説明

アントラセン誘導体の合成方法、有機電界発光素子、および表示装置

【課題】9,10位にアリール基類を導入したアントラセン誘導体を合成する方法を提供する。
【解決手段】2,6位がハロゲンによって置換されたアントラキノン誘導体と、カルバゾール誘導体とを、三級ホスフィン類とパラジウム化合物とを触媒としてカップリングさせる過程を経る式(1)のアントラセン誘導体の合成法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子用の有機材料として好適に用いられるアントラセン誘導体の合成方法、このアントラセン誘導体を用いた有機電界発光素子、およびこの素子を用いた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量で高効率のフラット型表示装置として、有機電界発光素子を用いた表示装置が注目されている。有機電界発光素子は、自発光素子であるため、これを用いた表示装置は、応答速度が高速であると共に、視野角依存性がなく、しかも低消費電力化が可能である。
【0003】
一般的な有機電界発光素子は、陰極と陽極との間に、電流を流すことによって発光する有機発光材料を含む有機層を狭持してなる。この有機層としては、例えば、正孔輸送層、有機発光材料を含む発光層、および電子輸送層を陽極側から順に積層させた構成や、さらに電子輸送層中に発光材料を含ませて電子輸送性の発光層とした構成が開発されている。
【0004】
また、このような構成の有機電界発光素子は自発光素子であるため、この有機電界発光素子を用いて表示装置を構成する場合、有機電界発光素子の長寿命化および信頼性の確保が最も重要な課題の一つである。このため、有機電界発光素子を構成する有機材料に関する研究が取り進められている。
【0005】
なかでも、アントラセン骨格を備えたアントラセン誘導体については、アミノ基やアリール基を有するアントラセン誘導体、ビアントラセン誘導体、スチリル基を有するアントラセン誘導体、さらにはカルバゾリル基を含むアントラセン誘導体など、数多くの誘導体が提案されている。
【0006】
例えば下記特許文献1には、アントラセン骨格の9、10位をアリール基で置換し、2,6位を3級アミノ基またはアリール基で置換したアントラセン誘導体が示されている。そして、アントラセン骨格を置換するアリール基としてカルバゾリル基が例示されている。また、これらのアントラセン誘導体を、正孔輸送層または発光層を構成する材料として用いることが示されている。
【0007】
さらに、下記特許文献2には、アントラセン骨格の9,10位をカルバゾリル基で置換したアントラセン誘導体を、発光材料として用いることが示されている。
【0008】
ところで、有機電界発光素子を用いた表示装置においてフルカラー表示を実現するために、青、緑、赤の各色に発光する有機発光材料に関して様々な検討もなされている。特に青色発光材料については色純度、発光効率および発光寿命などの点でさらなる改良が求められており、例えばスチルベン、スチリルアレン、もしくはアントラセン誘導体について改良が進められている(例えば、下記非特許文献1,2参照)。
【0009】
【特許文献1】特開2003−146951号公報
【特許文献2】特開平11−241062号公報
【非特許文献1】Materials Science and Engineering R(オランダ)2002年、第39巻、p.143−222
【非特許文献2】Applied Physics Letters(米)1995年、第67巻、26号、p.3853−3855
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、上述したアントラセン誘導体の合成方法としては、上記特許文献1に記載の方法がある。つまり、9、10位がアリール基類で置換されたアントラセン誘導体にハロゲン化剤を用いてアントラセンの2,6位をハロゲン化し、その後ウルマン反応等によってカルバゾール誘導体を導入する方法である。しかしながら、このような合成方法では、アントラセンの9,10位に所望のアリール基類が置換された化合物の入手が難しい場合には、一般式(1)で示されるアントラセン誘導体の9,10位に所望のアリール基類を導入することは困難である。
【0011】
また、このような合成方法では、アントラセンの9,10位に所望のアリール基類が置換された化合物の2,6位を選択的にハロゲン化するのが困難な場合もある。例えば、9,10位の2箇所に9−アントリル基が置換したアントラセン(アントラセン3量体)をハロゲン化する場合、先ず最初に、両端のアントラセン(アントリル基)の10位のハロゲン化が最初に起こる。そしてその後は、中心のアントラセン骨格の2,6位と両端のアントラセン骨格の2,6位でランダムにハロゲン化が起こる。したがって、その後カルバゾール誘導体を導入する場合には、中心のアントラセン骨格の2,6位だけではなく、両端のアントラセン(アントリル基)の2,6,10位にもカルバゾール誘導体が導入されることになる。このため、9,10位が9−アントリル基で置換された2,6ジカルバゾリルアントラセン誘導体は、上記特許文献1に記載の方法では得ることはできないのである。
【0012】
また、このような合成方法の問題と共に、上述したアントラセン誘導体は、ただ単に発光層に用いただけでは、発光効率および寿命特性を実用的に満足する色純度の高い青色発光の表示素子を得ることはできない。
【0013】
そこで本発明は、9,10位に所望のアリール基類を導入した一般式(1)で示されるアントラセン誘導体を合成する方法を提供すること、またこのアントラセン誘導体を用いて発光効率が高く寿命特性に優れた青色発光を得ることが可能な構成の有機電界発光素子を提供すること、さらにはこの有機電界発光素子を用いて色純度の高いフルカラー表示を行うことが可能な表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような目的を達成するための本発明のアントラセン誘導体の合成方法は、下記一般式(1)で示されるアントラセン誘導体の合成方法である。
【化5】

