説明

アンモニアおよび窒素酸化物の分解用触媒

【課題】窒素酸化物の濃度が変動する条件でも、高い脱硝率を維持しつつアンモニアの大気への漏出を抑制できる触媒を提供する。
【解決手段】アンモニアの存在下に窒素酸化物を還元するための触媒を、少なくともマンガン成分を含有する硫酸根ジルコニアで構成する。前記触媒において、マンガン成分の割合は、マンガンMn換算で、ジルコニア100重量部に対して0.1〜10重量部程度である。前記触媒は、さらに鉄成分を含んでいてもよく、鉄成分の割合は、鉄Fe換算で、ジルコニア100重量部に対して0.1〜10重量部程度であってもよい。この触媒に被処理ガスを350〜550℃程度で接触させると、被処理ガス中の窒素酸化物を還元除去できるとともに、未反応のアンモニアも分解除去できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼排ガスなどに含まれる窒素酸化物を還元するために有用な還元触媒(又は浄化触媒)および窒素酸化物の除去方法(又は燃焼ガスなどの浄化方法)に関する。また、本発明はアンモニアを窒素に分解するために有用な触媒(アンモニア分解用触媒)およびアンモニアの分解(又は除去)方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼排ガスや硝酸製造プロセスの排ガスなどに含まれる窒素酸化物(NOx:xは通常1又は2、すなわち、一酸化窒素及び二酸化窒素である場合が多い)は、酸性雨や光化学スモッグ、呼吸器疾患などを引き起こすため、排出量が厳しく規制されている。ボイラーやディーゼルエンジンなどから排出される排ガス中の窒素酸化物は酸素を過剰に含んでおり、この窒素酸化物は、還元剤としてアンモニアを添加し、窒素酸化物を窒素に還元し脱硝する選択接触還元法により除去されている。この選択接触還元法では、酸化チタン−酸化バナジウム触媒や、酸化チタン−酸化バナジウム−酸化タングステンから構成される触媒が広く使用されている。例えば、特開昭50−51966号公報(特許文献1)には、窒素酸化物をアンモニアの存在下、酸化バナジウムを酸化チタン又は酸化ジルコニウムに担持させた触媒と接触させる窒素酸化物の接触還元分解法が開示されている。酸化チタン系以外では、酸化ジルコニウムに酸化バナジウムを担持した触媒(前記特許文献1の触媒など)、酸化ジルコニウムに硫酸根と酸化タングステンを担持した触媒なども選択接触還元法の触媒として使用できることが知られている。例えば、特開2003−326167号公報(特許文献2)には、酸化ジルコニウムとSOまたはSO2−よりなり、固体酸強度(Ho)がHo≦−11.93である触媒であって、反応温度450〜800℃の高温域で使用する高温脱硝触媒が開示されている。
【0003】
選択接触還元法は、排ガス中の窒素酸化物と添加するアンモニアとのモル比を厳密に制御すれば、100%に近い脱硝率が得られる特徴がある。しかし、排ガス中の窒素酸化物の濃度が経時的に変動する場合、窒素酸化物を脱硝するのに必要なアンモニア量を過不足なく注入することは極めて難しい。そのため、高い脱硝率を保つためには、窒素酸化物に対して過剰量のアンモニアを添加する必要がある。その結果、脱硝後のガス中に未反応のアンモニアが残存し、アンモニアが大気に排出されてしまう。そこで、大気中に漏出するアンモニア量(リークアンモニア濃度)を低減する目的で、アンモニア分解作用を有する触媒を従来の触媒の下流側に取り付ける方法や、アンモニア分解作用と窒素酸化物還元作用とを有する触媒を使用する方法が示されている。
【0004】
例えば、特開2002−336699号公報(特許文献3)には、アンモニア分解作用を有する酸点(酸性の発現に関与する固体表面上の特定の部位)を有する担体(例えば、ゼオライト、ZrO、SiO・Alなど)にルテニウムを担持した触媒が開示されている。この触媒を用いてアンモニアを処理すると、窒素酸化物を生成することなく、窒素を生成し、アンモニアが分解除去されるので、アンモニア脱硝反応後のリークアンモニアを低減するのに有用である。
【0005】
一方、特開平5−146634号公報(特許文献4)および特開平8−290062号公報(特許文献5)には、アンモニア分解作用と窒素酸化物還元作用とを有する触媒が開示されている。前者では、酸化チタン−酸化バナジウム−酸化タングステンから構成される第1成分と、モルデナイトに白金を担持した第2成分とを混合してなる触媒が提案され、また後者では、前者を改良し、第2成分としてシリカに白金およびイリジウムを担持した触媒が提案されている。これらの触媒はともに、少量の貴金属を添加することでアンモニア分解作用を有し、リークアンモニアを低減している。
【0006】
しかし、これらの触媒は、いずれも貴金属を含有するため高価であるとともに、貴金属は一般に高い酸化活性を有するため、燃焼不良等に起因する高濃度の炭化水素を含むガスに接触すると、爆発的な接触酸化反応を引き起こし、活性が著しく低下する。さらに、同様の理由から、450℃以上の高温ではアンモニア分解反応が激しく進行して、脱硝率が著しく低下する。
【特許文献1】特開昭50−51966号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2003−326167号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2002−336699号(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開平5−146634号(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開平8−290062号(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、窒素酸化物濃度が変動する条件でも高い脱硝率を維持しつつ、アンモニアの大気中への漏出(排出)を抑制できる窒素酸化物の還元(又は被処理ガスの浄化)触媒とその製造方法及び窒素酸化物の除去方法を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、被処理ガスが炭化水素を含んでいても、高い脱硝活性を保持できる窒素酸化物の還元触媒又は被処理ガスの浄化触媒及び窒素酸化物の除去又は被処理ガスの浄化方法を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、貴金属を必要とせず、高い触媒活性を長期間に亘り維持でき、耐久性の高い窒素酸化物の還元触媒及び窒素酸化物除去方法を提供することにある。
【0010】
本発明の別の目的は、アンモニアを窒素に効率よく分解できる触媒およびアンモニア分解方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は前記課題を達成するため鋭意検討した結果、マンガン成分を含有する硫酸根ジルコニアで構成された触媒を接触還元触媒として用いると、窒素酸化物の濃度が変動する条件でも長期に亘り、高い脱硝率を維持しつつ、アンモニアの大気中への漏出(排出)を抑制できること、さらには前記触媒をアンモニアに接触させると、アンモニアを効率よく窒素に分解(又は変換)できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の触媒は、アンモニア及び/又は窒素酸化物を分解するための触媒であって、少なくともマンガン成分を含有する硫酸根ジルコニアで構成されている。前記触媒において、マンガン成分の割合は、マンガンMn換算で、ジルコニア100重量部に対して0.1〜10重量部程度であってもよい。また、前記触媒は、さらに鉄成分を含んでいてもよい。このような鉄成分を含む前記触媒において、鉄成分及びマンガン成分の総量の割合は、ジルコニア100重量部に対して、鉄Fe及びマンガンMn換算の合計で、1〜10重量部程度であってもよく、また、鉄成分とマンガン成分との割合は、鉄Fe及びマンガンMn換算で、前者/後者(重量比)=95/5〜10/90程度であってもよい。
【0013】
本発明の触媒は、アンモニアを含む被処理ガスを処理(分解)するための触媒として利用できる。例えば、本発明の触媒は、アンモニアの存在下に窒素酸化物を還元するのに有用である。そのため、本発明の触媒は、アンモニアの存在下に窒素酸化物を還元するために用いる触媒(還元触媒)であってもよい。このような本発明の触媒は、通常、窒素酸化物に対する還元機能とアンモニアに対する分解機能とを有していてもよい。本発明の触媒は、高い脱硝率で窒素酸化物を還元でき、過剰のアンモニアを用いてもリークアンモニアの大気中への排出を抑制できる。
【0014】
また、本発明の触媒は、アンモニアを窒素に効率よく分解できる。そのため、本発明の触媒は、アンモニアを窒素に分解するために用いる触媒(アンモニア分解用触媒)であってもよい。
【0015】
本発明には、アンモニアの存在下、窒素酸化物を含む被処理ガスを、前記触媒(マンガン成分を少なくとも含有する硫酸根ジルコニアで構成された触媒)に接触させる窒素酸化物の除去方法(又は分解方法)も含まれる。この方法において、被処理ガスを、温度350〜550℃程度で触媒と接触させてもよい。また、アンモニアの量は、被処理ガス中の窒素酸化物1モルに対して0.9〜1.5モル程度としてもよい。被処理ガスを、本発明の触媒に接触させると、被処理ガス中の窒素酸化物を効率よく還元除去できるとともに、脱硝反応に使用されなかった未反応のアンモニアも分解除去できる。さらに、被処理ガスが炭化水素などの成分を含んでいても、高い脱硝率を長期に亘り維持できる。
【0016】
また、前記のように、本発明の触媒は、アンモニアを窒素に分解する機能を有している。そのため、本発明には、アンモニアを含む被処理ガス[例えば、アンモニアを含み、かつ(実質的に)窒素酸化物を含まない被処理ガス]を、前記触媒に接触させて、アンモニアを窒素に分解するアンモニアの分解方法も含まれる。
【0017】
また、本発明には、硫酸根ジルコニアにマンガン成分を少なくとも含有させることにより、前記触媒(マンガン成分を少なくとも含有する硫酸根ジルコニアで構成された触媒)を製造する方法も含まれる。このような方法では、代表的には、硫酸イオンおよびマンガンイオンを少なくとも含む溶液に水酸化ジルコニウムを含浸し、乾燥し、焼成してもよい。この方法において、ジルコニア(又は硫酸根ジルコニア)に鉄成分を担持させるため、前記溶液は、さらに鉄イオンを含んでいてもよい。
【0018】
なお、本明細書で窒素酸化物とは、NOで表されるNO、NO2などの窒素酸化物を総称する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、特定の触媒を用いるため、窒素酸化物濃度が変動する条件でも高い脱硝率を維持しつつ、アンモニアの大気中への排出を抑制することができる。また、被処理ガスが炭化水素などを含んでいても、高い触媒活性を維持できる。さらに、貴金属を必要としないため安価であるだけでなく、高い触媒活性を長期に亘り維持でき、耐久性が高い。また、本発明の触媒は、アンモニアを窒素に効率よく分解できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[触媒]
