説明

アーク狭窄シールドノズル

【課題】 アークのエネルギー密度を高められると共に、アルゴンガス等のシールドガスによる溶接部のシールド効果の向上を図る。
【解決手段】 極薄金属板Wの突合せ部へシールドノズル7からシールドガスGを流し、シールドガスGの雰囲気中でタングステン電極棒5と極薄金属板Wとの間にアークAを発生させ、そのアークAの熱で極薄金属板Wの突合せ部を溶融接合するようにしたGTA溶接のGTA溶接用トーチTに取り付けられるアーク狭窄シールドノズル1であって、前記アーク狭窄シールドノズル1は、シールドノズル7の先端部に取り付けられ、シールドノズル7よりも小径に形成されて発生したアークAの周囲にシールドガスGを集中的に流す先窄まり状の筒状のアーク狭窄ノズル2と、アーク狭窄ノズル2に取り付けられ、溶接直後の溶接ビード部分にアフターシールドガスG′を流して溶接ビード部分をシールドするアフターシールドノズル3とから成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に厚みが0.05mm〜0.2mm程度のステンレス鋼板や電磁鋼板等の極薄金属板の端部同士を突合せ溶接するGTA溶接法(TIG溶接法)に用いるGTA溶接用トーチ(TIG溶接用トーチ)に使用されるものであり、GTA溶接用トーチの先端部に取り付けられてアークのエネルギー密度を高められると共に、アルゴンガス等のシールドガスによる溶接部のシールド効果の向上を図れるようにしたアーク狭窄シールドノズルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、厚みの薄い金属板を突合せ溶接する溶接法としては、例えば特開平11−347792号公報、特開2001−47281号公報及び特開2002−336964号公報等に開示されたTIG溶接用トーチを用いるTIG溶接法や、特開平3−42185号公報及び特開2005−111539号公報等に開示されたプラズマ溶接用トーチを用いるプラズマ溶接法が一般的に知られている。
【0003】
図8はTIG溶接法に用いる従来のTIG溶接用トーチの一例を示し、当該TIG溶接用トーチは、絶縁材製のトーチボディ(図示省略)内にタングステン電極棒20を保持固定する銅製のコレット21を着脱自在に挿着すると共に、トーチボディの先端にアルゴンガス等のシールドガスGを放出するセラミック製のシールドノズル22を取り付けた構造になっており、タングステン電極棒20がその先端をシールドノズル22から数mm突出させた状態でコレット21に保持固定されている。
【0004】
而して、前記TIG溶接用トーチを用いたTIG溶接法は、金属板Mの端部同士を銅製のバックバー23上で突き合わせ、所定の間隔をもって対向せしめた左右の銅製のクランプ24によって前記金属板Mの突合せ部の近傍部分を上方よりバックバー23上に押圧固定した後、シールドノズル22からアルゴンガス等のシールドガスGを金属板Mの突合せ部へ向って流し、シールドガスGの雰囲気中でタングステン電極棒20と金属板Mとの間にアークAを発生させ、そのアークAの熱で金属板Mの突合せ部を溶融させて接合するようにした溶接法である。
【0005】
又、図9はプラズマ溶接法に用いる従来のプラズマ溶接用トーチの一例を示し、当該プラズマ溶接用トーチは、タングステン電極棒20の先端部の外側に水冷式の銅製のインサートチップノズル25を配設すると共に、インサートチップノズル25の外側にシールドノズル26を配設した二重ノズル構造になっており、インサートチップノズル25内がアルゴンガス等のプラズマ用ガスGa(動作ガス)を流通させるプラズマ用ガス通路27になっていると共に、インサートチップノズル25とシールドノズル26との間がアルゴンガス等のシールドガスGを流通させるシールドガス通路28となっている。
【0006】
