説明

アークプラズマ発生装置

【課題】 少なくとも2次元的(平面的)な広がりを有する被処理体に対して、良好にアークプラズマを照射することができるアークプラズマ発生装置を提供する。
【解決手段】 複数の放電電極31は、各先端部31aが射出口20aを挟んで対向するよう、射出口20aの長手方向両側に射出口20aに沿って並設されている。多相交流変換部52は、複数の単相変圧器によって構成されており、商用の3相交流を変換して多相交流を出力する。各放電電極31に対応する出力端子からの出力電圧が付与されると、隣接する放電電極31との間で良好に放電が生じ、チャンバ3内にアークプラズマが発生する。そして、発生したアークプラズマは、作動ガス供給ノズル41からの不活性ガスによって、射出口20aからチャンバ3外に押し出される。これにより、射出口20aの形状に倣って長手方向に伸びる線状アークプラズマをチャンバ3から射出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理体に対して射出されるアークプラズマを発生させるアークプラズマ発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、プラズマトーチと被処理体との間に直流アークプラズマを発生させるとともに、このアークプラズマによって被処理体に熱処理や溶融処理を施す技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、商用3相交流を12相交流に変換するとともに、この12相交流を対応する放電電極に接続することによって立体的なアークプラズマを発生させる技術も、従来より知られている(例えば、特許文献2)。
【0004】
【特許文献1】特開平07−201492号公報
【特許文献2】特許第3094217号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、半導体基板、液晶表示装置用ガラス基板、フォトマスク用ガラス基板、光ディスク用基板、および電子ペーパ用プラスチック基板等(以下、単に「基板」と称する)のように、少なくとも2次元的(平面的)な広がりを有する被処理体(表面に凹凸を有していても良い)につき、該被処理体の表面全域にアークプラズマを照射する手法の1つとして、特許文献1に開示されたプラズマトーチを被処理体上で走査させる手法が考えられる。この場合、略点状のアークプラズマが被処理体の表面全域を移動することにより、被処理体に熱処理や溶融処理が施される。したがって、この手法では、被処理体の表面積が増大するにしたがって、処理時間が増大するという問題が生ずる。
【0006】
また、被処理体の表面全域にアークプラズマを照射する他の手法として、特許文献1に開示されたプラズマトーチを複数使用して略線状のアークプラズマを形成し、この略線状アークプラズマを被処理体上で走査させる手法が考えられる。すなわち、各プラズマトーチから照射されるプラズマアークが略同一方向となるように、各プラズマトーチが並設される。そして、各プラズマトーチから略同時にプラズマアークが照射されることにより、線状のプラズマアークが形成される。
【0007】
しかしながら、この手法において、各プラズマトーチから照射されるアークプラズマは、隣接するプラズマトーチから照射されたアークプラズマからの影響を受け、アークプラズマの直進性が低下する。その結果、被処理体における各アークプラズマの到達位置が変動し、均一な線状アークプラズマを得ることができないという問題が生ずる。
【0008】
さらに、特許文献2の技術では、正6角形の各頂点位置に配置された放電電極によって放電電極層が形成され、これら放電電極層間に立体的なプラズマが発生する。したがって、被処理体の上面または下面の一方だけに熱処理や溶融処理を施したい場合であっても、上面および下面の両者に処理が施されるという問題が生ずる。
【0009】
そこで、本発明では、少なくとも2次元的(平面的)な広がりを有する被処理体に対して、良好にアークプラズマを射出することができるアークプラズマ発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、請求項1の発明は、(a)略密閉空間とされるとともに、一方向に伸びる射出口を有するチャンバと、(b)前記チャンバ内に不活性ガスを吐出することにより、前記チャンバ内を不活性ガス雰囲気とする作動ガス供給ノズルと、(c)前記チャンバ内に設けられており、各先端部が前記射出口を挟んで対向するよう、前記射出口の長手方向両側に前記射出口に沿って並設された複数の放電電極と、(d)3相交流を変換して多相交流を出力するとともに、各放電電極に対応する出力電圧を付与することにより、隣接する放電電極間で放電を生じさせ、各放電電極間でアークプラズマを発生させる多相交流変換部とを備え、前記チャンバ内で発生した前記アークプラズマは、前記作動ガス供給ノズルから前記チャンバ内に吐出された不活性ガスによって、前記射出口から前記チャンバ外に押し出されることを特徴とする。
