説明

イオンチャネルの活性を阻害する低分子ペプチド

本発明は、機械刺激感受性チャネルの活性を特異的に阻害する新規ポリペプチド、このようなポリペプチド、またはそのの塩を含有する機械刺激感受性チャネル阻害剤、心房細動の治療薬を提供することを課題とする。 上記課題は、配列番号1(TVP003)、配列番号2(TVP004)、または配列番号3(TVP005)で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、または当該ポリペプチドの塩や、これらを含有する機械刺激感受性チャネル阻害剤、心房細動の治療薬などにより解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
この発明は、機械刺激感受性チャネル阻害活性を有するポリペプチド、このポリペプチドを含む機械刺激感受性チャネル阻害剤および心房細動の治療剤などに関するものである。より詳しくは、本発明は、クモ毒由来の天然ペプチド(GsMTx−4)の配列をベースにして機械刺激感受性チャネルに作用するファーマコフォアを特定し、そのファーマコフォアを構成するようにデザインされ、かつ心房細動の治療に有用な新規ポリペプチドなどに関する。
【背景技術】
心房細動は、不整脈の一種であり、加齢とともにその有病率が高くなる。心房細動は、高齢者(65歳以上)の約3%に認められる心臓疾患である。心房細動が慢性化すると、血栓を形成して脳塞栓症を引き起こすため、現在では心房細動が重症脳卒中患者の主要な原因疾患と考えられている。このように心房細動は、脳梗塞などの合併症の発生頻度と重症度を考慮し、近年致死性不整脈のひとつとして認識されるようになった(J.Nippon.Med.Sch.2002,69(3))。これまでに心房細動を根治するような治療薬は得られておらず、心房細動、特に慢性心房細動に対する薬物療法には限界があると考えられていた(同前)。
心房細動は、心筋に存在するイオンチャネルの働きの異常が原因のひとつと考えられている。一方、クモ毒由来の天然ペプチド(GsMTx−4:配列番号4)が、機械刺激感受性チャネル(Stretch−Activated Channel:SAC)の活性を阻害することが知られている(例えば、Thomas M.Suchyna et.al.,Identification of a Peptide Toxin from Grammostola Spatulata Spider Venom thet Blocks Cation−selective Stretch−activated Channels,J.Gen.Physiol.,Vol.115,pp583−598,2000(非特許文献1)参照)。また、同文献には、陸上及び水中の動物由来の毒液由来の毒素を構成するペプチドには、6つのシステインを含むICK(Inhibitor Cysteine Knot:インヒビターシステインノット)モチーフが共通して見出されることが記載されている(非特許文献1の590頁右欄下から7行目〜下から3行目、および図30)。また、同文献には、GsMTx−4が、3つのシステインペア(C−C、C−C及びC−C)によって定義される基本構造を有するICKモチーフを有することが示唆されている(非特許文献1の595頁左欄7行目から下から11行目、「GsMTx−4の構造」の欄)。
また、GsMTx−4を抽出・精製等する方法や、そのGsMTx−4を用いて心臓不整脈を治療する方法などが提案されている(例えば、Bode et al,nature,Vol.409,pp35−36,2001.(非特許文献2)、米国特許出願公開第2002/0077286号明細書(特許文献1)参照。)。また、GsMTx−4の構造は、NMRを用いた溶液中での結果が知られている(Robert et.al,J.Biol.Chem.Vol37,pp3443−34450,2002.(非特許文献3)参照。)。このような知見にかかわらず、クモ毒由来のペプチド(GsMTx−4)を用いた心房細動の治療剤は、開発されていなかった。
参考文献
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/0077286号明細書;
【非特許文献1】Thomas M.Suchyna et.al.,Identification of a Peptide Toxin from Grammostola Spatulata Spider Venom thet Blocks Cation−selective Stretch−activated Channels,J.Gen.Physiol.,Vol.115,pp583−598,2000;
【非特許文献2】Bode et al,nature,Vol.409,pp35−36,2001;
【非特許文献3】Robert et.al,J.Biol.Chem.Vol37,pp3443−34450,2002.