而して、前記プラズマ溶接用トーチを用いたプラズマ溶接法は、金属板Mの端部同士を銅製のバックバー23上で突き合わせ、所定の間隔をもって対向せしめた左右の銅製のクランプ24によって前記金属板Mの突合せ部の近傍部分を上方よりバックバー23上に押圧固定した後、タングステン電極棒20と金属板M(又はインサートチップノズル25)との間にアークを飛ばし、このアークの中にアルゴンガス等のプラズマ用ガスGaを流してプラズマアークA′を発生させ、このプラズマアークA′を水冷式のインサートチップノズル25のノズル孔25aで絞ることによりサーマルピンチ効果を与えてエネルギー密度を高めたプラズマアークA′として金属板Mに到達させ、エネルギー密度の高いプラズマアークA′の熱で金属板Mの突合せ部を溶融させて接合すると共に、インサートチップノズル25とシールドノズル26との間に形成したシールドガス通路28から溶接部(溶融池)へアルゴンガス等のシールドガスGを流して溶接部を大気からシールドするようにした溶接法である。
【0007】
ところで、厚みが0.2mm以下の極薄金属板の端部同士を突合せ溶接する際には、極薄金属板の突合せ部の近傍部分をバックバー23上へ押圧固定する左右のクランプ24の幅を0.5mm〜1.0mmと極力狭くし、溶接時にアークAの熱で生じる熱歪を最小限に食い止める必要がある。
又、溶接時に発生するアークAのエネルギー密度を高めて安定したアークAを形成し、且つ溶融池の酸化を防止するためにアルゴンガス等のシールドガスGによるシールド効果を高める必要がある。
【0008】
上述したTIG溶接法に於いては、極薄金属板の端部同士を突合せ溶接する際に左右のクランプ24の幅を狭くしてもタングステン電極棒20が細いため、アークA長が0.3mm〜0.5mmになるようにタングステン電極棒20の先端を極薄金属板に接近させることができる。
しかし、TIG溶接法に用いるTIG溶接用トーチでは、図8に示すように比較的内径の大きいシールドノズル22の先端からアルゴンガス等のシールドガスGを拡散放出するだけであるため、アークA周辺のシールドガスGの濃度が低下し、エネルギー密度の高いアークAが得られず、不安定なアークAになると云う問題があった。特に、表面にセラミック被膜や絶縁被膜等を形成した電磁鋼板を突合せ溶接する際には、セラミック被膜や絶縁被膜等によってアークAがより不安定になり、突合せ溶接を安定して行えないと云う問題があった。
又、TIG溶接用トーチでは、シールドノズル22の先端からアルゴンガス等のシールドガスGを拡散放出するだけであるため、シールドガスGにより溶融池への空気の進入を完全に遮断し難く、溶接の仕上がり状態が悪化する等の問題を生じることがあった。
【0009】
一方、プラズマ溶接法に於いては、図9に示すように水冷式のインサートチップノズル25のノズル孔25aからプラズマガスが噴出するので、サーマルピンチ効果によりプラズマアークA′が絞られ、TIG溶接よりもエネルギー密度の高いプラズマアークA′が得られる。
しかし、プラズマ溶接法に用いるプラズマ溶接用トーチでは、極薄金属板の端部同士を突合せ溶接する際にインサートチップノズル25とシールドノズル26との間に形成したシールドガス通路28が溶融池から離れるため、アルゴンガス等のシールドガスGによる溶融池のシールド効果が低下し、溶融池への空気の進入を遮断し難くなり、ピンホールやブローホール等の溶接欠陥を生じ易いと云う問題があった。
【特許文献1】特開平11−347792号公報
【特許文献2】特開2001−47281号公報
【特許文献3】特開2002−336964号公報
【特許文献4】特開平3−42185号公報
