説明

アンテナ装置

【課題】簡単な構成で通信成立性を確保することができるアンテナ装置を提供する。
【解決手段】1本のアンテナ線17aの始点を第1ターミナル24aに接続した後、アンテナ線17aをボビン23に斜め向き複数巻回し、アンテナ線17aの途中を第2ターミナル24bで折り返して第1インダクタンス25を形成する。続いて、第2ターミナル24bで折り返したアンテナ線17aを、第1インダクタンス25に対して所定角度傾かせてボビン23に複数巻回し、終端を第3ターミナル24cに接続して第2インダクタンス26を形成する。このように、1本のアンテナ線17aを略X状に巻くことにより、1本のアンテナ線17aから2軸のインダクタンス25,26を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波を送信/受信するアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の一種には、車両盗難防止を目的としてイモビライザーシステムが搭載されているものがある(特許文献1等参照)。イモビライザーシステムは、車両キー(例えばメカニカルキー)に組み込まれたトランスポンダと、車両のイモビライザーアンテナとの間で無線によりID照合(トランスポンダ照合)を行い、この照合の成立をエンジン始動の条件とするものである。イモビライザーシステムの通信には、例えば近距離無線通信(通信距離:数cm)が使用されている。
【0003】
図8に、イモビライザーシステム81の概要を示す。イモビライザーシステム81で通信するときには、車両キー82に内蔵されたトランスポンダ83を、車両側のアンテナであるインダクタンス84にかざす操作をとる。このとき、インダクタンス84からはトランスポンダ83の電源となる駆動電波85が送信されているので、この駆動電波85にてトランスポンダ83が起動し、トランスポンダ信号86を車両に送信する。車両は、インダクタンス84でトランスポンダ信号86を受信すると、トランスポンダ信号86内のIDコードでトランスポンダ照合を行い、この照合が成立すれば、エンジン始動を許可する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−132273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、図8に示すように、インダクタンス84のアンテナ軸心87と、トランスポンダ83のアンテナ軸心88とが一致(略同一軸心上に位置)するのであれば、通信は問題なく成立する。しかし、場合によっては、図9に示すように、インダクタンス84のアンテナ軸心87とトランスポンダ83のアンテナ軸心88とが交差(直交)する向きでかざされることもある。
【0006】
こうなると、トランスポンダ83は、インダクタンス84から送信される駆動電波85を受信することができないので、起動状態をとることができず、通信が成立しなくなる問題があった。この問題を解決するには、例えばインダクタンス84を複数設けて複数軸対応とすればよいが、こうなるとアンテナが複数必要となるので、部品構造が複雑化したり、部品コストが増加したりする問題に繋がる。
【0007】
本発明の目的は、簡単な構成で通信成立性を確保することができるアンテナ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記問題点を解決するために、本発明では、電波の送信及び受信の少なくとも一方が可能で、1本のアンテナ線をループ状に複数巻回することにより形成されたアンテナ装置において、1本の前記アンテナ線を複数のアンテナ軸心を持つ形状に巻くことにより、1本の前記アンテナ線から複数のインダクタンスが形成されていることを要旨とする。
【0009】
本発明の構成によれば、1本のアンテナ線から複数のインダクタンスを形成するので、アンテナ装置に複数のインダクタンスを設けるに際して、インダクタンスを個別に複数設ける必要がない。よって、アンテナ装置に複数のインダクタンスを設けるようにしても、アンテナ装置の構造を簡素に済ませることが可能となる。
【0010】
本発明では、複数の前記インダクタンスは、1アンテナにおいて前記アンテナ軸心が2軸となるように2つ設けられ、前記アンテナ線をループ状に複数巻回して第1インダクタンスを形成した後、当該第1インダクタンスを外方から包み込むように前記アンテナ線をループ状に複数巻回することにより第2インダクタンスが形成されていることを要旨とする。この構成によれば、第2インダクタンスの内部に第1インダクタンスが収まる取り付け状態をとるので、第2インダクタンスの内部を、第1インダクタンスの収納箇所として利用することが可能となる。よって、アンテナ装置の小型化が可能となる。