【0015】
この一般式(1)中におけるA1〜A16、B1〜B6は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、複素環基、環集合アリール基、シリル基、ニトリル基、ニトロ基またはニトロソ基を示す。このうちA1〜A16は隣り合うもの同士で環を形成していても良い。また、B1〜B6は任意の2箇所を結ぶ環を形成していても良い。さらに、一般式(1)中におけるC1〜C2は、それぞれ独立に、アリール基、複素環基、および環集合アリール基を示し、互いに連結していても良い。
【0016】
以上のような一般式(1)で示されるアントラセン誘導体は、アントラセン骨格の9,10位にアリール基類を持つ、2,6ジカルバゾリルアントラセン誘導体であり、このよう化合物は、非常に色純度の良好な青色発光材料であり、かつ蛍光量子収率も0.8以上と非常に高く、しかもガラス転移温度も100℃以上と耐熱性に関しても非常に優れていることが確認された。
【0017】
そして、本発明の合成方法は、次の過程を経ることを特徴としている。すなわち、2,6位がハロゲンによって置換されたアントラキノン誘導体と、カルバゾール誘導体とを、三級ホスフィン類とパラジウム化合物とを触媒としてカップリングさせる過程を経る方法である。
【0018】
このような合成方法では、上述したカップリングによって得られた2,6−ジカルバゾリルアントラキノン誘導体のケトン部に、グリニア試薬、有機リチウム試薬およびその他を用いた反応により上記一般式(1)で説明したC1、C2を導入した後、還元剤を用いてアロマタイズすることにより、一般式(1)に示すアントラセン誘導体が合成される。
【0019】
つまり、予めアントラセンの2,6位にカルバゾール基を導入しておき、その後、アントラセンの2,6位にC1、C2が導入される。このため、アントラセンの2,6位にカルバゾール基が導入され、かつアントラセンの9,10位に所望のアリール基類(C1、C2)が導入されたアントラセン誘導体が得られる。
【0020】
また本発明は、一般式(1)で示されるアントラセン誘導体を用いた有機電界発光素子、およびこの有機電界発光素子を用いた表示装置でもある。この有機電界発光素子は、一対の電極間に少なくとも発光層を有する有機層を狭持してなり、この発光層を構成する発光性のゲスト材料として、上述した構成のアントラセン誘導体が用いられている。
【0021】
このような構成の有機電界発光素子では、発光層を構成する発光性のゲスト材料として一般式(1)のアントラセン誘導体を用いたことにより、以降の実施例で示す様に発光効率が高く、且つ減衰率が低く寿命特性に優れた色純度の高い青色発光が可能になる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように本発明のアントラセン誘導体の合成方法によれば、予めアントラキノンの2,6位にカルバゾール基を導入する過程を経ることにより、アントラセンの2,6位にカルバゾール基が導入され、かつアントラセンの9,10位に所望のアリール基類(C1、C2)を導入した、一般式(1)のアントラセン誘導体を得ることが可能である。
【0023】
また本発明の有機電界発光素子によれば、発光層を構成する発光性のゲスト材料として一般式(1)のアントラセン誘導体を用いたことにより、発光効率が高く、且つ減衰率が低く寿命特性に優れた色純度の高い青色発光が可能になる。そして、本発明の表示装置は、このような有機電界発光素子を青色発光素子として用いることにより、他の赤色発光素子および緑色発光素子と組み合わせることで、色再現性および信頼性の高いフルカラー表示が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を、本発明の合成方法を適用して得られるアントラセン誘導体、アントラセン誘導体の合成方法、アントラセン誘導体を用いた有機電界発光素子および表示装置の順に説明する。
【0025】
<アントラセン誘導体>
本発明の合成方法は、下記一般式(1)で示されるアントラセン誘導体の合成方法であり、このアントラセン誘導体のさらに詳細な構成を説明する。
【化6】

【0026】
この一般式(1)中におけるA1〜A16、B1〜B6は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、複素環基、環集合アリール基、シリル基、ニトリル基、ニトロ基またはニトロソ基を示す。
【0027】
このうち、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、複素環基および環集合アリール基は、さらに他の基(アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、複素環基および環集合アリール基)で置換されていても良い。ただし、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基は、無置換または置換された状態で炭素数20以下であることとする。また、アリール基、複素環基および環集合アリール基は、無置換または置換された状態で炭素数30以下であることとする。
【0028】
これらのA1〜A16は、それぞれ隣り合うもの同士で環を形成していても良い。一方、B1〜B6は、任意の2箇所を結ぶ環を形成していても良い。
【0029】
そして、一般式(1)中におけるC1,C2は、それぞれ独立に、アリール基、複素環基および環集合アリール基を示す。これらのC1,C2は互いに連結していても良い。
【0030】
以上のようなアントラセン誘導体の好ましい構成としては、A1〜A16およびB1〜B6が水素である下記一般式(3)のアントラセン誘導体を例示できる。
【化7】

【0031】
また、一般式(3)中のC1,C2は、一般式(1)のC1,C2と同様であるが、さらにC1,C2が、それぞれ独立に炭素数20以下のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、複素環基および環集合アリール基などで置換された、あるいは無置換の炭素数20以下のアリール基類であることが好ましい。
【0032】
このようなアントラセン誘導体の具体的な一例として、下記の化合物(1)〜(10)が例示される。尚、これらの化合物(1)〜(10)は、上記一般式(1)および一般式(3)を用いて説明したアントラセン誘導体のあくまでも一例である。
【化8】

