説明

アンモニアを含む水溶液の処理方法

【課題】本発明は、アンモニア含有水からアンモニアを除去する新たな処理方法であって、所定の触媒を使用することによりアンモニアの除去率を向上できる処理方法の提供。
【解決手段】アンモニア及び硝酸イオンを含む水溶液の処理方法であって、前記水溶液を触媒の存在下、100〜300℃、0.1〜8.6MPaで反応させることを含み、前記触媒は、酸化モリブデン、酸化バナジウム、これらの組み合わせ、及び、モリブデン−バナジウム複合酸化物からなる群から選択される処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアを含む水溶液の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体工場の排水や、発電所、化学工場などの排水にはアンモニアが相当量含まれる場合がある。近年、環境に対する関心が高まり、アンモニア含有排水のような窒素含有排水から窒素を除去する技術が注目されている。アンモニア含有排水からアンモニアを除去する方法としては、さまざまな技術が開示されている。例えば、アンモニア含有排水から空気又は蒸気を用いたストリッピングによりアンモニアを気相に移動させ、気相にて触媒等により分解処理する方法(特許文献1及び2)、水中のアンモニアを貴金属の触媒及び酸素含有ガスを用いて所定の条件で反応させる方法(特許文献3及び4)、次亜塩素酸ナトリウムを用いてアンモニアを酸化分解する方法、並びに、水中のアンモニアを微生物により無機化・無害化する生物処理方法などが挙げられる。しかしながら、上記ストリッピング法は、毒性の強いアンモニアガスを発生させる点で安全面に問題があり、また、気相でのアンモニア処理のための初期コスト及びランニングコストが必要という問題がある。また、水中で触媒を使用した反応を行う上記方法では、貴金属の触媒を用いる点でコストが高くなるという問題がある。
【0003】
一方、近年、世界的に環境に対する関心が高まり、日本においても窒素含有排水に対する規制が順次強化されている。このような状況の中で、アンモニア含有排水からアンモニアを除去するさらなる技術が求められている。
【特許文献1】特開2000−317272号公報
【特許文献2】特許第3630352号公報
【特許文献3】特許第3565637号公報
【特許文献4】特開2000−140864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、アンモニア含有水からアンモニアを除去する新たな処理方法であって、所定の触媒を使用することによりアンモニアの除去率を向上できる処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、一つの態様として、アンモニア及び硝酸イオンを含む水溶液の処理方法であって、前記水溶液を触媒の存在下、100〜300℃、0.1〜8.6MPaで反応させることを含み、前記触媒が、酸化モリブデン、酸化バナジウム、これらの組み合わせ、及び、モリブデン−バナジウム複合酸化物からなる群から選択される処理方法に関する。
【0006】
本発明は、その他の態様として、アンモニアを含む排水の浄化方法であって、本発明の処理方法を行うことによりアンモニアを除去することを含む排水浄化方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、非貴金属の触媒を用いてアンモニア含有水からアンモニアを効率的に除去できるという効果を好ましくは奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、「アンモニアを含む水溶液/アンモニア含有水」とは、好ましくは、NH3及び/又はNH4+が溶解して存在する水溶液をいう。以下、水溶液中のNH3及び/又はNH4+をまとめてアンモニアともいう。また、本発明において、「アンモニアを含む水溶液からアンモニアを除去する」とは、好ましくは、前記水溶液に存在するアンモニア性窒素の量を低減させることをいい、より好ましくは、窒素ガス(N2)を発生させることによりアンモニア性窒素の量を低減させることをいい、さらに好ましくは、窒素ガス(N2)以外の含窒素ガスの発生を抑制しつつアンモニア性窒素の量を低減させることをいう。本発明において、「アンモニア性窒素」とは、好ましくは、NH3、アンモニアイオン(NH4+)、又はアンモニア塩の形態で存在する窒素をいう。
【0009】
本発明において、「硝酸イオン(NO3-)を含む水溶液」とは、好ましくは、NO3-が存在する水溶液、かつ/又は、硝酸又は硝酸塩が溶解した水溶液をいう。また、本発明において、「硝酸イオンを含む水溶液から硝酸イオンを除去する」とは、好ましくは、前記水溶液に存在する硝酸性窒素の量を低減させることをいい、より好ましくは、窒素ガス(N2)を発生させることにより硝酸性窒素の量を低減させることをいい、さらに好ましくは、窒素ガス(N2)以外の含窒素ガスの発生を抑制しつつ硝酸性窒素の量を低減させることをいう。本発明において、「硝酸性窒素」とは、好ましくは、硝酸、NO3-、又は硝酸塩の形態で存在する窒素をいう。また、本発明において、「窒素ガス(N2)以外の含窒素ガス」とは、アンモニアガス、各種窒素酸化物のガスを含む。本発明において、「硝酸性水溶液」とは、NO3-が存在する水溶液、かつ/又は、硝酸又は硝酸塩が溶解した水溶液をいう。
【0010】
本発明は、アンモニア及び硝酸イオンを含む水溶液を加熱加圧して窒素ガス(N2)を発生させることにより水溶液中のアンモニア及び硝酸イオンを除去する反応において、触媒として酸化モリブデン及び/又は酸化バナジウムを使用すると、アンモニア及び硝酸イオンの除去率を向上でき、また、反応温度・反応圧力を低下できるという知見に基づく。特に、触媒として金属原子価が4である酸化モリブデン及び/又は金属原子価が4である酸化バナジウムを使用すると、アンモニア及び硝酸イオンの除去率をさらに向上でき、反応温度・反応圧力をさらに低下できるという知見に基づく。
【0011】
