにより、平行平板内を伝播する電磁波の一部がメッシュ状の上側導体からインターフェース装置に吸い出される。
【0005】
インターフェース装置に吸い出された電磁波は、空間に放射されて応答器に受信される。電磁波を受信した応答器から放射された応答信号は、インターフェース装置を介して質問器アンテナに入力され、質問器に受信される。
【0006】
なお、上記のように構成された質問器アンテナおよびインターフェース装置は、RFIDシステムに限らず、無線LANシステム等にも適用され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−150652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、特許文献1に開示された質問器アンテナをテーブル上に設置する場合を想定する。一般的に電波を送信するには免許が必要であるが、使用周波数が322MHz以下の場合は、アンテナ装置から3mの距離における電界強度が500μV/m以下であれば、無線局の免許を申請する必要がない。このため、上記の使用条件下で用いることが可能なアンテナ装置への要求は高い。
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された質問器アンテナにおいて、平板の端から給電する場合には、進行波励振の漏れ波アンテナと同様に特定の方向に強く放射する遠方界指向性が生じるため、その指向性の最大方向で微弱電波の電界強度の最大値が制限されてしまう。即ち、この特定の方向を外れると電界強度が低くなり、通信領域が狭くなってしまうという課題があった。
【0010】
また、特許文献1に開示された質問器アンテナは、シート状の平行平板内の伝送モードが波長に対して薄い導波管と同様となり、伝播損失が大きいという問題を有していた。
【0011】
本発明は、従来の課題を解決するためになされたものであり、伝播損失が小さく、放射の指向性が一様であり、通信領域を2次元平面状に広げることができるアンテナ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のアンテナ装置は、第1の導体板と、前記第1の導体板上に設けられた第1の誘電体層と、前記第1の誘電体層上に設けられた中心導体と、前記中心導体上に設けられた第2の誘電体層と、前記第2の誘電体層上に設けられた第2の導体板と、を備えるアンテナ装置であって、前記中心導体は、一の方向に延びて予め定められた間隔で互いに平行に配置された偶数個のストリップ部と、隣り合う2つの前記ストリップ部の一方のストリップ部の端部と、前記端部と同じ側の他方のストリップ部の端部とを接続する接続部と、を有するミアンダ状の形状を成しており、前記第2の導体板は、前記ストリップ部に沿って予め定められた間隔で、前記ストリップ部を跨ぐ位置に互いに平行に形成された複数のスロットを有する構成を有している。
【0013】
この構成により、本発明のアンテナ装置は、導体板にスロットが形成されたストリップ線路の構造を有するため、従来のシート状のアンテナ装置と比較して伝播損失を小さくすることができる。また、本発明のアンテナ装置は、ストリップ線路の中心導体を折り返した構造を有するため、通信領域を2次元平面状に広げることができる。
さらに、本発明のアンテナ装置は、複数のストリップ部の個数が偶数であることにより、隣り合うストリップ部の対によって逆方向の進行波励振が実現されるため、放射の指向性を一様にできる。
【0014】
さらに、本発明のアンテナ装置は、隣り合う2つの前記ストリップ部の中心間距離が、使用周波数の波長の1/25以下である構成を有している。
この構成により、本発明のアンテナ装置は、特に、ストリップ線路のインピーダンスZが50Ωであり、使用周波数が300MHz付近である場合に、良好な通信を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、伝播損失が小さく、放射の指向性が一様であり、通信領域を2次元平面状に広げることができるという効果を有するアンテナ装置を提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】漏洩同軸ケーブルを模式的に示した図である。
【図2】漏洩同軸ケーブルを無限配列アンテナとした場合における電界強度の説明図である。
【図3】各波源からの放射が等位相波面を形成する場合の説明図である。
【図4】P/λと放射角θとの関係を示すグラフである。
【図5】本発明に係るアンテナ装置の第1実施形態における構成図である。
【図6】本発明に係るアンテナ装置のストリップ線路の部分断面図である。
【図7】線路幅と比誘電率との関係を示すグラフである。
【図8】平行平板の間隔と線路幅との関係を示すグラフである。
【図9】遠方界指向性のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図10】本発明の比較例の構成図である。
【図11】本発明に係るアンテナ装置の第2実施形態における構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態について説明する前に、本発明の理論的背景と密接に関わる漏洩同軸ケーブルの基本的特性について説明する。
【0018】
漏洩同軸ケーブルとは、一般に同軸ケーブルの外導体に、長さ方向に周期的にスロットを設けて電波を漏らす構造としたものである。図1は、漏洩同軸ケーブルを模式的に示したものである。
【0019】
図1において、漏洩同軸ケーブル1は、直径dの中心導体2、直径Dの外導体3、外導体3に設けられたスロット4を有する。図示のPはスロット間隔を示す。ここで、スロット間隔Pは隣り合うスロットの中心間距離である。スロット4は、使用する周波数の波長λに比べて外導体3の直径Dが十分に小さい(D/λ<0.12)場合には、共振を起こしにくく、周波数特性が広帯域となる。
【0020】
ここで、図1に示した漏洩同軸ケーブル1を図2に示すように無限配列アンテナと見なして考察する。スロット面に発生する電界強度Eは、外部導体をケーブル軸方向(Z軸方向)に流れる電流をIとすると[数1]で表される。
【数1】
【0021】
また、電界強度Eのケーブル軸方向成分EZは[数2]で表される。ケーブル円周方向成分Eφについてはスロット4のZ軸方向の幅が十分に小さければ略0となる。この場合、漏洩同軸ケーブル1においては表面波モードが支配的となり、放射波モードについては無視できる。以降の説明では、この条件が成り立っているものとする。