本発明では、GsMTx−4のファーマコフォア(活性に必要最低限の空間構造)を同定し、ファーマコフォア情報に基づいて機械刺激感受性チャネルの活性を特異的に阻害する新規ポリペプチドを設計し、このようなポリペプチドを含む心房細動の治療剤などを提供することを目的とする。
【発明の開示】
上記課題は、以下の発明により解決される。
[1] 本発明の第1の実施態様に係る発明は、「配列番号1、配列番号2、または配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、または当該ポリペプチドの塩である。これらのポリペプチドは、本明細書の実施例で確認されたとおり、機械刺激感受性チャネル阻害活性を有するポリペプチドであり、GsMTx−4のファーマコフォアを構成するポリペプチドであると考えられる。これらのポリペプチドは、心房細動の治療などに有用である。
[2] 本発明の第2の実施態様に係る発明は、「配列番号1、配列番号2、または配列番号3で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、または当該ポリペプチドの塩」である。
[3] 本発明の第3の実施態様に係る発明は、「配列番号16、または配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、または当該ポリペプチドの塩」である。これらのポリペプチドは、本明細書の実施例で確認されたとおり、機械刺激感受性チャネル阻害活性を有するポリペプチドである。これらのポリペプチドは、心房細動の治療などに有用である。
[4] 本発明の第4の実施態様に係る発明は、「配列番号1、配列番号2、または配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるものではなく、かつ機械刺激感受性チャネル阻害活性を有するポリペプチド、または当該ポリペプチドの塩」である。
[5] 本発明の第5の実施態様に係る発明は、前記「配列番号1、配列番号2、または配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるものではなく、かつ機械刺激感受性チャネル阻害活性を有するポリペプチド」が、配列番号16、または配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである上記[4]に記載のポリペプチド、または当該ポリペプチドの塩である。
[6] 本発明の第6の実施態様に係る発明は、「上記[1]、上記[3]、又は上記[4]に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド」である。
[7] 本発明の第7の実施態様に係る発明は、「上記[6]に記載のポリヌクレオチドを含有する組換えベクター」である。
[8] 本発明の第8の実施態様に係る発明は、「上記[7]に記載の組換えベクターで形質転換させた形質転換体」である。
[9] 本発明の第9の実施態様に係る発明は、「上記[1]〜上記[5]のいずれか1項に記載のポリペプチド、または当該ポリペプチドの塩のうちいずれか1つ以上を含有する機械刺激感受性チャネル阻害剤」である。この阻害剤は、機械刺激感受性チャネルの活性を特異的に阻害するので、機械刺激感受性チャネルの研究などに有効に用いられる。
[10] 本発明の第10の実施態様に係る発明は、「上記[1]〜上記[5]のいずれか1項に記載のポリペプチド、または当該ポリペプチドの塩うちいずれか1つ以上を含有する心房細動の治療剤」である。これらのポリペプチドは、本明細書の実施例で、その機能が確認されたとおり、機械刺激感受性チャネル阻害活性を有する。したがって、この治療剤は、心房細動の治療に有効に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、GsMTx−4と相同性の高い10の候補マルティプルアライメントの結果を示す図である。
図2は、1QK6とGsMTx−4とのアラインメントの結果を示す。
図3は、Huwentoxin−IとGsMTx−4を重ね合わせたステレオ図である。
図4は、Huwentoxin−IとGsMTx−4を重ね合わせたモデルのCαトレースを示す。図4中、薄い線は鋳型を表し、濃い線はGsMTx−4を表す。
図5は、Huwentoxin−Iで活性中心と考えられるArg20近傍を表す図である。図5中、薄い線はhuwetoxin−Iを表し、濃い線はGsMTx−4を表す。
図6(a)〜図6(d)は、Huwentoxin−I(PDB code: 1QK6)を鋳型としたモデルの表面構造を表す図である。図6(a)〜図6(d)において、左がhuwentoxin−I、右がGsMTx−4を表す。図6(a)は、hydrophobic patchから見たもの(上の図とほぼ同じ向き)を表す。図6(b)は、x軸の周りに+90°回転したものを表す。図6(c)は、y軸の周りに+90°回転したものを表す。図6(d)は、y軸の周りに180°回転したものを表す。
図7は、GsMTx−4の構造およびデザインしたペプチドの構造を表す。
図8は、TVP003の阻害活性検査結果を示す図である。図8(a)は、単一チャネル電流の計測結果を表す。図8(b)は、チャネルの開確立(Po)を表す。
図9は、TVP004の阻害活性検査結果を示す図である。図9(a)は、単一チャネル電流の計測結果を表す。図9(b)は、チャネルの開確立(Po)を表す。
図10は、TVP005の阻害活性検査結果を示す図である。図10(a)は、単一チャネル電流の計測結果を表す。図10(b)は、チャネルの開確立(Po)を表す。
図11は、TVP017の阻害活性検査結果を示す図である。図11(a)は、単一チャネル電流の計測結果を表す。図11(b)は、チャネルの開確立(Po)を表す。
図12は、TVP019の阻害活性検査結果を示す図である。図12(a)は、単一チャネル電流の計測結果を表す。図12(b)は、チャネルの開確立(Po)を表す。
図13は、活性ペプチドの機械刺激感受性チャネルに対する特異性の検討結果を示すグラフである。図13(a)は、TVP0003の心筋SAチャネルに関する単一チャネル電流の測定結果を示すグラフである。図13(b)は、TVP0003のSTREX−deletion−mutantに関する単一チャネル電流の測定結果を示すグラフである。図13(c)は、チャネルの開確立(Po)を表すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
(本発明のポリペプチド)