また、本発明は、触媒としてモリブデン−バナジウム複合酸化物、中でもゾルゲル法を用いて形成されたモリブデン−バナジウム複合酸化物、その中でも特にゾルゲル法を用いて形成されたモリブデン−バナジウム複合酸化物を還元処理して得られる触媒を使用すると、アンモニア及び/又は硝酸イオンの除去率をさらに向上でき、反応温度・反応圧力を低下でき、加えて、亜硝酸の発生を抑制できるという知見に基づく。
【0012】
すなわち、本発明は、一つの態様として、アンモニア及び硝酸イオンを含む水溶液を触媒の存在下、100〜300℃、0.1〜8.6MPaで反応させることを含み、前記触媒が、酸化モリブデン、酸化バナジウム、これらの組み合わせ、及び、モリブデン−バナジウム複合酸化物からなる群から選択される処理方法である(以下、「本発明の処理方法」ともいう)。
【0013】
本発明の処理方法によれば、例えばアンモニア及び硝酸イオンを含む水溶液(以下、「被処理液」ともいう)から効率よくアンモニア及び硝酸イオンの少なくとも一方を除去でき、より好ましくはアンモニア及び硝酸イオンを被処理液から除去できる。よって、本発明の処理方法は、好ましくはアンモニア及び硝酸イオンを含む水溶液からアンモニア及び硝酸イオンの少なくとも一方を除去するために行うことができ、より好ましくはアンモニア及び硝酸イオンを除去するために行うことができる。
【0014】
また、本発明の処理方法によれば、さらにより好ましくは窒素ガス以外の含窒素ガスの発生を抑制しつつアンモニア及び/又は硝酸イオンを窒素ガスとして前記水溶液から除去できるから、環境保全や安全性に優れる。さらにまた、本発明の処理方法では、非貴金属の酸化物を触媒として使用するため、貴金属の触媒を使用する方法に比べてランニングコストを低減できる。そして、本発明の処理方法では、触媒を使用しない場合に比べて低温・低圧で反応を進ませることができるから設備コストを低減できる。
【0015】
[被処理水]
本発明の処理方法における被処理水は、アンモニア及び硝酸又は硝酸塩を含む水溶液である。前記被処理水中におけるアンモニア及び硝酸イオン(NO3-)のモル比(アンモニア:NO3-)は、特に制限されないが、効率的にアンモニア及び/又は硝酸イオンを除去する観点から1:3〜3:1が好ましく、1:2〜2:1がより好ましく、2:3〜3:2がさらに好ましく、ほぼ1:1がさらにより好ましく、1:1が特に好ましい。前記被処理水は、各種工場からの排水、及びそれらの排水の混合物を含みうる。被処理水におけるアンモニアの濃度は特に制限されないが、例えば、500〜5000ppmである。
【0016】
[被処理水の調製]
本発明の処理方法は、被処理水を調製する工程を含んでもよい。すなわち、本発明の処理方法を適用しようとする水溶液のアンモニア及び硝酸イオンのモル比が前記範囲内にない場合、アンモニア及び硝酸イオンの少なくとも一方を補充することにより前記範囲内に調整し被処理水とすることが好ましい。例えば、本発明の処理方法を適用しようとする水溶液がアンモニア含有水であり、硝酸イオンが存在しないか存在しても前記範囲内とならない程度に低濃度の場合、硝酸、硝酸塩若しくは硝酸水溶液を本発明の処理方法を適用しようとする前記水溶液に添加してアンモニアと硝酸イオンのモル比を調整して被処理水とすることが好ましい。同様に、例えば、本発明の処理方法を適用しようとする水溶液が硝酸性水溶液であり、アンモニアが存在しないか存在しても前記範囲内とならない程度に低濃度の場合、アンモニア又はアンモニア含有水を本発明の処理方法を適用しようとする前記水溶液に添加してアンモニアと硝酸イオンのモル比を調整して被処理水とすることが好ましい。あるいは、複数種類のアンモニア及び/又は硝酸イオンを含む水溶液を混合し、必要に応じてアンモニア、硝酸、硝酸塩等を添加して被処理水としてもよい。
【0017】
あるいは、例えば、本発明の処理方法を適用しようとする水溶液がアンモニア含有水であり、硝酸イオンが存在しないか存在しても前記範囲内とならない程度に低濃度の場合、前記水溶液中のアンモニアの一部を酸化して硝酸イオンを生成させることにより被処理液とすることを含むことも好ましい。
【0018】
本発明の処理方法に適用する水溶液としては、例えば、半導体工場、発電所、化学工場などから排出され得るアンモニアを含む排水や、例えば、半導体工場、液晶工場、化学工場などから排水され得る硝酸イオン含む排水であってもよい。したがって、本発明の処理方法を用いれば、これらの排水を浄化することができる。
【0019】
[排水浄化方法]
したがって、本発明は、その他の態様として、アンモニアを含む排水の排水処理方法であって、本発明の処理方法を行うことによりアンモニアを除去することを含む排水処理方法(以下、「本発明の第1の排水浄化方法」ともいう)を提供する。また、本発明は、さらにその他の態様として、硝酸イオンを含む排水の排水浄化方法であって、本発明の処理方法を行うことにより硝酸イオンを除去することを含む排水浄化方法(以下、「本発明の第2の排水浄化方法」ともいう)を提供し得る。
【0020】
本発明の第1の排水浄化方法によれば、アンモニアを含む排水から好ましくは効率よくアンモニアを除去できる。また、本発明の第2の排水浄化方法によれば、硝酸イオンを含む排水から好ましくは効率よく硝酸イオンを除去できる。
【0021】
本発明の第1の排水浄化方法においては、アンモニアを含む排水に硝酸、硝酸塩又は硝酸水溶液を添加し、本発明の処理方法における被処理液とすることを含むことが好ましい。また、本発明の第2の排水浄化方法においては、硝酸イオンを含む排水にアンモニア又はアンモニア水溶液を添加し、本発明の処理方法における被処理液とすることを含むことが好ましい。さらに、その他の実施形態として、アンモニアを含む排水と硝酸イオンを含む排水とを混合して被処理液とし、本発明の第1及び第2の排水浄化方法を同時に行う方法が挙げられる。この実施形態は、2種類の排水を同時に浄化処理できる点で、好ましい。
【0022】
[触媒]
