説明

イオントフォレーシス装置用作用極構造体及びイオントフォレーシス装置

【課題】イオン性の薬剤を電気泳動を利用して生体に浸透させるイオン浸透療法において使用されるイオントフォレーシス用作用極構造体の提供。
【解決手段】作用極構造体1は、作用極となる電極4、イオン性薬剤を含有する薬剤含有部5、およびイオン交換膜6を含み、当該膜6は、アニオン交換性基及びカチオン交換性基の双方を有し、かつ、これらアニオン交換性基及びカチオン交換性基を、他方のイオン交換性基よりも過剰に有する。生体界面7上で目的薬剤を選択的に生体内に浸透させるため、薬剤含有層と生体の間にさらにイオン交換膜8を含んでも良い。当該膜8としては、薬剤イオンと同符号のイオンを選択的に透過させるイオン交換膜であることが好ましい。対極となる電極4’、イオン性電解質を含有する電解質含有部9、イオン交換膜10がこの順番に積層され、イオン交換膜を生体界面に配置することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体に有用なイオン性の薬剤を電気泳動を利用して生体に浸透させるイオントフォレーシス(イオン浸透療法)において使用されるイオントフォレーシス用作用極構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
生体に有用なイオン性の薬剤を電気泳動を利用して生体に浸透させるイオントフォレーシスは、イオン浸透療法、イオン導入法、などとも呼ばれ、無痛状態で所望の患部に所望量の薬剤を投与する方法として広く知られている。
【0003】
イオントフォレーシスにおいては、イオン性の薬剤を含浸させた薬剤層を生体上に置き、薬剤層を挟んで生体と反対側に作用極を配し、薬剤層と離れた生体上に対極を置き、電源により作用極と対極の間に電流を流すことでイオン性の薬剤を生体に浸透させる。
【0004】
通常、作用極は、電極とイオン性の薬剤を含有する薬剤含有層から構成されるが、電極部分において水等の溶剤(イオン性薬剤を溶解するために用いられる)が電気分解してpHが変化したり、あるいは、電極に接したイオン性薬剤が分解してしまうことを防止するために、該電極と薬剤含有層との間にイオン交換膜を配設する技術が提案されている(例えば、特許文献1〜5参照)。
【0005】
即ち、作用極と対極で水の電気分解が進み、これによって生成したHイオンやOHイオンによって薬剤水溶液のpHが変化し、生体に炎症を引き起こしたり、直接電極と接触した薬剤が、電極で反応して消費されるだけでなく、生体に悪影響を及ぼす化合物が生成する可能性があった。そこで、電極と薬剤含有層との間に、イオン性薬剤の薬効イオンとは逆極性のイオンを通過させるタイプのイオン交換膜を配設することにより、薬剤の分解を防止し、かつ電極で生じたHイオン又はOHイオンが薬剤含有層側に移動することを防止する。しかしながら、従来用いられてきているイオン交換膜を用いた場合でも薬剤が電極側に透過しやすく、充分な薬剤非透過性を得るためには膜厚を厚くする必要があった。ところが、膜厚を厚くすると今度は膜の電気抵抗(膜抵抗)が高くなり、電流効率や生体への薬剤投与効率が低下するという問題がある。
【0006】
また、イオントフォレーシス装置においてイオン交換膜を用いる技術としては、薬剤含有層と生体との間に配置し、生体側からのナトリウムカチオン、カリウムカチオン、塩化物アニオン等の移動を防止し、薬剤の投与効率を高めるために、イオン性薬剤の薬効イオンと同符号のイオンを通過させるタイプのイオン交換膜を配設する技術も提案されている(例えば、特許文献3〜5参照)。
【0007】
さらに近年、必要な時間に必要な場所でのイオントフォレーシスを可能にする携帯型のイオントフォレーシス装置に関する検討が盛んである。このような携帯型のイオントフォレーシス装置においては、電源としてボタン型電池等の電池が使用されるため、電圧値が一定(定電圧)の場合の投与量が特に重要である。
【0008】
【特許文献1】特表昭63−502404号公報
【特許文献2】特表平3−504813号公報
【特許文献3】特開平4−297277号公報
【特許文献4】特開2004−188188号公報
【特許文献5】特開2004−202057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、目的薬剤の電極との接触を防止するとともに、ボタン型電池等の電池のような出力の比較的小さい電源を用いた場合でも、高い薬剤投与効率が得られるイオントフォレーシス用作用極構造体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、電極と薬剤含有部の間にイオン交換膜を使用したイオントフォレーシスにおいて目的薬剤の投与効率を向上させるべく、鋭意研究を行った。その結果、電極と薬剤含有部の間に配設されるイオン交換膜として、膜内でイオンコンプレックスを形成させたイオン交換膜を用いた場合に、イオントフォレーシス装置としての全体のエネルギー効率を低下させることなく薬剤透過性が低減可能になるとともに、高い薬剤投与効率が得られる場合が多いことを見出し、本発明を提案するに至った。
【0011】
即ち本発明は、電極、薬剤含有部ならびに該電極と薬剤含有部の間に配設されたイオン交換膜を有するイオントフォレーシス装置用作用極構造体において、該イオン交換膜として、アニオン交換性基及びカチオン交換性基の双方を有し、かつ、これらアニオン交換性基及びカチオン交換性基のうちのいずれか一方のイオン交換性基を、他方のイオン交換性基よりも過剰に有するイオン交換膜を用いることを特徴とするイオントフォレーシス装置用作用極構造体である。
【0012】
他の発明は、上記電極と薬剤含有部の間に配設されたイオン交換膜が、多孔質フィルムを基材とし、該多孔質フィルムの有する空隙内に架橋型イオン交換樹脂が充填されたイオン交換膜であるイオントフォレーシス用作用極構造体である。
【0013】