本発明の触媒は、マンガン成分を含有する硫酸根ジルコニアで構成されている。
【0021】
触媒を構成する硫酸根ジルコニアは、硫酸根とジルコニア(ZrO)とで構成されている。硫酸根ジルコニアは、触媒活性を有する限り、どのような結晶構造(晶系)を有していてもよいが、通常、正方晶の酸化ジルコニウム(IV)(ジルコニア、ZrO)の表面に硫酸根(SO2−)が存在している形態をとる場合が多く、少量の単斜晶のジルコニアを含んでいても差し支えない。また、ジルコニア(又はジルコニウム)は、酸化物(ジルコニア)として含まれる場合に限られず、触媒の活性が妨げられない範囲で化合物(例えば、水酸化物、ハロゲン化物、酸素酸塩、有機酸塩)として含まれていてもよい。また、硫酸根ジルコニアは、配位や塩などとして硫酸根を含んでいてもよい。
【0022】
硫酸根とジルコニアとの割合は、触媒の活性が妨げられない範囲であればよく、硫酸根(硫黄S換算)の割合は、ジルコニア(ZrO)100重量部に対して、例えば、0.1〜10重量部(例えば、0.2〜10重量部)、好ましくは0.2〜8重量部[例えば、0.3〜8重量部(例えば、0.5〜7重量部)]、さらに好ましくは1〜5重量部(例えば、2〜4重量部)程度であってもよく、通常0.2〜5重量部(例えば、0.3〜4重量部、好ましくは0.4〜2.5重量部)程度であってもよい。
【0023】
触媒を構成するマンガン成分において、マンガンの価数は特に制限されず、二価のマンガンMn(II)であってもよく、三価のマンガンMn(III)であってもよい。さらに、マンガン成分は、触媒の活性に影響を与えない範囲で、マンガン化合物の形態で含有されていてもよい。例えば、酸化物(例えば、MnO、Mn、MnO)、水酸化物(例えば、Mn(OH))、無機酸塩[例えば、硫酸塩(例えば、MnSO、Mn(SO)]などとして存在していてもよい。
【0024】
触媒中のマンガン成分の割合は、ジルコニア(ZrO)100重量部に対して、マンガンMn換算で、例えば、0.05〜10重量部(例えば、0.1〜10重量部)、好ましくは0.1〜5重量部(例えば、0.2〜5重量部)、さらに好ましくは0.2〜4重量部(例えば、0.3〜2重量部)、特に0.3〜4重量部(例えば、0.5〜3重量部)程度であってもよい。マンガン成分の割合が少なすぎると、触媒活性が低下する虞があり、マンガン成分の割合が多すぎると、粗大な酸化マンガン粒子が形成され、アンモニアの酸化が過剰に促進されることにより、本発明の触媒の窒素酸化物除去性能が低下する虞がある。
【0025】
本発明の触媒は、マンガン成分を少なくとも含有していればよく、さらに、鉄成分を含んでいてもよい。すなわち、本発明の触媒は、マンガン成分および鉄成分を含有する硫酸根ジルコニアで構成されていてもよい。
【0026】
触媒を構成する鉄成分において、鉄の価数は特に制限されず、二価の鉄Fe(II)であってもよく三価の鉄Fe(III)であってもよい。さらに、鉄成分は、触媒の活性に影響を与えない範囲で、鉄化合物の形態で含有されていてもよい。例えば、酸化鉄(例えば、FeO、Fe、Fe)、水酸化鉄(例えば、Fe(OH))、無機酸塩[例えば、硫酸塩(例えば、FeSO、Fe(SO)など]などの形態で含まれていてもよい。
【0027】
触媒中の鉄成分の割合は、ジルコニア(ZrO)100重量部に対して、鉄Fe換算で、例えば、0.1〜10重量部、好ましくは0.2〜8重量部、さらに好ましくは0.5〜7重量部(例えば、1〜5重量部)程度であってもよい。鉄成分の割合が少なすぎると、十分な添加効果が得られなくなる虞があり、鉄成分の割合が多すぎると、粗大な酸化鉄粒子が形成され、アンモニアの酸化が過剰に促進されることにより、本発明の触媒の窒素酸化物除去性能が低下する虞がある。
【0028】
前記触媒において、鉄成分とマンガン成分との割合は、十分な触媒活性を付与できる範囲であればよく、鉄Fe及びマンガンMn換算で、前者/後者(重量比)=98/2〜5/95程度の範囲から選択でき、例えば、95/5〜10/90、好ましくは90/10〜30/70、さらに好ましくは85/15〜50/50(例えば、80/20〜60/40)程度であってもよい。
【0029】
また、鉄成分およびマンガン成分の総量の割合は、鉄FeおよびマンガンMn換算の合計で、ジルコニア(ZrO)100重量部に対して、例えば、0.5〜20重量部、好ましくは1〜10重量部、さらに好ましくは1.5〜8重量部(例えば、1.5〜6重量部)程度であってもよい。
【0030】
また、鉄成分およびマンガン成分の総量の割合は、鉄Fe及びマンガンMn換算の合計で、硫酸根(硫黄S換算)100重量部に対して、例えば、10〜200重量部、好ましくは20〜150重量部(例えば、20〜120重量部)、さらに好ましくは25〜100重量部(例えば、30〜50重量部)程度であってもよい。
【0031】
触媒を構成するマンガン成分(及び鉄成分)は、どのような形態で触媒に含まれていてもよい。特に、鉄成分及びマンガン成分の各成分の少なくとも一部(例えば、マンガン成分の一部)が硫酸根ジルコニアの表面に露出していることが望ましい。さらに、マンガン成分(及び鉄成分)は、触媒表面に均一に分散して存在しているのが好ましく、少なくとも一部が硫酸根ジルコニア中に固溶していてもよい。
【0032】
なお、前記触媒は、触媒活性を低下させない範囲で、例えば、チタン、ケイ素、希土類などの他の原子(金属原子など)を含んでいてもよい。このような他の原子は、単体として含有されていてもよく、化合物(例えば、TiOなどの酸化物)として含まれていてもよい。特に、市販のジルコニアやその前駆体には、少量(例えば、ジルコニアに対する重量比で5%程度)のハフニウムが含まれていることが多い。本発明の触媒は、このような少量の原子(ハフニウムなど)が含まれていても触媒活性に悪影響はない。
【0033】
本発明の触媒は、触媒機能の三要素である(1)活性、(2)選択性、および(3)耐久性に優れた極めて有用な触媒である。すなわち、(1)窒素酸化物濃度が変動する条件でも、高い脱硝率を実現できるとともに、リークアンモニアの大気中への排出を抑制し、(2)窒素酸化物が極めて低い濃度(例えば、10〜3000ppm)であり、かつ大量の窒素酸化物以外の他の成分ガスが共存する条件でも選択的に脱硝でき、(3)炭化水素の酸化反応に適度の活性を有するので爆発的な反応による劣化が抑制され、触媒毒の蓄積を抑制できる。
【0034】
本発明の触媒の形状は、特に限定はなく、例えば、粉粒状、粒状(又は顆粒状)、ペレット状、ハニカム状などが挙げられる。これらの形状のうち、被処理ガス処理時の圧力損失を低減する観点からハニカム状が好ましい。なお、触媒は、非多孔質でも、多孔質でもよい。
【0035】
触媒のBET比表面積は、通常、10m/g以上であり、例えば、10〜300m/g、好ましくは50〜200m/g、さらに好ましくは80〜160m/g程度であってもよい。
【0036】
なお、触媒には、必要であれば、触媒の活性を損なわない範囲で、慣用の各種添加剤が配合されていてもよい。
【0037】
本発明の触媒は、硫酸根ジルコニアに少なくともマンガン成分(例えば、マンガン成分、マンガン成分および鉄成分など)を含有させることにより製造することができる。この製造方法は、硫酸根ジルコニアにマンガン成分(および鉄成分)を含有させることができる方法であれば、特に限定はなく、マンガン成分(および鉄成分)は硫酸根ジルコニアに、同時にまたは別々に(個別に)含有させてもよく、一括(又は一回)で又は複数回に分けて含有させてもよい。鉄成分とマンガン成分とを別々に含有させる場合、その順序は特に限定はない。
【0038】
また、前記製造方法において、マンガン成分(および鉄成分)は、硫酸根ジルコニアに含有させることができれば、触媒調製工程のどの段階で含有させてもよく、例えば、ジルコニウム成分、ジルコニア、および硫酸根ジルコニアから選択された成分(硫酸根ジルコニア源)のいずれに含有させてもよい。なお、ジルコニウム成分又はジルコニアに含有させる場合、硫酸根を含有させる工程が必要となる。このような硫酸根を含有させる工程もまた、触媒の調製工程の適当な段階で行うことができ、例えば、マンガン成分(及び鉄成分)とともに硫酸根を含有させてもよく、マンガン成分(及び鉄成分)を含有させた後に硫酸根を含有させてもよい。
【0039】
代表的には、例えば、(1)水酸化ジルコニウム又はその前駆体(以下、単にジルコニウム成分という)と、硫酸イオンとマンガンイオン(及び鉄イオン)とを含む溶液とを混合し、乾燥、焼成する方法、(2)担体としての硫酸根ジルコニアに、マンガン成分(および鉄成分)を担持する方法などにより、本発明の触媒を製造することができる。通常、硫酸根ジルコニア源にマンガン成分(及び鉄成分)を含浸(又は浸漬)又は処理し、焼成する場合が多い。以下、これらの製造方法(1)および(2)について詳述する。
【0040】
[製造方法(1)]
製造方法(1)としては、例えば、(i)ジルコニウム成分(特に、水酸化ジルコニウム)を、硫酸イオンとマンガンイオンと(さらに必要に応じて鉄イオンと)を含む溶液(特に水溶液)に含浸(又は浸漬)し、乾燥、焼成する方法、鉄成分を含む触媒では、(ii)ジルコニウム成分を、硫酸イオンと鉄イオンとを含む溶液(特に水溶液)に含浸し、乾燥、焼成後、これをマンガンイオンを含む溶液(特に水溶液)に含浸し、乾燥、焼成する方法、(iii)ジルコニウム成分を、硫酸イオンとマンガンイオンとを含む溶液(特に水溶液)に含浸(又は浸漬)し、乾燥、焼成後、これを鉄イオンを含む溶液(特に水溶液)に含浸し、乾燥、焼成する方法などが挙げられる。前記(i)の方法が効率がよく好ましい。
【0041】
ジルコニウム成分とは、水酸化ジルコニウム又はその前駆体の総称であり、水酸化ジルコニウムの前駆体とは、水酸化ジルコニウムを生成可能な化合物(特に水溶性化合物)のことであり、無機酸塩(硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウムなど)、ハロゲン化物(塩化ジルコニウムなど)、有機酸塩(酢酸ジルコニウムなど)などが例示できる。これらのジルコニウム成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのジルコニウム成分のうち、水酸化ジルコニウムなどが好ましい。
【0042】
硫酸イオンを含む溶液は、触媒の活性に影響を与えない限り、例えば、硫酸や種々の硫酸塩(硫酸アンモニウム、硫酸チタンなど)を溶解して調製してもよい。これらは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、残存する陽イオンが触媒の活性に悪影響を及ぼさない点から、硫酸アンモニウムが好ましい。