本発明の処理方法の反応で使用される触媒は、効率的にアンモニア及び/又は硝酸イオンを除去する観点から、酸化モリブデン、酸化バナジウム、これらの組み合わせ、及び、モリブデン−バナジウム複合酸化物からなる群から選択される金属酸化物であり、好ましくは酸化モリブデン、酸化バナジウム、及び、酸化モリブデンと酸化バナジウムとの組み合わせであり、より好ましくは酸化モリブデン、及び、酸化モリブデンと酸化バナジウムとの組み合わせである。また、本発明の処理方法の反応で使用される触媒は、効率的にアンモニウム及び/又は硝酸イオンを除去し、かつ、亜硝酸の発生を抑制して亜硝酸イオンとして残存する窒素を低減できる観点から、モリブデン−バナジウム複合酸化物が好ましい。
【0023】
本発明の処理方法の反応で使用される触媒は、市販品であってもよいし、自家調製したものであってもよい。酸化モリブデン、酸化バナジウム、モリブデン−バナジウム複合酸化物の調製方法は、特に制限されず、例えば、ゾルゲル法、含浸法、還元処理等が挙げられる。中でも、アンモニウム及び/又は硝酸イオンの除去効率の向上、及び、亜硝酸イオンとして残存する窒素抑制の観点から、酸化モリブデンを還元処理して得られる酸化モリブデン、酸化バナジウムを還元処理して得られる酸化バナジウム、及び、モリブデン−バナジウム複合酸化物を還元処理して得られるモリブデン−バナジウム複合酸化物が好ましく、アンモニウム及び/又は硝酸イオンの除去効率のさらなる向上の点から、ゾルゲル法により形成された酸化モリブデン、酸化バナジウム及びモリブデン−バナジウム複合酸化物を還元処理したものがより好ましい。還元処理については、後述及び実施例に基づき行うことができる。
【0024】
本発明は、好ましくは、さらに、酸化モリブデンは、酸化バナジウムと比較して硝酸イオン及び/又はアンモニアの除去率が高いが、処理後に亜硝酸イオンが残存すること、一方、酸化バナジウムは、酸化モリブデンと比較すると硝酸イオン及びアンモニアの除去率は低いが、処理後の亜硝酸イオンの残存量を低減できるため、処理後に亜硝酸イオンとして残存する窒素を低減できるという知見に基づく。
【0025】
本発明で使用する酸化モリブデンとしては、例えば、二酸化モリブデン(MoO2)、三酸化モリブデン(MoO3)、及びこれらの水和物などが挙げられ、効率的にアンモニア及び/又は硝酸イオンを除去する観点から、二酸化モリブデン及び三酸化モリブデンが好ましく、効率的にアンモニア及び/又は硝酸イオンを除去する観点及び亜硝酸イオンの残存を低減できる観点から、金属原子価が4である二酸化モリブデンがより好ましい。
【0026】
酸化モリブデンは、例えば、ゾルゲル法を用いて形成された酸化モリブデン、市販品の酸化モリブデンを還元処理して得られる酸化モリブデン、ゾルゲル法を用いて形成された酸化モリブデンを還元処理して得られる酸化モリブデン等を使用できる。中でも、効率的にアンモニウム及び/又は硝酸イオンを除去し、かつ、亜硝酸の発生を抑制して亜硝酸イオンとして残存する窒素を低減する観点からゾルゲル法を用いて形成された酸化モリブデンを還元処理して得られる酸化モリブデンが好ましい。酸化モリブデンを還元処理して得られる酸化モリブデンとしては、例えば、金属原子価が6であるMoO3を還元処理することによって得られるMoO3とその還元体との混晶が挙げられる。
【0027】
本発明で使用する酸化バナジウムとしては、例えば、酸化バナジウム(VO)、二酸化バナジウム(VO2)、三酸化バナジウム(V23)、五酸化バナジウム(V25)、十三酸化六バナジウム(V613)及びこれらの水和物などが挙げられ、効率的にアンモニア及び/又は硝酸イオンを除去する観点及び亜硝酸イオンの残存を低減できる観点から、酸化バナジウム、二酸化バナジウム、三酸化バナジウム、十三酸化六バナジウムが好ましく、より効率的にアンモニア及び/又は硝酸イオンを除去する観点から、金属原子価が4である二酸化バナジウム、金属原子価が4であるバナジウムを含む十三酸化六バナジウムがより好ましい。
【0028】
酸化バナジウムは、例えば、ゾルゲル法を用いて形成された酸化バナジウム、市販品の酸化バナジウムを還元処理して得られる酸化バナジウム、ゾルゲル法を用いて形成された酸化バナジウムを還元処理して得られる酸化バナジウム等を使用できる。中でも、効率的にアンモニウム及び/又は硝酸イオンを除去し、かつ、亜硝酸の発生を抑制して亜硝酸イオンとして残存する窒素を低減する観点からゾルゲル法を用いて形成された酸化バナジウムを還元処理して得られる酸化バナジウムが好ましい。酸化バナジウムを還元処理して得られる酸化バナジウムとしては、例えば、金属原子価が5であるV25を還元処理することによって得られる金属原子価が4であるVO2等が挙げられる。
【0029】
触媒が酸化モリブデンと酸化バナジウムとの組み合わせであるとは、前記2種類の触媒を組み合わせて使用することをいう。この場合、酸化モリブデンと酸化バナジウムの重量比(酸化モリブデン:酸化バナジウム)は、特に制限されないが、効率的にアンモニア及び/又は硝酸イオンを除去する観点及び亜硝酸イオンの残存を低減できる観点から1:5〜1:0.1が好ましく、1:5〜1:0.4がより好ましく、1:5〜1:1がさらに好ましく、ほぼ1:2.5がさらにより好ましい。また、バナジウム原子とモリブデン原子とのモル比(モリブデン原子:バナジウム原子)としては、特に制限されないが、効率的にアンモニア及び/又は硝酸イオンを除去する観点及び亜硝酸イオンの残存を低減できる観点から1:9〜1:0.25が好ましく、1:4.5〜1:1.5がより好ましく、ほぼ1:4がさらに好ましい。触媒が酸化モリブデンと酸化バナジウムとの組み合わせである場合、効率的にアンモニア及び/又は硝酸イオンを除去する観点から、三酸化モリブデン(MoO3)と五酸化バナジウム(V25)の組み合わせ、二酸化モリブデン(MoO2)と二酸化バナジウム(VO2)との組み合わせが好ましい。
【0030】
モリブデン−バナジウム複合酸化物に含まれるバナジウムとモリブデンとの存在比(モリブデン:バナジウム(モル比))としては、特に制限されないが、効率的にアンモニア及び/又は硝酸イオンを除去する観点から1:9〜1:0.25が好ましく、1:4.5〜1:1.5がより好ましく、ほぼ1:4がさらに好ましい。