また他の発明は、上記のイオントフォレーシス用作用極構造体を用いたイオントフォレーシス装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のイオントフォレーシス装置用作用極構造体は、アニオン交換性基及びカチオン交換性基の双方を有し、かつ、これらアニオン交換性基及びカチオン交換性基のいずれか一方を、他方のイオン交換性基よりも過剰に有するイオン交換膜を電極と薬剤含有部の間に用いることにより、イオントフォレーシス装置としての全体のエネルギー効率を低下させることなく、薬剤透過率を低くすることができる。即ち、薬剤の高い投与効率を保ったまま、薬剤の分解を大幅に抑制することができ、極めて有用なイオントフォレーシス装置を得ることができる。
【0015】
特にボタン型電池等の電池のような出力の比較的小さい電源を用いた場合でも高い薬剤投与量を達成できる極めて有用な技術である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のイオントフォレーシス装置用の作用極構造体は、電極、薬剤含有部及びこれら電極と薬剤含有部の間に配設されたイオン交換膜からなる。
【0017】
そして上記イオン交換膜は、アニオン交換性基及びカチオン交換性基の双方を有し、かつ、これらアニオン交換性基及びカチオン交換性基のいずれか一方のイオン交換性基を、他方のイオン交換性基よりも過剰に有するイオン交換膜である。このようなイオン交換膜を電極と薬剤含有部との間に配設するイオン交換膜として使用することにより、エネルギー効率を低下させることなく、薬剤透過率を低減できる。
【0018】
上記の通り本発明において用いるイオン交換膜はアニオン交換性基及びカチオン交換性基の双方を有する必要があり、かつ、そのどちらか一方を他方より過剰に有する。過剰に有する側のイオン交換性基がどちらであるかにより、該イオン交換膜はアニオン交換膜又はカチオン交換膜となる。即ち、アニオン交換性基が過剰であればアニオン交換膜に、カチオン交換性基が過剰であればカチオン交換膜になる。
【0019】
本発明において上記アニオン交換性基、カチオン交換性基はそのどちらか一方が他方に対して過剰であれば良いが、両イオン交換性基の量が近いほど薬剤透過率が低く、逆に過剰割合が多いほど膜抵抗が低い傾向があるため、どちらか一方のイオン交換性基の量が、他方に比べて、1.01〜10倍程度であることが好ましく、1.05〜5倍程度であることがより好ましく、1.1〜3倍程度であることが特に好ましい。なお膜中のイオン交換性基の量は、赤外分光法などの分光分析、元素分析等により定量できる。
【0020】
さらに膜抵抗をより低いものとするためには、イオン交換膜中のイオン交換性基の量が多いほどよく、過剰な方のイオン交換性基の量が、0.1mmol/g−乾燥膜以上、さらに0.2mmol/g−乾燥膜以上、特に0.5mmol/g−乾燥膜以上であることが好適である。一方、上限量は特に定められるものではないが、あまりにイオン交換性基の多いイオン交換膜は製造が困難であり、また無理に製造しても機械的強度等に劣る場合があるため、5mmol/g−乾燥膜以下、好ましくは4mmol/g−乾燥膜以下、特に好ましくは3mmol/g−乾燥膜以下であることが好適である。
【0021】
なお本発明で用いるイオン交換膜は、過剰な方のイオン交換性基を上記のような量で有していても、その一部が他方のイオン交換性基とイオンコンプレックスを形成しているため、定法により測定されるイオン交換容量は上記過剰な側のイオン交換性基の量よりも少なくなる。本発明で用いられる上記イオン交換膜のイオン交換容量は、一般的には0.1〜3.0mmol、さらに0.1〜2mmol/g−乾燥膜、特に0.3〜1.5mmol/g−乾燥膜となる。
【0022】
本発明において電極と薬剤含有部の間に配設するイオン交換膜として、上記アニオン交換膜、カチオン交換膜のどちらを採用するかは、前記薬剤含有部に含まれる薬剤、即ち、イオントフォレーシスによって投与しようとする薬剤の薬効イオンがアニオン性、カチオン性のどちらであるかに従って決定される。例えば、薬効イオンがアニオン性であるならばカチオン交換膜を、逆にカチオン性であるならばアニオン交換膜を用いる。
【0023】
上記アニオン交換性基、カチオン交換性基としては、いずれもイオン交換膜又はイオン交換樹脂におけるイオン交換性基として知られるどのような基でもよい。このようなイオン交換性基を具体的に例示すると、アニオン交換性基としては、第1〜3級アミノ基、第4級アンモニウム基、ピリジル基、イミダゾール基、第4級ピリジニウム基、第4級イミダゾリウム基等が挙げられる。またカチオン交換性基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、ホスホン酸基等が挙げられる。本発明で用いるイオン交換膜は、カチオン交換性基、アニオン交換性基のいずれも、異なる2種以上の基を有していても構わない。
【0024】
また上記イオン交換性基が結合している樹脂骨格部分(イオン交換性基以外の部分)としても、イオン交換膜又はイオン交換樹脂における樹脂骨格として知られるいずれの骨格でも良いが、より薬剤透過性が低い点で架橋型の樹脂であることが好ましい。特に加水分解等により分解する可能性が小さい点で架橋ポリスチレン骨格等の芳香族ビニル化合物を主体とする架橋重合体であることが好ましい。なお、アニオン交換性基と、カチオン交換性基は同一の樹脂骨格上に結合していても良いし、異なる樹脂骨格が相互に貫入したようなものでもよい。
【0025】
本発明において用いる上記イオン交換膜としては、厚さが5〜150μm、好ましくは10〜120μm、特に好ましくは15〜60μmのものであることが好ましい。一般的に、イオン交換膜の厚さが薄いほど抵抗が低くなるが、それにともなって、薬剤透過性も高くなってしまう傾向がある。しかしながら上記のようなアニオン交換性基とカチオン交換性基双方を有するイオン交換膜を用いることにより、厚さの薄い(抵抗の低い)イオン交換膜を用いても、充分に薬剤透過率を低くできる。
【0026】