【0011】
本発明では、前記インダクタンスと共振回路を形成するコンデンサを備え、前記コンデンサは、複数の前記インダクタンスで共用されていることを要旨とする。この構成によれば、1つのコンデンサを複数のインダクタンスで共用するので、部品点数を少なく抑えることが可能となり、ひいてはアンテナ装置の小型化や、部品コスト削減に寄与する。
【0012】
本発明では、複数の前記インダクタンスは、1アンテナにおいて前記アンテナ軸心が2軸となるように第1インダクタンス及び第2インダクタンスの2つ設けられ、前記第1インダクタンス及び前記コンデンサの組と、前記第2インダクタンス及び前記コンデンサの組とを交互に駆動して、1アンテナを2軸のアンテナとして動作させる制御手段を備えたことを要旨とする。この構成によれば、1つのコンデンサを2つのインダクタンスで共用するようにしても、第1インダクタンス及びコンデンサの組と、第2インダクタンス及びコンデンサの組とを交互に駆動することによって、アンテナ装置を2軸のアンテナとして動作させることが可能となる。
【0013】
本発明では、前記アンテナ線の取り付け先として複数のターミナルを備え、前記アンテナ線の始点を第1ターミナルに接続した後に、当該アンテナ線がループ状に複数巻かれることで第1インダクタンスが形成され、当該第1インダクタンスの終点を第2ターミナルにて折り返して、以降のアンテナ線を、前記アンテナ軸心を変えてループ状に複数巻くことにより第2インダクタンスが形成され、当該第2インダクタンスの終点が第3ターミナルに接続されていることを要旨とする。この構成によれば、アンテナ線をターミナルで折り返すという簡素な製造工法によって、1本のアンテナ線から複数のインダクタンスを形成することが可能となる。
【0014】
本発明では、車両に搭載され、無線によりIDコードを前記車両に送信可能なキー部材との間で近距離無線によるID照合を行う際に、当該キー部材との間で電波の送受信を実行することを要旨とする。この構成によれば、キー部材のIDコードを無線により照合する車両側のアンテナ装置としたので、キー部材をアンテナ装置にかざす際のキー部材の向きが1通りではなく、複数になる。よって、キー部材のかざし向きに汎用性が出るので、アンテナ装置とキー部材とのID照合時の通信成立性が確保される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アンテナ装置において簡単な構成で通信成立性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】一実施形態のキー操作フリーシステム及びイモビライザーシステムの構成図。
【図2】エンジンスイッチの外観を示す斜視図。
【図3】エンジンスイッチの分解斜視図。
【図4】(a)〜(e)は、2軸対応のイモビライザーアンテナの製造工程図。
【図5】2軸のアンテナ線の巻き状態を示す模式図。
【図6】2軸のアンテナにトランスポンダを横向きで近づけたときの動作図。
【図7】2軸のアンテナにトランスポンダを縦向きで近づけたときの動作図。
【図8】従来のアンテナにトランスポンダを横向きで近づけたときの動作図。
【図9】従来のアンテナにトランスポンダを縦向きで近づけたときの動作図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体化したアンテナ装置の一実施形態を図1〜図7に従って説明する。
図1に示すように、車両1には、車両1からの通信を契機に狭域無線通信(通信距離:数m)により電子キー2とID照合を行うキー操作フリーシステム3が搭載されている。キー操作フリーシステム3には、車外に位置する電子キー2とID照合が成立すると、乗降車する一連の操作過程の中で車両ドアが自動で施解錠されるエントリ機能がある。また、キー操作フリーシステム3には、車内に位置する電子キー2とID照合が成立すると、車内のプッシュモーメンタリ式のエンジンスイッチ4を単に押し操作するのみでエンジン5を始動することが可能なエンジン始動機能がある。
【0018】