【0031】
モリブデン−バナジウム複合酸化物は、例えば、モリブデンを含む原料塩とバナジウムを含む原料塩とを混合し、加熱することにより形成できる。その方法としては、例えば、ゾルゲル法、共沈殿法、含浸法、混練法等が挙げられる。中でも、得られるモリブデン−バナジウム複合酸化物中の不純物濃度の低減及び金属活性サイトの数の向上、並びに、モリブデン−バナジウム複合酸化物の製造効率の点から、ゾルゲル法が好ましい。
【0032】
モリブデンを含む原料塩及びバナジウムを含む原料塩は、例えば、目的とするモリブデン−バナジウム複合酸化物におけるモリブデン及びバナジウムの金属原子価に応じて適宜決定できる。金属原子価が5であるバナジウムを含むモリブデン−バナジウム複合酸化物を調製する場合、金属原子価が5であるバナジウムを含む原料塩を使用することが好ましく、例えば、(メタ)バナジン酸アンモニウム(NH4VO3)、(メタ)バナジン酸ナトリウム(NaVO3)、オルトバナジン酸ナトリウム(Na3VO4)等が挙げられる。また、金属原子価が6であるモリブデンを含むモリブデン−バナジウム複合酸化物を調製する場合、金属原子価が6であるモリブデンの原料塩を使用することが好ましく、例えば、七モリブデン酸六アンモニウム((NH46Mo724)、モリブデン酸アンモニウム((NH4)MoO4)、モリブデン酸カリウム(K2MoO4)、モリブデン酸ナトリウム(Na2MoO4)等が挙げられる。
【0033】
本発明で使用するモリブデン−バナジウム複合酸化物は、アンモニウム及び/又は硝酸イオンの除去効率向上の点から、上述のようにして得られたモリブデン−バナジウム複合酸化物を還元処理することが好ましい。還元処理することにより除去効率が向上されるメカニズムは以下のように推測される。図1にモリブデン−バナジウム複合酸化物の構造の一例を模式的に示す。図1Aはゾルゲル法により得られたモリブデン(Mo6+)−バナジウム(V5+)複合酸化物(還元処理前)の構造の一例であり、図1Bはゾルゲル法により得られたモリブデン−バナジウム複合酸化物を還元処理して得られたモリブデン−バナジウム複合酸化物の構造の一例である。図1Bにおいて太く示した結合の手は、配位不飽和結合(ダングリングボンド)を示す。図1Aに示すように、還元処理前のモリブデン−バナジウム複合酸化物は、酸素イオンを介してモリブデン(Mo6+)とバナジウム(V5+)とが原子レベルで結びついた構造である。これに対し、還元処理後のモリブデン−バナジウム複合酸化物は、図1Bに示すように、還元により、酸素の層が失われてせん断構造となり、また、モリブデン及び/又はバナジウムの金属原子価が、例えば、4程度になることから、触媒表面に位置するモリブデンイオン及び/又はバナジウムイオンにはダングリングボンドが存在する。そして、このダングリングボンドにより、アンモニウム及び/又は硝酸イオンとの反応性が向上するものと推測される。なお、これらは、本発明を限定するものではない。
【0034】
触媒の形態は特に制限されず、酸化モリブデン及び酸化バナジウムの粉末や粒子の形態であってよい。あるいは、例えば、酸化モリブデン及び酸化バナジウムの粉末や粒子が多孔質又は層状の支持体(例えば、ゼオライトなど)に固定化された形態であってもよい。触媒が支持体に固定化された形態であると、反応後の処理水と触媒との分離が容易になる点で好ましい。
【0035】
[反応条件]
本発明の処理方法における反応は、アンモニア及び硝酸イオンを含む水溶液を触媒の存在下、加熱・加圧処理(100〜300℃、0.1〜8.6MPa)して行う反応である。反応温度としては、効率的にアンモニア及び/又は硝酸イオンを除去する観点から、100〜300℃であって、120〜280℃が好ましく、150〜280℃がより好ましく、180〜250℃がさらに好ましい。反応圧力としては、前記温度の飽和水蒸気圧に相当する圧力であってよく、0.1〜8.6MPaであって、0.2〜6.4MPaが好ましく、0.4〜6.4MPaがより好ましく、1.0〜4.0MPaがさらに好ましい。本発明の処理方法における反応に相当する反応を触媒を使用しないで行う場合には、例えば、反応温度は300℃を超え、反応圧力は8.6MPaを超える条件が必要とされることが開示されている。本発明の処理方法は、上記の所定の触媒を用いることで反応温度・圧力を低減することができる。
【0036】
本発明の処理方法における反応の反応時間は、例えば1〜120分であり、5〜90分が好ましく、10〜80分がより好ましく、15〜60分がさらに好ましい。触媒の使用量としては、被処理水1リットルあたり、効率的にアンモニア及び/又は硝酸イオンを除去する観点から、例えば1〜20gであって、2〜15gが好ましく、3〜10gがより好ましい。本発明の処理方法における反応は、さらに、所定の時間の加熱加圧後に30〜50℃、好ましくは40℃へ冷却することを含むことが好ましい。
【0037】
[処理装置]
本発明の処理方法における前記反応を行う処理装置としては、耐圧容器及び加熱手段を備えるものが挙げられ、従来の亜臨界水処理装置や超臨界水処理装置を使用できる。本発明の処理方法の処理装置としては、連続式であってもよくバッチ式であってもよい。
【0038】
[触媒の製造方法]
本発明は、その他の態様として、アンモニア及び硝酸イオンを含む水溶液からアンモニア及び硝酸イオンの少なくとも一方を除去するための触媒を製造する方法(以下、「本発明の触媒の製造方法」ともいう)であって、前記触媒は、酸化モリブデン、酸化バナジウム、これらの組み合わせ、及び、モリブデン−バナジウム複合酸化物からなる群から選択される少なくとも一つを含み、酸化モリブデン、酸化バナジウム、これらの組み合わせ、及び、モリブデン−バナジウム複合酸化物からなる群から選択される少なくとも一つを還元処理する工程を含む製造方法を提供する。本発明の製造方法によれば、例えば、アンモニア及び/又は硝酸の除去効率が向上され、かつ、亜硝酸の発生を十分抑制可能な触媒を製造することができる。