【0043】
マンガンイオンを含む溶液(特に水溶液)は、触媒の活性に影響を与えない限り、種々のマンガン化合物、例えば、無機酸塩(例えば、硫酸マンガン(II)、硫酸マンガン(III)などの硫酸塩および硫酸複塩;硝酸マンガン(II)などの硝酸塩など)、塩化物(塩化マンガン(II)など)、有機酸塩(例えば、酢酸マンガン(II)、酢酸マンガン(III)などの酢酸塩など)、錯体(例えば、マンガンカルボニル化合物など)などを水に溶解して調製してもよい。これらのマンガン化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのマンガン化合物のうち、硫酸マンガンが好ましい。
【0044】
鉄イオンを含む溶液(特に水溶液)は、触媒の活性に影響を与えない限り、種々の水溶性鉄化合物、例えば、無機酸塩(例えば、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)などの硫酸塩および硫酸複塩;硝酸鉄(II)、硝酸鉄(III)などの硝酸塩など)、塩化物(塩化鉄(II)、塩化鉄(III)など)、有機酸塩(例えば、酢酸鉄(III)など)、錯体(例えば、鉄カルボニル化合物など)などを水に溶解して調製してもよい。これらの鉄化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの鉄化合物のうち、硫酸鉄が好ましい。
【0045】
なお、前記製造方法において、溶液を構成する溶媒は、各成分(マンガン化合物、鉄化合物、硫酸成分など)を溶解可能な溶媒であれば特に限定されず、水、有機溶媒(アルコール類、ケトン類、エステル類など)などであってもよい。これらの溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。通常、前記溶液は、各成分が水溶性である場合が多く、環境的にも有利であるため、水溶液である場合が多い。なお、水溶液は、他の溶媒(アルコール類など)を含んでいてもよい。
【0046】
ジルコニウム成分、硫酸イオン、鉄イオン及びマンガンイオンの割合は、前記成分割合の触媒を生成できる限り、特に限定されない。焼成により揮発する成分(硫酸イオンなど)は、最終触媒での割合より多く添加してもよい。例えば、硫酸イオンの割合(SO2−換算)は、ジルコニウム成分(ジルコニア換算)100重量部に対して、例えば、1〜100重量部、好ましくは3〜50重量部、さらに好ましくは5〜30重量部(特に10〜30重量部)程度であってもよい。
【0047】
ジルコニウム成分の含浸温度は、通常、室温(15〜25℃程度)であるが、加温(例えば、30〜80℃、特に50〜80℃程度)してもよい。
【0048】
乾燥条件は、特に限定されず、常圧又は減圧下、加熱(例えば、100〜150℃程度)により乾燥してもよく、蒸発乾固してもよい。
【0049】
焼成温度は、触媒活性を損なわない限り300〜800℃程度から選択でき、例えば、350〜750℃(例えば、350〜700℃)、好ましくは400〜700℃(例えば、400〜650℃、好ましくは450〜550℃)、特に500〜600℃、通常500〜730℃(例えば、550〜700℃)程度である。焼成温度が高すぎると硫酸根が揮発し消失する虞があり、低すぎると焼成の効果がなく安定な結晶が形成されない。また、焼成時間は、通常、10分〜100時間(例えば、1〜80時間)程度の範囲から選択され、例えば、1〜50時間(例えば1〜20時間)、好ましくは3〜10時間程度である。
【0050】
[製造方法(2)]
硫酸根ジルコニアは、定法を用いて作製してもよく、例えば、ジルコニウム成分を硫酸イオンを含む溶液に含浸し、乾燥、焼成して得ることができる。なお、ジルコニウム成分及び硫酸イオンを含む溶液は、それぞれ、製造方法(1)の項で例示したジルコニウム成分及び硫酸イオンを含む溶液を使用することができる。これらのジルコニウム成分及び硫酸イオンを含む溶液も、それぞれ、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なかでも、触媒の活性に悪影響を及ぼさない点から、水酸化ジルコニウムと硫酸アンモニウム溶液とを組み合わせて用いるのが好ましい。
【0051】
なお、製造方法(2)において、溶液は、前記と同様に水溶液を好適に使用できる。
【0052】
ジルコニウム成分を、硫酸イオンを含む溶液に含浸させる含浸温度、乾燥条件、焼成温度、焼成時間などは、前記製造方法(1)におけるそれらと同様である。
【0053】
硫酸根ジルコニアにマンガン成分(及び必要に応じて鉄成分)を担持させる方法は、例えば、(i)硫酸根ジルコニアを、マンガンイオン(及び必要に応じて鉄イオン)を含む溶液に含浸し、乾燥、焼成させる方法、鉄成分を含む触媒では、(ii)硫酸根ジルコニアを、鉄イオンを含む溶液に含浸(又は浸漬)し、乾燥、焼成後、これをマンガンイオンを含む溶液に含浸し、乾燥、焼成させる方法、(iii)硫酸根ジルコニアを、マンガンイオンを含む溶液に含浸(又は浸漬)し、乾燥、焼成後、これを鉄イオンを含む溶液に含浸し、乾燥、焼成させる方法などが挙げられる。前記(i)の方法が効率がよく好ましい。鉄イオンを含有する溶液及びマンガンイオンを含有する溶液において使用される鉄化合物及びマンガン化合物は、特に制限されず、製造方法(1)の項で例示した鉄化合物およびマンガン化合物を使用できる。これらの鉄化合物又はマンガン化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0054】
本発明の触媒は、前記製造方法(1)、(2)以外の方法でも製造可能である。製造方法(1)と(2)とを比較すると、製造方法(1)の方が、少ない工程数で触媒を調製でき、経済的に有利である。
【0055】
触媒の成形方法としては、慣用の方法、例えば、練合機、成形機(押出成形機や圧縮成形機など)、打錠機を用いた方法などが例示できる。触媒をハニカム状に成形する方法としては、例えば、ハニカム状耐火性セラミック上に触媒をコートする方法や、必要に応じてバインダーを添加し、ハニカム形状に押出成形する方法などが挙げられる。ハニカム状に成形する方法としては、触媒の性能の点から、押出成形する方法が好ましい。ハニカムのセル数は、被処理ガス処理時の圧力損失の増大を抑制できる範囲で選択でき、例えば、1〜250個/cm2、好ましくは5〜150個/cm2 、さらに好ましくは10〜100個/cm2 程度であってもよい。ハニカムの開口率は、50〜80%、好ましくは55〜75%程度であってもよい。
【0056】
本発明の触媒は、アンモニア及び/又は窒素酸化物を分解するための触媒として利用できる。例えば、本発明の触媒は、アンモニアの存在下で、窒素酸化物を還元するための触媒(還元触媒)として有用である。このような窒素酸化物の還元触媒は、通常、窒素酸化物に対する還元機能のみならず、アンモニアに対する分解機能を有しているため、過剰のアンモニアを用いても、リークするアンモニアの量を低減できる。また、本発明の触媒は、被処理ガスが窒素酸化物を含むか否かにかかわらず、アンモニアを窒素に分解するための触媒としても有用である。すなわち、前記触媒は、窒素酸化物の分解用触媒(又は還元触媒)(およびアンモニアの分解用触媒)として作用するが、アンモニアの分解触媒(詳細には、アンモニアを少なくとも含む被処理ガス中のアンモニアを分解するための触媒)としても機能する。以下に、本発明の触媒を用いた窒素酸化物及び/又はアンモニアの分解方法について詳述する。
【0057】
[窒素酸化物除去方法]
本発明においては、上記本発明の触媒を用いて、アンモニアの存在下、被処理ガスを処理することにより、高い脱硝率で被処理ガス中に含まれる窒素酸化物を除去できる。本発明における被処理ガスとは、本発明の触媒により浄化する対象となりうる窒素酸化物含有ガスのことを指す。例えば、燃焼排ガス、硝酸製造プロセスガスなどが挙げられる。被処理ガス中の窒素酸化物濃度は、体積比で、5000ppm以下(例えば、1〜5000ppm)であってもよく、通常、5〜4000ppm、好ましくは10〜3000ppm程度である。
【0058】
被処理ガスには、窒素酸化物の他に、酸素、水蒸気、二酸化炭素などを含んでいてもよい。酸素の割合は、被処理ガス中、例えば、0.1〜30体積%、好ましくは1〜20体積%、さらに好ましくは2〜15体積%程度である。水蒸気の割合は、被処理ガス中、例えば、0.1〜50体積%、好ましくは1〜30体積%、さらに好ましくは2〜20体積%程度である。二酸化炭素の割合は、被処理ガス中、例えば、0.1〜20体積%、好ましくは0.5〜15体積%、さらに好ましくは1〜10体積%程度である。
【0059】
また、燃焼排ガスには、後続機器を劣化させる硫黄酸化物が含まれることが多く、本発明の触媒は、硫黄酸化物を含むガスにも適用できる。被処理ガス中の硫黄化合物の濃度は、体積比で、0.1〜100ppm(例えば、1〜70ppm)程度であってもよい。
【0060】
さらに、被処理ガスに、汎用の触媒において活性を低下させる炭化水素や一酸化炭素などの可燃性成分が含まれていても本発明の除去方法を適用できる。これらの成分の濃度は、被処理ガス中、比較的高濃度、例えば、体積比で、500〜3000ppm(例えば、1000〜2000ppm)程度で含まれていても、本発明では触媒の活性の低下を防止できる。
【0061】
本発明の窒素酸化物除去方法では、アンモニアの存在下、窒素酸化物を含む被処理ガスを、前記触媒(マンガン成分(及び必要に応じて鉄成分)を含有する硫酸根ジルコニアで構成されている触媒)に接触させることにより、被処理ガスから窒素酸化物を除去する。アンモニアは被処理ガス処理系内にて存在すればよく、公知の方法を適用して系内に存在させてもよい。例えば、液化アンモニアを用いてガス状のアンモニアを添加する方法だけでなく、尿素や炭酸アンモニウムなどの熱分解によりアンモニアを生成する化合物の水溶液を噴霧する方法など系内にてアンモニアを生成させる方法を用いて、アンモニアを存在させてもよい。処理開始前のアンモニアの量は、被処理ガスの種類に応じて適宜調整すればよく、例えば、被処理ガス中の窒素酸化物1モルに対して0.9〜1.5モル(例えば、1.0〜1.5モル)程度であり、好ましくは1.0〜1.3モル、さらに好ましくは1.1〜1.2モル程度であってもよい。特に、本発明では、アンモニアが窒素に変換されるため、特に、被処理ガス中の窒素酸化物1モルに対して1モル以上(例えば、1.1〜1.5モル程度)のアンモニアを含んでいても、アンモニアのリーク量を十分低いレベルに抑制できる。なお、アンモニアの量は、少なすぎると十分な脱硝率が得られず、多すぎるとリークアンモニア量が増えるおそれがあり、また経済性も低下する。
【0062】
