説明

イオンコントロールセンサ

【課題】極めて簡単な構造により、イオンバランスの検出や被除電物の帯電電位の検出を可能にしてイオナイザの除電性能の向上に寄与できるようにした低コストのイオンコントロールセンサを提供する。
【解決手段】被除電物に正負のイオンを供給して除電する除電装置であって、被除電物の表面電位を測定するための表面電位測定用プローブを備えた除電装置において、表面電位測定用プローブ11を構成する電位検出部11aと、この電位検出部11aに対し非接触状態で包囲するように配置された導電性のキャップ13とを備え、被除電物30の帯電電荷、または除電装置20から供給されたイオンによってキャップ13に発生した電位を、電位検出部11aにより検出してフィードバック信号として除電装置20内の制御回路24に送出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除電装置が発生する正負イオン量のイオンバランスと被除電物の帯電電位との双方を検出可能としたイオンコントロールセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、被除電物の静電容量の大きさや表面電位に合わせて、放電電極針に印加する電圧を可変制御するようにした除電装置が、例えば後述する特許文献1に記載されている。
【0003】
この除電装置は、電圧を印加して被除電物に対しコロナ放電を生じさせる少なくとも1本の放電電極針と、被除電物の表面電位を連続的に測定する表面電位計と、測定した表面電位に応じて被除電物の表面電位をゼロに収束させるような印加電圧を演算する演算処理手段と、演算により求めた印加電圧を放電電極針に出力する電圧出力手段とを有し、表面電位計の測定結果を演算処理手段にフィードバックして放電電極針への印加電圧を可変するように構成されている。また、演算処理手段は、表面電位測定値の変動に基づいて被除電物の静電容量を演算する機能も備えている。
【0004】
上記特許文献1記載の従来技術によれば、被除電物の表面電位やこれに基づく静電容量を常時測定し、これらの測定値を演算処理手段にフィードバックして放電電極針への印加電圧を制御することにより、高精度に除電を行うことが一応可能になっている。
【0005】
また、イオナイザ(除電装置)が発生するイオンのうち、除電に必要な量のイオンだけを液晶基板(被除電物)に到達させるようにして、イオンバランスが崩れた場合にも液晶基板を逆帯電させないようにした液晶パネルの製造装置が、特許文献2に記載されている。
【0006】
この液晶パネル製造装置は、コロナ放電によりイオンを発生する除電装置と、除電対象物へ向かうイオン量を除電対象物の帯電量に応じて調節するグリッド電極板等の電極部材とを有し、除電装置は、放電側を開口したシールドケースと、シールドケース内に設けられた放電電極と、この放電電極にコロナ放電に必要な高電圧を印加する高圧電源とを備えたものである。
その作用としては、液晶基板の帯電量に応じて液晶基板と電極部材との間の電界が変化することに着目し、帯電量が小さい場合には前記電界が弱くなることにより、除電装置から発生したイオンの大部分を電極部材から接地側に逃がして液晶基板への到達イオン量を減少させ、帯電量が大きい場合には前記電界が強くなることにより、除電装置から発生したイオンの大部分を液晶基板に到達させて除電効果を高めている。
【0007】
【特許文献1】特開平11−345697号公報([0010]〜[0017]、図1等)
【特許文献2】特許第3522586号公報([0015]〜[0024]、図1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された従来技術では、基本的には被除電物の表面電位に基づいて除電装置を制御しており、除電装置から発生する正負イオンのイオンバランスは考慮されていない。このため、除電装置から発生する正負のイオン量がアンバランスになっている場合もあり、もともと帯電していなかった被除電物をイオナイザによって一方の極性に帯電させてしまうことがある。このようにして被除電物が帯電した場合には、その表面電位に基づく除電装置の制御によって除電することが可能であるが、本来的には必要のない除電動作を行うことになり、時間や電力を浪費することとなる。
【0009】
また、特許文献2に記載された従来技術は、液晶基板の帯電量に応じた電界強度に応じて液晶基板へのイオンの到達量を制御しているため、除電精度を高くするには限界があり、例えば液晶基板を正確に±0〔V〕に維持するのが困難であった。
更に、除電装置に多数配置された放電電極針と液晶基板との間の空間をカバーできるように大形のグリッド電極板等を備える必要があるので、構成部品が大型化し、装置全体の大型化やコストの上昇を招くという問題もあった。
【0010】
そこで本発明の解決課題は、極めて簡単な構造により、イオンバランスの検出や被除電物の帯電電位の検出を可能にして除電装置の性能を向上させるようにした低コストのイオンコントロールセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1に記載した発明は、被除電物に正負のイオンを供給して除電する除電装置であって、被除電物の表面電位を測定するための表面電位測定用プローブを備えた除電装置において、
表面電位測定用プローブを構成する電位検出部と、この電位検出部を包囲するように絶縁部材を介して配置された導電性のキャップと、を備えたものである。
【0012】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載したイオンコントロールセンサにおいて、
被除電物の帯電電荷、または除電装置から供給されたイオンによって前記キャップに発生した電位を、前記電位検出部により検出してフィードバック信号として除電装置内の制御回路に送出するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、除電装置が発生する正負イオンのイオンバランスと被除電物の表面電位とを単一のイオンコントロールセンサによって検出することができ、高精度かつ高効率の除電装置を実現することができる。