また、厚さが薄いほど膜の機械的強度が低下する傾向があり、上記のような薄い膜では、作用極構造体製造時の取り扱い性や、製造した作用極構造体の信頼性が低下する(破れ等が生じる)という問題を生じる場合がある。この問題点を解決するために、本発明で用いる上記イオン交換膜としては、特開2004−188188号公報や特開2004−202057号公報に開示されているイオン交換膜と同様の、多孔質フィルムを基材(補強材)とし、多孔質フィルムの有する空隙内にイオン交換樹脂が充填された構造のイオン交換膜を用いることが好ましい。但し、これら先行技術文献に記載のイオン交換膜は、カチオン交換性基又はアニオン交換性基のいずれか一方のみを有する膜であるが、本発明においては、カチオン交換性基とアニオン交換性基との双方を有する膜となるように製造する。
【0027】
以下、このような多孔質フィルムを基材とした当該製造方法を詳しく説明する。基材として用いる多孔質フィルムとしては、表裏を連通する細孔を多数有するフィルムもしくはシート状のものが特に制限されることなく使用されるが、高い強度と柔軟性を両立させるために、熱可塑性樹脂からなるものであることが好ましい。
【0028】
多孔質フィルムを構成する熱可塑性樹脂としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、5−メチル−1−ヘプテン等のα−オレフィンの単独重合体または共重合体等のポリオレフィン樹脂;ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−オレフィン共重合体等の塩化ビニル系樹脂;ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体等のフッ素系樹脂;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂等からなるものが制限なく使用されるが、機械的強度、柔軟性、化学的安定性、耐薬品性に優れ、イオン交換樹脂との馴染みがよいことからポリオレフィン樹脂を用いるのが好ましい。ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンが特に好ましく、ポリエチレンが最も好ましい。
【0029】
上記熱可塑性樹脂からなる多孔質フィルムの性状は、特に限定されないが、薄くかつ強度に優れ、さらに電気抵抗も低いイオン交換膜としやすい点で、孔の平均孔径が、好ましくは0.005〜5.0μm、より好ましくは0.01〜2.0μm、最も好ましくは0.02〜0.2μmであるのがよい。なお、上記平均孔径は、バブルポイント法(JIS K 3832-1990)に準拠して測定される平均流孔径を意味する。同様に、多孔質フィルムの空隙率は、好ましくは20〜95%、より好ましくは30〜90%、最も好ましくは30〜60%であるのがよい。さらに、多孔質フィルムの厚みは、イオン交換膜が前述した厚さとなるように、好ましくは5〜140μm、より好ましくは10〜120μm、最も好ましくは15〜55μmであるのがよい。通常、後述する製造方法によって製造したイオン交換膜の厚さは、基材として用いた多孔質フィルムの厚さ+0〜20μm程度の厚さになる。
【0030】
このような多孔質フィルムは、熱可塑性樹脂組成物及び有機液体よりなる樹脂組成物をシート若しくはフィルム状に成形した後に有機液体を溶剤によって抽出すること、或いは無機フィラー及び/又は有機フィラーを充填したシートを延伸すること等により容易に得ることができる。また市販されているものも多く、通常は、そのような市販品を用いればよい。
【0031】
上記のような多孔質フィルムの有する空隙内に、アニオン交換性基及びカチオン交換性基の双方を有するイオン交換樹脂が充填された構造のイオン交換膜を得る代表的な方法としては以下の2つがある。
【0032】
第一の方法は、多孔質フィルムの有する空隙内に重合性単量体を浸入させた後、重合させてアニオン交換性基又はカチオン交換性基のいずれか一方のみを有するイオン交換膜を製造した後、該イオン交換膜に逆極性のイオン交換性基を有する重合性単量体を浸透させ、これを重合させる方法である。
【0033】
第二の方法は、多孔質フィルムの有する空隙内にアニオン交換性基又はカチオン交換性基のいずれか一方のイオン交換性基を有する重合性単量体と、該重合性単量体の有するイオン交換性基とは逆極性のイオン交換性基を導入可能な官能基を有する重合性単量体の双方を浸入、重合させた後、前記イオン交換性基を導入可能な官能基を有する単量体にイオン交換性基を導入する方法である。
【0034】
上記第一の方法で用いる重合性単量体としては、イオン交換性基を有する重合性単量体又はイオン交換性基を導入可能な官能基を有する重合性単量体を用いる。イオン交換性基を有する重合性単量体を具体的に例示すると、カチオン交換基を有する単量体としては、α−ハロゲン化ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸系単量体;メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリル酸等のカルボン酸系単量体;ビニルリン酸、ビニルホスホン酸等のホスホン酸系単量体等が挙げられる。またアニオン交換性基を有する単量体としては、ビニルベンジルトリメチルアミン、ビニルベンジルトリエチルアミン、トリメチルアミノエチル(メタ)アクリル酸エステル塩等のアミン系単量体;、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の含窒素複素環系単量体等が挙げられる。
【0035】
またイオン交換性基を導入可能な官能基を有する重合性単量体を具体的に例示すると、カチオン交換基が導入可能な単量体として、スチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、α−ハロゲン化スチレン類等の芳香族炭化水素環を有する単量体類が挙げられ、アニオン交換性基を導入可能な官能基を有する単量体としては、スチレン、ビニルトルエン、クロロメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。