窒素酸化物含有被処理ガスと、前記触媒との接触温度は、脱硝率を損なわず、かつリークアンモニア量を抑制できる範囲から選択でき、例えば、300℃以上、好ましくは350℃以上(例えば、350〜650℃)、より好ましくは400℃以上(例えば、400〜600℃)、さらに好ましくは450℃以上(例えば、450〜550℃)程度である。温度が低すぎると触媒活性が低下し、脱硝率の低下とリークアンモニア濃度の増加を伴う。一方、高すぎると脱硝率が低下し、触媒の耐久性が低下する。特に、高効率で窒素酸化物を除去するため、500℃を超えない温度(例えば、320〜470℃、好ましくは350〜450℃、さらに好ましくは370〜430℃程度)で接触させてもよい。
【0063】
被ガス処理系において、時間あたりのガス空間速度(GHSV)は、経済性および脱硝性を両立する範囲とするのが好ましく、例えば、500〜200000h−1、好ましくは1000〜150000h−1、さらに好ましくは2000〜100000h−1、特に5000〜30000h−1程度である。触媒に対する被処理ガスの線速度(LV)は、例えば、0.02〜20m/秒、好ましくは0.05〜5m/秒、さらに好ましくは0.3〜3m/秒程度の範囲から選択できる。
【0064】
触媒層としての長さは、触媒活性を損なわない範囲で選択でき、例えば、0.01〜10m、好ましくは0.05〜5m、さらに好ましくは0.1〜1m程度であってもよい。
【0065】
[アンモニア分解方法]
また、本発明のアンモニアの分解方法では、アンモニアを含む被処理ガス(アンモニア含有被処理ガス)を、前記触媒(マンガン成分(及び必要に応じて鉄成分)を含有する硫酸根ジルコニアで構成されている触媒)に接触させて、アンモニアを無害な窒素に分解(変換)して除去する。被処理ガス中のアンモニア濃度は、体積比で、5000ppm以下(例えば、1〜5000ppm)であってもよく、通常、5〜4000ppm、好ましくは10〜3000ppm程度であってもよい。なお、前記と同様に、被処理ガスは、窒素酸化物を含んでいてもよく、前記と同様に、酸素、水蒸気、二酸化炭素、炭化水素、一酸化炭素などを含んでいてもよい。なお、被処理ガス中のこれらのガスの含有割合は、前記窒素酸化物除去方法の場合と同様の範囲から選択できる。被処理ガスは、実質的に窒素酸化物を含んでいない被処理ガスであってもよい。例えば、本発明のアンモニア分解方法では、窒素酸化物が還元除去され、窒素酸化物を実質的に含んでいない被処理ガスであって、アンモニアを含む被処理ガスを使用してもよい。
【0066】
アンモニア含有被処理ガスと、前記触媒との接触温度は、例えば、350℃以上、好ましくは400℃以上(例えば、400〜600℃)、より好ましくは450℃以上(例えば、450〜550℃)程度である。温度が低すぎると触媒活性が低下し、分解率の低下を伴う。一方、高すぎるとアンモニアの一部が窒素酸化物に変換される虞がある他、触媒の耐久性が低下する虞がある。なお、ガス空間速度や触媒層の長さなどは、前記窒素酸化物除去方法の場合と同様の範囲から選択できる。
【0067】
なお、前記窒素酸化物除去方法および前記アンモニア分解方法は、他の方法と組み合わせてもよく、前記窒素酸化物除去方法および前記アンモニア分解方法を組み合わせてもよい。例えば、アンモニアの存在下、窒素酸化物を含む被処理ガスを、前記触媒又は従来の触媒(例えば、酸化チタン系触媒)に接触させて、窒素酸化物を還元除去したのち、窒素酸化物が除去され、かつアンモニアを含む被処理ガスを、さらに下流側において、前記触媒に接触させて、アンモニアを窒素に分解してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、種々の発生源からの窒素酸化物を含む被処理ガス、例えば、窒素酸化物の濃度が定常的に安定した排出系(例えば、発電所から排出されるガスなど)だけでなく、窒素酸化物の濃度が時系列的に変動する排出系(例えば、ボイラーや原動機から排出される燃焼排ガスや硝酸製造プロセスの排ガスなど)にも適用でき、これら被処理ガスの浄化(窒素酸化物の除去)に利用できる。本発明は、窒素酸化物に対して過剰量のアンモニアを添加してもリークアンモニア量を低減できるので、窒素酸化物濃度が時系列的に大きく変動し易い燃焼排ガスやプロセス排ガスの処理に特に有用である。また、本発明の触媒は、アンモニアそのものを分解する機能を有している。そのため、本発明の触媒を、ガス流に対して、汎用の触媒(酸化チタン系触媒など)よりも下流側(後段)に配置するなどの方法により、リークアンモニアを無害な窒素に効率よく変換でき、通常は両立しがたい高い脱硝率と低いアンモニアリーク量を容易に達成できる。
【実施例】
【0069】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における脱硝率およびリークアンモニア濃度は、触媒による処理前後の被処理ガス中に含まれる窒素酸化物およびアンモニアの濃度に基づいて、それぞれ次の式から算出した。なお、「触媒前濃度」とは、触媒よりも被処理ガス流に対して上流における濃度を示し、「触媒後濃度」とは、触媒より被処理ガス流に対して下流における濃度を示す。また、実施例において、特に断りのない限り、単位などはすべて体積基準である。
【0070】
脱硝率(%)=100×{1−(触媒後NOx濃度)/(触媒前NOx濃度)}
リークアンモニア濃度(ppm)=
{(触媒前NOx濃度(ppm))+(触媒前アンモニア濃度(ppm))−2×(触媒後窒素濃度(ppm))−(触媒後NOx濃度(ppm))}
なお、ガス中のNOx濃度は化学発光式NOx分析計で測定し、窒素濃度はガスクロマトグラフで測定した。
【0071】
また、アンモニア分解反応における分解率は、窒素生成反応および窒素酸化物生成反応について、それぞれ次式から算出した。
【0072】
窒素(窒素生成による分解率)(%)=
200×(触媒後窒素濃度)/(触媒前アンモニア濃度)
窒素酸化物(窒素酸化物生成による分解率)(%)=
100×(触媒前NOx濃度)/(触媒前アンモニア濃度)。
【0073】
(実施例1)
水酸化ジルコニウム(三津和化学薬品(株)製;ZrOとして79重量%含有)120gを、硫酸アンモニウム18g、硫酸鉄(III)(Fe(SO・15HO)6.0g及び硫酸マンガン(MnSO・5HO)2.0gを溶解する100mlの水溶液に15時間浸漬した。常圧(大気圧)下、温度120℃のホットプレート上で蒸発乾固した後、空気中、550℃で6時間焼成して、Fe−Mn担持硫酸根ジルコニア触媒(1.1Fe−0.5Mn/SZ)を得た。蛍光X線分析の結果、この触媒の鉄含有量は、Fe換算で、ジルコニアに対して1.1重量%であった。マンガン含有量は、Mn換算で、ジルコニアに対して0.5重量%であった。また、ICP分析の結果、硫酸根の含有量は、S換算で、触媒全体に対する重量比として4.8重量%であった。触媒のBET比表面積は139m/gであった。また、X線回折分析の結果、この触媒の結晶形は主に正方晶であることが明らかになった。
【0074】
上記触媒を打錠成型して粒径1〜2mmの造粒物を調製し、この造粒物4.5mlを石英製反応管(内径14mm)に充填した。触媒の温度を350℃、400℃、450℃又は500℃に保ち、被処理ガスを毎分1.2リットル(0℃、1気圧の状態における体積)の流速で流通した(GHSV=16000h−1)。
【0075】
なお、被処理ガスとしては、一酸化窒素NO、アンモニアNH、酸素O、水HO、二酸化硫黄SO、及び残部ヘリウムで構成された、NH濃度の異なる2種類の被処理ガスを使用した。被処理ガスに含まれる各成分の割合について、NO、O、HO及びSOの割合(体積比)は、いずれの被処理ガスも、NOが320ppm、Oが10%、HOが10%、SOが1ppmであって、NHの割合(体積比)は、それぞれ、250ppm、320ppm(順に、[NH]/[NO](モル比)は0.78、1.00)であった。
【0076】
そして、各触媒の温度を550℃に保ち、被処理ガスを毎分1.2リットル(0℃、1気圧の状態における体積)の流速で10時間流通し、高温処理(高温耐久処理、高温劣化処理)を行った。なお、高温処理において、被処理ガスとしては、NOが320ppm、NHが320ppm、Oが10%、HOが10%、SOが1ppmの被処理ガスを用いた。
【0077】
高温処理後の触媒に、引き続き、被処理ガスを流通した。すなわち、各触媒の温度を高温処理前と同じ温度(350℃、400℃、450℃又は500℃)にそれぞれ保ち、被処理ガスを毎分1.2リットル(0℃、1気圧の状態における体積)の流速で流通した(GHSV=16000h−1)。なお、被処理ガスとしては、一酸化窒素NO、アンモニアNH、酸素O、水HO、二酸化硫黄SO、及び残部ヘリウムで構成され、NH濃度の異なる4種類のガスを使用した。被処理ガスに含まれる各成分の割合について、NO、O、HO及びSOの割合(体積比)は、いずれの被処理ガスも、NOが320ppm、Oが10%、HOが10%、SOが1ppmであって、NHの割合(体積比)は、それぞれ、250ppm、320ppm、400ppm、480ppm(順に、[NH]/[NO](モル比)は0.78、1.00、1.25、1.50)であった。
【0078】
高温処理前の脱硝率(表1上段)および高温処理後の脱硝率(表1下段)を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
表1の結果から明らかなように、400℃以上では、ほぼアンモニア濃度に相当する脱硝率が得られる。すなわち、[NH]/[NO](モル比)が1未満の場合、脱硝率は[NH]/[NO]×100%であり、[NH]/[NO](モル比)が1以上の場合、脱硝率は100%であることがわかった。
【0081】
また、550℃程度の高温処理後もなお、触媒は優れた脱硝性能を示した。その脱硝性能は、高温処理前よりも向上した。例えば、350℃でもアンモニア濃度に相当する脱硝率が得られるとともに、500℃までその性能はほぼ変わらなかった。
【0082】
さらに、高温処理後のリークアンモニア濃度は、触媒温度500℃、NHの割合(体積比)480ppmである条件においても、10ppm以下であった。このことは、過剰のアンモニア(160ppm)のほとんどが窒素に転換されたことを意味する。従って、実施例1の触媒は、従来の触媒と異なり、アンモニアが過剰に添加されてもリークアンモニア濃度を低減でき、しかも高温での処理に対しても耐久性を有する。
【0083】
(比較例1)
水酸化ジルコニウム(三津和化学薬品(株)製;ZrOとして79重量%含有)180gを、硫酸アンモニウム27gを溶解する150mlの水溶液に15時間浸漬した。常圧(大気圧)下、温度120℃のホットプレート上で蒸発乾固した後、空気中、550℃で6時間焼成して、硫酸根ジルコニア触媒(SZ)を得た。ICP分析の結果、硫酸根の含有量は、S換算で、触媒全体に対して2.1重量%であった。
【0084】
この触媒(SZ)について、実施例1と同様に、高温処理前後における触媒の評価を行った。結果を表2に示す。
【0085】
【表2】