【特許文献5】特開2005−111539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような問題点に鑑みて為されたものであり、その目的は、アークのエネルギー密度を高められると共に、アルゴンガス等のシールドガスによる溶接部のシールド効果の向上を図れるようにしたアーク狭窄シールドノズルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1の発明は、対向せしめたクランプによりバックバー上に押圧固定された極薄金属板の突合せ部へ向って筒状のシールドノズルからシールドガスを流し、シールドガスの雰囲気中でシールドノズルの中心位置に配設したタングステン電極棒と極薄金属板との間にアークを発生させ、そのアークの熱で極薄金属板の突合せ部を溶融させて接合するようにしたGTA溶接のGTA溶接用トーチに取り付けられるアーク狭窄シールドノズルであって、前記アーク狭窄シールドノズルは、シールドノズルの先端部に同心状に取り付けられ、シールドノズルよりも小径に形成されて発生したアークの周囲にシールドガスを集中的に流す先窄まり状の筒状のアーク狭窄ノズルと、アーク狭窄ノズルに取り付けられ、溶接直後の溶接ビード部分にアフターシールドガスを流して余熱のある溶接ビード部分をシールドするアフターシールドノズルとから構成したことに特徴がある。
【0012】
本発明の請求項2の発明は、GTA溶接用トーチのシールドノズルの先端部にアーク狭窄ノズルを着脱自在に取り付けると共に、当該アーク狭窄ノズルにアフターシールドノズルを着脱自在に取り付けたことに特徴がある。
【0013】
本発明の請求項3の発明は、アフターシールドノズルが、極薄金属板の溶接直後の溶接ビード部分にアフターシールドガスを流す下面が開放された細長いボックス部を備えており、ボックス部の内部に極薄金属板の溶接ビード部分に吹き付けられるアフターシールドガスを均質拡散させて層流化する金属製フィルターを装着したことに特徴がある。
【発明の効果】
【0014】
本発明の請求項1のアーク狭窄シールドノズルは、GTA溶接用トーチのシールドノズルの先端部に同心状に取り付けられ、シールドノズルよりも小径に形成された先窄まり状の筒状のアーク狭窄ノズルと、アーク狭窄ノズルに取り付けられ、アフターシールドガスを流すアフターシールドノズルとから成り、先窄まり状のアーク狭窄ノズルの先端からアークの周囲へシールドガスを集中的に流すと共に、アフターシールドノズルから溶接直後の溶接ビード部分にアフターシールドガスを流して余熱のある溶接ビード部分をシールドするようにしている。その結果、本発明の請求項1のアーク狭窄シールドノズルは、次のような優れた効果を奏することができる。
(1)即ち、本発明の請求項1のアーク狭窄シールドノズルは、先窄まり状のアーク狭窄ノズルの先端からアークの周囲にシールドガスを集中的に流すようにしているため、アーク周辺のシールドガスの濃度が高められ、発生したアークがシールドガスによるサーマルピンチ効果により絞られてエネルギー密度の高い安定したアークとなると共に、溶融池周辺のシールド効果も高められて溶融池への空気の進入を確実に遮断することができる。その結果、板厚が0.05mm〜0.2mmの極薄金属板の突合せ溶接を安定して行える。特に、表面にセラミック被膜や絶縁被膜等が形成された電磁鋼板を突合せ溶接する場合であっても、エネルギー密度の高い安定したアークによってセラミック被膜や絶縁被膜等を焼き切ることができるため、電磁鋼板の突合せ溶接を安定して行うことができる。
(2)本発明の請求項1のアーク狭窄シールドノズルは、先窄まり状のアーク狭窄ノズルによりアークのエネルギー密度を高められるため、ビード幅が狭くて深い溶け込みの高品質の安定した溶接を行える。
(3)本発明の請求項1のアーク狭窄シールドノズルは、エネルギー密度の高い安定したアークが得られるため、従来のTIG溶接の溶接速度(600mm/min〜1200mm/min)に比較して溶接速度を速くすることができ、溶接速度が2000mm/min〜6000mm/minの高速溶接を行える。
(4)本発明の請求項1のアーク狭窄シールドノズルは、タングステン電極棒の周囲のシールドガス(アルゴンガス等の不活性ガス)の濃度が高くなるため、タングステン電極棒の寿命が従来のTIG溶接の場合に比較して5倍以上長くなり、タングステン電極棒の長命化を図れる。
