説明

アンモニアの合成方法

【課題】 水素ガスを用いることなくアンモニアの合成が可能であり、従来の水素源としての天然ガス等の化石燃料を使用しないため、化石燃料の高騰によるアンモニア製造コストの上昇や、炭酸ガス(CO)排出による環境負荷がなく、しかも常温・常圧での合成であるため、エネルギー消費や設備規模が小さくてすみ、経済性に優れている、アンモニアの合成方法を提供する。
【解決手段】 アンモニアの合成方法は、電解質相に、陽極と陰極とが所定間隔をおいて配置され、陽極ゾーンには、水(HO)が供給されるとともに、光が照射されて、光吸収反応により水が分解して、プロトン(H)、電子(e)および酸素ガス(O)が形成され、陰極ゾーンには、窒素ガス(N)が供給され、陽極ゾーンで生じた電子(e)が、リード線を介して陰極ゾーンに移行せしめられて、陰極ゾーンにおいてN3−が形成され、陽極ゾーンから電解質相内を陰極ゾーン側に移動してきたプロトン(H)と、N3−との反応により、アンモニア(NH)が合成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアの合成方法、さらに詳しくは、水素ガスを用いることなくアンモニアの合成が可能である、アンモニアの合成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のアンモニア合成プロセスは、合成原料である水素源として、天然ガス等の化石燃料を使用している。そのため、化石燃料の高騰によるアンモニア製造コストの上昇や、炭酸ガス(CO)排出による環境負荷が課題となっている。
【0003】
化石燃料を用いない水素の製造方法としては、水の電気分解を用いた電解法、太陽光による水の光触媒分解法、太陽熱や核エネルギーを用いた熱化学法がある。
【0004】
これらの水素を用いてアンモニアを合成する方法としては、ハーバーボッシュ法が採用されている。ここで、ハーバーボッシュ法は、水素ガスと窒素ガスからアンモニアを合成する方法であり、鉄系の三元系触媒の存在下、水素ガスと窒素ガスとを反応させることによってアンモニアを製造するものである。
【0005】
ハーバーボッシュ法は、合成効率が高いため、現在でも、アンモニア合成法の主流であるが、ハーバーボッシュ法は高温・高圧での合成であるため、エネルギー消費や設備規模が大きく、しかも炭化水素の水蒸気改質によって水素ガスを得る際に、多量の炭酸ガス(CO)を排出するという問題があった。
【0006】
上記問題を改善する方法として、水素ガスを用いない方法の開発が行われており、このようなアンモニアの合成方法に関わる特許文献には、下記のようなものがある。
【0007】
まず、特許文献1に開示されているアンモニア電解合成装置は、水と窒素とからアンモニアを電解合成する装置であって、電解浴に供給する水蒸気の種類と電解浴を撹拌する手段とを工夫したものである。このアンモニア電解合成装置は、
(1)電解浴である溶融塩に微細化された水蒸気とN3−とを供給することによってアンモニアを合成する装置であり、
(2)溶融塩にガス成分を供給し、ガス成分を含む溶融塩の上昇流によって溶融塩を撹拌する手段と、
(3)水蒸気の反応によって生じるO2−を酸化して酸素ガスを発生させる陽極と、
(4)窒素ガスを還元してN3−を発生させる陰極とを
有することを特徴とするものである。
【0008】
ここで、溶融塩は、アルカリ金属ハロゲン化物及びアルカリ土類金属ハロゲン化物からなる群から選択される少なくとも1種である。また、微細化された水蒸気は、気泡径が100nm〜10mmである。さらに、微細化された水蒸気は、溶融塩1cm当たりに気泡が10個〜1000万個含まれるように供給されるというものである。
【0009】
つぎに、特許文献2に開示されているアンモニア合成装置は、窒素ガスが供給されるメッシュ状または多孔質状の陰極と、陰極上の窒化物固体電解質層と、窒化物固体電解質層上に設けられたメッシュ状または多孔質状の陽極と、陽極上に設けられ、水素を吸着解離する触媒層とを備えることを特徴とし、陽極に陰極に対して正の電位を加えることで、窒化物固体電解質層において電気化学的に窒素陰イオンを生成し、陽極において窒素陰イオンを酸化し原子状窒素を得、陽極において、原子状窒素と触媒層上に吸着解離させた原子状水素とを反応させることで、アンモニアを合成するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−84615号公報
【特許文献2】特開2005−272856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1に記載のアンモニア合成装置によれば、アルカリ金属ハロゲン化物及びアルカリ土類金属ハロゲン化物からなる溶融塩の電解浴を用いているため、やはり高温でのアンモニア合成となり、エネルギーの消費が非常に大きいという問題があった。また、上記特許文献2に記載のアンモニア合成装置によれば、水素源としては水素ガスを供給する必要があり、燃料に化石燃料を使用する課題は解決されていない。
【0012】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題を解決し、水素ガスを用いることなくアンモニアの合成が可能であり、従来の水素源としての天然ガス等の化石燃料を使用しないため、化石燃料の高騰によるアンモニア製造コストの上昇や、炭酸ガス(CO)排出による環境負荷がなく、しかも常温・常圧での合成であるため、エネルギー消費や設備規模が小さくてすみ、経済性に優れている、アンモニアの合成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の点に鑑み鋭意研究を重ねた結果、陽極ゾーンにおいて、水に光を照射すると、光吸収反応により水が分解して、プロトン、電子および酸素ガスが形成され、その電子を、窒素ガスが供給される陰極ゾーンに移行させて、陰極ゾーンにおいてN3−を形成し、このN3−と、陽極ゾーンからのプロトンとの反応により、アンモニアが合成されることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0014】