この場合、車両1には、電子キー2とのID照合を行う照合ECU6と、車載電装品の動作を管理するボディECU7と、エンジン5を制御するエンジンECU8とが設けられ、これらが車内バス9を通じて接続されている。照合ECU6のメモリ(図示略)には、キー操作フリーシステム3のID照合(スマート照合)で用いる電子キー2のIDコード(スマート用キーID)が登録されている。照合ECU6には、車外にLF(Low Frequency)帯の電波を送信可能な車外送信機10と、車内にLF電波を送信可能な車内送信機11と、UHF(Ultra High Frequency)帯の電波を受信可能な車両受信機12とが接続されている。
【0019】
電子キー2が車外に位置するとき、照合ECU6は、車外送信機10からリクエスト信号Srqを断続的に送信し、車外においてスマート通信(車外スマート通信)を実行する。そして、リクエスト信号Srqの車外通信エリアに電子キー2が進入し、電子キー2がリクエスト信号Srqを受信すると、電子キー2は起動し、スマート照合用のID信号(スマートID信号Sid1)を送信する。スマートID信号Sid1には、電子キー2のスマート用キーIDが含まれている。照合ECU6は、リクエスト信号Srqの送信の後にスマートID信号Sid1を受信すると、車外スマート照合を行い、この照合が成立すれば、ボディECU7による車両ドアのドアロック施解錠を許可/実行させる。
【0020】
また、電子キー2が車内に進入すると、それまでの車外送信機10に代わり、今度は車内送信機11がリクエスト信号Srqの送信を開始し、車内においてスマート通信(車内スマート通信)を実行する。そして、車内で車外と同様の車内スマート照合が行われ、この照合が成立すれば、エンジンスイッチ4よる車両1の電源遷移及びエンジン始動の操作が許可される。
【0021】
車両1には、キー側が電源を持っていなくとも無線によるID照合が可能なイモビライザーシステム13が搭載されている。これは、電子キー2が電池切れに陥るとスマート照合が実行できなくなるため、トランスポンダ14が組み込まれたメカニカルキー15をユーザに用意させ、このメカニカルキー15内のトランスポンダ14で無線による車内照合を可能とする。ちなみに、車両ドアの施解錠は、メカニカルキー15のキープレートにて機械的操作により実行する。なお、メカニカルキー15がキー部材に相当する。
【0022】
イモビライザーシステム13は、メカニカルキー15内のタグであるトランスポンダ14と、車両1に設けられた電波送受信用のイモビライザーアンテナ17とで、近距離無線通信(通信距離:10数cm)によりID照合(イモビライザー照合)を双方向通信により実行するものである。そして、このイモビライザー照合が成立すれば、エンジンスイッチ4による車両1の電源遷移及びエンジン始動の操作が許可される。
【0023】
図2及び図3に示すように、エンジンスイッチ4には、略筒状(円筒)のケース18が設けられている。ケース18の先端の開口部19には、エンジンスイッチ4の操作部20が、ケース18の軸方向(図2及び図3のX軸方向)に沿って直線往復動可能に取り付けられている。操作部20は、押し操作された後に手が離されると、ケース18内に設けられたモーメンタリ機構(図示略)によって元の初期位置に復帰する。ケース18の開口部19の周縁には、開口部19と操作部20との間の隙間を埋めるリング状の枠体21が取り付けられている。
【0024】
図3に示すように、ケース18の内部には、エンジンスイッチ4の基板22が縦向きに(図3のZ軸方向に立てて)収納されている。基板22には、操作部20の押し操作を検出するスイッチ回路(図示略)や、イモビライザーアンテナ17の送受信回路(図示略)等が実装されている。
【0025】
ケース18の内部には、イモビライザーアンテナ17のアンテナ線の巻回箇所である無底円筒状のボビン23が収納されている。ボビン23は、樹脂により形成されるとともに、複数のターミナル24を介して基板22に電気接続されている。また、本例のターミナル24には、第1ターミナル24a、第2ターミナル24b、第3ターミナル24cの3つがある。ターミナル24a〜24cは、縦向きの基板22に合わせてボビン23の側部に配置されるとともに、ボビン23にインサート成形されている。
【0026】
本例のイモビライザーアンテナ17には、1本のアンテナ線17aを1回の巻き工程において略X状に巻くことにより、互いにアンテナ軸心La,Lbが異なる複数(2軸)のインダクタンス25,26が形成されている。なお、略X状とは、イモビライザーアンテナ17を側方から見たとき、2つのインダクタンス25,26が交差(直交も可)している形状をいう。本例の場合、一対のインダクタンス25,26のうち、一方を第1インダクタンス25と記し、他方を第2インダクタンス26と記す。
【0027】