【0086】
表2から明らかなように、この触媒は脱硝率が著しく低いか、負の値を示した。これは、アンモニアがNOxを還元せず、逆に酸素によって酸化されてNOxを生成したためと考えられる。
【0087】
(比較例2)
水酸化ジルコニウム(三津和化学薬品(株)製;ZrOとして79重量%含有)180gを、硫酸アンモニウム18g及び硫酸鉄(III)(Fe(SO・15HO)14gを溶解する150mlの水溶液に15時間浸漬した。常圧(大気圧)下、温度120℃のホットプレート上で蒸発乾固した後、空気中、550℃で6時間焼成して、鉄担持硫酸根ジルコニア触媒(1.5Fe−SZ)を得た。蛍光X線分析の結果、この触媒の鉄含有量は、Fe換算で、ジルコニアに対して1.5重量%であった。ICP分析の結果、硫酸根の含有量は、S換算で、触媒全体に対して3.3重量%であった。触媒のBET比表面積は140m/gであった。また、X線回折分析の結果、この触媒の結晶形は主に正方晶であることが明らかになった。
【0088】
この触媒(1.5Fe−SZ)について、実施例1と同様に、高温処理前後における触媒の評価を行った。結果を表3に示す。
【0089】
【表3】

【0090】
表3から明らかなように、400℃以上では高い脱硝性能を示すが、350℃ではアンモニア過剰の条件でも脱硝率は84%にとどまった。また、高温処理後のリークアンモニア濃度は、触媒温度500℃、NHの割合(体積比)480ppmの条件で55ppmであり、実施例1の5.5倍であった。
【0091】
(比較例3)
水酸化ジルコニウム(三津和化学薬品(株)製;ZrOとして79重量%含有)180gを、硫酸アンモニウム7g及び硫酸鉄(III)(Fe(SO・15HO)28gを溶解する150mlの水溶液に15時間浸漬した。常圧(大気圧)下、温度120℃のホットプレート上で蒸発乾固した後、空気中、550℃で6時間焼成して、鉄担持硫酸根ジルコニア触媒(2.9Fe−SZ)を得た。蛍光X線分析の結果、この触媒の鉄含有量は、Fe換算で、ジルコニアに対して2.9重量%であった。ICP分析の結果、硫酸根の含有量は、S換算で、触媒全体に対して3.8重量%であった。触媒のBET比表面積は148m/gであった。また、X線回折分析の結果、この触媒の結晶形は主に正方晶であることが明らかになった。
【0092】
この触媒(2.9Fe−SZ)について、実施例1と同様に、高温処理前後における触媒の評価を行った。結果を表4に示す。
【0093】
【表4】