また、本発明は、既存の表面電位測定用プローブの電位検出部に絶縁部材を介して導電性のキャップを取り付けるだけで実現可能であり、構造が極めて簡単で低コストにて提供可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。まず、図1は、この実施形態にかかるイオンコントロールセンサ10の斜視図である。
図1において、11は角棒状の表面電位測定用プローブであり、いわゆる音叉型または音片型表面電位測定装置等のプローブであって、被除電物の表面電位を非接触で測定可能なものである。なお、このプローブ11による表面電位の測定原理は、特に限定されるものではない。このプローブ11は、ケーブル21を介して後述する除電装置20に接続されている。
【0015】
表面電位測定用プローブ11の長手方向ほぼ中央部には、合成樹脂等からなるロ字形の絶縁部材12が固着されていると共に、この絶縁部材12とプローブ11の先端部とを包囲するように、有底角筒状の導電材料からなるキャップ13がネジ14にて取り付けられている。なお、上述したプローブ11の先端部は、検出孔(図示せず)を有する電位検出部11aを構成しており、この電位検出部11aとキャップ13の内面とは、前記絶縁部材12及び空間により非接触状態に保たれている。
【0016】
次に、図2は本実施形態の使用状態の説明図であり、図3は除電装置20の概略的な構成図である。
図3に示すように、除電装置20は、コロナ放電により正負のイオンを発生させる複数の放電電極22と、これらの放電電極22に可変の高電圧を印加するための高電圧電源回路23と、前記表面電位測定用プローブ11の出力信号に基づいて高電圧電源回路23を制御する制御回路24とを備えている。
なお、この除電装置20は、放電電極22に交流電圧を印加する交流式除電装置、あるいは直流電圧を印加する直流式除電装置の何れでも良く、必要に応じて発生イオンを被除電物方向に強制的に送出するファンを備えていても良い。
【0017】
次いで、この実施形態の作用を図2を参照しつつ説明する。
図2において、イオンコントロールセンサ10は、除電するべき被除電物30の表面に近接して配置される。ここで、被除電物30は、半導体ウェハや液晶基板等を始めとした各種の除電対象物である。
【0018】
いま、イオンコントロールセンサ10の直下に搬送されてきた被除電物30が例えば正電位に帯電していたとすると、静電誘導によりイオンコントロールセンサ10のキャップも正電位に帯電する。この正電位は表面電位測定用プローブ21の電位検出部11aによって検出され、その検出信号がフィードバック信号として除電装置20内の制御回路24に入力される。
これにより、制御回路24では、被除電物30の正電位を除去(中和)するために放電電極22から負イオンを多量に発生させるように、高電圧電源回路23を動作させる。例えば、放電電極22に印加する交流または直流の負電圧の振幅を正電圧の振幅より大きくする等の制御動作を行う。
【0019】
上記の動作により、放電電極22から発生した多量の負イオンが被除電物30に供給されるため、被除電物30の正電位が中和されて除電が行われる。
【0020】
また、放電電極22から発生する正負イオン量のバランス、いわゆるイオンバランスを検出する場合には、イオンコントロールセンサ10の直下に被除電物30が存在しない状態、あるいは、被除電物30が存在していたとしても正負何れにも帯電していない状態において、除電装置20を動作させる。
この場合には、イオンコントロールセンサ10のキャップ13が放電電極22から発生した正負イオン量のバランスに応じて正電位または負電位に帯電し、また、イオンバランスがとれていれば0電位となる。
【0021】
すなわち、発生した正イオンが負イオンより多ければ、キャップ13が正電位に帯電するので、表面電位測定用プローブ11の電位検出部11aは正電位を検出し、その検出信号がフィードバック信号として除電装置20内の制御回路24に入力される。このため、制御回路24では、放電電極22から負イオンを多量に発生させるように、高電圧電源回路23を動作させる制御動作を行う。
放電電極22から発生する負イオンが正イオンより多い場合には、上記と逆の動作になるのは言うまでもない。
【0022】
なお、上述した実施形態はあくまで一例であり、本発明のイオンコントロールセンサや表面電位測定用プローブの形状、構造は何ら限定されるものではない。
また、除電装置の構造、形状も特に限定されず、天井等への据付型、卓上型、エアガン型など各種タイプの除電装置に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態を示すイオンコントロールセンサの斜視図である。
【図2】本発明の実施形態の使用状態の説明図である。
【図3】図2における除電装置の概略的な構成図である。
【符号の説明】
【0024】
10:イオンコントロールセンサ
11:表面電位測定用プローブ
11a:電位検出部
12:絶縁部材
13:キャップ
14:ネジ
20:除電装置
21:ケーブル
22:放電電極
23:高電圧電源回路
24:制御回路
30:被除電物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被除電物に正負のイオンを供給して除電する除電装置であって、被除電物の表面電位を測定するための表面電位測定用プローブを備えた除電装置において、
表面電位測定用プローブを構成する電位検出部と、この電位検出部を包囲するように絶縁部材を介して配置された導電性のキャップと、
を備えたことを特徴とするイオンコントロールセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載したイオンコントロールセンサにおいて、
被除電物の帯電電荷、または除電装置から供給されたイオンによって前記キャップに発生した電位を、前記電位検出部により検出してフィードバック信号として除電装置内の制御回路に送出することを特徴とするイオンコントロールセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−329859(P2006−329859A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−155348(P2005−155348)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(591252781)ヒューグルエレクトロニクス株式会社 (40)
【Fターム(参考)】