本発明のポリペプチドは、配列番号1、配列番号2、または配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;配列番号1、配列番号2、または配列番号3で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド;配列番号16、または配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;配列番号1、配列番号2、または配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるものではなく、かつ機械刺激感受性チャネル阻害活性を有するポリペプチド(すなわち、本発明の第1〜第5の実施態様に係る発明に関するポリペプチド)である。
また、本発明のペプチドは、C末端がカルボキシル基(−COOH)、カルボキシレート(−COO)、アミド(−CONH)またはエステル(−COOR)などであってもよい。
本発明のペプチドには、N末端のメチオニン残基のアミノ基が保護基で保護されているものも含まれる。本発明のペプチドには、N端側が生体内で切断され生成したGlnがピログルタミン酸化したものも含まれる。本発明のペプチドには、側鎖上の置換基が、適当な保護基で保護されているものも含まれる。本発明のペプチドには、糖鎖が結合したいわゆる糖ペプチドなどの複合ペプチドも含まれる。
本発明のペプチドの塩における「塩」としては、酸または塩基との生理学的に許容される塩が挙げられ、好ましくは生理学的に許容される酸付加塩である。このような塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが挙げられる。
(本発明のポリペプチドの合成)
本発明のポリペプチドは、化学的に合成してもよいし、組換えDNA技術を用いて製造してもよい。本発明のポリペプチドを化学的に合成するためには、公知の方法に従って合成すればよく、例えば、アジド法、酸クロライド法、酸無水物法、混酸無水物法、DCC法、活性エステル法、ウッドワード試薬Kを用いる方法、カルボニルイミダゾール法、酸化還元法、DCC/HONB法、BOP試薬を用いる方法などにより、本発明のペプチドを得ることができる(例えば、Bodanszky,M and M.A.Ondetti,Peptide Synthesis,Interscience Publishers,New York(1966)、Schroeder and Luebke,The Peptide,Academic Press,New York(1965)、F.M.Finn及びK.Hofmann著、The Proteins、第2巻、H.Nenrath、R.L.Hill編集、Academic Press Inc.,New York(1976);泉屋信夫他著「ペプチド合成の基礎と実験」丸善(株)1985年;矢島治明、榊原俊平他著、生化学実験講座1、日本生化学会編、東京化学同人 1977年;木村俊他著、続生化学実験講座2、日本生化学会編、東京化学同人1987年などを参照)。また、自動ペプチド合成装置(PEアプライドバイオシステムズ社等)により化学合成することもできる。
また、反応後は、公知の精製法により本発明のポリペプチドを精製単離することができる。例えば、溶媒抽出・蒸留・カラムクロマトグラフィー・液体クロマトグラフィー・再結晶などを組み合わせて本発明のポリペプチドを精製単離することができる。上記方法で得られる本発明のペプチドが遊離体である場合は、公知の方法によって適当な塩に変換することができるし、逆に塩で得られた場合は、公知の方法によって遊離体に変換することができる。
(ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド)
本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとしては、本発明のポリペプチドをコードする塩基配列(DNAまたはRNA、好ましくはDNA)を含有するものであればいかなるものであってもよい。このようなポリヌクレオチドとしては、本発明のポリペプチドをコードするDNA、mRNA等のRNAが挙げられ、二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNAまたはDNA:RNAのハイブリッドでもよい。一本鎖の場合は、センス鎖(すなわち、コード鎖)であっても、アンチセンス鎖(すなわち、非コード鎖)であってもよい。
本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを用いて、例えば、公知の実験医学増刊「新PCRとその応用」15(7)、1997記載の方法またはそれに準じた方法により、本発明のポリペプチドのmRNAを定量することができる。
本発明のポリペプチドをコードするDNAとしては、ゲノムDNA、ゲノムDNAライブラリー、上記した細胞・組織由来のcDNA、上記した細胞・組織由来のcDNAライブラリー、合成DNAのいずれでもよい。ライブラリーに使用するベクターは、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどいずれであってもよい。また、上記した細胞・組織よりtotal RNAまたはmRNA画分を調製したものを用いて直接Reverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction(以下、RT−PCR法と略称する)によって増幅することもできる。
本発明のポリペプチドをコードするDNAのクローニングの手段としては、本発明のペプチドをコードするDNAの塩基配列の部分塩基配列を有する合成DNAプライマーを用いてPCR法によって増幅する方法が挙げられる。また適当なベクターに組み込んだDNAを本発明のポリペプチドの一部あるいは全領域をコードするDNA断片もしくは合成DNAを用いて標識したものとのハイブリダイゼーションによって選別し本発明のポリペプチドをコードするDNAのクローニングを行ってもよい。ハイブリダイゼーションの方法は、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)2nd(J.Sambrook et al.,Cold Spring Harbor Lab.Press,1989)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。
DNAの塩基配列の変換は、PCRや公知のキット、例えば、MutanTM−super Express Km(宝酒造(株))、MutanTM−K(宝酒造(株))等を用いて、ODA−LA PCR法、Gapped duplex法、Kunkel法等の公知の方法あるいはそれらに準じた方法に従って行なうことができる。