【0094】
表4から明らかなように、比較例2と比べ、鉄の担持量が増加したことにより、低温での脱硝性能は幾分向上したが、なお実施例には及ばない。また、高温処理後のリークアンモニア濃度は、触媒温度500℃、NHの割合(体積比)480ppmの条件で、30ppmであり、実施例1の3倍であった。
【0095】
(実施例2)
水酸化ジルコニウム(三津和化学薬品(株)製;ZrOとして79重量%含有)135gを、硫酸アンモニウム13.5g及び硫酸マンガン(MnSO・5HO)7.8gを溶解する110mlの水溶液に15時間浸漬した。常圧(大気圧)下、温度120℃のホットプレート上で蒸発乾固した後、空気中、700℃で6時間焼成して、Mn担持硫酸根ジルコニア触媒(1.6Mn/SZ)を得た。蛍光X線分析の結果、この触媒のマンガン含有量は、Mn換算で、ジルコニアに対して1.6重量%であった。また、ICP分析の結果、硫酸根の含有量は、S換算で、触媒全体に対する重量比として0.43重量%であった。触媒のBET比表面積は、61m/gであった。また、X線回折分析の結果、この触媒の結晶形は、75%の正方晶と25%の単斜晶とで構成されていることがわかった。
【0096】
上記触媒を打錠成型して粒径1〜2mmの造粒物を調製し、この造粒物4.5mlを石英製反応管(内径20mm)に充填した。触媒の温度を300℃、350℃、400℃、450℃、500℃又は550℃に保ち、表5に示す組成の被処理ガスを毎分1.2リットル(0℃、1気圧の状態における体積)の流速で流通し(GHSV=16000h−1)、脱硝率(被処理ガス5Aおよび5B)を測定した。
【0097】
次いで、触媒の温度を550℃に保ち、被処理ガスを毎分1.2リットル(0℃、1気圧の状態における体積)の流速で12時間流通し、高温処理(高温耐久処理、高温劣化処理)を行った。なお、高温処理において、被処理ガスとしては、表5に示す被処理ガス5B(NH/NO=1.0)を用いた。
【0098】
高温処理後の触媒に、引き続き、被処理ガスを流通した。すなわち、触媒の温度を高温処理前と同じ温度(300℃、350℃、400℃、450℃、500℃又は550℃)にそれぞれ保ち、再び表5に示す組成の被処理ガスを毎分1.2リットル(0℃、1気圧の状態における体積)の流速で流通し(GHSV=16000h−1)、脱硝率(被処理ガスA〜D)、リークアンモニア濃度(被処理ガス5Cおよび5D)、およびアンモニア分解反応におけるアンモニア分解率(被処理ガス5E)を測定した。
【0099】
被処理ガスの組成を表5に、結果を表6にそれぞれ示す。なお、表5において、表示のないものの単位は「ppm」である。
【0100】
【表5】