【0039】
還元処理に使用する還元剤としては、特に制限されず、例えば、水素、炭素、一酸化炭素等が挙げられ、還元処理時間の短縮及び還元処理に使用する還元剤の使用量を低減する点から、水素が好ましい。また、還元処理工程における、還元処理時間及び還元処理温度等は、例えば、還元処理される酸化モリブデン等の金属原子価、還元剤の種類等に応じて適宜決定できる。還元処理温度は、アンモニア及び/又は硝酸の除去効率が向上され、かつ、亜硝酸の発生を十分に抑制可能な触媒を得る観点から、例えば、450℃以上であることが好ましく、より好ましくは450〜600℃、さらに好ましくは略500℃である。また、還元処理時間は、アンモニア及び/又は硝酸の除去効率が向上され、かつ、亜硝酸の発生を十分に抑制可能な触媒を得る観点から、例えば、1時間以上であり、好ましくは1.5時間〜10時間、より好ましくは1.5時間〜6時間、さらに好ましくは略3時間である。
【0040】
還元処理される酸化モリブデン、酸化バナジウム及びモリブデン−バナジウム複合酸化物は、特に制限されず、例えば、目的とする酸化モリブデン、酸化バナジウム及びモリブデン−バナジウム複合酸化物におけるモリブデンの金属原子価及び/又はバナジウムの金属原子価、還元剤、反応温度及び反応時間等に応じて適宜決定することができる。
【0041】
還元処理される酸化モリブデン、酸化バナジウム及びモリブデン−バナジウム複合酸化物は、アンモニア及び/又は硝酸の除去効率が向上され、かつ、亜硝酸の発生を十分に抑制可能な触媒を得る観点から、ゾルゲル法を用いて形成されたものであることが好ましい。したがって、本発明の製造方法において、前記還元処理工程は、ゾルゲル法を用いて形成された酸化モリブデン、酸化バナジウム、これらの組み合わせ、及び、モリブデン−バナジウム複合酸化物からなる群から選択される少なくとも一つを還元処理する工程であってもよい。また、本発明の製造方法は、さらに、ゾルゲル法を用いて、酸化モリブデン、酸化バナジウム、及び、モリブデン−バナジウム複合酸化物からなる群から選択される少なくとも一つを調製する工程を含んでもよい。
【0042】
ゾルゲル法を用いた調製工程は、有機モリブデン化合物及び/又は有機バナジウム化合物からゲル状の金属水酸化物を形成する工程、ゲル状の金属水酸化物を加熱する工程を含むことが好ましい。また、金属水酸化物形成工程は、有機モリブデン化合物及び/又は有機バナジウム化合物を加水分解してゾル化する工程、及び、得られたゾル状物を脱水処理してゲル状の金属酸化物を形成する工程を含んでもよい。
【0043】
また、本発明の製造方法において、ゾルゲル法を用いて調製された酸化モリブデン、酸化バナジウム及びモリブデン−バナジウム複合酸化物からなる群から選択される少なくともひとつを焼成する工程を含み、焼成後の酸化モリブデン、酸化バナジウム及び/又はモリブデン−バナジウム複合酸化物を還元処理する工程を含んでもよい。焼成することにより、例えば、安定性が向上した酸化物構造の結晶体を有する酸化モリブデン、酸化バナジウム、モリブデン−バナジウム複合酸化物を得ることができる。
【0044】
以下、実施例を用いて本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0045】
(実施例1及び2)
下記表1及び2に示す様々な触媒と模擬試料とを超・亜臨界水処理装置を用いて下記条件1又は2で反応させ、反応後の模擬試料中のアンモニア性窒素及び硝酸性窒素の除去率を測定した。また、実施例2−2、2−3及び2−9から2−16については反応後の模擬試料中のNO2-濃度を測定した。反応圧力は、飽和水蒸気圧に相当すると考えられる。アンモニア性窒素及び硝酸性窒素の除去率は、以下のように分析して算出した。また、上記反応により発生した窒素ガスは、以下のようにして確認した。
模擬試料(60ml):500ppmアンモニア性窒素(NH4+−N)、500ppm硝酸性窒素(NO3-−N)、0.3g粉末触媒。
反応装置:インコネル製反応容器(容積100ml)及び加熱装置を備える超・亜臨界水処理装置。
反応条件1:反応温度280℃(反応圧力6.4MPa)、反応時間1時間で反応を行い、その後、40℃に冷却。
反応条件2:反応温度250℃(反応圧力4.0MPa)、反応時間1時間で反応を行い、その後、40℃に冷却。
触媒:MoO3−V25(物理混合)、MoO2−VO2(物理混合)、MoO3、MoO2、V25、VO、V23、V613、VO2、NiO、Co34、MnO2、CuO、ZnO、Zn、Fe34、MgO、Fe、Fe23、TiO2、Al23
【0046】
<窒素ガスの発生の確認>
以下の条件で、ガスクロマトグラフィーにより反応後の反応容器中における窒素ガスの発生の確認を行った。
測定条件
カラム:GC−8A(シマヅ製、ステンレスカラム:2m)
カラム充填剤:Molecular Sieve 13x 30/60(GLサイエンス社製)
検出器:TCD(熱伝導度法検出器),電流値設定180mA
キャリアーガス:Heガス(99.99%),流量:0.8ml/min
INJ,DET温度=80℃、Col;INITIAL=80℃,FINAL=50℃
試料注入量:100μl(ガスタイトマイクロシリンジ)
【0047】
<硝酸性窒素の除去率及びNO2-濃度の測定>
以下の条件で、HPLCを用いて反応後の模擬試料中の硝酸性窒素濃度及びNO2-濃度を測定した。を測定した。硝酸性窒素の除去率は、反応前の硝酸性窒素の濃度(500ppm)と反応後の硝酸性窒素の濃度とを用いて下記式より算出した。
除去率(%)=[{500−(反応後の硝酸性窒素濃度)}/500]×100
測定条件
装置:HPLC UV−8000(東ソー株式会社製)
検出器:UV(波長λ= 230nm)
カラム:TSK−GEL DEAE−5PW(東ソー株式会社製、7.5mmID×7.5cm〔L〕、イオンクロマトグラフィ用、水系)
カラムオーブン温度:40℃
溶離液:0.2M−NaCl
流量:1.0ml/min.