【0036】
前述の通り、イオン交換樹脂としては架橋型のものであることが好ましい。従って、上記イオン交換性基を有する重合性単量体又はイオン交換性基を導入可能な官能基を有する重合性単量体に加えて、架橋剤となる2官能以上の重合性単量体を併用することが好ましい。当該架橋剤としては、ジビニルベンゼン類、ジビニルスルホン、ブタジエン、クロロプレン、ジビニルビフェニル、トリビニルベンゼン類、ジビニルナフタレン、ジアリルアミン、ジビニルピリジン類等のジビニル化合物等が挙げられる。
【0037】
また上記重合性単量体(の混合物)は多孔質フィルムの有する空隙内に浸入させた後、重合させるが、該重合を円滑に行わせるために、重合開始剤をさらに配合した組成物としておくことが好ましい。当該重合開始剤としては、上記重合性単量体を重合させることが可能な化合物であれば特に限定されるものではないが、熱重合の可能な有機過酸化物であることが好ましく、例えば、オクタノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシド等が挙げられる。
【0038】
さらに、機械的強度や重合性等の物性を調節するために、必要に応じて他の成分を配合した組成物を用いてもよい。例えば、アクリロニトリル、アクロレイン、メチルビニルケトン等の重合性単量体や、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジメチルイソフタレート、ジブチルアジペート、トリエチルシトレート、アセチルトリブチルシトレート、ジブチルセバケート等の可塑剤類が挙げられる。
【0039】
上記重合性単量体を含む組成物の組成割合は特に限定されるものではないが、好ましくは、イオン交換基が導入可能な官能基またはイオン交換基を有する重合性単量体、及び任意成分として配合される単官能の重合性単量体100モルに対して、架橋剤を0.1〜30モル(好ましくは1〜15モル)程度配合すればよい(但し、架橋剤が2官能である場合)。架橋剤の量が多いほど、得られるイオン交換膜が強度に優れるものとなる一方で、あまりに多いと、柔軟性が低下し、かつ、イオン交換膜の電気抵抗が増大する傾向が強くなる。重合開始剤の配合量としては、全重合性単量体の合計100質量部に対して0.1〜20質量部(好適には0.2〜10質量部)用いるのが一般的である。また、イオン交換基が導入可能な官能基またはイオン交換基を有する重合性単量体100質量部に対して、これらの単量体と共重合可能な他の単量体を添加する場合は0〜100重量部、可塑剤類を添加する場合は0〜50重量部使用するのが好適である。
【0040】
ついで上記のようなイオン交換基またはイオン交換基が導入可能な官能基を有する重合性単量体を含む組成物(以下、単に単量体組成物)を、前記多孔質フィルムと接触させて、該多孔質フィルムの有する空隙内に浸入させ、ついで重合させる。多孔質フィルムと上記単量体組成物の接触方法は特に限定されず、例えば単量体組成物を多孔質フィルムに塗布したり、スプレーしたり、あるいは多孔質フィルムを単量体組成物中に浸漬したりすることにより好適に行なうことができる。浸漬による場合に、その浸漬時間は多孔質フィルムの種類や単量体組成物の組成にもよるが、一般的には0.1秒〜十数分である。
【0041】
重合方法も特に限定されず、用いた重合性単量体及び重合開始剤に応じて適宜公知の方法を採用すればよい。重合開始剤として前記したような有機過酸化物を用いた場合には加熱による方法(熱重合)が一般的である。この方法は、その操作が容易で、また比較的均一に重合させることができ、他の方法よりも好ましい。重合に際しては、酸素による重合阻害を防止し、また表面の平滑性を得るため、ポリエステル等のフィルムにより覆った後に重合させることがより好ましい。さらにフィルムで覆うことにより、過剰の単量体組成物が取り除かれ、薄く均一なイオントフォレーシス用イオン交換膜とすることができる。また、熱重合により重合させる場合の重合温度は特に制限されず、公知の条件を適宜選択して適用すればよいが、一般的には50〜150℃程度、好ましくは60〜120℃程度である。また重合時間としては10分〜10時間程度である。
【0042】
ついで、イオン交換性基が導入可能な官能基を有する重合性単量体を用いた場合には、この多孔質フィルムに充填、重合せしめられた重合体に対して、公知のイオン交換基導入処理を施してイオン交換膜とする。イオン交換性基導入処理の方法は公知の方法を適宜選択して採用すればよく、例えば、カチオン交換性基を有する膜(カチオン交換膜)を得る場合にはスルホン化、クロルスルホン化、ホスホニウム化、加水分解等の処理を行なえばよく、またアニオン交換性基を有するイオン交換膜(アニオン交換膜)を得る場合にはアミノ化、アルキル化等の処理を行なえばよい。一方、イオン交換性基を有する重合性単量体を用いた場合には、上記のようなイオン交換性基の導入処理を行わずとも良いが、必要に応じてさらにイオン交換性基の導入処理を行ってイオン交換性基の密度を向上させてもよい。(なお以下では、この時点でのイオン交換膜を原料イオン交換膜とも呼ぶ)。
【0043】
第一の方法では、上記のようして得た原料カチオン交換膜又は原料アニオン交換膜に、該イオン交換膜の有するイオン交換性基と逆極性のイオン交換性基を有する重合性単量体(以下、逆極性のイオン交換基を有する重合性単量体)を含浸させ、これを重合させる。即ち、例えば、カチオン交換性基またはカチオン交換性基を導入可能な基を有する重合性単量体を用いた場合には、上記方法で多孔質フィルムを基材とするカチオン交換膜が得られる。従って、アニオン交換性基を有する重合性単量体を該カチオン交換膜と接触、含浸させた後、重合させることにより膜が元々有していたカチオン交換性基に加えて、アニオン交換性基をも有するイオン交換膜となる。
【0044】