【0033】
<アントラセン誘導体の合成方法>
以上のような構成の一般式(1)に示すアントラセン誘導体を得るための本発明の合成方法としては、a)2,6位がハロゲンによって置換されたアントラキノン誘導体と、b)カルバゾール誘導体とを、c)三級ホスフィン類とd)パラジウム化合物とを触媒としてカップリングさせて中間体を合成する過程を経る合成方法がある。中間体としては、2,6−ジカルバゾリルアントラキノン誘導体が合成される。
【0034】
そして、合成された2,6−ジカルバゾリルアントラキノン誘導体のケトン部に、グリニア試薬、有機リチウム試薬およびその他を用いた反応により上記一般式(1)で説明したC1,C2を導入する。その後、水素化ホウ素ナトリウム等の適宜選択された還元剤を用いて還元してアロマタイズすることにより、一般式(1)に示すアントラセン誘導体が合成される。
【0035】
この場合、a)2,6位がハロゲンによって置換されたアントラキノン誘導体としては、2,6−ジブロモアントラキノンが例示さる。また、b)カルバゾール誘導体としてはカルバゾールが例示される。さらに、触媒となるc)三級ホスフィン類としては、トリ-tert-ブチルホスフィン等のトリアルキルホスフィン類が例示され、同じく触媒となるd)パラジウム化合物としては酢酸パラジウムが例示される。
【0036】
以上のような合成方法によれば、上述したa)〜d)を用いたカップリングによって、予めアントラキノンの2,6位にカルバゾール基が導入された2,6−ジカルバゾリルアントラキノン誘導体を得ておく。そしてその後、グリニア試薬、有機リチウム試薬およびその他を用いた反応により上記一般式(1)で説明したC1、C2を、前記2,6−ジカルバゾリルアントラキノン誘導体のケトン部に導入した後、還元剤を用いてアロマタイズすることにより、一般式(1)に示すアントラセン誘導体を合成する構成である。このため、アントラセンの2,6位にカルバゾール基が導入され、かつアントラセンの9,10位に所望のアリール基類(C1、C2)が導入されたアントラセン誘導体が得られる。
【0037】
ここで、上記特許文献1に記載の方法によると、アントラセンの9,10位に所望のアリール基類が置換された化合物の2,6位を選択的にハロゲン化するのが困難な場合がある。具体的には、アントラセンの9,10位のアリール基類が先にハロゲン化される場合やアントラセンの2,6位へのハロゲン化と9,10位のアリール基類のハロゲン化が同時に起こる場合である。そのような場合には、一般式(1)に示すアントラセン誘導体の前駆体である、9,10位に所望のアリール基類が置換し、かつ2,6位にハロゲンが置換されたアントラセン誘導体を合成することが出来ない。よって、上記特許文献1に記載の方法によると、アントラセンの9,10位のアリール基類の組み合わせによっては、一般式(1)に示すアントラセン誘導体を得ることが出来ない場合がある。つまり、一般式(1)に示すアントラセン誘導体の9,10位のアリール基類を、所望の任意な組み合わせとして選択した化合物を、上記特許文献1に記載の方法で得ることは不可能である。
【0038】
尚、本発明の合成方法によって得られるアントラセン誘導体(2,6−ジカルバゾリルアントラセン誘導体)は、有機電界発光素子を構成する材料として用いられるものであり、有機電界発光素子の製造プロセスに供する前に純度を高めておくことが好ましく、該純度が95%以上、より好ましくは99%以上とするのがよい。かかる高純度の有機化合物を得るには、上述した合成方法でアントラセン誘導体を合成した後に、再結晶法、再沈殿法、もしくはシリカやアルミナを用いたカラム精製のほかに、昇華精製による公知の高純度化のための精製を行うこととする。また、これらの精製方法を繰り返し行うことや、異なる精製法を組み合わせて行うことで本発明における有機発光材料中の未反応物、反応副生成物、触媒残渣、もしくは残存溶媒などの混合物を低減させ、よりデバイス特性の優れた有機電界発光素子を得ることが可能となる。
【0039】
<有機電界発光素子およびこれを用いた表示装置>
次に、上述したアントラセン誘導体を用いた有機電界発光素子およびこれを用いた表示装置の構成を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の有機電界発光素子およびこれを用いた表示装置を模式的に示す断面図である。
【0040】
この図に示す表示装置1は、基板2と、この基板2上に設けられた有機電界発光素子3とを備えている。有機電界発光素子3は、基板2上に、下部電極4、有機層5および上部電極6を順次積層してなり、基板2側または上部電極6側から発光を取り出す構成となっている。尚、この図においては、基板2上に1画素分の有機電界発光素子3を設けた構成を示しているが、この表示装置1は、複数の画素を備え、複数の有機電界発光素子3が各画素に配列形成されていることとする。
【0041】
次に、この表示装置1を構成する各部の詳細な構成を、基板2、下部電極4および上部電極6、有機層5の順に説明する。
【0042】
基板2は、ガラス、シリコン、プラスチック基板、さらにはTFT(thin film transistor)が形成されたTFT基板などからなり、特にこの表示装置1が基板2側から発光を取り出す透過型である場合には、この基板2は光透過性を有する材料で構成されることとする。
【0043】
また基板2上に形成された下部電極4は、陽極または陰極として用いられるものである。尚、図面においては、代表して下部電極4が陽極である場合を例示した。
【0044】
この下部電極4は、表示装置1の駆動方式によって適する形状にパターンニングされていることとする。例えば、この表示装置1の駆動方式が単純マトリックス方式である場合には、この下部電極4は例えばストライプ状に形成される。また、表示装置1の駆動方式が画素毎にTFTを備えたアクティブマトリックス方式である場合には、下部電極4は複数配列された各画素に対応させてパターン形成され、同様に各画素に設けられたTFTに対して、これらのTFTを覆う層間絶縁膜に形成されたコンタクトホール(図示省略)を介してそれぞれが接続される状態で形成されることとする。
【0045】
一方、下部電極4上に有機層5を介して設けられる上部電極6は、下部電極4が陽極である場合には陰極として用いられ、下部電極4が陰極である場合には陽極として用いられる。尚、図面においては、上部電極6が陰極である場合が示されている。
【0046】
そして、この表示装置1が、単純マトリックス方式である場合には、この上部電極6は例えば下部電極4のストライプと交差するストライプ状に形成され、これらが交差して積層された部分が有機電界発光素子3となる。また、この表示装置1が、アクティブマトリックス方式である場合には、この上部電極6は、基板2上の一面を覆う状態で成膜されたベタ膜状に形成され、各画素に共通の電極として用いられることとする。尚、表示装置1の駆動方式としてアクティブマトリックス方式を採用する場合には、有機電界発光素子3の開口率を確保するために、上部電極6側から発光を取り出す上面発光型とすることが望ましい。
【0047】
ここで、下部電極4(または上部電極6)を構成する陽極材料としては,仕事関数がなるべく大きなものがよく、たとえば、ニッケル、銀、金、白金、パラジウム、セレン、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、レニウム、タングステン、モリブデン、クロム、タンタル、ニオブやこれらの合金、酸化物、あるいは、酸化錫、ITO、酸化亜鉛、酸化チタン等が好ましい。
【0048】
一方、上部電極6(または下部電極4)を構成する陰極材料としては仕事関数がなるべく小さなものがよく、例えば、マグネシウム、カルシウム、インジウム、リチウム、アルミニウム、銀やこれらの合金が好ましい。
【0049】
ただし、この有機電界発光素子3で生じた発光を取り出す側となる電極は、上述した材料の中から光透過性を有する材料を適宜選択して用いることとし、特に、有機電界発光素子3の発光の波長領域において30%より多くの光を透過する材料が好ましく用いられる。
【0050】
例えば、この表示装置1が、基板2側から発光を取り出す透過型である場合、陽極となる下部電極4としてITOのような光透過性を有する陽極材料を用い、陰極となる上部電極6としてアルミニウムのような反射率の良好な陰極材料を用いる。
【0051】
一方、この表示装置1が、上部電極6側から発光を取り出す上面発光型である場合、陽極となる下部電極4としてクロムや銀合金のような陽極材料を用い、陰極となる上部電極6としてマグネシウムと銀(MgAg)との化合物のような光透過性を有する陰極材料を用いる。ただし、MgAgは、緑色波長領域における光透過率が30%程度であるため、次に説明する有機層5は、共振器構造を最適化して取り出し光の強度が高められるように設計されることが好ましい。
【0052】
そして、上述した下部電極4および上部電極6に狭持される有機層5は、陽極側(図面においては下部電極4側)から順に、正孔輸送層501、発光層503、電子輸送層505を積層してなる。
【0053】
このうち、正孔輸送層501としては、α−NPD(N、N’−ビス(1−ナフチル)−N、N’−ジフェニル[1、1’-ビフェニル]−4、4’―ジアミン)、トリフェニルアミン2量体、3量体、4量体、スターバースト型アミンなどの公知の材料を単層もしくは積層して、或いは混合して用いることができる。
【0054】
そして、この正孔輸送層501上に設けられる発光層503に、上記一般式(1),(3)を用いて説明し化合物(1)〜(10)に例示した本発明の合成方法によって得られるアントラセン誘導体(2,6−ジカルバゾリルアントラセン誘導体)を含有している。これらのアントラセン誘導体は、高いホール輸送性を有するため、この化合物を単体或いは50体積%以上の高濃度で用いるか、もしくはホール輸送性のその他の材料と混合して用いる場合には、後述の電子輸送層505からの発光が観測されるようになり、発光層503自体での発光効率が低下する。それ故、この場合には発光層503と電子輸送層505の間にホールブロック層を設けることが好ましい。
【0055】
また、ここでは特に、上記アントラセン誘導体が、発光層503内に発光性のゲスト材料(すなわちドーピング材料)として導入されていることとする。そして、発光層503中におけるアントラセン誘導体の濃度は、1体積%以上30体積%以下であることが望ましく、好ましくは1体積%以上20体積%以下、さらに好ましくは1体積%以上10体積%以下の濃度である。これにより、以降の実施例で示されるように、有機電界発光素子における発光輝度、外部量子効率、および発光寿命を高い値に保つことができる。また好ましくは1体積%以上20体積%以下、さらに好ましくは1体積%以上10体積%以下の濃度とすることにより、外部量子効率、および発光寿命をさらに高い値に保つことができる。
【0056】
そして、上述した本発明の2,6−ジカルバゾリルアントラセン誘導体と混合して用いられるホスト材料としては、オキサジアゾール、トリアゾール、ベンズイミダゾール、シロール、スチリルアリーレン、パラフェニレン、スピロパラフェニレン、Alq3、アリールアントラセン誘導体などの公知の材料を使用することができる。
【0057】
なかでも、下記一般式(2)に示すアリールアントラセン誘導体がホスト材料として好ましく用いられる。
【化9】