試料注入量:100μl(サンプルループ、オートサンプラー使用)
前処理:0.2μmクロマトディスクろ過
【0048】
<アンモニア性窒素の除去率>
以下の条件で、全窒素分析装置を用いて反応後の模擬試料中のアンモニア性窒素濃度を測定した。アンモニア性窒素の除去率は、反応前のアンモニア性窒素の濃度(500ppm)と反応後のアンモニア性窒素の濃度とを用いて下記式より算出した。
除去率(%)=[{500−(反応後のアンモニア性窒素濃度)}/500]×100
測定条件
装置:オートアナライザー3型(AA3)(BLTEC株式会社製)、発色又は退色反応後の吸光度の連続測定(カロリーメーター;比色計)装置
測定法:インドフェノール吸光光度法(波長λ=630nm)
測定範囲:0.05〜2.5mg/l
試料注入量:0.6ml
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
上記表1に示すとおり、触媒が酸化モリブデンと酸化バナジウムとの組み合わせ(物理混合)、酸化モリブデン、又は酸化バナジウムである実施例1−1から1−3は比較例1−1から1−12と比べて著しいアンモニア性窒素及び硝酸性窒素の除去率を示した。つまり、実施例1−1から1−3では、NH4+及びNO3-に対して高い分解率を示した。
【0052】
また、反応温度250℃では、触媒が酸化モリブデンである実施例2−9及び2−10は、最も高いアンモニア性窒素及び硝酸性窒素の除去率を示し、中でも、金属原子価が4である二酸化モリブデンを用いた実施例2−10が、高いアンモニア性窒素及び硝酸性窒素の除去率を示した。触媒が酸化バナジウム又は酸化モリブデンと酸化バナジウムとの組み合わせである実施例においては、使用する金属酸化物の組成は組成によって若干バラツキがあるものの、同程度のアンモニア性窒素及び硝酸性窒素の除去率を示した。
【0053】
酸化バナジウムの中では、金属原子価が4である二酸化バナジウムを使用した実施例2−7の除去率が最も高く、つぎに金属原子価が4のものと3のものとを含む十三酸化六バナジウムを使用した実施例2−6の除去率が高かった。また、酸化モリブデン、酸化バナジウムのいずれも金属原子価が4である金属酸化物が最も高い除去率(活性)を示した。
【0054】
上記表2に示すとおり、触媒が酸化モリブデン単独である実施例2−9及び2−10では、擬似試料中にNO2-が検出され、触媒が三酸化モリブデンである実施例2−9と比較して、触媒が二酸化モリブデンである実施例2−10の方が残存するNO2-濃度が低かった。一方、触媒が酸化バナジウム単独である実施例2−4から2−8では、いずれもNO2-は検出されなかった。また、酸化モリブデンと酸化バナジウムとを組み合わせた触媒の中では、モリブデンとバナジウムとのモル比が2:8である触媒を使用した実施例2−2及び実施例2−3が、アンモニウム性窒素及び硝酸性窒素の除去率が最も高く、擬似試料中のNO2-濃度についても低かった。
【0055】
(実施例3)
市販のV25(和光純薬製)、市販のV25を水素還元したもの(H−V25)、ゾルゲル法により調製したV25(SG−V25)及び、ゾルゲル法により調製したV25を水素還元したもの(HSG−V25)の4種類の触媒を準備した。
【0056】
H−V25、SG−V25、及び、HSG−V25は、以下のようにして調製した。
<H−V25の調製>
市販のV25を、水素下(流量:40ml/min)で500℃、1.5時間還元して、H−V25を得た。
<SG−V25の調製>
バナジン酸アンモニウム(バナジウムの金属原子価:5)にシュウ酸二水和物を添加してバナジン酸アンモニウムを溶解させた後、それをエチレングリコールに溶解し、80℃で1時間還流させた。ついで、濃硝酸を1mL添加して3時間保持した後、ロータリーエバポレータで脱溶媒し、110℃で3日以上乾燥させた。そして、電気炉で500℃、5時間焼成を行い、SG−V25を得た。
<HSG−V25の調製>
上述のようにゾルゲル法により調製したSG−V25を、水素下(流量:40ml/min)で500℃、1.5時間還元してHSG−V25を得た。
【0057】
<XRD解析>
上述のように調製したH−V25、SG−V25及びHSG−V25、並びに、市販のV25の構造を、X線回折装置(LINT2100型、リガク製)を用いて、40kV、40mAの条件で測定した。
【0058】
得られたXRDパターンをJCPDS−ICDD(Joint Committee of Powder Diffraction Standards - International Center for Diffraction Date)カードと比較することにより上記触媒の構造を同定した。その結果、SG−V25及び市販のV25は、いずれもV25(Shcherbinaite)であった。一方、市販のV25を水素還元したH−V25は、V613、VO2及びV23の混晶であり、そのバナジウムの金属原子価は4から3の範囲であった。ゾルゲル法により調製したV25を水素還元したHSG−V25は、V25、V613及びVO2の混晶であり、そのバナジウムの金属原子価は5から4の範囲であった。また、H−V25は、HSG−V25と比べて還元が進行していることが確認された。
【0059】
上述した4種類の触媒のいずれか(0.3g)と実施例1で使用した模擬試料とを、超・亜臨界水処理装置を用いて反応温度250℃、反応圧力4MPaの亜臨界条件で1時間反応させ、その後、40℃に冷却した。40℃に冷却した時点で反応後の模擬試料と発生したガスとを採取し、実施例1と同様にして、アンモニア性窒素及び硝酸性窒素の除去率、並びに、NO2-濃度を求めた。その結果を下記表3に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
上記表3に示すように、HSG−V25が最も高いアンモニア性窒素の除去率を示し、つぎに、H−V25のアンモニア性窒素の除去率が高かった。つまり、金属原子価が5である酸化バナジウム(V25)と比べて、金属原子価が4付近の酸化バナジウムは高いアンモニア性窒素の除去活性を示すことが確認された。また、HSG−V25及びH−V25の結果より、バナジウムの金属原子価は、3から4の範囲よりも4から5の範囲である方が高いアンモニア性窒素の除去活性を示すことが確認できた。
【0062】
(実施例4)
<触媒調製>
バナジン酸アンモニウムに替えて、モリブデンとバナジウムとのモル比が下記表4に示す割合となるように秤量した七モリブデン酸六アンモニウム四水和物(モリブデンの金属原子価:6)とバナジン酸アンモニウム(バナジウムの金属原子価:5)とを使用した以外は、実施例3のSG−V25の調製と同様にゾルゲル法を用いて触媒を調製した。