(5)本発明の請求項1のアーク狭窄シールドノズルは、先窄まり状のアーク狭窄ノズルによりシールドガスを絞って放出しているため、シールドガスの使用量が従来のTIG溶接に使用するシールドガスの使用量の1/2〜1/5以下で良く、シールドガスの使用量が少なくなってコスト低減を図れる。
(6)本発明の請求項1のアーク狭窄シールドノズルは、ビード幅が狭い突合せ溶接を行えるため、極薄金属板の熱の影響を受ける部分も狭くなり、溶接部の強度の向上を図れる。
(7)本発明の請求項1のアーク狭窄シールドノズルは、アーク狭窄ノズルに取り付けたアフターシールドノズルから溶接直後の溶接ビード部分にアフターシールドガスを流して余熱のある溶接ビード部分をシールドするようにしているため、溶接部の酸化を防止することができる。
【0015】
本発明の請求項2及び請求項3のアーク狭窄シールドノズルは、上記効果に加えて更に次のような効果を奏することができる。
即ち、本発明の請求項2のアーク狭窄シールドノズルは、GTA溶接用トーチのシールドノズルの先端部にアーク狭窄ノズルを着脱自在に取り付けると共に、当該アーク狭窄ノズルにアフターシールドノズルを着脱自在に取り付ける構成としているため、既存のTIG溶接用トーチにもアーク狭窄シールドノズルを取り付けることができ、既存のTIG溶接用トーチであっても、高速で高品質の突合せ溶接を行える。
又、本発明の請求項2のアーク狭窄シールドノズルは、アーク狭窄ノズルとアフターシールドノズルの二つの部品から成り、アーク狭窄ノズルとアフターシールドノズルを着脱自在としているため、例えば、アーク狭窄ノズルのみが焼損した場合、アーク狭窄ノズルのみを新しいアーク狭窄ノズルに交換するだけで良い。その結果、一部分が焼損した場合でも、全体を交換する必要がなく、全体を交換する場合に比較してコスト低減を図れる。
【0016】
本発明の請求項3のアーク狭窄シールドノズルは、アフターシールドノズルが極薄金属板の溶接ビード部分にシールドガスを流す下面が開放された細長いボックス部を備え、当該ボックス部の内部に極薄金属板の溶接ビード部分に吹き付けられるアフターシールドガスを均質拡散させて層流化する金属製フィルターを装着する構成としているため、溶接ビード部分をより確実且つ良好にシールドすることができる。
又、本発明の請求項3のアーク狭窄シールドノズルは、長さの異なるアフターシールドノズルを複数個用意しておけば、溶接速度が変化した場合には、溶接速度に応じた長さのアフターシールドノズルと交換することによって、溶接ビード部分のシールドを確実且つ良好に行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1及び図2は本発明の実施の形態に係るアーク狭窄シールドノズル1を取り付けたGTA溶接用トーチTを示し、当該GTA溶接用トーチTは、主にステンレス鋼板や電磁鋼板等の極薄金属板Wの端部同士を突合せ溶接するGTA溶接法(ガスタングステンアーク溶接法:非消耗性のタングステン電極棒5と母材の間にアークAを発生させ、アルゴンガス等の不活性ガスにより溶融金属を空気から遮断し、母材を溶融接合するアーク溶接法)に用いるものであり、角筒状に形成された絶縁材製のトーチボディ4と、トーチボディ4の内方へ上方側から着脱自在にねじ込み挿着され、タングステン電極棒5を着脱自在に保持する上下動自在な銅製の電極コレット(図示省略)と、電極コレットの上端部に取り付けられ、電極コレットを正逆回転させてトーチボディ4に対して上下動させるコレットハンドル6と、トーチボディ4の下端部にタングステン電極棒5を囲繞する状態で着脱自在に取り付けられ、トーチボディ4の内部を通して流入して来たアルゴンガス等のシールドガスGを流す下端部(先端部)が少し絞られた筒状のセラミック製のシールドノズル7等から構成されている。
このGTA溶接用トーチTを構成する各部材(トーチボディ4、電極コレット、コレットハンドル6及びシールドノズル7等)は、従来公知ものと同様構造に構成されているため、ここではその詳細な説明を省略する。