当該逆極性のイオン交換性基を有する重合性単量体としては、前記したものと同様である。また、原料イオン交換膜と接触させるに際しては、前記と同様、架橋剤及び重合開始剤を含む組成物として用いることが好ましい。さらに膜中への浸透性を良好にするために溶媒をさらに併用してもよい。イオン交換性基を有する重合性単量体が固体である場合にも溶媒を用いることは好適である。該溶媒としては、前記逆極性のイオン交換基を有する重合性単量体(またはそれを含む組成物)と均一な混合物を形成するものであれば特に制限はなく、具体的には、水、メタノール、エタノール、1−ブタノール、2−エトキシエタノール等のアルコール類、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、1−オクタン等の脂肪族炭化水素類、トルエン、キシレン、ナフタレン等の芳香族炭化水素類、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジベンジルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、メチレンクロライド、クロロホルム、エチレンブロマイド等のハロゲン化炭化水素類、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジメチルイソフタレート、ジブチルアジペート、トリエチルシトレート、アセチルトリブチルシトレート、ジブチルセバケート等の芳香族酸や脂肪族酸のアルコールエステル類やアルキルリン酸エステル類等が挙げられる。これら溶媒は必要に応じて複数種のものを併用しても良い。溶媒を用いる場合の使用量は、前記逆極性のイオン交換基を有する重合性単量体に対して100質量倍以下、好ましくは50質量倍以下、より好ましくは30質量倍以下である。
【0045】
本発明者等の検討によれば、原料イオン交換膜として架橋型のイオン交換樹脂が充填されたものを用いる限り、上記方法によって得られるイオン交換膜は、用いる逆極性のイオン交換基を有する重合性単量体の量によらず、元々原料イオン交換膜が有していたイオン交換性基の量が、後から導入したイオン交換性基の1.1〜3倍程度になり、よって原料イオン交換膜の極性と同様の極性のイオン交換膜となる。即ち、カチオン交換膜を原料イオン交換膜として用いればやはりカチオン交換膜に、アニオン交換膜を用いればアニオン交換膜が生じる。
【0046】
原料イオン交換膜と逆極性のイオン交換基を有する重合性単量体を接触させる方法は特に制限されないが、逆極性のイオン交換基を有する重合性単量体(またはそれを含む組成物)中に原料イオン交換膜を浸漬する方法が好ましい。浸漬による場合には、その浸漬時間は原料イオン交換膜や組成物中の逆極性のイオン交換基を有する重合性単量体の濃度にもよるが、一般的には0.1秒〜1時間である。なお、上記接触の前には、逆極性のイオン交換基を有する重合性単量体が原料イオン交換膜内に浸透しやすいように乾燥させてから用いることが好ましい。
【0047】
浸漬等により原料イオン交換膜に逆極性のイオン交換性基を有する重合性単量体を浸透させた後、該重合性単量体を重合させることにより、アニオン交換性基とカチオン交換性基の双方を有するイオン交換膜が得られる。重合に際しては、前記原料イオン交換膜の製造時における条件と同様の条件を採用すればよい。特に、原料イオン交換膜の最表面に、逆極性のイオン交換性基を有する重合性単量体が厚く付着した状態で重合しないように、軽く拭き取りを行ったり、平滑なフィルムを圧接した状態で重合させたりすることが好ましい。
【0048】
ついで第二の方法について述べる。第二の方法では、多孔質フィルムの有する空隙内に浸入させる重合性単量体として、イオン交換性基を有する重合性単量体と、該イオン交換性基とは逆極性のイオン交換性基を導入可能な官能基を有する重合性単量体とを併用する以外は、上記第一の製造方法において、イオン交換性基を導入可能な官能基を有する重合性単量体を用いて原料イオン交換膜を製造する方法と同様である。
【0049】
即ち、アニオン交換性基を有する重合性単量体と、カチオン交換性基を導入可能な重合性単量体を組み合わせて、又は、カチオン交換性基を有する重合性単量体と、アニオン交換性基を導入可能な重合性単量体を組み合わせた単量体組成物を用い、多孔質フィルムと接触させて、空隙内に単量体組成物を浸入、重合させた後、カチオン交換性基を導入可能な重合性単量体を用いた場合はカチオン交換性基の導入を、アニオン交換性基を導入可能な重合性単量体を用いた場合はアニオン交換性基の導入を行えばよい。
【0050】
イオン交換性基を有する重合性単量体と、該イオン交換性基とは逆極性のイオン交換性基を導入可能な官能基を有する重合性単量体との配合割合は、得ようとするイオン交換膜におけるアニオン交換性基及びカチオン交換性基の割合に応じて適宜設定すればよく、前記のように、どちらか一方が、他方の1.01〜10倍程度、好ましくは1.05〜5倍程度、より好ましくは1.1〜3倍程度にすればよい。
【0051】
このようにして得られたアニオン交換性基とカチオン交換性基の双方を有するイオン交換膜は、その後、未重合の単量体を洗浄除去するなどして、本発明のイオントフォレーシス装置用作用極構造体に用いることができる。
【0052】
むろん本発明において用いるアニオン交換性基とカチオン交換性基の双方を有するイオン交換膜としては上記方法によって得られるものに限らず、アニオン交換性基及びカチオン交換性基の双方を有し、かつ、これらアニオン交換性基及びカチオン交換性基を、他方のイオン交換性基よりも過剰に有するイオン交換膜であれば、他の製造方法により得られたものでもよい。
【0053】
本発明のイオントフォレーシス用作用電極、及びそれを用いたイオントフォレーシス用装置は、上記のようなアニオン交換性基及びカチオン交換性基の双方を有し、かつ、これらアニオン交換性基及びカチオン交換性基を、他方のイオン交換性基よりも過剰に有するイオン交換膜を用いる以外は、公知の電極と薬剤含有層の間にイオン交換膜を配設したものと特に変わるところはない。
【0054】
このようなイオントフォレーシス用装置及び作用極を、図面を参照してさらに詳しく説明する。
【0055】
このようなイオントフォレーシス用装置は、通常、図1に示すように、作用極構造体1、対極構造体2、およびこれらの構造体と電気的に結線された電源部3とから構成される。