【0058】
この一般式(2)中において、R1〜R8は、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、複素環基、環集合アリール基、シリル基、ニトリル基、ニトロ基またはニトロソ基を示し、任意の2箇所を結ぶ環を形成していても良い。ただし、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、複素環基および環集合アリール基は、炭素原子数20以下であることとする。
【0059】
また、一般式(2)中において、Ar1,Ar2は、それぞれ独立に、アリール基、複素環基または環集合アリール基を示す。そして、これらのアリール基類は、炭素原子数6〜30であることとする。また、これらのアリール基類は、さらに1つまたは複数の置換基で置換されていても良い。そして、これらのアリール基類をさらに置換する置換基としては、1つまたは複数のハロゲン、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、複素環基、環集合アリール基、シリル基、ニトリル基、ニトロ基またはニトロソ基である。
【0060】
そして、このような一般式(2)のアリールアントラセン誘導体の具体例としては、下記構造式で示されるαADNあるいはβADN等が挙げられる。
【化10】

【0061】
またこのような構成の発光層503上に設けられる電子輸送層505には、Alq3、オキサジアゾール、トリアゾール、ベンズイミダゾール、シロール誘導体などの公知の材料を使用することができる。
【0062】
以上説明した構成の他にも、ここでの図示は省略したが、陽極となる下部電極4と正孔輸送層501との間に、正孔注入層を挿入しても良い。正孔注入層としてはPPV(ポリフェニレンビニレン)などの導電性ポリマー、フタロシアニン銅、スターバースト型アミン、トリフェニルアミン2量体、3量体、4量体などの公知の材料を単層もしくは積層して或いは混合して用いることができる。このような正孔注入層を挿入することにより正孔の注入効率が上がるため、より好ましい構成となる。
【0063】
さらに、電子輸送層505と陰極(上部電極)6の間に、電子注入層を挿入しても良い。電子注入層としては、酸化リチウム、フッ化リチウム、ヨウ化セシウム、フッ化ストロンチウムなどのアルカリ金属酸化物、アルカリ金属弗化物、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ土類金属弗化物などを用いることができる。このような電子注入層を挿入することにより電子の注入効率が上がるため、より好ましい構成となる。
【0064】
上記述べたような材料による積層構造の有機層5の形成には、周知の方法にて合成された各有機材料を用いて、真空蒸着やスピンコートなどの周知の方法を適用することができる。
【0065】
そして、このような構成の有機電界発光素子3を備えた表示装置1においては、大気中の水分や酸素等による有機電界発光素子3の劣化を防止するために、有機電界発光素子3を覆う状態でフッ化マグネシウムや窒化シリコン膜(SiNx)からなる封止膜を基板2上に形成したり、有機電界発光素子3に封止缶を被せて中空部を乾燥した不活性ガスでパージするか真空に引いた状態にすることが望ましい。
【0066】
また、このような構成の有機電界発光素子3を備えた表示装置1においては、この有機電界発光素子3を青色発光素子とし、これと共に赤色発光素子および緑色発光素子を各画素に設け、これら画素をサブピクセルとして1画素を構成し、基板2上にこれらの画素を1組とした各画素を複数配列することで、フルカラー表示を行うものとしても良い。
【0067】
以上説明した構成の有機電界発光素子3では、上記一般式(1),(3)を用いて説明し、化合物(1)〜(10)に例示した2,6−ジカルバゾリルアントラセン誘導体を発光層503に含有させたことにより、発光効率が高く、かつ減衰率が低くて信頼性の高い、色純度の良好な青色の波長領域の発光が得られる。そして、このような有機電界発光素子3を備えた表示装置1は、この有機電界発光素子3と共に、赤色発光する有機電界発光素子および緑色発光する有機電界発光素子と組み合わせることで、色表現性の高いフルカラー表示を行うことが可能になる。
【0068】
尚、以上の実施の形態においては、本発明の合成方法によって得られたアントラセン誘導体を発光層503における発光性のゲスト材料として用いた場合を例示した。しかしながら、本発明のアントラセン誘導体は、高い正孔輸送性を有するため、このアントラセン誘導体を正孔輸送層501や正孔注入層を構成する材料として用いても良く、これらの層に対するドーピング材料として用いても良い。
【実施例】
【0069】
次に、本発明のアントラセン誘導体の合成例、およびこのアントラセン誘導体を用いた本発明の有機電界発光素子の実施例について具体的に説明する。尚ここでは先ず、本発明のアントラセン誘導体の合成例1,2を説明し、次いでこれらのアントラセン誘導体を用いた有機電界発光素子および比較例の有機電界発光素子の作製手順、さらにはこれらの評価結果を説明する。
【0070】
<合成例1> 化合物(1)の合成
先ず、下記合成式(1)を参照し、次のようにして2,6−ジカルバゾリルアントラキノンを合成した。
【化11】