【0011】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載のアークプラズマ発生装置において、前記複数の放電電極は、各先端部が前記射出口を挟んで千鳥状に配置されていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載のアークプラズマ発生装置において、前記チャンバの前記射出口を覆う整流部材、をさらに備えることを特徴とする。
【0013】
また、請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のアークプラズマ発生装置において、前記チャンバの射出口縁部は、前記射出口が前記アークプラズマの射出方向に沿って先細り状となるように傾斜していることを特徴とする。
【0014】
また、請求項5の発明は、請求項4に記載のアークプラズマ発生装置において、前記射出口縁部に設けられており、前記アークプラズマの前記射出方向に沿って伸びる複数のフィン部材、をさらに備えることを特徴とする。
【0015】
また、請求項6の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のアークプラズマ発生装置において、前記射出口の長手方向両側に設けられており、前記アークプラズマの前記射出方向に突出するガイド部材、をさらに備え、前記多相交流変換部は、複数の変圧器によって構成されるとともに、各変圧器の出力側の中性点は中性線によって接続されており、各ガイド部材は、金属によって形成され、絶縁部材を介して前記チャンバに取り付けられるとともに、前記中性線と接続されていることを特徴とする。
【0016】
また、請求項7の発明は、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のアークプラズマ発生装置において、前記チャンバのハウジング壁内に設けられた冷却管、をさらに備え、前記冷却管内を冷却流体が流通することにより、前記チャンバ内が冷却されることを特徴とする。
【0017】
また、請求項8の発明は、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のアークプラズマ発生装置において、各放電電極に供給される不活性ガスの流速を制御することにより、前記アークプラズマの密度を調整するように構成された制御部、をさらに備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1ないし請求項8に記載の発明によれば、隣接する放電電極間で放電させることにより、射出口に沿って伸びるアークプラズマを発生させることができる。また、作動ガス供給ノズルからチャンバ内に不活性ガスを吐出することにより、チャンバ内で発生したアークプラズマを射出口からチャンバ外に押し出すことができる。そのため、射出口の形状に倣って長手方向に伸びる線状アークプラズマをチャンバから射出することができる。
【0019】
特に、請求項2に記載の発明によれば、射出口を挟んで対向する放電電極間で良好に放電を生じさせることができる。そのため、射出口に沿って伸びるアークプラズマを良好に発生させることができる。
【0020】
特に、請求項3に記載の発明によれば、チャンバ内で発生したアークプラズマは、スリット部材を通過するときに整流される。そのため、線状アークプラズマの射出方向をさらに均一にすることができる。
【0021】
特に、請求項4に記載の発明によれば、チャンバの射出口はアークプラズマの射出方向に沿って先細り状となっており、射出口を通過するアークプラズマの線幅(射出口の短手方向の幅)を狭めることができる。そのため、線幅が絞られた良好な線状アークプラズマをチャンバ内から射出することができ、線状アークプラズマの密度を向上させることができる。
【0022】
特に、請求項5に記載の発明によれば、チャンバ内で発生したアークプラズマは、射出口を通過するときに複数のフィン部材によって整流される。そのため、線状アークプラズマの射出方向をさらに均一にすることができる。