【0056】
作用極構造体1は、作用極となる電極4、イオン性の薬剤を含有する薬剤含有部5、およびイオン交換膜6を含む構造体であり、当該イオン交換膜6は、アニオン交換性基及びカチオン交換性基の双方を有し、かつ、これらアニオン交換性基及びカチオン交換性基を、他方のイオン交換性基よりも過剰に有するイオン交換膜であり、投与する薬剤イオンと反対符号のイオンを選択的に透過させるイオン交換膜である。図に示すように、電極、イオン交換膜、薬剤含有部の順番に配置された部分を含む。通常、これらは一つの外装材料(図示しない)の中に積層されてなり、薬剤含有部を生体界面上に配する向きにて使用される。また、生体界面上で目的薬剤を選択的に生体内に浸透させるため、薬剤含有層と生体の間にさらにイオン交換膜8を含んでいても良い。この場合、当該イオン交換膜8としては、薬剤イオンと同符号のイオンを選択的に透過させるイオン交換膜であることが好ましい。
【0057】
また、該作用極構造体1は、生体界面との間にイオン導電性のゲルや多孔質フィルムや織布などからなるイオンが通過可能なシートなどを含んでいても良い。これらのゲルやシートは、作用極構造体と一体となった構造を取ることもでき、また、使用時のみこれらゲルやシートを生体界面との間に挟むことも可能である。さらに、作用極構造体においては、電極と最近接するイオン交換膜との間にイオン導電性ゲルやイオン性電解質溶液、さらにはイオン性電解質溶液を含浸させた多孔質フィルムや織布を含むこともできる。(いずれも図示しない。)
本発明の作用極構造体1における電極4には、通常の電気化学プロセスにおいて使用される電極がなんら制限されることなく使用できる。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、亜鉛、炭素などの電子導電体、半導体電極、および銀/塩化銀などの自己犠牲電極などが例示され、これらを単独でまたは組み合わせて使用することができる。好適には、金、白金、銀、炭素などが挙げられる。これらの電極は、板、シート、メッシュ、繊維を不定形に積層させたペーパー状物に成形加工されたものをそのまま使用することもでき、また、イオン交換膜上にメッキや蒸着させて使用することもできる。
【0058】
本発明の作用極構造体1における薬剤含有部5は、通常のイオントフォレーシスにおいて使用される薬剤含有層が何ら制限されることなく使用可能である。即ち、イオン性の薬剤を水、エタノールなどの溶剤に溶解させた溶液そのもの、該溶液をポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンなどのゲル、多孔質フィルム、ガーゼなどに含浸させたものが使用可能である。また、該薬剤含有部に用いられるイオン性の薬剤としては、正に帯電するイオン性薬剤では、塩酸プロカイン、塩酸リドカイン、塩酸ジブカインなどの麻酔剤、マイトマイシン、塩酸ブレオマイシンなどの抗悪性腫瘍剤、塩酸モルフィネなどの鎮痛剤、酢酸メドロキシプロゲステロンなどのステロイド類、ヒスタミンなどが挙げられ、一方、負に帯電するイオン性薬剤では、ビタミンB2、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンE、葉酸などのビタミン剤、アスピリン、イブプロフェンなどの抗炎症剤、デキサメタゾン系水溶性製剤などの副腎皮質ホルモン、ベンジルペニシリンカリウムなどの抗生物質などが挙げられる。
【0059】
対極構造体2は、対極となる電極4’を含む構造体であり、通常のイオントフォレーシスにおいて対極となる電極を含む部分に使用される構成を何ら制限されることなくとり得る。即ち、電極そのもの、イオン導電性のゲルや、多孔質フィルムや織布などからなるシート上に電極を配置した物、さらには多孔質フィルムを基材としたイオン交換膜あるいはこれ以外のイオン交換膜上に電極を配置したものなどが挙げられる。好適には、対極となる電極4’、イオン性電解質を含有する電解質含有部9、イオン交換膜10がこの順番に積層され、イオン交換膜を生体界面に配置する構造であることが好ましい。該イオン交換膜10は、目的薬剤イオンと同符号あるいは反対符号のイオンのいずれを選択的に透過させるものであっても良いが、好適には、目的薬剤が生体から対極構造体へ透過するのを防ぐために、目的薬剤と反対符号のイオンを選択的に透過させるイオン交換膜であることが好ましい。
【0060】
該対極構造体2における電解質含有部9は、イオン性の電解質を水、エタノールなどの溶剤に溶解させた溶液そのもの、該溶液をポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンなどのゲル、多孔質フィルム、ガーゼなどに含浸させたものが使用可能である。イオン性の電解質には、塩化ナトリウム、塩化カリウムなど水、エタノールなどの溶媒に溶解してイオン性を示す物であれば何ら制限されることなく使用できる。
【0061】
また、該対極構造体2では、作用極構造体1の場合と同様に、電極4’との間にさらにイオン交換膜を含むことや、イオン交換膜と生体界面との間にイオン導電性のゲルや多孔質フィルムや織布などからなるイオンが通過可能なシートなどを含むこと、さらには、電極と最近接するイオン交換膜との間にイオン導電性ゲルやイオン性電解質溶液、さらにはイオン性電解質溶液を含浸させた多孔質フィルムや織布を含むこともできる(いずれも図示しない)。
【0062】
本発明のイオントフォレーシス装置における電源部3には、通常のイオントフォレーシス装置にて使用される電源部が何ら制限されることなく使用可能である。作用極構造体1、対極構造体2、電源部3が独立している場合には、バッテリーや系統電源と接続可能な外部電源が使用することができ、この場合には、電圧あるいは電流安定化システムや、パルス電流を印加するためのシステムなどの電源制御システムを併せ持つことが好ましい。また、作用極構造体1、対極構造体2、電源部3が一つの外装材料の中に組み込まれて使用する場合には、電源部に電池を使用することができる。該電池には、コイン型の酸化銀電池、空気亜鉛電池、リチウムイオン電池などが挙げられる。