【数2】
【0022】
また、左端のスロット4aの位置をz=0とした場合の各スロット4a、4b、4c、4d・・・の電場は次式で表される。ここで、βg=2π/λg(λg:ケーブル内波長)である。
【数3】
【0023】
次に、図2に示した無限配列アンテナにおける電磁波の伝播方向を調べるため、同一の強度の各波源から放射された電磁波がθ方向に伝播する場合を考える(図3)。図3に示すように、各波源からの放射が等位相波面を作るには、[数4]に示す関係が成立する必要がある。但し、n=0、±1、±2、・・・、k=2π/λ(λ:自由空間波長)である。なお、Wi、Wi+1は、ある等位相波面と、波源Si、Si+1から放射された電磁波の伝播方向を示す直線とが交わる点を指している。なお、[数4]中では、SiWi、Si+1Wi+1にアッパーラインを付したものをそれぞれ線分SiWi、線分Si+1Wi+1の長さとしている。
【数4】
【0024】
即ち、[数4]の関係を図2の無限配列アンテナに適用すると次式のようになる。但し、νはケーブルの波長短縮率(λg=νλ)である。また、n=0、±1、±2、・・・である。
【数5】
【0025】
[数5]において次式に示す条件が成り立つ場合は、θnは実数とならず、無限配列アンテナは表面波モードで動作する。
【数6】
【0026】
ここで、波長短縮率νとケーブル内の比誘電率εrの間には、次式に示す関係がある。
【数7】
【0027】
高周波帯で低損失な誘電体基板を用いる場合は、比誘電率εrは概ね2.0〜3.5程度であり、その場合の波長短縮率νは0.535〜0.707となる。
【0028】
一例として、[数5]において波長短縮率νを0.5、nを−1として、波長λで規格化したスロット間隔Pを計算した結果を図4のグラフに示す。このグラフから分かるように、θnが実数となり−90度から90度の範囲となるPの値の範囲は、0.333λ〜1.0λである。つまり、Pの値がこの範囲にあるとき無限配列アンテナは放射波モードで動作し、Pの値が0.0〜0.333λの範囲にあるときはθnが実数とならず、無限配列アンテナは表面波モードで動作することとなる。
【0029】
(第1実施形態)
次に、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。本発明に係るアンテナ装置は、上述の漏洩同軸ケーブルを2次元平面状に拡張するものである。なお、各図面上の各構成の寸法比は、実際の寸法比と必ずしも一致していない。
【0030】
まず、本発明に係るアンテナ装置の第1実施形態における構成について説明する。
図5に示すように、本実施形態に係るアンテナ装置10は、第1の導体板としての下層導体11、第1の誘電体層12、中心導体13、第2の誘電体層14、第2の導体板としての上層導体15がこの順に積層されてなる、いわゆるトリプレート構造として形成されている。
【0031】
中心導体13は、Y軸方向に延びて予め定められた間隔で互いに平行に配置された複数のストリップ部16(16a、16b)と、ストリップ部16aの端部と、当該端部と同じ側のストリップ部16bの端部とを接続する接続部17aと、を有するミアンダ状の形状を成している。
【0032】
さらに、中心導体13は、信号を入力する入力部13aと、信号を出力する出力部13bと、を備えている。入力部13aには、所定の周波数の電気信号を発生させる信号発生器が接続され、出力部13bには、通常、終端抵抗が接続される。
【0033】
上層導体15には、中心導体13のストリップ部16a、16bが延在するY軸方向に沿って予め定められたスロット間隔Pで、電磁波を放射する複数のスロット18が設けられている。ここで、スロット間隔PとはY軸方向に隣り合うスロットの中心間距離である。
【0034】
複数のスロット18は、ストリップ部16a、16bを跨ぐ位置に互いに平行に形成されている。なお、以降では、複数のスロット18全体の2次元的な配列をスロット配列、各ストリップ部16a、16bの上方に形成されるスロット18の1次元的な配列をスロット列と適宜記す。
【0035】
アンテナ装置10の製造段階においては、第1の誘電体層12および中心導体13上に不図示の熱硬化性樹脂材料(プリプレグ)が配置される。さらに、このプリプレグ上に第2の誘電体層14が配置され、熱プレス加工によりプリプレグを介して第1の誘電体層12および第2の誘電体層14が一体化される。これにより、アンテナ装置10のY軸に垂直な部分断面図(図6)に示すように、中心導体13の周囲が誘電体材料で覆われることとなる。
【0036】
(設計例)
図5に示した本実施形態に係るアンテナ装置10の各構成要素の寸法の設計例を以下に示す。
(1)アンテナ装置10のX軸方向の寸法:500mm
(2)アンテナ装置10のY軸方向の寸法:1000mm〜2000mm
(3)誘電体層12、14の各厚さ:1mm
(4)誘電体層12、14の各比誘電率εr:2〜3.5
(5)中心導体13の線路幅W:1.0mm(注:50Ωの場合)
(6)スロット18のX軸方向の長さLX:6.0mm
(7)スロット18のY軸方向の幅LY:2.0mm
(8)スロット間隔P(Y軸方向に隣り合うスロットの中心間距離):20mm
(9)折り返し間隔Q(ストリップ部16a、16bの中心間距離):40mm
【0037】
次に、本実施形態に係るアンテナ装置10のスロット間隔Pの決定方法の一例について以下に説明する。以降の説明では、アンテナ装置10のストリップ線路のインピーダンスZが50Ωであり、使用周波数が300MHz(使用波長λ0が約1m)であるとする。
【0038】
管内波長λgの値は、λg=νλ0の関係と[数7]の関係から決定される次式に従って、ストリップ線路の比誘電率εrに依存する値として求まる。
【数8】
【0039】
さらに、Y軸方向に隣り合う2つのスロット間の位相差(βg・P=2πP/λg)が10度程度であるとすると、[表1]に示すようにスロット間隔Pの値が得られる。
【表1】
【0040】
ここで、比誘電率εrの値としては、一般的な基板材料であるFR−4(Flame Retardant Type 4)の比誘電率(4.6程度)、高周波用の低損失基板材の比誘電率(2〜3.5程度)を例に挙げている。
【0041】