クローン化されたポリペプチドをコードするDNAは、目的によりそのまま、または所望により制限酵素で消化したり、リンカーを付加したりして使用することができる。このようなDNAは、その5’末端側に翻訳開始コドンとしてのATGを有し、また3’末端側には翻訳終止コドンとしてのTAA、TGAまたはTAGを有していてもよい。これらの翻訳開始コドンや翻訳終止コドンは、適当な合成DNAアダプターを用いて付加することもできる。
本発明のポリペプチドの発現ベクターは、例えば、本発明のポリペプチドをコードするDNAから目的とするDNA断片を切り出し、そのDNA断片を適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。
ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド(例、pCR4、pCR2.1、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13)、枯草菌由来のプラスミド(例、pUB110、pTP5、pC194)、酵母由来プラスミド(例、pSH19、pSH15)、λファージなどのバクテリオファージ、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルスなどの動物ウイルスなどの他、pA1−11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neoなどが用いられる。
本発明で用いられるプロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。例えば、動物細胞を宿主として用いる場合は、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター、HSV−TKプロモーターなどが挙げられる。
これらのうち、CMVプロモーター、SRαプロモーターなどを用いるのが好ましい。宿主がエシェリヒア属菌である場合は、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPプロモーター、lppプロモーターなどが、宿主がバチルス属菌である場合は、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーターなど、宿主が酵母である場合は、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが好ましい。宿主が昆虫細胞である場合は、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなどが好ましい。
発現ベクターには、以上の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製オリジン(以下、SV40oriと略称する場合がある)などを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素(以下、dhfrと略称する場合がある)遺伝子〔メソトレキセート(MTX)耐性〕、アンピシリン耐性遺伝子(以下、Ampと略称する場合がある)、ネオマイシン耐性遺伝子(以下、Neoと略称する場合がある、G418耐性)等が挙げられる。特に、CHO(dhfr)細胞を用いてdhfr遺伝子を選択マーカーとして使用する場合、目的遺伝子をチミジンを含まない培地によっても選択できる。
また、必要に応じて、宿主に合ったシグナル配列を、本発明のポリペプチドのN端末側に付加する。宿主がエシェリヒア属菌である場合は、PhoA・シグナル配列、OmpA・シグナル配列などが、宿主がバチルス属菌である場合は、α−アミラーゼ・シグナル配列、サブチリシン・シグナル配列などが、宿主が酵母である場合は、MFα・シグナル配列、SUC2・シグナル配列など、宿主が動物細胞である場合には、インシュリン・シグナル配列、α−インターフェロン・シグナル配列、抗体分子・シグナル配列などがそれぞれ利用できる。
このようにして構築された本発明のポリペプチドをコードするDNAを含有するベクターを用いて、形質転換体を製造することができる。
宿主としては、例えば、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞などが用いられる。
エシェリヒア属菌の具体例としては、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)K12・DH1〔プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),60巻,160(1968)〕,JM103〔ヌクイレック・アシッズ・リサーチ,(Nucleic Acids Research),9巻,309(1981)〕,JA221〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology),120巻,517(1978)〕,HB101〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー,41巻,459(1969)〕,C600〔ジェネティックス(Genetics),39巻,440(1954)〕,DH5α〔Inoue,H.,Nojima,H.and Okayama,H.,Gene,96,23−28(1990)〕,DH10B〔プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),87巻,4645−4649(1990)〕などが用いられる。
バチルス属菌としては、例えば、バチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)MI114〔ジーン,24巻,255(1983)〕,207−21〔ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(Journal of Biochemistry),95巻,87(1984)〕などが用いられる。
酵母としては、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AH22,AH22R,NA87−11A,DKD−5D、20B−12、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)NCYC1913,NCYC2036、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などが用いられる。