【実施例】
【0063】
本発明を更に具体的に説明するため、以下、実施例及び比較例を掲げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、実施例および比較例に示すイオン交換膜の特性は、以下の方法により測定した値を示す。
【0064】
(1)イオン交換容量および含水率;
イオン交換膜を1mol/LのHCl水溶液に10時間以上浸漬する。
【0065】
その後、カチオン交換膜の場合には、1mol/LのNaCl水溶液で水素イオン型をナトリウムイオン型に置換させ、遊離した水素イオンを水酸化ナトリウム水溶液を用いて電位差滴定装置(COMTITE−900、平沼産業株式会社製)で定量した(Amol)。一方、アニオン交換膜の場合には、1mol/LのNaNO水溶液で塩化物イオン型を硝酸イオン型に置換させ、遊離した塩化物イオンを、硝酸銀水溶液を用いて電位差滴定装置(COMTITE−900、平沼産業株式会社製)で定量した(Amol)。
【0066】
次に、同じイオン交換膜を1mol/LのHCl水溶液に4時間以上浸漬し、イオン交換水で十分水洗した後膜を取り出しティッシュぺーパー等で表面の水分を拭き取り湿潤時の重さ(Wg)を測定した。次に膜を60℃で5時間減圧乾燥させその重量を測定した(Dg)。
【0067】
イオン交換容量=A×1000/W[mmol/g−乾燥重量]
含水率=100×(W−D)/D[%]
上記式により、イオン交換容量及び含水率を求めた。
【0068】
(2)カチオン交換基量及びアニオン交換基量
イオン交換膜を1mol/L−HCl水溶液に10時間以上浸漬し、イオン交換水で十分水洗した後、60℃で5時間減圧乾燥した。得られたイオン交換膜を元素分析し、カチオン交換基量はSの含有量から、アニオン交換基量はNの含有量から算出した。
【0069】
(3)抵抗
白金黒電極を備えた2室セル中にイオン交換膜を挟み、イオン交換膜の両側に3mol/Lの硫酸水溶液を満たし、交流ブリッジ(周波数1000サイクル/秒)により25℃における電極間の抵抗を測定し、該電極間の抵抗とイオン交換膜を設置しない場合の該電極間の抵抗の差により求めた。上記測定に使用する膜は、あらかじめ3mol/Lの硫酸水溶液中で平衡にしたものを用いた。
【0070】
(4)薬剤透過量およびセルにかかる電圧
測定対象とするイオン交換膜、薬剤と同符号のイオンを選択的に透過するイオン交換膜、薬剤の電極への到達を防ぐ保護イオン交換膜を図2に示すセルに設置し、薬液室に所定濃度の薬剤の水溶液を満たし、仮想電極室、仮想皮膚室および2つの電極室に0.1mol/Lの塩化ナトリウム水溶液を満たした。なお、薬剤と同符号のイオンを選択的に透過するイオン交換膜には、後述する方法で得られたアニオン交換膜Bを用い、保護イオン交換膜には、後述する方法で得られたカチオン交換膜Cを用いた。次いで、薬液室と仮想電極室を攪拌しながら、25℃で所定の定電流密度で1時間通電し、通電電終了後、直ちに仮想電極室の液を抜き取って液体クロマトグラフィーにて薬剤量を測定した。検出器はUV検出器を用いた。この場合の検出下限は、アスコルビン酸リン酸エステル、デキサメタゾンリン酸エステル及びアデノシン三リン酸のいずれも0.00001μmol/cm程度である。また、図2に示すように電位差計で、セルにかかる電圧を測定した。
【0071】
製造例1
スチレン400g、ジビニルベンゼン12g、t−ブチルパーオキシエチルヘキサノエート20gを混合し、得られた単量体組成物400gを500mlのガラス容器に入れ、多孔質膜(重量平均分子量25万のポリエチレン製、膜厚25μm、平均孔径0.03μm、空隙率37%、サイズ20cm×0cm)を浸漬した。
【0072】
続いて、この多孔質膜を単量体組成物中から取り出し、100μmのポリエステルフィルムを剥離材として多孔質膜の両側を被覆した後、3kg/cmの窒素加圧下、80℃で5時間加熱重合した。
【0073】
得られた膜状物を98%濃硫酸と純度90%以上のクロロスルホン酸の1:1の混合物中に40℃で60分間浸漬し、架橋型のカチオン交換膜Aを得た。この膜の物性を表1に示す。
【0074】
得られたカチオン交換膜Aを3cm×4cmに切断し、これを室温で24時間乾燥した後、100gのビニルピリジンと5gのt−ブチルパーオキシエチルヘキサノエートの混合溶液に室温で30分間浸漬した。
【0075】
続いて、上記イオン交換膜を単量体組成物中から取り出し、100μmのポリエステルフィルムを剥離材としてイオン交換膜の両面を被覆した後、3kg/cmの窒素加圧下、80℃で5時間加熱重合し、さらに得られた重合物をメタノールに2時間浸漬、洗浄し、本発明のイオントフォレーシス用作用極構造体に用いるイオン交換膜(1)を得た。得られたイオン交換膜のカチオン交換容量、カチオン交換基量、アニオン交換基量、含水率、膜抵抗、膜厚を測定した。結果を表1に示す。
【0076】
製造例2〜4
100gのビニルピリジンと5gのt−ブチルパーオキシエチルヘキサノエートの混合溶液に代えて、表1に示す組成の溶液を用いた以外は、製造例1と同様にしてイオン交換膜(2)〜(4)を製造した。市販のカチオン交換膜であるネオセプタCMX(トクヤマ製)の値と併せて、評価結果を表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
製造例5〜8
表2に示した組成の単量体組成物を得た。得られた単量体組成物400gを500mlのガラス容器に入れ、これに多孔質フィルム(重量平均分子量25万のポリエチレン製、膜厚25μm、平均孔径0.03μm、空隙率37%、サイズ20cm×20cm)を浸漬した。
【0079】
続いて、これらの多孔質膜を単量体組成物中から取り出し、100μmのポリエステルフィルムを剥離材として多孔質膜の両側を被覆した後、3kg/cmの窒素加圧下、80℃で5時間加熱重合した。
【0080】