図4に、アンテナ線17aの巻き工程の概略を示す。図4(a)に示すように、アンテナ線17aをボビン23に巻き付けるとき、まずアンテナ線17aの始点を第1ターミナル24aにヒュージング等により接続し、その後、図4(b)に示すように、アンテナ線17aをボビン23の径方向に対して斜め向きにループ状に複数巻回する。そして、図4(c)に示すように、アンテナ線17aの途中を第2ターミナル24bで折り返し、この折り返し部分をヒュージング等により接続する。これにより、イモビライザーアンテナ17に第1インダクタンス25が形成される。
【0028】
続いて、図4(d)に示すように、第2ターミナル24bで折り返した後のアンテナ線17aを、今度は第1インダクタンス25とは逆の斜め向きにループ状に複数巻回する。そして、図4(e)に示すように、アンテナ線17aの終点を第3ターミナル24cにヒュージング等により接続する。これにより、イモビライザーアンテナ17に第2インダクタンス26が形成される。
【0029】
図5に示すように、第1インダクタンス25のアンテナ軸心Laと、第2インダクタンス26のアンテナ軸心Lbとは、互いに交差する向きをとっている。また、第1インダクタンス25を巻回した後に、その外方(外側)から第2インダクタンス26を巻回するので、第2インダクタンス26が第1インダクタンス25を外方から包み込むような形状をとっている。
【0030】
図1に示すように、第1インダクタンス25及び第2インダクタンス26の中間地点(中点P)は、ヒュージング等により共振コンデンサ27に接続されている。共振コンデンサ27は、2つのインダクタンス25,26の間で共用されるとともに、例えば基板22に実装されている。本例の場合、第1インダクタンス25及び共振コンデンサ27の共振回路で第1共振アンテナ28が形成され、第2インダクタンス26及び共振コンデンサ27の共振回路で第2共振アンテナ29が形成される。
【0031】
照合ECU6には、第1共振アンテナ28及び第2共振アンテナ29の動作を制御するイモビライザー制御部30が設けられている。イモビライザー制御部30のメモリ(図示略)には、イモビライザーシステム13のID照合(トランスポンダ照合)で用いるIDコード(トランスポンダコード)が登録されている。また、イモビライザー制御部30は、アンテナドライバ31を介して第1共振アンテナ28と第2共振アンテナ29とに接続されている。なお、イモビライザー制御部30が制御手段に相当する。
【0032】
第1インダクタンス25は、一端が第1アンテナドライバ31aを介して、他端が共振コンデンサ27及び第2アンテナドライバ31bを介して照合ECU6に接続されている。また、第2インダクタンス26は、一端が共振コンデンサ27及び第2アンテナドライバ31bを介して、他端が第3アンテナドライバ31cを介して照合ECU6に接続されている。
【0033】
イモビライザー制御部30は、3つのアンテナドライバ31a〜31cにて、第1共振アンテナ28及び第2共振アンテナ29を交互に駆動することにより、2軸のアンテナを形成する。つまり、イモビライザー制御部30は、第1アンテナドライバ31a及び第2アンテナドライバ31bによって第1共振アンテナ28を共振させる動作と、第2アンテナドライバ31b及び第3アンテナドライバ31cによって第2共振アンテナ29を共振させる動作とを交互に実行して、2軸アンテナを形成する。
【0034】
トランスポンダ14には、トランスポンダ14の動作を制御する制御回路32と、電波送受信が可能なループ状のトランスポンダアンテナ33とが設けられている。制御回路32のメモリ(図示略)には、イモビライザーシステム13のID照合(トランスポンダ照合)で用いるIDコード(トランスポンダコード)が登録されている。トランスポンダアンテナ33は、アンテナ線をループ状に複数巻回したバーアンテナが使用されるとともに、コイル軸方向(図1の紙面左右方向)がアンテナ軸心Lsとして設定されている。
【0035】
イモビライザー制御部30は、例えば車内のブレーキペダルが操作されたことを検出すると、イモビライザーアンテナ17からの駆動電波Svの送信を開始する。このとき、トランスポンダ14がイモビライザーアンテナ17にかざされ、トランスポンダ14が駆動電波Svを受信すると、制御回路32は電源が入って起動し、トランスポンダ信号Sid2をトランスポンダアンテナ33から送信する。トランスポンダ信号Sid2には、制御回路32に登録されたトランスポンダコードが含まれている。
【0036】