【0071】
1)臭化第二銅67gおよび亜硝酸ターシャリーブチル40gを、脱水アセトニトリル530mLに加え、80℃にて加熱攪拌した。反応系内に、2,6−ジアミノアントラキノン30gを3回に分けて分割添加し、80℃にて8時間加熱攪拌した。反応終了後、室温まで放冷した反応溶液を2Mの塩酸に投入したところ、固形物が得られた。この固形物を濾取後、メタノールにてかけ洗いをしてキシレンにて連続抽出をしたところ、18gの赤茶色固体(2,6−ジブロモアントラキノン)を得た。
【0072】
2)得られた赤茶色固体4g、カルバゾール4g、ナトリウムt−ブトキシド3.1g、酢酸パラジウム91mg、およびトリ−t−ブチルホスフィン0.21gを、キシレン160mLに溶解または懸濁させ、アルゴン雰囲気下にて70時間加熱還流した。室温まで放冷後、反応液を濾過し、得られた固体をキシレンで再結晶することにより、3.2gの2,6−ジカルバゾリルアントラキノンを得た。
【0073】
質量分析にてm/z=539となり、目的物である2,6−ジカルバゾリルアントラキノンと一致した。また、1H−NMRのケミカルシフト値も以下の通りとなり、得られた化合物が2,6−ジカルバゾリルアントラキノンであることが確認された。
【0074】
1H−NMR (CDCl3, 400MHz) δ(ppm); 7.37 (t, 4 H, J = 7.6 Hz), 7.48 (t, 4 H, J = 7.6 Hz), 7.59 (d, 4 H, J = 8.0 Hz), 8.10 (d, 2 H, J = 8.0 Hz), 8.17 (d, 4 H, J = 8.0 Hz) , 8.60 (d, 2 H, J = 8.0 Hz), 8.64 (s, 2H)
【0075】
次に、下記合成式(2)を参照し、次のようにして化合物(1)を合成した。
【化12】

【0076】
1)先ず、アルゴン雰囲気下にて、以上のようにして合成した2,6−ジカルバゾリルアントラキノン9.0gの脱水THF(tetrahydrofuran)懸濁液1.5Lを、−16℃まで冷却した。そこへフェニルリチウム(0.98Mのシクロヘキサン−ジエチルエーテル溶液:有機リチウム試薬)を、−16℃〜−13℃の温度範囲で滴下した。原料消失を確認後、0℃まで昇温させ水でクエンチした。反応液の不溶物を濾別除去し、濾過母液を分液した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥、減圧濃縮した。得られた固体はシリカゲルカラム精製を行い、9.7gの淡黄白色固体を得た。
【0077】
2)得られた淡黄白色固体9.7gの250mL酢酸懸濁液に、塩化スズ(II)二水和物を投入し、100℃にて2時間加熱攪拌する還元処理を行った。その後室温になるまで放冷し、析出した固体を濾取、メタノールで洗浄した。得られた固体はキシレンにて熱スラリー洗浄を二回行い、その後昇華精製を行うことで、黄色粉末状固体を5.5g得た。
【0078】
得られた黄色粉末状固体を質量分析したところ、m/z=660であり、目的物である化合物(1)と一致した。また、1H−NMRのケミカルシフト値は以下の通りとなり、得られた化合物が上記合成式(2)に示す化合物(1)であることが確認された。
【0079】
1H−NMR(CDCl3, 400MHz) δ(ppm); 7.26-7.31 (m, 4 H), 7.36-7.42 (m, 4 H) , 7.44-7.52 (m, 6 H), 7.55-7.63 (m, 10H) , 7.92-7.98 (m, 4H) , 8.10-8.15 (d, 4H)
【0080】
また、得られた化合物(1)を熱分析した。この結果、TG−DTA分析(昇温速度10℃/分)による重量減少温度は476℃で融解温度は404℃であった。また、DSC分析によるガラス転移温度は178℃、結晶化温度は237℃および融解温度は406℃であった。尚、DSC分析の温度プログラムは、まず10℃/分の昇温速度で融解するまで加熱し、その後100℃/分の降温速度で室温まで冷却したサンプルについて、10℃/分の昇温速度で加熱した際に測定した。
【0081】
さらに、図2には、得られた化合物(1)の1,4−ジオキサン溶液(約10-5mol/L)の吸収スペクトルと蛍光スペクトルを示す。図2のグラフから、化合物(1)は、ジオキサン溶液の状態において、蛍光ピーク波長は456nmであって良好な青色発光を示し、蛍光量子収率は0.98と非常に高いことが確認された。
【0082】
<合成例2> 化合物(2)の合成
上記合成例1で中間体として合成した2,6−ジカルバゾリルアントラキノンを原料として、下記合成式(3)を参照し、次のようにして化合物(2)を合成した。
【化13】