【0018】
尚、図1に於いて、4aはトーチボディ4の上端部外周面に形成され、電極コレットの昇降量を示すネジ目盛、6aはコレットハンドル6の下端部外周面に形成され、コレットハンドル6の回転量を示すネジ目盛、8はトーチボディ4に設けられ、電極コレットに適宜の回動抵抗を与えて電極コレットを調整位置に保持する加圧調整ネジ、9はトーチボディ4に固定ネジ10により固定された電極・メインガス管接続金具、11は電極・メインガス管接続金具9に接続されたパワーケーブル、12は電極・メインガス管接続金具9に接続されたメインガス供給管である。
【0019】
又、タングステン電極棒5には、従来公知の純タングステン電極棒やトリウム入りタングステン電極棒、ランタン入りタングステン電極棒、セリウム入りタングステン電極棒等が使用されており、その先端は溶接する母材の材質、板厚、継手形状及び溶接条件等に応じて適宜の形状(例えば、シャープな円錐形状、裁頭円錐形状或いは表面が鏡面に研磨された半球形状等)に形成されている。
この実施の形態に於いては、タングステン電極棒5には、例えば直径が1.6mmのランタン入りタングステン電極棒が使用されており、その先端はアークAが集中するようにシャープな円錐状(先端の角度が20°に設定された円錐状)に形成されている。このランタン入りタングステン電極棒は、各種電極棒の中でも長寿命化を図れる電極棒である。
【0020】
そして、本発明の実施の形態に係るアーク狭窄シールドノズル1は、図1に示す如く、GTA溶接用トーチTのシールドノズル7の先端部に同心状で且つ着脱自在に取り付けられ、シールドノズル7よりも小径に形成された先窄まり状の筒状のアーク狭窄ノズル2と、アーク狭窄ノズル2に着脱自在に取り付けられたアフターシールドノズル3とから構成されており、先窄まり状のアーク狭窄ノズル2の先端からタングステン電極棒5の先端部周囲及びアークAの周囲へシールドガスGを流して溶融池をシールすると共に、アフターシールドノズル3から溶接直後の溶接ビード部分にアフターシールドガスG′を流して余熱のある溶接ビード部分をシールドするようにしたものである。
【0021】
具体的には、前記アーク狭窄ノズル2は、電導性及び強度性等に優れた銅材(ベリリウム銅)により筒状に形成されており、図6及び図7に示す如く、シールドノズル7の先端部の内径よりも大径に形成され、シールドノズル7の先端部内面に内方側から着脱自在に係止される上方が拡がったラッパ状の係止部2aと、係止部2aの下端に連設され、外周面に雄ネジ2dを形成した筒部2bと、筒部2bの下端に連設され、シールドノズル7の先端から外方へ突出してシールドノズル7の先端部の内径よりも小径に形成された先窄まり状の筒状のテーパ部2cとから成る。
このアーク狭窄ノズル2は、トーチボディ4の下端部から取り外したシールドノズル7の内方へテーパ部2cから挿入し、ラッパ状の係止部2aをシールドノズル7の先端部内面へ係止させることによって、シールドノズル7の先端部に取り付けられており、アーク狭窄ノズル2を挿着したシールドノズル7をトーチボディ4の下端部に取り付けたときには、筒部2bの一部分及びテーパ部2cがシールドノズル7の下端から外方へ突出すると共に、タングステン電極棒5の円錐状の先端がテーパ部2cの先端に形成したノズル孔2eから外方へ1.2mm〜2.0mm程度突出するようなっている。
【0022】
尚、この実施の形態に於いては、アーク狭窄ノズル2の全長は11mmに、係止部2aの外径は10mmに、筒部2bの外径は8mmに、筒部2bの内径は4mmに、テーパ部2cの先端の外径は3mmに、テーパ部2cのノズル孔2eの内径は2.0mm〜2.6mmに夫々設定されている。
【0023】
一方、前記アフターシールドノズル3は、アルミ合金材に形成されており、図3乃至図7に示す如く、下面が開放された細長いボックス状に形成された横長水平姿勢のボックス部3aと、ボックス部3aの先端に連設され、アーク狭窄ノズル2の筒部2bの外周面に形成した雄ネジ2dに着脱自在に螺着される雌ネジ3cを形成した板状の取付け部3bとから成る。