イモビライザー制御部30は、イモビライザーアンテナ17でトランスポンダ信号Sid2を受信すると、このトランスポンダ信号Sid2内のトランスポンダコードにてトランスポンダ照合を実行する。そして、イモビライザー制御部30は、トランスポンダ照合が成立することを確認すると、エンジンスイッチ4による車両1の電源遷移及びエンジン始動の操作を許可する。
【0037】
次に、本例のイモビライザーシステム13の動作を、図6及び図7を用いて説明する。
イモビライザー制御部30は、例えばブレーキペダルが踏み込み操作されたことを検出すると、アンテナドライバ31にて第1共振アンテナ28及び第2共振アンテナ29を交互に駆動して、2軸アンテナとして動作させる。つまり、第1共振アンテナ28及び第2共振アンテナ29の交互駆動が開始され、第1共振アンテナ28及び第2共振アンテナ29から、交互に駆動電波Svの送信が開始される。
【0038】
このとき、図6に示すように、メカニカルキー15が横向き(つまり、トランスポンダ14のアンテナ軸心Lsが紙面左右方向)でイモビライザーアンテナ17にかざされたとする。このときは、第1共振アンテナ28(第1インダクタンス25)から出力される駆動電波Svの一成分(図6に示すEa)が、トランスポンダ14のアンテナ軸心Lsに沿う向きをとる。つまり、トランスポンダ14とのイモビライザー通信が第1共振アンテナ28にて確立する。
【0039】
よって、トランスポンダ14は、この磁界成分Eaにて電源が入り、トランスポンダ信号Sid2を返信する動作を実行する。そして、イモビライザー制御部30は、第1共振アンテナ28を駆動させたタイミングでトランスポンダ信号Sid2を受信する。イモビライザー制御部30は、第1共振アンテナ28でトランスポンダ信号Sid2を受信すると、このトランスポンダ信号Sid2にてトランスポンダ照合を実行する。
【0040】
一方、図7に示すように、メカニカルキー15が縦向き(つまり、トランスポンダ14のアンテナ軸心Lsが紙面上下方向)でイモビライザーアンテナ17にかざされたとする。このときは、第2共振アンテナ29(第2インダクタンス26)から出力される駆動電波Svの一成分(図7に示すEb)が、トランスポンダ14のアンテナ軸心Lsに沿う向きをとる。つまり、トランスポンダ14とのイモビライザー通信が第2共振アンテナ29にて確立する。
【0041】
よって、トランスポンダ14は、この磁界成分Ebにて電源が入り、トランスポンダ信号Sid2を返信する動作を実行する。そして、イモビライザー制御部30は、第2共振アンテナ29を駆動させたタイミングでトランスポンダ信号Sid2を受信する。イモビライザー制御部30は、第2共振アンテナ29でトランスポンダ信号Sid2を受信すると、このトランスポンダ信号Sid2にてトランスポンダ照合を実行する。
【0042】
以上により、本例においては、1本のアンテナ線17aを略X状に巻くことにより、1本のアンテナ線17aで2つのインダクタンス25,26を形成し、これらインダクタンス25,26の中間地点をヒュージング等により共振コンデンサ27に接続する。そして、3つのアンテナドライバ31a〜31cによって、インダクタンス25,26を交互に駆動することで、イモビライザーアンテナ17を2軸アンテナとして動作させる。よって、メカニカルキー15が横向き又は縦向きのどちらの向きでイモビライザーアンテナ17に近づけられても、イモビライザー通信を確立させることが可能となるので、イモビライザーシステム13の通信成立性をよくすることが可能となる。
【0043】
また、本例の場合、1本のアンテナ線17aを略X状に巻くことにより、互いにアンテナ軸心La,Lbの異なる2つのインダクタンス25,26を形成して、イモビライザーアンテナ17を2軸化している。このため、例えば別々のアンテナを2つ搭載することなく、イモビライザーアンテナ17の2軸化が可能となるので、装置構造が複雑化することはない。また、部品コストも安価で済む。
【0044】
本実施形態の構成によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)1本のアンテナ線17aを略X状に巻くことにより、1本のアンテナ線17aから2軸のインダクタンス25,26を形成し、3つのアンテナドライバ31a〜31cでインダクタンス25,26を交互に駆動することにより、2軸アンテナを形成する。このため、イモビライザーアンテナ17を2軸とするに際し、インダクタンスを各々個別に設ける必要がないので、イモビライザーアンテナ17を2軸として通信成立性を確保しても、イモビライザーアンテナ17の構造を簡素に済ませることができる。
【0045】