【0023】
特に、請求項6に記載の発明によれば、各ガイド部材は、各変圧器の中性点を繋ぐ中性線と接続されている。これにより、各放電電極間で発生したアークプラズマと、各ガイド部材との間には電位差が生じ、アークプラズマには、チャンバ外に引き出される力が働く。そのため、チャンバ内から射出される線状アークプラズマの流速をさらに高めることができる。
【0024】
特に、請求項7に記載の発明によれば、冷却管に冷却流体が流通させられることによってチャンバのハウジングが冷却されると、チャンバ内で発生したアークプラズマも冷却される。これにより、放電領域周縁部のアークプラズマが冷却され、この周縁部で放電電流が流れにくくなる。その結果、放電領域の中心部に放電電流が集中し、アークプラズマの線幅が絞られる。また、アークプラズマの線幅が絞られると、アークプラズマ自身によって形成される磁場(自己誘導磁場)がさらに増大する。その結果、磁場の増大によってさらにアークプラズマの線幅が絞られる。
【0025】
このように、アークプラズマが冷却されると、熱的ピンチ効果および磁気ピンチ効果によってアークプラズマの線幅が絞られる。そのため、さらに高温の線状アークプラズマを発生させることができる。
【0026】
特に、請求項8に記載のアークプラズマ発生装置によれば、複数の放電電極のそれぞれに供給される不活性ガスの流速を制御することにより、線状アークプラズマの密度を調整することができる。そのため、被処理体に応じた密度の線状アークプラズマを容易に生成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0028】
<1.アークプラズマ発生装置の構成>
図1および図2は、本発明の実施の形態におけるアークプラズマ発生装置1の構成の一例を示す斜視図および正面断面図である。アークプラズマ発生装置1は、例えば基板のように、少なくとも2次元的な広がりを有する被処理体に対して射出される線状アークプラズマを発生させる装置である。図1および図2に示すように、アークプラズマ発生装置1は、主として、被処理体に対して射出されるアークプラズマを発生させるチャンバ3と、放電トーチ30と、多相交流変換部52と、を備えている。なお、図1および以降の各図には、それらの方向関係を明確にすべく必要に応じて適宜、Z軸方向を鉛直方向とし、XY平面を水平面とするXYZ直交座標系が付されている。
【0029】
チャンバ3は、図2に示すように、下端に開口を有する略筒状の上部ハウジング10と、放電トーチ30が取り付けられる下部ハウジング20と、を有している。これら上部ハウジング10と下部ハウジング20とによって囲まれる空間10aは、アークプラズマを発生させる発生空間10aとして使用される。
【0030】
冷却管12、22は、チャンバ3内の発生空間10aを冷却する。図2に示すように冷却管12は、例えば上部ハウジング10の壁11内に設けられた螺旋状の配管であり、冷却管22は下部ハウジング20の壁21内に設けられた螺旋状の配管である。冷却管12の下端部は、冷却管22の上端部と連通接続されている。
【0031】
また、図2に示すように、冷却管12は、バルブ14および冷却水供給管15を介して冷却水供給源13と連通する。さらに、冷却管22は、排液管16を介してドレイン17と連通する。したがって、バルブ14が開放されると、冷却管12、22内には冷却流体として使用される冷却水が流通し、チャンバ3内が冷却される。特に、放電トーチ30の放電電極31付近の冷却管22によって、発生空間10aで発生したアークプラズマが冷却される。そして、冷却管12、22を流通した冷却水は、ドレイン17に廃棄される。
【0032】
なお、アークプラズマ発生装置1は、冷却管22から排出された冷却水を、温調部(図示省略)によって所定の温度範囲となるように温調(冷却)した後、再度冷却管12に供給する循環機構を有してもよい。これにより、冷却水の使用量を低減させることができる。
【0033】
射出口20aは、下部ハウジング20の下端に設けられた開口であり、一方向(例えば、略Y軸方向:走査方向AR1)に伸びる。ここで、本実施の形態の射出口20aの短手方向の幅は、2mm〜10mm(好ましくは、3mm〜5mm)であり、チャンバ3の大きさと比較して十分小さい。したがって、発生空間10aは、略密閉空間として使用することができる。
【0034】