【0101】
【表6】

【0102】
表6から明らかなように、実施例2の触媒は、550℃という比較的高い温度にさらされても劣化が小さく、脱硝反応に用いると300℃程度でも十分な脱硝性能を示すとともに、特に400℃以上ではNOxに対して過剰のアンモニアが注入されても、アンモニアの漏出を格段に抑制できる上に、500℃程度までは十分な脱硝率が得られた。また、アンモニアの分解に用いても、窒素酸化物の副生を小さく抑えて効果的に窒素に分解することができた。
【0103】
(実施例3)
水酸化ジルコニウム(三津和化学薬品(株)製;ZrOとして79重量%含有)135gを、硫酸アンモニウム0.9g、硫酸マンガン(MnSO・5HO)7.8gおよび硫酸鉄(III)(Fe(SO・15HO)21.4gを溶解する110mlの水溶液に15時間浸漬した。常圧(大気圧)下、温度120℃のホットプレート上で蒸発乾固した後、空気中、700℃で6時間焼成して、Fe−Mn担持硫酸根ジルコニア触媒(3.0Fe−1.6Mn/SZ)を得た。蛍光X線分析の結果、この触媒のマンガン含有量は、Mn換算で、ジルコニアに対して1.6重量%であり、鉄含有量は、Fe換算でジルコニアに対して3.0重量%であった。また、ICP分析の結果、硫酸根の含有量は、S換算で、触媒全体に対する重量比として0.42重量%であった。触媒のBET比表面積は、62m/gであった。また、X線回折分析の結果、この触媒の結晶形は、95%の正方晶と5%の単斜晶とで構成されていることがわかった。
【0104】
上記触媒を打錠成型して粒径1〜2mmの造粒物を調製し、この造粒物4.5mlを石英製反応管(内径20mm)に充填し、実施例2と同様にして、高温処理前後における触媒の評価を行った。
【0105】
結果を表7に示す。
【0106】
【表7】

【0107】
表7から明らかなように、実施例3の触媒もまた、実施例2の触媒と同様に、550℃という比較的高い温度にさらされても劣化が小さく、脱硝反応に用いると300℃程度でも十分な脱硝性能を示すとともに、特に400℃以上ではNOxに対して過剰のアンモニアが注入されても、アンモニアの漏出を格段に抑制できた。
【0108】
(実施例4)
水酸化ジルコニウム(三津和化学薬品(株)製;ZrOとして79重量%含有)135gを、硫酸マンガン(MnSO・5HO)15.6gおよび硫酸鉄(III)(Fe(SO・15HO)21.4gを溶解する110mlの水溶液に15時間浸漬した。常圧(大気圧)下、温度120℃のホットプレート上で蒸発乾固した後、空気中、700℃で6時間焼成して、Fe−Mn担持硫酸根ジルコニア触媒(3.0Fe−3.2Mn/SZ)を得た。蛍光X線分析の結果、この触媒のマンガン含有量は、Mn換算で、ジルコニアに対して3.2重量%であり、鉄含有量は、Fe換算でジルコニアに対して3.0重量%であった。また、ICP分析の結果、硫酸根の含有量は、S換算で、触媒全体に対する重量比として0.61重量%であった。触媒のBET比表面積は、50m/gであった。また、X線回折分析の結果、この触媒の結晶形は、93%の正方晶と7%の単斜晶とで構成されていることがわかった。
【0109】
上記触媒を打錠成型して粒径1〜2mmの造粒物を調製し、この造粒物4.5mlを石英製反応管(内径20mm)に充填し、実施例2と同様にして、高温処理前後における触媒の評価を行った。
【0110】
結果を表8に示す。
【0111】
【表8】

【0112】
表8から明らかなように、実施例4の触媒もまた、実施例2の触媒と同様に、550℃という比較的高い温度にさらされても劣化が小さく、脱硝反応に用いると300℃程度でも十分な脱硝性能を示すとともに、特に400℃以上ではNOxに対して過剰のアンモニアが注入されても、アンモニアの漏出を格段に抑制できた。
【0113】
(実施例5)
実施例4で得られた触媒(3.0Fe−3.2Mn/SZ)を打錠成型して粒径1〜2mmの造粒物を調製し、この造粒物4.5mlを石英製反応管(内径20mm)に充填し、被処理ガスを表9に示す被処理ガスに代えた以外は、実施例2と同様にして、高温処理前後における触媒の評価を行った。なお、表9において、表示のないものの単位は「ppm」である。
【0114】
【表9】