(2)ボビン23に第1インダクタンス25を斜め向きに複数巻回した後、その上から、第1インダクタンス25に対し所定傾きをもたせて、第2インダクタンス26を巻いている。このため、第2インダクタンス26の内部に第1インダクタンス25が収まる取り付け状態をとるので、第2インダクタンス26の内部を、第1インダクタンス25の収納箇所として利用することができる。よって、イモビライザーアンテナ17(イモビライザーシステム13)を小型化することができる。
【0046】
(3)1つのコンデンサ27を第1インダクタンス25及び第2インダクタンス26で共用するので、部品点数を少なく抑えることができる。よって、イモビライザーアンテナ17(イモビライザーシステム13)の小型化や、部品コスト削減に寄与する。
【0047】
(4)1つのコンデンサ27を2つのインダクタンス25,26で共用した場合、第1インダクタンス25及びコンデンサ27の組(第1共振アンテナ28)と、第2インダクタンス26及びコンデンサ27の組(第2共振アンテナ29)とを交互に駆動することで、2軸アンテナとして動作させる。よって、1つのコンデンサ27を2つのインダクタンス25,26で共用するようにしても、アンテナを2軸アンテナとして問題なく動作させることができる。
【0048】
(5)ボビン23にアンテナ線17aを斜め向きに複数巻回して第1インダクタンス25を形成した後、アンテナ線17aを第2ターミナル24bで折り返し、折り返し後のアンテナ線17aを、第1インダクタンス25に対して所定傾きをもたせて複数巻回することにより、第2インダクタンス26を形成する。よって、アンテナ線17aを途中で第2ターミナル24bにて折り返すという簡素な製造工法によって、1本のアンテナ線17aから2軸のインダクタンス25,26を形成することができる。
【0049】
(6)イモビライザーアンテナ17が2軸となるので、トランスポンダ14(メカニカルキー15)をイモビライザーアンテナ17にかざす際の向きが1通りではなく、複数になる。よって、トランスポンダ14のかざし向きに汎用性が出るので、イモビライザーアンテナ17とトランスポンダ14との通信成立性をよくすることができる。このため、ユーザにトランスポンダ14のかざし直しなどを課さずに済むので、ユーザにとっては使い勝手がよくなる。
【0050】
なお、実施形態はこれまでに述べた構成に限らず、以下の態様に変更してもよい。
・イモビライザーシステム13は、キー操作フリーシステム3から分離したシステムであることに限定されない。例えば、電子キー2にトランスポンダ14を組み込んでおき、電子キー2でイモビライザー照合が可能なシステムとしてもよい。
【0051】
・イモビライザーシステム13で使用する通信は、近距離無線通信であれば、通信規格や通信方式は特に限定されない。
・イモビライザーアンテナ17は、エンジンスイッチ4内に組み込まれることに限定されず、エンジンスイッチ4とは別の場所に配置されてもよい。
【0052】
・車両1に搭載される電子キーシステムは、キー操作フリーシステム3に限定されず、例えば電子キー2からの通信を契機に狭域無線通信にてID照合(ワイヤレス照合)を行うワイヤレスキーシステムでもよい。
【0053】
・径方向内側に第2インダクタンス26を配置し、径方向外側に第1インダクタンス25を配置してもよい。
・第1インダクタンス25が第2インダクタンス26の内部に配置される巻き方をとることに限定されない。例えば、第1インダクタンス25と第2インダクタンス26と分離していてもよい。
【0054】
・2軸のイモビライザーアンテナ17は、アンテナ線17aを略X状に巻いて形成されることに限定されず、巻き方や巻き形状を適宜変更してもよい。
・第1インダクタンス25及び第2インダクタンス26は、円環状に限定されず、例えば四角など、別の形状に変更可能である。
【0055】
・第1インダクタンス25のアンテナ線と第2インダクタンス26のアンテナ線とが接触する部分を、例えば絶縁部材などによって絶縁してもよい。
・コンデンサ27は、2つのインダクタンス25,26で共用されることに限らず、それぞれのインダクタンス25,26ごとに設けてもよい。
【0056】
・第1共振アンテナ28及び第2共振アンテナ29は、直列共振回路又は並列共振回路のいずれでもよい。
・イモビライザーアンテナ17を複数軸とする場合、これは2軸に限定されず、3軸以上としてもよい。
【0057】
・アンテナ線17aの巻き方は、アンテナ線17aの途中を第2ターミナル24bで折り返すことによって2軸を形成する方式に限定されない。要は、1本のアンテナ線17aで複数のインダクタンス25,26が形成できれば、アンテナ線17aの巻き方は適宜変更可能である。