【0083】
先ず、アルゴン雰囲気下、削り状のマグネシウム0.39gを脱水THF10mLに入れ、2−ブロモナフタレン3.0gを脱水THF60mLに溶解させた溶液を40〜45℃の温度範囲で滴下し、2−ナフチルグリニア試薬(2-NaphthylMgBr)を得た。
【0084】
1)得られたグリニア試薬をアルゴン雰囲気下、50℃で2,6−ジカルバゾリルアントラキノン3.5gの脱水THF溶液1.4Lに滴下した。2,6−ジカルバゾリルアントラキノンが消失するまで滴下し、消失を確認してから室温まで放冷した。反応液を飽和塩化アンモニウム水溶液でクエンチした後、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水にて洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥、減圧濃縮した。ここで得られたセミソリッドをシリカゲルカラムにより精製し、淡茶色セミソリッド2.4gを得た。
【0085】
2)得られた淡茶色セミソリッド1.8gと塩化スズ(II)二水和物0.76gを酢酸40mL中に加え、アルゴン雰囲気下にて100℃で2時間加熱攪拌した。原料の消失を確認後、室温まで放冷し、析出した固体を濾取後、メタノールで洗浄した。得られた固体はキシレンで再結晶を行い、その後昇華精製して黄色粉末状固体の化合物を0.49g得た。
【0086】
得られた黄色粉末状固体を質量分析したところ、m/z=760であり、目的物である化合物(2)と一致した。また、1H−NMRのケミカルシフト値は以下の通りとなり、得られた化合物が上記合成式(3)に示す化合物(2)であることが確認された。
【0087】
1H−NMR(CDCl3,400MHz)δ(ppm);7.20-7.24(m,4H),7.32-7.39(m,4H),7.44-7.48(m,4H),7.53-7.60(m,6H),7.73-7.78(m,2H),7.91-7.97(m,4H),7.98-8.03(m,4H),8.04-8.11(m,6H),8.13(s,2H)
【0088】
また、得られた化合物(2)を熱分析した。この結果、TG−DTA分析(昇温速度10℃/分)による重量減少温度は494℃で融解温度は434℃であった。また、DSC分析によるガラス転移温度は201℃、結晶化温度は284℃および融解温度は423℃であった。尚、DSC分析の温度プログラムは、合成例1に記載の方法と同様なものとした。
【0089】
さらに、図3には、得られた化合物(2)の1,4−ジオキサン溶液(約10-5mol/L)の吸収スペクトルと蛍光スペクトルを示す。図3のグラフから、化合物(2)は、ジオキサン溶液の状態において、蛍光ピーク波長は462nmであって良好な青色発光を示し、蛍光量子収率は0.81と非常に高いことが確認された。
<実施例1>
【0090】
合成例1によって得られた化合物(1)を用い、以下のように透過型の有機電界発光素子(図1参照)を作製した。
【0091】
ガラス基板2上に、膜厚190nmのITO透明電極(陽極)を下部電極4として形成したITO基板を作製し、中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄した。このITO基板を乾燥後、さらにUV/オゾン処理を10分間行った。次いで、このITO基板を蒸着装置の基板ホルダーに固定した後、蒸着槽を1.4×10-4 Paに減圧した。
【0092】
そして先ず、ITO透明電極上に、下記N、N’−ビス(1−ナフチル)−N、N’−ジフェニル[1、1’-ビフェニル]−4、4’−ジアミン(α−NPD)を、蒸着速度0.2nm/secで65nmの厚さに蒸着し、正孔注入輸送層501を形成した。
【化14】

【0093】
次いで、下記化合物9,10−ジ−(2−ナフチル)アントラセン(βADN)をホストとし、下記化合物(1)をゲスト材料とし、それぞれを異なる蒸着源から全蒸着速度約0.2nm/secで35nmの厚さに共蒸着し、ゲスト濃度が5体積%の発光層503を形成した。
【化15】

【0094】
次に、下記Alq3を蒸着速度0.2nm/secで18nmの厚さに蒸着し、電子輸送層505を形成した。その上に、フッ化リチウム(LiF)を0.1nmの厚さに蒸着し、さらにマグネシウムと銀を蒸着速度約0.4nm/secで70nmの厚さに共蒸着(原子比95:5)して陰極を形成し、有機電界発光素子3を作製した。
【化16】

【0095】
作製した有機電界発光素子を電流密度25mA/cm2で直流電流駆動したところ、a)駆動電圧は7.0V、発光効率は3.4cd/A、電力効率は1.5lm/Wであった。また、b)発光輝度850cd/m2、c)外部量子効率2.2%、d)発光ピーク464nmの青色発光が確認された。また、この発光素子を初期輝度1300cd/m2で定電流駆動したところ、e)発光寿命(輝度が半減するまでの半減寿命)は850時間であった。尚、この評価結果a)〜e)を、下記表1にまとめて示す。
【表1】

【0096】
尚、図4には、実施例1の有機電界発光素子を駆動した時の電圧(V)と発光輝度(cd/m2)との関係を示す。また、図5には、実施例1の有機電界発光素子における発光輝度(cd/m2)と外部量子効率(%)との関係を示す。さらに図6には、実施例1の有機電界発光素子の発光スペクトルを示す。
【0097】
<実施例2>
図1の発光層503中のゲスト材料として、化合物(2)を使用した以外は、実施例1と全く同様に有機電界発光素子3を作製し、同様の評価を行った。尚、ゲスト濃度は5体積%とした。
【0098】
作製した有機電界発光素子を電流密度25mA/cm2で直流電流駆動したところ、a)駆動電圧は6.3V、発光効率は3.7cd/A、電力効率は1.9lm/Wであった。また、b)発光輝度930cd/m2、c)外部量子効率2.3%、d)発光ピーク471nmの青色発光が確認された。また、この発光素子を初期輝度1500cd/m2で定電流駆動したところ、e)発光寿命(輝度が半減するまでの半減寿命)は1300時間であった。尚、上記表1には、この評価結果a)〜e)をまとめて示す。
【0099】
尚、図7には、実施例2の有機電界発光素子を駆動した時の電圧(V)と発光輝度(cd/m2)との関係を示す。また、図8には、実施例2の有機電界発光素子における発光輝度(cd/m2)と外部量子効率(%)との関係を示す。さらに図9には、実施例2の有機電界発光素子の発光スペクトルを示す。
【0100】
<比較例1>
上述した実施例1の有機電界発光素子の作製手順において、図1の発光層503中におけるゲスト材料として化合物(2)を使用し、ホスト材料として下記化合物(Alq3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。尚、ゲスト濃度は5体積%とした。下記化合物(Alq3)は、上記非特許文献1に報告のあるホスト材料の一つであり、本発明の比較例としてホスト材料として用いた。
【化17】

【0101】
作製した有機電界発光素子を電流密度25mA/cm2で直流電流駆動したところ、a)駆動電圧は6.0V、発光効率は2.5cd/A、電力効率は1.3lm/Wであった。また、b)発光輝度630cd/m2、c)外部量子効率0.9%、d)発光ピーク515nmの緑色発光が確認され、青色発光は得られなかった。また、この発光素子を初期輝度1000cd/m2で定電流駆動したところ、e)発光寿命(輝度が半減するまでの半減寿命)は300時間であった。尚、上記表1には、この評価結果a)〜e)をまとめて示す。
【0102】
<比較例2>
上述した実施例1の有機電界発光素子の作製手順において、発光層503中におけるゲスト材料として、下記化合物(B)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。尚、ゲスト濃度は5体積%とした。下記化合物(B)は、上記非特許文献2に報告のある、既存の高性能な青色発光材料の一つである。
【化18】