ガイド部材25は、金属によって形成されており、チャンバ3外に射出された線状アークプラズマをガイドする。図2に示すように、ガイド部材25は、射出口20aの長手方向両側に設けられており、チャンバ3から射出されるアークプラズマの射出方向AR3に突出する。また、ガイド部材25は、絶縁部材26を介してチャンバ3下部に取り付けられている。したがって、チャンバ3から射出された線状アークプラズマは、射出口20aの長手方向両側に設けられたガイド部材25および絶縁部材26によって整流される。そのため、線状アークプラズマの流れの一様性が確保される。
【0035】
複数の放電トーチ30は、チャンバ3内に設けられており、発生空間10aでアークプラズマを発生させる。図2に示すように、各放電トーチ30は、トーチ本体30aと、放電電極31と、を有している。なお、図示の便宜上、図1では、射出口20aの長手方向両側に3本ずつ、図2では、該両側に1本ずつ、記載している。
【0036】
各放電トーチ30のトーチ本体30aは、略円筒形状を有している。トーチ本体30aの内側空間には、対応する放電電極31が支持されており、放電電極31の先端部31aは、トーチ本体30aの開口30bから射出口20a側に吐出する。
【0037】
各放電トーチ30の放電電極31は、例えばタングステン等の金属によって形成された棒状体である。各放電トーチ30は、下部ハウジング20に形成された貫通孔(図示省略)に挿通されるとともに、傾斜部23に沿うように取付部27によって固定される。また、各放電電極31は、各先端部31aが射出口20aを挟んで対向するよう、射出口20aの長手方向両側に射出口20aに沿って並設されている。
【0038】
図2に示すように、各放電電極31は、出力線55を介して多相交流変換部52と電気的に接続されている。また、各放電電極31は、射出口20aを挟んで千鳥状に(各先端部31aが長手方向一方側と他方側とに交互になるように)配置されている。これにより、射出口20aを挟んで対向する放電電極31間で良好に放電を生じさせることができる。そのため、射出口20a付近に配置された放電電極31により、射出口20aに沿って伸びるアークプラズマを良好に発生させることができる。
【0039】
さらに、図2に示すように、各トーチ本体30aの内部空間は、対応する保護ガス供給管47(47a、47b)およびバルブ44(44a、44b)と、共通配管45と、を介して、不活性ガス供給源42と連通している。したがって、バルブ44が開放されると、対応するトーチ本体30aの内部空間に不活性ガス(例えば、アルゴンやヘリウム等)が供給され、放電時の放電電極31が保護される。
【0040】
作動ガス供給ノズル41は、上部ハウジング10の内側上端に設けられている。図2に示すように、作動ガス供給ノズル41は、作動ガス供給管46、バルブ43、および共通配管45を介して不活性ガス供給源42と連通している。したがって、バルブ43が開放されると、チャンバ3内に不活性ガスが吐出され、チャンバ3は不活性ガス雰囲気とされる。また、チャンバ3内で発生したアークプラズマは、作動ガス供給ノズル41からチャンバ3内に吐出された不活性ガスによって、射出口20aからチャンバ3の外方に押し出される。
【0041】
制御部90は、プログラムや変数等を格納するメモリ91と、メモリ91に格納されているプログラムに従った制御を実行するCPU92と、を有している。したがって、CPU92によってプログラムが実行されることにより、例えば、バルブ44(44a、44b)の開閉制御等が所定のタイミングで実行される。
【0042】
例えば、制御部90は、バルブ44を開閉して各放電電極31に供給される不活性ガスの流速を制御することにより、アークプラズマの密度を調整するように構成することできる。このため、被処理体に応じた密度の線状アークプラズマが容易に生成される。
【0043】
<2.各放電電極31と多相交流変換部との接続>
図3は、多相交流変換部52の構成の一例を示す図である。図4は、3相交流および12相交流の関係を示すベクトル図である。図5は、複数の放電電極31と、多相交流変換部52の出力端子S01〜S12との接続を説明するための図である。ここでは、まず多相交流変換部52について説明し、続いて、各放電電極31と多相交流変換部52の出力端子S01〜S12との接続について説明する。
【0044】
図3に示すように、多相交流変換部52は、例えば入力線54を介して3相交流電源51と接続されており、商用の3相交流(R相、S相、およびT相を有する)を変換して多相交流を出力する。図3に示すように、多相交流変換部52は、複数(本実施の形態では6個)の単相変圧器T1〜T6によって構成されている。