昆虫細胞としては、例えば、ウイルスがAcNPVの場合は、夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Spodoptera frugiperda cell;Sf細胞)、Trichoplusia niの中腸由来のMG1細胞、Trichoplusia niの卵由来のHigh FiveTM細胞、Mamestra brassicae由来の細胞またはEstigmena acrea由来の細胞などが用いられる。ウイルスがBmNPVの場合は、蚕由来株化細胞(Bombyx mori N;BmN細胞)などが用いられる。そのSf細胞としては、例えば、Sf9細胞(ATCC CRL1711)、Sf21細胞(以上、Vaughn,J.L.ら、イン・ヴィボ(In Vivo),13,213−217,(1977))などが用いられる。
昆虫としては、例えば、カイコの幼虫などが用いられる〔前田ら、ネイチャー(Nature),315巻,592(1985)〕。
動物細胞としては、例えば、サル細胞COS−7,Vero,チャイニーズハムスター細胞CHO(以下、CHO細胞と略記)、dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター細胞CHO(以下、CHO(dhfr)細胞と略記)、マウスL細胞,マウスAtT−20、マウスミエローマ細胞、ラットGH3、ヒトFL細胞などが用いられる。
エシェリヒア属菌を形質転換するには、例えば、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンジイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),69巻,2110(1972)やジーン(Gene),17巻,107(1982)などに記載の方法に従って行なうことができる。
バチルス属菌を形質転換するには、例えば、モレキュラー・アンド・ジェネラル・ジェネティックス(Molecular & General Genetics),168巻,111(1979)などに記載の方法に従って行なうことができる。
酵母を形質転換するには、例えば、メッソズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology),194巻,182−187(1991)、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),75巻,1929(1978)などに記載の方法に従って行なうことができる。
昆虫細胞または昆虫を形質転換するには、例えば、バイオ/テクノロジー(Bio/Technology),6,47−55(1988)などに記載の方法に従って行なうことができる。
動物細胞を形質転換するには、例えば、細胞工学別冊8新細胞工学実験プロトコール.263−267(1995)(秀潤社発行)、ヴィロロジー(Virology),52巻,456(1973)に記載の方法に従って行なうことができる。
このようにして、本発明のポリペプチドをコードするDNAを含有する発現ベクターで形質転換された形質転換体を得ることができる。
宿主がエシェリヒア属菌、バチルス属菌である形質転換体を培養する際、培養に使用される培地としては液体培地が適当であり、その中にはその形質転換体の生育に必要な炭素源、窒素源、無機物その他が含有せしめられる。炭素源としては、例えば、グルコース、デキストリン、可溶性澱粉、ショ糖など、窒素源としては、例えば、アンモニウム塩類、硝酸塩類、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などの無機または有機物質、無機物としては、例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウムなどが挙げられる。また、酵母エキス、ビタミン類、生長促進因子などを添加してもよい。培地のpHは約5〜8が望ましい。
エシェリヒア属菌を培養する際の培地としては、例えば、グルコース、カザミノ酸を含むM9培地〔ミラー(Miller),ジャーナル・オブ・エクスペリメンツ・イン・モレキュラー・ジェネティックス(Journal of Experiments in Molecular Genetics),431−433,Cold Spring Harbor Laboratory,New York 1972〕が好ましい。ここに必要によりプロモーターを効率よく働かせるために、例えば、3β−インドリルアクリル酸のような薬剤を加えることができる。
宿主がエシェリヒア属菌の場合、培養は通常約15〜43℃で約3〜24時間行なって、必要により、通気や撹拌を加えることもできる。
宿主がバチルス属菌の場合、培養は通常約30〜40℃で約6〜24時間行ない、必要により通気や撹拌を加えることもできる。
宿主が酵母である形質転換体を培養する際、培地としては、例えば、バークホールダー(Burkholder)最小培地〔Bostian,K.L.ら、「プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),77巻,4505(1980)〕や0.5%カザミノ酸を含有するSD培地〔Bitter,G.A.ら、「プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),81巻,5330(1984)〕が挙げられる。培地のpHは約5〜8に調整するのが好ましい。培養は通常約20℃〜35℃で約24〜72時間行ない、必要に応じて通気や撹拌を加える。
宿主が昆虫細胞または昆虫である形質転換体を培養する際、培地としては、Grace’s Insect Medium(Grace,T.C.C.,ネイチャー(Nature),195,788(1962))に非動化した10%ウシ血清等の添加物を適宜加えたものなどが用いられる。培地のpHは約6.2〜6.4に調整するのが好ましい。培養は通常約27℃で約3〜5日間行なって、必要に応じて通気や撹拌を加える。