又、アフターシールドノズル3のボックス部3aの天井部分には、ボックス部3a内へアルゴンガス等のアフターシールドガスG′を供給するアフターシールドガス供給管13が継手14を介して接続されていると共に、ボックス部3aと取付け部3bの境界部分には、ボックス部3a内へ供給されたアフターシールドガスG′の一部分をアーク狭窄ノズル2側へ流すための傾斜状のガス通路3dが形成されている。
更に、アフターシールドノズル3のボックス部3a内には、アフターシールドガス供給管13及び継手14によりボックス部3a内に供給されたアフターシールドガスG′を均質拡散させて層流化してから極薄金属板Wの溶接ビード部分に吹き付けるための金属製フィルター15が積層状態で装着されている。この金属製フィルター15には、金網フィルターを積層したものが使用されている。
そして、アフターシールドノズル3は、その取付け部3bに形成した雌ネジ3cをアーク狭窄ノズル2の筒部2bに形成した雄ネジ2dに螺着することによって、アーク狭窄ノズル2に取り付けられており、アーク狭窄ノズル2をGTA溶接用トーチTのシールドノズル7に取り付けたときには、横長水平姿勢のボックス部3aが極薄金属板Wの突合せ部の上方に位置して突合せ部と平行になるようになっている。
【0024】
次に、上述したアーク狭窄シールドノズル1を取り付けたGTA溶接用トーチTを用いて極薄金属板Wの端部同士を突合せ溶接により接合する場合について説明する。
【0025】
尚、極薄金属板Wには、厚みが0.05mm〜0.2mm程度のステンレス鋼板や電磁鋼板等が使用されており、この実施の形態では、厚みが0.2mmのステンレス鋼板等の極薄金属板Wが使用されている。又、溶接電流、アークAの長さ、溶接速度、シールドガスG及びアフターシールドガスG′の供給量、タングステン電極棒5の先端形状等の溶接条件は、極薄金属板Wの材質、板厚等に応じて最適の条件下に設定されていることは勿論である。
【0026】
先ず、GTA溶接用トーチTのシールドノズル7にアーク狭窄シールドノズル1を取り付けると共に、タングステン電極棒5を保持固定した電極コレットをトーチボディ4内に挿着し、タングステン電極棒5の円錐状の先端がアーク狭窄ノズル2の先端から突出した状態になるようにタングステン電極棒5の突出長さを設定する。この実施の形態では、タングステン電極棒5の先端は、アーク狭窄ノズル2の先端から1.2mm突出した状態となっている。
【0027】
尚、GTA溶接用トーチTは、水平方向へ往復移動自在に配設されたトーチ用走行台(図示省略)に昇降自在に支持されており、サーボモータ等から成るトーチ上下動駆動装置(図示省略)により作業用テーブル(図示省略)の上面に載せた極薄金属板Wに対して高さ調整されるようになっている。
【0028】
次に、極薄金属板Wの端部同士を作業用テーブルの上面側に配設した銅製のバックバー16上で突き合わせると共に、作業用テーブルの上方位置に所定の間隔をもって対向せしめた左右の銅製のクランプ17により極薄金属板Wの突合せ部近傍部分を上方からバックバー16上に押圧固定する。
【0029】
尚、バックバー16は、極薄金属板Wを突合せ溶接する際に余分な熱を吸収してビードの溶け落ちや穴あき等を防止すると共に、極薄金属板Wの突合せ部の裏側にアルゴンガス等のシールドガスGを流して溶接部の酸化を防止するものである。このバックバー16は、左右に二分割されており、左右に分割されたバックバー16間にシールドガスGが流れるスリット状のガス通路16aが形成されている。この実施の形態では、ガス通路16aの間隔は、1.0mmに設定されている。
又、左右のクランプ17は、主にアークAの拡がりを遮断して極薄金属板Wの突合せ部にアークエネルギーを集中的に与えるためのものであり、作業用テーブルの上方位置に昇降自在に配設されている。この左右のクランプ17間の間隔は、突合せ溶接する金属板の厚みに応じて調整されており、この実施の形態では、1.0mmに設定されている。