上記の目的を達成するために、請求項1のアンモニアの合成方法の発明は、電解質相に、陽極と陰極とが所定間隔をおいて配置され、陽極ゾーンには、水(HO)が供給されるとともに、光が照射されて、光吸収反応により水が分解して、プロトン(H)、電子(e)および酸素ガス(O)が形成され、陰極ゾーンには、窒素ガス(N)が供給され、陽極ゾーンで生じた電子(e)が、リード線を介して陰極ゾーンに移行せしめられて、陰極ゾーンにおいてN3−が形成され、陽極ゾーンから電解質相内を陰極ゾーン側に移動してきたプロトン(H)と、N3−との反応により、アンモニア(NH)が合成されることを特徴としている。
【0015】
請求項2の発明は、請求項1に記載のアンモニアの合成方法であって、陽極に光触媒が具備されており、陽極ゾーンに光が照射されて、光触媒反応により水が分解して、プロトン、電子および酸素ガスが形成されるようになされていることを特徴としている。
【0016】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載のアンモニアの合成方法であって、陽極ゾーンに照射される光が、太陽光、または光照射ランプより照射される可視光であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1のアンモニアの合成方法の発明は、電解質相に、陽極と陰極とが所定間隔をおいて配置され、陽極ゾーンには、水(HO)が供給されるとともに、光が照射されて、光吸収反応により水が分解して、プロトン(H)、電子(e)および酸素ガス(O)が形成され、陰極ゾーンには、窒素ガス(N)が供給され、陽極ゾーンで生じた電子(e)が、リード線を介して陰極ゾーンに移行せしめられて、陰極ゾーンにおいてN3−が形成され、陽極ゾーンから電解質相内を陰極ゾーン側に移動してきたプロトン(H)と、N3−との反応により、アンモニア(NH)が合成されることを特徴とするもので、請求項1の発明によれば、水素ガスを用いることなくアンモニアの合成が可能であり、従来の水素源としての天然ガス等の化石燃料を使用しないため、化石燃料の高騰によるアンモニア製造コストの上昇や、炭酸ガス(CO)排出による環境負荷がなく、しかも常温・常圧での合成であるため、エネルギー消費や設備規模が小さくてすみ、経済性に優れているという効果を奏する。
【0018】
請求項2の発明は、請求項1に記載のアンモニアの合成方法であって、陽極に光触媒が具備されており、陽極ゾーンに光が照射されて、光触媒反応により水が分解して、プロトン、電子および酸素ガスが形成されるようになされていることを特徴とするもので、請求項2の発明によれば、光触媒を使用することにより、水の分解反応が速やかに進み、高効率でアンモニアを合成することができるという効果を奏する。
【0019】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載のアンモニアの合成方法であって、陽極ゾーンに照射される光が、太陽光、または光照射ランプより照射される可視光であることを特徴とするもので、請求項3の発明によれば、太陽光、および光照射ランプより照射される可視光が、最も高いエネルギーを有するものであるため、これらの光を用いることにより、水の分解反応が速やかに進み、やはり高効率でアンモニアを合成することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明によるアンモニアの合成方法の実施装置の具体例を示すフローシートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
つぎに、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
図1は、本発明によるアンモニアの合成方法の実施装置の具体例を示すもので、同図を参照すると、本発明によるアンモニアの合成方法は、電解質相に、陽極と陰極とが所定間隔をおいて配置されている。
【0023】
陽極ゾーンには、水(HO)が供給されるとともに、光が照射されて、光吸収反応により水が分解して、プロトン(H)、電子(e)および酸素ガス(O)が形成される。
【0024】
陰極ゾーンには、窒素ガス(N)が供給され、陽極ゾーンで生じた電子(e)が、リード線を介して陰極ゾーンに移行せしめられて、陰極ゾーンにおいてN3−が形成され、陽極ゾーンから電解質相内を陰極ゾーン側に移動してきたプロトン(H)と、N3−との反応により、アンモニア(NH)が合成される陽極ゾーンには、水が供給されるとともに、光が照射されて、光吸収反応により水が分解して、プロトン、電子および酸素ガスが形成されるものである。
【0025】
本発明によるアンモニアの合成方法において、陽極ゾーンおよび陰極ゾーンでの化学反応は、つぎの通りである。
【0026】
陽極反応:HO+hv→1/2O+2H+2e
陰極反応:N+6e → 2N3−
:N3−+3H→NH