宿主が動物細胞である形質転換体を培養する際、培地としては、例えば、約5〜20%の胎児牛血清を含むMEM培地〔サイエンス(Science),122巻,501(1952)〕,DMEM培地〔ヴィロロジー(Virology),8巻,396(1959)〕,RPMI 1640培地〔ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・メディカル・アソシエーション(The Journal of the American Medical Association)199巻,519(1967)〕,199培地〔プロシージング・オブ・ザ・ソサイエティ・フォー・ザ・バイオロジカル・メディスン(Proceeding of the Society for the Biological Medicine),73巻,1(1950)〕などが用いられる。pHは約6〜8であるのが好ましい。培養は通常約30℃〜40℃で約15〜60時間行なって、必要に応じて通気や撹拌を加える。
以上のようにして、形質転換体の細胞内、細胞膜または細胞外に本発明のポリペプチドを生成させることができる。
上記培養物から本発明のポリペプチドを分離精製するには、例えば、下記の方法により行なうことができる。
本発明のポリペプチドを培養菌体あるいは細胞から抽出するに際しては、培養後、公知の方法で菌体あるいは細胞を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチームおよび/または凍結融解などによって菌体あるいは細胞を破壊したのち、遠心分離やろ過によりポリペプチドの粗抽出液を得る方法などが適宜用いられる。緩衝液の中に尿素や塩酸グアニジンなどの蛋白質変性剤や、トリトンX−100TMなどの界面活性剤が含まれていてもよい。培養液中にポリペプチドが分泌される場合には、培養終了後、公知の方法で菌体あるいは細胞と上清とを分離し、上清を集める。
このようにして得られた培養上清、あるいは抽出液中に含まれるポリペプチドの精製は、公知の分離・精製法を適切に組み合わせて行なうことができる。これらの公知の分離、精製法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法などが用いられる。
このようにして得られるポリペプチドが遊離体で得られた場合には、公知の方法あるいはそれに準じる方法によって塩に変換することができ、逆に塩で得られた場合には公知の方法あるいはそれに準じる方法により、遊離体または他の塩に変換することができる。
なお、組換え体が産生するポリペプチドを、精製前または精製後に適当な蛋白修飾酵素を作用させることにより、任意に修飾を加えることや、ポリペプチドを部分的に除去することもできる。蛋白修飾酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、アルギニルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グリコシダーゼなどが用いられる。
このようにして生成する本発明のポリペプチドまたはその塩の活性は、標識したリガンドとの結合実験および特異抗体を用いたエンザイムイムノアッセイなどにより測定することができる。
(機械刺激感受性チャネル阻害剤)
機械刺激感受性チャネル阻害剤としては、本発明のポリペプチド、もしくはそれらの塩のうちいずれか1つ以上(以下、「本発明のポリペプチド等」ともいう。)を含有するものが挙げられる。本発明のポリペプチド等は、機械刺激感受性チャネル阻害剤として使用できる。本発明のポリペプチド等は、取り扱いが容易であり、後の実施例で示されるように高い阻害活性を有する。
(心房細動の治療剤)
心房細動の治療剤としては、本発明のポリペプチド、もしくはその塩のいずれか1つ以上を含有するものが挙げられる。すなわち、本発明によれば、医薬、及び医薬組成物をも提供できる。医薬組成物としては、本発明のポリペプチド、もしくはその塩と、医薬的に許容される担体を含むものがあげられる。
本発明のポリペプチドを含む心房細動の治療剤は、注射液などの形で非経口的に心房の血管等に投与するか、錠剤、カプセル剤など経口投与により使用できる。注射用製剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供されてもよい。また、ヒトのみならずヒト以外の哺乳動物に対しても投与することができる。これら製剤化については、公知の製剤化方法を採用することができる。
これらの各種製剤は、製剤上通常用いられる賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤、等張化剤等などを適宜選択し、常法により製造することができる。上記各種製剤は、医薬的に許容される担体又は添加物を共に含むものであってもよい。このような担体及び添加物の例として、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースなどが挙げられる。使用される添加物は、本発明の剤型に応じて上記の中から適宜又は組み合わせて選択される。
上記のような剤型において、活性成分である本発明のポリペプチドは、剤型中例えば、0.01重量%〜100重量%、好ましくは0.1重量%〜90重量%、より好ましくは1重量%〜50重量%含まれる。
本発明のポリペプチドの投与量は、非経口的に投与する場合は、その1回投与量は投与対象、症状、投与方法などによっても異なるが、例えば、注射剤の形では通常例えば、心房細動患者(60kgとして)においては、一日につき約0.01〜30mg程度、好ましくは約0.1〜20mg程度、より好ましくは約0.1〜10mg程度を投与する。経口投与の場合、例えば、心房細動患者(60kgとして)においては、一日につき約0.1mg〜100mg、好ましくは約1.0〜50mg、より好ましくは約1.0〜20mgである。本発明の心房細動の治療剤は、好ましくは1日1回から数回に分けて1日以上投与される。
(ファルマコフォアの同定)
なお、本発明のポリペプチを設計するに当り、クモ毒ペプチド(GsMTx−4)のどの部位が活性に必要な最小単位となるファーマコフォアであるのかを、立体構造に基づいて精度良く予測した。
ファルマコフォアの同定は、例えば以下のようにして行なうことができる。まず、立体構造既知の類縁ペプチドの立体構造を鋳型としたホモロジーモデリング法によるクモ毒ペプチドの精密な構造予測を行なう。その結果、得られた構造に基づいて、活性部位を改変したペプチドの機能解析を行い、医薬品設計のターゲットとなる部位の絞込みを行なう。また、GsMTx−4のジスルフィド結合の部分をミミックした設計を行い、安定な構造をもつペプチドをデザインする。GsMTx−4は3つのジスルフィド結合を持つ比較的柔軟性の低い立体構造を有することが知られているため、一般的に結合に関与することが多い極性アミノ酸残基を含む環状ペプチドをいくつかデザインし、活性に必要なファーマコフォアの同定を行なう。
(活性の測定)
本発明のペプチドの活性評価方法としては、公知の活性評価方法を用いることができるが、好ましくは実施例1に記載されたパッチクランプ法による単一チャネル電流記録法を用いることができる。