【0058】
・イモビライザー制御部30は、照合ECU6から独立した別部品であってもよい。
・アンテナ装置は、イモビライザーシステム13の車両側のアンテナとして適用されることに限定されず、他のシステムや装置に適用可能である。また、アンテナ装置は、車両1に適用されることに限定されず、他の装置や機器に応用してもよい。
【0059】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(イ)電波の送信及び受信の少なくとも一方が可能で、1本アンテナ線をループ状に複数巻回することにより形成するアンテナの製造方法であって、1本の前記アンテナ線を複数のアンテナ軸心を持つ形状に巻くことにより、1本の前記アンテナ線から複数のインダクタンスを形成することを特徴とするアンテナの製造方法。この構成によれば、請求項1と同様の作用効果を得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0060】
1…車両、15…キー部材としてのメカニカルキー、17a…アンテナ線、24(24a〜24c)…ターミナル、25…第1インダクタンス、26…第2インダクタンス、27…コンデンサ(共振コンデンサ)、30…制御手段としてのイモビライザー制御部、La,Lb…アンテナ軸心。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波の送信及び受信の少なくとも一方が可能で、1本のアンテナ線をループ状に複数巻回することにより形成されたアンテナ装置において、
1本の前記アンテナ線を複数のアンテナ軸心を持つ形状に巻くことにより、1本の前記アンテナ線から複数のインダクタンスが形成されている
ことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
複数の前記インダクタンスは、1アンテナにおいて前記アンテナ軸心が2軸となるように2つ設けられ、
前記アンテナ線をループ状に複数巻回して第1インダクタンスを形成した後、当該第1インダクタンスを外方から包み込むように前記アンテナ線をループ状に複数巻回することにより第2インダクタンスが形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記インダクタンスと共振回路を形成するコンデンサを備え、
前記コンデンサは、複数の前記インダクタンスで共用されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
複数の前記インダクタンスは、1アンテナにおいて前記アンテナ軸心が2軸となるように第1インダクタンス及び第2インダクタンスの2つ設けられ、
前記第1インダクタンス及び前記コンデンサの組と、前記第2インダクタンス及び前記コンデンサの組とを交互に駆動して、1アンテナを2軸のアンテナとして動作させる制御手段を備えた
ことを特徴とする請求項3に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記アンテナ線の取り付け先として複数のターミナルを備え、
前記アンテナ線の始点を第1ターミナルに接続した後に、当該アンテナ線がループ状に複数巻かれることで第1インダクタンスが形成され、当該第1インダクタンスの終点を第2ターミナルにて折り返して、以降のアンテナ線を、前記アンテナ軸心を変えてループ状に複数巻くことにより第2インダクタンスが形成され、当該第2インダクタンスの終点が第3ターミナルに接続されている
ことを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
車両に搭載され、無線によりIDコードを前記車両に送信可能なキー部材との間で近距離無線によるID照合を行う際に、当該キー部材との間で電波の送受信を実行する
ことを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか一項に記載のアンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−5046(P2013−5046A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131471(P2011−131471)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】