説明

アーク溶接装置及びその故障検出方法

【課題】短絡故障の検出を容易に行い装置の良好な稼働を確保することができるアーク溶接装置を提供する。
【解決手段】アーク溶接処理の実行前に、母材5又は治具7と溶接ワイヤ17とを接触させて、溶接回路25に流れる電流を計測し、この計測電流IKを溶接回路25に対応して予め定められる判定用基準電流I0と比較して溶接回路25と治具制御回路12との短絡の有無を判定する。短絡故障が発生していると判定した場合、アーク溶接処理に移行しないようにする。このため、短絡故障の発生を把握できずに、そのままアーク溶接処理を実行した場合に起こり得る制御機器や電線の焼損の発生を確実に回避できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接装置及びその故障検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接装置において故障検出を行うように構成した装置の一例として、特許文献1に示されるアーク溶接装置がある。特許文献1に示されるアーク溶接装置は、入力端子に過電流遮断器を接続し、過電流遮断器の出力側に異常電圧を検出する異常電圧検出回路と、異常電圧検出回路からの信号を受けて動作する短絡回路と、アーク溶接装置の出力を制御する出力制御回路と、出力制御回路からの信号を受けて動作する出力制御素子と、を設けている。この装置では、異常電圧が侵入すると、異常電圧検出回路が働き、異常電圧検出回路からの信号を受けて短絡回路が働き過大電流が流れ、過電流遮断器がトリップし、異常電圧に対して弱い出力制御回路、出力制御素子を電気的に切り放して保護するようにしている。
また、アーク溶接装置では、母材を保持するために治具を用いることがある。そして、治具を用いたアーク溶接装置の一例として、図4に示すアーク溶接装置がある。
【特許文献1】特開平7−178549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、アーク溶接装置では、母材を保持するために治具を用いることがある。そして、治具を用いたアーク溶接装置では、アーク発生に用いられる溶接回路が、治具に近接して配置された制御回路に治具を通して短絡することがある。この治具を用いたアーク溶接装置及びその短絡故障について、図4ないし図6に基づいて説明する。
図4において、アーク溶接装置1は、溶接ロボット2を主要構成とする溶接機構3と、溶接電源4と、母材5を載置し、基台部6に移動可能とされた治具7と、治具7又はその近傍に配置された近接スイッチ、リミットスイッチ等からなるセンサ8と、を備えている。アーク溶接装置1は、さらに、治具制御盤10及びロボットコントローラ11を備えている。
治具制御盤10は、センサ8に制御回路(以下、治具制御回路12という。)を介して接続され、センサ8の検出信号及び後述するロボットコントローラ11からのコマンドにより治具7の駆動の制御を行う。
ロボットコントローラ11は、溶接電源4を介して又は直接に溶接機構3の駆動部(溶接ロボット2のモータなどの駆動部)を制御する。
治具7に母材5を載置した状態で治具7と母材5とは、電気的に導通されている。また、治具7とセンサ8とは電気的に絶縁されている。
【0004】
溶接ロボット2は、ワイヤ供給装置15を備え、ホース16を通して溶接ワイヤ17(溶加材。電極を兼ねる。)をトーチ18に送り込むようにしている。
アーク溶接装置1は、さらに、溶接電源4の正極とトーチ18との間に介在されてオペレータに読取り可能に設けられた電流計20と、溶接電源4の正極の出力側部分と負極の出力側部分との間に介在されてオペレータに読取り可能に設けられた電圧計22と、を備えている。
溶接電源4は、アーク発生確認リレー(WCR)23を備えている。アーク発生確認リレー23の接点信号は、ロボットコントローラ11及び溶接電源4を接続するハードI/O(多芯ケーブル)24に割付けられている。そして、アーク発生確認リレー23は、母材5、治具7、溶接ワイヤ17及び溶接電源4を含む溶接回路25に流れる電流が一定値以上の場合、オンし、この情報をロボットコントローラ11及び溶接電源4を接続するハードI/O(多芯ケーブル)24を介してロボットコントローラ11に送り、これによりロボットコントローラ11が、溶接回路25に一定値以上の電流が流れていることを把握できるようにしている。