【実施例1】
実験例1:クモ毒ペプチド(GsMTx−4)配列と一致度の高い構造既知の類縁ペプチドの検索
配列番号4で表されるGsMTx−4のアミノ酸配列と一致度の高い構造について、PDB(タンパク質立体構造データベース)からクモ毒を対象に検索した。この結果、GsMTx−4と相同性の高い10の候補が上がった。これら候補のマルティプルアライメントの結果を以下の図1に示す。
図1に示す配列の中から、システイン残基が一致していて、なおかつシステイン残基間の長さがほぼ等しく、挿入欠失のない(GsMtx4の方が1残基長い)1QK6(Huwentoxin−I:配列番号12)を鋳型として選択し、ホモロジーモデリング法によりファーマコフォアの絞込みを行った。
実施例2:クモ毒ペプチド(GsMTx−4)の立体構造予測
鋳型ペプチド1QK6を用いてホモロジーモデリングを行った。まず、1QK6とGsMTx−4とのアラインメントを行った。その結果を図2に示す。
次に、プログラムMODELLERを用いてモデル構造の構築を行った。構築したGsMTx−4の構造モデルと鋳型に用いたHuwentoxin−Iとの重ね合わせた結果を図3および図4に示す。図3は、Huwentoxin−IとGsMTx−4を重ね合わせたステレオ図である。図4は、Huwentoxin−IとGsMTx−4を重ね合わせたモデルのCαトレースを示す。図4中、薄い線は鋳型を表し、濃い線はGsMTx−4を表す。
また、図5にはHuwentoxin−Iで活性中心と考えられるArg20近傍の様子を示す。図5中、薄い線はhuwetoxin−Iを表し、濃い線はGsMTx−4を表す。さらに、Huwentoxin−IとGsMTx−4の表面構造を比較した結果を図6に示す。図6(a)〜図6(d)において、左がhuwentoxin−I、右がGsMTx−4を表す。図6(a)は、hydrophobic patchから見たもの(上の図とほぼ同じ向き)を表す。図6(b)は、x軸の周りに+90°回転したものを表す。図6(c)は、y軸の周りに+90°回転したものを表す。図6(d)は、y軸の周りに180°回転したものを表す。図6(b)から両ペプチドの分子の形状はかなり異なっていることがわかる。また解離性側鎖を持つ残基の分布も異なっており、特異性決定に関係していることが推測できる。
また、Robert et.al,J.Biol.Chem.Vol37,pp3443−34450,2002.(上記非特許文献3)に開示されたGsMTx−4のNMRによる溶液中の構造と、本実施例により求められたGsMTx−4の構造を比較すると、本発明において構築したモデリング構造は、実際のGsMTx−4の構造を反映していると判断できる。
実施例3:活性ペプチドのデザインとファーマコフォアの同定
上述のGsMTx−4のモデリング構造に基づいてペプチド断片のおおよその設計方針を決定した。図7に、GsMTx−4の構造およびデザインしたペプチドの構造を表す。GsMTx−4は、3つのジスルフィド結合により、図7の配列構造式に示すように4つのループ部分から成っている。したがって、GsMTx−4のどのループ部分が阻害活性に寄与する部分であるかを調べるためにTVP001からTVP005の5つのペプチドをデザインした。これらのペプチドについては、ループを構成しない部位にあるシステインをアラニンに置換している。TVP001(配列番号14)はループ1と2、TVP002(配列番号15)はループ3と4、TVP003(配列番号1)はループ2、TVP004(配列番号2)はループ3、TVP005(配列番号3)はループ2と3から成っている。
(デザインしたペプチドのバイオアッセイ)
ペプチドの活性評価には、最も信頼性の高いパッチクランプ法による単一チャネル電流記録法を用いた。アッセイの対象としては、心筋由来の Ca2+依存性BigKチャネル(Kawakubo et.Am J Physiol,276:H1827.1999)を用いた。このチャネルを、発現しているニワトリの心室筋、もしくはこのチャネルのcDNAを強制発現したCHO細胞にセルアタッチトパッチクランプ法を適用した後、inside−out引きちぎりパッチ膜(excised patch)を形成し、膜電位固定下で単一チャネル電流を計測した。デザインした合成ペプチドはGsMTx−4と同様、細胞外からチャネルをブロックするものと想定し、予め記録用ガラスピペットの一定位置以上の空間に既知濃度のペプチドを充填して、拡散によりチャネルに到達させるバックフィル(back−fill)を用いて投与した。この手法では拡散開始後おおよそ15−20分でピペット内ペプチド濃度が平衡に達するので、20分後の抑制率からペプチドの解離定数を推定できる。あるいは抑制の時間経過からペプチドの相対的抑制力を推定することもできる。ペプチドの正確な解離定数を求めるには、outside−outの引きちぎりパッチ膜を形成して単一チャネル電流を計測し、種々の濃度のペプチドによる抑制効果を解析して用量−抑制曲線を求めなければならないが、この方法は格段の技術を要すること、今回は種々のデザインした合成ペプチドの一次スクリーニングであることから、前述のinside−out引きちぎりパッチにバックフィルを組み合わせたアッセイ法を使って、ペプチドの抑制効果について、おおよその見積もりを行った。ペプチドの濃度としては、GsMTx−4での結果を考慮して10μMを用いた。評価量としては、チャネルの開確率(Po、パーセント表示)を用い、抑制の強さはコントロール(ペプチド投与前)を基準とした抑制率(パーセント)、あるいは抑制の時間経過で表現した。
(アッセイ結果)
デザインした5種類の合成ペプチドのうち、TVP003、TVP004、TVP005、に阻害活性が認められた。そこで、TVP0004のN末端から3番目のRをAに置換した変異体TVP017(配列番号:16)、およびTVP0004のN末端から7番目のKをAに置換した変異体TVP019(配列番号:17)を合成し、上記のバイオアッセイにより阻害活性を測定したところ、これらの合成ペプチドにも阻害活性が認められた。
図8は、TVP003の阻害活性検査結果を示す。図8(a)は、単一チャネル電流の計測結果を表す図である。図8(b)は、チャネルの開確立(Po)を表す。図8に示すように、TVP003は8分後にはほぼ100%の抑制効果を示したことから、TVP003の解離定数はμMオーダーかそれ以下であると推定された。この値は、TVP003が、天然のクモ毒ペプチドGsMTx−4と同等かそれ以上の阻害活性を有することを示唆している。