<XRD解析>
得られた触媒の構造を、X線回折装置(RINT2000、リガク製)を用いて、以下の条件で測定した。
励起電圧/励起電流:40kV/40mA
スキャン速度 :4degree/min
スキャンステップ :0.05degree
測定角 :20〜90degree[2θ/θ]
【0063】
ゾルゲル法を用いて得られた触媒のXRDパターンの一例を図2に示す。図2Aは七モリブデン酸六アンモニウム四水和物のみを原料にして得られた触媒のXRDパターンの一例であり、図2B〜Eは、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物とバナジン酸アンモニウムを原料にして得られた触媒のXRDパターンの一例であって、原料におけるMoとVとのモル比(Mo:V)が順に80:20、60:40、40:60、20:80であり、図2Fはバナジン酸アンモニウムのみを原料にして得られた触媒のXRDパターンの一例である。
【0064】
得られたXRDパターンをJCPDS−ICDDカードと比較することにより上記触媒の構造を同定した。図2において、丸を付したピークはMo6940(Mo6+、V5+)由来のピークであり、四角を付したピークはMoV28(Mo6+、V5+)由来のピークであり、三角を付したピークはMoVO5(Mo6+、V4+であると考えられる)由来のピークである。
【0065】
また、MoO3とV25とを物理混合して得られた触媒のXRDパターンの一例を図3に示す。図3AはMoO3のXRDパターンの一例であり、図3B〜Eは、それぞれ、MoO3とV25との組み合わせのXRDパターンの一例であって、その混合比(Mo:V(モル比))が順に80:20、60:40、40:60、20:80であり、図3FはV25のXRDパターンの一例である。
【0066】
図2B〜Eに示すように、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物及びバナジン酸アンモニウムを原料として得られた触媒は、Mo−V複合酸化物由来のピークが検出された。Vに比べてMoを多く含む触媒では、Mo6940(丸)及びMoV28(四角)由来のピークが検出され(図2B及びC)、Moに比べてVを多く含む触媒では、MoV28(四角)及びMoVO5(三角)由来のピークが検出された(図2D及びE)。また、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物のみから得られた触媒(Mo:V=100:0)はMoO3由来のピークが検出され(図2A)、バナジン酸アンモニウムのみから得られた触媒(Mo:V=0:100)はV25由来のピークが検出された(図2F)。一方、図3B〜Eに示すように、MoO3とV25とを混合して得られた触媒のXRDパターンは、MoO3由来のピーク及びV25由来のピークがその混合比に応じて出現したが、モリブデン−バナジウム複合酸化物由来のピークは検出されなかった。
【0067】
上記XRDパターンの結果より、モリブデン化合物及びバナジウム化合物をゾルゲル法を用いて処理することにより、モリブデンとバナジウムとが複合した酸化物構造を形成したモリブデン−バナジウム複合酸化物が得られることが確認できた。また、この構造は、酸素イオンを介してモリブデンとバナジウムとが原子レベルで結びついた構造であった。
【0068】
上述のようにして得られた下記表4に示す触媒を用いて、実施例3と同様に模擬試料との反応を行い、反応後の模擬試料におけるアンモニア性窒素及び硝酸性窒素の除去率、並びに、NO2-濃度を求めた。その結果を下記表4に示す。
【0069】
【表4】

【0070】
上記表4に示すように、モリブデン及びバナジウムの割合に関らず、何れの触媒においても同程度のアンモニア性窒素及び硝酸性窒素の除去率、並びに、亜硝酸イオン濃度を示した。また、MoO3とV25を物理混合して得られた触媒(表2)と比較してモリブデン−バナジウム複合酸化物を使用した場合、亜硝酸イオンの発生が抑制されたことから、モリブデン−バナジウム複合酸化物は、亜硝酸の生成を抑制しているものと推測される。
【0071】
(実施例5)
<触媒調製>
実施例4においてゾルゲル法を用いて形成した酸化モリブデン(MoO3)、モリブデン−バナジウム複合酸化物、及び、酸化バナジウム(V25)を水素下(流量:40ml/min)で500℃、1.5時間還元処理して触媒を調製した。
<XRD解析>
得られた触媒の構造を、実施例4の「XRD解析」と同様の方法で測定した。得られたXRDパターンをJCPDS−ICDDカードと比較することにより上記触媒の構造を同定した。得られたXRDパターンの一例を図4に示す。
【0072】
図4Aはゾルゲル法を用いて形成したMoO3を還元処理した触媒のXRDパターンの一例であり、図4B〜Eは、ゾルゲル法を用いて形成したモリブデン−バナジウム複合酸化物を還元処理した触媒のXRDパターンの一例であって、その原料におけるMoとVとのモル比(Mo:V)が順に80:20、60:40、40:60、及び、20:80であり、図4Fはゾルゲル法を用いて形成したV25を還元処理した触媒のXRDパターンの一例である。図4において、星印を付したピークはMo0.670.332(Mo4+、V4+)由来のピークである。なお、図4A〜Fにおいて、X線回折強度(縦軸)のスケールは同一ではない。
【0073】
図4Fに示すように、V25を還元処理した触媒はVO2由来のピークが検出された。一方、MoO3を還元処理した触媒(図4A)は、JCPDS−ICDDカードに合致する化合物がなかったことから、MoO3とその還元体との混晶であり、その金属原子価は6から4の範囲であると思われる。また、図4B〜Eに示すように、モリブデン−バナジウム複合酸化物を還元処理して得られた触媒では、Mo0.670.332由来のピーク(星印)が検出された。このMo0.670.332由来のピークは、ゾルゲル法を用いたモリブデン−バナジウム複合酸化物形成時におけるモリブデンとバナジウムとのモル比に関係なく、ほぼ全てのモリブデン−バナジウム複合体還元体で検出された。また、還元処理後もモリブデン−バナジウム複合酸化物におけるMo−O−V結合は維持されていることが確認された。また、Mo0.670.332におけるMo及びVの合計とOとのモル比((Mo+V):O)は1:2であることから、Mo0.670.332は、VO2と同様にルチル型構造であると推測される。