本発明のアンモニアの合成方法によれば、水素ガスを用いることなくアンモニアの合成が可能であり、従来の水素源としての天然ガス等の化石燃料を使用しないため、化石燃料の高騰によるアンモニア製造コストの上昇や、炭酸ガス(CO)排出による環境負荷がなく、しかも常温・常圧での合成であるため、エネルギー消費や設備規模が小さくてすみ、経済性に優れている。
【0027】
本発明によるアンモニアの合成方法においては、陽極に光触媒が具備されており、陽極ゾーンに光が照射されて、光触媒反応により水が分解して、プロトン、電子および酸素ガスが形成されるようになされていることが好ましい。
【0028】
ここで、陽極の基板としては、例えばインジウム錫酸化物(ITO)、フッ素錫酸化物(FTO)などを用いるのが好ましい。
【0029】
また、陰極としては、例えばNi多孔体、ニッケル、鉄もしくはルテニウムを担持したNi多孔体、カーボンペーパー、またはニッケル、鉄もしくはルテニウムを担持したカーボンペーパーなどを用いるのが好ましい。
【0030】
光触媒としては、いわゆる可視光応答型光触媒で、可視光で光触媒活性を発現するものであればよい。このような可視光応答型光触媒としては、例えば、TaON、LaTiON、CaNbON、LaTaON、CaTaONに代表されるオキシナイトライド化合物、SmTi等に代表されるオキシサルファイド化合物、およびCaIn、SrIn、ZnGa、NaSbに代表されるd10電子状態の金属イオンを含む酸化物などが挙げられる。
【0031】
このような光触媒を使用することにより、水の分解反応が速やかに進み、高効率でアンモニアを合成することができる。
【0032】
本発明によるアンモニアの合成方法においては、陽極ゾーンに照射される光が、太陽光、または光照射ランプより照射される可視光であることが好ましい。ここで、光照射ランプとしては、例えばキセノンランプ、クリプトンランプなどを使用することが好ましい。これらの可視光は、最も高いエネルギーを有するものであるため、これらの光を用いることにより、水の分解反応が速やかに進み、やはり高効率でアンモニアを合成することができる。
【実施例】
【0033】
つぎに、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
実施例1
まず、電解質相の電解質には、0.002Nの硫酸(HSO)水溶液を用いた。陽極は、基板にインジウム錫酸化物(ITO)を用い、光触媒として可視光応答型光触媒であるTaONを、ITO基板に塗布して担持した。また、陰極には、Ni多孔体を用いた。
【0035】
そして、上記電解質相において、光触媒を具備する陽極と、陰極とが、所定間隔をおいて配置され、陽極ゾーンには、水(HO)が供給されるとともに、キセノンランプにより可視光線からなる光を、300Wで照射した。これにより、陽極ゾーンでは、光触媒反応により水が分解して、プロトン(H)、電子(e)および酸素ガス(O)が形成された。
【0036】
一方、陰極ゾーンには、窒素ガス(N)を、100ml/minの流速で流通させた。
【0037】
電極間には、2.8〜3.4Vの電圧を印加し、その時の電解質のイオン伝導度を測定した。これにより、陽極ゾーンで生じた電子(e)が、リード線を介して陰極ゾーンに移行せしめられて、陰極ゾーンにおいては、窒素ガス(N)が電子(e)を受け取ることにより、N3−が形成され、陽極ゾーンから電解質相内を陰極ゾーン側に移動してきたプロトン(H)と、N3−との反応により、アンモニア(NH)が生成された。生成したアンモニアは、陰極ゾーンに流通している窒素ガスとともに装置から排出された。
【0038】
本発明の実施例によるアンモニアの合成方法において、陽極ゾーンおよび陰極ゾーンでの化学反応は、つぎの通りであった。
【0039】
陽極反応:HO+hv→1/2O+2H+2e
陰極反応:N+6e → 2N3−
:N3−+3H→NH
この結果、アンモニア合成反応開始前の硫酸水溶液よりなる電解質相のイオン伝導度は、0.84mS/cmであるのに対し、アンモニア合成反応後の硫酸水溶液電解質相のイオン伝導度は、0.50mS/cmに低下しており、アンモニアが生成していることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質相に、陽極と陰極とが所定間隔をおいて配置され、陽極ゾーンには、水(HO)が供給されるとともに、光が照射されて、光吸収反応により水が分解して、プロトン(H)、電子(e)および酸素ガス(O)が形成され、陰極ゾーンには、窒素ガス(N)が供給され、陽極ゾーンで生じた電子(e)が、リード線を介して陰極ゾーンに移行せしめられて、陰極ゾーンにおいてN3−が形成され、陽極ゾーンから電解質相内を陰極ゾーン側に移動してきたプロトン(H)と、N3−との反応により、アンモニア(NH)が合成されることを特徴とする、アンモニアの合成方法。
【請求項2】
陽極に光触媒が具備されており、陽極ゾーンに光が照射されて、光触媒反応により水が分解して、プロトン、電子および酸素ガスが形成されるようになされていることを特徴とする、請求項1に記載のアンモニアの合成方法。
【請求項3】
陽極ゾーンに照射される光が、太陽光、または光照射ランプより照射される可視光であることを特徴とする、請求項1または2に記載のアンモニアの合成方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−25985(P2012−25985A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−163537(P2010−163537)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】