図9は、TVP004の阻害活性検査結果を示す図である。図9(a)は、単一チャネル電流の計測結果を表す。図9(b)は、チャネルの開確立(Po)を表す。図9に示すようにTVP004は10μMで8分後には約60%、16分後には95%の阻害活性を示し、比較的強い阻害活性を示した。
図10は、TVP005の阻害活性検査結果を示す図である。図10(a)は、単一チャネル電流の計測結果を表す。図10(b)は、チャネルの開確立(Po)を表す。図10に示すように、TVP005は、20分後に約60%の阻害効果を示したことから、その解離定数はおおよそ10μM程度と推定された。
図11は、TVP017の阻害活性検査結果を示す。図11(a)は、単一チャネル電流の計測結果を表す図である。図11(b)は、チャネルの開確立(Po)を表す。図11に示すように、TVP017は6分後にはほぼ100%の抑制効果を示したことから、TVP003よりさらに優れた抑制効果を示すことが分かった。この値は、TVP017が、天然のクモ毒ペプチドGsMTx−4以上の阻害活性を有することを示唆している。
図12は、TVP019の阻害活性検査結果を示す。図12(a)は、単一チャネル電流の計測結果を表す図である。図12(b)は、チャネルの開確立(Po)を表す。図12に示すように、TVP017は14分後にはほぼ80%の抑制効果を示した。
(2)ペプチドのチャネルに対する特異性について
実施例4:活性ペプチドの機械刺激感受性チャネルに対する特異性
本発明の活性ペプチドの機械刺激感受性チャネルに対する特異性について検討した。活性ペプチドとしてTVP0003を用い、チャネルには、実施例3で用いたチャネルと同じ心筋SAチャネルを使用した。このチャネルはC末に59アミノ酸からなるSTREX配列を有しており、これを除去した変異体(STREX−deletion−mutant)は、伸展活性をほとんど失い、ごく一般的なCa依存性bigKチャネルとなる(SAKCA:Tang,Naruse,Sokabe,J Membr Biol,169:185−200,2003)。図13は、活性ペプチドの機械刺激感受性チャネルに対する特異性の検討結果を示すグラフである。図13(a)は、TVP0003の心筋SAチャネルに関する単一チャネル電流の測定結果を示すグラフである。図13(b)は、TVP0003のSTREX−deletion−mutantに関する単一チャネル電流の測定結果を示すグラフである。図13(c)は、チャネルの開確立(Po)を表すグラフである。図13から、GsMTx−4およびTVP003は、野生型のSAチャネル抑制するのに対し、STREX−deletion−mutantをほとんど抑制しないことがわかる。従って、GsMTx−4およびTVP003は、伸展活性を有するチャネルにのみ特異的に作用すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、機械刺激感受性チャネルの活性を特異的に阻害する新規ポリペプチドを得ることができる。
このような本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、そのポリヌクレオチドを含有する組換えベクター、その組換えベクターで形質転換させた形質転換体を用いれば、本発明のポリペプチドを大量に生産できる。
本発明のポリペプチド、または本発明のポリペプチドの塩を含有する機械刺激感受性チャネル阻害剤は、機械刺激感受性チャネルに関する試薬を製造する際に有効である。
本発明のポリペプチド、または本発明のポリペプチドを含有する心房細動の治療剤は、心房細動を効果的に治療することができる。
【配列表】








【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、配列番号2、または配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、または当該ポリペプチドの塩。
【請求項2】
配列番号1、配列番号2、または配列番号3で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、または当該ポリペプチドの塩。
【請求項3】
配列番号16、または配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、または当該ポリペプチドの塩。
【請求項4】
配列番号1、配列番号2、または配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるものではなく、かつ機械刺激感受性チャネル阻害活性を有するポリペプチド、または当該ポリペプチドの塩。
【請求項5】
前記「配列番号1、配列番号2、または配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるものではなく、かつ機械刺激感受性チャネル阻害活性を有するポリペプチド」が、配列番号16、または配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである請求項4に記載のポリペプチドまたは当該ポリペプチドの塩。
【請求項6】
請求項1、請求項3、又は請求項4に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項6に記載のポリヌクレオチドを含有する組換えベクター。
【請求項8】
請求項7に記載の組換えベクターで形質転換させた形質転換体。
【請求項9】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のポリペプチド、または当該ポリペプチドの塩のうちいずれか1つ以上を含有する機械刺激感受性チャネル阻害剤。
【請求項10】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のポリペプチド、または当該ポリペプチドの塩うちいずれか1つ以上を含有する心房細動の治療剤。

【国際公開番号】WO2004/085647
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【発行日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504101(P2005−504101)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004190
【国際出願日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【出願人】(500386563)株式会社ファルマデザイン (9)
【Fターム(参考)】