[表1]に示したスロット間隔Pの値から、Y軸方向に隣り合うスロット間の位相差を10度程度許容する条件下では、スロット間隔Pは20mm以下、即ち、使用周波数の波長の1/50以下であることが望ましい。
【0042】
次に、本実施形態に係るアンテナ装置10の下層導体11と上層導体15との間隔、スロット18の長さLXおよび幅LY、線路幅Wの決定方法の一例について以下に説明する。
【0043】
既に紹介したように、図6はアンテナ装置10のストリップ線路のY軸に垂直な部分断面図である。即ち、図6に示したストリップ線路は、下層導体11、第1および第2の誘電体層12、14、ストリップ部16a(16b)、上層導体15を含む。ここで、ストリップ部16a(16b)の線路幅をW、下層導体11と上層導体15との間隔(即ち、一体化された第1および第2の誘電体層12、14の厚さ)をH、第1および第2の誘電体層12、14の比誘電率をεrとしている。
【0044】
上記のような構成のストリップ線路のインピーダンスZは、以下に示す式で表される。
【数9】
【0045】
例えば、ストリップ線路のインピーダンスZが50Ωである場合、[数9]より、間隔Hで規格化した線路幅Wに対する比誘電率εrを計算した結果をグラフに示すと図7のようになる。
【0046】
例えば、比誘電率εrが4.6の場合は、取り得るW/Hの値は[数9]より0.4程度となる。比誘電率εrが3.5の場合は、取り得るW/Hの値は[数9]より0.5程度となる。比誘電率εrが2の場合は、取り得るW/Hの値は[数9]より0.8程度となる。これらの関係を、横軸を間隔H、縦軸を線路幅Wとして図8のグラフに示す。
【0047】
ところで、Y軸方向に隣り合うスロット同士の干渉を避けるためには、スロット間の隙間(スロット間隔PからスロットのY軸方向の幅LYを引いた値)は、概ねスロット18のX軸方向の長さLXの3倍程度以上であることが望ましい。ここで、スロット18のY軸方向の幅LYが2mmであるとし、さらに既に考察したようにスロット間隔Pが使用周波数(300MHz)の波長の1/50以下の値である20mm以下であるとすると、好適なスロットの長さLXは6.0mm程度以下となる。
【0048】
また、線路幅Wは、ストリップ部16を跨ぐスロット18の長さLXの1/3以下であることが電磁波を放射する上で望ましい。従って、線路幅Wは2.0mm程度以下の値となる。
【0049】
ここで、図8より、比誘電率εrの値が2のときは、線路幅Wが2.0mm以下となる間隔Hは2.5mm程度以下であることが分かる。また、比誘電率εrの値が3.5のときは、線路幅Wが2.0mm以下となる間隔Hは4.0mm程度以下、さらに、比誘電率εrの値が4.6のときは、線路幅Wが2.0mm以下となる間隔Hは5.0mm程度以下であることが分かる。
【0050】
従って、比誘電率εrの値が2〜4.6の範囲であれば、間隔Hは使用周波数の波長(約1m)の1/200以下の値となることが分かる。
【0051】
次に、本実施形態に係るアンテナ装置10の中心導体13を折り返す折り返し間隔Qの決定方法の一例について以下に説明する。
【0052】
折り返された中心導体13の上方に形成されたスロット配列において、X軸方向に隣り合うスロット同士の隙間(折り返し間隔QからスロットのX軸方向の長さLXを引いた値)が近すぎると、スロット同士が相互に干渉してしまう。スロット同士の干渉を避けるためには、X軸方向に隣り合うスロット同士の隙間が、概ねスロット18の長さLXの3倍程度以上であることが望ましい。
【0053】
以上の事項を考慮に入れると、中心導体13のストリップ部16を跨ぐスロット18の長さLXが既に考察したように6mm程度である場合、X軸方向に隣り合うスロット同士の隙間は18mm以上となる。従って、好適な折り返し間隔Qは24mm以上となる。即ち、折り返し間隔Qは使用周波数の波長の24/1000≒1/42よりも大となる。
【0054】
しかしながら、折り返し間隔Qを大きくし過ぎるとスロット18の2次元配列が作る放射近傍界が一様とならなくなる。折り返し間隔Qの好適な値を電磁界解析で求めた結果、スロット間隔Pの2倍程度が上限値となる。例えば、既に考察したようにスロット間隔Pが20mm以下である場合、使用周波数の波長の1/25に相当する40mmが折り返し間隔Qの上限値となる。従って、折り返し間隔Qは波長の1/42以上かつ1/25以下の範囲に収まっていることが好ましい。
【0055】
以上のように構成された本実施形態に係るアンテナ装置10は、下層導体11と上層導体15との間隔Hが1/200波長以下の薄型平面構造であるため、棚の内部、テーブルの天板の表面または裏面、床上に設置したり、壁に貼り付けたりすることが容易となる。
【0056】
図9に、上記のように構成されたアンテナ装置10のYZ面の遠方界指向性のシミュレーション結果(実線)を示す。なお、同時に図10に示す1次元的な構成のアンテナ装置30のシミュレーション結果を比較例として破線で示す。ここで、アンテナ装置30は、下層導体11、第1の誘電体層12、中心導体33、第2の誘電体層14、上層導体35がこの順に積層されてなるトリプレート構造として形成されるものである。中心導体33は、Y軸方向に延びるストリップ状の形状を成しており、信号を入力する入力部33aと、信号を出力する出力部33bと、を備えている。上層導体35には、中心導体33が延在するY軸方向に沿って予め定められたスロット間隔Pで、電磁波を放射する複数のスロット18が設けられている。複数のスロット18は、中心導体33を跨ぐ位置に互いに平行に形成されている。
【0057】
図9から、アンテナ装置30の放射の指向性が特定の方向(特に60度〜90度の方向)に強くなっているのに対し、本実施形態に係るアンテナ装置10の放射の指向性は、YZ面内(Z≧0)で一様となっていることが分かる。
【0058】
既に述べたように、使用周波数が322MHz以下であれば、微弱無線局の3mの距離における電界強度の許容値は500μV/mであり、無線局の免許を申請する必要が無いため、この使用条件下でアンテナ装置を動作させることが好ましい。
【0059】
しかしながら、アンテナ装置30のように特定の方向に強く放射する指向性を有する場合には、その指向性の最大方向(90度付近)の電界強度が500μV/mであるとすると、例えば320度付近の電界強度はそれよりも約25dB低い28μV/mとなってしまう。
【0060】