【0103】
作製した有機電界発光素子を電流密度25mA/cm2で直流電流駆動したところ、a)駆動電圧は6.5V、発光効率は3.4cd/A、電力効率は1.6lm/Wであった。また、b)発光輝度850cd/m2、c)外部量子効率1.7%、d)発光ピーク480nmの青色発光が確認された。また、この発光素子を初期輝度850cd/m2で定電流駆動したところ、e)発光寿命(輝度が半減するまでの半減寿命)は390時間であり、非常に短い寿命しか得られなかった。尚、上記表1には、この評価結果a)〜e)をまとめて示す。
【0104】
図10には、比較例2の有機電界発光素子を駆動した時の電圧(V)と発光輝度(cd/m2)との関係を示す。また、図11には、比較例2の有機電界発光素子における発光輝度(cd/m2)と外部量子効率(%)との関係を示す。さらに図12には、比較例2の有機電界発光素子の発光スペクトルを示す。
【0105】
以上、表1に示したように、一般式(1)で示されるアントラセン誘導体(2,6−ジカルバゾリルアントラセン誘導体)である化合物(1)および化合物(2)を発光性のゲスト材料とし、ホスト材料としてβADNで代表される一般式(2)で示される化合物と組み合わせた本発明構成を採用した実施例1,2の有機電界発光素子は、青色の発光が得られ、かつ発光寿命も800時間を上回る値を示した。
【0106】
これに対して、ホスト材料としてAlq3を用いた比較例1の有機電界発光素子では、青色の発光が得られず、発光性ゲスト材料として化合物(B)を用いた比較例2の有機電界発光素子では青色の発光は得られるものの、発光寿命が390時間と短かった。
【0107】
以上から、一般式(1)で示されるアントラセン誘導体(2,6−ジカルバゾリルアントラセン誘導体)は、特に一般式(2)で示されるアントラセン系ホスト材料と組み合わせることで、有機電界発光素子における青色発光材料として、寿命特性も優れた材料であることが確認できた。
【0108】
<実施例3>
本実施例3においては、上面発光型の有機電界発光素子を作製した。
【0109】
ガラス基板2上に、膜厚190nmのAg合金層を形成し、さらに膜厚11nmのITO透明電極(陽極)を下部電極4として積層形成し、中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄した。乾燥後、更にUV/オゾン処理を10分間行った。この基板を蒸着装置の基板ホルダーに固定した後、蒸着槽を1×10-6Torrに減圧した。
【0110】
この状態で、先ず、ITO透明電極上に、上記α−NPDを、蒸着速度0.2nm/secで24nmの厚さに蒸着して正孔注入輸送層501を形成した。次いで、上記βADNをホスト材料とし、上記化合物(2)をゲスト材料とし、それぞれを異なる蒸着源から全蒸着速度約0.2nm/secで35nmの厚さに共蒸着し、ゲスト濃度が5体積%の発光層503を形成した。次に、上記Alq3を蒸着速度0.2nm/secで18nmの厚さに蒸着し、電子輸送層505を形成した。その上に、フッ化リチウム(LiF)を0.1nmの厚さに蒸着し、さらにマグネシウムと銀を蒸着速度約0.4nm/secで12nmの厚さに共蒸着(原子比Mg:Ag=95:5)して陰極(上部電極6)を形成し、上部電極6側から発光光を取り出す上面発光型の有機電界発光素子3を作製した。
【0111】
作製した有機電界発光素子を電流密度25mA/cm2で直流電流駆動したところ、a)駆動電圧は5.2V、発光効率は2.5cd/A、電力効率は1.2lm/Wであった。また、b)発光輝度650cd/m2、d)発光ピーク467nmの青色発光が確認された。
【0112】
この結果、上面発光の有機電界発光素子であっても、βADNで代表される一般式(2)で示されるアリールアントラセンをホスト材料とし、2,6−ジカルバゾリルアントラセンの9,10位をアリール基類で置換したアントラセン誘導体を発光性のゲスト材料として用いた本発明構成とすることで、青色の発光が得られることが確認された。
【0113】
<実施例4〜6>
上述した実施例1の有機電界発光素子の作製手順において、発光層503中におけるゲスト材料として化合物(2)のアントラセン誘導体を用い、そのゲスト濃度を、10体積%、20体積%、30体積%としたこと以外は、実施例1と同様にして透過型の有機電界発光素子3を作製した。
【0114】
作製した各有機電界発光素子について、実施例1と同様にa)駆動電圧、b)発光輝度、c)外部量子効率、d)発光色、e)発光寿命を測定した結果を下記表2に示す。尚、表2には、発光層503中における化合物(2)のアントラセン誘導体からなるゲスト濃度を5体積%とした実施例2の結果も合わせて示した。
【表2】