更に、極薄金属板Wの端部同士は、バックバー16のガス通路16a上で突き合わされ、左右のクランプ17とバックバー16とにより挾持固定されている。
【0030】
極薄金属板Wの突合せ部近傍部分を左右のクランプ17によりバックバー16上に押圧固定したら、GTA溶接用トーチTを極薄金属板Wの突合せ部の一端部上方位置に位置させると共に、GTA溶接用トーチTに保持されたタングステン電極棒5の先端と極薄金属板Wの距離を設定値に調整する。例えば、厚さが0.2mmの極薄金属板Wを突合せ溶接する場合には、タングステン電極棒5の先端と極薄金属板Wとの距離を0.5mmに設定する。このとき、アフターシールドノズル3は、極薄金属板Wの突合せ部の斜め上方位置に突合せ部と平行になるように配置される。
【0031】
その後、GTA溶接用トーチTのシールドノズル7に挿着したアーク狭窄ノズル2からアルゴンガス等のシールドガスGを流しつつ、電源(図示省略)を操作してタングステン電極棒5と極薄金属板Wとの間に電圧を印加してシールドガスGの雰囲気中でタングステン電極棒5の先端と極薄金属板Wとの間にアークAを発生させる。又、アーク狭窄ノズル2に取り付けたアフターシールドノズル3のボックス部3a内へアフターシールドガス供給管13からアルゴンガス等のアフターシールドガスG′を供給し、アフターシールドノズル3のボックス部3aから極薄金属板Wへ向ってシールドガスGを流す。更に、バックバー16のガス通路16aから極薄金属板Wの突合せ部の裏面側へ向ってアルゴンガス等のシールドガスGを流す。
このとき、アーク狭窄ノズル2から放出するシールドガスGの量とアフターシールドノズル3から放出するアフターシールドガスG′の量の比率は、1:3〜1:5としている。
【0032】
そして、上述した状態でトーチ用走行台及びこれに支持されたGTA溶接用トーチTを所定の速度で極薄金属板Wの突合せ部に沿って走行移動させる。そうすると、タングステン電極棒5の先端と極薄金属板Wとの間に発生したアークAの熱によって極薄金属板Wの突合せ部が溶融して接合され、極薄金属板Wが突合せ溶接されることになる。
【0033】
このとき、先窄まり状に形成したアーク狭窄ノズル2の先端のノズル孔2eからアークAの周囲にシールドガスGを集中的に流しているため、アークA周辺のシールドガスGの濃度が高められ、発生したアークAがシールドガスGによるサーマルピンチ効果により絞られてエネルギー密度の高い安定したアークAとなると共に、溶融池周辺のシールド効果も高められて溶融池への空気の進入を確実に遮断することができる。又、アーク狭窄ノズル2に取り付けたアフターシールドノズル3のボックス部3aから溶接直後の溶接ビード部分にアフターシールドガスG′を流し、余熱のある溶接ビード部分をシールドガスGによりシールドするようにしているため、溶接部の酸化を防止することができる。その結果、極薄金属板Wであっても、高品質な突合せ溶接を安定して行える。特に、表面にセラミック被膜や絶縁被膜等が形成された電磁鋼板を突合せ溶接する場合であっても、エネルギー密度の高い安定したアークAによってセラミック被膜や絶縁被膜等を焼き切ることができるため、電磁鋼板の突合せ溶接を安定して行うことができる。
更に、先窄まり状のアーク狭窄ノズル2によりエネルギー密度の高い安定したアークAが得られるため、ビード幅が狭くて深い溶け込みの高品質の安定した溶接を行えると共に、溶接速度が2000mm/min〜6000mm/minの高速溶接を行える。特に、ビード幅が狭い突合せ溶接を行えるため、極薄金属板Wの熱の影響を受ける部分が狭くなり、溶接部分の強度の向上を図れる。
そのうえ、先窄まり状のアーク狭窄ノズル2によりシールドガスGを絞って放出しているため、タングステン電極棒5周囲のシールドガスGの濃度が高くなってタングステン電極棒5の寿命が従来のTIG溶接に比べて5倍以上に延びると共に、シールドガスGの使用量が従来のTIG溶接に使用するシールドガスGの使用量の1/2〜1/5以下で良く、シールドガスGの使用量が少なくなってコスト低減を図れる。