これに対して、本実施形態に係るアンテナ装置10は、放射の指向性が一様であるため、YZ面内(Z≧0)の0〜90度および270〜360度の範囲に亘ってほぼ一定の500μV/mの電界強度を達成することができる。
【0061】
なお、アンテナ装置10用のインターフェース装置の形状としては、微小ダイポールアンテナや、微小ループアンテナ等の簡易な構成のアンテナを用いることが可能である。このとき、微小ダイポールアンテナの長手方向はZ軸と同じ方向である。また、微小ループアンテナは、そのループ面がXY面に垂直な面内(Z軸を含む面内)に構成される。
【0062】
以上のように、本実施形態に係るアンテナ装置10によれば、スロット配列が上方に形成された中心導体13が折り返し間隔Qで折り返されているため、X軸方向に隣り合うスロット列間で逆方向の進行波励振を実現できる。これにより、放射の指向性がYZ面内で一様となり、特定の方向にのみ強く放射しなくなる。さらに、本実施形態に係るアンテナ装置10は、外部空間に不要な電波を出さずに、上層導体の表面から1/(2π)波長以内の近傍界領域のみに良好な通信エリアを形成することができる。
【0063】
また、本実施形態に係るアンテナ装置10は、ストリップ線路からなるため、従来のシート状のアンテナ装置と比較して伝播損失を小さくすることができる。
【0064】
(第2実施形態)
本発明に係るアンテナ装置の第2実施形態における構成について説明する。なお、第1実施形態と同様の事項については適宜説明を省略する。
【0065】
図11に示すように、本実施形態に係るアンテナ装置20は、第1の導体板としての下層導体11、第1の誘電体層12、中心導体23、第2の誘電体層14、第2の導体板としての上層導体25がこの順に積層されてなるトリプレート構造として形成されている。
【0066】
中心導体23は、Y軸方向に延びて予め定められた間隔で互いに平行に配置された複数のストリップ部26(26a〜26d)と、隣り合う2つのストリップ部の一方のストリップ部の端部と、前記端部と同じ側の他方のストリップ部の端部とを接続する接続部27(27a〜27c)と、を有したミアンダ状の形状を成している。さらに、中心導体23は、信号を入力する入力部23aと、信号を出力する出力部23bと、を備えている。
【0067】
上層導体25には、ストリップ部26が延在するY軸方向に沿って予め定められたスロット間隔Pで、電磁波を放射する複数のスロット18が設けられている。複数のスロット18は、ストリップ部26を跨ぐ位置に互いに平行に形成されている。
【0068】
また、第1実施形態と同様に以下の事項を満たすことが望ましい。
・スロット間隔Pは使用周波数の波長の1/50以下
・間隔Hは使用周波数の波長の1/200以下(比誘電率εrの値が2〜3.5)
・折り返し間隔Q(隣り合う2つのストリップ部の中心間距離)が使用周波数の波長の1/25以下
【0069】
さらに、ストリップ部26の個数、即ちスロット列の個数が偶数であることが重要である。これは、第1実施形態でも述べたように、隣り合うスロット列の対によって逆方向の進行波励振が実現され、放射の指向性がYZ面内で一様となるためである。仮に、ストリップ部26の個数が奇数であり、入力部23aと出力部23bがアンテナ装置の対向する端にそれぞれ形成される場合は、最も外側の1つのスロット列によって、図10に比較例として示した1次元的な構成のアンテナ装置と同様に、特定の方向に放射の指向性が強くなってしまう。
【0070】
以上のように構成されたアンテナ装置20は、第1実施形態のアンテナ装置10よりもさらに2次元平面状に拡張されたことにより、より通信領域を広げることが可能となる。なお、中心導体23のストリップ部のY軸方向の長さや個数(但し偶数)は、任意の値に設計可能である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上のように、本発明に係るアンテナ装置は、伝播損失が小さく、放射の指向性が一様であり、通信領域を2次元平面状に広げることができるという効果を有し、RFIDシステム用の質問器側のアンテナ装置や無線LANシステム用のアンテナ装置等として有用である。
【符号の説明】
【0072】
10、20 アンテナ装置
11 下層導体(第1の導体板)
12 誘電体層(第1の誘電体層)
13、23 中心導体
13a、23a 入力部
13b、23b 出力部
14 誘電体層(第2の誘電体層)
15、25 上層導体(第2の導体板)
16a、16b、26a、26b、26c、26d ストリップ部
17a、27a、27b、27c 接続部
18 スロット
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、無線局免許が不要な微弱電波による通信を行うのに好適なシート状のアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オフィス、店舗、研究所等にて書類、書籍、事務用品、商品、薬品等の物品を管理する方法として、所定の情報が記憶された小型の無線タグ(応答器)から所定の通信装置(質問器)により情報の読み出しを行うRFID(Radio Frequency Identification)システムが知られている。
【0003】
このようなRFIDシステムにおいては、質問器側のアンテナとして、例えば、シート状の平行平板の上側導体がメッシュ状になっており、平行平板内を伝送される電磁波をわずかに漏らす構造としたものが用いられる(例えば、特許文献1参照)。さらに、特許文献1には、質問器アンテナと応答器との間で無線通信を良好に行うためのインターフェース装置の構成が開示されている。
【0004】
上記の質問器アンテナの平行平板内を電磁波が伝播している際に、メッシュ状の上側導体側にインターフェース装置を近接させると、インターフェース装置と質問器アンテナとが容量結合する。これにより、平行平板内を伝播する電磁波の一部がメッシュ状の上側導体からインターフェース装置に吸い出される。
【0005】
インターフェース装置に吸い出された電磁波は、空間に放射されて応答器に受信される。電磁波を受信した応答器から放射された応答信号は、インターフェース装置を介して質問器アンテナに入力され、質問器に受信される。
【0006】