治具制御盤10は、DC24Vの電源を備え、治具制御回路12に対し印加するようにしている。また、溶接電源4は、端子電圧がDC90Vに設定されている。
【0005】
このアーク溶接装置1では、正常に作動している場合は、溶接回路25には、図5に示す矢印Y1に示すように、溶接電流が流れる。
しかし、何等かの要因により、溶接回路25の一部が治具制御回路12に短絡すると、溶接電流の一部が、図6に矢印Y2で示すように、治具制御回路12に流れ込み、制御機器の故障や電線の焼損を招くことが起こり、ひいては装置全体の稼働停止に至ることも起こり得た。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、短絡故障の検出を容易に行い装置の良好な稼働を確保することができるアーク溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載に係る発明は、母材を保持する治具又は該治具の近傍に、該治具に係る治具制御回路の一部が配置され、溶接機構がコントローラに制御されることにより、前記母材及びワイヤに対する溶接電源の電圧印加によるアーク溶接処理が行われるアーク溶接装置であって、前記コントローラは、前記アーク溶接処理を行う前に、前記母材又は前記治具と前記ワイヤとを接触させて、前記母材、前記治具、前記ワイヤ及び前記溶接電源を含む溶接回路に流れる電流を計測するアーク溶接処理前電流計測手段と、該アーク溶接処理前電流計測手段が得た計測電流を前記溶接回路に対応して予め定められる基準電流と比較して前記溶接回路と前記治具制御回路との短絡の有無を判定する短絡有無判定手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、母材を保持する治具又は該治具の近傍に、該治具に係る治具制御回路の一部が配置され、溶接機構がコントローラに制御されることにより、前記母材及びワイヤに対する溶接電源の電圧印加によるアーク溶接処理が行われるアーク溶接装置に用いられる故障検出方法であって、前記アーク溶接処理を行う前に、前記母材又は前記治具と前記ワイヤとを接触させて、前記母材、前記治具、前記ワイヤ及び前記溶接電源を含む溶接回路に流れる電流を計測するアーク溶接処理前電流計測工程と、該アーク溶接処理前電流計測工程で得られた計測電流を前記溶接回路に対応して予め定められる基準電流と比較して前記溶接回路と前記治具制御回路との短絡の有無を判定する短絡有無判定工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1、2記載の発明によれば、アーク溶接処理の実行前に、母材又は治具とワイヤとを接触させて、溶接回路に流れる電流を計測し、この計測電流を溶接回路に対応して予め定められる判定用基準電流と比較して溶接回路と治具制御回路との短絡の有無を判定する。短絡故障が発生していると判定した場合、アーク溶接処理に移行しないようにし、これにより、短絡故障の発生を把握できずに、そのままアーク溶接処理を実行した場合に起こり得る制御機器や電線の焼損の発生を確実に回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施の形態に係るアーク溶接装置1Aを図1ないし図3に基づいて説明する。なお、図4ないし図6に示す部材と同等の部材については、同一の符号を付し、その説明は、適宜、省略する。
この実施の形態のアーク溶接装置1Aは、図4のアーク溶接装置1に比して、以下の(1)〜(4)が主に異なっている。
(1)図4のロボットコントローラ11に代えて、図1に示すようにロボットコントローラ11Aを設けたこと。
(2)図4の溶接電源4に代えてデジタル電源からなる溶接電源(以下、図4の溶接電源4と区別するために、便宜上、デジタル溶接電源4Aという。)を採用したこと。
(3)図4のロボットコントローラ11と図4のアーク溶接装置1とを接続するハードI/O(多芯ケーブル)24に代えてDevice Netケーブル(デバイスネットケーブル)27を用いたこと。