【0115】
結果を表10に示す。なお、エチレン分解率およびCO除去率は下記式により計算した。
【0116】
エチレン分解率(%)=100×{1−(触媒後エチレン濃度)/(触媒前エチレン濃度)}
CO分解率(%)=100×{1−(触媒後CO濃度)/(触媒前CO濃度)}
なお、触媒前後のエチレン濃度、CO濃度はそれぞれガスクロマトグラフで測定した。
【0117】
【表10】

【0118】
表10から明らかなように、実施例4の触媒では、炭化水素や一酸化炭素が共存しても、脱硝性能やアンモニアの分解性能に対する影響が小さい上に、炭化水素や一酸化炭素を除去することも可能であった。なお、400℃付近において、一酸化炭素の除去率が負の値となるのは、エチレンが部分(不完全)酸化されて一酸化炭素が生成したものと考えられる。また、350〜400℃では、エチレンや一酸化炭素が共存しない場合よりも脱硝率が若干向上しているが、エチレンや一酸化炭素もNOxの還元に寄与している可能性がある。
【0119】
(比較例4)
焼成温度を550℃から700℃に代える以外は、比較例2と同様にして触媒(1.5Fe/SZ(700))を調製した。蛍光X線分析の結果、この触媒の鉄含有量は、Fe換算で、ジルコニアに対して1.5重量%であった。ICP分析の結果、硫酸根の含有量は、S換算で、ジルコニアに対して0.40重量%であった。触媒のBET比表面積は、71m/gであった。また、X線回折分析の結果、この触媒の結晶形は、82%の正方晶と18%の単斜晶とで構成されていることがわかった。
【0120】
上記触媒を打錠成型して粒径1〜2mmの造粒物を調製し、この造粒物4.5mlを石英製反応管(内径20mm)に充填し、実施例2と同様にして、高温処理前後における触媒の評価を行った。
【0121】
結果を表11に示す。
【0122】
【表11】

【0123】
表11から明らかなように、焼成温度を高くしても触媒の性能はほとんど変わらず、実施例で得られた触媒の性能に対して劣っていた。
【0124】
(比較例5)
焼成温度を550℃から700℃に代える以外は、比較例3と同様にして触媒(2.9Fe/SZ(700))を調製した。蛍光X線分析の結果、この触媒の鉄含有量は、Fe換算で、ジルコニアに対して2.9重量%であった。ICP分析の結果、硫酸根の含有量は、S換算で、ジルコニアに対して0.43重量%であった。触媒のBET比表面積は、75m/gであった。また、X線回折分析の結果、この触媒の結晶形は、95%の正方晶と5%の単斜晶とで構成されていることがわかった。
【0125】
上記触媒を打錠成型して粒径1〜2mmの造粒物を調製し、この造粒物4.5mlを石英製反応管(内径20mm)に充填し、実施例2と同様にして、高温処理前後における触媒の評価を行った。
【0126】
結果を表12に示す。
【0127】
【表12】

【0128】
表12から明らかなように、焼成温度を高くしても触媒の性能はほとんど変わらず、実施例で得られた触媒の性能に対して劣っていた。
【0129】
(比較例6)
触媒を、比較例5で得られた触媒(2.9Fe/SZ(700))に代えた以外は、実施例5と同様にして、高温処理前後における触媒の評価を行った。結果を表13に示す。
【0130】
【表13】

【0131】
表13から明らかなように、実施例5と比較すると、低温(300℃)において炭化水素及び/又は一酸化炭素による脱硝反応の阻害が見られる他、炭化水素及び一酸化炭素の除去性能も劣っていた。
【0132】
(比較例7)
水酸化ジルコニウム(林純薬工業(株)製;ZrOとして84重量%含有)80gと、タングステン酸(HWO、三津和化学薬品(株)製)10gとを混合し、さらに水100gを加えて、スターラーを用いて、6時間湿式混練した。そして、得られた混合物を、常圧(大気圧)下、温度120℃のホットプレート上で蒸発乾固した後、空気中、700℃で6時間焼成して、酸化タングステン担持ジルコニア触媒(WZ)を得た。触媒のBET比表面積は、60m/gであった。また、X線回折分析の結果、この触媒の結晶形は、71%の正方晶と29%の単斜晶とで構成されていることがわかった。
【0133】
上記触媒を打錠成型して粒径1〜2mmの造粒物を調製し、この造粒物4.5mlを石英製反応管(内径20mm)に充填し、実施例2と同様にして、高温処理前後における触媒の評価を行った。結果を表14に示す。なお、表14において、400℃、450℃および500℃ににおける脱硝反応の触媒後(反応後)のガス中には、亜酸化窒素(NO)が含まれていたので、脱硝率およびリークアンモニア濃度の計算に際して、窒素濃度の代わりに、窒素濃度および亜酸化窒素濃度の総濃度を用いた。
【0134】
【表14】

【0135】
酸化タングステン担持ジルコニアは強い固体酸性を有するジルコニア系酸化物として知られているが、表14から明らかなように、脱硝性能およびアンモニア分解率は実施例で得られた触媒に比べて非常に低く、その上、地球温暖化効果の高い亜酸化窒素を副生する虞があることがわかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア及び/又は窒素酸化物を分解するための触媒であって、少なくともマンガン成分を含有する硫酸根ジルコニアで構成されている触媒。
【請求項2】
マンガン成分の割合が、マンガンMn換算で、ジルコニア100重量部に対して0.1〜10重量部である請求項1記載の触媒。
【請求項3】
さらに、鉄成分を含有する請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項4】
ジルコニア100重量部に対して、鉄Fe及びマンガンMn換算の合計で、鉄成分及びマンガン成分1〜10重量部を含み、鉄成分とマンガン成分との割合が、鉄Fe及びマンガンMn換算で、前者/後者(重量比)=95/5〜10/90である請求項3記載の触媒。
【請求項5】
アンモニアの存在下に窒素酸化物を還元するために用いる請求項1〜4のいずれかに記載の触媒。
【請求項6】
窒素酸化物に対する還元機能とアンモニアに対する分解機能とを有する請求項5記載の触媒。
【請求項7】
アンモニアを窒素に分解するために用いる請求項1〜4のいずれかに記載の触媒。
【請求項8】
アンモニアの存在下、窒素酸化物を含む被処理ガスを、請求項1〜4のいずれかに記載の触媒に接触させる窒素酸化物の除去方法。
【請求項9】
被処理ガスを温度350〜550℃で触媒と接触させる請求項8記載の方法。
【請求項10】
アンモニアの量が、被処理ガス中の窒素酸化物1モルに対して0.9〜1.5モルである請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
アンモニアを含む被処理ガスを、請求項1〜4のいずれかに記載の触媒に接触させて、アンモニアを窒素に分解するアンモニアの分解方法。
【請求項12】
硫酸根ジルコニアにマンガン成分を少なくとも含有させる請求項1〜4のいずれかに記載の触媒の製造方法。
【請求項13】
硫酸イオンおよびマンガンイオンを少なくとも含む溶液に水酸化ジルコニウムを含浸し、乾燥し、焼成する請求項12記載の製造方法。
【請求項14】
溶液が、さらに鉄イオンを含む請求項13記載の製造方法。

【公開番号】特開2006−326578(P2006−326578A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−121017(P2006−121017)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】