なお、上記のように構成された質問器アンテナおよびインターフェース装置は、RFIDシステムに限らず、無線LANシステム等にも適用され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−150652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、特許文献1に開示された質問器アンテナをテーブル上に設置する場合を想定する。一般的に電波を送信するには免許が必要であるが、使用周波数が322MHz以下の場合は、アンテナ装置から3mの距離における電界強度が500μV/m以下であれば、無線局の免許を申請する必要がない。このため、上記の使用条件下で用いることが可能なアンテナ装置への要求は高い。
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された質問器アンテナにおいて、平板の端から給電する場合には、進行波励振の漏れ波アンテナと同様に特定の方向に強く放射する遠方界指向性が生じるため、その指向性の最大方向で微弱電波の電界強度の最大値が制限されてしまう。即ち、この特定の方向を外れると電界強度が低くなり、通信領域が狭くなってしまうという課題があった。
【0010】
また、特許文献1に開示された質問器アンテナは、シート状の平行平板内の伝送モードが波長に対して薄い導波管と同様となり、伝播損失が大きいという問題を有していた。
【0011】
本発明は、従来の課題を解決するためになされたものであり、伝播損失が小さく、放射の指向性が一様であり、通信領域を2次元平面状に広げることができるアンテナ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のアンテナ装置は、第1の導体板と、前記第1の導体板上に設けられた第1の誘電体層と、前記第1の誘電体層上に設けられた中心導体と、前記中心導体上に設けられた第2の誘電体層と、前記第2の誘電体層上に設けられた第2の導体板と、を備えるアンテナ装置であって、前記中心導体は、一の方向に延びて予め定められた間隔で互いに平行に配置された偶数個のストリップ部と、隣り合う2つの前記ストリップ部の一方のストリップ部の端部と、前記端部と同じ側の他方のストリップ部の端部とを接続する接続部と、を有するミアンダ状の形状を成しており、前記第2の導体板は、前記ストリップ部に沿って予め定められた間隔で、前記ストリップ部を跨ぐ位置に互いに平行に形成された複数のスロットを有する構成を有している。
【0013】
この構成により、本発明のアンテナ装置は、導体板にスロットが形成されたストリップ線路の構造を有するため、従来のシート状のアンテナ装置と比較して伝播損失を小さくすることができる。また、本発明のアンテナ装置は、ストリップ線路の中心導体を折り返した構造を有するため、通信領域を2次元平面状に広げることができる。
さらに、本発明のアンテナ装置は、複数のストリップ部の個数が偶数であることにより、隣り合うストリップ部の対によって逆方向の進行波励振が実現されるため、放射の指向性を一様にできる。
【0014】
さらに、本発明のアンテナ装置は、隣り合う2つの前記ストリップ部の中心間距離が、使用周波数の波長の1/25以下である構成を有している。
この構成により、本発明のアンテナ装置は、特に、ストリップ線路のインピーダンスZが50Ωであり、使用周波数が300MHz付近である場合に、良好な通信を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、伝播損失が小さく、放射の指向性が一様であり、通信領域を2次元平面状に広げることができるという効果を有するアンテナ装置を提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】漏洩同軸ケーブルを模式的に示した図である。
【図2】漏洩同軸ケーブルを無限配列アンテナとした場合における電界強度の説明図である。
【図3】各波源からの放射が等位相波面を形成する場合の説明図である。
【図4】P/λと放射角θとの関係を示すグラフである。
【図5】本発明に係るアンテナ装置の第1実施形態における構成図である。
【図6】本発明に係るアンテナ装置のストリップ線路の部分断面図である。
【図7】線路幅と比誘電率との関係を示すグラフである。
【図8】平行平板の間隔と線路幅との関係を示すグラフである。
【図9】遠方界指向性のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図10】本発明の比較例の構成図である。
【図11】本発明に係るアンテナ装置の第2実施形態における構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態について説明する前に、本発明の理論的背景と密接に関わる漏洩同軸ケーブルの基本的特性について説明する。
【0018】
漏洩同軸ケーブルとは、一般に同軸ケーブルの外導体に、長さ方向に周期的にスロットを設けて電波を漏らす構造としたものである。図1は、漏洩同軸ケーブルを模式的に示したものである。
【0019】
図1において、漏洩同軸ケーブル1は、直径dの中心導体2、直径Dの外導体3、外導体3に設けられたスロット4を有する。図示のPはスロット間隔を示す。ここで、スロット間隔Pは隣り合うスロットの中心間距離である。スロット4は、使用する周波数の波長λに比べて外導体3の直径Dが十分に小さい(D/λ<0.12)場合には、共振を起こしにくく、周波数特性が広帯域となる。
【0020】
ここで、図1に示した漏洩同軸ケーブル1を図2に示すように無限配列アンテナと見なして考察する。スロット面に発生する電界強度Eは、外部導体をケーブル軸方向(Z軸方向)に流れる電流をIとすると[数1]で表される。
【数1】
【0021】
また、電界強度Eのケーブル軸方向成分EZは[数2]で表される。ケーブル円周方向成分Eφについてはスロット4のZ軸方向の幅が十分に小さければ略0となる。この場合、漏洩同軸ケーブル1においては表面波モードが支配的となり、放射波モードについては無視できる。以降の説明では、この条件が成り立っているものとする。
【数2】
【0022】
また、左端のスロット4aの位置をz=0とした場合の各スロット4a、4b、4c、4d・・・の電場は次式で表される。ここで、βg=2π/λg(λg:ケーブル内波長)である。
【数3】
【0023】