得られた膜状物を98%濃硫酸と純度90%以上のクロロスルホン酸の1:1の混合物中に40℃で60分間浸漬し、水で洗浄することによりイオントフォレーシス用作用極構造体に用いるイオン交換膜(5)〜(8)を得た。得られたイオン交換膜のカチオン交換容量、カチオン交換基量、アニオン交換基量、含水率、膜抵抗、膜厚を表2に示す。
【0081】
【表2】

【0082】
イオン交換膜Bの製造
クロロメチルスチレン380g、ジビニルベンゼン20g、t−ブチルパーオキシエチルヘキサノエート20gからなる架橋重合性組成物を調製し、この架橋重合性組成物400gを500mlのガラス容器に入れ、これに20cm×20cmの多孔質フィルム(重量平均分子量25万のポリエチレン製、膜厚25μm、平均孔経0.03μm、空隙率37%)を大気圧下、25℃で10分浸漬し、この多孔質フィルムに架橋重合性組成物を含浸させた。続いて、上記多孔質フィルムを架橋重合性組成物中から取り出し、100μmのポリエステルフィルムでこの多孔質フィルムの両側を被覆した後、3kg/cmの窒素加圧下、80℃で5時間加熱重合した。次いで、得られた膜状物を30重量%トリメチルアミン10重量部、水5重量部、アセトン5重量部よりなるアミノ化浴中、室温で5時間反応せしめ4級アンモニウム型アニオン交換膜(アニオン交換膜B)を得た。この膜の物性を表3に示す。
【0083】
イオン交換膜Cの製造
スチレン360g、ジビニルベンゼン40g、t−ブチルパーオキシエチルヘキサノエート20gからなる架橋重合性組成物を調製し、この架橋重合性組成物400gを500mlのガラス容器に入れ、これに20cm×20cmの多孔質フィルム(重量平均分子量25万のポリエチレン製、膜厚25μm、平均孔経0.03μm、空隙率37%)を大気圧下、25℃で10分浸漬し、この多孔質フィルムに架橋重合性組成物を含浸させた。続いて、上記多孔質フィルムを架橋重合性組成物中から取り出し、100μmのポリエステルフィルムで多孔質フィルムの両側を被覆した後、3kg/cmの窒素加圧下、80℃で5時間加熱重合した。次いで、得られた膜状物を98%濃硫酸と純度90%以上のクロロスルホン酸の1:1混合物中に40℃で45分間浸漬し、スルホン酸型カチオン交換膜(カチオン交換膜C)を得た。
【0084】
得られたカチオン交換膜のイオン交換容量、含水率、膜抵抗、膜厚を測定した。結果を表3に示す。
【0085】
【表3】

【0086】
なお、上記イオン交換膜Bは、図2における薬剤イオンと同符号のイオンを選択的に透過するイオン交換膜として、イオン交換膜Cは保護イオン交換膜として使用するものである。
【0087】
実施例1〜8
アニオン性の薬剤である、アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩の10mmol/L溶液を用い、電流密度0.5mA/cmに固定して通電し、薬剤透過量およびセルにかかる電圧を測定した。用いたイオン交換膜と薬剤透過量および電圧の測定結果を表4に示す
比較例1、2
イオン交換膜として、カチオン交換膜であるネオセプタCMX(比較例1)又はカチオン交換膜A(比較例2)を用いた以外は、実施例1と同様にして薬剤透過量およびセルにかかる電圧を測定した。これらイオン交換膜はいずれもカチオン交換性基(スルホン酸基)のみを有する膜である。評価結果を表4に示す。
【0088】
【表4】

【0089】
実施例10、11
アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩の10mmol/L溶液に代えて、表7に示すアニオン性薬剤の10mmol/L溶液を用い、電流密度0.5mA/cmで薬剤透過量およびセルにかかる電圧を測定した。結果を表5に示す。
【0090】
比較例3〜6
イオン交換膜として、カチオン交換膜であるネオセプタCMX(比較例3,4)又はカチオン交換膜A(比較例5,6)を用いた以外は、実施例10と同様にして薬剤透過量およびセルにかかる電圧を測定した。結果を表5に示す。
【0091】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明のイオントフォレーシス用装置の代表的な構成を示す模式図。
【図2】実施例において、薬剤透過量を測定するために用いた装置の模式図。
【符号の説明】
【0093】
1:作用極構造体
2:対極構造体
3:電源部
4,4’:電極
5:イオン性薬剤含有部
6:アニオン交換性基及びカチオン交換性基の双方を有し、かつ、これらアニオン交換性基及びカチオン交換性基を、他方のイオン交換性基よりも過剰に有するイオン交換膜
7:生体表面(界面)
8:イオン交換膜
9:電解質含有部
10:イオン交換膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極、薬剤含有部ならびに該電極と薬剤含有部の間に配設されたイオン交換膜を有するイオントフォレーシス装置用作用極構造体において、該イオン交換膜として、アニオン交換性基及びカチオン交換性基の双方を有し、かつ、これらアニオン交換性基及びカチオン交換性基のうちのいずれか一方のイオン交換性基を、他方のイオン交換性基よりも過剰に有するイオン交換膜を用いることを特徴とするイオントフォレーシス装置用作用極構造体。
【請求項2】
電極と薬剤含有部の間に配設されたイオン交換膜が、多孔質フィルムを基材とし、該多孔質フィルムの有する空隙内に架橋型のイオン交換樹脂が充填された構造を有するイオン交換膜である請求項1記載のイオントフォレーシス装置用作用極構造体。
【請求項3】
作用極構造体として、請求項1又は2記載のイオントフォレーシス装置用作用極構造体を有するイオントフォレーシス装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−116086(P2006−116086A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−307353(P2004−307353)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】