【0074】
上述のようにして得られた下記表5に示す触媒を用いて、実施例3と同様に模擬試料との反応を行い、反応後の模擬試料におけるアンモニア性窒素及び硝酸性窒素の除去率、並びに、NO2-濃度を求めた。その結果を下記表5に示す。
【0075】
【表5】

【0076】
上記表5に示すように、何れの触媒においても、高いアンモニア性窒素及び硝酸性窒素の除去率を示し、亜硝酸の発生も高いレベルで抑制されていた。これは、特に、モリブデン−バナジウム複合酸化物を還元処理することにより、触媒中のモリブデンイオンやバナジウムイオンが還元され、例えば、配位不飽和結合(タングリングボンド)が形成され、それによりNO3-やNH4+との反応性が向上し、その結果アンモニア性窒素及び硝酸性窒素の除去率が向上するものと考えられる。
【0077】
(実施例6)
<触媒調製>
実施例4においてゾルゲル法を用いて形成したモリブデン−バナジウム複合酸化物(Mo:V=80:20(モル比)を、水素下(流量:40ml/min)で500℃、3時間又は6時間還元処理して触媒を調製した。
【0078】
上述のようにして得られた2種類の触媒を用いて、実施例3と同様に模擬試料との反応を行い、反応後の模擬試料におけるアンモニア性窒素及び硝酸性窒素の除去率、並びに、NO2-濃度を求めた。その結果を、実施例5−9の結果とあわせて下記表6に示す。
【0079】
【表6】

【0080】
上記表6に示すように、何れの触媒も、80%を超えるアンモニア性窒素除去率、95%を超える硝酸性窒素除去率を示し、亜硝酸の発生も抑制された。特に還元処理時間が3時間である実施例6−1の触媒については、さらに高いアンモニア性窒素除去率及び硝酸性窒素除去率を示した。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上、説明したとおり、本発明は、例えば、排水の浄化、公害対策、環境保全等の分野で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1は、モリブデン−バナジウム複合酸化物の構造の一例を模式的に示すものである。
【図2】図2は、ゾルゲル法を用いて形成されたモリブデン−バナジウム複合酸化物のXRDパターンの一例である。
【図3】図3は、モリブデンとバナジウムとの組み合わせのXRDパターンの一例である。
【図4】図4は、ゾルゲル法を用いて形成されたモリブデン−バナジウム複合酸化物を還元処理して得られた触媒のXRDパターンの一例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア及び硝酸イオンを含む水溶液の処理方法であって、
前記水溶液を触媒の存在下、100〜300℃、0.1〜8.6MPaで反応させることを含み、
前記触媒は、酸化モリブデン、酸化バナジウム、これらの組み合わせ、及び、モリブデン−バナジウム複合酸化物からなる群から選択される、処理方法。
【請求項2】
前記触媒は、酸化モリブデンと酸化バナジウムの組み合わせ及び/又はモリブデン−バナジウム複合酸化物である、請求項1記載の処理方法。
【請求項3】
前記処理方法は、アンモニア及び硝酸イオンを含む水溶液からアンモニア及び硝酸イオンの少なくとも一方を除去するための処理方法である、請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記触媒は、酸化モリブデン、酸化バナジウム、及び、モリブデン−バナジウム複合酸化物からなる群から選択される少なくとも一つを還元処理して得られたものを含む、請求項1から3のいずれかに記載の処理方法。
【請求項5】
前記触媒は、ゾルゲル法を用いて得られる酸化モリブデン、酸化バナジウム、及び、モリブデン−バナジウム複合酸化物からなる群から選択される少なくとも一つを含む、請求項1から3のいずれかに記載の処理方法。
【請求項6】
前記触媒は、ゾルゲル法を用いて形成された酸化モリブデン、酸化バナジウム、及び、モリブデン−バナジウム複合酸化物からなる群から選択される少なくとも一つを還元処理して得られるものを含む、請求項1から3のいずれかに記載の処理方法。
【請求項7】
アンモニアを含む排水の浄化方法であって、請求項1から6のいずれかに記載の処理方法を行うことによりアンモニアを除去することを含む、排水浄化方法。
【請求項8】
前記排水に硝酸、硝酸塩又は硝酸水溶液を添加することを含む、請求項7記載の排水浄化方法。
【請求項9】
アンモニア及び硝酸イオンを含む水溶液からアンモニア及び硝酸イオンの少なくとも一方を除去するための触媒であって、
酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化モリブデンと酸化バナジウムの組み合わせ、及び、モリブデン−バナジウム複合酸化物からなる群から選択される、触媒。
【請求項10】
還元処理して得られる酸化モリブデン、酸化バナジウム、及び、モリブデン−バナジウム複合酸化物からなる群から選択される少なくとも一つを含む、請求項9記載の触媒。
【請求項11】
ゾルゲル法を用いて得られる酸化モリブデン、酸化バナジウム、及び、モリブデン−バナジウム複合酸化物からなる群から選択される少なくとも一つを含む、請求項9又は10記載の触媒。
【請求項12】
アンモニア及び硝酸イオンを含む水溶液からアンモニア及び硝酸イオンの少なくとも一方を除去するための触媒を製造する方法であって、
前記触媒は、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化モリブデンと酸化バナジウムの組み合わせ、及び、モリブデン−バナジウム複合酸化物からなる群から選択され、
酸化モリブデン、酸化バナジウム、及び、モリブデン−バナジウム複合酸化物からなる群から選択される少なくとも一つを還元処理する工程を含む、製造方法。
【請求項13】
前記還元処理工程は、ゾルゲル法を用いて得られる酸化モリブデン、酸化バナジウム、及び、モリブデン−バナジウム複合酸化物からなる群から選択される少なくとも一つを還元処理することを含む、請求項12記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−167368(P2010−167368A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12336(P2009−12336)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】