次に、図2に示した無限配列アンテナにおける電磁波の伝播方向を調べるため、同一の強度の各波源から放射された電磁波がθ方向に伝播する場合を考える(図3)。図3に示すように、各波源からの放射が等位相波面を作るには、[数4]に示す関係が成立する必要がある。但し、n=0、±1、±2、・・・、k=2π/λ(λ:自由空間波長)である。なお、Wi、Wi+1は、ある等位相波面と、波源Si、Si+1から放射された電磁波の伝播方向を示す直線とが交わる点を指している。なお、[数4]中では、SiWi、Si+1Wi+1にアッパーラインを付したものをそれぞれ線分SiWi、線分Si+1Wi+1の長さとしている。
【数4】
【0024】
即ち、[数4]の関係を図2の無限配列アンテナに適用すると次式のようになる。但し、νはケーブルの波長短縮率(λg=νλ)である。また、n=0、±1、±2、・・・である。
【数5】
【0025】
[数5]において次式に示す条件が成り立つ場合は、θnは実数とならず、無限配列アンテナは表面波モードで動作する。
【数6】
【0026】
ここで、波長短縮率νとケーブル内の比誘電率εrの間には、次式に示す関係がある。
【数7】
【0027】
高周波帯で低損失な誘電体基板を用いる場合は、比誘電率εrは概ね2.0〜3.5程度であり、その場合の波長短縮率νは0.535〜0.707となる。
【0028】
一例として、[数5]において波長短縮率νを0.5、nを−1として、波長λで規格化したスロット間隔Pを計算した結果を図4のグラフに示す。このグラフから分かるように、θnが実数となり−90度から90度の範囲となるPの値の範囲は、0.333λ〜1.0λである。つまり、Pの値がこの範囲にあるとき無限配列アンテナは放射波モードで動作し、Pの値が0.0〜0.333λの範囲にあるときはθnが実数とならず、無限配列アンテナは表面波モードで動作することとなる。
【0029】
(第1実施形態)
次に、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。本発明に係るアンテナ装置は、上述の漏洩同軸ケーブルを2次元平面状に拡張するものである。なお、各図面上の各構成の寸法比は、実際の寸法比と必ずしも一致していない。
【0030】
まず、本発明に係るアンテナ装置の第1実施形態における構成について説明する。
図5に示すように、本実施形態に係るアンテナ装置10は、第1の導体板としての下層導体11、第1の誘電体層12、中心導体13、第2の誘電体層14、第2の導体板としての上層導体15がこの順に積層されてなる、いわゆるトリプレート構造として形成されている。
【0031】
中心導体13は、Y軸方向に延びて予め定められた間隔で互いに平行に配置された複数のストリップ部16(16a、16b)と、ストリップ部16aの端部と、当該端部と同じ側のストリップ部16bの端部とを接続する接続部17aと、を有するミアンダ状の形状を成している。
【0032】
さらに、中心導体13は、信号を入力する入力部13aと、信号を出力する出力部13bと、を備えている。入力部13aには、所定の周波数の電気信号を発生させる信号発生器が接続され、出力部13bには、通常、終端抵抗が接続される。
【0033】
上層導体15には、中心導体13のストリップ部16a、16bが延在するY軸方向に沿って予め定められたスロット間隔Pで、電磁波を放射する複数のスロット18が設けられている。ここで、スロット間隔PとはY軸方向に隣り合うスロットの中心間距離である。
【0034】
複数のスロット18は、ストリップ部16a、16bを跨ぐ位置に互いに平行に形成されている。なお、以降では、複数のスロット18全体の2次元的な配列をスロット配列、各ストリップ部16a、16bの上方に形成されるスロット18の1次元的な配列をスロット列と適宜記す。
【0035】
アンテナ装置10の製造段階においては、第1の誘電体層12および中心導体13上に不図示の熱硬化性樹脂材料(プリプレグ)が配置される。さらに、このプリプレグ上に第2の誘電体層14が配置され、熱プレス加工によりプリプレグを介して第1の誘電体層12および第2の誘電体層14が一体化される。これにより、アンテナ装置10のY軸に垂直な部分断面図(図6)に示すように、中心導体13の周囲が誘電体材料で覆われることとなる。
【0036】
(設計例)
図5に示した本実施形態に係るアンテナ装置10の各構成要素の寸法の設計例を以下に示す。
(1)アンテナ装置10のX軸方向の寸法:500mm
(2)アンテナ装置10のY軸方向の寸法:1000mm〜2000mm
(3)誘電体層12、14の各厚さ:1mm
(4)誘電体層12、14の各比誘電率εr:2〜3.5
(5)中心導体13の線路幅W:1.0mm(注:50Ωの場合)
(6)スロット18のX軸方向の長さLX:6.0mm
(7)スロット18のY軸方向の幅LY:2.0mm
(8)スロット間隔P(Y軸方向に隣り合うスロットの中心間距離):20mm
(9)折り返し間隔Q(ストリップ部16a、16bの中心間距離):40mm
【0037】
次に、本実施形態に係るアンテナ装置10のスロット間隔Pの決定方法の一例について以下に説明する。以降の説明では、アンテナ装置10のストリップ線路のインピーダンスZが50Ωであり、使用周波数が300MHz(使用波長λ0が約1m)であるとする。
【0038】
管内波長λgの値は、λg=νλ0の関係と[数7]の関係から決定される次式に従って、ストリップ線路の比誘電率εrに依存する値として求まる。
【数8】
【0039】
さらに、Y軸方向に隣り合う2つのスロット間の位相差(βg・P=2πP/λg)が10度程度であるとすると、[表1]に示すようにスロット間隔Pの値が得られる。
【表1】
【0040】
ここで、比誘電率εrの値としては、一般的な基板材料であるFR−4(Flame Retardant Type 4)の比誘電率(4.6程度)、高周波用の低損失基板材の比誘電率(2〜3.5程度)を例に挙げている。
【0041】
[表1]に示したスロット間隔Pの値から、Y軸方向に隣り合うスロット間の位相差を10度程度許容する条件下では、スロット間隔Pは20mm以下、即ち、使用周波数の波長の1/50以下であることが望ましい。
【0042】
次に、本実施形態に係るアンテナ装置10の下層導体11と上層導体15との間隔、スロット18の長さLXおよび幅LY、線路幅Wの決定方法の一例について以下に説明する。
【0043】
既に紹介したように、図6はアンテナ装置10のストリップ線路のY軸に垂直な部分断面図である。即ち、図6に示したストリップ線路は、下層導体11、第1および第2の誘電体層12、14、ストリップ部16a(16b)、上層導体15を含む。ここで、ストリップ部16a(16b)の線路幅をW、下層導体11と上層導体15との間隔(即ち、一体化された第1および第2の誘電体層12、14の厚さ)をH、第1および第2の誘電体層12、14の比誘電率をεrとしている。