加えて、アフターシールドノズル3のボックス部3aの内部に極薄金属板Wの溶接ビード部分に吹き付けられるアフターシールドガスG′を均質拡散させて層流化する金属製フィルター15を装着しているため、極薄金属板Wの溶接ビード部分をより確実且つ良好にシールドすることができ、溶接部の酸化をより確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態に係るアーク狭窄シールドノズルを取り付けたGTA溶接用トーチの一部切欠正面図である。
【図2】同じくアーク狭窄シールドノズルを取り付けたGTA溶接用トーチの一部切欠側面図である。
【図3】アーク狭窄シールドノズルの拡大縦断面図である。
【図4】アーク狭窄シールドノズルを分解した状態の拡大正面図である。
【図5】アーク狭窄シールドノズルを分解した状態の拡大底面図である。
【図6】アーク狭窄シールドノズルの使用状態を示す拡大縦断面図である。
【図7】アーク狭窄シールドノズルの使用状態を示し、アーク狭窄ノズル部分の拡大縦断面図である。
【図8】従来のTIG溶接用トーチを用いたTIG溶接法の概略説明図である。
【図9】従来のプラズマ溶接用トーチを用いたプラズマ溶接法の概略説明図ある。
【符号の説明】
【0035】
1はアーク狭窄シールドノズル、2はアーク狭窄ノズル、3はアフターシールドノズル、5はタングステン電極棒、7はシールドノズル、15は金属製フィルター、16はバックバー、17はクランプ、Aはアーク、Gはシールドガス、G′はアフターシールドガス、TはGTA溶接用トーチ、Wは極薄金属板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向せしめたクランプ(17)によりバックバー(16)上に押圧固定された極薄金属板(W)の突合せ部へ向って筒状のシールドノズル(7)からシールドガス(G)を流し、シールドガス(G)の雰囲気中でシールドノズル(7)の中心位置に配設したタングステン電極棒(5)と極薄金属板(W)との間にアーク(A)を発生させ、そのアーク(A)の熱で極薄金属板(W)の突合せ部を溶融させて接合するようにしたGTA溶接のGTA溶接用トーチ(T)に取り付けられるアーク狭窄シールドノズル(1)であって、前記アーク狭窄シールドノズル(1)は、シールドノズル(7)の先端部に同心状に取り付けられ、シールドノズル(7)よりも小径に形成されて発生したアーク(A)の周囲にシールドガス(G)を集中的に流す先窄まり状の筒状のアーク狭窄ノズル(2)と、アーク狭窄ノズル(2)に取り付けられ、溶接直後の溶接ビード部分にアフターシールドガス(G′)を流して余熱のある溶接ビード部分をシールドするアフターシールドノズル(3)とから構成したことを特徴とするアーク狭窄シールドノズル。
【請求項2】
GTA溶接用トーチ(T)のシールドノズル(7)の先端部にアーク狭窄ノズル(2)を着脱自在に取り付けると共に、当該アーク狭窄ノズル(2)にアフターシールドノズル(3)を着脱自在に取り付けたことを特徴とする請求項1に記載のアーク狭窄シールドノズル。
【請求項3】
アフターシールドノズル(3)は、極薄金属板(W)の溶接直後の溶接ビード部分にアフターシールドガス(G′)を流す下面が開放された細長いボックス部(3a)備えており、ボックス部(3a)の内部に極薄金属板(W)の溶接ビード部分に吹き付けられるアフターシールドガス(G′)を均質拡散させて層流化する金属製フィルター(15)を装着したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアーク狭窄シールドノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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