【0115】
上記実施例2,4〜6の結果からも、βADNで代表される一般式(2)で示されるアリールアントラセンをホスト材料とし、2,6−ジカルバゾリルアントラセンの9,10位をアリール基類で置換したアントラセン誘導体を発光性のゲスト材料として用いた本発明構成の有機電界発光素子では、青色発光を実現できることが確認できた。また、表1に示した比較例2の結果と比較することにより、その青色発光のc)外部量子効率は高く、発光寿命が長いことも確認できた。
【0116】
表2に示した結果から、発光層503中におけるアントラセン誘導体の濃度を、1体積%以上30体積%未満とすることで、b)発光輝度、c)外部量子効率、およびe)発光寿命を高い値に保つことが可能であることがわかる。また好ましくは1体積%以上20体積%以下、さらに好ましくは1体積%以上10体積%以下の濃度とすることにより、b)発光輝度、c)外部量子効率、およびe)発光寿命をさらに高い値に保つことが可能であることが確認された。
【0117】
ここで、図13には、上記実施例および比較例の有機電界発光素子において、発光層における発光性のゲスト材料として用いた化合物(1)、化合物(2)および化合物(B)の薄膜の吸収スペクトルと、同ホスト材料として用いたβADNおよびAlq3の薄膜の蛍光スペクトルを示す。
【0118】
この図13から、βADNの蛍光スペクトルと、各種ゲスト材料の吸収スペクトルの重なり幅は、化合物(2)>化合物(1)>化合物(B)の順に大きくなっていることがわかる。このことからも、化合物(1)および化合物(2)に代表されるアントラセン誘導体を発光性のゲスト材料に用いて発光層を構成した有機電界発光素子においては、当該発光層のホスト材料としてβADNに代表される一般式(2)のアリールアントラセン誘導体を用いた本発明構成とすることが好ましいことが確認できた。つまり、ホスト材料からゲスト材料へのエネルギー移動(フェルスター型エネルギー移動)は、ホスト材料の蛍光スペクトルと、ゲスト材料の吸収スペクトルとの重なり幅が大きくなるほど効率良く起こるからである。これは、表1におけるc)外部量子収率の値およびe)発光寿命が、実施例2[化合物(2)]>実施例1[化合物(1)]>比較例2[化合物(B)]の順に優れていることからも確認される。
【0119】
尚、比較として、既知のホスト材料としてAlq3を用いると、Alq3の蛍光スペクトルと各ゲスト材料の吸収スペクトルとの重なりは著しく小さくなり(図13)、上記フェルスター型エネルギー移動は起こりにくくなる。従ってそのような構成の有機電界発光素子の(特に青色波長領域での)外部量子収率は著しく小さくなるばかりか、Alq3自体が緑色の発光をして青色発光素子として成り立たなくなる。これは比較例1の結果からも明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明の有機電界発光素子の構成を説明する断面図である。
【図2】化合物(1)のジオキサン溶液のスペクトルである。
【図3】化合物(2)のジオキサン溶液のスペクトルである。
【図4】実施例1の有機電界発光素子における電圧と発光輝度との関係を示すグラフである。
【図5】実施例1の有機電界発光素子における発光輝度と外部量子効率との関係を示すグラフである。
【図6】実施例1の有機電界発光素子における発光スペクトルである。
【図7】実施例2の有機電界発光素子における電圧と発光輝度との関係を示すグラフである。
【図8】実施例2の有機電界発光素子における発光輝度と外部量子効率との関係を示すグラフである。
【図9】実施例2の有機電界発光素子における発光スペクトルである。
【図10】比較例2の有機電界発光素子における電圧と発光輝度との関係を示すグラフである。
【図11】比較例2の有機電界発光素子における発光輝度と外部量子効率との関係を示すグラフである。
【図12】比較例2の有機電界発光素子における発光スペクトルである。
【図13】実施例および比較例で用いたゲスト材料の吸収スペクトルおよびホスト材料の蛍光スペクトルである。
【符号の説明】
【0121】
1…表示装置、2…基板、3…有機電界発光素子、4…下部電極、5…有機層、6…上部電極、501…正孔輸送層、503…発光層、505…電子輸送層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるアントラセン誘導体の合成方法であって、
2,6位がハロゲンによって置換されたアントラキノン誘導体と、カルバゾール誘導体とを、三級ホスフィン類とパラジウム化合物とを触媒としてカップリングさせる過程を経る
ことを特徴とするアントラセン誘導体の合成方法。
【化1】

[ただし、一般式(1)中において、
1〜A16、B1〜B6は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、複素環基、環集合アリール基、シリル基、ニトリル基、ニトロ基またはニトロソ基を示し、このうちA1〜A16は隣り合うもの同士で環を形成していても良く、またB1〜B6は任意の2箇所を結ぶ環を形成していても良い。
また、C1〜C2は、それぞれ独立に、アリール基、複素環基、および環集合アリール基を示し、互いに連結していても良い。]
【請求項2】
請求項1記載のアントラセン誘導体の合成方法において、
前記一般式(1)におけるA1〜A16、B1〜B6が全て水素である
ことを特徴とするアントラセン誘導体の合成方法。
【請求項3】
請求項1記載のアントラセン誘導体の合成方法において、
前記三級ホスフィン類がトリアルキルホスフィン類である
ことを特徴とするアントラセン誘導体の合成方法。
【請求項4】
請求項1記載のアントラセン誘導体の合成方法において、
前記三級ホスフィン類がトリ−tert−ブチルホスフィンである
ことを特徴とするアントラセン誘導体の合成方法。
【請求項5】
陽極と陰極の間に、少なくとも発光層を有する有機層を狭持してなる有機電界発光素子において、
前記発光層を構成する発光性のゲスト材料として、下記一般式(1)で示されるアントラセン誘導体が用いられている
ことを特徴とする有機電界発光素子。
【化2】

[ただし、一般式(1)中において、
1〜A16、B1〜B6は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、複素環基、環集合アリール基、シリル基、ニトリル基、ニトロ基またはニトロソ基を示し、このうちA1〜A16は隣り合うもの同士で環を形成していても良く、またB1〜B6は任意の2箇所を結ぶ環を形成していても良い。
また、C1〜C2は、それぞれ独立に、アリール基、複素環基、および環集合アリール基を示し、互いに連結していても良い。]
【請求項6】
請求項5記載の有機電界発光素子において、
前記アントラセン誘導体は、前記発光層を構成する青色発光材料として用いられている
ことを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項7】
請求項5記載の有機電界発光素子において、
前記発光層中に、前記アントラセン誘導体からなるゲスト材料が20体積%以下の割合で含有されている
ことを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項8】
請求項5記載の有機電界発光素子において、
前記発光層中には、下記一般式(2)に示す化合物がホスト材料として含有されている
ことを特徴とする有機電界発光素子。
【化3】

[ただし、一般式(2)中において、
1〜R8は、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、複素環基、環集合アリール基、シリル基、ニトリル基、ニトロ基またはニトロソ基を示し、任意の2箇所を結ぶ環を形成していても良い。
また、Ar1,Ar2は、それぞれ独立に、アリール基、複素環基または環集合アリール基を示し、これらの置換基は、1つまたは複数のハロゲン、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、複素環基、環集合アリール基、シリル基、ニトリル基、ニトロ基またはニトロソ基で置換されていても良い。]
【請求項9】
陽極と陰極の間に少なくとも発光層を有する有機層を狭持してなる有機電界発光素子を、基板上に複数配列形成してなる表示装置において、
前記有機電界発光素子における前記発光層を構成する発光性のゲスト材料として、下記一般式(1)で示されるアントラセン誘導体が用いられている
ことを特徴とする表示装置。
【化4】

[ただし、一般式(1)中において、
1〜A16、B1〜B6は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、複素環基、環集合アリール基、シリル基、ニトリル基、ニトロ基またはニトロソ基を示し、このうちA1〜A16は隣り合うもの同士で環を形成していても良く、またB1〜B6は任意の2箇所を結ぶ環を形成していても良い。
また、C1〜C2は、それぞれ独立に、アリール基、複素環基、および環集合アリール基を示し、互いに連結していても良い。]
【請求項10】
請求項9記載の表示装置において、
前記アントラセン誘導体が前記発光層を構成する発光性のゲスト材料として用いられている有機電界発光素子が、青色発光素子として複数の画素のうちの一部の画素に設けられている
ことを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−15933(P2007−15933A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−195708(P2005−195708)
【出願日】平成17年7月5日(2005.7.5)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】