【0045】
単相変圧器T1〜T3の一次側(入力側)はスター結線されており、単相変圧器T4〜T6の一次側はデルタ結線されている。また、各単相変圧器T1〜T6の二次側の中性点N1〜N6は相互に接続されている。したがって、単相変圧器T1〜T6の二次側の出力端子S01〜S12からは、図4に示すように、位相が30度ずつ相違する正弦波交流が出力される。
【0046】
なお、同一の単相変圧器T1〜T6を使用して多相交流変換部52を構成する場合、デルタ結線の二次側出力は、スター結線の二次側出力の√3倍となる。したがって、スター結線された単相変圧器T1〜T3の巻線比をCR1、デルタ結線された単相変圧器T4〜T6の巻線比をR2とした場合、R1がR2の√3倍となるように各単相変圧器T1〜T6の巻線比を設定すると、各出力端子S01〜S12のそれぞれから出力される交流の振幅が略同一となる。
【0047】
次に、各放電電極31と多相交流変換部52との接続について、図5に示すように、多相交流変換部52の出力端子S01〜S12のうち、単相変圧器T1〜T3の出力端子S01、S03、S05、S07、S09、およびS11は、射出口20aの長手方向一方側21aに配置された放電電極31と接続されている。また、単相変圧器T4〜T6の出力端子S02、S04、S06、S08、S10、およびS12は、射出口20aの長手方向他方側21bに配置された放電電極31と接続されている。
【0048】
これにより、各放電電極31に対応する出力端子S01〜S12からの出力電圧が付与されると、各放電電極31は、対向位置に配設されており位相差が30度となる放電電極31との間、および並設されており位相差が60度となる放電電極31との間(すなわち、隣接する放電電極31との間)で良好に放電が生ずる。
【0049】
<3.射出口付近の構成>
図6は、射出口20a付近の構成の一例を示す正面断面図である。図7は、射出口20a付近の構成の一例を示す上面図である。図6および図7に示すように、チャンバ3の射出口縁部24は、射出口20aがアークプラズマの射出方向AR3に沿って先細り状となるように傾斜している。そのため、線幅が絞られた良好な線状アークプラズマをチャンバ内から射出することができ、線状アークプラズマの密度を向上させることができる。
【0050】
また、射出口縁部24には、アークプラズマの射出方向AR3に沿って伸びる複数のフィン部材61が設けられている。これにより、チャンバ3内で発生したアークプラズマは、射出口を通過するときに複数のフィン部材61によって整流される。そのため、線状アークプラズマの射出方向AR3をさらに均一にすることができる。このように、本実施の形態においてフィン部材61は、整流部材として使用される。
【0051】
また、図6に示すように、射出口20aの長手方向両側に設けられており、アークプラズマの射出方向AR3に突出するガイド部材25のそれぞれは、各単相変圧器T1〜T6の二次側のの中性点を相互に接続した中性線56と接続されている。これにより、各放電電極31間で発生したアークプラズマと、各ガイド部材25との間には電位差が生じ、アークプラズマには、チャンバ3外に引き出される力が働く。そのため、チャンバ3内から射出される線状アークプラズマの流速をさらに高めることができる。
【0052】
<4.本実施の形態のアークプラズマ発生装置の利点>
以上のように、本実施の形態のアークプラズマ発生装置1は、隣接する放電電極31間で放電させることにより、射出口20aに沿って伸びるアークプラズマを発生させることができる。また、作動ガス供給ノズル41からチャンバ3内に不活性ガスを吐出することにより、チャンバ3内で発生したアークプラズマを射出口20aからチャンバ3外に押し出すことができる。
【0053】
これにより、射出口20aの形状に倣って長手方向(略Y軸方向)に伸びる線状アークプラズマを、チャンバ3から射出することができる。そのため、アークプラズマ発生装置1を駆動機構(図示省略)によって副走査方向AR2に移動させることにより、線状アークプラズマを被処理体上で走査させることができ、被処理体の熱処理や溶融処理等を効率的に実行できる。このように、アークプラズマ発生装置1は、線状プラズマによる熱処理や溶融処理を実行する熱処理装置や溶融処理装置に使用することができる。
【0054】