(4)溶接回路25と治具制御回路12との短絡故障を検出する方法(後述する)を採用したこと。
【0010】
デジタル溶接電源4Aは、PWM制御などを用いて入力電圧の大きさをロボットコントローラ11Aの指示に応じて調整して出力するようになっている。アーク溶接処理を行う場合は、出力電圧をDC90Vとし、ロボットコントローラ11Aから短絡確認指令のコマンドの入力を受けると、出力電圧をDC24Vに設定するようにしている。デジタル溶接電源4Aは、正極、負極の近傍には、電流計31及び電圧計32が備えられており、溶接回路25を流れる電流及び前記正極、負極間の電圧を検出し、検出値をロボットコントローラ11Aに出力するようにしている。
【0011】
ロボットコントローラ11Aは、アーク溶接処理前電流計測手段35と、短絡有無判定手段36と、判定用基準電流I0を格納する記憶部37と、を備えている。ロボットコントローラ11Aには、報知手段40が設けられている。
判定用基準電流I0は、溶接回路25及び治具制御回路12が故障していない状態で、デジタル溶接電源4Aの出力電圧をDC24Vに設定して、計測して求められた値、又はシミュレーションで求められた値が採用され、記憶部37に格納されている。
【0012】
アーク溶接処理前電流計測手段35は、本アーク溶接装置1Aによるアーク溶接処理の実行前に、母材5と溶接ワイヤ17とを接触させて、溶接回路25(母材5、治具7、溶接ワイヤ17及びデジタル溶接電源4Aを含む)に流れる電流を計測する。本実施の形態では、デジタル溶接電源4Aの電流計が検出した電流についてDevice Netケーブル27を介して受信することにより計測電流を得ている。この計測電流、即ちアーク溶接処理前電流計測手段35が計測により得た溶接回路25を流れる電流を計測電流IKという。
【0013】
短絡有無判定手段36は、アーク溶接処理前電流計測手段35が得た計測電流IKと、記憶部37に格納されている判定用基準電流I0(正常値)と、を比較して溶接回路25と治具制御回路12との短絡の有無を判定する。本実施の形態では、計測電流IK=判定用基準電流I0の場合、短絡故障は無く、計測電流IK<判定用基準電流I0の場合、短絡故障が発生していると判定する。すなわち、短絡故障が発生している場合は、治具制御回路12に溶接回路25の電流の一部が漏れ、これにより、計測電流IKの値が小さくなる。このことを利用して、上述したように、計測電流IK<判定用基準電流I0の場合、短絡故障が発生していると判定する。
【0014】
上述したように構成したアーク溶接装置1Aの作用について、図2及び図3に基づいて説明する。
図3に示すように、まず、ロボットコントローラ11Aの作動により溶接ロボット2をアークオン(アークON)位置に移動させ、図2に示すように、母材5及び溶接ワイヤ17を接触させる(ステップS1)。
ロボットコントローラ11Aが短絡確認指令を出力する(ステップS2)。
続いて、デジタル溶接電源4Aの出力電圧を24Vに設定して、トーチ18及び母材5間にその電圧を印加する(ステップS3)。
本実施の形態では、ステップS1〜S3がアーク溶接処理前電流計測工程を構成している。
【0015】
デジタル溶接電源4Aの電流計31が、溶接回路25の電流を検出し、この検出内容が計測電流IKとしてロボットコントローラ11Aに入力されて、判定用基準電流I0と比較される(ステップS4)。
本実施の形態では、ステップS4が短絡有無判定工程を構成している。
ステップS4の比較で、計測電流IK=判定用基準電流I0とされると、ステップS5に進んで、短絡故障は発生しておらず、本アーク溶接装置1Aは正常であると判断し、アーク溶接処理を実行する。
また、ステップS4の比較で、計測電流IKが判定用基準電流I0より小さい(計測電流IK<判定用基準電流I0)とされると、溶接回路25の電流が治具制御回路12に漏れている、即ち短絡故障が発生していると判断し(ステップS6)、アーク溶接処理への移行を停止し得るように、報知手段40を作動させオペレータにこの旨を報知する(ステップS7)。
【0016】