【0044】
上記のような構成のストリップ線路のインピーダンスZは、以下に示す式で表される。
【数9】
【0045】
例えば、ストリップ線路のインピーダンスZが50Ωである場合、[数9]より、間隔Hで規格化した線路幅Wに対する比誘電率εrを計算した結果をグラフに示すと図7のようになる。
【0046】
例えば、比誘電率εrが4.6の場合は、取り得るW/Hの値は[数9]より0.4程度となる。比誘電率εrが3.5の場合は、取り得るW/Hの値は[数9]より0.5程度となる。比誘電率εrが2の場合は、取り得るW/Hの値は[数9]より0.8程度となる。これらの関係を、横軸を間隔H、縦軸を線路幅Wとして図8のグラフに示す。
【0047】
ところで、Y軸方向に隣り合うスロット同士の干渉を避けるためには、スロット間の隙間(スロット間隔PからスロットのY軸方向の幅LYを引いた値)は、概ねスロット18のX軸方向の長さLXの3倍程度以上であることが望ましい。ここで、スロット18のY軸方向の幅LYが2mmであるとし、さらに既に考察したようにスロット間隔Pが使用周波数(300MHz)の波長の1/50以下の値である20mm以下であるとすると、好適なスロットの長さLXは6.0mm程度以下となる。
【0048】
また、線路幅Wは、ストリップ部16を跨ぐスロット18の長さLXの1/3以下であることが電磁波を放射する上で望ましい。従って、線路幅Wは2.0mm程度以下の値となる。
【0049】
ここで、図8より、比誘電率εrの値が2のときは、線路幅Wが2.0mm以下となる間隔Hは2.5mm程度以下であることが分かる。また、比誘電率εrの値が3.5のときは、線路幅Wが2.0mm以下となる間隔Hは4.0mm程度以下、さらに、比誘電率εrの値が4.6のときは、線路幅Wが2.0mm以下となる間隔Hは5.0mm程度以下であることが分かる。
【0050】
従って、比誘電率εrの値が2〜4.6の範囲であれば、間隔Hは使用周波数の波長(約1m)の1/200以下の値となることが分かる。
【0051】
次に、本実施形態に係るアンテナ装置10の中心導体13を折り返す折り返し間隔Qの決定方法の一例について以下に説明する。
【0052】
折り返された中心導体13の上方に形成されたスロット配列において、X軸方向に隣り合うスロット同士の隙間(折り返し間隔QからスロットのX軸方向の長さLXを引いた値)が近すぎると、スロット同士が相互に干渉してしまう。スロット同士の干渉を避けるためには、X軸方向に隣り合うスロット同士の隙間が、概ねスロット18の長さLXの3倍程度以上であることが望ましい。
【0053】
以上の事項を考慮に入れると、中心導体13のストリップ部16を跨ぐスロット18の長さLXが既に考察したように6mm程度である場合、X軸方向に隣り合うスロット同士の隙間は18mm以上となる。従って、好適な折り返し間隔Qは24mm以上となる。即ち、折り返し間隔Qは使用周波数の波長の24/1000≒1/42よりも大となる。
【0054】
しかしながら、折り返し間隔Qを大きくし過ぎるとスロット18の2次元配列が作る放射近傍界が一様とならなくなる。折り返し間隔Qの好適な値を電磁界解析で求めた結果、スロット間隔Pの2倍程度が上限値となる。例えば、既に考察したようにスロット間隔Pが20mm以下である場合、使用周波数の波長の1/25に相当する40mmが折り返し間隔Qの上限値となる。従って、折り返し間隔Qは波長の1/42以上かつ1/25以下の範囲に収まっていることが好ましい。
【0055】
以上のように構成された本実施形態に係るアンテナ装置10は、下層導体11と上層導体15との間隔Hが1/200波長以下の薄型平面構造であるため、棚の内部、テーブルの天板の表面または裏面、床上に設置したり、壁に貼り付けたりすることが容易となる。
【0056】
図9に、上記のように構成されたアンテナ装置10のYZ面の遠方界指向性のシミュレーション結果(実線)を示す。なお、同時に図10に示す1次元的な構成のアンテナ装置30のシミュレーション結果を比較例として破線で示す。ここで、アンテナ装置30は、下層導体11、第1の誘電体層12、中心導体33、第2の誘電体層14、上層導体35がこの順に積層されてなるトリプレート構造として形成されるものである。中心導体33は、Y軸方向に延びるストリップ状の形状を成しており、信号を入力する入力部33aと、信号を出力する出力部33bと、を備えている。上層導体35には、中心導体33が延在するY軸方向に沿って予め定められたスロット間隔Pで、電磁波を放射する複数のスロット18が設けられている。複数のスロット18は、中心導体33を跨ぐ位置に互いに平行に形成されている。
【0057】
図9から、アンテナ装置30の放射の指向性が特定の方向(特に60度〜90度の方向)に強くなっているのに対し、本実施形態に係るアンテナ装置10の放射の指向性は、YZ面内(Z≧0)で一様となっていることが分かる。
【0058】
既に述べたように、使用周波数が322MHz以下であれば、微弱無線局の3mの距離における電界強度の許容値は500μV/mであり、無線局の免許を申請する必要が無いため、この使用条件下でアンテナ装置を動作させることが好ましい。
【0059】
しかしながら、アンテナ装置30のように特定の方向に強く放射する指向性を有する場合には、その指向性の最大方向(90度付近)の電界強度が500μV/mであるとすると、例えば320度付近の電界強度はそれよりも約25dB低い28μV/mとなってしまう。
【0060】
これに対して、本実施形態に係るアンテナ装置10は、放射の指向性が一様であるため、YZ面内(Z≧0)の0〜90度および270〜360度の範囲に亘ってほぼ一定の500μV/mの電界強度を達成することができる。
【0061】
なお、アンテナ装置10用のインターフェース装置の形状としては、微小ダイポールアンテナや、微小ループアンテナ等の簡易な構成のアンテナを用いることが可能である。このとき、微小ダイポールアンテナの長手方向はZ軸と同じ方向である。また、微小ループアンテナは、そのループ面がXY面に垂直な面内(Z軸を含む面内)に構成される。
【0062】