また、本実施の形態のアークプラズマ発生装置1において、冷却管12、22に冷却水が流通させられることによってチャンバ3の上部ハウジング10および下部ハウジング20が冷却されると、チャンバ3内で発生したアークプラズマも冷却される。これにより、放電領域28(図5参照)周縁部のアークプラズマが冷却され、この周縁部で放電電流が流れにくくなる。その結果、放電領域28の中心部に放電電流が集中し、アークプラズマの線幅が絞られる。
【0055】
また、アークプラズマの線幅が絞られると、アークプラズマ自身によって形成される磁場(自己誘導磁場)がさらに増大する。その結果、磁場の増大によってさらにアークプラズマの線幅が絞られる。
【0056】
このように、アークプラズマが冷却されると、熱的ピンチ効果および磁気ピンチ効果によってアークプラズマの線幅が絞られる。そのため、さらに高温の線状アークプラズマを発生させることができる。
【0057】
<5.変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく様々な変形が可能である。
【0058】
(1)本実施の形態において、射出口20a付近には、アークプラズマを整流するフィン部材61が配設されているものとして説明したが、射出口20a付近に設けられる整流部材はこれに限定されない。
【0059】
図8は、射出口20a付近の構成の他の例を示す正面断面図である。図9および図10は、射出口20a付近の構成の他の例を示す上面図である。
【0060】
メッシュ部材62は、図9に示すように、チャンバ3に射出口20a付近に配設された格子状部材であり、射出口20aは、複数のセルに分割される。また、図8に示すように、メッシュ部材62は、射出口20aを覆うように設けられている。これにより、チャンバ3内で発生したアークプラズマは、メッシュ部材62を通過するときに整流される。そのため、メッシュ部材62は、フィン部材61と同様に、線状アークプラズマの射出方向AR3をさらに均一にすることができる。
【0061】
また、スリット部材63は、図10に示すように、開口の長手方向に沿って伸びる複数の仕切り部材によって形成されており、射出口20aは、細長い複数の隙間に分割される。また、図8に示すように、スリット部材63は、射出口20aを覆うように設けられている。これにより、チャンバ3内で発生したアークプラズマは、スリット部材63を通過するときに整流される。そのため、スリット部材63は、フィン部材61およびメッシュ部材62と同様に、線状アークプラズマの射出方向AR3をさらに均一にすることができる。
【0062】
(2)また、本実施の形態において、各放電トーチ30は、傾斜部23に沿って固定されており、対向する2つの放電トーチ30は、正面視略V字状となるように配置されているが、これに限定されるものでない。例えば、対向する放電トーチ30同士が同一平面内となるように配置されても良い。
【0063】
(3)また、本実施の形態において、1つの多相交流変換部52を使用しているがこれに限定されるものでない。例えば、2以上の多相交流変換部52を使用してもよい。これにより、使用可能な放電電極31が増加し、線状アークプラズマ8の長手方向の長さを増加させることができる。なお、2以上の多相交流変換部52を使用する場合、各多相交流変換部52の中性線を相互に接続する。
【0064】
(4)さらに、本実施の形態において、冷却管12、22は螺旋状の配管であり、両冷却管12、22は連通接続されているものとして説明したがこれに限定されるものでない。例えば、冷却管12、22は、連通接続していなくてもよい。また、冷却管12、22は、壁21内に設けられたリング状の配管であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施の形態におけるアークプラズマ発生装置の全体構成の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるアークプラズマ発生装置の全体構成の一例を示す正面断面図である。
【図3】多相交流変換部の構成の一例を示す図である。
【図4】3相交流および12相交流の関係を示すベクトル図である。
【図5】複数の放電電極と多相交流変換部の出力端子との接続を説明するための図である。
【図6】射出口付近の構成の一例を示す正面断面図である。
【図7】射出口付近の構成の一例を示す上面図である。
【図8】射出口付近の構成の他の例を示す正面断面図である。
【図9】射出口付近の構成の他の例を示す上面図である。
【図10】射出口付近の構成の他の例を示す上面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 アークプラズマ発生装置