上述したように、アーク溶接処理の実行前に、母材5又は治具7と溶接ワイヤ17とを接触させて、溶接回路25に流れる電流を計測し、この計測電流IKを溶接回路25に対応して予め定められる判定用基準電流I0と比較して溶接回路25と治具制御回路12との短絡故障の有無を判定し、短絡故障が発生していると判定した場合、アーク溶接処理に移行しないようにしている。このため、短絡故障の発生を把握できずに、そのままアーク溶接処理を実行した場合に起こり得る制御機器や電線の焼損の発生を確実に回避できる。
上述した図4に示す従来技術では、電流計20を備えているものの、その電流計20はオペレータが把握するだけのものであり、ロボットコントローラ11は、故障検出を行う上でその電流計を用いることができなかった。これに比して、本実施の形態ではデジタル溶接電源4Aを備え、デジタル溶接電源4Aに設けられる電流計31が溶接回路25を流れる電流を検出してこの電流をロボットコントローラ11Aに入力している。そして、ロボットコントローラ11Aは、フィードバックされた電流(溶接回路25を流れる電流)を利用して、故障検出を行えるものになっている。
【0017】
なお、上記実施の形態では、短絡故障の検出の際に、デジタル溶接電源4Aの出力電圧を24Vに設定する場合を例にしたが、本発明はこれに限られず、アークを発生しなければ、他の電圧に設定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態に係るアーク溶接装置を模式的に示す図である。
【図2】図1のアーク溶接装置の短絡発生時の様子を模式的に示す図である。
【図3】図1のアーク溶接装置の短絡検出方法を示すフローチャートである。
【図4】従来のアーク溶接装置の一例を模式的に示す図である。
【図5】図4のアーク溶接装置が短絡故障していない場合を模式的に示す図である。
【図6】図4のアーク溶接装置が短絡故障している場合を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0019】
1A…アーク溶接装置、11A…ロボットコントローラ、35…アーク溶接処理前電流計測手段、36…短絡有無判定手段、37…記憶部。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材を保持する治具又は該治具の近傍に、該治具に係る治具制御回路の一部が配置され、溶接機構がコントローラに制御されることにより、前記母材及びワイヤに対する溶接電源の電圧印加によるアーク溶接処理が行われるアーク溶接装置であって、
前記コントローラは、前記アーク溶接処理を行う前に、前記母材又は前記治具と前記ワイヤとを接触させて、前記母材、前記治具、前記ワイヤ及び前記溶接電源を含む溶接回路に流れる電流を計測するアーク溶接処理前電流計測手段と、該アーク溶接処理前電流計測手段が得た計測電流を前記溶接回路に対応して予め定められる基準電流と比較して前記溶接回路と前記治具制御回路との短絡の有無を判定する短絡有無判定手段と、を備えることを特徴とするアーク溶接装置。
【請求項2】
母材を保持する治具又は該治具の近傍に、該治具に係る治具制御回路の一部が配置され、溶接機構がコントローラに制御されることにより、前記母材及びワイヤに対する溶接電源の電圧印加によるアーク溶接処理が行われるアーク溶接装置に用いられる故障検出方法であって、
前記アーク溶接処理を行う前に、前記母材又は前記治具と前記ワイヤとを接触させて、前記母材、前記治具、前記ワイヤ及び前記溶接電源を含む溶接回路に流れる電流を計測するアーク溶接処理前電流計測工程と、該アーク溶接処理前電流計測工程で得られた計測電流を前記溶接回路に対応して予め定められる基準電流と比較して前記溶接回路と前記治具制御回路との短絡の有無を判定する短絡有無判定工程と、を備えることを特徴とするアーク溶接装置の故障検出方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−275941(P2007−275941A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106569(P2006−106569)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】