以上のように、本実施形態に係るアンテナ装置10によれば、スロット配列が上方に形成された中心導体13が折り返し間隔Qで折り返されているため、X軸方向に隣り合うスロット列間で逆方向の進行波励振を実現できる。これにより、放射の指向性がYZ面内で一様となり、特定の方向にのみ強く放射しなくなる。さらに、本実施形態に係るアンテナ装置10は、外部空間に不要な電波を出さずに、上層導体の表面から1/(2π)波長以内の近傍界領域のみに良好な通信エリアを形成することができる。
【0063】
また、本実施形態に係るアンテナ装置10は、ストリップ線路からなるため、従来のシート状のアンテナ装置と比較して伝播損失を小さくすることができる。
【0064】
(第2実施形態)
本発明に係るアンテナ装置の第2実施形態における構成について説明する。なお、第1実施形態と同様の事項については適宜説明を省略する。
【0065】
図11に示すように、本実施形態に係るアンテナ装置20は、第1の導体板としての下層導体11、第1の誘電体層12、中心導体23、第2の誘電体層14、第2の導体板としての上層導体25がこの順に積層されてなるトリプレート構造として形成されている。
【0066】
中心導体23は、Y軸方向に延びて予め定められた間隔で互いに平行に配置された複数のストリップ部26(26a〜26d)と、隣り合う2つのストリップ部の一方のストリップ部の端部と、前記端部と同じ側の他方のストリップ部の端部とを接続する接続部27(27a〜27c)と、を有したミアンダ状の形状を成している。さらに、中心導体23は、信号を入力する入力部23aと、信号を出力する出力部23bと、を備えている。
【0067】
上層導体25には、ストリップ部26が延在するY軸方向に沿って予め定められたスロット間隔Pで、電磁波を放射する複数のスロット18が設けられている。複数のスロット18は、ストリップ部26を跨ぐ位置に互いに平行に形成されている。
【0068】
また、第1実施形態と同様に以下の事項を満たすことが望ましい。
・スロット間隔Pは使用周波数の波長の1/50以下
・間隔Hは使用周波数の波長の1/200以下(比誘電率εrの値が2〜3.5)
・折り返し間隔Q(隣り合う2つのストリップ部の中心間距離)が使用周波数の波長の1/25以下
【0069】
さらに、ストリップ部26の個数、即ちスロット列の個数が偶数であることが重要である。これは、第1実施形態でも述べたように、隣り合うスロット列の対によって逆方向の進行波励振が実現され、放射の指向性がYZ面内で一様となるためである。仮に、ストリップ部26の個数が奇数であり、入力部23aと出力部23bがアンテナ装置の対向する端にそれぞれ形成される場合は、最も外側の1つのスロット列によって、図10に比較例として示した1次元的な構成のアンテナ装置と同様に、特定の方向に放射の指向性が強くなってしまう。
【0070】
以上のように構成されたアンテナ装置20は、第1実施形態のアンテナ装置10よりもさらに2次元平面状に拡張されたことにより、より通信領域を広げることが可能となる。なお、中心導体23のストリップ部のY軸方向の長さや個数(但し偶数)は、任意の値に設計可能である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上のように、本発明に係るアンテナ装置は、伝播損失が小さく、放射の指向性が一様であり、通信領域を2次元平面状に広げることができるという効果を有し、RFIDシステム用の質問器側のアンテナ装置や無線LANシステム用のアンテナ装置等として有用である。
【符号の説明】
【0072】
10、20 アンテナ装置
11 下層導体(第1の導体板)
12 誘電体層(第1の誘電体層)
13、23 中心導体
13a、23a 入力部
13b、23b 出力部
14 誘電体層(第2の誘電体層)
15、25 上層導体(第2の導体板)
16a、16b、26a、26b、26c、26d ストリップ部
17a、27a、27b、27c 接続部
18 スロット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の導体板と、前記第1の導体板上に設けられた第1の誘電体層と、前記第1の誘電体層上に設けられた中心導体と、前記中心導体上に設けられた第2の誘電体層と、前記第2の誘電体層上に設けられた第2の導体板と、を備えるアンテナ装置であって、
前記中心導体は、一の方向に延びて予め定められた間隔で互いに平行に配置された偶数個のストリップ部と、隣り合う2つの前記ストリップ部の一方のストリップ部の端部と、前記端部と同じ側の他方のストリップ部の端部とを接続する接続部と、を有するミアンダ状の形状を成しており、
前記第2の導体板は、前記ストリップ部に沿って予め定められた間隔で、前記ストリップ部を跨ぐ位置に互いに平行に形成された複数のスロットを有するアンテナ装置。
【請求項2】
隣り合う2つの前記ストリップ部の中心間距離が、使用周波数の波長の1/25以下である請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項1】
第1の導体板と、前記第1の導体板上に設けられた第1の誘電体層と、前記第1の誘電体層上に設けられた中心導体と、前記中心導体上に設けられた第2の誘電体層と、前記第2の誘電体層上に設けられた第2の導体板と、を備えるアンテナ装置であって、
前記中心導体は、一の方向に延びて予め定められた間隔で互いに平行に配置された偶数個のストリップ部と、隣り合う2つの前記ストリップ部の一方のストリップ部の端部と、前記端部と同じ側の他方のストリップ部の端部とを接続する接続部と、を有するミアンダ状の形状を成しており、
前記第2の導体板は、前記ストリップ部に沿って予め定められた間隔で、前記ストリップ部を跨ぐ位置に互いに平行に形成された複数のスロットを有するアンテナ装置。
【請求項2】
隣り合う2つの前記ストリップ部の中心間距離が、使用周波数の波長の1/25以下である請求項1に記載のアンテナ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−151786(P2012−151786A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10726(P2011−10726)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】
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