3 チャンバ
8 線状アークプラズマ
10 上部ハウジング
11 壁
12、22 冷却管
20 下部ハウジング
20a 射出口
24 射出口縁部
25 ガイド部材
26 絶縁部材
27 取付部
28 放電領域
31 放電電極
31a 先端部
41 作動ガス供給ノズル
47(47a、47b) 保護ガス供給管
51 3相交流電源
52 多相交流変換部
56 中性線
61 フィン部材
62 メッシュ部材
63 スリット部材
90 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 略密閉空間とされるとともに、一方向に伸びる射出口を有するチャンバと、
(b) 前記チャンバ内に不活性ガスを吐出することにより、前記チャンバ内を不活性ガス雰囲気とする作動ガス供給ノズルと、
(c) 前記チャンバ内に設けられており、各先端部が前記射出口を挟んで対向するよう、前記射出口の長手方向両側に前記射出口に沿って並設された複数の放電電極と、
(d) 3相交流を変換して多相交流を出力するとともに、各放電電極に対応する出力電圧を付与することにより、隣接する放電電極間で放電を生じさせ、各放電電極間でアークプラズマを発生させる多相交流変換部と、
を備え、
前記チャンバ内で発生した前記アークプラズマは、前記作動ガス供給ノズルから前記チャンバ内に吐出された不活性ガスによって、前記射出口から前記チャンバ外に押し出されることを特徴とするアークプラズマ発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載のアークプラズマ発生装置において、
前記複数の放電電極は、各先端部が前記射出口を挟んで千鳥状に配置されていることを特徴とするアークプラズマ発生装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のアークプラズマ発生装置において、
前記チャンバの前記射出口を覆う整流部材、
をさらに備えることを特徴とするアークプラズマ発生装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のアークプラズマ発生装置において、
前記チャンバの射出口縁部は、前記射出口が前記アークプラズマの射出方向に沿って先細り状となるように傾斜していることを特徴とするアークプラズマ発生装置。
【請求項5】
請求項4に記載のアークプラズマ発生装置において、
前記射出口縁部に設けられており、前記アークプラズマの前記射出方向に沿って伸びる複数のフィン部材、
をさらに備えることを特徴とするアークプラズマ発生装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のアークプラズマ発生装置において、
前記射出口の長手方向両側に設けられており、前記アークプラズマの前記射出方向に突出するガイド部材、
をさらに備え、
前記多相交流変換部は、複数の変圧器によって構成されるとともに、各変圧器の出力側の中性点は中性線によって接続されており、
各ガイド部材は、金属によって形成され、絶縁部材を介して前記チャンバに取り付けられるとともに、前記中性線と接続されていることを特徴とするアークプラズマ発生装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のアークプラズマ発生装置において、
前記チャンバのハウジング壁内に設けられた冷却管、
をさらに備え、
前記冷却管内を冷却流体が流通することにより、前記チャンバ内が冷却されることを特徴とするアークプラズマ発生装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のアークプラズマ発生装置において、
各放電電極に供給される不活性ガスの流速を制御することにより、前記アークプラズマの密度を調整するように構成された制御部、
をさらに備えることを特徴とするアークプラズマ発生装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−158251(P2009−158251A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−334208(P2007−334208)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000134028)株式会社テックインテック (9)
【出願人】(592029256)福井県 (122)